平成12(行ケ)397行政訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年11月11日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法126条3項1回 特許法29条2項1回 特許法120条の41回
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キーワード |
刊行物37回 実施2回 特許権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成12年(行ケ)第397号 特許取消決定取消請求事件(平成14年10月2
8日口頭弁論終結)
判 決
原 告 東京エレクトロン株式会社
訴訟代理人弁理士 住 吉 多 喜 男
被 告 特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人 沼 澤 幸 雄
同 小 林 明
同 森 田 ひ と み
同 一 色 由 美 子
同 宮 川 久 成
主 文
特許庁が平成11年異議第70034号事件について平成12年8月
31日にした決定中、特許第2773078号の請求項3、4、6及び7に係る特
許を取り消した部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「処理装置及びその洗浄方法」とする特許第2773
078号(昭和63年3月11日出願、平成10年4月24日設定登録。以下、こ
の発明を「本件発明」といい、その特許を「本件特許」という。)の特許権者であ
る。その後、本件特許につき特許異議の申立てがされ、この申立ては、平成11年
異議第70034号事件として特許庁に係属した。原告は、平成11年6月18
日、本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許
請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し、平成12年3月7
日、本件訂正の訂正書の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は、上
記事件につき審理した結果、同年8月31日、「特許第2773078号の請求項
1~7に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、そ
の謄本は、同年9月20日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲【請求項3】、【請求項4】、【請求項6】及
び【請求項7】に係る発明(以下、これら請求項に係る発明を、順次「本件発明
3」、「本件発明4」、「本件発明6」及び「本件発明7」という。)の要旨
【請求項3】処理室と、それに接続されたガス供給系及びガス排気系とを備え
た処理装置の洗浄方法において、
前記ガス排気系に直接に三フッ化塩素ガスを供給する工程と、
前記三フッ化塩素ガスにより前記ガス排気系内をドライエッチングして洗浄す
る工程と、
を有することを特徴とする処理装置の洗浄方法。
【請求項4】請求項3において、
前記ガス排気系の途中に接続されるガス配管を流れる前記三フッ化塩素ガスを
加熱しながら、前記三フッ化塩素ガスを前記ガスを排気系に直接に供給することを
特徴とする処理装置の洗浄方法。
【請求項6】被処理体を処理する処理室と、
前記処理室内にプロセス時に用いられるガスを導入するガス供給系と、
前記処理室よりガスを排気するガス排気系と、
を有する処理装置において、
三フッ化塩素ガス(ClF3)の供給源と、
前記ガス排気系と前記供給源とを直接接続するガス配管と、
前記ガス配管途中に設けられ、前記ガス排気系の洗浄時に開放駆動されるバル
ブと、
を有することを特徴とする処理装置。
【請求項7】請求項6に記載の処理装置において、
前記ガス配管を流れる前記三フッ化塩素ガスを加熱する加熱部をさらに設けた
ことを特徴とする処理装置。
3 本件決定の理由
本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件補正は、訂正請求書の要
旨を変更するものであり、特許法120条の4第3項において準用する同法131
条2項に違反するから採用できず、本件訂正に係る明細書の特許請求の範囲の【請
求項1】の発明は、特公昭46-19008号公報(以下「刊行物1」とい
う。)、特開昭61-269309号公報(以下「刊行物3」という。)、特開昭
58-186941号公報(以下「刊行物4」という。)、特開昭63-1525
5号公報(以下「刊行物5」という。)、特開昭61-161711号公報、特開
昭62-113419号公報及び特開昭61-2321号公報に記載された発明に
基づいて、当業者が容易に発明をすることができたというべきであるから、本件訂
正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の
