平成14(行ケ)307行政訴訟 意匠権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年11月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
意匠権
意匠法3条2項1回
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キーワード |
審決28回 無効6回 無効審判2回 新規性2回 意匠権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第307号 審決取消請求事件(平成14年10月9日口頭弁
論終結)
判 決
原 告 A
訴訟代理人弁理士 佐 當 彌太郎
被 告 赤松化成工業株式会社
訴訟代理人弁護士 笹 谷 正 廣
同 後藤田 芳 志
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2001-35229号事件について平成14年5月9日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,下記ア記載の意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者,被告
は,本件意匠の意匠登録の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりであ
る。
ア 登録第1101864号意匠
意匠に係る物品 「包装用容器」
形 態 別添審決謄本別紙第一「本件登録意匠」欄記載のとおり
登録出願 平成12年 4月 5日
設定登録 同 年12月22日
イ 平成13年5月25日 無効審判請求(無効2001-35229号)
平成14年5月 9日 本件意匠の意匠登録を無効とする旨の審決
同 年5月21日 原告への審決謄本の送達
2 審決の理由
審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件意匠は,当業者が,その登録
出願前に,本訴被告により「APO-108-F」(蓋)及び「APK-108-
B」(容器)として販売されていたトマト用容器の意匠(以下「公知意匠」とい
う。)(本訴甲2-3,甲3-1,2,甲4-2,乙1-1,乙9-3,乙10-
3,乙12-2,乙15-10,12)に基づいて容易に意匠の創作をすることが
できたものであるから,意匠法3条2項に該当するものであり,その意匠登録は無
効とすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決は,公知意匠に基づく創作容易性の判断を誤った(取消事由)ものであ
るから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(創作容易性の判断の誤り)
(1) 審決は,本件意匠と公知意匠との差異点として,前者は後者に対して,蓋
体及び容器体の四方の壁面に配された断面波状の斜めのリブ並びに蓋体上面四隅の
浅い凹凸を,それぞれ消去して平坦面状,無模様状としたものである(審決謄本3
頁第3段落,4頁最終段落)点並びに蓋体及び容器体の嵌合縁の下端の一角に三角
状のタブを横水平に突出させた点(同3頁第1段落の(2)参照)を認定した上,当該
差異点に係る形態は,本件出願前に知られていた包装用容器に見られるものであ
り,格別の創作力を要するものではないとするが,誤りである。
(2) そもそも意匠は,意匠に係る物品の全体によって表現された意匠感の新規
性によって成り立つものであり,その各部が新規性を備えている必要性はない。し
たがって,意匠の対比においては,全体的意匠感が一見して異なるものの場合は別
意匠と見るべきである。
そして,本件意匠と公知意匠とを対比した場合,本件意匠は,全体として
見たときシンプルで清潔感を備えた意匠として感知することができるのに対し,公
知意匠は,全体として複雑でずんぐりした重々しい感じを看者に与えるものであ
り,両者は一見して区分できる程度に相違し,別異の意匠感を備えるものである。
その差異点に係る構成態様が他の包装容器において容易に見られるとしても,相互
の構成態様を結合ないし除去して他の意匠を創作するという意図までが表されてい
ないのであるから,審決の上記判断は,意匠を全体として観察することなく,部分
的な形状及び模様の有無ないし変化のみに注目した結果であって,論理の飛躍があ
るといわざるを得ず,意匠全体の観察手法において誤りがある。
(3) 審決は,上記判断の根拠として,リスパック株式会社の販売に係る「MT
パック2」(審判甲11-3,本訴乙11-3)を挙げるが,これは容器本体と蓋
体とが連結部で連結されているものであり,両者が独立した形状の本件意匠とは異
なる上,容器部の四周の下端部には本件意匠には見られない複数個の凹凸の突起
(リブ)を形成している。すなわち,「MTパック2」は,本件意匠や公知意匠と
は物品の形状,模様が異なる別の意匠であって,対比することはできない。また,
上記差異点に係る構成である三角状のタブは,意匠上,蓋体と容器本体を嵌合する
のに重要な要部を占めるというべきところ,審決は,単に解放用つまみとしてしか
検討しておらず,その重要性を看過している。
第4 被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(創作容易性の判断の誤り)について
本件意匠に係る容器は,いわゆるミニトマト容器として,はるか以前から業
界においてごく普通に使用されている定番の容器にすぎない。公知意匠と本件意匠
との差異点であるリブの有無は,機能的な理由で付されているものであって,意匠
上の差異としては問題にならない。また,原告は,「MTパック2」は容器本体と
蓋体が連結されている旨主張するが,連結されている点自体に意匠としての価値は
ないのであるから,その主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(創作容易性の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件意匠は,全体として見たときシンプルで清潔感を備えた意匠
として感知することができるのに対し,公知意匠は,全体として複雑でずんぐりし
た重々しい感じを看者に与えるとして,両意匠の美感の違いを主張するところ,そ
のような違いは,蓋体及び容器体の四方の壁面に配された断面波状の斜めのリブ並
びに蓋体上面四隅の浅い凹凸の有無という審決の認定する差異点に由来することは
明らかである。しかし,当該差異点に係る構成態様に関しては,このようなリブや
凹凸を消去して平坦面状,無模様状とすることが,本件出願前に本件意匠と同様の
包装用容器においてごく普通に見られるものにすぎないことは審決の認定(審決謄
本5頁第1段落)するとおりである。
そうすると,上記の差異点は,このような常とう的な形態処理の範囲内に
とどまる違いでしかないというべきであるから,公知意匠の上記リブや凹凸を消去
して平坦面状,無模様状とすることに格別の創作的な困難性を見いだすことはでき
ず,これと同旨をいう審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,「MTパック2」(乙11-3)は,容器本体と蓋体とが連結部
で連結されている点及び容器部の四周下端部に複数個の凹凸の突起(リブ)が形成
されている点で,本件意匠や公知意匠とは異なる意匠である旨主張する。しかし,
審決は,公知意匠における蓋体及び容器体の四方の壁面に配された断面波状の斜め
のリブ並びに蓋体上面四隅の浅い凹凸を消去する点,公知意匠にはない形態であ
る,蓋体及び容器体の嵌合縁の下端の一角に三角状のタブを横水平に突出させる点
が,いずれも常とう的な形態処理にすぎないことの例示として上記「MTパック
2」を引用(審決謄本5頁第1,第2段落)していることが明らかであるところ,
上記の各形態処理は,蓋体と本体部とが連結部で連結されているか否か,容器部の
四周下端部に複数個の凹凸の突起(リブ)が形成されているか否かとは,何らの意
匠上の有機的な関連性も認められない。したがって,本件意匠や公知意匠と上記
「MTパック2」の形態との間に原告の主張するような差異があるとしても,審決
の上記判断に何ら消長を来すものではないというべきである。
また,原告は,上記三角状のタブの意匠上の重要性を主張するが,そもそ
も本件意匠自体を観察した場合に,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等に照
らし,意匠全体の構成の中で当該タブが看者の注意を惹くような要部をなすものと
いえない上,本件意匠におけるタブと同様のものが本件出願前に知られていた包装
用容器において常とう的に用いられていたことは審決の認定(審決謄本5頁第2段
落)するとおりであるから,上記主張は理由がない。
(3) その他原告の主張するところは,上記の認定判断に照らして採用すること
ができず,本件意匠について公知意匠に基づく創作容易性を肯定した審決の判断に
誤りはない。
2 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利
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