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平成13(ワ)9153民事訴訟 商標権

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成14年12月12日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法26条1項2号7回
商標法36条1項1回
商標法4条1項11号1回
キーワード 商標権51回
許諾11回
侵害7回
差止5回
無効3回
刊行物1回
無効審判1回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(ワ)第9153号 商標権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成14年6月4日
  判       決
      原      告     昭和貿易株式会社
  訴訟代理人弁護士     川    村    和    久
訴訟復代理人弁護士    内    藤  裕   史
      被      告     福友産業株式会社
訴訟代理人弁護士     對    崎 俊    一
  主       文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙標章目録1ないし3記載の標章を表示したぶどう出荷用包装資
材を製造し、販売してはならない。
2 被告は、その所有するぶどう出荷用包装資材から前項記載の標章を抹消せ
よ。
第2 事案の概要
1 本件は、後記の商標権を有する株式会社日本巨峰会から専用使用権の設定を
受け、その登録を受けた原告が、被告による別紙標章目録1ないし3記載の標章を
表示したぶどう出荷用包装資材の製造販売が専用使用権を侵害するとして、商標法
36条1項、2項、37条6号又は7号に基づいて、これらの標章を表示したぶど
う出荷用包装資材の製造販売の差止め、被告の所有するぶどう出荷用包装資材から
のこれらの標章の抹消を求め、これに対し、被告が、登録商標の「巨峰」の語は、
ぶどうの一品種を表す普通名称であるなどと主張して争った事案である。
2 基礎となる事実
(1) 当事者
原告は、貿易業、内地商事、包装資材の販売等を業とする資本金1億円の
株式会社であり、被告は、紙の加工、紙及び紙加工品の販売等を業とする資本金4
000万円の株式会社である。(当事者間に争いがない。)
(2) 商標権等
株式会社日本巨峰会は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登
録商標を「本件登録商標」という。)を有し、原告は、次の専用使用権(以下「本
件専用使用権」という。)を有している。(当事者間に争いがない。内容の詳細に
つき甲第1号証)
商標権
 登録番号 第472182号
    出願年月日 昭和29年11月6日
    出願番号     昭29-26924
    出願公告年月日 昭和30年6月27日
出願公告番号   昭30-9387
    登録年月日    昭和30年10月27日
    商品の区分    旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)
第15条に定める商品類別による第47類
    指定商品     葡萄、その種子、乾葡萄
 登録商標     別紙登録商標目録1記載のとおり
 専用使用権
範囲 期間 商標権の存続期間満了まで(平成17年10月27日まで)
   内容 全部
    登録年月日    平成9年10月6日
(3) 被告標章の使用
被告は、別紙標章目録1ないし3記載の標章(以下、別紙標章目録1記載
の標章を「被告標章1」、別紙標章目録2記載の標章を「被告標章2」、別紙標章
目録3記載の標章を「被告標章3」といい、これらをまとめて「被告標章」とい
う。)を表示したぶどう出荷用包装資材を製造販売している。(当事者間に争いが
ない。)
(4) 事実経過
ア 開発経緯
民間のぶどう研究家であったAは、静岡に理農学研究所を設立し、独自
の「栄養周期理論」に基づきぶどうの品種改良の研究を行っていたが、昭和17
年、四倍体のぶどうの品種である石原早生とセンテニアルを交配し、果粒が大きく
糖度が高い新品種(以下「本件品種」という。)を得た(当事者間に争いがな
い。)。しかし、当時は戦争中であり、ぶどうの栽培技術の開発は困難であった
(甲第10、第11号証)。
Aの「栄養周期理論」の支持者は、昭和21年ごろから、本件品種の研
究を開始し、その生理障害(花振い、単為結果、成熟不良、裂果、脱粒、ネムリ
病、枝枯れ、凍霜害など)の改良に努力した。Aは、昭和27年3月、栄養価が高
く、高品位、低コストな食品の生産などを目指す日本理農協会を設立したが、同年
9月23日、死去した。(甲第10、第11号証)
その後、Bは、昭和28年6月1日付けで、本件品種につき、「巨峰」
の名称で農産種苗法に基づく種苗名称登録の出願をしたが、昭和32年3月6日付
けで、農林省振興局長から、登録をしない旨の通知を受けた(当事者間に争いがな
い。)。同通知には、登録されなかった理由として、大粒種で果実の品質はよいが
花振いのひどいことが多く、かつ、果粒の着色不揃、脱粒し易く輸送力や店持ちが
悪い等の欠点があることが記載されていた(乙第9号証)。
イ 本件登録商標の登録等の経緯
本件登録商標は、昭和29年11月6日、出願人をB及びCとして商標
登録出願され、昭和30年10月27日、商標登録された。昭和31年2月、日本
理農協会の関係団体として、「栄養周期理論」に基づき本件品種の栽培の指導、普
及などを行う日本巨峰会が設立された(日本巨峰会は、その後有限会社となっ
た。)。B及びCは、昭和42年9月20日、本件商標権を有限会社日本巨峰会に
譲渡し、昭和43年2月7日、有限会社日本巨峰会(昭和55年5月7日、株式会
社日本巨峰会に組織変更した。以下、組織変更の前後を通じ、「日本巨峰会」とい
う。)を商標権者とする登録がされた。日本巨峰会は、日本理農協会を事実上主宰
していった。(甲第1号証、第10、第11号証、第47号証、第50号証の2、
弁論の全趣旨)
本件品種は、日本理農協会の会員などによって改良が重ねられ、その生
理障害を防ぐ栽培技術も進歩し、昭和40年ごろから、高級ぶどうとして生産量が
増え、いくつかの「巨峰」群品種(ピオーネ、オリンピア、紅富士、紅十和田な
ど)も作られた。(甲第10、第11号証、弁論の全趣旨)
原告は、前記(2)のとおり、平成9年8月6日、日本巨峰会から本件専用
使用権の設定を受け、同年10月6日、本件専用使用権の設定登録がされた。
ウ 連合商標の登録の経緯
日本巨峰会は、昭和50年10月17日、本件登録商標及び商標登録第
782084号の連合商標として、商品の区分を、平成3年政令第299号による
改正前の商標法施行令第1条別表に定める商品区分第32類とし、指定商品を、
「加工食料品その他本類に属する商品(但し葡萄、その種子、乾葡萄を除く)」と
して、「巨峰」の文字を横書きにした商標の登録を出願した。特許庁審査官は、昭
和53年7月25日付けで、拒絶理由通知を行った。その理由は、「本願商標は葡
萄の一品種名の『巨峰』の文字を書してなるため、これを指定商品中の果実、加工
果実について使用するときは、恰かも該商品が巨峰葡萄もしくは巨峰葡萄の加工食
料品であるかの如く、商品の品質について誤認を生ずるおそれのあるものと認め
る。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項16号の規
定に該当する。」というものであった。日本巨峰会は、指定商品を、「加工食料
品、その他本類に属する商品(但し、果実、加工果実を除く)」と補正した。そう
することにより、昭和55年8月28日、商標登録第782084号の連合商標と
して、登録番号を第1431104号とする商標登録がされた。(乙第10号証の
1ないし3、弁論の全趣旨)
エ 日本巨峰会と被告の関係
(ア) 被告は、昭和38年11月14日設立され、設立当初から、本件品
種のぶどうの出荷用の包装資材を製造し、これを日本理農協会の会員であるぶどう
の生産者に販売していた。被告と日本巨峰会は、昭和42年10月ごろ、被告が、
本件登録商標の使用料を日本理農協会の会員から徴収する業務を受託する旨の契約
を締結した。(被告設立の日付、契約時期は、弁論の全趣旨により認められ、その
余の事実は、当事者間に争いがない。)
(イ) 日本巨峰会は、昭和46年2月1日、株式会社服部紙店及び被告と
の間で、本件商標権の行使について、次のような約定の契約(以下「昭和46年契
約」という。)を締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、株式会社服
部紙店及び被告を指す。)。(甲第42号証)
「第1条 甲は甲が所有する登録商標第472182号(指定商品第3
2類、葡萄、その種子、乾葡萄)の使用を第三者に許諾した場合、商標法第37条
第2号に基くところの巨峰容器の製造販売の権限については、乙のみに許諾する。
第2条 乙は甲が第三者に登録商標第472182号の使用を許諾し
た場合、甲の代理人として商標使用料を徴収し、昭和46年10月10日より同年
12月30日までに甲へ納入する。
第3条 前条に基く商標権使用料は容器1kgにつき金3円とし乙が
販売する巨峰容器の代金に加算して徴収するものとする。
(中略)
第7条 本契約に定めなき事項については巨峰の登録商標権の保全普
及を通じ、本事業の発展を目的として甲、乙別途協議する。
第8条 本契約の有効期限は昭和46年12月30日までとする。」
(ウ) 日本巨峰会は、昭和52年6月24日、被告との間で、ぶどう果実
に使用する本件登録商標の使用料金の収受業務などについて、それまでの契約内容
を一部変更し、次のような約定の契約(以下「昭和52年基本契約」という。)を
締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、被告を指す。)。(甲第43
号証)
「第1条 甲は日本理農協会の会員で日本巨峰会の登録者(以下“会
員”という)の生産するブドウ果実につき、品質の向上改善を計るため、乙が販売
配布及び譲渡する容器につき、甲の所有する通常使用権を許諾した会員に限り、乙
のみが販売することを認め、乙は甲のブドウ果実“巨峰”の登録商標権の保全、普
及に協力しなければならない。
(中略)
第3条 乙は会員に販売配布及び譲渡する容器の容量1kgにつき、