規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年法律第41号による改正前の
特許法126条3項に適合しないので、本件訂正は認められないとし、本件発明の
要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、本件
発明は、いずれも刊行物1及び3~5に基づいて、当業者が容易に発明をすること
ができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない
から、本件発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされ
たものと認められ、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附
則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を
定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取り消されるべき
ものとした。
第3 原告主張の決定取消事由
1 本件決定の理由中、「1.手続の経緯」及び「2.訂正の適否」は認める。
「3.特許異議申立てについて」中、本件発明3、4、6及び7に係る部分は争
い、その余は認める。「4.むすび」は争う。
本件決定は、本件発明3と刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」とい
う。)の相違点の判断を誤った(取消事由)結果、本件発明3が、刊行物1及び3
~5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ、特許法29条2
項の規定により特許を受けることができないとの誤った判断をし、ひいては、本件
発明4、6及び7も特許を受けることができないとの誤った判断をしたものである
から、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点の判断の誤り)
(1) 本件決定は、「本件発明3は、『処理装置のガス排気系』を洗浄の対象と
し、その排気系に直接三フッ化塩素ガスを供給するものである」(決定謄本7頁3
8行目~末行)とした上、「刊行物1発明も『系内の洗浄』を目的とするものであ
り、三フッ化塩素ガスによって系内の洗浄が可能であることは明らかであるから、
三フッ化塩素ガスによって、この系の一つであるガス排気系の洗浄を行うこと、そ
して排気ガス系(注、「ガス排気系」の誤記と認める。)に直接にガスを供給する
ことは、当業者ならば容易に想到し得たことというべきである。してみれば、本件
発明3は、上記刊行物1、3~5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものというべきである」(同8頁1行目~7行目)と判断する
が、誤りである。
すなわち、刊行物1(甲第7号証)には、反応室を経由した三フッ化塩素
ガスの洗浄能力が低下してしまうことや、洗浄の結果として生ずる腐食反応生成物
が堆積物としてガス排気系に再付着することについての記載がなく、このことを示
唆する記載もないので、当業者にとって、刊行物1発明において三フッ化塩素ガス
をガス排気系に直接に供給することにより、高い洗浄能力で、かつ、堆積物を再付
着させずにガス排気系を洗浄するという発想を生ずることはないから、上記のよう
な三フッ化塩素ガスの供給は、当業者が容易に想到し得るものではない。また、刊
行物3~5のいずれにも、反応室から排出される反応生成物を含んだガスがガス排
気系に堆積物を析出すること、これを防ぐためにガス排気系に直接に三フッ化塩素
ガスを供給してガス排気系を洗浄することは、記載されていない。
したがって、本件発明3が、刊行物1及び3~5に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたとする理由はない。
(2) 被告は、特開昭60-119714号公報(乙第7号証)及び特開昭57
-120676号公報(乙第8号証)を挙げて反論するが、失当である。
本件決定は、上記(1)のとおり判断するが、ガス排気系に直接に洗浄ガスを
供給することが本件特許出願前に周知の技術であったことをその根拠としておら
ず、上記周知の技術及び乙第7、第8号証に基づく主張は、本件決定の判断してい
ない事実に係るものであって、それ自体理由がない。
また、乙第7、第8号証のいずれにも、ガス排気系に直接に三フッ化塩素
ガスを供給する工程、三フッ化塩素ガスによりガス排気系内をドライエッチングし
て洗浄する工程については何ら記載がなく、これらを示唆する記載もないので、こ
れら乙号証を考慮しても、本件発明3は、刊行物1及び3~5に記載された発明に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(3) 本件決定は、本件発明4、6及び7についても、刊行物1及び3~5に記
載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断するが、本
