平成14(行ケ)4行政訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年10月9日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
実施47回 刊行物36回 特許権1回 進歩性1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第4号 特許取消決定取消請求事件(平成14年9月9日口頭
弁論終結)
判 決
原 告 松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士 高 松 猛
同 小 栗 昌 平
同 坂 口 智 康
同 小 野 康 英
被 告 特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人 濱 野 友 茂
同 矢 頭 尚 之
同 佐 藤 秀 一
同 小 林 信 雄
同 宮 川 久 成
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が異議2001-71568号事件について平成13年11月22日
にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「マイクロホン・ホルダー」とする特許第3113832号
発明(平成9年2月20日特許出願、平成12年9月22日設定登録、以下「本件
発明」という。)の特許権者である。
平成13年5月31日、上記特許につき特許異議の申立てがされたところ、
特許庁は、同特許異議の申立てを異議2001-71568号事件として審理した
上、同年11月22日、「特許第3113832号の請求項1ないし4に係る特許
を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年1
2月10日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
【請求項1】マイクロホンを保持して端末装置に取付けるマイクロホン・ホル
ダーであって、
前記マイクロホンを収容する、弾性部材から成るマイクロホン収容部と、
前記マイクロホン収容部に収容されたマイクロホンの出力信号を前記マイクロ
ホン収容部の底部を通して外に導出する接続端子部とを備え、前記マイクロホン収
容部と前記接続端子部とが一体成形されていることを特徴とするマイクロホン・ホ
ルダー。
【請求項2】前記接続端子部が、弾性部材とその弾性部材に埋め込まれた導電
体とから成り、前記接続端子部が前記マイクロホン収容部と一体成形されているこ
とを特徴とする請求項1に記載のマイクロホン・ホルダー。
【請求項3】前記接続端子部が、その一端で前記マイクロホン収容部に収容さ
れたマイクロホンの電極と圧接し、その他端で回路基板の導電体と圧接して、前記
マイクロホンの出力を前記回路基板の回路に導出することを特徴とする請求項1ま
たは2に記載のマイクロホン・ホルダー。
【請求項4】マイクロホンを収容する、弾性部材から成るマイクロホン収容部
と前記マイクロホン収容部に収容されたマイクロホンの出力信号を前記マイクロホ
ン収容部の底部を通して外に導出する接続端子部とが一体成形されたマイクロホン
ホルダーと、前記マイクロホンホルダーの接続端子部と接続された回路基板とを備
えたことを特徴とする情報端末装置。
(以下、上記請求項1~4記載の各発明を、請求項の番号に対応して、「本件
発明1~4」などという。)
3 本件決定の理由
本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件発明1~4は、いずれも
実願昭58-99136号(実開昭60-6391号)のマイクロフィルム(本訴
甲第5号証、以下「引用刊行物」という。)記載の「引用発明1~4」に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29
条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消
されるべきものとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
本件決定は、引用刊行物に記載された発明の認定を誤る(取消事由1)とと
もに、本件発明1~4に共通する構成に関し、本件発明1~4と引用刊行物記載の
「引用発明1~4」との一致点の認定を誤った(取消事由2)結果、本件発明1~
4が、引用刊行物記載の「引用発明1~4」に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべ
きである。
1 取消事由1(引用刊行物記載の発明の認定の誤り)
(1) 本件決定は、引用刊行物に記載された発明として、「引用発明1~4」を
認定する(決定謄本4頁1行目~25行目)が、いずれも誤りである。
(2) 引用発明1について
ア まず、本件決定の認定する「引用発明1」は、「・・・絶縁性ゴムから
成る上部開放の筒状の本体部と・・・一対の導電路とを備え、前記導電路を密接し