商標の使用料金として金3円也を加算して徴集し、昭和52年12月30日までに
甲に直接納付するものとする。
(中略)
第8条 本契約の有効期限は昭和53年3月31日とする。但し、乙
が本契約に違反したときは甲は何時でも文書により通告して本契約を解除すること
ができる。
(中略)
第10条 本契約書は甲乙いずれからも廃棄を申し出されない限りは継
続するものとする。
第11条 甲は乙を日本巨峰会の指定業者とする。なお、別の業者を指
定する場合は乙と協議の上決定する。
           (後略)」
(エ) 日本巨峰会は、昭和52年6月24日、被告との間で、ぶどう果実
の出荷容器の販売について、次のような約定の契約(以下「昭和52年付随契約」
という。)を締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、被告を指し、
「ブドウ果実“巨峰”の出荷容器」をもって「巨峰箱」というとされている。)。
(甲第44号証)
「第1条 甲は甲の所有する商標登録(第472182号)の通常使用
権を許諾した会員(以下会員という)に対し、乙のみが巨峰箱の販売をする事を認
める。
第2条 甲は甲の会員に対し、乙の販売する巨峰箱の普及推進に努め
るものとする。
第3条 乙は、甲の会員に販売した巨峰資材に対し、推進手数料とし
て販売額の1%也を、昭和53年3月31日までに甲に直接支払うものとする。
第4条 本契約の有効期間は昭和53年3月31日までとする。
(後略)」
(オ) 昭和52年基本契約及び昭和52年付随契約は、約定の有効期間経
過後も、継続しており、日本巨峰会と被告は、昭和60年、昭和52年基本契約の
第3条所定の使用料金を1kgにつき3.5円とすることに口頭で合意した(甲第
50号証の2)。
昭和52年基本契約及び昭和52年付随契約は、昭和62年12月2
5日、日本巨峰会からの解約によって終了した。日本巨峰会は、日本理農協会の会
員向けのぶどうの包装資材の製造販売を被告以外の者(丸紅合樹製品と西武百貨
店)に行わせるために、これらの契約を解約したものであった。その後、被告と日
本巨峰会との関係は途絶していた。(当事者間に争いがない。)
(カ) 日本巨峰会は、平成4年10月25日、被告との間で再び、被告
が、日本巨峰会の会員にぶどうの包装資材を販売し、本件登録商標の使用料を同会
員から徴収する業務を受託するという内容の契約(以下「平成4年契約」とい
う。)を締結した(当事者間に争いがない。)。
(キ) 被告は、平成4年契約に基づき、日本巨峰会に対し、徴収した使用
料について、平成9年1月まで、明細を報告し、これを支払った(甲第51号証の
1ないし3、第52号証の1、2)。
(ク) 日本巨峰会は、平成9年11月4日、本件専用使用権を設定したと
して、被告との平成4年契約を終了させた。その後、被告と日本巨峰会との関係は
途絶している。(当事者間に争いがない。)
オ 本件登録商標等をめぐる訴訟
(ア) 株式会社服部紙店は、「巨峰」、「KYOHO」の文字を含む標章
を付した段ボール箱を製造販売していた飯塚段ボール株式会社を相手方として、福
岡地方裁判所飯塚支部に、商標登録第714066号(商品の区分は平成3年政令
第299号による改正前の商標法施行令第1条別表に定める商品区分第18類、指
定商品は包装用容器)、その連合商標である商標登録第775685号、同第77
5686号、同第775687号、同第775688号(これらの登録商標は、別
紙登録商標目録2記載のとおりである。)の商標権に基づき、上記段ボール箱の製
造販売等の差止めを求めて仮処分を申し立てた(同支部昭和44年(ヨ)第41号。
以下「飯塚支部事件」という。)。同支部は、昭和46年9月17日、上記段ボー
ル箱に表示された「巨峰」、「KYOHO」の標章は、内容物たる巨峰ぶどうの表
示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないという理由に
より、仮処分の申立てを却下する旨の判決を言い渡した。(甲第48号証)
(イ) 日本巨峰会は、昭和44年12月、「巨峰」の文字を付してぶどう
を出荷していた長野県経済連、中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合を被告と
して、長野地方裁判所に、本件商標権に基づき、ぶどうの生産販売等に当たっての
「巨峰」の文字の使用差止め、商標使用料相当損害金の支払を求めて訴訟を提起し
(同裁判所昭和44年(ワ)第222号。以下「長野地裁事件」という。)、昭和5
1年3月31日、中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合に対する訴えを取り下
げ(中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合は、訴え取下げに同意した。)、長
野県経済連との間で裁判上の和解が成立した。その和解条項は、次のとおりであっ
た(「原告」は、日本巨峰会を指し、「被告」は、長野県経済連を指す。)。(甲
第12号証、乙第8号証)
「1 原告と被告は、長野県における『巨峰』(この場合はぶどうの
品種の意味で用いる。以下同じ。)生産の現状にかんがみ、直接生産者の利益を考
慮して、相互の立場を尊重しながら、協力して『巨峰』産業の発展を期する。
2 原告は、被告に対しては登録番号第472182号(連合商標
登録番号第782084号)の商標権を主張せず、被告は原告に対して、右商標権
の無効を主張しない。
3 被告は、長野県下の日本巨峰会会員が団体として活動するこ
と、被告指導下の出荷機構によらないで独自に『巨峰』を出荷すること、長野県下
の『巨峰』生産者が同会に加入することの自由をそれぞれ認める。ただし、被告の
農業協同組合法による活動を妨げるものではない。
 (後略)」
(ウ) 日本巨峰会は、昭和47年、「巨峰」の文字を含む標章を付した包
装用資材を製造販売していた飯塚段ボール株式会社を被告として、東京地方裁判所
に、本件商標権に基づき、「巨峰」の文字を含む標章の使用差止め等を求めて訴訟
を提起し(同裁判所昭和47年(ワ)第1592号。以下「東京地裁昭和47年事
件」という。)、昭和50年6月12日、裁判上の和解が成立した。その和解条項
は、次のとおりであった(「原告」は、日本巨峰会を指す。)。(乙第7号証)
「1 被告飯塚段ボール株式会社(以下単に被告という)は原告の有
する昭和30年10月27日登録第472182号の商標権が有効であることを認
める。
2 原告は被告のぶどう用包装容器に関する既存の商業権益を尊重
する。
3 被告は本和解成立後、『巨峰』の名称を表示したぶどう用包装
容器を販売するに際しては、その購買者に対し、前1項記載の商標権の存在するこ
とを知らせ、且つ右購買者が将来日本巨峰会またはその加盟下部団体に加入するよ
う勧奨することに努める。
4 原告は被告に対する既存の右商標権侵害行為の責任を一切問わ
ないとともに、第3項を条件として本和解成立後当分の間『巨峰』の名称を表示し
たぶどう用包装容器を被告が製造販売することに対してなんら異議を述べない。
5 被告はその製造するぶどう用包装容器に、いかなる形式態様を
問わず『日本巨峰会』またはその加盟下部団体の名称を表示してはならない。
                 (後略)」
(エ) 被告は、昭和63年、日本巨峰会を被告として、東京地方裁判所
に、ぶどうの包装資材の売掛代金の支払を求めて訴訟を提起し(同裁判所昭和63
年(ワ)第5637号。以下「東京地裁昭和63年事件」という。)、平成元年12
月4日、裁判上の和解が成立した。その和解条項は、次のとおりであった(「原
告」は、本件の被告を指し、「被告」は、日本巨峰会を指す。)。(甲第49号
証、第50号証の1ないし3、第50号証の4の1、2、第50号証の5の1ない
し4、第50号証の6)
「1 被告は、原告に対し、資材販売代金1388万4289円の、
原告は、被告に対し、昭和62年度分の約定商標(『巨峰』商標登録第47218
2号)使用料及び昭和63年度分の和解金として合計金800万円の各債務を負担
していることを認める。
2 原告及び被告は、本日合意のうえ、前項の両債務を対当額で相
殺し、被告は、原告に対し、残額588万4289円を平成元年12月27日まで
に原告代理人弁護士D法律事務所に持参又は送金して支払う。
                 (後略)」
3 争点
(1) 被告標章は、本件登録商標に類似するか。
(2) 「巨峰」という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通
名称(商標法26条1項2号)に当たるか。
(3) 被告標章は、普通名称を「普通に用いられる方法」(商標法26条1項2
号)で表示するものか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告標章と本件登録商標の類否)について
(1) 原告の主張
本件登録商標は、漢字により縦書きに記載した「巨峰」の文字からなる。
被告標章1及び2は、漢字により横書きに記載した「巨峰」の文字からな
り、本件登録商標とは、「キョホウ」という称呼及び「非常に高い峰又は山」とい
う観念は同一であり、外観は類似する。
被告標章3は、アルファベットの大文字により横書きに記載した「KYO
HO」の文字からなり、本件登録商標とは、「キョホウ」という称呼及び「非常に
高い峰又は山」という観念は同一である。
したがって、被告標章は、いずれも、本件登録商標と類似する。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。
2 争点(2)(「巨峰」という語の普通名称化の有無)について
(1) 被告の主張
ア(ア) 書籍、統計等の記載について
「巨峰」という語は、各種統計、新聞記事、様々な書籍において、ぶ
どうの一品種を表す名称として扱われている。青果卸売市場の取引業者が用いてい
る売買仕切書にも、「巨峰」、「キョホウ」という語は、「品名」すなわち普通名
称として使用されている。これらは、「巨峰」が取引業者間でも一般消費者間でも
普通名称化していることを示している。
新聞記事によれば、系統農協(全国農業協同組合連合会、県経済連、
地区農業協同組合からなる。)の見解は、「巨峰」は、登録商標出願以前に広く知
られた品種名であり、これを出荷容器に普通に表示することは商標権侵害を構成し
ないということである。
(イ) 本件登録商標の商標管理について
原告は、「巨峰」という語が品種名、普通名称として使用されたこと
に対して抗議を申し入れた旨主張する。しかし、原告の抗議に対する回答の内容
