知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成12(行ケ)430 行政訴訟 商標権

この記事をはてなブックマークに追加

平成12(行ケ)430行政訴訟 商標権

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年10月30日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項15号2回
キーワード 商標権2回
侵害1回
ライセンス1回
主文
事件の概要

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成12年(行ケ)第430号 商標登録取消決定取消請求事件(平成14年5月
13日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告   ザ ユニバーシティ オブ ケンブリッジ
       訴訟代理人弁理士   今 村   元
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人      村 上 照 美
       同          宮 川 久 成
       被告補助参加人    ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテ
ッド パートナーシップ
       訴訟代理人弁理士   曾 我 道 照
       同          黒 岩 徹 夫
       同          岡 田   稔
          主           文
      特許庁が平成11年異議第90296号事件について平成12年10
月12日にした決定を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とし,参加によって生じた費用は被告補助参加
人の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文第1項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,別添決定謄本別掲本件商標のとおりの構成からなり,指定商品を商
標法施行令別表の区分による第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,
バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とする商標登録第420
9200号商標(平成6年12月19日登録出願,平成10年11月13日設定登
録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
   被告補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)外1名は,平成11年
2月22日,本件商標の商標登録につき登録異議の申立てをした。
   特許庁は,同登録異議事件を平成11年異議第90296号事件として審理
した上,平成12年10月12日,「登録第4209200号商標の商標登録を取
り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年11月
2日,原告に送達された。
 2 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,同別掲引用商標A及び同Bの
とおりの構成からなる,横長四角形中に記載された「Polo」の文字とともに「by
RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」の文字及び馬に乗ったポロ競技プレーヤー
の図形の各商標(以下「引用各商標」という。)はラルフ・ローレンのデザインに
係る被服類及び眼鏡製品に使用する商標として取引者,需要者間に広く認識される
に至っていたものと認められるところ,本件商標をその指定商品について使用した
場合には,これに接する取引者,需要者は,本件商標中の図形部分が馬に乗ったポ
ロ競技プレーヤーであることに着目し,さらに,その「POLO」の文字部分に着目し
て,引用各商標を含むラルフ・ローレンのデザインに係る馬に乗ったポロ競技プレ
ーヤーの図形及び「POLO」,「Polo」,「ポロ」等の文字が需要者の間に広く知ら
れている商標(以下「ラルフ・ローレンに係るポロ商標」という。)を連想,想起
し,その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的,経済的に何らかの関係がある
者の業務に係る商品であるかのように出所について混同を生ずるおそれがあるか
ら,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり
,同法43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 本件決定は,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性の認定を誤る
とともに,本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれにつ
いての判断を誤った(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきで
ある。
 1 ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性
(1) 本件決定は,「引用商標は,ラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及
び眼鏡製品に使用する商標として遅くとも昭和55年頃までには既にわが国におい
て取引者,需要者間に広く認識されるに至っていたものと認められ,その状態は現
在においても継続しているというのが相当である」(決定謄本4頁8行目~11行
目)と認定するが,誤りである。
(2) ラルフ・ローレンに係るポロ商標の構成中の「POLO」,「Polo」又は「ポ
ロ」の語及び馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形(以下単に「ポロプレーヤー図
形」ともいう。)は,自他商品識別力が全くないか,又は極めて乏しいというべき
である。
