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平成12(行ケ)197行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年12月24日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項2回
民事訴訟法61条1回
キーワード 刊行物67回
実施45回
特許権2回
審決2回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第197号 特許取消決定取消請求事件
平成14年12月10日口頭弁論終結
判         決
原          告     ダイセル化学工業株式会社
訴訟代理人弁理士         古   谷       馨
同                溝   部   孝   彦
同                古   谷       聡
同                持   田   信   二
同                義   経   和   昌
被          告     特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人            三   浦       均
同                森   田   ひ と み
同                一   色   由 美 子
同                大   橋   良   三
同                涌   井   幸   一
主          文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成11年異議第70647号事件について平成12年4月10日
にした決定をいずれも取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「難燃性スチレン系樹脂組成物」とする特許第279
3350号の特許(平成2年9月27日出願(以下「本件出願」という。)。平成
10年6月19日登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」とい
う。)の特許権者である。本件特許について,3名から,それぞれ日を異にして特
許異議の申立てがあり,それらの申立ては,平成11年異議第70647号事件と
して審理された(以下「本件異議手続」という。)。特許庁は,上記事件につき,
平成12年4月10日,「特許第2793350号の特許を取り消す。」との決定
をし,同年5月16日にその謄本を原告に送達した(本件においては,異議申立人
ごとに,決定書が合計3通作成されている。しかしながら,本件異議手続は,一個
の手続として,審理されていること,上記各決定書の記載内容は,当事者の表示を
除き同一であることから,以下の決定書の頁及び行数の表示は,異議申立人黒神朱
砂を当事者と表示した決定書(甲第1号証の1。以下,単に「決定書」という。)
のそれによることとする。)。
2 決定の理由の要点
別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,特開昭61
-31451号公報(審判甲第3号証,本訴甲第2号証,以下「引用例1」とい
う。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開平1-2871
32号公報(審判甲第6号証,本訴甲第3号証,以下「引用例2」という。)に記
載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項に該当する,というものであ
る。
3 本件発明の特許請求の範囲
「グラフト率が50%以上のABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-ス
チレン三元共重合体)10~90重量%と,アクリロニトリル23%以上で重量平
均分子量80000以上のAS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)90
~10重量%からなるスチレン系樹脂,あるいはグラフト率が50%以上で重量平
均分子量が90000以上のABS樹脂100重量%からなるスチレン系樹脂10
0重量部に対し,以下の式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が20000~10000
0のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を1~50重量部,あるいは以
下の式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が1000~9000のハロゲン含有芳香族
ジオールのエーテル誘導体を1~50重量部,又は以下の式(Ⅰ)で示され重量平
均分子量が20000~100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘
導体1~99重量%と以下の式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が1000~900
0のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体99~1重量%からなるハロゲ
ン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を1~50重量部配合してなる難燃性スチ
レン系樹脂組成物。」
(式(Ⅰ)は,別紙1参照)
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由のうち,〔手続の経緯〕,〔本件発明〕,〔引用例の記載事実〕
(決定書1頁下から7行~5頁9行)は認める。〔対比,判断〕中,一致点及び相
違点の認定(5頁11行~33行)は,「グラフト率が50%以上で重量平均分子
量が90000以上のABS樹脂100重量%からなるスチレン系樹脂100重量
部」(5頁23行~24行)が配合されている点で一致することを争い,その余は
認める。相違点1についての判断(5頁34行~6頁5行)は,引用例1に重量平
均分子量80000以上のAS樹脂が記載されていること(5頁末行)を認め,そ
の余は争う。相違点2についての判断(6頁6行~下から4行),本件発明の効果
についての判断(6頁下から3行~7頁7行)は争う。〔むすび〕(7頁8行~1
1行)は争う。
決定は,引用発明2の認定を誤り(取消事由1),引用発明1と引用発明2
とを組み合わせることの想到容易性の判断を誤り(取消事由2),本件発明の顕著
な作用効果を看過し(取消事由3),これらの誤りを犯した結果,相違点2につい
ての判断を誤り,かつ,本件異議手続において,取消理由通知に記載のない理由に
より判断し,この点につき原告に意見書を提出する機会を与えなかった手続上の誤
り(瑕疵)がある(取消事由4)。これらの誤りがそれぞれ決定の結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,決定は違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)
(1) 決定は,「引用例2には,ABS樹脂に特定の一般式で表される両末端に
エポキシ基を有するハロゲン含有化合物を配合することにより,耐衝撃性,難燃性
及び耐光性だけでなく,流動性や熱安定性に優れた樹脂組成物を得ることが記載さ
れており,このハロゲン含有化合物は,本件発明で用いるものと一致している。」
(決定書6頁7行~11行)と認定した。
しかし,本件発明の別紙1一般式(Ⅰ)(以下,単に「式(Ⅰ)」とい
う。)で示される構造式と引用例2の別紙1一般式(2)(以下,単に「式
(2)」という。)で示される構造式とは,置換基,置換原子をいずれかに選択し
た場合に,一致する場合があるにすぎず,本件発明のハロゲン含有芳香族ジオール
のエーテル誘導体と引用例2記載のハロゲン含有化合物とは,分子量も含めて一致
しているとはいえない。
本件発明のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(以下「本件エ
ーテル誘導体」ということがある。)は,①式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が2
0000~100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体1~50