て被覆する絶縁性材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形成されてい
る・・・マイクロホン装置」(決定謄本4頁5行目~10行目)というものである
が、このうちの「上部開放の筒状の本体部」は、引用刊行物(甲第5号証)の8頁
17行目~9頁19行目及び第6図に示された実施例(以下「第3実施例」とい
う。)に関して記載されているにすぎず、他方、「一対の導電路とを備え、前記導
電路を密接して被覆する絶縁性材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形
成されている」構成(以下「絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成」ということ
がある。)は、引用刊行物の実用新案登録請求の範囲(4)の「導電性を有する弾
性部材は導電性弾性材料からなる導電路と、この導電路を密接して被覆する絶縁性
弾性材料からなる絶縁被覆部とが一体に形成されてなる実用新案登録請求の範囲第
1項ないし第3項のいずれか1項記載の内蔵型マイクロホン装置」との記載並びに
7頁末行~8頁16行目及び第5図に示された実施例(以下「第2実施例」とい
う。)に記載されているにすぎない。
このように、本件決定の認定する引用発明1は、引用刊行物の第2実施
例に記載された構成の一部と第3実施例に記載された構成の一部とを組み合わせた
ものであるところ、これら両実施例の装置は、第5図及び第6図を比較すれば一見
して明らかなように、引用刊行物の中では、別個独立の装置として記載されている
ものであるから、本件決定の認定する引用発明1が引用刊行物に記載されていると
はいえない。
イ なお、引用刊行物(甲第5号証)は、第3実施例に関して、「第6図は
本考案による内蔵型マイクロホン装置のさらに他の実施例(注、第3実施例)に使
用する導電性を有する弾性部材を示す分解斜視図である。・・・この実施例におけ
る導電性を有する弾性部材12はマイクロホンユニット6を収容する上部開放の筒
状の本体部と、その底部に突設された係合突起11とから構成されている。本体部
の底部には上下に貫通する導電ゴムからなるそれぞれ独立した一対の導電路15
a、15bが形成され、残部は絶縁性ゴムにより一体にモールド成形されている」
(8頁17行目~9頁7行目)と記載しているところ、この記載によれば、「この
実施例における導電性を有する弾性部材12はマイクロホンユニット6を収容する
上部開放の筒状の本体部と、その底部に突設された係合突起11とから構成され
て」おり、かつ、「本体部の底部には上下に貫通する導電ゴムからなるそれぞれ独
立した一対の導電路15a、15bが形成され、残部は絶縁性ゴムにより一体にモ
ールド成形されている」のであるから、「導電性を有する弾性部材12」は、「上
部開放の筒状の本体部」と「係合突起11」とから構成されていると解釈するのが
自然である。そして、「一対の導電路15a、15b」が「上部開放の筒状の本体
部」に含まれることは明らかであるから、結局、上記「残部」が意味するものは、
「筒状の本体部の導電路15a、15bを除く部分」と「係合突起11」とを指す
ものと解するべきである。そうすると、「残部は絶縁性ゴムにより一体にモールド
成形されている」と記載されている以上、第3実施例において「一体にモールド成
形されている」のは、「筒状の本体部の導電路15a、15bを除く部分」と「係
合突起11」ということになる。
すなわち、第3実施例には、「一体にモールド成形」との用語がある
が、「絶縁被覆部」と「導電路」とを一体にモールド成形されることをいうもので
はなく、「絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成」とは全く関係がない記載にす
ぎない。
ウ 被告は、第3実施例が絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成を含むも
のであることの根拠として、引用刊行物の実用新案登録請求の範囲(4)の「一体
に形成」に関する記載を挙げるが、実用新案登録請求の範囲(4)には、「導電路
を密接して被覆する絶縁性弾性材料」との記載があるところ、この記載は、「導電
路・・・を密接して囲む絶縁性ゴムからなる絶縁部14」との第2実施例に関する
記載(8頁7行目~8行目)に対応するものであって、第3実施例に対応するもの
ではない。したがって、実用新案登録請求の範囲(4)を根拠として、第3実施例
に係る発明が、絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成を備えるということはでき
ない。
(3) 引用発明2~4について
本件決定が引用刊行物記載の発明として認定する「引用発明2~4」につ
いても、引用発明1に関する上記認定を前提に、「上部開放の筒状の本体部」と絶
縁被覆部と導電路との一体形成の構成を備えるものとされているところ、そのよう
な発明が引用刊行物に記載されていないことは、引用発明1に関して上述したとこ
ろと同様である。
