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平成24(ワ)18353特許専用実施権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成25年12月19日
事件種別 民事
当事者 被告日東商事株式会社鈴木修
原告シンシンブロック株式会社井上拓
対象物 雨水貯留浸透槽・軽量盛土用部材
法令 特許権
特許法36条6項1号3回
特許法29条2項2回
特許法102条2項1回
特許法104条の31回
キーワード 実施62回
特許権41回
許諾17回
侵害11回
無効4回
損害賠償2回
無効審判2回
進歩性2回
分割1回
ライセンス1回
差止1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,発明の名称を「雨水貯留浸透槽・軽量盛土用部材」とする特許権 (以下「本件特許権」という。)の特許権者から専用実施権の設定を受けた原 告が,被告による別紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の1~4 の各製品をそれぞれ「被告製品1」などといい,これらを併せて「被告各製 品」という。)の製造,販売及び販売の申出が専用実施権の侵害に当たるとし て,被告に対し,民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償として 6600万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成24年7月8日 (訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延 損害金の支払を求めた事案である。

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判決文

平成25年12月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第18353号 特許専用実施権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年10月29日

判 決

茨城県日立市<以下略>

原 告 シンシンブロック株式会社

同訴訟代理人弁護士 上 山 浩

井 上 拓

東京都豊島区<以下略>

被 告 日 東 商 事 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 吉 田 正 夫

鈴 木 修

同訴訟代理人弁理士 細 井 勇

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,6600万円及びこれに対する平成24年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,発 明の名 称を「雨 水貯留 浸透槽 ・軽量盛土 用部材 」とする 特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者から専用実施権の設定を受けた原告が,被告による別紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の1~4の各製品をそれぞ れ「被告製品 1」など といい,これらを 併せて「被告 各製品」という。)の製造,販売及び販売の申出が専用実施権の侵害に当たるとして,被告に対し,民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償として6600万円及び これに対する 不法行為 の後の日である平 成24年7月 8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者ア 原告は,雨水貯留浸透施設等の設計,施工,監理等を目的とする株式会社である。イ 被告は,石油製品の仕入れ販売業務のほか,ブロック工事業等を目的とする株式会社である。 本件特許権及び原告の専用実施権ア 株式会社林物産発明研究所(以下「発明研究所」という。)は,以下の特許権(本件特許権)を有している。特許番号 第4863054号発明の名称 雨水貯留浸透槽・軽量盛土用部材出願日 平成17年12月20日出願番号 特願2005-366112登録日 平成23年11月18日イ 原告は,発明研究所から,以下の内容の専用実施権(本件専用実施権)の設定を受け,平成24年2月10日受付によりその登録がされた。期間 本件特許権の存続期間内容 製造,販売,設計,施工ウ 本件特 許権の特 許請求の 範囲の 請求 項1の記載 は,次の とおりで ある(以下,この発明を「本件発明」といい,本件発明に係る特許を「本件特許」と いう。 また, その 特許出 願の願 書 に添付 された 明細書 及び 図面を「本件明細書」という。)。「 平板部と平板部に開口し端部が閉じられた筒状部を有する部材であって地下に配列し空間を形成し,当該空間をシートで覆って雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土とする部材において,前記部材の筒状部の側面には,上下方向に沿って複数の張り出し状のリブが設けられ,筒状部は,開口部から閉じた端面に向かって狭くなるテーパが設けられた雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土用部材。」エ 本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A1」などという。)。A1 平板部とA2 平板部に開口し端部が閉じられた筒状部A3 を有する部材であってB 地下に配列し空間を形成し,当該空間をシートで覆って雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土とする部材において,C 前記部材の筒状部の側面には,上下方向に沿って複数の張り出し状のリブが設けられ,D 筒状部は,開口部から閉じた端面に向かって狭くなるテーパが設けられたE 雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土用部材。 被告の行為等ア 被告は,遅くとも平成20年10月ころから被告各製品の製造,販売及び販売の申出をしている。イ 被告各製品は,それぞれ別紙被告各製品の構成に記載のとおりの構成を有している。被告各製品は,一つの製品の筒体の上面板にもう一つの製品の上面板を,一方の契合孔に他方の契合突起を契合するように突き合わせて連結させ,かかる連結体を上下左右に複数配置して地下に雨水を貯留するための空間を形成するものであり,かかる空間がシートにより覆われることにより,雨水貯留浸透槽が形成される。(甲5,弁論の全趣旨) 株式会社シンシンブロックと被告の間の通常実施権許諾契約ア 株式会社シンシンブロック(原告とは異なる会社である。)と被告は,平成20年4月1日,契約期間を5年間とする以下の内容の通常実施権許諾契約(以下「本件契約」という。)を締結した)。(乙5) 実施権の許諾(1条,2条)株式会社シンシンブロックは,本件契約の期間中,被告に対し,日本国内において,雨水貯 留浸透施設シンシ ンブロック(SSBB 。以下「本製品」という。) 及び本製品を用い て構築する全ての施設 (以下「本施設」という。) に関し株式会社シ ンシンブロックが現に 有する契約書の別表1に記載 の5件の特許を含 む特許(以下「本特許 」といい,別表1に記載の各 特許を「別表1の 各特許」という。)の 存続期間中,本製品の製造及 び販売並びに本製 品を使用した施設の設 計,施工及び販売を行う権限(以下「本通常 実 施権」という。)を許諾する 。 株式会社シンシンブロックの義務(3条)本契約によって生じる株式会社シンシンブロックの権利及び義務は株式会社シンシンブロッ クが窓口となり全 て行うものとし,本製 品に関わる必要な産業財産権 は株式会社シンシ ンブロックがその使用 を保証する。 対価及び支払方法(6条)対価は,被告と株式会社シンシンブロックが協議の上,別途覚書に定めるものとし,被告は ,毎月末日を締切 日とし,当月の合計金 額に消費税を加算して,翌月 末日までに株式会 社シンシンブロックの 指定する銀行口座に振り込む。 実施報告(7条)a 被告は,上記  の締切日から14日以内に,当月の販売ないし自社使用した本製品の型式,販売数量,販売先及び対価と本施設の名称,設置場所,規模,使用目的,施工時期等の内訳を記載した実施報告書を株式会社シンシンブロックに送付するものとする。b 被告は,3か月ごとに次の3か月間の本製品の販売予定数量とその販売予定に係わる本施設の名称,設置場所,規模,使用目的,施工時期等の内訳を記載した実施予定報告書を株式会社シンシンブロックに通知する。 解除(13条)被告及び株式会社シンシンブロックは,相手方が本件契約に違反した場合,相手方にその是正を催告し,文書による催告後30日以内に相手方が当該違反を是正しないときは,本件契約を解除することができる。ただし,本件契約を解除するに当たり,被告及び株式会社シンシンブロックは相互に債権債務を精算しなければならない。イ 株式会社シンシンブロックは,平成24年7月4日,被告に対し,本件契約に定める実施報告書及び実施予定報告書の提出を被告が怠っている旨指摘し,平成20年4月1日から平成24年6月末日までの実施報告書及び同年7月から9月までの実施予定報告書の提出を求めるとともに,30日以内に履行がない場合には上記ア  の規定に基づき本件契約を解除する旨の催告をした。(甲30の1及び2)ウ 株式会社シンシンブロックは,平成24年8月8日,被告に対し,上記催告後30日が経過しても被告が実施報告書等を提出しないとして,本件契約を解除する旨の意思表示をした(以下,この解除を「本件解除」という。)。(甲32の1及2)争点 被告各製品の本件発明の技術的範囲への属否ア 構成要件A2及びA3の充足性(被告各製品が「端部が閉じられた筒状部」を有する部材であるか)イ 構成要件Cの充足性(被告各製品が「張り出し状のリブ」を有するか)なお,被告はその余の構成要件の充足性を争っていない。 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかア 本件特許が特許法36条6項1号に違反するかイ 本件特許が特許法29条2項に違反するか 本件契約に基づき被告が本件特許権の実施権を有するか 本件解除の有効性 原告の損害争点に関する当事者の主張 争点  (被告各製品の本件発明の技術的範囲への属否)についてア 構成要件A2及びA3の充足性(原告の主張) 構成要件A2の端部が「閉じられた」とは,「平板部」のように全面的に開口しているのではない状態を意味しており,「端部」を閉じる面が完全に蔽われている場合だけでなく,その一部に開口部が設けられている場合も含む。