平成14(行ケ)227行政訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年11月21日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
審決13回 実施6回 無効6回 特許権1回 無効審判1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第227号 審決取消請求事件
判 決
原 告 ユミックス株式会社
訴訟代理人弁理士 高木義輝
被 告 株式会社ユアビジネス
訴訟代理人弁護士 石川幸吉
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が無効2001-35506号事件について平成14年3月29日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「薄板の成形方法とその成形型」とする本件特許第149132
1号発明(本件発明)の特許権者である。本件特許は、昭和59年2月9日に出願
され、平成1年4月7日に設定登録されたが、被告は、平成13年11月16日、
本件特許を無効とすべき旨の審判請求をし(無効2001-35506)、平成1
4年3月29日、本件特許の特許請求の範囲第1項、第2項に係る発明(本件発明
1、2)についての特許を無効とする旨の審決があり、その謄本は同年4月10日
原告に送達された。
被告の無効審判請求の理由は、次のとおりである。
本件発明1、2は、本件特許に係る出願の日前の他の特許出願であって本件出願
の出願後に出願公開がされたもの(特願昭58-71001号(昭和58年4月2
1日出願))の願書に最初に添付した明細書(先願明細書)又は図面に記載された発
明と同一であり、かつ、その発明をした者が本件発明1、2の発明者と同一の者で
もなく、本件出願時にその出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者でもない
ので、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
2 本件発明の要旨
【本件発明1】
第1型に第2型を直線方向に移動させて衝合して成形する際負角になる成形部を
有する成形方法であって、第1型に負角成形部を有するカム部材を回転自在に設
け、第2型に前記カム部材に対向させて負角成形部を有するカムを設け、第1型に
第2型が近接してカムがカム部材に衝合し移動してカム部材との間で負角成形部を
成形し、負角成形後第2型が第1型より遠ざかり、ワークが第1型より取り出せる
状態までカム部材を回転後退させるようにしたことを特徴とする薄板の成形方法。
【本件発明2】
第1型に第2型を直線方向に移動させて衝合して成形する際負角になる成形部を
有する成形型であって、周壁軸方向に溝を刻設した円柱状のカム部材を第1型に回
転自在に設け、カム部材の溝縁部に負角成形部を形成し、負角成形部を有するカム
を前記カム部材に対向させて第2型に設け、成形後ワークが第1型より取り出せる
状態までカム部材を回転後退させる自動復帰装置を第1型に設けたことを特徴とす
る成形型。
本件発明第8図
3 審決の理由の要点
(1) 先願明細書に記載された発明
先願明細書の7~12頁には、以下のとおり記載されている。
「第5図乃至第8図は、本発明に係るプレス用金型を示す図面である。図中、(2
0)は下型であり、当該下型(20)の上面には、後述するパッド(31)と共同
してピラー(A)を挟持するための保持部(21)が形成してあり、又その略中央
部には当該保持部(21)と連なる円弧面を有するカム溝(22)を設けてある。
(23)は上記カム溝(22)に回動自在に挿入した回転カムであり、この回転カ
ム(23)は図示の如くその一部分を略L字状に切欠いてある。そしてその一端に
は、後述する吊りカム(33)の下面と接触するスライド板(24)を取付けてあ
り、又他端には後述する吊りカム(33)に固定した寄曲げ刃(35)と共同して
ピラー(A)を所定形状にプレス成形するための寄曲げ部(25)を形成してあ
る。(26)は下型(20)内に設けた孔(27)内にスライド自在に挿入され、
且つその一端がレバー(28)を介して回転カム(23)と連結したカムリフター
であり、当該カムリフター(26)は孔(27)内に圧入されたスプリング(2
9)によって常時上方へ押圧されている。このため、ピストン(26)とレバー
(28)を介して連結した回転カム(23)も、図中矢印I方向に押圧され、回転
カム(23)の一端に設けた寄曲げ部(25)は、下型(20)に設けた開口部
(22)の内方に後退した状態になっている。(30)は下型(20)の上方に昇
降自在に配置した上型ホルダー、(31)は上型ホルダー(30)にスプリング
(32)を介して支持されたパッドであり、当該パッド(31)は下型(20)上
に載置されたピラー(A)を下型(20)上に圧接させるためのものである。(3
3)は上型ホルダー(30)にスライド台(34)を介してスライド自在に支持さ