は、本件商標権の存在を全く知らず、「巨峰」という語が品種名として普通名称で
あるという認識しかなかったことを説明するものであり、消費者の認識において、
「巨峰」という語が普通名称化している実態が示されている。また、回答の中に
は、刊行物の記載の訂正等、商標権の存在を前提とする処置を新たに行いたいとす
るものもあるが、これによって、既に普通名称化してしまっている事実を覆すこと
はできない。
(ウ) 生産者の認識について
本件品種のぶどうの生産者は29府県に及んでいるが、その中で、長
野県の出荷量は圧倒的に多く、平成11年に2万3600トンであり、全国の出荷
量の33.7パーセントを占めている。この長野県の生産者の大部分に本件品種の
ぶどうの出荷用包装容器を供給しているのは、原告のグループにも属せず被告でも
ない第三者のメーカーである。原告は、長野地裁事件の和解により、長野県経済連
に対して本件商標権を主張しないという合意をしているため、原告は、このメーカ
ーに対して本件商標権を行使せず、「巨峰」の表示を使用するに任せている。
本件品種のぶどうの1キログラム箱について、原告及び原告と契約関
係にある業者のマーケットシェアは、全国で7.5パーセント程度であると推測さ
れる。
(エ) 品種登録との関係について
本件品種のぶどうは、保護されるとすれば、種苗法に基づく品種登録
によって保護されるのが実態に即していたが、品質が安定していないなどの問題が
あったので、品種登録は実現せず、商標登録が利用された。種苗法に基づく育成者
権であれば既に存続期間が満了しているにもかかわらず、原告が本件登録商標の専
用使用権の設定を受けて権利行使に及ぶのは不当である。
(オ) 連合商標の登録の経緯について
日本巨峰会が前記第2、2(4)ウの補正を行ったのは、「巨峰」という
語がぶどうの一品種を表す普通名称であることを認めたからである。
(カ) 日本巨峰会と被告の関係について
被告が本件登録商標について使用料を支払った事実は、過去に一度も
ない。被告は、容器等を本件品種のぶどうの生産者に販売しており、その販売業務
に付随して、昭和46年契約及び昭和52年基本契約の約定に明記されているよう
に、生産者が日本巨峰会へ支払う商標使用料の受領を代理し、代理受領した商標使
用料を日本巨峰会へ渡しただけである。
被告は包装資材のメーカーであり、包装資材の販売の拡大に努めなけ
ればならないから、本件商標権を尊重する生産者には、本件商標権を尊重するよう
に対応し、「巨峰」という語を普通名称として扱う生産者には、「巨峰」という語
を普通名称として扱うように対応してきた。日本巨峰会との間で契約関係があった
ときは、契約に従って包装資材の販売の拡大に努めてきた。
(キ) 本件登録商標等をめぐる訴訟について
長野地裁事件及び東京地裁昭和47年事件の両訴訟において、「巨
峰」という語は一品種名であるとの反論が提出された。日本巨峰会が、両訴訟の裁
判上の和解において、具体的な対価なしに、相手方に本件商標権を主張しない旨の
和解を余儀なくされたのは、日本巨峰会が、「巨峰」という語が普通名称であるこ
とを認めたものである。両訴訟の裁判上の和解において、本件商標権は、形式的な
有効性が承認されたにすぎない。
東京地裁昭和63年事件の和解条項に記載された商標使用料とは、日
本巨峰会の会員が支払う商標使用料を被告が日本巨峰会に代わって徴収したもので
ある。このことは、昭和52年基本契約の約定の第3条に「乙は会員に販売配布及
び譲渡する容器の容量1kgにつき、商標の使用料金として金3円也を加算して徴
集し、昭和52年12月30日までに甲に直接納付するものとする。」と定められ
ていることから明らかである。
イ このようなことからすると、「巨峰」は、ぶどうの一品種を表す普通名
称である。
(2) 原告の主張
ア(ア) 書籍、統計等の記載について
各種統計等において、「巨峰」という語がぶどうの品種名として普通
名称のように取り扱われている事実は、本件商標権の効力とは直接には関係しな
い。日本巨峰会と原告は、後記(イ)bのとおり、本件登録商標の普通名称的使用に
対する警告などを行っている。農林水産省等国の機関の統計資料において「巨峰」
という語を単なるぶどうの品種名であるかのように表示しているものについても、
原告は、既に是正を申し入れている。
(イ) 本件登録商標の商標管理について
a 「巨峰」という語は、本件登録商標の商標登録出願時には普通名称
ではなく、本件登録商標について無効審判請求がされた形跡はない。
商品又は役務の普通名称とは、一般に、取引界においてその商品又
はサービスの一般的な名称であると認められている名称をいい、一定の名称が商標
法上の普通名称であるか否かは、単に一般消費者がこれを普通名称として意識する
おそれがあるというのみでは足りない。取引市場において、その名称が特定の商品
の一般名称として世俗一般に普通に使用されている事実が認められる場合において
のみ、普通名称であるということができる。登録商標中には、一般消費者の認識か
らすれば普通名称化したと思われるものでも、取引者間において商標として使用さ
れ、権利者の商標管理も適正に行われているため、独占的排他権として有効に存在
しているものも少なくなく、このような登録商標は、第三者が普通の態様で使用し
た場合にも、商標権の侵害を構成する。このような商標には、それが使用されてい
た商品及びその商品の製造業者又は販売業者の莫大な信用が化体されていることが
多いから、普通名称化されたという事実の認定に当たっては、こうした莫大な個人
の利益の喪失を犠牲にしてもそのような事実を認定しなければならないほど普通名
称化の事実が明白不動のものであるかどうかについて、公平の原則にも照らし、で
きるだけ慎重に判断しなければならない。
原告は、本件専用使用権の設定登録後から、本件品種のぶどうの出
荷用包装資材の製造販売について、全国各地の20社を超える包装資材製造販売業
者との間で、本件登録商標の通常使用権許諾契約を締結しており、そのような業者
の供給する包装用資材は、全国の農業協同組合等を通じて供給され、全国の生産農
家で使用されている。原告は、本件登録商標を使用許諾することにより、経済的利
益を上げている。
b 日本巨峰会及び原告は、①商標の適正使用(登録番号の表示やO記号
の付記)、②「巨峰」という語が登録商標であることの不断の広報活動、③他人の
商標出願に対する適切な異議申立て、④他の取引業者による本件登録商標の使用
や、辞書、文献その他の書籍等における本件登録商標の普通名称的使用に対する警
告など、本件登録商標の普通名称化を防ぐための商標管理を怠らなかった。
(ウ) 生産者の認識について
原告の包装資材の出荷ルートは、①日本巨峰会を通じて生産者に供給
されるもの、②系統農協を通じて生産者に供給されるもの、③各地の資材販売業者
から県経済連又は地区農業協同組合を通じて生産者に供給されるもの、④生産者に
直接供給されるものがあるが、これらの取引過程に介在するすべての当事者が、
「巨峰」という語が商標登録されている事実を知っている。本件登録商標が普通名
称であると判断を誤っているのはその一部にすぎない。
(エ) 品種登録との関係について
本件登録商標の指定商品は、「葡萄、その種子、乾葡萄」であり、種
苗(植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの)や植物体そのものではな
く、その収穫物である果実である。本件品種(品種名「石原センテ」)は、本来、
種苗法に基づく品種登録により保護されるべきであったが、品種登録が認められ
ず、やむなく商標登録出願がされ、本件登録商標が登録された。本件登録商標が存
在することから、商標権者である日本巨峰会及び専用使用権者である原告は、その
使用につき独占することができ、他の取引業者は、本件品種の果実について、その
品種名「石原センテ」を用いるか、他の商標名を用いて販売しなければならない。
(オ) 日本巨峰会と被告の関係について
被告は、日本巨峰会との契約(最後は平成4年契約)に基づき、平成
8年度分まで日本巨峰会に商標使用料を支払ってぶどう出荷用の包装資材の製造販
売を行ってきたから、「巨峰」という語が普通名称でないという認識を有したはず
である。
(カ) 本件登録商標等をめぐる訴訟について
飯塚支部事件において、相手方は、「巨峰」はぶどうの品種名である
と主張したのに対し、判決は、「『巨峰』は、元来大粒ぶどうの一品種の商品名
で」ある旨認定した。また、同判決添付の図面第三の包装用資材には、「日本巨峰
会」、「巨峰」、「商標登録第472182号」という表示がされている。
長野地裁事件及び東京地裁昭和47年事件の和解は、本件商標権の有
効性が前提となっており、これらの和解は、「巨峰」ぶどうの生産を振興する上で
訴訟の継続は好ましくないという訴訟外政策的な考慮からされたにすぎない。東京
地裁昭和63年事件の和解において、被告は、日本巨峰会に対し、「約定商標
(「巨峰」商標登録第472182号)使用料」の債務を負担していることを認め
ている。 
イ このようなことからすると、「巨峰」という語は、ぶどうの一品種を表
す普通名称とはなっていない。
「巨峰」ぶどうが全国的に浸透しているために、仮に、「巨峰」という
語が一見して品種を表す普通名称であるかのように認識される状態があったとして
も、出荷用包装資材の指定等を通じて本件商標権の現実の効力が及んでいることか
ら、「巨峰」という語は、登録商標としての効力を保持しており、普通名称化して
いない。
3 争点3(「普通に用いられる方法」に当たるか)について
(1) 原告の主張
被告標章1、2は、「巨峰」の文字が、被告標章3は、「KYOHO」の
文字が、それぞれデザイン化され、大きく表示されるなどしており、「普通に用い
られる方法」で表示されているとはいえない。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(標章の類似性)について
  本件登録商標は、別紙登録商標目録1記載のとおりであり、漢字の「巨峰」
の文字を縦書きにしてなるものである。そして、本件登録商標からは、「キョホ
ウ」の称呼を生じ、かつ、「目だって大きく高いみね(峰)」との観念も生じると
いえる(甲第29号証の2参照。なお、「巨峰」の標章から著名なぶどうの名称
(品種名か商品名かは別として)を想起することも明らかであるが、この点は争点
2に関係することでもあり、原告の主張しないところであるから、被告標章との類
似性の判断に当たり考慮しないこととする。)。これに対し、被告標章1及び2
は、それぞれ字体は異なる(被告標章1は筆太の毛筆体、同2はゴシック体)もの