重量部(以下,「構成B-1」といい,同構成のエーテル誘導体を「重量エーテル
誘導体」という。),あるいは,②式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が1000~
9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体1~50重量部(以下,
「構成B-2」といい,同構成のエーテル誘導体を「軽量エーテル誘導体」とい
う。),又は,③①のエーテル誘導体1~99重量%と②のエーテル誘導体99~
1重量%からなるハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(以下,「構成B
-3」といい,同構成のエーテル誘導体を「混合エーテル誘導体」という。)1~
50重量部の三つの態様のいずれかからなるものであるのに対し,引用例2にはこ
のような三つの態様についての記載はない。
引用例2の式(2)で示されるハロゲン含有化合物は,その軟化点が80
~110℃との限定が付されていることなどを考え合わせると,その重量平均分子
量は1000~2000程度にすぎないものである。
(2) 被告は,本件発明の構成B-3の混合エーテル誘導体(重量平均分子量2
0000~100000の構成B-1のもの(重量エーテル誘導体)と重量平均分
子量1000~9000の構成B-2のもの(軽量エーテル誘導体)との混合物)
は,その重量平均分子量が9000~20000のものも含むことになる,と主張
する。
しかし,重合体単品の分子量分布は,単一ピークを示し,これら単品から
なる混合品の分子量分布は,それぞれの重合体のピークを示している。二つの重合
体単品を混合品とした場合には,中間程度の分子量分布を示すのではなく,二つの
重合体それぞれの分子量分布を示すことが明らかであり,二つの重合体それぞれの
性質が発現され,中間程度の平均分子量に相当する重合体の性質が発現されるので
はない。
2 取消事由2(引用発明1と引用発明2とを組み合わせることの想到容易性の
判断の誤り)
決定は,「ところで,引用例2には,使用するABS樹脂にゴム状物質含有
量,共重合体含有量及び共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割合の点で制約
があることが示されている。しかしながら,そのような制約はいずれも,引用例1
に記載されたハロゲン系難燃剤として引用例2記載のハロゲン含有化合物を使用す
る上で,何等の妨げにもならない。引用例1には,使用するABS樹脂のゴム状物
質含有量,共重合体含有量及び共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割合のい
ずれかが引用例2に示された制約条件に触れるとする具体的データは記載されてい
ないからである,しかも,引用例2記載のハロゲン含有化合物の特徴を有する難燃
剤は,本件特許明細書の実施例にも記載されているように,本件特許の出願前に市
販されているものである。してみれば,耐衝撃性,難燃性,耐光性,流動性,熱安
定性等について,好ましい結果が得られるものを市販品の中から選択し,式(Ⅰ)
で示され重量平均分子量が20000~100000のハロゲン含有芳香族ジオー
ルのエーテル誘導体,あるいは式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が1000~90
00のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体,又は式(Ⅰ)で示され重量
平均分子量が20000~100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル
誘導体1~99重量%と式(Ⅰ)で示され重量平均分子量が1000~9000の
ハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体99~1重量%からなるハロゲン含
有芳香族ジオールのエーテル誘導体を用いることは当業者が創意を要することな
く,容易にできることである。」(決定書6頁14行~36行)と判断した。
(1) 引用例1にも引用例2にも,引用発明1の樹脂組成物と引用発明2のハロ
ゲン含有化合物を組み合わせて使用し得るとの記載も,そのことを示唆する記載も
ない。
引用例2には,「ただ単にハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体
をABS樹脂に配合しただけでは,優れた品質バランスを有する難燃性ABS樹脂
組成物を得るのは極めて困難なのが実情であった。・・・本発明者らは,かかる状
況に鑑み,耐衝撃性を良好に保持し,しかも優れた耐光性と難燃性を有する樹脂組
成物を得るべく鋭意検討した結果,特定の組成を有する樹脂組成物に特定の構造の
ハロゲン含有化合物を配合することにより達成されることを見いだし,本発明をな
すに至った。」(甲第3号証2頁右上欄9行~19行)との記載がある。この記載
は,引用例2の記載は,特定の組成を有する樹脂組成物と別紙1記載の式(2)で
示されるハロゲン含有化合物とを組み合わせることによってのみ,目的と効果を奏
することができることを示すものである。このことからすれば,引用発明1の樹脂
組成物と引用発明2のハロゲン含有化合物とを組み合わせることができると,積極
的に認定するためには,引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載の特定の組
成を有する樹脂化合物とが一致又は類似している必要があるというべきである。と
ころが,両者は,一致しているとも,類似しているとも,認めることはできないの
である。
引用例2では,そこに記載された樹脂は,その不飽和ニトリル化合物単位
含有量が20ないし27重量%であることが重要であり,これより多い28重量%
ではアイゾット衝撃強さが劣る,とされている(甲第3号証6頁3表の比較例
2)。これに対し,引用例1では,そこに記載されたスチレン系樹脂は,不飽和ニ
トリル化合物単位含有量が28重量%であってもアイゾット衝撃強さが優れている
とされており(実施例1ないし3),共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割
合が,引用例2に示された制約条件に触れるとする実施例が記載されていることが
明白である。このことと,引用例2のハロゲン含有化合物が特定の組成を有する樹
脂組成物との組合せによってのみ,その効果を発揮するとの前記記載とを併せ考慮
して判断するならば,引用例1記載の樹脂組成物と引用例2記載のハロゲン含有化
合物とを組み合わせ得るか否かについては,積極的に認定することができないだけ
でなく,むしろ,積極的にこれを否定するための根拠さえも見い出すことができ
る,というべきである。
(2) 被告は,引用発明1のハロゲン系難燃剤には,「ビスフェノール類の3,
5位がハロ置換されたテトラハロ化合物(即ちハロゲン化ビスフェノール類)から
の重合体もしくは共重合体,あるいはハロ置換されたビスフェノール類と,ハロ置
換されていないビスフェノール類との共重合体」(甲第2号証5頁左上欄13行~
19行)なども包含されており,その上位概念で表される化合物の範疇に本件発明
のエーテル誘導体が属することは明らかである,と主張する。しかし,化合物一般
において,置換基や分子量が相違することによって,著しく物理的及び化学的性質
を異ならせることは技術常識である。そうである以上,具体的な構造の検討を伴わ
ない,漠然とした上位及び下位概念の認定には何の意味もないというべきである。
しかも,被告が引用する上記個所の記載は,ハロゲン含有芳香族ポリカーボネート
に関するものであり,置換基を除く基本構造は,式(Ⅰ)と異なるから,上記引用
は誤りである。引用例2の記載中には,他に本件発明のエーテル誘導体の上位概念
に相当するものは存在しない。
被告は,引用例2においては,ハロゲン含有化合物である式(2)におけ
る繰り返し単位数のnは自然数,と規定されているから,引用例2は,本件発明の
構成要件であるエーテル誘導体の中から重量平均分子量20000ないし1000
00のエーテル誘導体や,重量平均分子量1000ないし9000のエーテル誘導
体を一応包含している,と主張する。しかし,引用例2の式(2)においてnは自
然数であると規定されているからといって,上記の分子量範囲が記載されていると
の理由にはならない。特に,重量平均分子量が9000超ないし20000未満の
ものを排除することが記載されていることの理由にはなり得ない。