件発明4は本件発明3を引用するもの、本件発明6は、そのガス供給路の開閉駆動
バルブを除き、本件発明3の方法の発明を装置的に表現しただけのもの、本件発明
7は本件発明6を引用するものであって、本件発明3と同様、刊行物1及び3~5
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということは
できない。
第4 被告の反論
1 本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の本件決定取消事由は理由がな
い。
2 取消事由(相違点の判断の誤り)について
(1) 一般的な「半導体材料の処理装置」のガス排気系において、反応生成物の
付着という大きな問題が発生することは、周知の事項である。また、ガス排気系の
付着物を洗浄する方法として、その系に直接に洗浄ガスを供給して洗浄すること
は、特開昭60-119714号公報(乙第7号証)及び特開昭57-12067
6号公報(乙第8号証)に見られるように、周知の技術である。特に、乙第8号証
について補足すれば、ここには「本エッチング装置は、塩素を含んだ四塩化炭素
(CCl4)などの腐食性ガスを使用してもエッチング室の反応生成物除去が自動化
できる」(2頁左下欄13行目~15行目)と記載されて、水蒸気ガスに代えて腐
食性ガスを使用してもよいとされている。
一方、本件決定が説示するように、「刊行物1には、『ガス供給系を備え
た半導体材料のエピタキシャル成長装置におけるガス供給系の途中に接続されるガ
ス配管によって三フッ化塩素ガスをエピタキシャル反応室に供給して、耐熱炉板及
び他の化学的不活性物体を洗浄する方法』・・・が記載されている」(決定謄本4
頁末行~5頁4行目)のであり、しかも、この半導体材料のエピタキシャル成長装
置がガス排気系を有することは自明のことである。そして、上記のとおり、一般的
な「半導体材料の処理装置」のガス排気系においても、反応生成物の付着という大
きな問題が発生し、この問題を解決する手段としてガス排気系に直接に洗浄ガスを
供給することは、本件特許出願前に周知の技術であるから、刊行物1発明に接した
当業者は、そのガス排気系においても反応生成物が反応炉内と同様に付着している
ことを容易に理解することができ、このような排気系の問題のために、上記の周知
技術を適用することは、容易に想到し得るものである。
(2) 原告は、上記周知技術の主張が本件決定の判断していない事実に係るもの
であると主張するが、失当である。周知の技術は、当業者ならば当然知っているは
ずの事項であり、本件決定は、このことを前提に、ガス排気系に直接に三フッ化塩
素ガスを供給することは当業者ならば容易に想到し得ると判断したものである。
(3) 原告は、本件発明3が刊行物1及び3~5に記載された発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたとの判断が誤りであることを前提に、本件発
明4、6及び7も当業者が容易に発明をすることができたとする理由はないと主張
するが、本件発明3に係る本件決定の上記判断が誤りでない以上、原告の本件発明
4、6及び7についての主張も理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件決定の「刊行物1発明も『系内の洗浄』を目的とするもので
あり、三フッ化塩素ガスによって系内の洗浄が可能であることは明らかであるか
ら、三フッ化塩素ガスによって、この系の一つであるガス排気系の洗浄を行うこ
と、そして排気ガス系(注、「ガス排気系」の誤記と認める。)に直接にガスを供
給することは、当業者ならば容易に想到し得たことというべきである。してみれ
ば、本件発明3は、上記刊行物1、3~5に記載された発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものというべきである」(決定謄本8頁1行目~7行
目)との判断が誤りであると主張する。
ところで、本件発明3の要旨は、上記第2の2記載のとおりであるから、
原告の主張する取消事由は、要するに、刊行物1発明に対し、本件発明3に係る、
処理室に接続されたガス排気系に直接に三フッ化塩素ガスを供給する工程と、三フ
ッ化塩素ガスにより上記ガス排気系内をドライエッチングして洗浄する工程を適用
することが、当業者にとって、容易に想到し得るものではないとの趣旨に解され
る。
(2) そこで、この主張の当否について判断する。
ア 本件決定の「刊行物1には、『ガス供給系を備えた半導体材料のエピタ
キシャル成長装置におけるガス供給系の途中に接続されるガス配管によって三フッ
化塩素ガスをエピタキシャル反応室に供給して、耐熱炉板及び他の化学的不活性物
体を洗浄する方法』・・・が記載されている」(決定謄本4頁末行~5頁4行目)
との認定については、当事者間に争いはない。
イ 刊行物1(甲第7号証)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明の他の目的は、たとえばエピタキシャル成長炉内に使用する