の、漢字の「巨峰」の文字を横書きしてなるものであり、「キョホウ」の称呼及び
「目だって大きく高いみね」との観念を生じる。また、被告標章3は、ゴチック体
のローマ字の「KYOHO」の文字を横書きしてなるものであり、「キョホウ」の
称呼を生じる。そうすると、少なくとも、本件登録商標は、被告標章1及び2とは
外観、称呼及び観念において同一ないし類似であり、被告標章3とは称呼において
一致することが明らかであるから、被告標章1ないし3は、いずれも本件登録商標
と類似するものというべきである。
2 争点2(「巨峰」という語の普通名称化の有無)について
被告は、本件登録商標に係る「巨峰」の語が、ぶどう一品種を表す普通名称
であると主張するので、以下検討する。
(1) 書籍等の記載
「巨峰」という語について、書籍等には、次のとおり記載されていること
が認められる。
ア 書籍
(ア) 題名  まるごと楽しむブドウ百科(乙第1号証)
著者  玉村浩司
発行所 社団法人農山漁村文化協会 
発行日 平成3年(1991年)6月30日第1刷発行
記載内容
「第1章 ブドウがもっと好きになる」、「1 目と鼻と舌で楽
しむ」、「香りを楽しむ」の項の「十分に熟れていてこその香り」の項目には、
「巨峰は外観の見事な果房であるが、香りはあまり上品ではない。」(12頁)と
いう記載がある。
同じ第1章の「3 日本のブドウの生い立ち」、「日本で生まれ
た混血優良樹」の項には、「ネオ・マスカット」と並んで「巨峰」(25頁)の項
目が設けられ、「仕事と勉強で、長いことこうした品種の動きを見てきたが、巨峰
ほど波乱万丈の歩みをしたのは少ないと思う。巨峰は在野の学者(理農学研究所の
所長)A先生が、作った品種である。」(25頁)、「それに、先生は在野の、し
かも異色の学者、そのため巨峰も色眼鏡で見られてつらい思いをされたようだ。巨
峰は、果粒の大きいのが特徴である。」、「巨峰を作る場合は、それ相応に腕を磨
いておかないと、物にはならない。」(26頁)という記載がある。「図12 巨
峰ブドウの系統」(25頁)には、「石原早生」、「センテニアル」の交配により
「巨峰」が作られた旨図示されている。
「新品種を作った人々」の項には、「果物店で、『ピオーネ』と
いう品種をご覧になったことがあると思う。巨峰のような大きい果粒で、食味は巨
峰に勝るというのが一般の評価だ。それもそのはず、母は巨峰で、父は温室ブドウ
のマスカット・オブ・アレキサンドリアの四倍体の枝変わり。品種名はカノンホー
ル・マスカットという。成熟期は巨峰より少し遅い。しかも病害虫の被害は巨峰よ
りも多めというから、趣味や自家用対象の品種ではない。」(27頁)という記載
がある。
「第2章 育ち方をさぐる」の「表4 ブドウの品種別着果率」
(42頁)の「品種名」欄には、「キャンベル・アーリー」、「マスカット・ベー
リーA」、「デラウェア」など並んで、「巨峰」が記載されており、その開花数、
着果数、着果率の数値が、他の品種と共に記載されている。
(イ) 題名  くだものの科学(乙第2号証)
著者  岩松清四郎
発行所 株式会社未來社
発行日 昭和61年(1986年)11月25日第1刷発行
記載内容
「ブドウ」の章の「いろいろなブドウ」の項には、「キャンベル
アーリー」、「ネオ・マスカット」と並んで、「巨峰」(36頁)、「巨峰群品
種」(37頁)が項目として掲げられ、それぞれの説明が記載されている。「巨
峰」の項目には、「巨峰は、ヨーロッパ種のブドウの優秀さと、アメリカ種の丈夫
さとを承け継いでいる。わが国で作出された巨大果粒のブドウである。」(36
頁)、「巨峰はもっぱら生食であり、なかにはジャム、ワインとしての醸造も一部
に見られている。」(37頁)という記載がある。「巨峰群品種」の項目には、
「巨峰をもとに作出されたブドウであり、多くの品種がある。巨峰群品種で少し生
産が見られているのはピオーネである。巨峰にカンノンフォン・マスカットを交雑
したブドウである。マスカット香があり、巨峰はラブラスカ香がある。その点、巨
峰よりも品質も肉質もややよい。」、「巨峰より栽培がややむずかしいので、つく
りによって品質のバラつきがあるが、上手につくられているものは巨峰よりもやや
まさる。このほか、紅色の巨峰ともいうべき品種がある、オリンピア、紅富士、紅
十和田などがそれで、肉質、品質は巨峰にまさる。」(37頁)という記載があ
る。
「巨峰」の項には、特徴、栽培面積、開発の経緯、生産状況など
が記載されており、「早生種の小粒で赤色のジベレリン処理した甘みの強い、糖度
一八度の種なしデラウェア中生種で巨大粒の紫黒色で肉質のよい糖度一七度の巨峰
などがある。」(47頁ないし48頁)、「巨峰は第三位で、現在四、七九八ha
ある。ところで、この巨峰は誕生して今日の座を確保するまでには幾多の試練を経
てきている。巨峰が終戦の昭和二〇年に初結実してから、・・・」、「このように
生まれながらの花振るい、眠り病、凍害枯死の心配があったので、巨峰栽培の伸び
は遅々として進まなかった。」(48頁)、「巨峰は昭和一七年、静岡県のA氏
が、石原早生とセンテニアルの四倍体同士を交配してつくったものである。」(4
8頁ないし49頁)、「そこで、それ以上の巨大粒で肉質のよいブドウを、また露
地で比較的に楽につくれるブドウをということで、巨峰が誕生した。」、「このこ
ろから『巨峰』の人気が漸次高まり、・・・」、「昭和四〇年代からの消費時代を
迎えて、巨峰の品質の良さと果粒のデラックスさが消費者に受けて、人気はうなぎ
登りとなって躍進期に入り、今日の安定期を迎えた。それと並行して巨峰群品種も
生まれ、巨峰と巨峰群品種時代に入った感がある。」、「巨峰は山梨県の露地で八
月中・下旬の成熟であるが・・・」(49頁)という記載がある。「果粒の大き
さ」と題する表(48頁)には、「小粒・・・・デラウェア」、「大粒・・・・キ
ャンベルアーリー」などと並んで、「巨大粒・・・・巨峰、巨峰群品種」と記載さ
れている。
「巨峰の房づくり」の項には、良い房を栽培すための注意点等が
記載され、「巨峰や巨峰群品種は今、ブドウでは大変な人気である。」、「巨峰・
巨峰群品種の房づくりで、果粒は一五g内外で二三個つけば、一果房は三五〇gに
なる。巨峰の箱入りは、一キロ箱、二キロ箱などがある。」、「巨峰・巨峰群品種
では、果皮が鮮やかな品種による紫黒色か紅色がよい。」(50頁)、「よくでき
た巨峰や巨峰群品種の果実は、着色成熟もよく、果肉もしまり、・・・」(52
頁)という記載がある。
(ウ) 題名  果樹生産ハンドブック(甲第22号証の3)
編著者 小林章、苫名孝
発行所 株式会社養賢堂
発行日 昭和53年11月20日第3版発行
記載内容
「第5章 ブドウ」に、「(7)ナイアガラ」、「(8)その他の品
種」などと並んで「(6)巨峰」(356頁)の項が設けられ、「A氏が1937年頃
石原早生(キャンベルの枝変わりで4倍体)×センテニアル(4倍体)の交配から
育成した4倍体である。」という記載に続き、栽培地、特徴、栽培の際の注意点等
が記載されている。「第218図 巨峰」(357頁)には、樹木に結実した状態
のぶどうの房の写真が掲載されている。
(エ) 題名  果樹園芸大事典(甲第22号証の4)
著作者 果樹園芸大事典編集委員会
発行所 株式会社養賢堂
発行日 昭和47年5月25日第1版発行
記載内容
「34.6品種」に、「⑦ヒロ・ハンブルグ(Hiro Humburg)」
などと並んで「⑥巨峰(きょほう)」(857頁)の項が設けられ、「Aがセンチ
ニアル(ロザキの巨大変異)に石原早生(大玉キャンベル)を交配して作出した品
種で,各地に試作されている.」という記載に続き、特徴等が記載されている。
「34-9図 巨峰」(857頁)には、樹木に結実した状態のぶどうの房の写真
が掲載されている。
(オ) 題名  簡明食辞林(甲第25号証の2)
監修者 小原哲二郎ほか1名
発行所 株式会社樹村房
発行日 平成6年5月2日第7刷発行
記載内容
「ぶどう」の項の「〔品種〕」に、「わが国のブドウは甲州ブド
ウを除いて,明治初年に導入され,現在はデラウェア,キャンベルアーリー,巨峰
が最も多く,ネオマスカット,マスカットベリーA,甲州などがある。」(713
頁)という記載がある。
(カ) 題名   集英社 国語辞典(甲第26号証の2)
編集委員 森岡健二ほか4名
発行者  若菜正
発行所  株式会社集英社
発行日  平成5年(1993年)10月10日第1版第5刷発行
記載内容
「きょほう」の項に、「【巨峰】ブドウの品種の一つ。巨大粒で
甘みが強く、肉質がよい。」(432頁)と記載されている。
(キ) 題名   広辞苑(甲第28号証の2)
編者   新村出
発行所  株式会社岩波書店
発行日  平成3年(1991年)11月15日第4版第1刷発行
記載内容
「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの一品種。果実は大
粒、熟すと黒紫色で甘味が強く美味。樹勢が強く耐病性もあり、広く栽培。一九三
七年(昭和一二)頃、交配により作出。」(687頁)と記載されている。
(ク) 題名  旺文社 国語辞典〔第八版〕(甲第29号証の2)
編者  松村明ほか2名
発行所 株式会社旺文社
発行日 平成9年(1997年)重版発行
記載内容
「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】①目だって大きく高いみね。
②すぐれた人物。「学界の-」③ぶどうの品種の一つ。濃い紫の大粒の実で甘味が
強い。」(328頁)と記載されている。
(ケ) 題名  材料料理大事典(甲第31号証の2)
編集人 荻田守
発行所 株式会社学習研究社
発行日 昭和62年(1987年)10月20日初版発行
記載内容
「ぶどう」の「種類・特徴」の項に、「デラウエア」、「キャン
ベル・アーリー」、「ピオーネ」と並んで、「巨峰」(306頁)の項目が設けら
れ、「日本で育成された品種。」という記載に続き、特徴などが記載されている。
(コ) 題名  国語大辞典 言泉(甲第32号証の2)
編集  尚学図書
発行所 株式会社小学館
発行日 昭和63年1月20日第1版第6刷発行
記載内容
「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの四倍性品種の一。樹
勢強健で蔓がよくのびる。果房、果粒ともに大きく、濃紫色で甘く食味がよい。」
(612頁)と記載されている。
(サ) 題名  大辞泉(甲第32号証の4)
監修  松村明
編集 小学館「大辞泉」編集部
発行所 株式会社小学館
発行日 平成7年(1995年)12月1日第1版第1刷発行