このような場合についても「閉じる」や「密閉」といった表現を用いる例は多数存在するのであり(甲11~15),上記解釈は極めて自然な文言解釈である。また,本件明細書には「筒状部の閉じた端部」に何ら開口部を設けてはならないとする記載はなく,むしろ,筒状部の端部に契合孔,すなわち開口部が設けられている実施例が記載されている。筒状部の端部が「閉じられた」という構成の技術的意義は,端部を上下に付き合わせて積み重ねる際の安定性の確保にあり,端部に雨水流通孔や契合孔程度の開口部を設けたとしても,かかる安定性に支障を来すことはない。さらに,雨水貯留浸透槽等用の部材には,開発当初から現在に至るまで,一貫して端面に雨水流通孔が設けられており,本件発明の特許出願当時も,雨水流通孔を設けることは技術常識であった。雨水流通孔が設けられるのは,筒状部内全体に雨水を貯留し,貯水率を高めるためであるところ,かかる利点を犠牲にしてあえて筒状部の端部を密閉させる理由はない。以上によれば,構成要件A2の「閉じられた」とは,密閉された場合だけでなく,上面板の一部に開口部を有する場合も含む。これに対し,被告各製品は,いずれもその下端部が平板部に開口しており,上端部の上面板に契合孔及び雨水流通孔が設けられている。当該構成は,「端部」を閉じ,一部に穴の開いた面が設けられたものであり,積み重ねる際の安定性に支障を来さないことは明らかである。したがって,被告各製品は,構成要件A2を充足し,構成要件A3をも充足する。 仮に,構成要件A2の「閉じられた」が,端部が完全に密閉された場合を意味するとしても,被告各製品の雨水流通孔及び契合孔は,本件発明の技術的意義に何ら関係するものではなく,「閉じられた」端部に付加された構成にすぎないから,構成要件A2を充足することに変わりはない。a 仮に,原告の上記  及び  の主張が認められないとしても,被告各製品は,以下に述べるとおり,均等論の要件を満たすから,特許発明の技術的範囲に属するというべきである。すなわち,本件発明の本質的部分は,筒状部に「張り出し状のリブ」(構成要件C)を設けることで,芯材を用いないで部材の上下方向の圧縮強度を向上させる点にある。他方,上記  のとおり,「閉じられた」端部の技術的意義は上下に突き合わせて積み重ねる際の安定性の確保にある。そして,端部を構成する閉面の一部に開口部を設けても,張り出し状のリブによる圧縮強度向上効果に変わりはないから,開口部の有無は,本件発明の本質的な部分の相違ではない。開口部があったとしても,本件発明の目的は達することができ,本件発明の実施品と被告各製品は同一の作用効果を奏する。したがって,被告各製品は,均等論の第1要件及び第2要件を満たす。さらに,上記  のとおり,雨水貯留浸透槽等用の部材の筒状部に契合用孔部や雨水流通孔を設けることは,被告各製品の製造時点において,当業者が既に行っていたことであるから,容易に想到することができたことは明らかである。したがって,被告各製品は,均等論の第要件も満たす。b 被告は,本件発明の本質的部分につき,本件発明は筒状部に芯材を挿入する態様を含めることを予定しているところ,芯材が端部から飛び出さないようにしたり,セメント等を筒状部に流し込んで硬化させて芯材を形成する場合にセメント等が漏れないようにしたりするため,本件発明の実施品は端部が密閉されていることが必要であると主張する。しかし,本件発明は筒状部の内側に芯材を挿入することを発明特定事項とするものではない。さらに,雨水流通孔や契合孔といった程度の開口部が端部に設けられても芯材が端部から飛び出すことはない。また,筒状部にセメントを流し込むような手法は,アイデアとしてはあり得るとしても,実際には実用性を欠くために利用されておらず,当業者からすれば芯材の成形方法に含まれないのは明らかである。なお,仮にセメント等を充填するとしても,充填・固化させる間だけテープ等で開口部を閉じれば足り,このようなことは当業者が必要に応じて容易になし得る事項にすぎない。したがって,被告の主張は失当である。(被告の主張) 構成要件A2においては「平板部に開口し端部が閉じられた筒状部」という対比表現が用いられており,一方(平板部側)は開口しているが,他方(平板部側の反対方向)は開口していないという趣旨を表している。したがって,「端部が閉じられた」は,文言どおり,端部は開口していない,すなわち,端部には開口部が存在しないという意味に解すべきである。また,本件明細書には,筒状部の「閉じられた端部」に開口部が設けられていてもよい旨の記載はない。これに対し,原告は,本件明細書の実施例に契合孔が設けられていることを主張する。しかし,【図2】の契合孔は,座ぐり穴の態様であり,貫通孔となっていない。また,契合孔が設けられている部分はリブの端部であって,筒状部の端部ではない。さらに,本件発明は,筒状部に芯材を入れる場合があることを前提としており,そのような場合には,芯材が筒状部の端部から飛び出さないようにする必要がある。加えて,本件明細書の記載によれば,芯材は固形状のものに特定されず,筒状部にセメントを打設して芯材を形成することも想定されている。これらのことからすれば,筒状部の端部は,芯材を確保するために閉じられている必要がある。以上によれば,構成要件A2の「端部が閉じられた」は,端部に開口部が存在しないという意味に解すべきである。そして,被告各製品は,いずれの筒体の端部にも雨水流通孔が設けられて開口している。したがって,本件発明の構成要件A2を充足せず,構成要件A3も充足しない。 原告は,被告各製品において雨水流通孔が設けられているのは付加的構成にすぎないと主張する。しかし,被告各製品は,雨水流通孔を設けることにより,端部が閉じられたもののように芯材を筒体内部に確保したり圧縮強度を高めたりすることはできないが,雨水が流入した場合に筒体内部の空気圧を逃がして雨水を内部に流入させ,筒体間での雨水の流通を可能にすることができる。したがって,被告各製品において雨水流通孔が設けられていることは,付加的構成ではない。 原告は,被告各製品が均等による特許権侵害の要件を満たすと主張する。しかし,本件発明の「筒状部の強度を高めること」との課題は「張り出し状のリブ」(構成要件C)によって解決されるから,「張り出し状のリブ」は本件発明の本質的部分に相当するところ,本件発明が「端部が閉じられた筒状部」 (構成要件A2)と限定している趣旨は,「張り出し状のリブ」による筒状部の強度を高める効果を補い,より確実なものにすることにある。そのため,「張り出し状のリブ」と「端部が閉じられた筒状部」は構成的に相関しており,両構成が連関して課題解決を実現したものといえる。そうすると,構成要件A2の「端部が閉じられた筒状部」もまた本件発明の本質的部分となるというべきである。そして,上記  のとおり,本件発明における「端部が閉じられた」構成と,被告各製品において雨水流通孔が設けられていることは正反対の技術的意義を有するのであり,本件発明の「端部が閉じられた筒状部」を被告製品の「雨水流通孔という開口部を備えた端部」と置き換えることはできないし,そのような置き換えが容易であることもない。したがって,被告各製品は均等の要件を満たさない。イ 構成要件Cの充足性(原告の主張) 構成要件Cの「張り出し状のリブ」は,一般的な技術用語ではなく,本件明細書特有の特殊な用語であるから,その意義を特許請求の範囲の文言のみから一義的に明らかにすることはできない。そこで本件明細書をみると,まず,発明の効果として「入れ子状に積み重ねた時に互いに回転しない。」との記載,実施例に関して「図では,いずれも筒状部の形状は円形として示してあるが,入れ子状に組み重ねることができればいいので戴角錐であっても他の形状であってもよい。」との記載がある。そして,本件明細書に添付された図面は,いずれも筒状部の側壁を湾曲させて「張り出し状のリブ」を形成している。以上の記載によれば,本件発明の実施品は入れ子状に積み重ねられるものであり,そのため,「張り出し状のリブ」は筒状部の側壁を湾曲させて形成されるものを意味する。なお,本件明細書の【図2】には筒状部とリブを区別する輪郭線が記載されているが,これは,筒状部同士の結合状態を示す概念図であり,作図作業の簡便性,当業者の理解力等を考慮して,本来は表示すべきでないものを残したものにすぎず,上記輪郭線は実在する壁ではない。次に,本件明細書には,「リブが張り出す。その張り出し部に必要に応じて契合部である突出したオス継ぎ手およびオス部が挿入される孔部であるメス継ぎ手を設けることができる」との記載があり,このほか,本件部材に契合部を設けた実施例が複数記載されている。これによれば,「張り出し状のリブ」は,上記の形状に加え,張り出し部に契合部を設けることができる大きさを有するものを意味するといえる。 被告各製品の凸状筒体胴部は,いずれも筒体の側壁を湾曲させて形成されており,契合部が設けられる程度の大きさを有する。したがって,被告各製品は構成要件Cを充足する。(被告の主張)構成要件Cは,筒状部の本体に対してその側面に張り出された補強部分としてリブを設けることを示している。そのため,「張り出し状のリブ」は,本体と別の存在として観念でき,除去しても本体が成立するものを意味する。本件明細書においても,筒状部とリブを区別する輪郭線がある実施例が存在する(【図2】)。「張り出し状のリブ」という用語は一般的な技術用語であり,文献(乙36~43)上も板状リブやその他の形態を含むリブ一般について用いられている。本件明細書の段落【0010】にも,「筒状部に設けるリブの形状も同様であり円弧状である必要はない。」と記載されており,リブの形状には限定がないことが明記されている。以上に対し,被告各製品の凸状筒体胴部は本体の構成部分であるから,これなしの本体は観念できず,リブではない。したがって,被告各製品は構成要件Cを充足しない。 争点  (本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)についてア 本件特許は特許法36条6項1号に違反するか(被告の主張)本件発明の課題は,「芯材と契合具の不都合の解消」及び「芯材なしで強度を高める手段の提案」である。しかるに原告は,「芯材と契合具の不都合の解消」という課題に関し,「契合時に継ぎ手オス部が筒状部内部の芯材とぶつからない。」