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平成14(行ケ)359行政訴訟 意匠権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年12月12日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法3条1項3号4回
意匠法52条1回
キーワード 審決36回
実施24回
無効7回
無効審判3回
意匠権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(行ケ)第359号 審決取消請求事件
平成14年10月24日口頭弁論終結
          判       決
    原   告    株式会社カンダ
    訴訟代理人弁理士 牛木理一
    被   告    旭化成株式会社
    訴訟代理人弁理士 水野 尚,横山浩治
          主       文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が無効2002-35047号事件について平成14年6月24日にした
審決を取り消す。
第2 前提となる事実
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件登録意匠
  意匠権者     株式会社カンダ(原告)
  意匠に係る物品  「せいろう用中敷き」
  出願日      平成11年3月31日(意願平11-7976号)
  登録日      平成12年4月21日
  登録番号     第1077019号
  形態       別紙審決書写しの別紙第1「本件登録意匠」参照。
 (2) 本件手続
  無効審判請求日  平成14年2月13日(無効2002-35047号)
  審決日      平成14年6月24日
  審決の結論    「登録第1077019号の登録を無効とする。」
  審決謄本送達日  平成14年7月4日(原告に対し)
 2 審決の理由
 審決の理由は,別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおりである。
要するに,本件登録意匠と,1997年(平成9年))から2001年(平成13
年)1月にかけてサランラツプ販売株式会社が業務用として株式会社尚美堂に販売
した穴あきセパレート紙の意匠(審判甲3の1[本訴乙1の1,甲8]に係るもの
であり,審決本文では「甲号意匠」と称され,その形態は別紙審決書の別紙第2の
とおり。以下「審決甲号意匠」という。)とを対比すると,両者は類似するもので
あり,本件登録意匠は,意匠法3条1項3号の規定に違反して登録されたものであ
って,その登録は,同法48条1項1号の規定によって無効とすべきものである,
というものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 取消事由1(審理手続の法令違反)
 本件審判手続の経緯は,次のとおりであった。
 ・ 平成14年3月11日 原告に審判請求書送達(甲2)
 ・ 同年4月15日 原告が答弁書提出(甲3)
 ・ 同  月30日 原告が特許庁審判長名の「書面審理計画書」受領(甲4)
 ・ 同年5月15日 原告が第2答弁書提出(甲5)
 ・ 同年6月 5日 原告が書面審理通知書を受領(甲6)
 ・ 同年6月12日 原告が審理終結通知書を受領(甲7)
 ・ 同年7月 4日 原告に審決謄本送達
 以上のように,特許庁が当事者に十分な攻撃防御を尽くさせず,口頭審理を開く
ことなく,一方的に書面審理に入り,早期に結審したことは,異常な早さであり,
審理不尽の違法がある。口頭審理に入らなかったことにより,公然実施の事実を証
明しようとして被告が提出した審判甲3の1ないし8[本訴乙1の1~8]の実施
証明書の内容の真偽をただすための証人尋問の道が閉ざされることになったばかり
でなく,これらの実施証明書に添付されていた現品を特許庁も原告も確認すること
はなかった。審決は,実施証明書の「写し」によって事実認定をしているが,この
ような認定方法は違法である。