2 取消事由2(「一体成形」に係る構成を一致点又は容易想到とした認定判断
の誤り)
(1) 一致点の認定の誤り
ア 次に、本件発明1の「弾性部材から成るマイクロホン収容部と接続端子
部とが一体成形されている」との構成に関し、本件決定が、本件発明1の「弾性部
材から成るマイクロホン収容部」、「接続端子部」が、それぞれ引用発明1の「絶
縁性ゴムから成る上部開放の筒状の本体部」、「導電ゴムからなる一対の導電路」
と同義であるとした認定は認めるが、本件発明1の「一体成形」が引用発明1の
「一体に形成」と同義であるとした認定(決定謄本4頁28行目~末行)は誤りで
あり、この認定に基づいて、上記「一体成形」に係る構成を両者の一致点と認定し
た点(同5頁12行目~13行目)も誤りというべきである。
イ 本件決定の上記認定は、引用刊行物(甲第5号証)の前記1(2)イの記載
を、「全体として、『導電性ゴムからなる導電路』と『導電路を密接して囲む絶縁
性ゴムからなる残部(即ち、少なくとも上部開放の筒状の本体部)』とが一体にモ
ールド成形されていると解するのが自然である」(決定謄本6頁6行目~9行目)
と解釈したことによるものであるが、これが誤りであることは、取消事由1に関し
て上述したとおりである。
そもそも、引用刊行物においては、実用新案登録請求の範囲(4)では
「一体に形成」と、第3実施例では「一体にモールド成形されている」(9頁6行
目~7行目)とされていることから明らかなように、「形成」と「成形」の用語
を、異なる意味を持つものとして厳密に区別して使用しており、このような引用刊
行物の記載からしても、本件決定の上記認定が誤りであることは明らかである。
ウ そして、本件発明1の上記「一体成形」に係る構成は、本件発明2~4
に共通する構成であり、本件発明2~4と引用刊行物記載の発明の一致点の認定に
関しても、同様の誤りが存在することとなる。
エ 上記の一致点の認定の誤りの結果、本件決定は、上記「一体成形」に係
る構成を相違点として看過しているが、当該構成は、本件発明1~4の重要な作用
効果に係るものであって、その進歩性の判断に影響を及ぼすものであることは明ら
かである。
(2) 容易想到性の仮定的判断の誤り
本件決定は、上記一致点の認定に係る仮定的判断として、「仮に一体に形
成される部材が導電路と残部でないにしても、導電性ゴムを用いたコネクタの分野
において導電性ゴム(引用発明1でいう導電路)と絶縁性ゴム(引用発明1でいう
残部)を一体成形することは、例えば、特開平1-227368号公報、又は、特
開昭50-2080号公報等に開示されているように単なる慣用手段に過きず、こ
のような慣用手段を用いて導電路と絶縁弾性部を一体成形する程度のことは容易な
ことと認められる」(決定謄本6頁12行目~17行目)と判断するが、誤りであ
る。
すなわち、特開平1-227368号公報(甲第8号証)及び特開昭50-
2080号公報(甲第9号証)に記載されているのは、「複数の導電性ゴム接続部
材が絶縁性ゴム支持部材を洞貫して配置してなるゴムコネクタ」及び「複数の導電
性ゴム部材と絶縁性ゴム部材とを交互にかつ多重に配置一体化してなるゴムコネク
タ」において導電性ゴム部材と絶縁性ゴム部材とを一体成形する製造技術であり、
かつ、その製造技術の用途は回路素子同志の電気的接続という一般的なものにすぎ
ない。しかし、本件発明1において、「マイクロホン収容部と接続端子部とが一体
成形されている」という構成を採用することによって解決しようとする課題が、マ
イクロホン装置を製造する際に生ずるものではなく、ハウリングや振動ノイズの発
生の抑制という、マイクロホン装置として製造された後に現実に使用する際に生ず
るものである(本件明細書〔甲第2号証〕の段落【0008】~【0012】参
照)ことにかんがみれば、当該構成を慣用手段に基づいて容易に想到することがで
きるというためには、「マイクロホン収容部」と「接続端子部」という特定の部位
を一体に成形するという構成上の必要性が、本件特許出願当時において既に周知な
いし公知でなければならないというべきであるが、その前提を欠いている。
第4 被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(引用刊行物記載の発明の認定の誤り)について
原告は、本件決定の認定した引用発明1は、引用刊行物の中で別個独立の装
置とされている第2実施例の一部と第3実施例の一部の組合せであり、そのような
発明が引用刊行物に記載されているとはいえない旨主張する。しかし、引用刊行物
(甲第5号証)の第3実施例が、絶縁性ゴムからなる上部開放の筒状の本体部とい
う構成を有していることは明らかであるところ、実用新案登録請求の範囲(4)に
は、「導電性を有する弾性部材」に関し、「一対の導電路とを備え、前記導電路を
密接して被覆する絶縁性材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形成され
てなる実用新案登録請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項記載の内蔵型マ
