平成14(ワ)6427民事訴訟 特許権
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成14年10月22日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法70条1項1回
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キーワード |
特許権6回 損害賠償3回 侵害2回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(ワ)第6427号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成14年9月
13日
判 決
原 告 A
被 告 株式会社ウィルソン
訴訟代理人弁護士 中 村 智 廣
同 三 原 研 自
被 告 シーシーアイ株式会社
訴訟代理人弁護士 後 藤 昌 弘
同 川 岸 弘 樹
被 告 株式会社錦之堂
訴訟代理人弁護士 片 岡 信 恒
同 逵 本 紀 世
被 告 株式会社ソフト九九コーポレーション
訴訟代理人弁護士 小 松 陽一郎
同 福 田 あやこ
同 宇 田 浩 康
同 井 崎 康 孝
同 辻 村 和 彦
被 告 株式会社ミツバ
訴訟代理人弁護士 植 村 公 彦
同 伊 藤 拓
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
第1 請求
1 被告株式会社ウィルソン(以下「被告ウィルソン」という。)は、原告に対
し、金300万円を支払え。
2 被告シーシーアイ株式会社(以下「被告シーシーアイ」という。)は、原告
に対し、金300万円を支払え。
3 被告株式会社錦之堂(以下「被告錦之堂」という。)は、原告に対し、金3
00万円を支払え。
4 被告株式会社ソフト九九コーポレーション(以下「被告ソフト九九」とい
う。)は、原告に対し、金300万円を支払え。
5 被告株式会社ミツバ(以下「被告ミツバ」という。)は、原告に対し、金3
00万円を支払え。
第2 事案の概要
本件は、「車両用エアワイパー」の特許発明の特許権者である原告が被告ら
に対し、被告らの製造、販売する自動車用ガラス油膜取り剤、自動車用ガラスコー
ティング剤は、同特許発明の技術的範囲に属すると主張して、損害賠償を請求した
事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、次の特許権を有している(甲1の1・2。以下「本件特許権」とい
い、その特許発明を「本件発明」、その特許公報を「本件公報」という。原告が本
件特許権を有することは、原告と被告シーシーアイ以外の被告らとの間では争いが
ない。)。
ア 発明の名称 「車両用エアワイパー」
イ 登録番号 特許第2566512号
ウ 出 願 日 平成4年11月24日(特願平4-334937号)
エ 公 開 日 平成6年6月3日(特開平6-156204号)
オ 登 録 日 平成8年10月3日
カ 特許請求の範囲
車体内に設置された圧縮空気供給手段と、前面ウィンドガラス下端の前
方近傍位置で前記前面ウィンドガラスの下端縁に沿って所定間隔毎に設置され、前
記圧縮空気供給手段から送られた空気を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って下
方から上方に噴射し第1のエアカーテンを形成する第1のエア噴射ノズル部と、前
記前面ウィンドガラス下端縁の前方近傍位置で前記圧縮空気供給手段から送られた
空気を上方に噴射するように設置され、かつ前記前面ウィンドガラスの外表面に略
平行な方向に首振り運動可能に設けられ、前記首振り動作により前記第1のエアカ
ーテンより前記前面ウィンドガラスから遠い位置に第2のエアカーテンを形成する
第2のエア噴射ノズル部と、前記第2のエア噴射ノズル部に前記首振り動作を行わ
せる首振り駆動手段と、を含む車両用エアワイパーにおいて、前記第2のエア噴射
ノズル部は、複数個のノズルからなり、該ノズルは、互いに前記前面ウィンドガラ
スからの距離を異にする2以上の小カーテンから前記第2のエアカーテンを構成す
るように、前記前面ウィンドガラスの左右方向の中央位置部分に設置された1又は
複数のセンターノズルパートと、左右両側寄りにそれぞれ1又は複数個ずつ設置さ
れ前記前面ウィンドガラスの外表面に対して前記センターノズルとは異なる傾斜角
で首振り動作するサイドノズルパートと、から成り、各ノズルは、噴射エアが前記
前面ウィンドガラスの左右両側辺から外方へはみ出さないような首振り動作角とさ
れ、前記前面ウィンドガラス下端縁の前方近傍でかつ前記第1のエア噴射ノズル部
近傍位置に吹出し口が配され温風を前記前面ウィンドガラス外表面に沿って上方へ
送出する温風供給手段が設けられたことを特徴とする車両用エアワイパー。
(2)ア 被告ウィルソンは、商品名を「ガラスコンパウンドSuper」、「ガ
ラスコンパウンドmini」、「新補修 ガラスコンパウンド」とする3種類の自
動車用ガラス油膜取り剤を販売している(乙1の1~5、乙2の1~4、乙3の1~5。
被告ウィルソンが自動車用ガラス油膜取り剤「ガラスコンパウンド」を販売してい
ることは、争いがない。)。
イ 被告シーシーアイは、商品名を「雨ん坊」とする自動車用ガラスコーテ
ィング剤を販売している(争いがない。)。
ウ 被告錦之堂は、商品名を「シリコンX」とする自動車用ガラス油膜取り
剤、商品名を「スーパーレインX」とする自動車用ガラスコーティング剤を販売し
ている(「スーパーレインX」が自動車用ガラスコーティング剤であることは弁論