ア 「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語及びポロプレーヤー図形は,ま
ず,スポーツであるポロ競技を表すものであり,多くの業者が衣料品等の様々な商
品について,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の文字を含む商標及
び「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の文字とポロプレーヤー図形とを組み合せた商
標を使用してきたところから,我が国においても,ポロ競技が馬上ホッケーのよう
なスポーツであることは,取引者,需要者全般に浸透していたものである。
イ 「ポロシャツ」の語は,衣料品の種類を表し,ポロ競技の選手が着用し
たことにちなみ,米国の作家スコット・フィッツジェラルドが1920年に出版し
たベストセラー小説「This Side of Paradise」において初めて使用されたとされて
おり,1920年代からはやり始めた。そして,「ポロシャツ」の定義は,ニット
製で,襟腰のない襟を持つ衣料品であり,この襟はポロ襟と呼ばれている。言い換
えれば,ポロ襟のあるスポーツシャツを「ポロシャツ」,ポロ襟のあるセーターを
「ポロセーター」,ポロ襟のあるトレーナーを「ポロトレーナー」と呼んでおり,
「ポロ」の語は,商品の形状を表すものであって,自他商品識別力がない。
 また,「ポロ」は,「ポロシャツ」の略称でもあり,本件商標の指定商
品を扱う被服業界では,商品の普通名称又は慣用商標であって,自他商品識別力の
ない語である。
ウ 補助参加人は,その主力商品である被服について登録商標を有している
わけではなく,また,その使用する商標は,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」
と「RALPH LAUREN」とを組み合せて使用するか,「RALPH LAUREN」のみを単独で使
用している。したがって,補助参加人の使用する商標中,自他商品識別力があるの
は「RALPH LAUREN」の部分である。
 他方,ポロ・ビーシーエス株式会社は,被服に関し,「POLO」の文字か
らなる商標登録第1434359号商標(昭和47年6月13日登録出願,昭和5
5年9月29日設定登録,甲61,62)並びに「POLO」の文字及びポロの図形か
らなる商標登録第1447449号商標(昭和47年4月22日登録出願,昭和5
5年12月25日設定登録,甲63,64)を有し,これらを使用して商品展開を
行っており,その外にも上記アのとおり多くの業者が衣料品等の様々な商品につい
て,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の文字を含む商標並びに「POLO」,「Polo」
又は「ポロ」の文字とポロプレーヤー図形とを組み合せた商標を使用し,また,フ
ォルクスワーゲンは,「POLO」,「ポロ」の商標を付した自動車を販売し(甲6
9),三菱自動車のホームページにも,「PAJEROポロトレーナー」の宣伝がある
(甲70)。このように,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の商標は単なるブラン
ドの一つにすぎず,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性は大幅に希釈
された。
 2 商品の出所混同のおそれ
(1) 本件決定は,「本件商標に接した取引者,需要者は,その商標の図形部分
が馬に乗ったポロ競技のプレーヤーであることに着目し,さらに,商標中
の『POLO』の文字部分に着目し,ラルフ・ローレンのデザインに係る商標を連想,
想起し,該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係があ
る者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれが
ある」(決定謄本5頁25行目~30行目)と判断するが,誤りである。
(2) 本件商標は,別添決定謄本別掲本件商標のとおりの構成からなるところ,
横向きの馬の上にポロ競技者が乗り,全体を黒く塗りつぶしたポロプレーヤー図形
を上段に表し,その下に「C.U.P.C.」,「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の文
字が全体の構成もバランス良く描かれたものである。これに対し,ラルフ・ローレ
ンに係るポロ商標の一つである引用各商標は,シルエット状前向きの馬の上にポロ
競技者が乗ったポロプレーヤー図形と「Polo」及び「by RALPH LAUREN」又は「by
Ralph Lauren」の文字が一体的に合成されており,両者は明確に区別され,本件商
標に接した取引者,需要者において,商品の出所について混同を生ずるおそれは全
くない。
(3) 本件商標は,上記のとおり,「POLO CLUB」の文字部分の上にケンブリッジ
大学を意味する「CAMBRIDGE UNIVERSITY」という,英国を代表し我が国でも著名な
大学名が冠として付加されている。
 ケンブリッジ大学は,13世紀に設立され,30のカレッジの集合体から
成り,世界で最古の大学の一つである。その教育や研究の国際的名声は,多くのス
ポーツと文化的なクラブに対する伝統的な支援によっても,その価値が高められて
いる。ケンブリッジ大学のスポーツクラブは50以上あり,その大多数は100年
以上の歴史を有し,例えば,ケンブリッジ大学対オックスフォード大学のボートレ
ースは世界中で4億人に達する人々にテレビ観戦された。このことは,ケンブリッ
ジ大学のクラブが世界中で国際的地位と認識を有していることを示してい
る。「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」は,1873年にジョン・フィッツウィ
リアムにより創設された,近代ポロ競技の創設メンバーであり,その総裁は英王室
のチャールズ皇太子である。
 このように,ケンブリッジ大学は,ラルフ・ローレンとは歴史,事業,規
模,社会的地位が全く異なり,本件商標中の「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分
がラルフ・ローレンとの関連性を強く打ち消す要素となっているから,義務教育を
受けた我が国の普通の取引者,需要者であれば,本件商標に接した場合,両者の間
に組織的,経済的な関係があると認識することはあり得ず,著名な大学名であ
