平成14(ネ)180民事訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年12月18日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
侵害6回 特許権6回 損害賠償2回 実施1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(ネ)第180号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
12年(ワ)第27115号)(平成14年7月3日口頭弁論終結)
判 決
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 大 井 暁
補佐人弁理士 丹 羽 宏 之
同 野 口 忠 夫
被控訴人 株式会社ジャパンエナジー
訴訟代理人弁護士 清 永 利 亮
補佐人弁理士 藤 野 清 也
同 吉 見 京 子
同 藤 野 清 規
主 文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,7920万円及びこれに対する平成13年1
月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
控訴人は,名称を「透過光と反射光兼用画像板およびその製造方法」とする
発明(特許第1365713号)の特許権(以下,特許出願の願書に添付した明細
書の特許請求の範囲1記載の発明を「本件特許発明」といい,その特許権を「本件
特許権」という。)を有していた者であり,被控訴人は,その特約店であるガソリ
ンスタンドにおいて「JOMO」の記載のあるサインポールの電飾看板(以下「被控訴
人製品」という。)を使用させている。本件は,被控訴人製品が本件特許発明の技
術的範囲に属し,被控訴人製品の使用が本件特許権を侵害するとして,控訴人が,
被控訴人に対し,不法行為による損害賠償を求めている事案である。
原審は,被控訴人製品が本件特許発明の技術的範囲に属さず,被控訴人製品
の使用が本件特許権を侵害しないとして,控訴人の請求を棄却した。
当事者の主張は,次のとおり訂正,付加するほかは,原判決「事実及び理
由」欄の「第2 当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
原判決8頁10行目の「(乙2の1)」の次に「並びに昭和48年3月30
日付け及び同年5月8日付け各手続補正書(乙2の2,3)」を加え,同13頁2
5行目の「ただし,」の次に「昭和48年5月8日付け手続補正書(乙2の3)に
よる」を加える。
2 控訴人の当審における主張
(1) 本件特許発明の技術的範囲の解釈の誤り
ア 原判決は,本件特許発明の特許出願時において公知であった乙1~3考
案及び乙4発明を挙げて,本件特許発明の技術的範囲を極めて限定的に解釈してい
るが,明らかな誤りである。
(ア) 乙1考案について
乙1考案は,透過光で見る場合に2倍濃厚な文字又は模様を顕現する
技術であるが,反射光で見る画像を同じくらい鮮明に見せる技術ではない。また,
乙1考案の構成には,「透明または半透明プラスチツクス,フイルム」が「白色」
であることについての開示はない。さらに,乙1考案の構成では,表面の画像と裏
面の画像が,「まったく同一」ではなく,互いに左右方向から対称の画像でなけれ
ばならない。したがって,本件特許発明と乙1考案とは,構成が全く相違する。
(イ) 乙2考案について
乙2考案の二つの画像は,「紙葉或いは合成樹脂シート」を2枚重ね
ることになるので,透過性はかなり阻害される。また,「紙葉或いは合成樹脂シー
ト」について,「透明」「半透明」又は「白色」であるのかについては,何ら開示
がない。さらに,乙2考案では,「紙葉或いは合成樹脂シート」の隠蔽性により色
彩を調整する発想はない。したがって,本件特許発明と乙2考案とは,構成が全く
相違する。
(ウ) 乙3考案について
乙3考案は,「光を透過させた場合」「光を透過しない場合」のいず
れも,本件特許発明でいうところの反射光を想定した技術である。したがって,本
件特許発明における「透過光」とは,その意味合いを異にし,乙3考案と本件特許
発明とは,技術的範囲を異にするものといわざるを得ない。さらに,乙3考案で
は,「粗面化した半透明または不透明合成紙」が特に白色に限るものであることに
ついては,何ら指摘がない。加えて,乙3考案は,乙1考案と同様に,表面の印刷
図柄と,裏面の印刷図柄とは,互いに左右方向から対称の画像でなければならな
い。したがって,本件特許発明と乙3考案とは,構成が全く相違する。
(エ) 乙4発明について
乙4発明の「写真乳剤層とリジン層」は,不透明体であるといって差
し支えない。このような不透明体を何枚も重ねるのであるから,乙4発明は,透過
光による鮮明な画像を見させる技術とはいい難く,本件特許発明とはその特徴を全
く異にする。しかも,この「リジン層」を有する印画面が少なくとも2層設けられ
ており,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」の1層とは明らかに構成上