との効果を奏する構成は本件発明に含まれていないと主張し,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないこと」を自認している。したがって,本件発明は発明の詳細な説明で複数の課題のすべてを解決する発明と明記しておきながらその一部の課題しか解決しない手段のみの請求項を記載したものであるから,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反する。(原告の主張)本件明細書の「筒状部を有する部材における芯材と契合具の不都合を解消する」との課題は,本件発明に契合部を設けた利用発明により解決される課題である。被告の主張は,かかる課題が本件発明によって解決すべき課題であるとする点で前提を誤っており,失当である。イ 本件特許は特許法29条2項に違反するか(被告の主張)本件発明の先行技術として特開平10-252108号(乙8,以下,これを 「乙8 文献」 とい い,こ れに記 載 された 発明を 「乙8 発明 」という。)があるところ,乙8発明と本件発明との相違点は,本件発明が構成要件Cを備えているのに対し,乙8発明がこれを備えていないという点のみである。そして,乙8文献には筒状部を含む部材及び筒状部自身の「強度を高めるということ」という課題が明記されており,本件発明と同一の技術分野における先行文献(乙25,26)には,筒体の強度を高めるための解決手段として「筒体に補強リブを設けること」が記載されている。また,このような記載は,他の技術分野における先行文献(乙28~32)にも存在し,筒体や柱体の強度を高める解決手段として張り出し状のリブを設けることは周知慣用技術に相当する。以上によれば,乙8発明に,上記各文献に記載された筒体にリブを設けて強度を高めるという公知の技術的手段を採用し,張り出し状のリブを設けるという本件発明の構成にすることは当業者が容易に想到し得るから,本件発明は進歩性の要件を具備しない。したがって,本件特許は特許法29条2項に違反する。(原告の主張) 被告の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として,特許法104条の3第2項により却下されるべきである。 この点をおくとしても,乙8発明に他の先行技術を組み合わせることが容易であるというためには,これらを組み合わせたはずであるという示唆等が存在することが必要である。しかし,乙8文献には,部材の強度を更に高めるための手段として筒体を複数設けること等が記載されており,これらの手段を講じてもなお部材の強度が十分でないことがあることなどを示 唆する記 載は一切 ない。ま た,被告が指 摘する先 行文献(乙25~32)に記載されたリブはいずれも構成要件Cの「張り出し状のリブ」のような「上下方向に沿った」ものでないから,構成要件Cを開示したものとはいえない。さらに,被告が「張り出し状のリブ」が周知慣用技術であることの根拠とする文献(乙28~32)は,乙8発明と全く技術分野が異なるものである。したがって,本件発明が進歩性を欠くことはない。 争点  (本件契約に基づく実施許諾の有無)について(被告の主張)以下の理由により,原告が本件契約の当事者でないと主張することはできず,本件契約における実施許諾の対象は本件特許を含むものであるから,仮に被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するとしても,被告による製造,販売等が特許権侵害となることはない。ア 本件契約の当事者は,契約書上は,被告と株式会社シンシンブロックである。しかしながら,原告,株式会社シンシンブロック,株式会社林物産(以下「林 物産」 という 。) 及び発 明研 究所 (以下 ,これ らの会 社を 併せ て「シンシンブロックグループ」という。)は,いずれもその取締役及び監査役がX1及びその妻子らによって占められた同族会社であって,その所在地も基本的には同一であり,実態は一つの会社である。シンシンブロックグループは,林物産や株式会社シンシンブロックを特許権者として特許を取得した後,同社に特許権を集中して帰属させていたところ,最終的には発明研究所に特許権を移転させ,株式会社シンシンブロックに専用実施権を設定するなどしてきた。これらの行為は,株式会社シンシンブロックが被告を含む複数の債権者に対し10億円を超える多額の債務を負っていたため,取引上の債務のない発明研究所を別途設立して上記特許権を移転し,これら特許権を差し押さえられる危険を回避するためにされたものであった。このように,シンシンブロックグループは法人格を悪用している。したがって,本件契約書の記載を理由に原告が本件契約の当事者ではないと主張することは,禁反言,信義則及び権利濫用の法理に照らして許されない。イ また,本件契約の契約書には,実施許諾の対象として本件特許の記載がないが,契約書の記載から明らかなとおり,別表1の各特許は例示にすぎない。むしろ,本件契約においては,株式会社シンシンブロックの義務として本製品に関わる必要な産業財産権の使用を保証すると規定されており,別表1に記載のない特許等についてもその使用を許諾することが積極的に明記されている。そして,被告各製品は,雨水貯留浸透シンシンブロック(SSBB)であり,「本製品」に当たるところ,これが本件発明の技術的範囲に属するとすれば,本製品の製造及び販売のために本件特許が必要となる。そうすると,本件特許は,本件契約の締結時点では登録されていなかったために別表1に記載はないが,本件契約の対象となるというべきである。(原告の主張)ア 原告は本件契約の当事者ではない。また,原告が,本件特許権の専用実施権の設定を受けているから,株式会社シンシンブロックは本件特許権に係る通常実施権を許諾できる地位にない。これに対し,被告は,原告が本件契約の当事者ではないと主張することは,禁反言,信義則及び権利濫用の法理に照らして許されないと主張する。しかし,原告グループは分野別に事業会社を設立し,各グループ会社が保有する特許権を発明研究所に集約したのであり,このことは何ら不自然ではなく合理的である。逆に,事業会社である株式会社シンシンブロックに特許権を集約する理由こそ存在しない。また,原告は,発明研究所と株式会社シンシンブロックが別法人であることを明確に認識し,それらを峻別していた。別表1の各特許は,特許権者である発明研究所から専用実施権の設定を受けることにより株式会社シンシンブロックが権利者となる予定であったことから,先んじて株式会社シンシンブロックを当事者としたにすぎないものである。イ 本件契約の対象は,株式会社シンシンブロックが契約締結当時に保有している特許に限られている。しかるに,本件特許は本件契約締結日以降に登録されたものであるから,本件契約の対象外であることが明らかである。 争点  (本件解除の有効性)について(原告の主張)ア 株式会社シンシンブロックは,被告に対し,実施報告書等の提出義務を履行するよう文書により催促したが,被告がこれを履行しなかったため,本件契約の定めに基づき本件解除の意思表示をした。イ これに対し,被告は,① 実施報告書等は実務慣行上送付を求めないことになっていた,② 債権債務を精算するまでは解除の効力が生じないと主張する。しかし,① 株式会社シンシンブロックは,被告との関係が悪化した後,被告からの請求書の内容に疑義があることを発見したため,被告から「書面による」実施報告を受け,その内容を確認する必要があった。なお,株式会社シンシンブロックがその従業員を通じて実施報告の内容を把握していたとしても,「書面による」実施報告義務が免除されることはないし,少なくとも当該従業員が懲戒解雇された平成22年10月28日以降は「書面による」実施報告義務を履行する必要がある。また,② 契約解除に当たり債権債務を精算しなければならない旨の規定は,本件契約が解除された場合に,解除の後に債権債務を精算すべき旨を規定したものと解釈するのが公平であり自然である。したがって,本件解除は有効である。(被告の主張)ア 株式会社シンシンブロックの解除理由は,実施報告書等の提出義務を被告が履行しないということである。しかしながら,以下のとおり,実施報告書等を送付しないという実務慣行が合意事項になっていたから,その送付をしなかったことを理由に本件契約を解除することはできない。すなわち,本件契約の締結当時,株式会社シンシンブロックは,本製品の製造を委託していた複数の会社に対する製造代金の支払を遅滞して10億円を超える未払代金を生じさせていた。そのため,株式会社シンシンブロックの廃業の恐れを考慮することなく各製造会社が安心して本製品を製造できるようにする目的で,株式会社シンシンブロックに対する最大の債権者であった被告が本製品を製造販売する権利を取得し,被告から各製造会社に本製品を発注して販売することとして,本件契約が締結されたのである。もっとも,被告は発注業務を株式会社シンシンブロックに委ねていたので,同社においては,実施報告書等の送付を待つまでもなく,その担当従業員を通じて販売数量等の把握ができていた。このようにして,被告と株式会社シンシンブロックの間に,実施報告書等を送付しないという実務慣行が成立しており,これが両者間の合意となっていたのである。イ さらに,本件契約においては,契約を解除するに当たっては債権債務を精算しなければならない旨規定されている。これは,本件契約が締結されたのが,それまで株式会社シンシンブロックが行ってきた本製品の製造販売に関する取引を継続させるとともに,被告が株式会社シンシンブロックに対する債権を本件契約により株式会社シンシンブロックに支払うべき対価と相殺して回収することを目的とするものであったので,株式会社シンシンブロックの債務がすべて弁済されるまでは,本件契約を解除することができないとしたものである。本件解除の意思表示がされた平成24年8月8日当時,株式会社シンシンブロックは被告に対し少なくとも4億円を超える債務を負っていた。したがって,株式会社シンシンブロックによる本件解除は効力を生じない。 争点  (原告の損害)について(原告の主張)被告が平成24年2月10日から同年6月26日までに被告各製品を販売したことにより得た売上高は2億円を下らず,被告各製品の限界利益は6000万円(被告製品1につき600万円,被告製品2につき1200万円,被告製品3につき1200万円,被告製品4につき3000万円)を下らない。また,本件訴訟追行に当たって相当な弁護士費用は600万円である。したがって,原告の損害は少なくとも6600万円である。(被告の主張)争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点  ア(構成要件A2及びA3の充足性)について