る「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の冠部分から,ケンブリッジ大学と本場のポロ競技と
の自然な結び付きを直せつにイメージし,ケンブリッジ大学に関係したポロクラブ
であると認識するというべきであるから,商品の出所について混同を生ずるおそれ
はない。
第4 被告及び補助参加人の反論
  本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性について
(1) ラルフ・ローレンに係るポロ商標は,ラルフ・ローレンが,商品「被服,
眼鏡」等に長年使用し,本件商標の登録出願前より現在に至るまで継続して周知・
著名であるとした本件決定の認定に誤りはない。
 米国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは,1967年(昭和42
年)に幅広ネクタイをデザインして注目され,1970年(昭和45年)と197
3年(昭和48年)にはコティ賞を受賞し,さらに1974年(昭和49年),映
画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優ロバート・レッドフォードの衣装デザインを
担当したことから同国を代表するデザイナーとしての地位を確立し,そのデザイン
に係る一群の商品には,ラルフ・ローレンに係るポロ商標が使用され,これらは「ポ
ロ」の略称でも呼ばれている。すなわち,ラルフ・ローレンに係るポロ商標は,我が
国において,本件商標の登録出願時(平成6年12月19日)前までには,ラル
フ・ローレンのデザインに係る被服等を表示するものとして,取引者,需要者の間
に広く認識されるに至り,その認識の度合いは現在においても継続しているもので
ある。
(2) 我が国において,ポロ競技はほとんど行われておらず,なじみの薄いスポ
ーツであり,取引者,需要者により熟知されているということはできないか
ら,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語及びポロプレーヤー図形に接する取引
者,需要者は,ラルフ・ローレンのデザインに係る商品であると認識するというべ
きである。
 原告は,「ポロ」の語は,商品の形状を表すものであって,自他商品識別
力がないと主張する。確かに,「ポロ」の文字は,「シャツ」や「セーター」の語
と共に用いられることで,特定の形状のシャツ又はセーターを表示するものであ
る。しかし,それは「シャツ」,「セーター」等の商品名称と結合した場合であっ
て,「ポロ」のみの語が,商品の形状を表示するものとして使用されている事実は
ない。したがって,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語が単独で使用された場合
は,これに接する取引者,需要者は,商品の品質,形状を認識するというよりも,
むしろ,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」ブランドと称される著名なラルフ・ロー
レンに係るポロ商標を連想,想起するというのが相当であり,「POLO」,「Polo」
又は「ポロ」の語それ自体が自他商品識別力を有しないとはいえない。
 なるほど,原告の主張するように,最近においては,ラルフ・ローレンの
デザインに係る被服等に使用されている各種商標は,「POLO」の文字を単独で用い
たものはないが,我が国においては,これらが「POLO」,「Polo」又は「ポロ」と
も呼ばれていることは明らかであり,現在において,「POLO」単独での使用がない
ことを理由として,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」はラルフ・ローレンに係るポ
ロ商標の略称ではないとする原告の主張は,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周
知・著名性及びファッション関連業界の取引の実情等を全く無視したものであっ
て,失当というべきである。
 2 商品の出所混同のおそれについて
(1) 本件決定の「本件商標に接した取引者,需要者は,その商標の図形部分が
馬に乗ったポロ競技のプレーヤーであることに着目し,さらに,商標中の『POLO』
の文字部分に着目し,ラルフ・ローレンに係るポロ商標を連想,想起し,該商品が
ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る
商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがある」とする判断
に誤りはない。
(2) 本件商標は,「棒状のものを振り上げている騎乗の人物のシルエット」と
認められるポロプレーヤー図形を上段に表し,その下に「C.U.P.C」,「CAMBRIDGE
UNIVERSITY」及び「POLO CLUB」の文字を3段に表してなるものである。原告主張の
ようにケンブリッジ大学が我が国においてよく知られた大学であるとして
も,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」及び「POLO CLUB」の文字が意味する「ケンブリッジ
大学のポロ競技クラブ」は,我が国において知られているものとはいえず,また,
競技としてのポロは,我が国においてほとんどなじみのないものであることからす
れば,本件商標の文字部分全体が,常に一体不可分のものとしてとらえられなけれ
ばならない特段の事情もない。そうすると,本件商標に接する取引者,需要者は,
下段冒頭の見やすい位置に表された「POLO」の文字部分から,「POLO」,「Polo」
又は「ポロ」と認識されているラルフ・ローレンに係るポロ商標を,また,ポロプ
レーヤー図形部分の特徴(棒状のものを振り上げている騎乗の人物)からも,同商
標を連想,想起し,ラルフ・ローレンと何らかの関連がある者の業務に係る商品で
あると認識し,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなけ
ればならない。
(3) 本件商標中の「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の文字部分が,原告主
張のようにケンブリッジ大学のポロクラブと同一であり,同クラブが1873年に
創設され,その総裁が英王室の皇太子であるとしても,我が国において同クラブが