イクロホン装置」と記載されており、この記載によれば、絶縁被覆部と導電路との
一体形成の構成は、全請求項を対象とした考案全体に共通する構成であるから、第
3実施例の「導電性を有する弾性部材」も、絶縁被覆部と導電路との一体形成の構
成を、本来的に有しているといえる。したがって、原告の上記主張は理由がないと
いうべきである。
2 取消事由2(「一体成形」に係る構成を一致点又は容易想到とした認定判断
の誤り)について
(1) 原告は、本件発明1~4の「一体成形」と引用刊行物の「一体に形成」と
が同義であるとの前提でした本件決定の一致点の認定は誤りであると主張する。し
かし、引用発明1が、絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成を有していることは
上記のとおりであり、引用刊行物(甲第5号証)は、その具体例として、「本体部
の底部には上下に貫通する導電ゴムからなるそれぞれ独立した一対の導電路15
a、15bが形成され、残部は絶縁性ゴムにより一体にモールド成形されている」
(9頁4行目~7行目)という第3実施例を記載しているものである。すなわち、
第3実施例の「一体にモールド成形される」という技術手段は、「一体に形成され
る」という技術手段の一具体例を開示したものにほかならない。
したがって、「一体にモールド成形される」ことと「一体に形成される」
ことは同じ内容であり、両者を同義であるとした本件決定の認定に誤りはない。
(2) 原告は、導電路と絶縁弾性部を一体成形する程度のことは容易である旨の
本件決定の仮定的判断は誤りであると主張するが、失当である。
すなわち、引用刊行物の第3実施例に関する記載が、仮に、一体にモール
ド成形される部材が導電路と残部でないと解釈されるとしても、同実施例は、実用
新案登録請求の範囲(4)に規定する「導電路を密接して被覆する絶縁性材料から
なる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形成されている」構成を内包するものであ
り、導電路と絶縁被覆部(すなわち残部)は何らかの手段により「一体に形成」さ
れるものである。そして、導電性ゴムを用いたコネクタの分野において導電性ゴム
(引用発明1の「導電路」)と絶縁性ゴム(引用発明1の「残部」)を一体成形す
ることは、例えば、特開平1-227368号公報(甲第8号証)又は特開昭50
-2080号公報(甲第9号証)に開示されているように単なる慣用手段にすぎな
いから、導電路と絶縁弾性部を一体に形成する一手段として、このような慣用手段
を採用する程度のことは容易なことというべきである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用刊行物記載の発明の認定の誤り)について
(1) 原告は、本件決定が引用発明1として認定した「・・・絶縁性ゴムから成
る上部開放の筒状の本体部と・・・一対の導電路とを備え、前記導電路を密接して
被覆する絶縁性材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形成されてい
る・・・マイクロホン装置」(決定謄本4頁5行目~10行目)は、引用刊行物の
中で別個独立の装置とされている第2実施例に記載された構成の一部と第3実施例
に記載された構成の一部とを組み合わせたものであるから、引用発明1が引用刊行
物に記載されているとの認定は誤りである旨主張するので、以下検討する。
(2) 引用刊行物(甲第5号証)には、第3実施例に関し、「第6図は本考案に
よる内蔵型マイクロホン装置のさらに他の実施例に使用する導電性を有する弾性部
材を示す分解斜視図である。・・・この実施例における導電性を有する弾性部材1
2はマイクロホンユニット6を収容する上部開放の筒状の本体部と、その底部に突
設された係合突起11とから構成されている。本体部の底部には上下に貫通する導
電ゴムからなるそれぞれ独立した一対の導電路15a、15bが形成され、残部は
絶縁性ゴムにより一体にモールド成形されている」(8頁17行目~9頁7行目)
との記載があるところ、この最後の文章が、専ら「本体部」(上部開放の筒状の本
体部)の構成を説明する記載であることは明らかであり、この「本体部」が、導電
ゴムからなる一対の導電路と絶縁性ゴムからなる残部とで構成されることの説明と
併せて、「一体にモールド成形」される旨を記載しているものであるから、この文
章から自然に理解されるのは、「導電ゴムからなる一対の導電路」と「絶縁性ゴム
からなる残部」との「一体モールド成形」というべきである。なお、このような解
釈が、前後の文脈に沿わない結果となったり、導電ゴムと絶縁性ゴムとの一体成形
という内容が技術常識に反するといった事情があれば格別、上記のような解釈に従
って、引用刊行物の第3実施例の技術内容を矛盾なく理解することが可能である
し、導電ゴムと絶縁性ゴムとの一体成形という技術自体が周知慣用なものにすぎな
いことは、特開平1-227368号公報(甲第8号証)及び特開昭50-208
0号公報(甲第9号証)から明らかである。
仮に、原告の主張するように、第3実施例において「一体にモールド成形