 原告は,① 特許請求の範囲の文言解釈からして,構成要件A2の「端部が閉じられた」には閉面の一部が開口している場合を含むと解釈すべきである,② 被告各製品において雨水流通孔が設けられているのは付加的構成にすぎない,③ 被告各製品は本件発明に関して均等論の要件を満たすから,本件発明の技術的範囲に含まれると主張するので(以下,上記各主張を「原告の主張①」などという。),以下,検討する。 本件明細書には以下の記載がある。(甲4)ア 【背景技術】欄(段落【0002】)「 雨水の流出抑制,有効利用を図る雨水の貯留あるいは浸透槽用の部材あるいは軽量盛土用の芯となる部材としてプラスチック製あるいはステンレススチール製の部材が〔中略〕各種提案使用されている。特開昭62-101097,特開平09-296486などには筒状部を有する部材が提案されている。これら部材の筒状部には,その圧縮強度向上のため中にコンクリートなどの芯を充填して使用されることがある。筒部同士を結合する際,一般的にオス-メスの契合部を設けることが行われるが,芯材が中に存在するとオス部が芯材とぶつかり不都合を生ずることがある。」イ 【発明が解決しようとする課題】欄(段落【0003】)「 本願発明は,筒状部を有する部材における芯材と契合具の不都合を解消するとともに芯材なしで強度を高める手段の提案にある。」ウ 【課題を解決するための手段】欄(段落【0004】)「 本発明は,平板部と平板部に開口し端部が閉じられた筒状部を有する部材であって地下に配列し空間を形成し,当該空間をシートで覆って雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土とする部材において,前記部材の筒状部の側面には,上下方向に沿って複数の張り出し状のリブが設けられ,筒状部は,開口部から閉じた端面に向かって狭くなるテーパが設けられた雨水貯留浸透槽あるいは軽量盛土用部材である。筒状部の強度を向上させるため筒状部にリブを設けた。」エ 【発明の効果】欄(段落【0005】)「 部材の筒状部に張り出し状のリブを設け,端面同士で契合させるための契合具であるオスメスの継ぎ手を筒部より張り出したリブ端部に設けたため以下の効果がある。1.リブを設けたため筒状部の強度が向上する。2.契合時に継ぎ手オス部が筒状部内部の芯材とぶつからない。3.平板と一つの筒状部からなる部材にあっては入れ子状に積み重ねた時に互いに回転しない。」オ 【発明を実施するための最良の形態】欄(段落【0006】~【0008】「 図1は,筒状部の形状を示す概念図である。図に示すとおり,筒状部は中空でその外表面に4つの弧状のリブが設けられている。従い,筒状部の閉じた端面に4つの弧状のリブが張り出す。その張り出し部に必要に応じて契合部である突出したオス継ぎ手およびオス部が挿入される孔部であるメス継ぎ手を設けることができる。図1aでは,筒状部の閉じた端面の4つの弧状張り出し部に,筒状部の端面同士を突き合わせて契合させるため,契合用の孔がそれぞれ設けられている。図1bでは,その張り出し部に契合部である突出したオス継ぎ手およびオス部が挿入される孔部であるメス継ぎ手が設けられている。図1cは,図1a用の契合具であり円盤の表裏に,契合用の孔に挿入される突部が設けられている。」「 図2は筒状部に芯材を挿入した状態で筒状部同士の結合状態を示す断面透視概念図である。 図に示すように, 心材の挿入にもかかわ らずオスおよびメス継ぎ手が正常に結合されることを示している。」「 図3は,平板部に筒状部を有する部材の例を示した図である。図3aは,筒部に張り出し状のリブを有する部材の例である。本形状における張り出し部の利点は,強度向上,契合具の不具合防止の他に,以下の利点がある。本部材を入れ子状に積み重ねた場合に通常の戴円錐筒であれば互いに回転し,保管運搬の際に回転し,整理が困難となる場合が生じる。そのため,図7に示すように平板部に凸部と凹部を設け,凸部と凹部とを嵌め合わせることで回転を防止している。この回転防止用の凸部凹部の必要性がなくなる。〔以下略〕」 以上を前提として,まず,