新聞やインターネットに掲載された形跡はなく,全く知られていないのが実情であ
るから,ケンブリッジ大学が有名であるからといって,直ちに同大学のポロクラブ
が日本において周知であるとはいい難い。加えて,本件商標の中段にあ
る「CAMBRIDGE」の欧文字(語)は,大学教養程度の英語であって,それほど親しま
れたものとはいえず,かつ,その語頭である「CAM」の文字を語頭に持つ英語は,
「ケン(ken)」ではなく,「キャン(kam)」と読まれる方が,「camera(キャメ
ラ)」,「camp(キャンプ)」,「campaign(キャンペーン)」の英語からも一般
的であることよりすれば,一般大衆である本件商標の需要者が「CAMBRIDGE」の文字
を直ちに「ケンブリッジ」と読み,本件商標全体から「ケンブリッジ大学ポロクラ
ブ」を即座に認識することは,決して多くないというべきである。
第5 当裁判所の判断
1 ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性について
(1) 「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語について,百科事典及び辞典類の記
載を見ると,昭和37年6月1日平凡社初版第2刷発行の「国民百科事典6」(甲
8)には,「4人(室内では3人)ずつのチームがそれぞれ馬上から,先端がT字
形になっているマレットというスチックで,木または竹製の直径3.25インチ
(約8.25cm)のボールをパスやドリブルで運びながら相手方ゴールに入れるこ
とを競う競技。・・・近代スポーツとしては1869年英国の陸軍将校がインドか
ら本国に伝えたのがはじまりである。・・・日本では最近になってごく一部で行わ
れるようになったにすぎない」との記載があり,昭和47年4月25日平凡社初版
発行の「世界大百科事典 9」(甲89)及び平成7年7月10日小学館第2版第
2刷発行の「日本大百科全書 21」(甲90)にも同様の記載がある。
 また,昭和61年10月6日岩波書店第3版第4刷発行の「広辞苑」(甲
9)には,「ペルシア起源の騎乗球技。現今のものは,4人ずつ二組に分れ,一個
の木のボールを馬上から長柄の槌で相手方のゴールへ打ち込み合って勝負を争う」
との記載があり,昭和49年1月1日自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」
(甲10),昭和61年11月集英社発行の「情報・知識・imidasイミダス198
7」(甲11)及び平成7年1月1日朝日新聞社発行の「朝日現代用語知恵蔵19
95」(甲12)にも,「ポロ」の見出し語の下に,ポロ競技を説明するほぼ同旨
の記載がある。
(2) 他方,平成3年研究社第3刷発行の「英和商品名辞典」(乙23)に
は,「POLO ポロ」の見出し語の下に「⇒Polo by Ralph Lauren」との記載があ
り,「Polo by Ralph Lauren ポロバイラルフローレン」の見出し語の下に「米国
のデザイナーRalph Lauren(1937-)がデザインした紳士物衣料品。通例
Poloと略されて呼ばれる。・・・Poloのデザインも・・・Ivy Leagueルックを基に
した,英国調のクラシックな雰囲気の服が多い。同氏は,・・・1976年に紳士
服でCoty賞を受賞,翌年には婦人服で受賞。・・・R. Laurenは1974年の映画
The Great Gatsby(「華麗なるギャツビー」)の衣装を担当して,人気が急上昇し
た」との記載が,平成11年1月10日小学館第2版第7刷発行の「ランダムハウ
ス英和大辞典」(乙24)には,「polo」の見出し語の下に「3《商標》ポロ:米
国のRalph Laurenデザインによるバッグなどの革製品。4ポロ⇒POLO BY Ralph
Lauren」との記載があり,「Polo by Ralph Lauren」の見出し語の下に「《商標》
ポロバイラルフローレン:米国のR. Laurenデザインのメンズウエア」との記載があ
る。
(3) また,昭和53年7月20日講談社発行の「男の一流品大図鑑」(乙6)に
は,ラルフ・ローレンに係るポロ商標を掲げた「ラルフローレン」ブランドの紹介
として,「一九七四年の映画『華麗なるギャツビー』・・・で主演したロバート・
レッドフォードの衣装デザインを担当したのが,ポロ社の創業者であり,アメリカ
のファッションデザイン界の旗手ラルフ・ローレンである」,「三〇歳になるかな
らぬかで一流デザイナーの仲間いりをはたし,わずか一〇年で,ポロ・ブランド
を,しかもファッションデザイン後進国アメリカのブランドを,世界に通用させ
た」との記載が,昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行の「舶来ブラン
ド事典『’84ザ・ブランド』」(乙7)には,ラルフ・ローレンに係るポロ商標を
掲げた「ポロ」ブランドの紹介として,「今や名実ともにニューヨークのトップデ
ザイナーの代表格として君臨するラルフ・ローレンの商標。ニュートラディショナ
ル・デザイナーの第一人者として高い評価を受け,世界中にファンが多い」,「マ
ークの由来 ヨーロッパ上流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化して使ってい
る。彼のファッションイメージとぴったり一致するため彼のトレードマークとして
使用しているもの」との記載が,昭和55年4月15日洋品界発行の「月刊『アパレ
ルファッション店』別冊1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」(乙
8)には,「ポロ・バイ・ラルフローレン」について,「若々しさと格調が微妙な
調和を見せるメンズ・ウェア『ポロ』ブランドの創立者。栄誉あるファッション賞
“コティ賞”をはじめ彼の得た賞は数知れず,その実力をレディス・ウェアにも発
揮。新しい伝統をテーマに一貫しておとなの感覚が目立つ。アメリカ・ファッショ
ン界の颯爽とした担い手」との紹介のほか,「〈販路〉西武百貨店,全国展開〈導
入企業〉西武百貨店〈発売開始〉五十一年」等の記載があることが認められる。
 そして,これと同趣旨の記載は,昭和54年から昭和60年までの間に発
行された雑誌である,①昭和54年5月講談社発行の「世界の一流品大図鑑’79年
版」(乙12),②昭和55年11月15日講談社第2刷発行の「世界の一流品大図
鑑’80年版」(乙15),③同年12月婦人画報社発行の「MENS'CLUB1980年1