被告は,引用発明1及び2には,本件発明の構成要件がすべて記載されて
おり,本件発明と引用例1及び2とは技術課題が共通している,と主張する。しか
し,本件発明のスチレン系樹脂と引用発明1及び2の樹脂組成物とは詳細が相違し
ている。引用例1及び2には,本件発明のエーテル誘導体のB-1ないしB-3の
構成が記載されておらず,本件出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細
書」という。)には記載されている耐熱性の改善が,課題を解決するための手段と
して記載されていない。
被告は,引用発明1及び2の樹脂組成物の子細を対比することには技術的
意味がない,と主張する。しかし,新たな樹脂を開発することは容易ではなく,ポ
リマーアロイ又はポリマーブレンドといった,複数のポリマーを組み合わせて新た
な性質を有するものを開発するという技術分野が確立されており,その一環とし
て,既存の樹脂を改変することで,その性質を改変しようとする技術分野も同時に
存在する。同種の樹脂であっても,共重合させる単量体の種類や割合を変更した
り,分子構造や分子量を変更したりすること,すなわち子細を変更することで,従
来と異なる性質を付与することができるのである。被告の上記主張は,樹脂分野に
おける技術開発及びそれに則した特許出願の現状を誤認したものである。
3 取消事由3(本件発明の顕著な作用効果の看過)
決定は,「本件発明は,難燃剤として式(Ⅰ)で示されるハロゲン含有芳香
族ジオールのエーテル誘導体として特定の重量平均分子量のものを用いることによ
り,耐衝撃性,難燃性,耐光性,流動性,熱安定性等に優れた結果が得られるとい
う効果を有することが窺える。しかしながら,そのような効果は引用例2に示唆さ
れているから,予期し得る程度のものというべきである。」(決定書6頁下から2
行~7頁4行)と判断した。
(1) 本件発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は,スチレン系樹脂とハロゲン含
有芳香族ジオールのエーテル誘導体との組合せにより,耐衝撃性と難燃性の両方が
相乗的に向上する,という相乗効果を有するものであって,これは,引用例2の記
載からは予期し得ない作用効果である。
ア 本件発明の実施例1,2と比較例1,2(甲第5号証5頁表-1。別表
1参照)とは,ハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体は同一かつ同量で,
スチレン系樹脂のグラフト率が相違しており,この相違に起因して,実施例1,2
はアイゾット衝撃強度と難燃性の両方が優れているのに対し,比較例1,2は,こ
の両方が劣っている。このことから,本件発明の構成のスチレン系樹脂を有してい
ない組成物は,耐衝撃性及び難燃性が共に低下することが明らかである。
イ 本件発明の実施例2,4と,比較例3,4(甲第5号証5頁表-1。別
表1参照)とを対比すると,難燃剤の使用については同じであるにもかかわらず,
アクリロニトリル含量26%で,分子量9200のAS樹脂(これは引用例2の特
許請求の範囲で規定された範囲内のものである。)を用いた比較例3,4の方が,
耐衝撃性と難燃性が劣っていることが確認できる。このような効果の相違は,実施
例2,4と比較例3,4において使用されるスチレン系樹脂の相違に基づくもので
ある。
ウ 本件発明の実施例3と比較例5(甲第5号証5頁表-1。別表1参照)
とを対比した場合,AS樹脂の分子量には大きな差がなく,比較例5のAS樹脂の
分子量92000は本件発明の範囲内であるため,実質的な相違点は,アクリロニ
トリル含量だけである。比較例5のAS樹脂のアクリロニトリル含量20%は,引
用例2の特許請求の範囲で規定された範囲内のものであり,引用例2の4頁左下欄
の第1表に示された共重合体中のAN単位割合が21重量%の「A-2」と近似す
るものである。以上を前提として実施例3と比較例5とを対比すると,比較例5は
耐衝撃性と難燃性において明らかに劣っており,この効果の相違は,スチレン系樹
脂の相違に基づくものである。
エ 本件発明の実施例5ないし9と比較例8,9(甲第5号証6頁表-2参
照)並びに,実験例1(低分子量のエーテル誘導体(MW=2000)20部と高
分子量のエーテル誘導体(MW=30000)8部とを混合し,MW=10000
になるように調整したもの)とを比較してみる(別表2参照)。難燃剤が,高分子
量の構成B-1を満たす実施例6,8と,難燃剤が低分子量の構成B-2を満たす
実施例5,7と,難燃剤が高分子量と低分子量の組合せの構成B-3を満たす実施
例9及び実験例1は,構成B-1ないし3を満たさない,難燃剤が中分子量(MW
=10000)の比較例8,9よりも,耐衝撃性と難燃性において優れている。特
に,実験例1のように,低分子量の難燃剤と高分子量の難燃剤を混合して中分子量
のMW=10000の難燃剤にした場合には,比較例8,9のように単独で中分子
量(MW=10000)の難燃剤を使用した場合よりも耐衝撃性及び難燃性が優れ
ている。
このような,本件発明における難燃剤の分子量選定の意義,特に中分子
量部分(重量平均分子量9000超20000未満)を排除した組合せによる効果
については,引用例2には記載も示唆もなく,引用発明1と2とを組み合わせたも
のの効果も,予測困難なものである。
オ 引用例2の実施例1ないし3と比較例1ないし4(甲第3号証6頁第3
表参照)とは,ハロゲン含有化合物の種類及び配合量は同一であり,ABS樹脂の
種類が相違している。このようにABS樹脂の種類を異ならせることで実施例と比
較例1ないし3のアイゾット衝撃強さは相違するものの,難燃性については,実施
例と比較例とで差が認められない(比較例4は,ABS樹脂中のゴム状物質含有量
が過剰の例であるため,アイゾット衝撃強さは良いものの,難燃性が劣ってい
る。)。引用発明2において,ABS樹脂とハロゲン含有化合物との間で本件発明
と同等の相乗効果があるというためには,ABS樹脂の種類を変えた比較例1ない
し3において難燃性も低下していなければならないのに,難燃性の低下はみられな
い。
引用例2の実施例4,5と比較例5ないし9(甲第3号証7頁第4表参
照)とは,ABS樹脂の種類及び配合量は同一であり,ハロゲン含有化合物の種類
が相違している。この場合においては,アイゾット衝撃強さ及び難燃性に差は認め
られない(比較例7は,ハロゲン含有化合物の配合量が過小であるため,難燃性が
劣っている。)。引用例2において,ABS樹脂とハロゲン含有化合物との間で本
件発明と同等の相乗効果があるというためには,ハロゲン含有化合物の種類を変え
た比較例5ないし9においてアイゾット衝撃強さ及び難燃性も低下していなければ
ならないのに,これらの低下はみられない。
以上のとおりであるから,引用発明2のハロゲン含有化合物を引用発明
1のABS樹脂と組み合わせた場合に,相乗作用によって耐衝撃性と難燃性の両方
が向上するものとは認められない。本件発明の相乗効果は,引用例1,2からは予
測できない効果である。
カ 引用例1の実施例1と比較例1(甲第2号証7頁右上欄表-1参照)と
を対比すると,両者は,樹脂組成物のグラフト率が異なるのみで,ハロゲン系難燃
剤は同一のものであり,両者の難燃性は同じである。引用例1の実施例2,3と比
較例2(甲第2号証8頁右上欄表-2参照),実施例4,5と比較例4(甲第2号
証9頁右上欄表-3参照)との対比においても同じ結果が示されている。
引用例1の実施例6と比較例6(甲第2号証9頁左下欄表-4参照)と
を比較すると,両者は樹脂組成物中のゴムの粒子径分布が異なるのみで,ハロゲン
系難燃剤は同一のものであり,両者の難燃性は同じである。残余の実施例及び比較
例においても同様の結果が示されている。
以上のとおり,引用例1において,本件発明と同じ相乗効果があるとす
れば,樹脂組成物が異なる比較例は難燃性が低下していなければならないのに,実
施例及び比較例の難燃性はすべて同一であるから,耐衝撃性と難燃性とを相乗的に
向上させる効果が得られないことは,明らかである。
(2) 本件発明の実施例と引用発明2の実施例とは,難燃性の程度(V-0)に
差はないものの,試験に使用した試験片の厚みが,前者は1.6mm(1/16イ
ンチ)であるのに対し,後者は1/8,1/12インチである。同じ材料を使用し
た場合には,厚みが厚いほど耐炎性(難燃性)が高く(甲第7号証参照),難燃性
の評価が同じV-0である場合には,厚みが薄いほど難燃性が高くなることは明ら
かであるから,本件発明の組成物の難燃性と,引用例2の組成物の難燃性は明確に
相違し,本件発明のほうが難燃性が高い。
本件発明の実施例1ないし9において,熱変形温度の試験は,厚み12.