(原告の主張)

①(文言侵害)について検討する。

ア 特許請求の範囲には「端部が閉じられた」と記載されているところ,一般に,「閉じる」との語は,「ふさぐ」,「しめる」などの意味で用いられるものである。これに加え,構成要件A2においては,筒状部が「平板部」の側では「開口し」,「端部」では「閉じられた」と記載されているのであるから,「端部が閉じられた」との文言は,「開口」の対義的な表現として用いられたものと解される。そうすると,構成要件A2の「端部が閉じられた」とは,文言解釈上,端部が塞がれており,端部に開口部がないことを意味するものと解するのが相当である。これに対し,被告各製品には,別紙被告各製品の構成に記載のとおり,いずれも構成要件A2の「端部」に相当する上端部(上面板)に,開口部(雨水流通孔)が1個又は4個設けられている。したがって,被告各製品が構成要件A2の「端部が閉じられた」の要件を充足すると認めることはできない。イ 以上に対し,原告は,  本件明細書には,端部に開口部を設けてはならないとする記載はなく,むしろ契合孔が設けられた実施例が記載されている,  「端部が閉じられた」の意義は,本件発明の実施品を,端部を突き合わせて積み重ねる場合の安定性の確保にあり,かかる目的を達成するためには端面が完全に閉じられる必要はない,  現実の雨水貯留浸透槽用の部材は端部に開口を有している,  閉面の一部に開口部が設けられている場合であっても「閉じる」や「密閉」といった表現が用いられた文献があ ると主 張し, 端部 の一部 が開口 し ている 場合も 「端部 が閉 じられた」に含まれる旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 本件発明に係る雨水貯留浸透槽等用の部材は,筒状部に張り出し状のリブを設けたものであり(構成要件C),本件明細書の発明の詳細な説明においては,筒状部それ自体とこれより張り出したリブが区別されることを前提として,筒状部それ自体(張り出していない部分)の端部ではなく,張り出したリブの端部に契合具(突出したオス継ぎ手と,孔部であるメス継ぎ手)を設けることにより,契合時に継ぎ手オス部が筒状部内部の芯材にぶつからないとの効果を奏するものとされている(段落【0005】)。原告の指摘する実施例(段落【0006】,【図1】)は,リブの端部に契合用の孔を設けたものであって,この点は,筒状部それ自体に孔を設けてよいことの根拠となるものではない。 筒状部の「端部が閉じられた」ことの技術的意義については,本件明細書に明示的な記載は見当たらないが,これが