2月号」(乙16),④昭和59年9月25日ボイス情報発行の「ライセンス・ビジ
ネスの多角的戦略’85」(乙9)及び⑤昭和60年5月25日講談社発行の「流行
ブランド図鑑」(乙18)等にも認められるところである。
(4) さらに,ラルフ・ローレンに係るポロ商標を模倣したいわゆる偽物ブラン
ド商品に関して,平成4年9月23日付け読売新聞東京版朝刊(乙19)には,「今
年は五月に,アメリカの人気ブランド『ポロ』(本社・ニューヨーク)のロゴ『ポ
ロ・バイ・ラルフ・ローレン』に酷似したマークのTシャツを販売していた大阪の
業者が,不正競争防止法違反容疑で逮捕・・・」との記事が,平成5年10月13日
付け読売新聞大阪版朝刊(乙20)には,「ポロ球技のマークで知られる米国のファ
ッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠を販売・・・」との記
事が,平成11年6月8日付け朝日新聞夕刊(乙21)には,「米国ブランド『ポ
ロ』などのマークが入った偽物セーターやポロシャツ約三万六千枚を販売目的で所
持し,商標権を侵害した」との記事が掲載されていることが認められる。
(5) なお,昭和61年10月6日岩波書店第3版第4刷発行の「広辞苑」(甲
77)及び平成5年4月10日婦人画報社第2版発行の「男の服飾事典」(乙2
8)によれば,ポロ競技に際してプレイヤーが着用する襟付き半袖シャツは,古く
から「polo shirt」,「ポロシャツ」と称されており,現在では「二つまたは三つ
ボタンのあきで,頭からかぶって着る襟付き半袖シャツ」を表す普通名称になって
いることが認められるが,ポロシャツが「POLO」,「Polo」又は「ポロ」と略称さ
れていることを認めるに足りる的確な証拠はない。
(6) 以上の認定事実を総合すれば,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語は,
元来は乗馬した競技者により行われるスポーツの名称であり,我が国においては,
ほとんど競技としては行われていないが,馬に乗って競技するスポーツ競技である
こと自体は広く知られているものであることが認められる。他方,ラルフ・ローレ
ンに係るポロ商標は,米国のファッションデザイナーとして世界的に著名なラル
フ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品に付されるものとして,我が
国においては,昭和51年ころから使用されるようになったこと,そのブランド
は,我が国のファッション関連商品の取引者,需要者の間で,「Polo by RALPH
LAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」,あるいは単に「Polo(ポロ)」の略称
で,ポロプレーヤー図形とともに,広く知られるようになり,遅くとも昭和50年
代後半までには,強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する周知・著名な商標
となり,その周知・著名性は,本件商標の登録出願時(平成6年12月19日)を
経て登録査定時(平成10年6月5日,甲2)に至るまで継続していたことも認め
られる。
(7) 原告は,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性を否定する根拠
として,「POLO」の文字からなる商標が,様々な分野で商標登録がされ,現実に使
用されていたこと,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語は,衣料品の分野におい
てはポロシャツを示す普通名称として,また,一般的にもポロ競技を示す用語とし
て用いられていることを主張する。ポロシャツが「POLO」,「Polo」又は「ポロ」
と略称されているとはいえないことは上記のとおりであるが,「POLO」,「Polo」
又は「ポロ」の語が,スポーツ競技の一つであるポロ競技を示す普通名詞であっ
て,ラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられている「Polo」の文字も,ポロ
競技に由来するものであることは,その文字部分とともに使用されているポロプレ
ーヤー図形や前掲乙7の記載から明らかであるから,このような本来的に普通名詞
に由来する「Polo」の文字の性格からして,その有する商品の出所表示機能がある
程度減殺されていることは否めない。しかし,このことを考慮に入れても,上記認
定事実からすれば,なおラルフ・ローレンに係るポロ商標が単に「Polo(ポロ)」
とも略称されるものとして,我が国のファッション関連商品の取引者,需要者の間
で広く認識されていたことを認定することができるというべきであるし,さらに,
ラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられているポロプレーヤー図形が,それ
自体としても,ラルフ・ローレンに係る出所識別標識として上記の取引者,需要者
の間で広く認識されていたことも明らかである。
 また,原告は,ポロ・ビーシーエス株式会社が被服等を指定商品とす
る「POLO」の登録商標を有し,その商品が販売されていることを主張するが,ポ
ロ・ビーシーエス株式会社の「POLO」商標については,甲65~68等によって
も,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性の成立及び継続を阻害するも
のであることを認めるに足りない。
 2 商品の出所混同のおそれについて
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生
ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したと
きに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそ
れがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社
や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグルー
プに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれ
がある商標が含まれ,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の