記載内容
「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの一品種。実は黒紫色
で大粒。昭和一一年(一九三六)Aがアメリカ系とヨーロッパ系とを交雑して作
出。」(708頁)と記載されている。
(シ) 題名  食材図典(甲第32号証の3)
発行所 小学館
発行日 平成7年(1995年)4月20日初版第4刷発行
記載内容
「ブドウ」の項に、「マスカット・ベイリーA」、「デラウェ
ア」、「キャンベル・アーリー」と並んで、「巨峰」(260頁)の項目が設けら
れ、「大粒の代表品種。」という記載に続き、特徴、産地等が記載されている。
(ス) 題名  日本食品事典(甲第33号証の2)
監修  井上吉之
発行所 医歯薬出版株式会社
発行日 昭和53年1月10日第2版第3刷発行
記載内容
「ぶどう(葡萄)」の項の「生産と流通」、「〔種類〕」の項目
中に、「国内のおもな品種は,デラウェアー,キャンベルスアーリー,マスカッ
ト,ベリーA,甲州ぶどう,アレキサンドリア,巨峰,ブラックインがある.」
(340頁)という記載がある。
(セ) 題名   新編日本食品事典(甲第33号証の3)
著者代表 森雅央
発行所  医歯薬出版株式会社
発行日  昭和57年4月5日第1版第2刷発行
記載内容
「ぶどう(葡萄)」の項の「種類・分類」、「〔品種〕」の項目
中に、「世界のぶどうの『種』は30種以上に及ぶが,経済品種の主なものは,露
地用として,デラウェア,キャンベル・アーリー,甲州,マスカット,ベリーA,
ネオマスカット,巨峰,ピオーネ,ナイヤガラ,ガラス室用としてグロー・コール
マン,マスカット・オブ・アレキサンドリア・・・などが主なものである.」(4
56頁)という記載があり、「保存・加工」、「〔保存〕」の項目中に、「デラウ
ェア,キャンベル・アーリーの貯蔵性は低く,マスカット・オブ・アレキサンドリ
ア,巨峰などの貯蔵性は高い.」(457頁)という記載がある。
(ソ) 題名  大辞林(甲第35号証の2)
編者  松村明、三省堂編修所
発行所 株式会社三省堂
発行日 昭和63年(1988年)11月3日第1刷発行
記載内容
「きょほう」の項(650頁)に、「【巨峰】ブドウの品種の
一。日本で育成されたアメリカブドウとヨーロッパブドウの交雑種で、紫黒色逆卵
形の大粒の実を結ぶ大房の優良種。」と記載されている。
(タ) 題名  Illustrated Encyclopedia 大図典 VIEW(甲第36
号証の2)
監修  梅棹忠夫ほか
発行所 株式会社講談社
発行日 昭和60年7月1日第2刷発行
記載内容
「くだもの」の「ブドウ」の項に、ぶどうの写真について、「お
なじみのブドウ3品種 左から巨峰、デラウェア、ネオ・マスカット」(508
頁)という説明が記載されている。
(チ) 題名   朝日園芸百科23 有用植物編-Ⅲ(甲第30号証の
2)
発行所  朝日新聞社
発行日  昭和61年2月20日発行
記載内容
「アメリカブドウとの交雑品種」の項に、「デラウェア」、「キ
ャンベル・アーリー」、「ピオーネ」、「マスカット・ベーリーA」と並んで、
「巨峰」(226頁)の項目が設けられ、「静岡県で育成された、4倍体の大果の
品種。」という記載に続き、特徴等が記載されている。
(ツ) 題名  紅茶 おいしさの「コツ」(甲第24号証の2)
著者  磯淵猛
発行所 株式会社柴田書店
発行日 平成5年(1993年)12月25日第5版発行
記載内容
「メロン、巨峰、マスカットなど、一見香りが強そうなフルーツ
ですが、アイスティーの中にいれると弱くなってしまうものです。」(108頁)
という記載があり、「フルーツの使い方とかくし味に使う洋酒類」と題する表(1
09頁)の「フルーツ」の欄に、「マスカット」等と並んで「巨峰」が記載されて
いる。
(テ) 題名  日本料理の甘味・デザート(甲第24号証の3)
著者  遠藤十士夫、丸田明彦
発行所 株式会社柴田書店
発行日 平成8年(1996年)5月31日第5版発行
記載内容
141頁に記載された「晩鐘」と題する料理の副題に「(巨峰ワ
インゼリー 銀杏餅)」と記載され、その説明に「巨峰ブドウの皮をむき、種を取
り除き、長方形の型に巨峰ブドウとワインゼリー液を流し、冷やし固める。」とい
う記載があり、「使用材料」の欄に、「白ワイン」、「砂糖」などの他の材料と共
に「巨峰ブドウ」と記載されている。
(ト) 題名  決定版 生物大図鑑 園芸植物Ⅱ 双子葉植物離弁花類・
裸子植物・シダ類など(甲第27号証の2)
編集人 桜井良三
発行所 株式会社世界文化社
発行日 昭和61年7月1日
記載内容
「ブドウ(葡萄)」の「(Ⅲ)ヨーロッパブドウとアメリカブド
ウの雑種による品種」の項に、「デラウェア」、「キャンベル・アーリー」、「マ
スカット・ベーリーA」と並んで「巨峰」(72頁)の項目が設けられ、「昭和1
1年、Aが石原早生×センテニアルにより育成した4倍体。」という記載に続き、
特徴が記載されている。
イ 統計、新聞の市場欄等
(ア) 平成3年産 果樹生産出荷統計(乙第4号証)
編集  農林水産省経済局統計情報部
発行  財団法人農林統計協会
発行日 平成5年3月31日
記載内容
全国の結果樹面積の統計表(34頁)の「品目・品種」欄の「ぶ
どう」の項目に、「デラウェア」、「キャンベルアーリー」、「甲州」などと並ん
で、「巨峰」が記載されており、昭和57年産から平成3年産までの結果樹面積の
欄に、各年産の結果樹面積が記載されている。
(イ) 第四十五回 日本統計年鑑(甲34号証の2)
編集  総務庁統計局
発行  日本統計協会、毎日新聞社
発行日 平成7年12月発行
記載内容
「6-20 施設園芸の収穫量(昭和55年~平成5年)」の統
計の「果樹」、「ぶどう」の欄には、「デラウェア」と「巨峰」の項目が設けら
れ、統計数値が記載されている。
(ウ) 平成7年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)(甲第37
号証の2)
発行所 東京青果物情報センター
発行日 平成8年3月7日発行
記載内容
「利用者のために」の「7.果実・野菜の類別分類」の項には、
「年間および月別品目別取扱高順位表において『・・・類』とあるのは,下表のと
おり品種の総称である。」と記載され、下表において、「ぶどう類」については、
「包含する品種」として、「デラウエア,キャンベルスアーリー,ネオマスカッ
ト,マスカットベリーA,巨峰,アレキサンドリア,グローコールマン,甲斐路,
ピオーネ,その他のぶどう」が記載されている。
なお、平成10年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)
の統計表には、「品目 巨峰 」として、「 」の表示が付記されている(甲第3
7号証の3)。
(エ) 平成11年産 果樹生産出荷統計(乙第11号証)
編集  農林水産省大臣官房統計情報部
発行  財団法人農林統計協会
発行日 平成13年4月27日
記載内容
「(7)果樹の品種区分」(3頁)の「品目」欄の「ぶどう」に
ついては、「品種区分」欄に「デラウェア、キャンベルアーリー、ネオマスカッ
ト、マスカットベーリーA、甲州、巨峰、4)温室ぶどう、ピオーネ、その他」と
記載されている。
「(7)ぶどう」の項目の「表8 平成11年産ぶどうの結果樹
面積、収穫量及び出荷量」(14頁)の「品目・品種」欄には、「巨峰」を含む、
上記の「品種区分」欄に記載された種類が記載されている。
ぶどうの「ウ 収穫量及び出荷量」の項には、「キャンベルアー
リー、甲州及び巨峰は、おおむね天候に恵まれたことにより10a当たり収量が上
昇したことから・・・」(15頁)という記載があり、「図11 ぶどうの品種別
結果樹面積割合」(15頁)には、上記の「品種区分」欄に記載された種類ごとの
結果樹面積の割合を示す帯グラフが描かれ、「巨峰(32)」、「デラウェア(2
3)」、「キャンベルアーリー(8)」、「マスカットベーリーA(6)」などと
記載されている。
「都道府県別の結果樹面積」の「カ 巨峰」(48頁)の表に
は、各都道府県ごとの結果樹面積、収穫量、出荷量及びそれらの対前年比が記載さ
れている。
(オ) 平成12年産 園芸・工芸農作物・花き市町村別統計(福岡県)
(乙第12号証)
編集者 九州農政局福岡統計情報事務所
発行者 福岡農林統計協会
発行日 平成13年11月
記載内容
ぶどうの果樹生産出荷統計(89頁以下)においては、「計」、
「巨峰」、「マスカットベリーA」に分けて、それぞれ栽培面積、結果樹面積、1
0a当たり収量、収穫量、出荷量が、全国、九州各県、福岡県内の各市町村ごとに
記載されている。
(カ) 日本経済新聞 平成13年11月16日 卸売市場欄(乙第5号
証)
記載内容
「果実」、「大阪」の項の品名を示す欄には、「ブドウ・ピオー
ネ」と並んで「ブドウ・巨峰」と記載されている。
(キ) 西日本新聞 市況欄(乙第13号証の1ないし6)
 昭和40年8月3日、昭和50年8月1日、昭和60年8月1日、平
成元年8月17日、平成5年8月1日及び平成10年8月3日
記載内容
いずれも、「果物」、「福岡」等の項の品名を示す欄に、「キャン
ベル」や「デラウエア」と並んで「巨峰」と記載されている。
ウ 取引書類
青果卸売市場の取引業者である徳山青果株式会社作成の売買仕切書(№
17-01、売立月日平成13年9月22日)の「品名」欄には、「キョホウ」と
記載されており(乙第14号証)、同様に青果卸売市場の取引業者である北九州青
果株式会社作成の売買仕切書(原票№58163、売立平成13年9月6日)の
「品名」欄には、「巨峰」と記載されている(乙第15号証)。
エ 新聞記事
昭和63年3月10日付けの日本農業新聞には、「『巨峰』の出荷箱、
メーカーが変わる、丸紅合樹製品と西武百貨店」という見出しの記事が掲載され、
その記事の中に、「ブドウ『巨峰』の出荷箱を今年から、丸紅合樹製品と西武百貨
店の二社が・・・供給することになった。商標権を持つ日本巨峰会が丸紅と使用権
契約を結んだもので、その結果、両者が販売する箱を使わない場合は、商標法違反
となる。」と記載されていた。(甲第14号証)
昭和63年3月21日付けの日本農業新聞の「読者の相談室」には、
「『巨峰』は普通名称 系統農協の考え方」という記事が掲載されており、巨峰の
商標権について、「問い」として、「三月十日付貴紙『巨峰の出荷箱、メーカーが
変わる』の記事に『商標法違反』の言葉がありましたが、巨峰の商標権について教
えて下さい。・・・」と記載されており、「答え」として、「商標権については複
雑なものがありますが、まず『商標』は『商品の出所を示す指標』であって、物の