(原告の主張)

するようなところにあるとしても,端面が完全に閉じられた場合と開口部がある場合の安定性に相違がないことなど

(原告の主張)

を認めるに足りる証拠はない。 現に存在する雨水貯留浸透槽用の部材が端部に開口部を有しているとしても(さらに,開口部のないものが存在しないのであるとしても),本件発明は筒状部の端部が閉じられていることを必須の構成要件として特許出願されたものであるから,上記のような部材の存否が特許請求の範囲の文言についての前記解釈に影響するということはできない。 原告の指摘する文献(甲11~15)の記載は,「開口部を閉じるホッパ蓋3とを備えたもちつき機において,ホッパ蓋3に蒸気孔20を設ける」(甲11),「支持部8の閉じた端面に孔を適宜の手段で穿ち」(甲12),「密閉伸縮受水給水タンクとし,この密閉伸縮受水給水タンクに,逆止弁付き低圧空気抜き弁22を設け」(甲13)などというものであり,いずれもそれ自体は閉じられた(密閉された)部材の一部に特定の用途,態様等の開口部を設けることを示したものであり,開口部を有している場合一般について「閉じられた」といえることの根拠になるものではない。ウ したがって,構成要件A2の文言侵害をいう

(原告の主張)

①を採用するこ

とはできない。 次に,

(原告の主張)

②(付加的構成)について判断する。

原告は,端部に契合孔や雨水流通孔といった構成が付加されたとしても本件発明の技術的意義は何ら異ならないから,これらは付加的構成にすぎない旨主張する。しかし,被告各製品においては,端部に雨水流通孔が設けられていることにより構成要件A2を充足しないと解すべきことは上記のとおりである。そうすると,雨水流通孔の存在は技術的範囲の属否に直接影響するものであり,これを単なる付加的構成などということができないことは明らかである。したがって,

(原告の主張)

②は失当というべきである。

 進んで,

(原告の主張)

③(均等による特許権侵害)について検討する。

ア 特許請求の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた製品と異なる部分が存する場合であっても,  上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,  上記部分を当該製品におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって, そのように置き換えることに特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が当該製品の製造時点において容易に想到することができたものであり,  当該製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考することができたものではなく,かつ,  当該製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。被告各製品は,上記  で判示したところによれば,本件発明の構成要件A2のうち「端部が閉じられた筒状部」との部分を「端部(上面板)に雨水流通孔を設けた筒体」と置き換えたものであるが,原告は均等による特許権侵害が認められる旨主張するので,以下,検討する。イ 原告は,まず,上記  の要件につき,本件発明の本質的部分は,筒状部に張り出し状のリブを設けること(構成要件C)により,芯材を用いないでも部材の上下方向の圧縮強度を向上させる点にあるから,「端部が閉じられた筒状部」との部分は本質的部分に当たらない旨主張する。そこで判断するに,前記  認定の本件明細書の記載によれば,本件発明は,「リブを設けたため筒状部の強度が向上する」,「契合時に継ぎ手オス部が筒状部内部の芯材とぶつからない」,「平板と一つの筒状部からなる部材にあっては入れ子状に積み重ねた時に互いに回転しない」との効果を有するものであり,これらの効果は,「部材の筒状部に張り出し状のリブを設け,端面同士で契合させるための契合具であるオスメスの継ぎ手を筒部より張り出したリブ端部に設けたため」奏することができるとされている(段落【0005】)。したがって,筒状部に張り出し状のリブを設けることは本件発明の本質的部分に当たるということができ,

(原告の主張)

はその限度で正当と解される。他方,筒状部の端部が閉じられていることが上記効果との関係でいかなる技術的意義を有するかについては,本件明細書に明示的な記載はないが,圧縮強度の向上という観点からみた場合,端部が開放されているとすれば,端部を突き合わせて上下に重ね合わせたときに端部の形状がゆがむなどして強度が低下することが容易に想定されるから,端部が閉じられていることは圧縮強度の向上に資するところがあると考えられる。したがって,本件発明の本質的部分が張り出し状のリブを設けることのみにあり,端部が閉じられていることがこれに当たらないと解することは困難である。なお,端部に設けた孔の大きさ,位置等によっては,端部を完全に閉じた場合と圧縮強度に格別の差異は生じないと考え得るが,本件明細書には端部に孔を設け,又は完全に閉じることによる圧縮強度の変化等についての記載が一切ないから,孔の大きさ等に応じて本質的部分に当たるかどうかを区別することは相当でない。さらに,本件発明は,筒状部の中に芯材を充填して使用すると,契合部のオス部が芯材とぶつかり不都合が生じるという従来技術の問題点(段落【0002】)を解決するため,筒状部を有する部材における芯材と契合部の不都合を解消する「とともに」芯材なしで強度を高める手段を提案するもの(段落【0003】)である。そうすると,本件発明に係る雨水貯留浸透槽等用の部材は,芯材を使用する場合及び芯材を使用しない場合のいずれであっても,高い圧縮強度を有するものとみることができる。そして,芯材の使用態様としては,本件発明の特許出願当時,筒状体の内側の形状に合わせてあらかじめ成型したコンクリート等の固形物を用いる場合と,固化する前のセメント等を流し込んで筒状体の内部に接着又は固着させる場合とがあったと認められるところ(甲37,乙8),後者の場合は,筒状部の端部に開口部があるとしたのでは,セメント等がそこから外部に漏れ出すという不都合が生じると考えられる。なお,原告は,後者のような態様で芯材が用いられることはない旨主張するが,後者は本件特許と同一の発明者が本件発明の前にした特許出願の明細書に記載されたものであって,本件明細書に記載された芯材から後者が除外されているとみることはできない。そうすると,後者のような態様で芯材を用いて圧縮強度を向上させる場合には,芯材が孔から流出しないよう,筒状部の端部が閉じられていることが必要になると解される。以上によれば,本件発明の構成中の被告各製品と相違する部分,すなわち,端部が閉じられていることが,本件発明の本質的部分ではないと認めることはできない。ウ 次に,上記  の要件についてみるに,被告各製品においては筒体の端部である上面板に雨水流通孔が設けられており,殊に被告製品2及び3においてはその面積が上面板の相当部分を占めるので(別紙被告各製品の構成の写真説明図  及び  参照),これが部材全体の圧縮強度に何らかの影響を及ぼすものと想定されるが,端部を完全に閉じた部材と被告各製品の圧縮強度の比較実験等の証拠は提出されていない。したがって,被告各製品が本件発明と同一の作用効果を奏すると認めるに足りる証拠はないというほかない。エ なお,原告は,上記  の要件に関し,雨水貯留浸透槽等用の部材に雨水流通孔を設けることは,被告各製品の製造当時,当業者が既に行っていたことであると主張し,さらに,本件特許の出願当時にも技術常識であった旨主張するが(前記第2の3  ア