の相違がある。
(オ) 本件特許発明の特徴
本件特許発明は,「透明プラスチック板」「画像」「半透明白色プラ
スチツク板」「画像」との構成を有している点に特徴がある。これに対し,乙1考案
は,「インキ皮膜13」「透明または半透明プラスチックス,フイルム12」「イ
ンキ皮膜14」という構成,乙2考案は,「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」
「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」という構成,乙3考案は,「プラスチック
シート」「印刷図柄」「粗面化した合成紙」「印刷図柄」という構成,乙4発明
は,「合成樹脂膜」「写真乳剤層とリジン層」「合成樹脂膜」「写真乳剤層とリジ
ン層」という構成となっている。
本件特許発明における両「画像」は,いずれも同一方向を向いてお
り,本件特許発明の構成上,表面の「画像」と裏面の「画像」とは,全く同一であ
り,両画像が相違する乙1考案及び乙3考案とは異なっている。また,本件特許発
明においては,両画像は,それぞれ異なる種類の「透明プラスチツク板」「半透明
白色プラスチツク板」に順次配列されている点において,両画像が同種かつ複数の
「紙葉或いは合成樹脂シート」(乙2考案)又は「写真乳剤層とリジン層」(乙4
発明)に順次配列される乙2考案及び乙4発明とも全く異なっている。
本件特許発明では,両画像の間に配置されるのは,「半透明白色プラ
スチツク板」である。これに対し,乙1考案では,「透明または半透明プラスチツ
クス,フイルム」であり,本件特許発明の本質的特徴である「白色」ではない。乙
2考案では,「紙葉或いは合成樹脂シート」であり,「半透明」でも「白色」でも
ない。乙3考案では,「粗面化した半透明または不透明合成紙」であり,「粗面
化」した点において本件特許発明とは全く異なり,「粗面化」により不透明に近
く,「白色」でもなく,また,画像が不鮮明になる。乙4発明では,「写真乳剤層
とリジン層」であり,不透明である。以上のとおり,本件特許発明は,上記各公知
技術とは全く異なる発明である。
イ 上記のとおり,原判決の公知技術に関する判示部分は,何らの根拠を有
していないから,結局,原判決の論拠となるのは,本件特許発明の「半透明白色プ
ラスチツク板」が,「半透明で白色であるという光学的な性質を有することに加え
て,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材である」
との部分に尽きるというべきである。しかし,本件特許発明の特許請求の範囲で
は,「半透明白色プラスチツク板」の厚さについては,何も限定をしていない。そ
して,数μm単位の部材が,原判決のいう「所定の厚みを有し,それ自体単独で存
在し得る性状の部材」であることは,明白であるところ,被控訴人製品の「(半透
明)白色インキ層」の厚みは,原判決の判示するような数μm程度(通常2~3μ
m程度を指すと考えられる。)ではなく,被控訴人製品を走査型電子顕微鏡により
1000倍に拡大した断面写真(乙5の2)によって認められる約8μmである。
印刷インキは,乾燥後には,プラスチックと顔料となるのであり,これが数μm単
位であるからといって,「板」でないということはできない。検甲2は,厚さ35
0μmの「半透明白色プラスチツク板」に画像を形成させた画像板,検甲3は,厚
さ約30μmの「半透明白色プラスチツク板」に画像を形成させた画像板である
が,両者において作用効果に顕著な差異はなく,「半透明白色プラスチツク板」が
厚いか薄いかは本質的な差異ではない。ちなみに,検甲7は,厚さ約10μmのサ
ランラップに画像を形成したものであり,約10μm単位の物質でも,「それ自体
単独で存在し得る性状の部材」であって,画像を形成できることは明白である。こ
のように,「半透明白色プラスチツク板」は,μm単位でも単独で存在し,実用に
も耐えるものである。
(2) 被控訴人製品の侵害性
ア 原判決は,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」について,
「半透明で白色であるという光学的な性質を有することに加えて,少なくとも所定
の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の部材であると解するのが相当であ
る」(16頁第3段落)とし,「被告製品における『(半透明)白色インキ層6』
は,厚みがあるといっても数μm程度の印刷層であり・・・板状の部材として単独
で存在し得るものではないと考えられ,『(半透明)白色インキ層』の上に『着色
インキ層』が形成されたものが単独で存在し,着色インキ層の画像が一致したとこ
ろで透明画像板と接着固定されている,といえるものでもない。・・・被告製品の
『(半透明)白色インキ層6』は,本件特許発明の『半透明白色プラスチック板』
に該当せず,被告製品は,少なくとも本件特許発明の構成要件②,同③を充足しな
