平成13(ネ)5661民事訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年10月3日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
実施10回 侵害6回 許諾3回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成13年(ネ)第5661号通常実施料請求控訴事件(原審・新潟地方裁判所平
成10年(ワ)第459号)(平成14年9月17日口頭弁論終結)
判 決
控訴人(被告) 株式会社チヨダテクノ
訴訟代理人弁護士 杉 浦 正 敏
被控訴人(原告) 株式会社テクノクラフト
訴訟代理人弁護士 小 泉 一 樹
主 文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、第2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
第2 事案の概要
1 被控訴人は、ゴルフ場で使用するコンピュータ制御による移動キャディカー
トシステム(GPS方式キャディカート管理装置)の発明(本件発明)についての
特許出願中に、控訴人との間で、平成7年4月1日ころ、本件発明の実施を許諾す
る旨の契約(本件実施許諾契約)を締結し、その後、平成9年8月27日付けで両
者間に成立した合意(本件合意)により、控訴人に対し、被控訴人製造のGPS方
式キャディーカート管理装置(被控訴人製品)に使用されている基本ソフト(原判
決添付別紙基本ソフト目録記載のもの。以下「被控訴人ソフト」という。)の利用
を許諾するとともに、被控訴人ソフトの複製を交付した。
本件は、控訴人が製造し、成田フェアフィールドコースに販売した「GPS
方式キャディーカート管理装置」(以下、この成田フェアフィールドコースに納品
されたものを「控訴人製品」という。)が本件発明を実施したものであるか否か
(争点(1))、及び控訴人製品において被控訴人ソフトが利用されているか否か(争
点(2))が争われた事案である。
原判決は、争点(1)については、控訴人製品は本件発明の実施品とは認められ
ないとし、争点(2)について、控訴人製品の基本ソフト(控訴人ソフト)は被控訴人
ソフトを利用して開発されたものであると認めて、控訴人は、被控訴人に対して、
本件合意に基づき、控訴人製品の販売価格の7%に当たる280万円の実施料(被
控訴人ソフトを利用した対価)及びこれに対する遅延損害金(年6%)の支払い義
務があるとした。
2 本件において前提となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次の
とおり当審における控訴人の主張を付加する他は、原判決事実及び理由の「第2
事案の概要」欄(原判決1頁下から4行ないし12頁8行)に記載のとおりである
から、これを引用する。
【控訴人の主張】
争点(2)について
原判決は、平成9年8月27日付け合意書(本件合意書、甲10)2条2項
の「利用」の文言の解釈を誤っている。すなわち、本件合意書にいう「利用」と
は、被控訴人ソフトが控訴人ソフトのプログラム著作権を侵害する程度の同一性を
有する場合をいうのであり、原判決が、控訴人は被控訴人ソフトと無関係に独自に
控訴人ソフトを作成したとは考えられないとの理由により「利用」を認めたこと
は、「利用」の誤った解釈に基づくものである。
また、原判決は、①通信フォーマット及び通信プロトコル並びに移動局のド
ライバーソフトの一部の同一性ないし類似性、②基地局に関するデータフォーマッ
トの共通性、及び③控訴人が自動スタートのオプションを作成するために被控訴人
から被控訴人ソフトの複製の交付を受け、その後に作成された控訴人ソフトには自
動スタート機能があること、を根拠として「利用」があったと認定しているが、事
実認定を誤っている。控訴人製品に使用されているソフト(控訴人ソフト)は、控
訴人が新たに作成したものである。通信フォーマット等やデータフォーマットは単
なる取り決め事項であって、コンピュータプログラムとは次元の異なる「仕様」に
関するものにすぎず、これらの共通性ないし類似性をもって「利用」があったと認
定することは論理の飛躍である。また、控訴人製品の自動スタート機能は、もとも
と被控訴人から交付を受けた被控訴人ソフトの複製にも搭載されていない機能であ
り、控訴人が被控訴人ソフトの複製を交付された後に作られた控訴人製品に自動ス
タート機能が搭載されていることは、「利用」があったと認定する根拠にはならな
い。
第3 当裁判所の判断
争点(2)について判断する。
1 被控訴人と控訴人との間に、平成9年8月27日付けで、本件合意書(甲1
0)記載どおりの内容の合意が成立したことは当事者間に争いがないところ、本件
合意書の2条1項には、被控訴人は控訴人に対し被控訴人ソフト(原判決添付別紙
基本ソフト目録記載のもの)の複製を交付する旨が規定され、同条2項には、控訴