表示との類似性の程度,他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度や,当該商標
の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は
目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他
取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者に
おいて普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである
(最高裁平成13年7月6日第二小法廷判決・裁判集民事202号599頁,同平
成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。そこで,
この見地から,本件商標をその指定商品に使用した場合に,これに接する取引者,
需要者において,その商品がラルフ・ローレン又は同人と上記のような一定の関係
にある営業主の業務に係る商品であると誤信し,商品の出所について混同を生ずる
おそれがあるか否かについて判断する。
(2) 本件商標は,別添決定謄本別掲本件商標のとおりの構成からなり,横向き
の馬にまたがりマレットを振り上げ疾走するポロ競技中の競技者の黒塗りの図形を
上段に表し,その下に「C.U.P.C.」,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」及び「POLO CLUB」
の欧文字を3段に表してなるものであって,ポロプレーヤー図形部分
に,「C.U.P.C.」の語と,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の語,引用各商標の「Polo」
の欧文字を全部大文字で表した「POLO」の語及び「CLUB」の語とを組み合せてなる
結合商標である。本件商標の文字部分は,やや小振りの太字体をもっ
て「C.U.P.C.」の部分が4字,いずれも通常の印刷書体による同大の欧文字をもっ
て「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の部分が19字,「POLO CLUB」の部分が8字,合計3
1字からなり,これより順に「シーユーピーシー」,「ケンブリッジユニバーシテ
ィ」,「ポロクラブ」の称呼を生じ,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分から
は,「ケンブリッジ大学」の観念を生じ,「POLO CLUB」の文字部分からは「ポロ競
技クラブ」との観念を生ずることが認められる。
 他方,引用各商標は,別添決定謄本別掲引用商標A及び同Bのとおりの構
成からなり,いずれも,横長四角形中に記載された「Polo」の欧文字とともに「by
RALPH LAUREN」(引用商標A)又は「by Ralph Lauren」(同B)の欧文字からなる
部分及び前向きの馬にまたがりマレットを振り上げ疾走するポロ競技中の競技者の
図形部分からなるものである。
(3) ところで,ケンブリッジ大学が,オックスフォード大学と並び英国の由緒
ある著名な大学であることは当裁判所に顕著であるところ,同大学について,百科
事典類の記載を見ると,平成7年7月10日小学館第2版第2刷発行の「日本大百
科全書8」(甲113)には,「Cambridge University イギリスの,伝統と由緒
ある大学。起源は一二世紀にさかのぼることができるといわれる・・・一三一八年
教皇ヨハネス二二世が,全キリスト教国に通用する学位の認定をこの大学に承認し
たことにより,名実ともに一流の大学に発展した。ルネサンス期には新学問の一中
心として栄えたが,これは人文主義者エラスムスの来講に負うところが大き
い。・・・一七世紀後半にはニュートンの指導のもとでとくに数学の研究が進み,
大学の名声はひときわ高まった。・・・〔現状〕現在のケンブリッジ大学の規模や
体制は,とくに過去一世紀の間の急速な拡張と発展によって形成されたものであ
る。一九八二年現在,学生数は一万二六八〇人・・・で,一〇〇年間に約六倍も増
加した。約一〇〇〇人の教授陣が,二〇の学部facultyと五〇以上に及ぶ学科
departmentに細分化された学問分野において,教育・研究を担当している。オック
スフォード大学と同様,学寮制をとり,現在三〇の学寮(collegeまたはhallとよば
れる)が存在している。・・・一九六〇年代から新しい大学が次々と設置されつつ
あるなかで,ケンブリッジ大学はオックスフォード大学と並んで,依然としてイギ
リスのもっとも伝統的な大学として,その威信を誇っている」との記載があり,昭
和52年5月15日平凡社初版第1刷発行の「国民百科事典-5」(甲112),
昭和47年4月25日同社初版発行の「世界大百科事典 28」(甲114),昭
和37年6月1日同社初版第2刷発行の「国民百科事典2」(甲115)にもほぼ
同様の記載があり,また,平成12年11月14日集英社第1刷発行の「まんがこ
ども大百科」(甲121)には,「ケンブリッジ」の見出し語の下に「イギリス東
部,ロンドンの北約八〇キロメートルにある大学都市。ケンブリッジ大学がある」
との記載がある。
 次に,辞典の記載を見ると,平成14年1月10日三省堂第10版発行
「初級クラウン英和辞典」(甲122)には,「Cambridge」の見出し語の下に
「・・・Cambridge University ケンブリッジ大学→英国でオックスフォード大学
と並んで古い大学」との記載が,研究社昭和59年第5版第8刷発行の「新英和大
辞典」(甲120)には,「Cambridge University」の見出し語の下に「・・・ケ
ンブリッジ大学・・・1281年創立;現在29のcollegeから成る」との記載があ
る。
 また,平成11年6月2日付け日本繊維新聞(甲73〔本件商標に関する
紹介パンフレット〕中に転載)には,「英国ウエア紹介 ブリティッシュスタイル
の正統求めて・・・大学生活をエンジョイ ケンブリッジの気風・・・大学自体は
オックスフォードと並んで古く・・・オックスフォードは学問そのものを目的にす
る傾向が強いが,ケンブリッジの方はむしろ理論を実生活に応用する面に力点を置
く。オックスフォードの出身者はしたがって学者・教育者,医者,官僚,裁判官な
どが多い。一方ケンブリッジの卒業生は政治家,実業家,弁護士,会計士などの道