い」(16頁第4段落~17頁第1段落)とした。しかし,このような判断は,本
件特許発明を,物の発明としてではなく,方法の発明として解釈したか,あるい
は,製法限定の物の発明として,特許の対象を製法に限定して解釈した,誤った解
釈に基づくものである。このことは,原判決の「すなわち,乙1考案~乙3考案及
び乙4発明の存在にもかかわらず本件特許発明が特許されたことからすれば,本件
特許発明は,画像板を形成する層の性状(機能,材質)やその並べ方で特定された
構造のみに特徴がある発明というわけではなく,製造方法(作成手順)によっても
特徴づけられた(特定された)物の発明と理解するべきである」(19頁第4段
落)との記載からも明らかである。確かに,本件特許発明の特許請求の範囲の記載
には,「両側に画像があるようにして・・・透明画像板Aと半透明白色画像板Bを
接着固定した」とあるため,方法的な技術内容の記載と見られる不都合があるが,
この記載は「半透明白色プラスチツク板」を挟んで配置される二つの画像の方向を
同一方向に形成することの必要性を明確に示したからにほかならない。本件特許発
明の技術内容を「物」として表現するには,このような記載にしないと,二つの画
像の配列(方向)が不明確になり,技術的構成が不明確となって,従来技術(すな
わち二つの画像が左右対称の別個の画像)との相違性や特徴が表現できないという
不都合が生ずるからである。したがって,本件特許発明では,前述したように「接
着固定」などの表現により方法的な記載を用いているが,その結果として構成され
るときは「透明プラスチック板」「画像」「半透明白色プラスチツク板」及び「前
記画像と同一方向の画像」の各構成部材がすべて一体に固着した「一体化」又は
「固定」した構造物,すなわち物の発明であると理解できる。
一般に,特許請求の範囲が製造方法によって特定された物であっても,
特許の対象はあくまでも製造方法によって特定された「物」であるから,特許の対
象を当該製造方法に限定して解釈すべきではない。本件特許発明が,「製法限定」
ないし「製法によって特定された物の発明」であったとしても,本件特許発明にお
ける「透明画像板A」と「半透明白色画像板B」を「接着固定」するとの物の製造
方法は,二つの画像の配列を特徴付けているだけであって,物としての特徴をこの
点以外に限定し,特定するものではない。したがって,本件特許発明の技術的範囲
は,具体的な製造方法を問わず,その物と同一性を有する物のすべてに及ぶという
べきである。
イ 被控訴人製品の製造工程は,「透明アクリル板」の表面に画像を形成さ
せ,その表面に「(半透明)白色インキ層」を形成し,さらにその表面に前記画像
と同一の画像を互いに一致させて形成したものと認められる。しかしながら,完成
された被控訴人製品は,本件特許発明と同一の構成を備えており,各部材すなわち
「透明アクリル板」,「着色インキ層」(画像),「(半透明)白色インキ層」,
「着色インキ層」(画像)は,すべて一体に接着固定されていることは明白であ
る。しかも,「(半透明)白色インキ層」を挟んで両側に配設される両画像は,い
ずれも正像の同じ画像であることは疑う余地もない。そして,両画像に介在する
「(半透明)白色インキ層」は,固化した状態では,半透明白色プラスチック材料
と言い換えることができるものであり,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク
板」と全く同一の作用効果の反射性と透過性とを具備していることも明らかであ
る。被控訴人製品を,本件特許発明の特許請求の範囲の記載と対応して対比すれ
ば,両者は,透明プラスチック板に画像を形成させる過程,半透明白色プラスチッ
ク板(半透明白色インキ層)に画像を形成させる過程及び透明プラスチック板の画
像と半透明白色プラスチック板(半透明白色インキ層)の画像の形成方向と形成過
程が同一であり,本件特許発明では半透明白色プラスチック板に画像を形成させて
から,透明プラスチック板の画像と接着固定しているのに対し,被控訴人製品は透
明アクリル板の画像上に半透明白色インキ層を形成してから画像を形成させている
点で相違する。要するに,両者は前段の画像を形成させた透明プラスチック板の形
成過程において全く同一であるが,後段の半透明白色プラスチック板(半透明白色
インキ層)とこの板に形成される画像が順次形成か,あるいは画像形成された半透
明白色プラスチック板による接着固定かのいずれかでしかなく,しかもこの点の相
違も,完成された物としては全く同一の断面構成を有することが明らかであるの
で,結局のところ,被控訴人製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するものであ
る。
ウ したがって,被控訴人による被控訴人製品の使用は,本件特許権を侵害
するものである。
3 被控訴人の当審における主張
(1) 本件特許発明の技術的範囲の解釈の誤りについて
ア 透過光と反射光との双方で鮮明な画像を見せるという目的・効果を達成
するために,半透明白色体の両側に画像を形成させるという構成は,乙1~4によ
って既に公知であり,本件特許発明は,この構成において,乙1~3考案あるいは