人は本件合意書締結の日から平成10年3月31日までの間に被控訴人ソフトを利
用して本件製品を製造・販売するときには、本件製品の販売先顧客名、販売契約成
立の年月日、顧客に対する検収年月日、販売数量、販売価格及び販売代金の7%の
通常実施料額を記載した実施報告書を作成し、被控訴人に交付する旨、規定されて
いる。
2 本件合意に至るまでの経緯及び本件合意後の当事者の交渉については、当裁
判所も、原判決の認定(原判決14頁1行ないし16頁3行)のとおりと認めるも
のである(前提事実、甲12、22ないし29、43、63ないし66、110、
乙1、18、19、当審で提出された乙40、41、及び弁論の全趣旨)。
すなわち、控訴人と被控訴人との間には、控訴人が各地のゴルフコースから
の受注に基づき、被控訴人の製造したGPS方式キャディーカートシステム(被控
訴人製品)を購入し、これを顧客であるゴルフコースに転売、納品するという取引
関係が継続していたところ、平成9年7月ころその代金決済を巡って被控訴人が控
訴人に対する製品供給の停止を通告する等の紛争が生じ、これを解決するために、
両者の間に、同年8月27日、(ア)控訴人は被控訴人に対して未決済の代金支払い
をすること、(イ)被控訴人は控訴人が顧客に要望に応じ自動スタート機能をGPS
方式キャディーカート管理装置のオプションとして提供することができるように被
控訴人ソフトの複製を控訴人に交付すること、(ウ)控訴人は、平成10年3月31
日までの間に、被控訴人ソフトを利用してGPSキャディーカート管理装置の製
造、販売をしたときには、販売代金の7%を支払うこと等を内容とする本件合意が
成立したことが認められる。
3 以上1、2で認定した事実を総合すると、本件合意は、被控訴人と控訴人と
の間の従前の取引関係を実質的に踏襲して、控訴人が被控訴人の開発に係るGPS
キャディーカート管理装置に関連付けられるシステムを顧客に販売したときには、
引き続き、販売価格の7%を「通常実施料」の名目で被控訴人に支払うことを趣旨
とするものと解され、合意書2条2項の「前項による基本ソフト(判決注.被控訴
人ソフト)を利用して本件製品を製造・販売するときは、」にいう「利用」も、以
上のような趣旨を反映して、被控訴人ソフトが控訴人ソフトに依拠しあるいはこれ
を参照して作成されたという程度の緩やかな利用形態を意味していると理解するこ
とが合理的である。本件合意書2条2項を、控訴人の主張するようにプログラム著
作権侵害が成立する程度に控訴人ソフトと被控訴人ソフトとの間に同一性ないし類
似性がある場合に限って7%の支払いを約したものと解することはできない。
原判決は、本件合意書2条2項にいう「利用」の文言の解釈を明示してはい
ないものの、上に述べたのと同様の判断に立って、控訴人ソフトが被控訴人ソフト
を「利用」して作成されたものと認定しているものであり、そのことは、原判決
が、控訴人ソフトが被控訴人ソフトを利用して作成されたものと認定するに当た
り、「しかし、通信プロトコル、実行用マップデータフォーマット、カート位置デ
ータログフォーマット及び基地局GPSデータ内部形式がいずれも原告(被控訴
人)ソフトに含まれることは、本件合意の解釈上明らかであるし、被告(控訴人)
ソフトが原告(被控訴人)ソフトに関するプログラム著作権を侵害する程度に同一
性を有するかどうかという問題は、控訴人ソフトが被控訴人ソフトを利用せずに独
自に作成されたかどうかという問題とは無関係である」旨の説示(原判決21頁6
行ないし11行)をしていることからも明らかである。
4 そして、原判決が控訴人ソフトは被控訴人ソフトを「利用」して作成された
ものであるとした点については、当裁判所も、本件全証拠及び弁論の全趣旨に照ら
し、原審の認定判断(原判決17頁1行ないし21頁17行)のとおりと認めるも
のである。したがって、控訴人は、本件合意に基づき、被控訴人に対し、控訴人製
品の販売価額(少なくとも4000万円。原判決摘示の前提事実)の7パーセント
に当たる280万円の実施料(被控訴人ソフトを利用した対価)及びこれに対する
平成10年8月7日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払う義務
がある。
なお、控訴人は、控訴人ソフトは被控訴人ソフトのプログラム著作権侵害に
当たるような同一性を有していない旨を控訴理由として主張するが、著作権侵害の
有無は、そもそも原判決が判断していない事項であるうえ、著作権侵害が成立する
程度の同一性があるか否かが本件合意にいう「利用」行為の存否とは無関係の事柄
であることは前示のとおりであるから、控訴人の主張はそれ自体失当である。
5 以上のとおりであるから、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第18民事部
裁判長裁判官 永 井 紀 昭
裁判官 古 城 春 実
裁判官 田 中 昌 利
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