7mm(1/2インチ。我が国において,試験片厚みとして要求される厚み)の試
験片で行われ,熱変形温度は,91℃ないし96℃である。これに対し,引用例2
の実施例1ないし5における熱変形温度の試験は,厚み6.4mm(1/4イン
チ)の試験片で行われ,熱変形温度は,80℃ないし83℃である。厚みが2倍に
なると,熱変形温度が5℃程度上昇することは,当業者の常識であるから(甲第9
号証13頁,21頁参照),本件発明を引用例2と同じ厚みの試験片で熱変形温度
を試験した場合には,熱変形温度は,上記測定結果よりも5℃低い86℃ないし9
1℃となる。この温度は,引用例2の熱変形温度よりも6℃ないし8℃高い。本件
発明の作用効果は,耐熱性においても顕著である。
(3) 本件発明では,耐衝撃性と難燃性との相乗的な効果に加えて,優れた熱変
形温度,耐光変色性,流動性が得られているのに対し,引用例1記載の樹脂組成物
とハロゲン系難燃剤との組合せでは,これらの効果は得られていない。
4 取消事由4(手続上の誤り)
本件特許に対して発せられた取消理由通知書(以下「本件取消理由通知」と
いう。甲第10号証)には,13の刊行物が刊行物1ないし13として掲げられ,
①刊行物1ないし12によれば,本件発明の特許は,特許法29条2項に違反して
特許されたものと認められる,②同手続における刊行物13によれば,本件発明の
特許は,特許法29条の2に違反して特許されたものと認められる,と記載されて
いた。
ところが,本件決定書では,上記刊行物1ないし12の中から,刊行物3と
刊行物6のみを抜き出し,それぞれを引用例1,引用例2とした上,本件発明は,
引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであると判断し,この判断をするに当たり,引用例1と引用例2とを
組み合わせる動機付けについても詳細に記載し,かつ,本件発明の効果は引用例2
に示唆されている,とした。
本件取消理由通知書は,ABS樹脂に係る構成の容易想到性の根拠となる刊
行物として,異議手続における刊行物1,刊行物2,刊行物3(審決及び本件訴訟
における引用例1),刊行物6,刊行物10,刊行物11の群を引用し,エーテル
誘導体に係る構成の容易想到性の根拠となる刊行物として,異議手続における刊行
物1,刊行物4,刊行物5,刊行物6(審決及び本件訴訟における引用例2),刊
行物9,刊行物12の群を引用するものであり,そこには,これらの群の中から特
に刊行物3と刊行物6とを選び出し,これらを組み合わせることに着目したこと
は,何ら述べられていない。上記2つの群の刊行物を組み合わせる動機付けとして
も,単に,「ABS樹脂に難燃化という上記技術課題を解決する目的で」と記載し
ているにすぎなかった。また,決定は,本件発明の効果は引用例2に示唆されてい
ると述べているが,本件取消理由通知書には,本件発明と引用例2との効果の対比
についての記載はなかった。
このため,原告は,本件発明と引用例1,2の組合せとの具体的な対比も,
本件発明の効果と引用例2との効果との対比も,何らなしえなかった。
以上のとおりであるから,決定は,取消理由通知において指摘しなかった事
項に基づいて取消決定をしたものというべきである。取消理由通知において指摘し
なかった事項に基づいて取消決定をしようとする場合には,特許権者に対し,新た
に取消の理由を通知し,意見書を提出する機会を与えなければならないから,これ
をしなかった決定には手続上の誤りがあり,この誤りは重大である。
第4 被告の反論の要点
決定の認定判断は,正当であり,決定に,取消事由となるべき瑕疵はない。
1 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
(1) 原告は,本件発明のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体は,分
子量も含めて引用例2記載のハロゲン含有化合物と一致しているとはいえない,と
主張する。
しかし,本件発明の式(Ⅰ)及び引用例2の式(2)は,それぞれ別紙1
記載のとおりであり,いずれにおいても,基や原子は任意に置換可能なものであっ
て,両式を対比すると,化合物の基本骨格は,ほとんど同じであることが明らかで
ある。
本件発明は,B-1ないし3の三つの態様のエーテル誘導体を難燃剤とし
て配合するとしている。しかし,B-3の態様のものを得るときのようにようなよ
うに低分子量のものと高分子量のものを混合すれば,中間の分子量のものが生じる
のは技術常識(乙第1ないし第4号証参照)に照らし当然であり,したがって,上
記混合物の分子量は9000~20000ということになる。そうすると,結局,
本件発明の難燃剤は,重量平均分子量1000ないし100000という広範囲の
エーテル誘導体として規定されているのと同じことになるのである。
引用例2の式(2)のハロゲン含有化合物の構造式中,a,b,c,dは
1~4の自然数でnは自然数であるから,当然に分子量1000~100000の
ハロゲン含有化合物をすべて含むのであり,この範囲で一致していることになる。
(2) 原告は,甲第11,第12号証に基づき,二つの重合体単品を混合品とし
た場合には,中間程度の重合体の分子量分布を示すのではなく,二つの重合体それ
ぞれの分子量分布を示すものであることが明らかであり,二つの重合体それぞれの
性質が発現される,と主張する。
しかしながら,本件発明のB-3の構成のエーテル誘導体を,いわゆる二
者のポリマーの混合物であると限定して解釈する根拠はなく,これが常に二つのピ
ークがある混合物であってB-1構成のエーテル誘導体とB-2構成のエーテル誘
導体の平均的な分子量の混合物からなる態様のものは本件発明から排除されてい
る,と限定的に解釈する根拠はない。
2 取消事由2(引用発明1と引用発明2とを組み合わせることの想到容易性の
判断の誤り)について
(1) 原告は,引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載のハロゲン含有化
合物とを組み合わせられるとする積極的な根拠を何ら見いだすことができない,と
主張する。
しかし,引用例1において解決すべき技術課題とされているのは,樹脂組
成物につき,高度にグラフト化反応させて得られたグラフト重合体を用いて樹脂組
成物の耐衝撃性を向上させた上で,適量の難燃剤を組み合わせることにより,実用
的な耐衝撃性を高度に保ちつつ,同時に優れた難燃性を保有する(甲第2号証2頁
右上欄15行~20行),ということである。引用例2において解決すべき技術課
題とされているのは,「耐衝撃性に優れ,高度な耐光性及び難燃性を有するスチレ
ン系樹脂組成物」(甲第3号証1頁右下欄6行~7行)を得るということである。
しかも,両引用例のいずれにも,耐衝撃性,難燃化という共通の技術課題のための
解決指向は,スチレン系樹脂とハロゲン含有難燃剤を組み合わせること,という形
で明示されているのである。このように性格を共通にする引用発明1,2につき,
両者を組み合わせる動機がないとすることはできない。
(2) 引用例2に難燃剤として記載されているハロゲン含有化合物は,特定のA
BS樹脂を含む特定のスチレン系樹脂を一応配合対象としているものの,特定のス
チレン系樹脂だけに機能する特有な難燃剤であると解釈するべき技術的な根拠はな
く,むしろ,各種合成樹脂に転用できる汎用の難燃剤と解釈するのが相当である。