乙4発明と共通するものである。控訴人は,本件特許発明の「プラスチツク板」が
「半透明白色」であることを強調し,乙1~4には,いずれも「半透明」かつ「白
色」に限定されたものは記載されていない旨主張するが,基材表面に画像を形成さ
せ反射光でその画像を見ようとするときに,基材が白色でなければ色が変化して鮮
明に見えないことは当然であるから,乙1~4のような半透明体の両側に画像を形
成させて透過光と反射光との双方で画像を見るときに,その半透明体が白色である
ことは明らかである。
イ 本件特許発明において,「半透明白色プラスチツク板」の厚さについて
は限定されていないが,その特許請求の範囲に規定されるとおり,本件特許発明で
は,「画像」を形成させた「半透明白色プラスチツク板」と「透明画像板」とを
「画像」が一致したところで「接着固定」したのであるから,「半透明白色プラス
チツク板」と「透明画像板」とがそれぞれ単独で取り扱えることが必要であり,そ
れ自体で一定の形体を保持し得るような固さを有するものであることは必然であ
る。一般的に「板」の厚さが限定されるものでないとしても,本件特許発明におけ
る「板」は,上記の性状を有するものである。
(2) 被控訴人製品の侵害性について
ア 控訴人は,原判決は,本件特許発明を,物の発明としてではなく,方法
の発明として解釈したか,あるいは,製法限定の物の発明として,特許の対象を製
法に限定して解釈したと主張するが,その判示内容から明らかなとおり,本件特許
発明を物の発明と解釈しているものであり,控訴人主張のような誤りはない。
イ 被控訴人製品は,「画像」を形成させた「半透明白色体」が「プラスチ
ツク板」であること及び「透明画像板」と「半透明白色画像板」とを両画像が一致
したところで「接着固定」したものであることという,本件特許発明の特徴的構成
を有しているものではない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断するが,その理由は,次
のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判
断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正
原判決16頁17行目の「性状の」の次に「板状の」を加え,同17頁19
行目の「両面」を「画面」に,同20行目の「箱体」を「匣体」に,同21行目の
「張り合わせて」を「重ね合わせて」に,同18頁10行目の「一方の面」を「片
方の表面」に,同19頁12行目及び13行目の「画像を形成した」を「画像を形
成させた」に,14行目の「両面」を「両側」に,23行目,24行目及び末行並
びに同20頁1行目及び6行目の「画像が形成された」を「画像を形成させた」に
それぞれ改める。
2 控訴人の当審における主張について
(1) 本件特許発明の技術的範囲の解釈の誤りについて
ア 控訴人は,本件特許発明は,その特許出願前の公知技術である乙1~3
考案及び乙4発明とは全く異なる発明であると主張する。しかしながら,これらの
公知技術に係る考案ないし発明の目的,構成及び効果は,上記引用に係る原判決1
7頁6行目~18頁末行に判示するとおりであり,これによれば,上記各公知技術
には,透過光と反射光のいずれを利用しても鮮明な画像が見えるという効果を達成
するために,半透明プラスチック板,合成樹脂シート,合成紙等の両側に画像を形
成させるという構成が開示されていることが明らかである。乙1考案及び乙3考案
の両画像が,控訴人主張のように互いに左右方向から対称の画像でなければならな
い必要がないことは,これらの考案の,両画像を重なるように配置して,透過光で
も画像が見えるという目的を考慮すれば,明らかというべきである。さらに,乙2
考案の「紙葉或いは合成樹脂シート」は,その機能において本件特許発明の「半透
明白色プラスチツク板」に対応するものと認められるから,本件特許発明の「透明
プラスチツク板」「画像」「半透明白色プラスチツク板」「画像」という構成と乙
2考案の上記構成中「画像」「紙葉或いは合成樹脂シート」「画像」の部分の配置
が同一である。そして,透過光と反射光のいずれを利用しても鮮明な画像が見える
という効果のみを達成するためには,本件特許発明の「透明プラスチツク板」は必
要ではないから,上記効果を達成する技術として,上記配置自体は,本件特許発明
の特許出願時において公知であったことが明らかである。したがって,本件特許発
明は,上記各公知技術と全く異なる発明であるとの控訴人の主張は採用することが
できず,特許出願時におけるこれらの公知技術を参酌して本件明細書の特許請求の
範囲及び実施例の記載を検討すると,本件特許発明の「画像板」は,「透明プスチ
ツク板上に画像を形成させた透明画像板」と「半透明白色プラスチツク板上に画像
を形成させた半透明白色画像板」を備え,この二つの画像板を「半透明白色プラス
チツク板の両側に画像があるようにして接着固定」して構成したものと解すべきで
ある。
イ 本件特許発明の特許請求の範囲において,「半透明白色プラスチツク