 2 取消事由2(証拠の信憑性の判断及び公然実施の事実認定の誤り)
 審判甲3の1[本訴乙1の1,甲8]の実施証明書は,株式会社尚美堂が被告か
ら頼まれて作成したものであることは明らかである。同証明書には,サランラツプ
販売株式会社から仕入れて広く販売したと一方的に記載されているが,仕入れや販
売の正確な日付,仕入数量,販売先,販売数量などについての記載がない上,記載
事項の裏付けとなるような具体的な公然実施の事実は全く証明されていない。この
ような事実関係が明らかにされていない証拠では信憑性がないから,同証拠を引用
して,意匠法3条1項3号の規定を適用したことは誤りである。
 審決は,実施証明書に見本が添付されていること,多数の第三者の同様の実施証
明書が提出されていることから,証拠としての信憑性を有するものと判断すること
ができる旨の理由を述べている。しかし,「広く業務用に販売していた」というの
であれば,これを裏付けるための証拠を提出して証明すべきである。また,見本が
添付されているというが,この種の実施証明書の発行を被告が第三者に依頼すると
きには,当該物品は,被告側から提供されたものと考えることが自然であり,証明
者側に存在するかどうかわからない在庫の物品を添付して実施証明書を作成したと
考えることは不自然であり,審判においてこのような文書を証拠として採用したこ
と自体誤りである。
 以上のような証拠だけをもって,公然と知られた意匠であったと認定したこと
は,事実認定に重大な誤りがある。
 3 取消事由3(意匠の類否判断の誤り)
 本件登録意匠の形態は,透孔の形状が,全部一律にきれいに裁断された真円形で
あるのに対し,実施証明書(乙1の1~8,甲8[審判甲3の1~8],審決甲号
意匠を含む。)に添付されたものの透孔の形状は,真円形とはいえないとともに,
各透孔の周囲は花弁が開いたようなひび割れ形状に形成されているものであるか
ら,前者からは美感を感ずるのに対し,後者からは醜感を感ずるという大きな相違
が認められる。両者は,類似性の認められない意匠である(原告は,類否判断につ
いては,上記の点のみを争点とする。)。
 4 取消事由4(公然性の解釈の誤り)
 「公然知られた意匠」と認定されるためには,当該意匠が一般第三者たる不特定
又は多数人にとって,字義どおりに現実に知られている状態にあることを要し,そ
の意匠と特殊な関係にある者やごく偶然的な事情を利用した者だけが知っていると
いうだけでは,未だ「公然知られた」状態にあるとすることはできない。甲8[乙
1の1]は,取引した私人間で作成されたものであり,クローズドされた関係者間
のものであるから,「公然知られた」という客観的な事実を証明しているといえる
ものではない。審決甲号意匠は,非公然性の意匠に該当するものであり,審決は,
審決甲号意匠の公然性の解釈を誤って,意匠法3条1項3号を適用したものであ
り,違法である。
第4 被告の主張の要点
 1 取消事由1(審理手続の法令違反)に対して
 書面審理の予告(書面審理計画書)の送付から書面審理通知書の発送までに40
日以上の期間が経過しており,その間何らの手続もなされていない。また,審理方
式を書面審理とすることは,審判合議体の専権事項であり,事実認定は審決で明確
に認定判断されている。原告の主張は失当である。
 2 取消事由2(証拠の信憑性の判断及び公然実施の事実認定の誤り)に対して
 乙1の1ないし8のとおり,各社が自社で扱った商品について,その事実を述べ
ており,文書の内容も明確で,実施事実を証明しているものであって,原告の主張
は失当である。
 3 取消事由3(意匠の類否判断の誤り)に対して
 原告主張の点は,正円の透孔の周縁に若干の亀裂がみられるもので,成形工具
(方法)によって生ずるだけの差異である上に,凝視して初めて認識し得る微細な
ものであるから,この点における差異は微差というほかないものであり,類否判断
の要素としては微弱である。全体としてみれば,両意匠は,共通する基本的な構成
態様(支配的態様)が差異点を圧倒しており,類似する意匠であるから,原告の主
張は失当である。
 4 取消事由4(公然性の解釈の誤り)に対して
 審決に原告主張の違法はない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(審理手続の法令違反)について