このことは,樹脂の違いが難燃剤の組合せに格別の影響を与える要因には
ならないとの,プラスチックの難燃化の機構についての一般的知見(乙第5,第6
号証)からも明らかである。
3 取消事由3(本件発明の顕著な作用効果の看過)について
(1) 原告は,本件明細書記載の実施例及び比較例や実験例1を根拠に,本件発
明の耐衝撃性や難燃性は予想することができない顕著な作用効果である,と主張す
る。
しかし,引用例1には,特許請求の範囲に,配合要素の一つである樹脂組
成物が「グラフト率70~150%のグラフト重合体を含有してなる」(甲第2号
証の特許請求の範囲)ことを必須の構成要件としている旨が記載され,発明の詳細
な説明に,「グラフト率が70%未満の場合は,実用耐衝撃性が低下し・・・」
(甲第2号証2頁右下欄1行~2行),「高度にグラフト反応させて得られたグラ
フト重合体に,適量の難燃剤を組合せることにより,・・・実用上有効な優れた耐
衝撃性と難燃性を併有する難燃性樹脂組成物を得ることが可能となった。」(甲第
2号証10頁右下欄下から4行~11頁左上欄1行)と記載されており,これらの
記載をみれば,グラフト率,耐衝撃性,難燃性の関係は既に究明されているという
ことができる。
同様に,引用発明2は,その構成により,耐衝撃性に優れ,高度な耐光
性,難燃性を有する,という効果を奏するものであり(甲第3号証1頁右下欄6行
~8行,4頁左上欄下から3行~右上欄2行),本件発明とほとんど同一の技術課
題の解決を指向したものということができる。
そうすると,本件発明の耐衝撃性や難燃性は十分予測し得るものというべ
きである。
原告主張のように,本件発明と,引用発明1又は引用発明2との耐衝撃性
や難燃性における違いを,実施例という,いわば典型的な一態様のみに基づいて対
比してみても,意味のあることではない。
(2) 原告は,本件発明では,優れた熱変形温度,耐光変色性,流動性が得られ
ている,と主張する。
しかし,上記の点につき,実施例1ないし4と比較例1ないし5とを対比
してみても,顕著な差異はないことが明らかである。
4 取消事由4(手続上の瑕疵)について
本件取消理由通知書(甲第10号証)は,スチレン系樹脂にエーテル誘導体
を併用した難燃性樹脂組成物が同通知書における刊行物1に記載されている,とし
て刊行物1を第1番目の引用例としながらも,本件発明のABS樹脂は,刊行物
2,刊行物3記載のとおり公知のものである,として,刊行物3(決定書及び本訴
における引用例1)の技術も,刊行物1と同等に引用している。このように,取消
理由として,刊行物3(引用例1)にも本件発明のスチレン系樹脂が記載されてい
ることを通知していることは,明白である。
本件取消理由通知書は,エーテル誘導体は,刊行物1以外にも,刊行物4,
刊行物5,刊行物6,刊行物9,刊行物12にも記載されており,スチレン系樹脂
の難燃剤としてごく普通に知られたものである,として,刊行物6(引用例2)も
引用している。
本件取消理由通知書は,上記のように引用した上で,それ自体公知のABS
樹脂に対して,ABS樹脂の難燃化という技術課題を解決する目的で,難燃剤とし
て慣用のエーテル誘導体を混合することは,上記各刊行物記載の発明に基づいて当
業者が容易になし得ることである,と結論付けている。
取消理由通知書に上記のとおりの記載がある以上,そこには,刊行物3(引
用例1)と刊行物2(引用例2)との組合せに関する取消理由は,当業者であれば
理解できる程度に記載されているというべきである。
決定に,原告主張の手続上の瑕疵はない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
原告は,引用例2記載のハロゲン含有化合物が,本件発明で用いられるハロ
ゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(本件エーテル誘導体)と一致してい
る,とした決定の判断は誤りである,と主張する。
(1) 本件発明の本件エーテル誘導体が別紙1記載の式(Ⅰ)で示されるもので
あること,引用例2記載のハロゲン含有化合物が別紙1記載の式(2)で示される
ものであることは,当事者間に争いがない。
本件発明の式(Ⅰ)において,R1及びR2として,その選択的例として挙
げられているエポキシ基を有するものを選択した場合の式は,引用例2の式(2)
と一致することが明らかである。そうである以上,引用例2の式(2)は,本件発
明の式(Ⅰ)に技術的思想としては包含されるものであるということができる。
(2) 原告は,引用発明2記載のハロゲン含有化合物の式(2)と本件発明の本
件エーテル誘導体の式(Ⅰ)が一致する場合があるとしても,その場合であって
も,両者は分子量において異なる,と主張する。
ア 本件発明の本件エーテル誘導体のうち,B-3構成の混合エーテル誘導
体の重量平均分子量についてみる。
本件発明の特許請求の範囲の記載によれば,B-3構成の混合エーテル
誘導体は,式(Ⅰ)で示され20000~100000の範囲の重量平均分子量の
もの1~99重量%と,式(Ⅰ)で示され1000~9000の範囲の重量平均分
子量のもの99~1重量%とから成るものとして規定されている。この混合エーテ
ル誘導体のうち,最も重量平均分子量が大きいのは,重量平均分子量100000
のもの99重量%と重量平均分子量9000のもの1重量%から成るものであり,
最も重量平均分子量が小さいのは,重量平均分子量1000のもの99重量%と重
量平均分子量20000のもの1重量%から成るものである。そして,前者の最も
大きい重量平均分子量は100000を若干下回るものの20000より大きいも
のであること,また,後者の重量平均分子量は1000を若干上回るものの900
0より小さいものであることは技術常識から明らかである。そして,上記のとお
り,混合エーテル誘導体の重量平均分子量が20000~100000及び100
0~9000と連続した数値範囲のものと規定され,これら重量平均分子量のもの
の重量割合も99~1重量%及び1~99重量%と連続した数値範囲として規定さ
れていることを勘案すると,本件発明におけるB-3構成の混合エーテル誘導体の
重量平均分子量は,1000をほぼ上回るものの9000より小さいものから10
0000を若干下回るものの20000より大きいものまでの連続する数値範囲と
して規定されているものということができる。
混合エーテル誘導体の重量平均分子量がこのような数値範囲のものとし
て規定されていること,重量エーテル誘導体が重量平均分子量20000~100
000のものであること,軽量エーテル誘導体が重量平均分子量1000~900
0のものであること,本件発明は,上記各エーテル誘導体を選択的事項としている
ことを総合すると,結局,本件発明の本件エーテル誘導体は,実質上,式(Ⅰ)で
示され,かつ重量平均分子量1000~100000のものとして規定されている
にすぎないものと認められる。
イ 次に,引用例2記載のハロゲン含有化合物の重量平均分子量についてみ
る。
引用例2には,以下の記載がある(甲第3号証)。
①「(1)ゴム状物質の存在下,モノビニル芳香族単量体及び不飽和ニト
リル単量体を重合させてなる樹脂組成物であって,ゴム状物質含有量が8~24重
量%であり,モノビニル芳香族化合物単位及び不飽和ニトリル化合物単位からなる
共重合体含有量が76~92重量%であって,かつ,該共重合体中の不飽和ニトリ