板」の厚さについて,限定をしていないことは控訴人主張のとおりである。しかし
ながら,本件特許発明の「画像板」は,「透明プスチツク板上に画像を形成させた
透明画像板」と「半透明白色プラスチツク板上に画像を形成させた半透明白色画像
板」を備え,この二つの画像板を「半透明白色プラスチツク板の両側に画像がある
ようにして接着固定」して構成したものであることは上記のとおりである。そし
て,上記の構成は,間接的に「半透明白色プラスチツク板」の性状等を規定するも
のであるから,「半透明白色プラスチツク板」は,その上に画像を形成させること
ができ,「透明画像板」と接着固定できるものでなければならないことは,その文
言上明らかである。したがって,上記性状を満たすには,少なくとも,その上に画
像を形成させることができ,接着固定できる性状,すなわち,それ自体が単独で一
定の形体を保持し得る固さを有するものであることが必要であるから,本件特許発
明の「半透明白色プラスチツク板」は,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単
独で存在し得る性状の板状の部材であると解するのが相当である。甲7及び検甲7
によれば,厚さ11μmのポリ塩化ビニリデン製ラップ(サランラップ)上に画像
を形成させることができることが認められるが,同ポリ塩化ビニリデン製ラップ
は,所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の板状の部材であると認め
られるから,上記判断を左右しない。
(2) 被控訴人製品の侵害性について
ア 控訴人は,原判決が,本件特許発明を,物の発明としてではなく,方法
の発明として解釈したか,あるいは,製法限定の物の発明として,特許の対象を製
法に限定して解釈した誤りがある旨主張する。しかしながら,原判決は,本件特許
発明を製造方法によっても特徴づけられた(特定された)物の発明としてとらえた
上(19頁第4段落),その技術的範囲を解釈していることは,判示自体に照らし
て明らかである。そして,一般に,特許請求の範囲が製造方法によって特定された
物であっても,対象とされる物が特許を受けられるものである場合には,特許の対
象を当該製造方法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく,これと製
造方法は異なるが物として同一である物も含まれると解することができるが,特許
請求の範囲の記載の文言上,当該製造方法が,当該物の性状等を間接的に規定する
ことになることは当然である。本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,本件特許
発明の「画像板」は,「透明プスチツク板上に画像を形成させた透明画像板」と
「半透明白色プラスチツク板上に画像を形成させた半透明白色画像板」を備え,こ
の二つの画像板を「半透明白色プラスチツク板の両側に画像があるようにして接着
固定」して構成したものと特定している(19頁第3段落)のであるから,その文
言上,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」が,それ自体が単独で一定の
形体を保持し得る固さを有するものであることが必要であることは,上記のとおり
である。
イ 被控訴人製品の「(半透明)白色インキ層6」が本件特許発明の「半透
明白色プラスチツク板」とその配置及び光学的な機能に関して一応の対応関係にあ
ることが当事者間に争いがないことは,上記引用に係る原判決の判示(16頁第1
段落)のとおりである。そして,本件特許発明の「半透明白色プラスチツク板」
が,少なくとも所定の厚みを有し,それ自体単独で存在し得る性状の板状の部材で
あることが必要であることは,上記のとおりであるところ,被控訴人製品の「(半
透明)白色インキ層6」が,厚みがあるといっても数μm程度の印刷層であること
は,原判決の判示(16頁第4段落)のとおりであって,上記要件を備えた部材で
あることを認めるに足りない。控訴人は,数μm単位の部材も,「所定の厚みを有
し,それ自体単独で存在し得る部材」であり,被控訴人製品の「(半透明)白色イ
ンキ層6」の厚みは約8μmであるとも主張するが,この程度の厚みの白色インキ
層は板状の部材として単独で存在し得るものとは認め難く,被控訴人製品の「(半
透明)白色インキ層6」の厚みが控訴人主張のとおりであるとしても,上記判断を
左右するものではない。
ウ したがって,被控訴人製品が,「半透明白色プラスチツク板」を備えて
いるということはできず,本件特許発明の構成要件を充足しているとは認められな
い。
3 結論
以上のとおり,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,控訴人の本
件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 岡 本 岳
裁判官 宮 坂 昌 利
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