 意匠法52条が準用する特許法145条によれば,無効審判請求の審判について
は,口頭審理によるが,審判長は,当事者若しくは参加人の申立てにより,又は職
権で,書面審理とすることができるとされている。上記審判については,口頭審理
を原則としつつも,無効審判でも様々なものが想定されるため,審判長において,
事案の内容,性質などに応じ,適切かつ柔軟に審理方式を決定し得るように定めら
れているものと解される。
 そこで,検討するに,平成14年3月11日原告に審判請求書が送達され(甲
2,弁論の全趣旨),ほぼ1か月後である同年4月15日に原告が答弁書を提出し
たことが認められる(甲3)。同答弁書では,審判甲3の1ないし8[本訴乙1の
1~8,甲8]の実施証明書につき,すべて被告と取引会社による「たのまれ証
拠」であり,客観的に裏付ける確実な証拠は何もないから信憑性がないこと,ま
た,上記各証明書に添付されている現物(商品実物)のコピーが不鮮明なものもあ
るため,参考資料として提出された現物(商品実物)との同一性を確認することが
できないこと,したがって,公然知られたとする主張は失当であることが主張され
ている(甲3)。その後,同月30日に特許庁審判長名の「書面審理計画書」を原
告が受領し(甲4,弁論の全趣旨),原告は,同年5月15日に第2答弁書を提出
した(甲5)。同第2答弁書では,上記各証明書につき,逐一検討し,それぞれに
ついて,正確な日付,種類,数量,仕入・販売のルートなど全く証明しておらず,
全く信憑性がないこと,したがって,各証明書に添付された製品が本件登録意匠の
出願前に「不特定多数の者」に知られていたものと解することはできず,本件登録
意匠が「公然知られた意匠」と類似であったと認めることはできないことを主張し
ている(甲5)。そして,原告は,同年6月5日に書面審理通知書を,同月12日
に審理終結通知書を,同年7月4日に審決謄本をぞれぞれ受け取った(甲1,6,
7,弁論の全趣旨)。また,審理の過程において,原告は,審判の手続として書面
審理とすることへの異議を述べたり,上記実施証明書に関する証人尋問申請をした
事実を裏付ける証拠はない(原告は,原告代理人が審判長に電話でなぜ口頭審理に
しないのかと質問したと主張するにとどまる。)。
 以上によれば,審判体が当事者の反対を押し切って本件審理を強行したことを認
めることはできない。また,上記認定の審判手続の経緯及び当事者の申立ての状況
に加え,原告は,審判の過程で,審判甲3の1ないし8[本訴乙1の1~8,甲
8]につき,その成立を否認するのではなく,専ら信憑性(信用性)を争っている
のであり,その理由としては,被告と取引会社との関係のほか,記載内容に具体性
がなく不十分であり,コピーが不鮮明で照合しにくいなどという趣旨をいうにとど
まることに照らせば,審判体としては,原告の主張をも考慮しつつ上記各証拠の信
用性を判断することとし,口頭審理によって書証の作成者などを証人として尋問す
ることまでしなかったことに審理不尽などの違法があるとはいえない。
 なお,本件全証拠によっても,原告は,審判甲3の1ないし8[本訴乙1の1~
8,甲8]につき,原本の存在,成立を争ったものと認めるに足りないのであっ
て,審判体が実施証明書の「写し」を証拠として採用し,原本を直接に見分しなか
ったからといって,直ちに違法であるとはいえない。
 よって,取消事由1の点につき,種々の観点から検討しても,理由がないという
ほかない。
 2 取消事由2(証拠の信憑性の判断及び公然実施の事実認定の誤り)について
 乙1の1ないし8,甲8[審判甲3の1~8]の実施証明書を検討すると,8社
がそれぞれ証明しているものであるが,印刷された部分の内容,文字,レイアウト
などにおいて一致しており,いずれも被告側において,作成・印刷し,証明対象の
穴あきセパレート紙も貼付した上で,各社に提示し,各社において,日付,住所,
社名,社長等の氏名を記入し(もっとも,乙1の5には個人名の記載はない。),
押印し,さらに,貼付された穴あきセパレート紙と台紙にまたがって押印(契印)
したものと推測される。そして,証明文言は,「当社は,サランラップ販売株式会