ル化合物単位の割合が20~27重量%である樹脂組成物(A)100重量部及び
式(2)
・・・(判決注・化学構造式については別紙1の式(2)参
照。)・・・
(Xは,臭素又は塩素,a,b,c及びdは,1~4の自然数,nは自
然数である。)で表され,80~110℃の軟化点を有し,両末端にエポキシ基を
有するハロゲン含有化合物(B)12~26重量部とからなる難燃性樹脂組成
物。」(特許請求の範囲)
②「両末端にエポキシ基を有するハロゲン含有化合物は,含ハロゲンビス
フェノールAと含ハロゲンビスフェノールA型エポキシ樹脂の反応生成物として得
られる。又は,含ハロゲンビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応生成物と
して得られる。・・・特に好ましくは,テトラブロモビスフェノールAとテトラブ
ロモビスフェノールAのジグリシジルエーテルとの反応生成物,或いはテトラブロ
モビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応生成物であり,式中の繰返し数
nが2のものである。」(3頁左下欄下から8行~右下欄13行)
③「(ハロゲン含有化合物の性状)
実施例1~5及び比較例1~10に用いたハロゲン含有化合物の性状
を第2表に示す。B-1~B-5は,テトラブロモビスフェノールAとテトラビス
フェノールAのジグリシジルエーテルから合成され,両末端にエポキシ基を有して
いる構造をしている。又,B-6はテトラブロモビスフェノールAとテトラビスフ
ェノールAのジグリシジルエーテルから合成されるが,両末端には水酸基を有した
構造をしている。B-7はテトラブロモビスフェノールAである。以下にそれぞれ
の構造式を示す。
B-1~B-5:・・・(判決注;化学構造式については別紙2参
照)・・・n:自然数・・・第2表(B-2の軟化点83℃,B-3の軟化点97
℃),」(4頁右下欄1行~末行)
④ 5頁の第2表には,式(2)の両末端がエポキシ基の構造を有するB
-1~B-5のハロゲン含有化合物の性状につき,B-2のものの軟化点が83
℃,B-3のものの軟化点が97℃であることが記載されている。
上記認定の記載①によれば,引用例2の特許請求の範囲に記載された発
明において,式(2)で示される化合物は80~110℃の軟化点を有するものと
して規定され,記載②によれば式(2)のnは2のものが特に好ましいとされ,記
載③,④によれば引用例2にB-2及びB-3として示されたハロゲン含有化合
物,すなわち,式(2)におけるXが臭素(Br),aないしdが2(別紙2参
照),軟化点が83℃及び97℃のものが上記発明の具体例として記載されている
ということができる。B-2及びB-3のハロゲン含有化合物については,nの数
値が明示されていないものの,上記記載②のとおり,nが2のものが特に好ましい
とされていること,B-2及びB-3のハロゲン含有化合物の軟化点は引用例2の
特許請求の範囲に記載された軟化点80~110℃の範囲内のものであること,上
記nの数値によって式(2)の化合物の軟化点が影響されることは明らかであるこ
とを考え合わせると,B-2及びB-3のハロゲン含有化合物の少なくとも一方
は,nが2のものと推認することができる。別紙2記載のB-2及びB-3の構造
式においてnが2のものの重量平均分子量は,1000~100000の範囲内に
あることは,技術常識に照らし明らかである(別紙2の化学構造式においてn=2
とした場合,分子量は約1856となる。)。
そうすると,引用例2には,式(2)で示され,かつ重量平均分子量1
000~100000のものが記載されているということができる。
ウ 以上のとおり,本件発明の本件エーテル誘導体の一態様である構成B-
3の混合エーテル誘導体は,式(1)で示され,かつ重量平均分子量1000~1
00000のものとして規定されている。引用例2には,式(1)に包含される式
(2)で示され,かつ重量平均分子量1000~100000のものが記載されて
いるから,結局,引用例2には,化学式の構造及び重量平均分子量において本件エ
ーテル誘導体と一致するハロゲン含有化合物が記載されているということができ
る。
同旨の決定の認定に誤りがあるということはできない,というべきであ
る。
(3) 原告は「チャート」(甲第11及び12号証)を引用し,要するに,本件
エーテル誘導体は,所定の分子量分布を持つものであって,分子量分布によって規
定されている点において,引用例2とは異なる,と主張する。しかしながら,本件
特許の特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の本件エーテル誘導体は,式
(Ⅰ)と重量平均分子量とのみで規定されており,分子量分布によっては規定され
ていないことが明らかである。原告の主張は理由がなく,採用することができな
い。
2 取消事由2(引用発明1と引用発明2とを組み合わせることの想到容易性の
判断の誤り)について
 (1) 引用例1に,グラフト率が50%以上のABS樹脂(アクリロニトリル-
ブタジエン-スチレン三元共重合体)10~90重量%と,アクリロニトリル23
%以上のAS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)90~10重量%から
なるスチレン系樹脂に対し,ハロゲン含有難燃剤の単独又は2種以上の混合物を1~
50重量部配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物の発明(決定書5頁20行~
26行参照)が記載されていることについては,当事者間に争いがない。
引用例1には,「本発明において使用するハロゲン系難燃剤としては,脂
肪族,芳香族,脂環族の炭化水素,エステル,エーテル,酸または無水物,アルコ
ール,リン化合物の少くとも1種に分類しうる化合物であり,かつ1分子中1ケ以
上の置換基として塩素又は臭素を含む難燃剤化合物を示す。例えばテトラブロモフ
ェノールA,あるいは・・・などが挙げられ,少くともこれらの1種以上を用いる
ことができる。」(甲第2号証4頁右下欄6行~5頁左上欄下から2行)との記載
がある。引用例1のこの記載によれば,引用発明1で用いられるべきハロゲン系難
燃剤,すなわち,ハロゲン含有難燃剤として,脂肪族など,種々の上位概念に当た
る化合物が記載され,また,これらの下位概念に当たる具体的な化合物名も記載さ
れていることから,当業者であれば,引用発明1に係る出願当時に公知あるいは周
知であった,塩素又は臭素を含む難燃剤化合物であれば,これを同発明の,上記ハ
ロゲン含有難燃剤として適用できると理解するものと認められる。
前記1で認定したところによれば,引用例2には,B-2及びB-3とし
て具体的に開示された塩素又は臭素を含むハロゲン含有化合物が記載されているこ
とが認められ,これが難燃剤化合物であることは明らかである。
そうすると,引用例1記載のハロゲン含有難燃剤として,引用例2記載の
ハロゲン含有化合物を適用することは,容易になし得ることであったというべきで
ある。
(2) 原告は,引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載の樹脂とは,一致
も類似もしていないから,引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載のハロゲ