れた、先端に寄曲げ刃(35)を有する吊りカムである。
上記構成に於いて、本発明に係るプレス用金型によってピラー(A)のプレス成
形を行なうには、先ず上型ホルダー(30)を下型(20)の上方に待機させた状
態で下型(20)の保持部(21)にピラー(A)を載置する(第5図参照)。こ
の時、回転カム(23)はスプリング(29)の弾性力によって図中矢印I方向に
押圧されており、回転カム(23)の寄曲げ部(25)は下型(20)に設けたカ
ム溝(22)の内方に後退している。次に下型(20)の上方に位置する上型ホル
ダー(30)を下降させると、先ず上型ホルダー(30)にスプリング(32)を
介して吊下支持されているパッド(31)が下型(20)の保持部(21)上に載
置されたピラー(A)の上面に圧接し、ピラー(A)を保持部(21)上に固定す
る。又上型ホルダー(30)が下降すると、パッド(31)と同時に吊りカム(3
3)も下降するため、吊りカム(33)の下面が回転カム(23)のスライド板
(24)と接触し、スライド板(24)を下方に押圧するため、回転カム(23)
はスプリング(29)の弾性力に抗して図中矢印II方向に回動する。そしてこの回
動に伴って回転カム(23)の端部に設けた寄曲げ部(25)がカム溝(22)の
開□端に向って移動し、回転カム(23)の寄曲げ部(25)とパッド(31)と
によってピラー(A)の折曲部近傍を挟持する(第6図参照)。そして回転カム
(23)が所定量回動した後、上型ホルダー(30)とパッド(31)間に位置す
るスプリング(32)を圧縮しながら上型ホルダー(30)が更に下降すると、上
型ホルダー(30)にスライド台(34)を介してスライド自在に支持されている
吊りカム(33)は、スライド板(24)に接触した状態で下方に押圧されるた
め、スライド板(24)に沿って図中矢印III方向にスライドする。そして、吊りカ
ム(33)の先端に固定した寄曲げ刃(35)がピラー(A)を回転カム(23)
の寄曲げ部(25)に押圧し、ピラー(A)を所定形状に折曲形成する(第7図参
照)。このようにして、ピラー(A)の折曲形成が終了し、上型ホルダー(30)
が上昇を開始すると、先ず吊りカム(33)がスライド台(34)上の元の位置ま
で戻った後、吊りカム(33)が回転カム(23)のスライド板(24)から離れ
るため、回転カム(23)はスプリング(29)の弾性力によって図中矢印I方向
に回動し、回転カム(23)の寄曲げ部(25)は下型(20)に設けた開□部
(22)の内方に後退する。又上型ホルダー(30)にスプリング(32)を介し
て支持されたパッド(31)も上型ホルダー(30)の上昇に共なって上昇し、下
型(20)の保持部(21)上に載置されたピラー(A)の上面から離脱する。そ
して上型ホルダー(30)が元の位置まで上昇し、パッド(31)及び吊りカム
(33)が下型(20)の上方に退避すれば、後は下型(20)の保持部(21)
に載置されたビラー(A)を上方に持ち上げ、下型(20)から取出せばよい。こ
の時回転カム(23)の寄曲げ部(25)は、第8図に示す如くカム溝(22)の
内方に後退しており、又保持部(21)の先端部(21a)はピラー(A)の折曲
部(A1)より図中左方に位置しているため、ビラー(A)を上方に特上げるだけ
でピラー(A)を下型(20)から容易に取出せる。」
先願図面 第5図~第8図
上記記載事項及び第1~2図、第5~8図の記載からすると、先願明細書には以
下の発明が記載されていると認める。
【先願発明1】
下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)を上下方向に移動させて
衝合して成形する際寄曲げ部を有するプレス成形方法であって、下型(20)に寄
曲げ部(25)を有する回転カム(23)を回転自在に設け、スライド台(34)
に前記回転カム(23)に対向させて寄曲げ刃(35)を有する吊りカム(33)
を設け、下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)が近接して吊りカ
ム(33)が回転カム(23)に衝合し移動して回転カム(23)との間で寄曲げ
部を成形し、寄曲げ成形後、スライド台(34)及びパッド(31)が下型(2
0)より遠ざかり、ピラー(A)が下型(20)より取り出せる状態まで回転カム
(23)を回転後退させるようにしたプレス成形方法。
【先願発明2】
下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)を上下方向に移動させて
衝合して成形する際寄曲げ部を有するプレス用金型であって、下型(20)に寄曲
げ部(25)を有する回転カム(23)を回転自在に設け、スライド台(34)に
前記回転カム(23)に対向させて寄曲げ刃(35)を有する吊りカム(33)を
設け、下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)が近接して吊りカム