の全趣旨により、その余の事実は争いがない。)。
エ 被告ソフト九九は、商品名を「ガラコ」とする自動車用ガラスコーティ
ング剤を販売している(争いがない。)。
オ 被告ミツバは、商品名を「ドクター・レイン バリューパック」とする
自動車用ガラスコーティング剤並びにガラスコーティング前処理剤及び被膜取りを
セットにした商品を販売している(検己1。被告ミツバが「ドクター・レイン バ
リューパック」を販売していることは、争いがない。)。
2 争点
(1) 被告らの商品は、本件発明の技術的範囲に属するか。
(2) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告らの商品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について
【原告の主張】
本件公報の3欄18行には「油」と記載され、3欄46行には「車両のウイ
ンドガラス内外に温度差で結露が生じやすい」と記載され、4欄8行には「曇りを
有効に防止することができる」と記載されている。
原告は、油の膜を車両のウインドガラスの外側に付けて雨水滴を風圧で吹き
飛ばしやすく発明、発案、考案をしたのであり、被告らは、この油の膜をまねて、
他の流体を混合して固体、液体にして、車両のウインドガラスの外側に付けて車の
走行中に風圧を利用して雨水滴を吹き飛ばしやすくして商品化して販売している。
したがって、被告らの商品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。
【被告ウィルソン】
被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」が、本件発明の技術的範囲に属す
ることは否認する。
「ガラスコンパウンド」は、いずれも、石油系溶剤とセラミックパウダーと
から主として構成されている液体である。用途は、いずれも自動車のガラスに付着
残存する油膜や汚れの除去剤である。使用方法は、商品「ガラスコンパウンド」な
る液体をスポンジ等に着け、これをガラス面にこするように塗布し、液体が白色化
した後にその白色部を拭き取るという工程を経ることにより、油膜等の除去が完成
するという商品である。
したがって、いかなる意味でも、被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」
が、「車両用エアワイパー」に係る本件発明の技術的範囲に属することはあり得な
い。
【被告シーシーアイの主張】
被告シーシーアイの「雨ん坊」が、本件発明の技術的範囲に属することは否
認する。
本件発明は、車両用エアワイパーに関するものであるところ、被告シーシー
アイは、ガラスコーティング剤を販売しているに過ぎず、いかなる意味においても
本件特許権を侵害するものではない。
【被告錦之堂の主張】
被告錦之堂の「シリコンX」及び「スーパーレインX」が、本件発明の技術
的範囲に属することは否認する。
本件発明は、要約すると「車体内に設置された圧縮空気供給手段と、前面ウ
インドガラス下端に数個のエア噴射ノズルを設け、その圧縮空気噴射によるエア噴
射ノズルを利用しエアカーテンを車両前面ウインドガラス外側に形成し、雨水滴を
エアにより吹き払う機械的な仕組みで、かつ温風供給手段が設けられたことを特徴
としている車両用エアワイパー」に関するものである。
すなわち、本件発明は、あくまでも「機械的な仕組み」についてのものであ
るにもかかわらず、原告は「自動車用窓ガラス及びガラス製ミラーの油膜取り剤」
について特許を有すると主張するものであって、原告の主張は失当である。
【被告ソフト九九の主張】
被告ソフト九九の「ガラコ」が、本件発明の技術的範囲に属することは否認
する。
本件発明は「車両用エアワイパー」に係るものであるのに対し、被告ソフト
九九の商品は自動車用ガラスコーティング剤であって、本件発明の特許請求の範囲
の「圧縮空気供給手段」、「エア噴射ノズル部」、「首振り駆動部」、「温風供給
手段」及び「車両用エアワイパー」の構成をいずれも備えていないから、同商品の
製造販売が本件特許権を侵害しないことは明らかである。
【被告ミツバの主張】
被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」が、本件発明の技術的
範囲に属することは否認する。
原告の本件発明は、発明の名称にもあるとおり、車両用エアワイパーであっ
て、要するに、自動車のフロントガラス前方近傍位置に圧縮空気を供給する複数の
エア噴射ノズルを設置し、当該エア噴射ノズルから噴射される圧縮空気により、複
数のエアカーテンを形成し、これにより雨水を、それがウインドガラスに到達する
前に吹き飛ばそうというものである。
これに対し、「ドクター・レイン バリューパック」は、特殊フッ素系ガラ
ス撥水剤「ドクター・レイン」(被告ミツバの別商品)の1回使用料相当分に、
「ドクター・レイン」を使用する際に必要となる専用コーティングツール、専用ガ
ラスクリーナー、及びガラス前処理専用スポンジをセットにして販売しているもの
である。すなわち、「ドクター・レイン バリューパック」は、専用ガラスクリー
ナー及びガラス前処理専用スポンジによって、自動車のフロントガラス外表面の油
膜を取り除いた後、特殊フッ素系撥水剤である「ドクター・レイン」を専用コーテ
ィングツールによってフロントガラス外表面にコーティングすることで、フロント
ガラスに付着した雨水を水滴状とし、自動車の走行によって生じる風圧により雨水