ン含有化合物とを組み合わせるべき動機は存在し得ない,と主張する。
しかしながら,「プラスチックの燃焼性 喜多信之著,工業調査会197
5年3月25日発行」(乙第6号証)の49頁ないし59頁には,「プラスチック
の難燃化にあたっては,対象樹脂に特性の合致した難燃剤を選ぶことが必要であ
る。・・・いま,プラスチック用各種難燃剤とその適用樹脂の関係を総括して示せ
ば表5.56)のとおりである。」(55頁6行~9行)との記載があり,表5.5
(53頁)には,多くの難燃剤化合物が複数種類の樹脂に適用されることが示され
ている。上記刊行物の上記記載によれば,当業者においては,任意の難燃剤化合物
は,複数種類の樹脂に適用され得ると理解しているものということができるから,
仮に,原告主張のとおり引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載の樹脂とが
一致又は類似していないとしても,そのことは,引用例1記載のハロゲン含有難燃
剤として,引用例2記載の難燃剤化合物,すなわち,ハロゲン含有化合物を適用す
ることを,何ら,妨げるものではないというべきである。
(3) 原告は,引用例2では,そこに記載された樹脂,すなわち,モノビニル芳
香族化合物単位と不飽和ニトリル化合物単位との共重合体について,後者の単位の
含量が20~27重量%であることが重要であるのに対し,引用例1記載のABS
樹脂では,その実施例として,上記20~27重量%の範囲を外れる28重量%の
ものが記載されているから,引用例1記載のスチレン系樹脂と引用例2記載のハロ
ゲン含有化合物とを組み合わせることを妨げる事情がある,と主張する。
しかしながら,引用例1には,「本発明においてゴム質重合体にグラフト
重合するために使用されるモノビニル芳香族単量体(a)はラジカル重合可能なも
のであり,例えばスチレン・・・があげられる。不飽和ニトリル単量体(b)とし
てはアクリロニトリル・・・があげられる。・・・ 単量体としては,スチレンと
アクリロニトリルの組合わせが特に好ましい。これらの単量体の使用割合は特に制
限はないが,通常単量体(a)と単量体(b)の重量比で50:50~90:10
の範囲であり,好ましくは60:40~80:20の範囲である。また,さらに単
量体(c)を使用する場合の使用割合は,通常単量体(a)と単量体(b)の合計
100重量部に対して単量体(c)30重量部以下である。」(3頁右上欄2行~
右下欄13行)との記載がある。
引用例1の上記記載によれば,引用例1記載のABS樹脂におけるモノビ
ニル芳香族単量体(スチレン)と不飽和ニトリル単量体(アクリロニトリル)との
共重合体中の後者単量体の割合は10~50重量%であることが開示され,引用例
1記載のABS樹脂として,27重量%以下のものも含まれることが示されている
のであるから,引用例2に前記割合は20~27重量%であることが必要であると
記載されていることは,引用例1のABS樹脂に配合するハロゲン含有難燃剤とし
て,引用例2記載のハロゲン含有化合物を適用することを妨げる理由とはならな
い,というべきである。
(4) 以上のとおりであるから,原告の主張は採用することができない。
取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明の顕著な作用効果の看過)について
 (1) 耐衝撃性と難燃性の相乗効果について
原告は,本件発明は耐衝撃性と難燃性の両方が相乗的に向上されるという
予想外の効果を有する,と主張し,その根拠として,本件明細書に記載された,①
実施例1,2と比較例1,2とを対比した結果,②実施例2,4と比較例3,4と
を対比した結果,③実施例3と比較例5とを対比した結果,④実施例5ないし9と
比較例8,9とを比較した結果等を挙げる。
しかしながら,引用例1には,「高度にグラフト化反応させて得られたグ
ラフト重合体に,適量の難燃剤を組合せることにより,配向を伴う薄肉成形品に用
いた場合にも実用上有効な優れた耐衝撃性と難燃性を併有する難燃性樹脂組成物を
得ることが可能となった。」(甲第2号証10頁右下欄下から4行~11頁1行)
との記載が,引用例2には,「本発明は,耐衝撃性に優れ,高度な耐光性及び難燃
性を有するスチレン系樹脂組成物に関するものである」(甲第3号証1頁右欄6行
~8行),「本発明者らは,かかる状況に鑑み,耐衝撃性を良好に保持し,しかも
優れた耐光性と難燃性を有する樹脂組成物を得るべく鋭意検討した結果,特定の組
成を有する樹脂組成物に特定の構造のハロゲン含有化合物を配合することにより達
成されることを見いだし,本発明を成すに至った。」(甲第3号証2頁右上欄14
行~19行),「本発明の難燃性樹脂組成物は,良好な耐光性を有していながら耐
衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物であり,工業材料特に事務機器,電気機器のハウ
ジング材として産業上極めて有用である。」(甲第3号証4頁左上欄19行~右上
欄2行)との記載がそれぞれある。これらの記載によれば,スチレン系樹脂組成物
に難燃剤としてハロゲン含有化合物を配合することにより優れた耐衝撃性及び難燃
性を併有する難燃性樹脂組成物が得られることは,引用例1及び2に既に記載され
ていることが明らかである。
スチレン系樹脂組成物に難燃剤を配合することによって,原告の主張する
耐衝撃性と難燃性の両方が相乗的に向上されるという予想外の効果があるといえる
ためには,そのスチレン系樹脂組成物と難燃剤との配合によって通常予想される耐
衝撃性及び難燃性の向上の程度をはるかに超えた優れた効果がなければならないと
いうべきである。ところが,原告がその主張の根拠として挙げているのは,いずれ
も,本件発明の実施例とそうでないものとを単に比較した結果を示すものにすぎ
ず,このような意味における顕著な作用効果としての相乗効果を示すものであると
はいえないことが明らかである。
仮に,本件発明の実施例に一定の作用効果が認められたとしても,本件発
明は,前記のとおり,難燃剤である本件エーテル誘導体をとってみても,式(Ⅰ)
で示され,かつ重量平均分子量1000~100000のものとして規定されてい
るにすぎない広範囲のものである(甲第5号証によれば,比較例8,9の重量平均
分子量はいずれも10000であるから,本件発明の実施例に含まれることにな
る。)と解するべきであるから,これは,本件発明の一部のものの効果にすぎない
というべきであり,これを,本件発明全体の効果を示すものとみることはできない
ものというべきである。
他に,本件発明が特許性を認めるための根拠となる顕著な作用効果として
の耐衝撃性と難燃性の両方の向上という相乗効果を有することを認めるに足りる証
拠はない。
(2) 原告は,本件発明においては,優れた熱変形温度,耐光変色性,流動性が
得られている,と主張する。
本件明細書中には,本件発明の実施例と比較例とで,その熱変形温度,耐
光変色性,流動性を比較した結果についての記載がある(甲第5号証4頁ないし6
頁)。しかしながら,本件明細書の上記記載中には,①実施例1ないし4と比較例
1ないし5,②実施例5ないし8と比較例8,9とでは,熱変形温度,耐光変色性
において,実施例の方が比較例よりも優れていることを示す記載はなく,実施例5
ないし8と比較例8,9については,流動性の測定結果の記載自体がない。本件明
細書中には,他に,本件発明が熱変形温度,耐光変色性,流動性について顕著な作