へ進むケースが主流・・・英国全体では両校OBは“オックスブリッジ”と呼ば
れ,最高教育を受けたものとしてそれなりの地歩を占めている」との記事が掲載さ
れていることが認められる。
  以上によれば,ケンブリッジ大学は,我が国においても,古くから,英国
の伝統と由緒ある大学として著名であり,その著名性は本件商標の登録出願時(平
成6年12月19日)及び登録査定時(平成10年6月5日)においても同様であ
ったことが明らかである。
(4) そうすると,本件商標の構成中,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分
は,上記認定のとおり,我が国においても著名な,英国の伝統と由緒ある大学の名
称であり,本件商標の中央にバランス良く配され,その文字構成中に占める割合が
最も大きいところから,他の部分に比べて,看者の注意をひく程度が著しく強く,
商品の出所表示機能が強い部分であると認められる。
  この点について,被告及び補助参加人は,「CAMBRIDGE」の語は,大学教養
程度の英語であって,それほど親しまれたものとはいえず,かつ,その語頭であ
る「CAM」の文字を語頭に持つ英語は,「ケン(ken)」ではなく,「キャ
ン(kam)」と読まれる方が一般的であるから,本件商標の需要者が「CAMBRIDGE」
の文字を直ちに「ケンブリッジ」と読み,本件商標全体から「ケンブリッジ大学ポ
ロクラブ」を即座に認識することは多くないとも主張する。確かに,平成3年2月
10日小学館第2版第21刷発行の「プログレッシブ英和中辞典」(乙33)に
は,「Cambridge」の見出し語には「*」印が付され,これは「大学教養程度」の単
語を意味するものであるとされている。しかし,上記認定のとおり,平成14年1
月10日三省堂第10版発行の「初級クラウン英和辞典」(甲122)に
は,「Cambridge」の見出し語の下に「Cambridge University ケンブリッジ大学→
英国でオックスフォード大学と並んで古い大学」との記載があるところ,その「は
しがき」からは,同辞典が中学生用の英和辞典であることが認められる。加え
て,「CAMBRIDGE」に続く「UNIVERSITY」の語が「大学」を意味する親しみやすい平
易な英語であることは当裁判所に顕著であるところ,上記のとおり,ケンブリッジ
大学は我が国においても著名な大学であり,「CAMBRIDGE」を「ケンブリッジ」と読
むことは特異な読み方ではないことをも考慮すれば,「CAMBRIDGE」
と「UNIVERSITY」の文字相互の結び付きは,それを分離して観察することが取引上
甚だ不自然と思われるほどに不可分的に結合しているというべきであって,本件商
標の指定商品の一般的な取引者,需要者において,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文
字部分から,「ケンブリッジ大学」の観念を想起し,「ケンブリッジユニバーシテ
ィ」の称呼を生ずるものと認めて妨げはない。
(5) ラルフ・ローレンに係るポロ商標は,単に「Polo(ポロ)」とも略称され
る周知・著名性を有していることは上記説示のとおりであるところ,本件商標の構
成中に,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の一つである引用各商標の「Polo」の欧
文字を全部大文字で表した「POLO」の文字部分を含むことは上記のとおりであり,
簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,比較的長い構成文字からなる商標の
場合に,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼されることがあること,本
件商標の指定商品は,ラルフ・ローレンに係るポロ商標が付された商品と共通する
日常的に消費される性質のファッション関連商品であって,その需要者がこれを購
入するに際して払う注意力もさほど高いものではないことは当裁判所に顕著であ
る。しかし,「POLO」は,本来的に普通名詞に由来するもので,商品の出所表示機
能がある程度減殺されていることは上記のとおりである上,本件商標の「POLO」の
文字部分は,引用各商標の「Polo」の文字部分のように明りょうな黒枠で囲まれた
横長四角形中にデザイン化された太字体で,かつ,当該欧文字のみが際立った形で
記載されたものではなく,いずれも通常の印刷書体による同大の欧文字をもって構
成された「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の全文字27字中の4文字にすぎ
ず,また,全体の文字の配置も引用各商標のものとは明らかに異なるから,強い自
他商品識別力を有する「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分との対比におい
て,「POLO」の文字部分の自他商品識別力は商標全体の中に埋没し,それのみが看
者の注意をひいて略称としての「ポロ」の称呼,観念を生ずるものとは認め難い。
また,ラルフ・ローレンに係るポロ商標中のポロプレーヤー図形が,それ自体とし
て,ラルフ・ローレンに係る出所識別標識としての周知・著名性を有していること
は上記説示のとおりであるが,本件商標のポロプレーヤー図形は,馬及びポロ競技
者を横から見た姿を表したもので,マレットの頭部を左上の方向にかざし,全体を
黒く塗りつぶしたシルエットであるのに対し,ラルフ・ローレンに係るポロ商標の
一つである引用各商標のポロプレーヤー図形は,馬及びポロ競技者をほぼ正面から
見た姿を表したもので,マレットの頭部は右上の方向にかざし,図形全体に明暗の
陰影をつけたやや縦長のものであって,外観上,両ポロプレーヤー図形は異なった
印象を与えるものである。もっとも,馬に乗ったポロ競技者を表している点で観念
において類似するところはあるが,それとても「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部
分が有する上記の強い自他商品識別力とは比べるべくもない。したがって,本件商
標は,その指定商品を含むファッション関連商品の取引者,需要者がこれに接した
場合に,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」が称呼及び観念において一体のものとして「ケ
ンブリッジ大学」を意味するものと認識するのが通常であると認められる。