耐火板を洗浄するための低温気相腐食処理方法を得んとするにある。かかる耐火板
を塩酸を用いて高温度で腐食洗浄することは既知であるが、この場合高価な耐塩酸
炉を使用せねばならない。しかし、ハロゲンフッ化物類を低温度で使用すると、洗
浄速度又は洗浄効率を犠牲にすることなく安価な装置を使用することができる」
(2欄31行目~3欄1行目)
(イ)「本発明は次ぎの態様で実施することができる。・・・耐熱炉板及び
他の化学的不活性物体をフッ素のハロゲン間化合物と接触させて洗浄する方法」
(8欄23行目~37行目)
(ウ)「第1図に示す系は、代表的な石英製の反応室11と本発明を実施す
る際に用いる種々の処理ガス流を取扱うための適当な装置とを組合せてなる」(4
欄42行目~44行目)
(エ)「腐食反応生成物は揮発性であるので、この生成物を反応室を通る水
素希釈剤により排気孔29を通して除去する」(5欄40行目~42行目)
ウ 上記イの(ア)及び(イ)の記載によると、刊行物1(甲第7号証)には、
耐熱炉板を塩酸を用いて洗浄すると高価なエピタキシャル成長炉を使用しなければ
ならないとして、耐熱炉板をエピタキシャル成長炉内に配備させた状態で洗浄する
ことを前提とした従来技術に問題点があること、刊行物1発明では、エピタキシャ
ル成長炉を安価なものにし得ることが記載されているから、刊行物1発明における
耐熱炉板及び他の化学的不活性物体は、これらを洗浄する際には、エピタキシャル
反応室内に存在していると認められる。
エ 次に、上記イの(ウ)及び(エ)の記載によると、刊行物1発明(甲第7号
証)において、そのエピタキシャル反応室には排気孔が形成されていると認めら
れ、また、上記排気孔に接続されたガス排気系の構成を設ける必要のあることは自
明であるから、刊行物1には、刊行物1発明がガス排気系を有するものとして記載
されているということができる。
オ そうすると、刊行物1発明は、「ガス供給系を備えた半導体材料のエピ
タキシャル成長装置におけるガス供給系の途中に接続されるガス配管によって三フ
ッ化塩素ガスをエピタキシャル反応室に供給して、該反応室内に存在している耐熱
炉板及び他の化学的不活性物体を洗浄すると共に、上記反応室に形成された排気孔
29に接続して設けられたガス排気系から排気する方法」であると認められる。し
かしながら、刊行物1には、上記ガス排気系に直接に三フッ化塩素ガスを供給し当
該三フッ化塩素ガスによりガス排気系内をドライエッチングして洗浄する工程(以
下「本件工程」という。)が記載されているとは認められない。
(3) 被告は、本件工程について、一般的な「半導体材料の処理装置」のガス排
気系において、反応生成物の付着という大きな問題が発生し、この問題を解決する
手段としてガス排気系に直接に洗浄ガスを供給することが本件特許出願前に周知の
技術であって、刊行物1発明に本件工程を設けることは当業者にとって容易に想到
し得ると主張し、上記周知の技術を立証するものとして、特開昭60-11971
4号公報(乙第7号証)及び特開昭57-120676号公報(乙第8号証)を提
出するので、この点について判断する。
ア 特開昭60-119714号公報(乙第7号証)には、以下の記載があ
る。
(ア)「本発明は、排気装置によって排気された反応チャンバー内で基体上
にシリコン堆積膜を形成するシリコン堆積膜作成装置に関するもので、特に、この
ようなシリコン堆積膜作成装置においてシリコン堆積膜作成中に発生するポリシラ
ン粉末の処理に関するものである。シリコン堆積膜作成装置として、排気装置によ
って排気された反応チャンバー内で・・・シリコン堆積膜を形成する装置等がある
が、このような装置においてはシリコン堆積膜作成によりポリシラン、ポリシリコ
ンの粉末が生じこれが排気装置の吸入力により排気装置内に引き込まれて、排気装
置の排気力の低下を来たし、或いは排気装置の動作を阻害する傾向がある。特に
SiH4ガスをグロー放電により分解して形成される水素を含む非晶質シリコン薄膜
は太陽電池、薄膜トランジスタ、電子写真感光体、光センサー等の応用が考えら
れ、実用化された製品も市場にではじめているが、グロー放電法で非晶質シリコン
薄膜を形成する過程において多量のポリシラン粉末が発生する」(1頁左下欄16
行目~右下欄19行目)
(イ)「本発明によるシリコン堆積膜作成装置の特徴は、排気装置によって
排気された反応チャンバー内で基体上にシリコン堆積膜を形成するシリコン堆積膜
作成装置において、反応チャンバーと排気装置との間に、シリコン堆積膜作成に伴
って生ずる微粉末を捕獲するメッシュフィルターと該メッシュフィルターにエッチ
ングガスを導入しプラズマを発生させることにより該メッシュフィルターをクリー
ニングするクリーニング装置とより成る微粉末除去トラップを配設したことにあ
る」(2頁右上欄18行目~左下欄7行目)
イ 特開昭57-120676号公報(乙第8号証)には、以下の記載があ
る。
(ア)「半導体集積回路のアルミニウム配線を形成するため、三塩化ホウ素
(BCl3)、四塩化炭素(CCl4)、四塩化硅素(SiCl4)のガスプラズマによるド