が吹き飛ばされやすくなるようにするというものである。したがって、被告ミツバ
の上記商品は、「ドクター・レイン」なる液体状の薬剤に関するものである。
そうすると、被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」は、本件
発明の構成と全く異なる完全な別物であるから、本件発明の技術的範囲に含まれな
いことは、明らかである。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について
【原告の主張】
被告らは、前記第2の1(2)記載の各販売行為により、それぞれ何億円かの利
益を得ているので、原告は、被告らに対し、上記利益相当額の損害金の内金として
各300万円の損害賠償を請求する。
【被告らの主張】
原告の主張は否認する。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告らの商品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について
(1) 本件発明は、特許請求の範囲の記載からすれば、圧縮空気供給手段と、第
1及び第2のエア噴射ノズル部並びに首振り駆動手段とを含み、エア噴射ノズルか
らエアを噴出することによってエアカーテンを形成する車輌のエアワイパーの技術
に関するものである。
(2) これに対し、被告らが販売している商品は上記のとおりであるところ、そ
の内容は次のようなものである。
ア 被告ウィルソンの「ガラスコンパウンド」及び被告錦之堂の「シリコン
X」は、液状の研磨剤をスポンジ等によって自動車ガラス表面を磨くことにより、
自動車ガラスの油膜等を除去する自動車用ガラス油膜取り剤である(乙1の1~5、
乙2の1~4、乙3の1~5、弁論の全趣旨)。
イ 被告シーシーアイの「雨ん坊」、被告錦之堂の「スーパーレインX」、
被告ソフト九九の「ガラコ」は、いずれもアルコール類、シリコーンないしフッ素
等からなる液体を自動車ガラスに塗布して、撥水性の被膜を形成する自動車用ガラ
スコーティング剤である(戊1・2、弁論の全趣旨)。
ウ 被告ミツバの「ドクター・レイン バリューパック」は、液状の研磨剤
をスポンジ等によって自動車ガラス表面を磨くことにより自動車ガラスの油膜等を
除去する自動車用ガラスコーティング前処理剤と、アルコール類、フッ素等からな
る液体を自動車ガラスに塗布して撥水性の被膜を形成する自動車用ガラスコーティ
ング剤とをセットにした商品である(検己1)。
エ これらの商品は、いずれも、圧縮空気供給手段と、第1及び第2のエア
噴射ノズル部並びに首振り駆動手段との構成を備えたものではなく、また、エア噴
射ノズルからエアを噴出することによってエアカーテンを形成する機能を有するも
のでもない。
したがって、被告らの上記商品が本件発明の技術的範囲に属するとの原
告の主張は理由がない。
その他、被告らが、本件発明の技術的範囲に属する車輌用エアワイパー
を販売している事実を認めるに足りる証拠はない。
(3)ア なお、原告は、本件公報の3欄18行には「油」と記載され、3欄46
行には「車両のウインドガラス内外に温度差で結露が生じやすい」と記載され、4
欄8行には「曇りを有効に防止することができる」と記載されていると指摘してお
り、こうした記載を理由に、自動車用ガラス油膜取り剤や自動車用ガラスコーティ
ング剤についても、本件発明の技術的範囲に属すると主張するものと解される。
イ 原告が指摘するように、本件公報の【発明の詳細な説明】の【従来の技
術】の項には、「(従来の)機械式のワイパでは前面ウィンドガラス外表面に油膜
が付着し易いという欠点もある。」(3欄17~19行)、【発明が解決しようとする
課題】の項には、「(従来のエアワイパーは)前面ウィンドガラスの前方で強い風
を起すこととなるので、前記前面ウィンドガラスの外方と内方で温度差が大きくな
り、前面ウィンドガラスの内側面に結露するおそれがある。」(3欄44~48行)、
「本発明は、上記種々の問題を解決することを課題とてなされたものであり、その
目的は、雨水の吹き飛し作用をより効果的なものとし、かつ結露による前面ウィン
ドガラスの曇りを有効に防止することのできる車両用エアワイパーを提供すること
にある。」(4欄5~9行)と記載されている(甲1の2)。
ウ しかしながら、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許
請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるから(特許法70条1
項)、【発明の詳細な説明】において、従来の機械式のワイパーでは油膜が付着し
易いという欠点を有していたことや、従来のエアワイパーでは前面ウィンドガラス
の外方と内方で温度差が大きくなりガラスの内側面に結露するおそれがあったこと
などの従来技術の有する問題点が指摘されており、また、雨水の吹き飛し作用をよ
り効果的なものとし、かつ結露による前面ウィンドガラスの曇りを有効に防止する
ようにするとの本件発明の目的が記載されているとしても、そのことから、車両用
エアワイパーに関する本件発明の技術的範囲が、自動車用ガラス油膜取り剤や自動
車用ガラスコーティング剤にも及ぶとすることはできない。
2 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 小 松 一 雄
裁判官 阿 多 麻 子
裁判官 前 田 郁 勝
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