(33)が回転カム(23)に衝合し移動して回転カム(23)との間で寄曲げ部
を成形し、寄曲げ成形後、スライド台(34)及びパッド(31)が下型(20)
より遠ざかり、ピラー(A)が下型(20)より取り出せる状態まで回転カム(2
3)を回転後退させるカムリフター(26)を下型(20)に設けたプレス用金
型。
(2) 本件発明1について審決がした対比及び判断
先願発明1における「回転カム(23)」、「吊りカム(33)」、「ピラー
(A)」は、それぞれ、本件発明1における「カム部材」、「カム」、「ワーク」
に相当し、先願発明1における「寄曲げ部」、「寄曲げ刃」は、「ピラー(A)」
を第2図から第1図のような形状に成形するものであるから、本件発明1における
「負角成形部」に相当する。 また、本件発明1における「第1型」及び「第2
型」は、位置関係を特定されたものではないから、「第1型」を下に、「第2型」
を上に配置するものも、本件発明1における「第1型」及び「第2型」に包含され
る。そして、先願発明1における「下型(20)」は、円柱状の「回転カム」が回
転自在に設けられるものであるから、本件発明1における「第1型」に相当し、
「スライド台(34))」は、寄曲げ刃を有する「吊りカム(33)」が設けられ
ていることから、本件発明1における「第2型」に相当する。(本件発明1が、
「上型にもカム部材を設ける」こともできるものを含むとしても、「下型に回転す
るカム部材を設けた」ものも含む以上、本件発明1における「第1型」、「第2
型」は、先願発明1における「下型(20)」、「スライド台(34)」を含むも
のである。)
さらに、先願発明1における「スライド台(34)」は、「下型(20)」に対
して上下方向に直線移動するものであるから、その動きは、本件発明1における
「第1型に第2型を直線方向に移動させて」に相当する。(本件発明1が、「上
下、横、斜方向等あらゆる方向で」加工するものに適用できるものであるとして
も、「上下方向」のみで加工するものを含む以上、本件発明1が適用できる技術に
は、先願発明1が含まれる。)
なお、本件発明1は、板金やプラスチック等のあらゆる薄板を成形できるもので
あるから、プレス成形を含むことは明らかである。また、このことは、本件出願の
発明の詳細な説明、図面に実施例として記載された技術が、先願発明1と同様のピ
ラーのプレス成形技術であることからしても明らかである。すなわち、先願発明1
における「プレス成形方法」は、本件発明1における「薄板の成形方法」に相当す
る。
以上のとおりであるから、本件発明1と先願発明1との間に相違点はなく、本件
発明1は先願発明1と同一である。
(3) 本件発明2について審決がした対比及び判断
各構成要件の対応関係、適用分野に関しては、上記(2)で述べたとおりのことが、
本件発明2と先願発明2の間にも成り立つことから、先願発明2における「下型
(20)」、「スライド台(34)」、「回転カム(23)」、「吊りカム(3
3)」、「ピラー(A)」、「プレス用金型」は、それぞれ、本件発明2における
「第1型」、「第2型」、「カム部材」、「カム」、「ワーク」、「成形型」に相
当し、先願発明2における「スライド台(34)」の動きは、本件発明2における
「第1型に第2型を直線方向に移動させて」に相当する。
また、先願発明2における「カムリフター26」は、本件発明2における「自動
復帰装置」に相当する。
さらに、先願発明2における「回転カム23」は略L字状に切欠かれており、こ
の切欠きが、本件発明2における「周壁軸方向」に刻設された「溝」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明2と先願発明2との間に相違点はなく、本件
発明2は先願発明2と同一である。
(4) 審決のむすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2は、先願明細書に記載された発明と同
一であり、かつ、本件特許の発明者及び出願人と先願明細書に記載されたそれとを
照らし合わせてみると、その発明をした者が本件発明1、2の発明者と同一の者で
もなく、本件出願の出願時にその出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者で
もないので、本件発明1、2の特許は特許法第29条の2の規定に違反してなされ
たものである。
したがって、本件発明1、2の特許は、昭和60年法律第41号による改正前の
特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明1の「第2型」についての一致点の認定の誤り)
審決は、先願発明1におけるスライド台(34)は、本件発明1における「第2
型」に相当すると認定したが、誤りである。
本件明細書の、「上型9には前記カム部材2に対向する位置にスライドカム10
を設ける。このスライドカム10は、第2図および第5~7図に示すように、受動
カム11の下端に負角成形部12を形成し、受動カム11は横ガイド13および下
ガイド14により案内し、受動カムの座部15と上型9との間に位置決めピン16