されている」のが、「筒状の本体部の導電路15a、15bを除く部分」と「係合
突起11」であるとすると、実用新案登録請求の範囲(4)において導電路と絶縁
被覆部との一体形成という技術的思想を開示しておきながら、この実施例において
のみ、導電路を一体にモールド成形する対象からわざわざ除外することを説明して
いる趣旨を理解することが困難である。また、専ら「本体部」の構成を説明してい
ることが明らかな文章の理解として、当該文章中に現れていない「係合突起11」
を「一体にモールド成形」される対象であると解するのが自然な読み方であるとは
いえず、結局、原告の上記主張は、引用刊行物の上記記載を曲解するものといわざ
るを得ない。
(3) 加えて、引用刊行物(甲第5号証)の実用新案登録請求の範囲(4)に
は、「導電性を有する弾性部材は導電性弾性材料からなる導電路と、この導電路を
密接して被覆する絶縁性弾性材料からなる絶縁被覆部とが一体に形成されてなる実
用新案登録請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項記載の内蔵型マイクロホ
ン装置」と記載されているところ、この実施態様項に示された絶縁被覆部と導電路
との一体形成の構成は、第2実施例の記載に何ら示されておらず、上記のとおり
「一体にモールド成形」することを記載する第3実施例に対応するものと理解する
のが相当である。そして、このように解することにより、上記実用新案登録請求の
範囲(4)記載の「一体に形成」の具体的な手段として、第3実施例が「一体にモ
ールド成形」する方法を開示したものと理解することができ、実用新案登録請求の
範囲の記載と考案の詳細な説明中の実施例の記載とを、全体として整合的に把握す
ることが可能となる。
なお、原告は、実用新案登録請求の範囲(4)には「導電路を密接して被
覆する絶縁性弾性材料」との記載があるところ、この記載は第2実施例に対応する
旨主張するが、「導電路を密接して被覆する絶縁性弾性材料」との内容は、第3実
施例に係る第6図の図示からも把握可能であるから、上記の記載をもって、実用新
案登録請求の範囲(4)が第2実施例に対応するものということはできない。
(4) したがって、引用刊行物の第3実施例は、当該実施例の記載自体からも、
また、実用新案登録請求の範囲(4)との関係から見ても、本件決定の認定すると
おり、絶縁被覆部と導電路との一体形成の構成を備えるものとして理解されるもの
である。当該認定の誤りをいう原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(「一体成形」に係る構成を一致点又は容易想到とした認定判断
の誤り)について
(1) 原告は、本件発明1の「一体成形」が引用発明1の「一体に形成」と同義
であるとした本件決定の認定は誤りであり、この認定に基づいて、本件発明1の
「一体成形」に係る構成を引用発明1との一致点とした認定も誤りである旨主張す
る。しかし、引用刊行物に、本件決定の認定する引用発明1、すなわち、「・・・
絶縁性ゴムから成る上部開放の筒状の本体部と・・・一対の導電路とを備え、前記
導電路を密接して被覆する絶縁性材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に
形成されている・・・マイクロホン装置」が記載されていることは上記1のとおり
である。そして、本件発明1の「弾性部材から成るマイクロホン収容部」、「接続
端子部」が、それぞれ引用発明1の「絶縁性ゴムから成る上部開放の筒状の本体
部」、「導電ゴムからなる一対の導電路」と同義であるとした認定については当事
者間に争いはないから、引用発明1にいう「前記導電路を密接して被覆する絶縁性
材料からなる絶縁被覆部と前記導電路とが一体に形成されている」構成は、本件発
明1にいう「マイクロホン収容部と前記接続端子とが一体成形されている」構成に
ほかならないというべきである。
原告は、引用刊行物においては、実用新案登録請求の範囲(4)では「一
体に形成」と、第3実施例では「一体にモールド成形されている」との用語が使用
されていることを根拠に、「形成」と「成形」の用語を、異なる意味を持つものと
して厳密に区別して使用している旨主張するが、上記実用新案登録請求の範囲
(4)記載の「一体に形成」の具体的な手段として、第3実施例が「一体にモール
ド成形」する方法を開示したものと理解すべきことは、上記1(3)のとおりであるか
ら、上記主張も採用することができない。
したがって、一致点の認定誤りをいう原告の上記主張は理由がないという
べきである。
(2) なお、原告は、本件発明1の「マイクロホン収容部と前記接続端子とが一
体成形されている」構成に係る本件決定の仮定的な容易想到性の判断の誤りを主張
するが、当該構成は、引用発明1との一致点と見るべきものであるから、原告の上
記主張については判断の限りではない。
3 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利
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