普通の名称ではないことははっきりしています。その認識の上に立って、商標につ
いて考えるのですが、巨峰の商標権については、いろいろの解釈があります。ひと
つには、登録商標出願時以前に普通の名称と考えられる『取引上広く知られていた
品種名』であり、商標法第二十六条第一項第二号により、普通に用いられる方法、
たとえば、出荷容器に品種名として普通に表示することは、登録商標権は及ばない
はず-とする考え方があります。系統農協は、この考え方に立っていま
す。・・・」と記載されている。(乙第6号証)
(2) 日本巨峰会、原告による書籍の記載等の訂正の申入れ
日本巨峰会ないし原告は、書籍等において「巨峰」という語がぶどうの一
品種を表す普通名称として用いられている場合に、次のとおり、「巨峰」が登録商
標である旨記載を訂正するよう申し入れた。申入れの内容は、「日本巨峰会は、昭
和32年の設立以来、商標『巨峰』について商標権を確立するなどしてきた。貴社
の書籍等に日本巨峰会の登録商標があたかも一種のぶどうの普通名称であるかのよ
うに使用されているのを見て大変遺憾に思っている。『巨峰』の商標は、昭和29
年11月6日に出願し、昭和30年10月27日に登録第472182号として登
録されている。ぶどうの新品種『石原センテ』に商標『巨峰』の名称を付して生産
を可能にするまでには多くの困難を経てきた。商標が商品の一般名称となってしま
い、企業が大きな損失を受けた例は枚挙にいとまがない。そのような事態になりか
かったのを、再び商標として確立するために関係者が多くの努力を払ったことは業
界ではよく知られている。農産物の品質の低下を防ぐためにも、商標のもつ意味は
重要になっている。貴社の書籍等の影響力は大きいものであり、『巨峰』のところ
に、登録商標である旨又は を付記するなど訂正することを求める。」
(甲第22号証の1)といったものであった。
ア(ア)a 果樹生産ハンドブック(前出(1)ア(ウ))
b 果樹園芸大事典(前出(1)ア(エ))
(イ) 申入者   日本巨峰会
申入先   株式会社養賢堂
申入日付等 昭和60年9月18日付け申入書
(甲第22号証の1)
イ(ア) テレビ番組「巨峰で村おこし(山梨県牧丘町)」(甲第23号証の
1)
放送者  日本放送協会(NHK)
放送時期 平成9年
内容   「巨峰」という語を、品種を表す普通名称のように用い
た。
(イ) 申入者   日本巨峰会
申入先   NHK視聴者コーナー
申入日付等 平成10年3月13日付け書面
(甲第23号証の1)
ウ(ア) 簡明食辞林(前出(1)ア(オ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社樹村房
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第25号証の1)
エ(ア) 集英社 国語辞典(前出(1)ア(カ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社集英社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第26号証の1)
オ(ア) 広辞苑(前出(1)ア(キ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社岩波書店
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第28号証の1)
カ(ア) 旺文社 国語辞典〔第八版〕(前出(1)ア(ク))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社旺文社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第29号証の1)
キ(ア) 材料料理大事典(前出(1)ア(ケ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社学習研究社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第31号証の1)
ク(ア)a 国語大辞典 言泉(前出(1)ア(コ))
b 大辞泉(同(サ))
c 食材図典(同(シ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社小学館
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第32号証の1)
ケ(ア)a 日本食品事典(前出(1)ア(ス))
b 新編日本食品事典(同(セ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   医歯薬出版株式会社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第33号証の1)
コ(ア) 大辞林(前出(1)ア(ソ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社三省堂
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第35号証の1)
サ(ア) 大図典VIEW(前出(1)ア(タ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社講談社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第36号証の1)
シ(ア) 朝日園芸百科23 有用植物編-Ⅲ(前出(1)ア(チ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社朝日新聞社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第30号証の1)
ス(ア)a 紅茶 おいしさの「コツ」(前出(1)ア(ツ))
b 日本料理の甘味・デザート(同(テ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社柴田書店
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第24号証の1)
セ(ア) 決定版 生物大図鑑 園芸植物Ⅱ 双子葉植物離弁花類・裸子植
物・シダ類など(前出(1)ア(ト))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   株式会社世界文化社
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第27号証の1)
ソ(ア) 第四十五回 日本統計年鑑(前出(1)イ(イ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   日本統計協会
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第34号証の1)
タ(ア) 平成7年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)(前出(1)イ
(ウ))
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   東京青果物情報センター
申入日付等 平成10年6月18日付け申入書
(甲第37号証の1)
チ(ア) 農林水産省経済局統計情報部発行の統計
(イ) 申入者   日本巨峰会、原告
申入先   農林水産省経済局統計情報部管理課法令係
申入日付等 平成11年
申入内容
前記情報部発行の各種統計(例えば平成9年野菜・果樹品目別統
計、平成10年産ぶどう等の収穫量及び出荷量)の登録商標である「巨峰」が、
「デラウェア」、「マスカット」、「キャンベル」等と同様にあたかもぶどうの一
品種として記述されていることは、遺憾であり、品種名としての「巨峰」の表示を
中止し、「巨峰」の表示に登録商標である旨又は を付記するか、「石原センテ」
に変更するか、記載の訂正を行うよう求める旨の申入れをした。
(甲第38号証)
これらの申入れに対し、多くの出版社は、改訂版等において「巨峰」が登
録商標である旨を記載するようにするなどとの回答をしたが(ア、イ、ウ、エ、
オ、カ、キ、ク、ケ、コ、サ。甲第22、23号証の各2、第25、26、28、
29、31号証の各3、第32号証の5、第33号証の4、第35、36号証の各
3)、申入れに対し回答のないところもあった(ス、セ、ソ、タ、チ)。また、回
答の中には、シ(株式会社朝日新聞社発行「朝日園芸百科23 有用植物編-
Ⅲ」)の株式会社朝日新聞社のように、「各種事典等にもみられるとおり、『巨
峰』はぶどうの品種名として広く用いられている。また、『巨峰』についての『朝
日園芸百科』の記述は、ぶどうの品種の性質を紹介したもので、ぶどうの商品名に
ついて記述したものではない。したがって、『朝日園芸百科』に『巨峰』が商標登
録されたものであることを付記するなどの訂正をする必要はないものと考える。」
としたものもあった(甲第30号証の3)。さらに、サ(株式会社講談社発行「大
図典VIEW」)の株式会社講談社の回答書には、「指摘を受け、当該『大図典V
IEW』編纂部署はもとより、当部署より辞典局に申入れの趣旨を伝えた。なお、
当該部署担当者より農水省へ問い合わせたところ、『巨峰』については、ぶどうの
一品種でもあるとの回答を得たとのことである。しかしながら今回の指摘と合わ
せ、慎重に検討し、重版・改訂版発行の折から直すべきは早急に直していきたいと
いうのが当該編集部の意向である。」と記載されていた(甲第36号証の3)。
(3) 日本巨峰会による類似商標に対する登録異議申立て
日本巨峰会は、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令第1
条別表に定める商品区分第32類の「果実」を指定商品とし、「筑後路巨峰」の文
字を縦書きにした商標の商標登録出願(昭和48年商標登録願第94751号)に
対し、本件登録商標を引用して登録異議の申立てを行った。特許庁審査官は、昭和
55年4月22日付けで、出願に係る商標は、引用登録商標(本件登録商標)と称
呼、観念において類似の商標であり、その指定商品も同一若しくは類似するもので
あるから、出願に係る商標は商標法4条1項11号に該当するという理由で、登録
異議申立ては理由あるものと決定した。(甲第13号証)
(4) 日本巨峰会又は原告による警告等
ア 平成9年4月25日に開かれたJAみなみ筑後大牟田ぶどう部会の第2