(原告の主張)

 参照),そうであるとすれば,特許請求の範囲に「閉じられた端部」と記載したことは,雨水流通孔が存在する構成を本件発明の技術的範囲からあえて除外したものと解することが可能である。オ したがって,被告各製品について均等を認めるための要件が充足されているとはいえないから,

(原告の主張)

③も採用することができない。

 以上によれば,その余の構成要件の充足性について判断するまでもなく,被告各製品の製造,販売等が本件特許権の侵害に当たるとは認められないから,原告の請求は棄却されるべきものとなる。争点  (本件契約による実施許諾の有無)及び  (本件解除の有効性)についてさらに,念のため,争点  及び  についても判断する。被告が本件契約により本件特許権の実施権を有すると主張するのに対し,原告は,  本件契約の当事者は,株式会社シンシンブロックであって,原告ではないこと,  本件特許権は,本件契約による実施許諾の対象に含まれないこと,  本件契約が本件解除により終了したことを理由に,被告が実施権を有することはない旨主張するので,以下,検討する。 契約当事者についてア 本件契約の当事者は株式会社シンシンブロックであり,原告(シンシンブロック株式会社)と異なることは明らかであるが,両社は,商号が酷似する上,現在又は過去の代表者(X3),本店所在地(茨城県日立市<以下略>。以下「本件本店所在地」という。)及び目的(雨水貯留浸透施設及び簡易耐震水槽の設計・施工・監理等)を共通にしている(甲1,乙12,13)。したがって,通常の注意力を持った取引関係者であっても,両社を同一の会社と誤解する可能性が高いということができる。イ これに加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 被告と株式会社シンシンブロックは,かねてから本製品(雨水貯留浸透槽用の部材「シンシンブロック」)の取引を行っていたが,同社は被告に対し長期間にわたり多額の債務の弁済を怠っており,その額は平成21年3月末時点で約5億4000万円に達していた。また,株式会社シンシンブロックは他の取引先にも多額の債務を負っていた。被告と株式会社シンシンブロックは,同月31日,債権回収に関する合意をし,上記債務を10年間の分割により弁済することなどを約した。(乙6) 本件契約は,平成20年4月1日に株式会社シンシンブロックと被告の間で締結されたものであり,実施許諾の対象として列挙された別表1の各特許は,契約書上は,株式会社シンシンブロックが現に有するものとされている。しかし,実際には,かつては株式会社シンシンブロックが林物産から譲り受けるなどして特許権を有していた時期があったものの,いずれも本件契約の締結前に発明研究所に譲渡されていた。なお,株式会社シンシンブロックは,その後,これらの特許につき専用実施権の設定を受けているが,本件契約の締結当時は第三者に対抗し得る権利を有していなかった。(乙5,18~22) 原告,株式会社シンシンブロック,林物産及び発明研究所の設立,商号変更等の経過は,次のとおりである。(甲1,乙12~17)a 株式会社シンシンブロックは,平成8年8月8日に設立された。代表者は,平成18年6月30日までX3(ただし,退任の登記がされたのは平成22年3月18日である。),平成22年3月17日以降はX1である。b 原 告は ,平 成2 0年 10 月3 0日 に 「株式 会社 新シ ンシ ンブ ロック」との商号で設立され,平成22年3月9日に「シンシンブロック販売株式会社」に,平成24年4月2日に現商号「シンシンブロック株式会社」に,それぞれ商号を変更した。c 林物産は,昭和51年5月24日に設立され,昭和52年9月12日に本店を本件本店所在地に移転した。平成16年6月30日以降の代表者はX1である。林物産は平成23年8月1日に東京都内に本店を移転したが,平成24年4月11日,これと商号を同じくし,本件本店所在地を本店,X3を代表者とする「株式会社林物産」が設立された。d 発明研究所は,平成9年10月13日に「株式会社カンカンブロック」との商号で設立され,平成18年6月1日に商号を現在の「株式会社林物産発明研究所」に変更するとともに,本店を本件本店所在地に移転した。平成18年6月1日以降の代表者は,X2である。e 上記のX1とX2は夫婦であり,X3はその長男である。また,これらの者の親族が株式会社シンシンブロック,林物産及び発明研究所の役員に多数就任している。 株式会社シンシンブロックは,平成22年3月16日,被告宛てに内容証明郵便を発出し,株式会社シンシンブロック及び林グループが被告の理不尽な行為等により受けた損害につき3億5000万円の支払等を請求した。(乙23) 本件特許は,平成23年11月18日に発明研究所を特許権者として登録され,原告(当時の商号はシンシンブロック販売株式会社)のために平成24年2月10日受付の専用実施権の設定登録がされた。株式会社シンシンブロックは,本件特許につき第三者に対抗し得る権利を有するものでないが,発明研究所と連名で,同年4月5日,被告に対し,被告製品1~3が本件特許権による損害賠償の対象になる旨の内容証明郵便を発出した。(甲3,9の1及び2) 本件の被告を原告とし,株式会社シンシンブロック及び発明研究所を被告とする別件訴訟(当庁平成24年(ワ)第14500号本登記手続等請求事件)において株式会社シンシンブロックらが提出した準備書面には,「同社らはグループ会社であり,同グループの知的財産権に係るライセンス料等の受取窓口は株式会社シンシンブロックであった」旨の記載がある。(乙24)ウ 上記事実関係によれば,① 株式会社シンシンブロック,原告,林物産及び発明研究所は,実質的な経営者を共通にし,互いに密接な関係のあるグループ会社であること,② 上記各社は,本件特許権を含む知的財産権の対外的な行使に当たっては,特許登録上の権利の所在等にかかわらず,株式会社シンシンブロックを中心として行動していること,③ 原告は,株式会社シンシンブロックが多額の負債の弁済に窮しているという状況下で,同社の商号に「新」を付した商号で設立された後,その商号を同社と酷似する「シンシンブロック株式会社」に変更したことが明らかであり,さらに,株式会社シンシンブロックが保有していた特許権を他のグループ会社に譲渡した旨の登録をする,グループ内に同一商号の会社を設立するなど,債権者の追及を免れるために法人格を濫用していることがうかがわれる。これらの事情を総合すると,本件特許権の専用実施権者である原告が,グループ会社が有する特許権の通常実施権を許諾することを内容とする本件契約につき,契約当事者は株式会社シンシンブロックであって原告は本件契約と無関係である旨主張することは,法人格濫用の法理により許されず,原告は,本件契約において特許権者の側が負うべきものとされた義務の履行を免れないと解するのが相当である。 契約の対象となる特許権について前記前提事実  のとおり,本件契約は,株式会社シンシンブロックが被告に対し,本製品に関して現に有する特許につき通常実施権を許諾するとともに,本製品に関わる産業財産権の使用を保証するものである。本件特許は,本件契約の文言に照らすと,ア 別表1の特許として列挙されていないこと,イ 権利の 主体が 発明研究 所及び 原告で あること, ウ 契 約締結の 時点で「現に」存在するものでないことから,実施許諾の対象になるかどうかにつき疑義があるといえるが,これらの点に関しては次のとおりに解するのが相当である。ア 本件契約は,許諾の対象には「別表1に記載のものを含む」旨規定しており,これが例示にとどまることはその記載から明らかである。イ 権利の主体に関しては,上記  で説示したところに照らせば,株式会社シンシンブロックだけでなく,発明研究所及び原告が有する権利を含むと解すべきである。ウ 被告各製品は,本件契約にいう本製品(シンシンブロック)に該当するものであるので(甲6,8,9の1及び2,10参照),これが本件発明の技術的範囲に属するとすれば,本件特許権は「本製品に関わる産業財産権」に当たることになる。また,本件特許権は,登録がされたのは本件契約の締結後であるが,それより前に出願され,出願公開もされていたから(甲3,4),上記グループ各社は,本件契約の締結に当たり,これが登録されれば上記の「産業財産権」になることを当然に認識していたと解される。したがって,被告は,本件契約により,本製品の製造販売のために本件発明を実施することを保証されていたと認めることができる。したがって,本件特許権は本件契約の対象となり,被告は本件契約により本件特許権について実施許諾を受けたものと認められる。 本件解除の有効性について本件契約は,相手方の契約違反を理由として解除することができる旨定めるとともに,「本契約を解除するにあたり,甲乙相互に債権,債務を精算しなければならない。」と定めている(甲は被告,乙は株式会社シンシンブロックを指す。乙5)。そして,契約が解除された場合,契約当事者の間にはその後も原状回復その他債権債務を精算すべき関係が残るのは当然であるから,上記の条項は,解除の効力を生じさせるためには解除の前に債権債務を精算することを要すると定めたものと解するのが合理的であり,「解除するにあたり」との文言もこのような解釈に沿うとみることができる。さらに,株式会社シンシンブロックが被告に対し多額の債務を負っており,被告がこれを回収する手段の一つとして本件契約を締結したと考えられること(本件契約により被告が株式会社シンシンブロックに支払うべき実施料と,同社が被告に対して負う債務を相殺する形になる。)に照らすと,被告においては,債権債務が回収される前に本件契約が解除され,本製品の製造販売ができないことにされると,多大な不利益を被ることになる。そうすると,上記条項は,そのような事態を避けるため,債権債務を精算しなければ本件契約を解除することができないと定めたものと解するのが相当である。そして,証拠(甲31,乙6)及び弁論の全趣旨によれば,被告と株式会社シンシンブロックの間の債権債務はいまだ精算されていないと認められるから,本件解除は効力を生じないというべきである。 以上によれば,被告各製品が本件特許の技術的範囲に属するとしても,被告による被告各製品の製造,販売等が本件特許権の侵害に当たるということはできない。