(6) 被告及び補助参加人は,ケンブリッジ大学が我が国においてよく知られた
大学であるとしても,「CAMBRIDGE UNIVERSITY POLO CLUB」の文字が意味する「ケ
ンブリッジ大学のポロ競技クラブ」は,我が国において知られているものとはいえ
ず,また,競技としてのポロは,我が国においてほとんどなじみのないものである
ことからすれば,本件商標に接する取引者,需要者は,下段に表された「POLO」の
文字部分から,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」と認識されているラルフ・ローレ
ンに係るポロ商標を,また,ポロプレーヤー図形部分の特徴(棒状のものを振り上
げている騎乗の人物)からも,同商標を連想,想起し,ラルフ・ローレンと何らか
の関連がある者の業務に係る商品であると認識し,その商品の出所について混同を
生ずるおそれがあると主張する。しかしながら,ケンブリッジ大学のスポーツクラ
ブは50以上に上り,その大多数は100年以上の歴史を有し,「CAMBRIDGE
UNIVERSITY POLO CLUB」(略称C.U.P.C.)も1873年の創設に係り,そのころ英
国で始まった近代ポロ競技の創設メンバーの一員であって,現在,英王室のチャー
ルズ皇太子がその総裁を務めている(甲73,117,123)ところ,このよう
な古い歴史と実態を有する「ケンブリッジ大学のポロ競技クラブ」の存在が我が国
において知られているものとはいえないとしても,上記認定のとお
り,「POLO」,「Polo」又は「ポロ」の語が馬に乗って競技するスポーツ競技の名
称であること自体は我が国においても広く知られており,ケンブリッジ大学が著名
な大学である以上,同大学に関係したポロ競技のクラブであることは容易に連想,
想起し得るところというべきであり,「CAMBRIDGE UNIVERSITY」が商品の出所表示
機能の強い部分であるとの上記認定を何ら左右するものではない。また,本件商標
とラルフ・ローレンに係るポロ商標中に用いられているポロプレーヤー図形及び同
部分をその構成中に有する引用各商標とは外観において類似しないものであるこ
と,本件商標は「ポロ」のみの称呼を生ずるものとは認め難いことは,上記のとお
りである。そうすると,上記認定のラルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名
性を考慮しても,本件商標は,その指定商品を含むファッション関連商品の取引
者,需要者がこれに接した場合,ラルフ・ローレンよりもはるかに古い歴史を有す
る,英国の伝統と由緒ある大学として著名な「ケンブリッジ大学」を想起するか
ら,そのような大学が,米国のファッションデザイナーにすぎないラルフ・ローレ
ンとの間に,緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループ
に属する関係にあるものと認識するとは到底認め難いところである。したがって,
被告及び補助参加人の上記主張は採用することができない。
(7) 以上検討したところによれば,本件商標の構成中「CAMBRIDGE
UNIVERSITY」の文字部分が看者の注意を強くひき,「POLO」の文字部分及びポロプ
レーヤー図形部分は,商標全体の中に埋没して看者の注意をひくことはないから,
本件商標は,称呼,観念及び外観のいずれにおいてもラルフ・ローレンに係るポロ
商標とは類似しないというべきである。このような両商標の類似性の程度,本件商
標の構成中の上記文字部分が意味するケンブリッジ大学の顕著な著名性に加え,ラ
ルフ・ローレンに係るポロ商標の周知・著名性の程度,本件商標の指定商品とラル
フ・ローレンの業務に係る商品との間の性質,用途又は目的における関連性の程
度,商品の取引者,需要者の共通性その他取引の実情などを総合考慮すると,本件
商標をその指定商品に使用した場合に,これに接するファッション関連商品の取引
者,需要者において,ラルフ・ローレンに係るポロ商標を連想,想起し,その商品
がラルフ・ローレン又は同人と緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品
化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信
し,商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものということはできず(前掲
最高裁平成13年7月6日判決における裁判官福田博の補足意見参照),これと異
なる本件決定の判断は誤りといわざるを得ない。
 3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があり,この誤りが本件決定の結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件決定は取消しを免れない。
 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官  篠  原  勝  美
    裁判官  岡  本     岳
    裁判官  宮  坂  昌  利

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

来週の知財セミナー (12月2日~12月8日)

12月4日(水) - 東京 港区

発明の創出・拡げ方(化学)

12月5日(木) - 東京 港区

はじめての米国特許

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

藤枝知財法務事務所

千葉県船橋市本町6-2-10 ダイアパレスステーションプラザ315 特許・実用新案 商標 外国商標 コンサルティング 

特許業務法人 藤本パートナーズ 株式会社ネットス 株式会社パトラ

大阪オフィス:大阪市中央区南船場1-15-14 堺筋稲畑ビル2F 5F 東京オフィス:東京都千代田区平河町1-1-8 麹町市原ビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

富士国際特許事務所

【名古屋オフィス】 〒462-0002愛知県名古屋市中区丸の内2-10-30インテリジェント林ビル2階 【可児オフィス】 〒509-0203岐阜県可児市下恵土 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 鑑定 コンサルティング