に外嵌め縮設したコイルスプリング17により型の外側方向に付勢する。符号18
は受動カム11の緩衝用ウレタンゴム、19は受動カム11の安全吊りボルトであ
る。受動カム11の下型3に対する位置決めはその下面に2本の位置決め溝20を
刻設し、下型3の対向する位置に突設した位置決めキー21と嵌合させてなす。」
(4欄)との記載、並びに第2図、第3図及び第5~7図から、本件発明1の「第
2型」(上記記載中の「上型」)は、上型本体(本件第2図において、符号は付し
てないが、スライドカム10を設ける部材として左下がり斜線が付されている部材
と、その上部にあって右下がり斜線の付されている部材の総称である。下図の薄い
エンジ色の部分)とスライドカム10と押え型(本件第2図において、符号は付し
てないが、ワークWの上部にあり左下がり斜線の付されている部材である。下図の
黄色の部分)とを備えるものであり、上下動するものである。
これに対し、先願発明1にも、下型(20)に対して上下方向に直線方向に直線
第2図
移動する上型は存在するが、それはスライド台(34)ではない。すなわち、先願
発明1のスライド台(34)は本件発明1の上型本体のみに相当し、「第2型」に
相当するものではない。
2 取消事由2(本件発明1の加工対象及び加工方向についての一致点の認定の
誤り)
本件明細書に、「本発明は、薄板の成形方法とその成形型に関するものである。
板金やプラスチック等の薄板の負角成形は通常スライドカムを用いて行われてい
る。」(1欄)、及び「上記の実施例では薄板製品を自動車の板金部品について述
べたが、本発明はそれに限られるものでなく他の板金製品・プラスチック等あらゆ
る薄板成形方法とその成形型に適用できる。また、上記の実施例では下型に回転す
るカム部材を、上型にスライドカムを設けた例について述べたが、下型に回転する
カム部材を、上型にも回転するカム部材を設けることができるのはいうまでもな
い。さらに、本発明のプレス方向は上下方向のみならず、横方向・斜方向等あらゆ
る方向で加工するものに適用できる。」(5欄)と記載があるとおり、本件発明1
は、「上下、横、斜方向等あらゆる方向で」加工するものであり、板金やプラスチ
ック等のあらゆる薄板を成形できるものである。
これに対し、先願発明1はプレス用金型に限定したものであり、しかも上下方向
のみ加工するものである。すなわち、本件発明1は先願明細書に開示されていない
新たな技術分野を対象にしているから、本件発明1は先願発明1と同一でない。
3 取消事由3(本件発明2についての認定判断の誤り)
取消事由1及び取消事由2で述べたと同様の理由により、すなわち、先願発明2
のスライド台(34)は、本件発明2の「第2型」に相当するものではなく、本件
発明2は先願明細書に開示されていない新たな技術分野を対象にしているから、本
件発明2が先願発明2と同一との、審決の認定判断も誤りである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して
争う。
2 取消事由2に対して
本件明細書に原告が摘記した記載のあることは認めるが、それらの記載は特許法
第36条第4項に定める「容易にその実施をすることができる程度に、その発明の
目的、構成及び効果を記載しなければならない」との要件を充たしておらず、完成
した発明として技術開示されているものではない。
より具体的に述べれば、本件発明1が上下方向のプレスを前提としたものである
ことは明らかであり、横方向・斜方向等あらゆる方向で加工する場合には、その構
成も作用効果も全く異なるのであるから、解決課題を示したものとしての意味しか
ない。また、プラスチックの薄板の成形については、プレス型で行うとすれば加
熱、加温を行いつつ成形を行う以外になく、これらの条件を並行して行える構成が
具体的に示されない以上、実施はできないし、発明としての意味はない。
原告が先願発明1と本件発明1が同一でないと主張する理由は、先願発明1が特
許請求の範囲を限定しているとの主張だけであり、しかも、原告が主張する構成の
部分は、上記のとおり構成が具体的に示されていない部分である。
3 取消事由3に対して
争う。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1について
(1) 原告の主張は、要するに、「第1型」と協働してワークを挟む移動部材全体
が「第2型」であるところ、先願発明1のスライド台(34)は、本件発明1の上
型本体(「第2型」の一部の構成である)のみに相当し、「第1型」と協働してワ
ークを挟む移動部材全体ではないというものである。
しかし、先願発明1が本件発明1の「第2型」に相当する構成を備えていること
は原告も争っていない。先願明細書(甲第3号証添付の審判甲第1号証)をみて
も、「(30)は下型(20)の上方に昇降自在に配置した上型ホルダー、(3
1)は上型ホルダー(30)にスプリング(32)を介して支持されたパッドであ
り、当該パッド(31)は下型(20)上に載置されたピラー(A)を下型(2