社から仕入れた穴あきセパレート紙(添付)を○○年から○○年まで広く業務用に
販売していたことを証明する。」又は「・・(同文)・・使用していたことを証明
する。」というものであり,原告の主張するように,具体的な日付,数量などが記
載されていないことが認められ,上記各実施証明書は,定型的でいささか概括的な
内容であるといわざるを得ない。また,被告側の依頼により,各社が証明したであ
ろうことも容易に推認し得るところである。
 しかしながら,各実施証明書の内容,記載状況,体裁,形状等に照らせば,証明
した各社ないし担当者において,実施証明書にあらかじめ記載された証明文言を認
識し,添付の穴あきセパレート紙も確認した上,これを了承して,自らの社名等を
記載し,押印したものと推認されるのであり,この認定に反する証拠はない。そう
であるとすると,たとえ証明文言を被告側で作成し,穴あきセパレート紙も被告側
で添付し,各社に被告側が依頼して証明してもらったものであるとしても,直ち
に,各実施証明書の信用性(信憑性)を欠くものということはできない。
 そして,本件全証拠を検討しても,各社が内容虚偽の証明をしたことなどを疑わ
せる証拠は見当たらないのであるから,上記各実施証明書のうち,審決で取り上げ
た乙1の1・甲8[審判甲3の1]は,その記載どおり,「大阪市所在の株式会社
尚美堂は,サランラップ販売株式会社から仕入れた穴あきセパレート紙(添付)を
1997年から2001年1月まで広く業務用に販売していた。」との事実を証明
するものであるといえる。そして,甲1及び弁論の全趣旨によれば,上記証明され
た穴あきセパレート紙は,審決甲号意匠であることが明らかである。そうすると,
乙1の1・甲8[審判甲3の1]が証明した上記事実から,審決甲号意匠が,本件
登録意匠の登録出願前において,日本国内において,公然知られた意匠であったこ
とを推認し得るのであって,この推認を覆すに足りる証拠はない。よって,これと
同旨の審決の認定に誤りはない。
 上記認定を非難する取消事由2の主張は採用することができない。
 3 取消事由3(意匠の類否判断の誤り)について
 原告は,本件登録意匠の形態は,透孔の形状が,全部一律にきれいに裁断された
真円形であるのに対し,審決甲号意匠の形状は,真円形とはいえないとともに,各
透孔の周囲は花弁が開いたようなひび割れ形状に形成されているものであるから,
前者からは美感を感ずるのに対し,後者からは醜感を感ずるという大きな相違が認
められ,両者は,類似性の認められない意匠である旨主張する。
 そこで,審決書別紙第1の本件登録意匠と,同別紙第2,乙1の1,甲8の審決
甲号意匠とを比較検討すると,原告が指摘する点は「仔細に観察すれば認識できる
微細な差異であって,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものといわざるを得
ない。」として,両者を類似するものとした審決の認定は,これを是認し得るもの
であり,原告の上記主張は採用の限りではない。
 4 取消事由4(公然性の解釈の誤り)について
 上記2で認定したように,少なくとも,1997年から2001年1月までの
間,その形態が審決甲号意匠であると認められる穴あきセパレート紙(乙1の1に
添付)が大阪市所在の株式会社尚美堂を通じて広く業務用に販売されていた事実,
すなわち,不特定多数の業務用消費者に販売されていたことが認められるから,こ
れらの消費者に現実に知られている状態にあったことを推認し得るのであって,特
殊な関係にある者やごく偶然的な事情を利用した者だけが知っているにとどまるも
のではない。したがって,意匠法3条1項3号を適用した審決に原告主張の違法が
あるものとは認められない。
 5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第18民事部
      裁判長裁判官      永   井   紀   昭
           裁判官      塩   月   秀   平
           裁判官      田   中   昌   利

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