ライエッチング装置が用いられる。しかしこの装置は、エッチング後の反応室内に
アルミニウムと反応ガスとの反応生成物、たとえば塩化アルミニウム(AlCl3)が
付着する。こうした反応生成物が付着し続けることで、エッチング反応の遅れ、エ
ッチング反応の不均一性、半導体集積回路上への付着などの支障をきたす。・・・
本発明はかかる欠点を除去したもので、その目的は付着した反応生成物の除去の自
動化および使用者に有害なガスを吸気させないことにある」(1頁左下欄17行目
~右下欄14行目)
(イ)「第2図においてエッチング1(注、「エッチング室1」の誤記と認
める。)は上ブタ2により密閉され、高周波電極3と対向電極4が内装され排気口
6はスロツトルバルブ11を介して液体窒素トラップ7に接続され、さらにバルブ
13を介して油拡散ポンプ8、油回転ポンプ9へ接続されている」(1頁右下欄1
7行目~2頁左上欄2行目)
(ウ)「液体窒素トラップ7の内壁にトラツプされた反応生成物20、水分
の除去について述べる。バルブ13、スロツトルバルブ11を閉じ加熱された水ま
たは水蒸気をバルブ21を介して液体窒素トラツプ7に噴射させることで、トラツ
プされていた反応生成物20を洗い流し、バルブ12より排水する」(2頁左下欄
4行目~10行目)
ウ これらの記載によると、半導体材料を処理する室に相当する装置部材
は、特開昭60-119714号公報(乙第7号証)には反応チャンバーとして、
また、特開昭57-120676号公報(乙第8号証)にはエッチング室として記
載されているが、当該装置部材に接続されたガス排気系を見ると、乙第7号証に
は、微粉末除去トラップにエッチングガスを供給しプラズマを発生させ、当該トラ
ップに捕獲された微粉末を取り除くことが記載され、また、乙第8号証には、液体
窒素トラップに水蒸気ガスを供給し、当該トラップに捕獲された反応生成物を取り
除くことが記載されているから、これらの証拠によれば、半導体材料を処理する室
から排出される物質を積極的に捕獲する装置部材については、洗浄ガスを直接に供
給し洗浄する技術が本件特許出願前に公知であったと認めることができる。しかし
ながら、半導体材料を処理する室から排出される物質を積極的に捕獲する装置部材
を有しないガス排気系については、直接に洗浄ガスを供給する技術が本件特許出願
前に周知であったとの記載は見当たらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、一般的な「半導体材料の処理装置」のガス排気系において、ガス排気
系に直接に洗浄ガスを供給することが本件特許出願前に周知の技術であったという
ことはできないから、この点のみをもってしても、本件決定の「排気ガス系に直接
にガスを供給することは、当業者ならば容易に想到し得たことというべきである」
(決定謄本8頁4行目~5行目)とする判断は誤りである。
(4) そもそも、刊行物1発明は、上記(2)で認定したとおり「ガス供給系を備
えた半導体材料のエピタキシャル成長装置におけるガス供給系の途中に接続される
ガス配管によって三フッ化塩素ガスをエピタキシャル反応室に供給して、該反応室
内に存在している耐熱炉板及び他の化学的不活性物体を洗浄すると共に、上記反応
室に形成された排気孔29に接続して設けられたガス排気系から排気する方法」で
あって、この構成によれば、耐熱炉板及び他の化学的不活性物体の洗浄を確かなも
のとするなどの理由から、十分な量の三フッ化塩素ガスがエピタキシャル反応室に
供給され、その一部は変質せず洗浄能力を残したままガス排気系にまで供給され、
ガス排気系に付着した汚れも三フッ化塩素ガスによって洗浄されると考えられるか
ら、エピタキシャル反応室に十分に供給したのと同じ三フッ化塩素ガスを更にガス
排気系に直接供給をする動機は見当たらない。また、刊行物1には、ガス排気系に
汚れが付着しこれを洗浄する必要があるとの記載も示唆もない上、上記三フッ化塩
素ガスのガス排気系への直接供給が技術常識であると認めるに足りる証拠もない。
(5) したがって、刊行物1発明に対し、本件発明3に係る、処理室に接続され
たガス排気系に直接に三フッ化塩素ガスを供給する工程と、三フッ化塩素ガスによ
りガス排気系内をドライエッチングして洗浄する工程を適用することは、当業者に
とって、容易に想到し得るものということはできないから、これに反する本件決定
の本件発明3に係る相違点の判断は誤りといわざるを得ず、本件発明4、6及び7
に係る判断もまた、同様に誤りというべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の決定取消事由は理由があり、この誤り
が本件発明3、4、6及び7に係る本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかで
あるから、本件決定中、上記部分について取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 岡 本 岳
裁判官 長 沢 幸 男
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