0回通常総会において、部会員の一人が、同部会で「巨峰」と品種の異なるぶどう
が「巨峰」として出荷されていることを問題とした。(甲第15号証)
平成10年4月24日ごろ、JAみなみ筑後大牟田ぶどう部会が巨峰と
称して出荷する約180トン(年間)のうち約5トン(年間)が他品種のぶどうで
あることが判明し、本件商標権を有する日本巨峰会と本件専用使用権を有する原告
が改善通知を出した。(甲第16号証)
イ 日本巨峰会は、平成9年12月ごろ、山形、福島、茨城、栃木、群馬、
埼玉、千葉、山梨、長野、新潟、愛知、三重、島根、福岡、佐賀、長崎、熊本の各
県経済連に対し、「巨峰出荷販売容器の商標権について」と題し、「○さて日本巨
峰会本部はご承知の通り、ここ数年来財政が甚だ悪化し、その運営さえ困難な状況
にあります。その原因は巨峰出荷資材会社福友産業と生産地の一部との結託によ
り、商標権使用料が激減してきたところにあります。○そこで本会は今日意を決し
て、福友産業(株)を『巨峰』出荷販売容器に関する契約からはずし、昭和貿易株
式会社に全面的切換えを断行しないわけにいかなくなりました。したがってこれ以
外の業者による巨峰容器は商標法違反となります。○とくに昭和貿易株式会社との
契約は今回専用使用権となり、外の『巨峰』容器使用は法的に厳しい処罰を科せら
れます。」、「巨峰商標に関しては使用者も違法となります。従来に増し日本巨峰
会と共に技術面において、また出荷面において特別のご協力あるよう会員各位に説
得のほど切望いたします。」などと記載した文書を送付した。(甲第17号証)
ウ 原告の国内事業部巨峰資材特販チームは、原告が本件登録商標につき専
用使用権の登録を受けたこと、登録商標を使用する権利のない者が登録商標又はこ
れと紛らわしい表示を付する行為が禁止されていること、本件登録商標を使用した
原告の製品を採用するよう求めることなどを記載した書面を、次のとおり送付し
た。
(ア) 発送日 平成11年8月3日ごろ
送付先 福岡八女農業協同組合(福岡県)
(甲第39号証)
(イ) 発送日 平成11年8月4日ごろ
送付先 岩舟町農業協同組合(栃木県)
(甲第40号証)
(ウ) 発送日 平成11年8月5日ごろ
送付先 南波多農業協同組合(佐賀県)
(甲第41号証)
(5) 日本巨峰会及び原告による広告等
ア 原告は、平成10年5月30日付けの日本農業新聞に、原告の販売する
包装資材や製函機の写真を掲載すると共に、「『巨峰』は商標です」、「登録商標
第47類第472182号」と大きな文字で記載し、「登録商標『巨峰』に値する
立派な葡萄を栽培し、そして登録商標『巨峰』を正しく活用して格差のある葡萄を
市場に送り出しましょう。」、「包装の昭和貿易が『巨峰』 印の葡萄を包装する
ための資材の取扱いを開始致しました。」などと記載した広告を掲載した。(甲第
18号証)
イ 日本巨峰会及び原告は、平成11年9月、本件品種のぶどうの房の写真
を大きく掲載し、大きな文字で「いよいよ『巨峰 』のシーズン到来!!」と記載
し、それより小さな文字で「栄養週期栽培で作られたビタミンとミネラルが豊富な
高品質のぶどう『巨峰 』をお召し上がり下さい。」、「【商標『巨峰 』のつい
た本物の“おいしいぶどう”をご賞味下さい。】」と記載し、左下隅に更に小さな
文字で「商標権者 株式会社日本巨峰会、専用使用権者 昭和貿易株式会社、※
『巨峰 』は日本巨峰会所有の登録商標第472182号です。」と記載した広告
を、電車内のつり広告やスーパーマーケットに掲示した。(甲第19号証の1、
2)
ウ 日本巨峰会及び原告は、平成11年ごろ、「大粒ぶどう『巨峰』は、一
般呼称でなく【登録商標】です。」、「無断でブドウの出荷資材に『巨峰』という
印刷した物を使用すれば違反になります。従って『巨峰』というブランドを使用さ
れたい方は、専用使用権者である『昭和貿易株式会社』の許諾又は認許を受けたメ
ーカーで生産された資材を使用される事になります。又、『栄養周期農法』で『品
種名(石原センテ)商標巨峰』を栽培されたい方は、『株式会社日本巨峰会』の指
導を受けて下さい。」などと記載したちらしを配布した。(甲第20号証)
(6) 原告の商標使用契約
 原告は、平成10年6月から平成14年5月までの間に、ぶどうの包装資
材を製造ないし販売する各地の業者合計21社との間で、本件登録商標につき通常
使用権を許諾する旨の契約を締結した(甲第21号証の1ないし20、第53号
証)。
 (7) 普通名称化の有無
前記の基礎となる事実(前記第2、2(1)ないし(4))と上記(1)ないし(6)
の認定事実に基づき、「巨峰」という語が、ぶどうの一品種である本件品種のぶど
うを表す普通名称(商標法26条1項2号)に当たるかについて検討する。
ア(ア) 前記(1)ア(ア)ないし(ト)、イ(ア)ないし(キ)のとおり、多くの書
籍、統計、新聞の市場欄等において、「巨峰」という語が、ぶどうの一品種を表す
名称として用いられている。これらの書籍類の中には、ぶどうや果樹、くだものに
関する解説書、食品関係の書籍のほか、一般に広く使われている国語辞典、事典、
図鑑類等も多く含まれている。これに対し、「巨峰」が登録商標であることを記載
した書籍等としては、日本巨峰会発行の「巨峰ブドウの開発,研究の歴史的事実」
(甲第10号証。なお、同書の発行年月日は明らかでないが、同書10ないし12
頁の「巨峰ブドウ(石原センテ)の歴史-年表」の欄の記載は昭和44年までの記
述にとどまっている。)と日本巨峰会の代表者であるCの著作に係る「巨峰ブドウ
栽培の新技術」(発行所・株式会社博友社、昭和48年1月25日第3刷発行。甲
第11号証)の存在が認められ、前記(1)イ(ウ)の平成10年東京都中央卸売市場青
果物流通年報(果実編)の統計表の「品目 巨峰」に「 」の表示が付記されてい
るのが認められるのみである。また、前記(1)ウのとおり、青果卸売市場の取引業者
が用いる売買仕切書においても、「巨峰」、「キョホウ」の表示が、ぶどうの一品
種を表す名称として用いられている。
これらの事実からすると、「巨峰」の語は、長年の間、ぶどうの一品
種を表す名称として、一般消費者のほか、ぶどうの取引関係者も含む国民の間で広
く認識され、使用されてきたものということができる。
(イ) 原告は、本件品種を表す普通名称は「石原センテ」である旨主張す
る(前記第3、2(2)ア(エ))。
本件品種が「石原早生」と「センテニアル」の交配により作出されたこ
とは、前掲「巨峰ブドウの開発,研究の歴史的事実」(甲第10号証)及び「巨峰
ブドウ栽培の新技術」(甲第11号証)のほか、「まるごと楽しむブドウ百科」
(乙第1号証、前記(1)ア(ア))、「くだものの科学」(乙第2号証、前記(1)ア
(イ))、「果樹生産ハンドブック」(甲第22号証の3、前記(1)ア(ウ))、「果樹
園芸大事典」(甲第22号証の4、前記(1)ア(エ))、「決定版 生物大図鑑 園芸
植物Ⅱ 双子葉植物離弁花類・裸子植物・シダ類など」(甲第27号証の2、前
記(1)ア(ト))といった書籍に記載されている。しかし、本件品種を表す語として
「石原センテ」という名称が見られるのは、日本巨峰会の作成した「巨峰ブドウの
開発,研究の歴史的事実」(甲第10号証)、日本巨峰会及び原告が平成11年ご
ろ作成したちらし(甲第20号証、前記(5)ウ)、日本巨峰会及び原告が出版社等に
対して行った申入れ(前記(2))中の記載と、「新編日本食品事典」(甲第33号証
の2)の「果実類」の執筆担当者が、日本巨峰会及び原告の申入れ(前記(2)ケ)を
受け、「新編日本食品事典」の第2版に品種名として「石原センテ」と記載する旨
述べている(甲第33号証の4)ところがあるだけである。日本巨峰会の代表者で
あるCの著作に係る「巨峰ブドウ栽培の新技術」(甲第11号証)においてさえ、
「巨峰ブドウの果実は、商標登録第472182号を受けている。」(30頁)と
いう記載がある一方、「石原センテ」という名称は記載されておらず、本件品種を
表すために「巨峰ブドウ」という名称を用いている。
以上の事実によれば、「石原センテ」という名称は、日本巨峰会又はそ
の関係者によって使用されることがあるにすぎず、一般には知られておらず、本件
品種を表す名称としては、一般には、「巨峰」という名称が専ら用いられてきたも
のと認められる。
(ウ) 前記(1)エの昭和63年3月21日付けの日本農業新聞に記載されて
いるように、当時の系統農協は、「巨峰」という名称を普通に用いられる方法、例
えば出荷容器に品種名として普通に表示することについては、本件商標権の効力は
及ばないという考え方に立っていたものと解される。
イ(ア) 日本巨峰会、原告は、「巨峰」という語をぶどうの一品種を表す普
通名称として用いている書籍等について、前記(2)アないしチのとおり訂正等を申し
入れた。このうち、1件(アの株式会社養賢堂に対するもの)は昭和60年にされ
ているが、他はいずれも平成10年、11年に行われている。これらの申入れは、
普通名称化を防ぐための行為であると認められ、これに対しては、前記(2)のとお
り、訂正する旨の回答もあったが、回答がないものもあるし、訂正の意思のない旨
の回答もあった。また、前記(1)ア(ア)、(イ)、イ(カ)、(キ)のように、未だ訂正等
の申入れがされていない書籍、統計等も存在する。
(イ) 日本巨峰会は、前記(3)のとおり、本件登録商標の類似商標の商標登
録出願に対して異議申立てを行った。これは、日本巨峰会が類似商標の登録を防ご
うとしていたことをうかがわせるが、この異議申立てが、直ちに、普通名称化を防
ぐ措置であったとは認められない。
(ウ) 日本巨峰会、原告は、平成9年以降、前記(4)アないしウのとおり警
告等を行った。しかし、前記(4)アは、本件品種とは別の品種について「巨峰」とい
う名称が使用されたことを問題としたものであり、「巨峰」という語が本件品種の
ぶどうを表す普通名称となるのを防止することと直接の関係があるとはいえない。
前記(4)イにより送付された文書について、その内容が、各県経済連の下部組織に周
知されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、前記(4)ウの警告等も、3農業協
同組合に行われたにとどまる。
(エ) 日本巨峰会、原告は、前記(5)アないしウのとおり、広告等を行っ
た。しかし、これらの広告はいずれも平成10年以降にされたものであるのみなら
ず、前記(5)アの広告(甲第18号証)の掲載された新聞の発行部数や購読者の構
成、前記(5)イ、ウの広告(甲第19号証の1、2、第20号証)の配布部数等は明