第4 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二裁判官 高 橋 彩裁判官 植 田 裕 紀 久別紙被告製品目録下記の型番で特定される,被告の製造に係る雨水貯留浸透槽用の部材型番「720-2N型」の製品型番「720-2NB型」の製品型番「545型」の製品型番「AE-1型」の製品別紙被告各製品の構成被告製品1の構成被告製品1は,別紙「写真説明図  」のとおりの形状を有しており,以下の構成を有する。

①縦寸法,横寸法がそれぞれ720mmである四角形状の基板11と,この基板11

上に配置され,基板11に一体的に立ち上がり形成された4つの筒体12とからなり,各筒体12はいずれも390mmの高さ寸法に形成されている。

②筒体12の上端部及び下端部にはそれぞれ開口部が設けられている。

③筒体上端部における開口部は,上面板13に設けられた4つの円形状の雨水流通

孔14からなり,これらの雨水流通孔14は所定間隔を置いて設けられ,いずれも直径19.5mmの孔径を有している。

④筒体下端部における開口部15は,筒体下端部が基板裏面に開口する形で形成さ

れている。

⑤筒体上端部には,2つの契合突起16と,2つの契合孔17が形成されており,2

つの契合孔17はいずれも直径18.5mmの孔径を有している。

⑥筒体12は,下端部から上端部にかけて次第に筒体周面長さが小さくなるように

設けられている。

⑦筒体12の胴部は上下方向に伸びる4つの凹状筒体胴部18と4つの凸状筒体胴部

19が交互に形成されている。

⑧雨水貯留浸透槽用のブロックである。

被告製品2の構成被告製品2は,別紙「写真説明図  」のとおりの形状を有しており,4つの雨水流通孔24の孔径寸法がいずれも直径30mmであり,2つの契合孔27の孔径寸法がいずれも直径18mmである点を除いて,被告製品1と基本的に同様の構成を有する。被告製品3の構成被告製品3は,別紙「写真説明図  」のとおりの形状を有しており,基板31の縦寸法,横寸法がそれぞれ545mmである点,4つの筒体32の高さ寸法がいずれも260mmである点,4つの雨水流通孔34の孔径寸法がいずれも直径15mmであり,2つの契合孔37の孔径寸法がいずれも直径15mmである点を除いて,基本的に被告製品1と同様の構成を有する。被告製品4の構成被告製品4は,別紙「写真説明図  」のとおりの形状を有しており,基板41の縦寸法,横寸法がそれぞれ545mmである点,4つの筒体42の高さ寸法がいずれも260mmである点,雨水流通孔44が1つである点,雨水流通孔44の孔径寸法が直径15mmであり,2つの契合孔47の孔径寸法がいずれも直径1mmである点を除いて,基本的に被告製品1と同様の構成を有する。

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