用効果を有することを示す記載はない。仮に,本件発明の実施例において,一定の
効果が認められたとしても,そもそも,広い権利範囲を有する本件発明において
は,これを,本件発明全体の効果を示すものとみることができないことは,上記の
とおりである。
他に本件発明において,熱変形温度,耐光変色性,流動性について,原告
主張の上記顕著な作用効果があることを認めるに足りる証拠はない。
4 取消事由4(手続上の瑕疵)について
(1) 本件異議手続において,本件特許について発せられた平成11年6月7日
付け取消理由通知書(本件取消理由通知書)には,以下の記載がある(甲第10号
証)。
ア「本件の,次の請求項に係る特許は,合議の結果,次の理由により取り消
すべきものと認める。これについて意見があれば,・・・意見書・・・を提出され
たい。」(1頁)
イ「(引用刊行物)
刊行物1(特開昭63-72749号)
刊行物2(特開昭62-256855号)
刊行物3(特開昭61-31451号)(判決注・引用例1)
刊行物4(特開昭61-241343号)
刊行物5(特開昭64-6061号)
刊行物6(特開平1-287132号)(判決注・引用例2)



刊行物13(特願平2-78273号(特開平3-275748号)(以
下,「先願明細書」という。)」(2頁)
ウ「(対比・判断)
〔理由1〕
<特許法第29条第2項違反について>
本件請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,(A).
グラフト率が50%以上のABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン
三元共重合体)10~90重量%と,アクリロニトリル23%以上で重量平均分子
量80000以上のAS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)90~10
重量%からなるスチレン系樹脂(以下,「(A-1)ABS樹脂」という。),あ
るいはグラフト率が50%以上で重量平均分子量が90000以上のABS樹脂1
00重量%からなるスチレン系樹脂(以下,「(A-2)ABS樹脂」という。)
100重量部に対し,
(B).式(I)で示され重量平均分子量が20000~100000の
ハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(以下,「(B-1)エーテル誘導
体」という。)を1~50重量部,あるいは式(I)で示され重量平均分子量が1
000~9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(以下,「(B
-2)エーテル誘導体」という。)を1~50重量部,又は(B-1)エーテル誘
導体1~99重量%と(B-2)エーテル誘導体99~1重量%からなるハロゲン
含有芳香族ジオールのエーテル誘導体(以下,(B-3)エーテル誘導体」とい
う。)を1~50重量部配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物に係るものであ
る。・・・。
そこで,本件発明と各刊行物記載の発明とを順次対比する・・・。
また,本件発明の(A-1)ABS樹脂は,刊行物2,刊行物3に記載
のとおり公知のものであり,(A-2)ABS樹脂も,刊行物6,刊行物10,刊
行物11にそれぞれ記載されているように慣用のものであり,これらいずれもその
(A)スチレン系樹脂の範疇に属する樹脂である。
一方,刊行物1に(B)エーテル誘導体として,(B-1),(B-
2)のエーテル誘導体が記載されている。
刊行物1以外にも,この種の(B)エーテル誘導体は,刊行物4,刊行
物5,刊行物6,刊行物9,刊行物12にもそれぞれ記載のとおり,スチレン系樹
脂の難燃剤としてごく普通に知られたものである。
してみれば,ABS樹脂に難燃化という上記技術課題を解決する目的
で,それ自体公知の(A-1)ABS樹脂または(A-2)ABS樹脂に対して,
難燃剤として慣用の(B-1),(B-2),(B-3)エーテル誘導体をブレン
ドすることは上記各刊行物に記載の発明に基づいて当業者が容易に為し得ることで
ある。
そのブレンド量の(A)ABS樹脂100重量部に対して,(B)エー
テル誘導体を1~50重量部の配合するという限定も,(B)エーテル誘導体とし
てごく普通の配合量であることが容易に察しられる。
そして,(B)エーテル誘導体は難燃剤として慣用の物であることから
して,その作用効果は予測できることである。
したがって,本件発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反し
て特許されたものである。」(5頁9行~9頁8行)
(2) 本件取消理由通知書の上記認定の記載によれば,同通知書には,(A)の
スチレン系樹脂に対し(B)のエーテル誘導体を配合して成る難燃性スチレン系樹
脂組成物である本件発明について,①(A)のスチレン系樹脂の選択的事項として
規定された(A-1)ABS樹脂が,刊行物3すなわち引用例1に記載された公知
のものであり,②(B)のエーテル誘導体が刊行物6すなわち引用例2に記載され
た,難燃剤としてごく普通に知られたものであるとした上で,③上記公知の(A-
1)ABS樹脂又は(A-2)ABS樹脂に対して(B-1),(B-2),(B
-3)エーテル誘導体,すなわち,上記(B)のエーテル誘導体を配合すること
は,上記引用例1及び2を含む各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易
になし得ると判断されるとの理由が示されているとみることができる。本件取消理
由通知書の上記記載に接した当業者は,特に引用例1及び2の組合せが明示されて
いなくとも,本件発明は引用例1及び引用例2に記載された各発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができる,との理由も取消理由通知書に記載されている事
項に含まれると理解することができることは明らかであり,そのように理解するよ
う要求されたとしても,決して過酷ではない,というべきである。
決定をするに当たり,本件取消理由通知書によるもののほかに,改めて,
取消理由通知をしなかったからといって,これをとらえて決定に手続上の誤りがあ
ったということはできない。
取消事由4は理由がない。
第6 以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,
その他決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求
を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61
条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     設   樂   隆   一
裁判官     阿   部   正   幸
別紙1 特許請求の範囲の式(Ⅰ)(括弧内の説明を含む)及び甲第3号証の特
許請求の範囲の式(2)(括弧内の説明を含む)(上下に並べる。)
別紙2 甲第3号証4頁の化学式
別表1 原告第2準備書面表-1
別表2 原告第2準備書面表-2

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