らかではない。また、前記(5)イの広告(甲第19号証の1)は、その広告自体の態
様及び実際の掲載状況(甲第19号証の2)に照らして、本件品種のぶどうの旬が
到来したことを告げることに主眼があるものと認められ、これによって、「巨峰」
が登録商標であることが見る者に強く印象付けられるとはいえない。
(オ) 原告は、前記(6)のとおり、平成10年以降、ぶどうの包装資材を製
造ないし販売する21の業者との間で、本件登録商標につき通常使用権を許諾する
旨の契約を締結した。これらの契約は、原告が本件登録商標の専用使用権を有する
こと、したがって、本件登録商標が有効に存在することを前提としているものとい
える。しかし、弁論の趣旨(被告が、「本件品種のぶどうの1キログラム箱につい
て、原告及び原告と契約関係にある業者のマーケットシェアは、全国で7.5パー
セント程度であると推測される。」(前記第3、2(1)ア(ウ))と主張しているのに
対し、原告が、積極的な反論をしていないことなど)によれば、原告及び原告と契
約関係にある業者が供給している本件品種のぶどうの包装資材のマーケットシェア
は、それ程大きくはないものと推認される。そのことからすると、原告が上記の通
常使用権許諾契約を締結していたとしても、それによって、ぶどうの包装資材の製
造業者又は販売業者の間で、本件登録商標が有効であること、ひいては、「巨峰」
という語が商標であることが一般的な認識となっていたとは認められないし、ぶど
う生産者の認識においても、同様と解される。
(カ) 本件登録商標は昭和30年10月27日に登録され、昭和40年ご
ろから、高級ぶどうとして本件品種の生産量が増え、いくつかの「巨峰」群品種も
作られてきた(前記第2、2(4)イ)ことから、本件品種のぶどうは、昭和40年代
から、一般消費者、ぶどう生産者、青果卸売業者など需要者の間で流通していたも
のと認められる。そして、前記ア(イ)のとおり、本件品種を表す名称としては「巨
峰」という語しか知られていなかったことからすると、「巨峰」という語は、昭和
40年代以降、長期間にわたって、本件品種のぶどうを表す名称として、需要者の
間で広く使用されてきたものと認められる。
他方、日本巨峰会又は原告が「巨峰」という語が普通名称として使用
されるのを防ぐために採った措置としては、昭和44年に長野地裁事件(前記第
2、2(4)オ(イ))、昭和47年に東京地裁昭和47年事件(前記第2、2(4)オ
(ウ))の訴えを提起したこと、前記(2)ア(イ)の申入れを昭和60年に、同イ(イ)の
申入れを平成10年3月に、同ウないしタの各(イ)の申入れを平成10年6月に、
同チの申入れを平成11年に行ったこと、前記(4)イの文書送付を平成9年12月ご
ろ、同ウの文書送付を平成11年8月に行ったこと、前記(5)アの広告を平成10年
5月、同イの広告を平成11年9月、同ウの広告を平成11年ごろ行ったこと、前
記(6)の契約の締結を平成10年ないし平成14年に行ったことが認められる。しか
るに、これらの措置には、前記(ア)、(ウ)、(エ)、(オ)のような問題がある上、こ
のような普通名称化を防ぐための措置は、平成10年ごろからは比較的頻繁に採ら
れるようになったが、昭和40年から平成10年ごろまでの約30年の間において
は、ほとんど採られていなかったといわざるを得ない。
そうすると、平成10年ごろから普通名称化を防ぐための措置が頻繁
に採られるようになり、前記(2)のとおり、日本巨峰会又は原告の申入れに応じて、
一部の書籍等について「巨峰」が商標である旨が記載されるに至ったとしても、そ
れによって、約30年に及ぶ長期間にわたってぶどうの一品種を表す名称として広
く用いられてきた「巨峰」という語について、現時点で、需要者に、商標としての
認識をもたらすことができたとは認められない。
ウ(ア) 被告は、日本巨峰会と、昭和46年契約(前記第2、2(4)エ
(イ))、昭和52年基本契約(前記第2、2(4)エ(ウ))、昭和52年付随契約(前
記第2、2(4)エ(エ))、平成4年契約(前記第2、2(4)エ(カ))を締結し、前記
第2、2(4)エ(キ)のように、徴収した使用料を日本巨峰会に支払っていた。このよ
うな契約関係は、本件登録商標が有効であり、その使用について使用料を支払うべ
きことを前提としているものといえる。しかし、昭和46年契約(前記第2、2(4)
エ(イ))の第2条、昭和52年基本契約(前記第2、2(4)エ(ウ))の第3条に記載
されているように、これらの契約は、被告が、日本巨峰会に代わって、包装資材の
購買者であるぶどう生産者から本件登録商標の使用料を徴収し、それを日本巨峰会
に支払うことを前提とするものであり、被告自身が日本巨峰会に使用料を支払うこ
とを内容とするものではなかった。また、前記第2、2(4)エ(ク)のとおり、平成9
年11月4日より後は、被告と日本巨峰会の間に契約関係はない。このようなこと
からすると、過去において、上記のような契約関係にあったとしても、その故に被
告が商標法26条1項2号により本件登録商標の効力が及ばない旨主張することが
信義則に反するとはいえない。
東京地裁昭和63年事件(前記第2、2(4)オ(エ))の和解条項一に
は、「使用料」と記載されているが、これは、昭和52年基本契約(前記第2、
2(4)エ(ウ))に基づいて被告が日本巨峰会に代わって包装資材の購買者であるぶど
う生産者から徴収する本件登録商標の使用料を指すものであり(甲第50号証の
2)、前記第2、2(4)エ(ク)のとおり、被告と日本巨峰会との間には、平成9年1
1月4日より後は契約関係がないから、同和解条項一に「使用料」という文言があ
るとしても、その故に被告が商標法26条1項2号により本件登録商標の効力が及
ばない旨主張することが信義則に反するとはいえない。
(イ) 飯塚支部事件(第2、2(4)オ(ア))の判決には、「『巨峰』は、元
来大粒ぶどうの一品種の商品名で、戦後日本で栽培されるようになり、おそくとも
昭和三〇年代の後半頃にはその名称は一般に認識され、現在では全国的に生産販売
されているものであることが認められる。」という判示部分が見られるが(甲第4
8号証)、この部分からは、同判決が、「巨峰」の名称をもって、ぶどうの一品種
の名称と認定したのか、特定の業者の商品名と認定したのか必ずしも明らかではな
い。また、同判決は、第2、2(4)オ(ア)のとおり、段ボール箱に表示された「巨
峰」、「KYOHO」の標章は、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器
たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきであるという理由によ
り、仮処分の申立てを却下したものであり、「巨峰」の表示が普通名称であるかど
うかについて判断したものではない。さらに、同判決添付の図面第三の包装資材に
は、「西日本巨峰会」、「巨峰」、「商標登録第472182号」という表示がさ
れているが(甲第48号証)、飯塚支部事件で相手方とされた者(「飯塚段ボール
株式会社」であるが、その後「福岡段ボール株式会社」となった。)の製造に係る
ぶどうの包装資材には、「西日本巨峰会」、「商標登録第472182号」などの
表示のないものも存在することが認められるから(乙第19号証の1ないし3、弁
論の全趣旨)、同判決添付の図面第三の包装資材の表示があるからといって、本件
品種のぶどうの包装資材に「西日本巨峰会」、「商標登録第472182号」など
の表示があるのが一般的であるとはいえない。
(ウ) 長野地裁事件(前記第2、2(4)オ(イ))、東京地裁昭和47年事件
(前記第2、2(4)オ(ウ))の和解は、その条項からすると、各事件の被告(長野地
裁事件では「長野県経済連」、東京地裁昭和47年事件では「飯塚段ボール株式会
社」)が、各事件の原告である日本巨峰会に対し、本件商標権の無効を主張せず又
はその有効であることを認め、他方、原告である日本巨峰会が、各事件の被告らに
対して本件商標権侵害の責任を問わないこと等を内容としている。したがって、こ
れらの和解をもって、各事件の被告が、「巨峰」の表示の使用により本件商標権侵
害の責任を負うことを認めたということはできない。
エ 以上によれば、一般消費者、ぶどう生産者、青果卸売業者などの需要者
において、「巨峰」という語は、特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標であ
るとは認識されておらず、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な
名称として認識されているものと認められる。したがって、「巨峰」という語は、
ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法26条1項2号)
に当たると認めるのが相当である。
3 争点3(「普通に用いられる方法」に当たるか)について
被告標章1は、漢字の「巨峰」の文字を毛筆体によって横書きに記載したも
の、被告標章2は、漢字の「巨峰」の文字をゴシック体で横書きに記載したもので
あり、いずれも、その文字の形態や表記の態様に顕著な特徴があるとはいえず、本
件品種のぶどうを表す「巨峰」という普通名称を、「普通に用いられる方法」で表
示したものと認めるのが相当である。
被告標章3は、アルファベットの大文字で「KYOHO」という文字を横書
きに記載したものであり、その文字の形態や表記の態様に顕著な特徴があるとはい
えない。「KYOHO」という文字は、本件品種を表す「巨峰」という普通名称の
称呼である「キョホウ」を、ローマ字により表記したものである。したがって、被
告標章3も、本件品種のぶどうを表す「巨峰」という普通名称を、「普通に用いら
れる方法」で表示したものと認めるのが相当である。
4 結論
以上によれば、被告標章は、本件登録商標の指定商品である「葡萄」に当た
る本件品種のぶどうを表す普通名称を、普通に用いられる方法で表示したものと認
められる。したがって、商標法26条1項2号により、本件商標権の効力は、被告
標章に及ばず、本件専用使用権の効力も、被告標章に及ばないというべきである。
よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却する。
 大阪地方裁判所第21民事部
 
    裁判長裁判官   小    松    一    雄
  裁判官   中    平         健
  裁判官   田    中 秀    幸
(別紙)
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