0)上に圧接させるためのものである。(33)は上型ホルダー(30)にスライ
ド台(34)を介してスライド自在に支持された、先端に寄曲げ刃(35)を有す
る吊りカムである。」(8頁)、「上型ホルダー(30)を下降させると、・・・
パッド(31)が下型(20)の保持部(21)上に載置されたピラー(A)の上
面に圧接し、ピラー(A)を保持部(21)上に固定する。」(9頁1~5行)、
「上型ホルダー(30)が下降すると、パッド(31)と同時に吊りカム(33)
も下降する」(9頁6~7行)、及び「上型ホルダー(30)が更に下降する
と、・・・吊りカム(33)の先端に固定した寄曲げ刃(35)がピラー(A)を
押圧し、ピラー(A)を所定形状に折曲形成する(第7図参照)」(9頁~10
頁)との記載があり、この記載と第7図によれば、上型ホルダー(30)、パッド
(31)、吊りカム(33)及びスライド台(34)が全体として、下型(20)
(本件発明1の「第1型」に相当する。)と協働してワークを挟む移動部材であ
り、原告が主張する「第2型」に相当する部材であることは明らかである。
(2) 本件特許請求の範囲第1項には、「第2型」自体の構成として、「第2型
に・・・負角成形部を有するカムを設け」との限定を付し、「第1型」との関係と
して、「第1型に第2型を直線方向に移動させて衝合」、「第1型に第2型が近接
してカムがカム部材に衝合」、及び「負角成形後第2型が第1型より遠ざかり」と
の限定、すなわち、「第2型」が「第1型」に対して接近及び離反することを限定
するものであり、これら以外に「第2型」について規定するものはない。
本件明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明にも、「上型9には・・・スライ
ドカム10を設ける」(4欄9~10行)との記載があり、この記載も、特許請求
の範囲第1項の記載と同じく、「カム」(スライドカム10)が「第2型」(上
型)の一部ではなく、別部材であると記載するものである。
他方、先願明細書には先願発明1として、「下型(20)にスライド台(34)
及びパッド(31)を上下方向に移動させて衝合して成形する際寄曲げ部を有する
プレス成形方法であって、下型(20)に寄曲げ部(25)を有する回転カム(2
3)を回転自在に設け、スライド台(34)に前記回転カム(23)に対向させて
寄曲げ刃(35)を有する吊りカム(33)を設け、下型(20)にスライド台
(34)及びパッド(31)が近接して吊りカム(33)が回転カム(23)に衝
合し移動して回転カム(23)との間で寄曲げ部を成形し、寄曲げ成形後、スライ
ド台(34)及びパッド(31)が下型(20)より遠ざかり、ピラー(A)が下
型(20)より取り出せる状態まで回転カム(23)を回転後退させるようにした
プレス成形方法。」が記載されているとした審決の認定について原告は争うもので
はなく、また、先願発明1の「吊りカム(33)」が本件発明1の「カム」に相当
すること、及び、先願発明1の「寄曲げ刃」が本件発明1の「負角成形部」に相当
することも、原告において争っていない。
そうすると、先願発明1の「スライド台(34)」は、負角成形部を有する「吊
りカム(33)」(本件発明1の「カム」に相当)を設ける部材であり、「下型
(20)」(本件発明1の「第1型」に相当)に対して上下方向に移動する部材で
あるから、本件発明1の「第2型」の要件をすべて満たすものである。
(3) 以上のとおりであるから、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について
原告の主張は、帰するところ、先願発明1は板金を上下方向のみ加工するものに
限られるのに対し、本願発明1は、加工対象が板金に限定されず、また加工方向が
上下方向に限定されない点で、先願発明1と相違するとの主張であり、要するに、
本件発明1は先願発明1の上位概念の発明であるから同一でないというものでな
る。
しかし、本件発明1が先願発明1の上位概念の発明であるとすれば、本件発明1
がその下位概念の発明たる先願発明1を包含するということを意味する。また、先
願発明1が本件発明1の下位概念の発明であるということは、先願明細書又は図面
には、本件発明1の構成要件を、より下位概念化した具体的なものとして記載して
あるということになる。したがって、本件明細書には当業者が容易に実施し得る程
度の開示がないものがあるとする被告の主張について判断するまでもなく、取消事
由2も理由がないことに帰する。
3 取消事由3について
上記の1及び2で説示したと同様の理由により、取消事由3も理由がない。
第6 結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成14年11月7日口頭弁論終結)
東京高等裁判所第18民事部
裁判長裁判官 永 井 紀 昭
裁判官 塩 月 秀 平
裁判官 田 中 昌 利
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