平成12(ワ)10742民事訴訟 特許権
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成14年10月1日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告 株式会社クスノキ 原告 フェザー株式会社
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法令 |
特許権
特許法102条2項1回
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キーワード |
特許権4回 差止2回 実施1回 侵害1回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
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判決文
平成12年(ワ)第10742号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年7月30日
判 決
原 告 フェザー株式会社
訴訟代理人弁護士 村 尾 勝 利
被 告 株式会社クスノキ
訴訟代理人弁護士 小 山 雅 男
補佐人弁理士 古 田 剛 啓
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告製品目録1ないし4記載のヘアピースを製造し、販売し、
輸入し、又は販売のために展示をしてはならない。
2 被告は、前項の製品及び半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金5000万円及びこれに対する平成12年10月1
1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、「ヘアピース」の特許発明の特許権者である原告が被告に対し、被
告の販売するヘアピースは同特許発明の技術的範囲に属すると主張して、その製造
販売等の差止めと損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい、その特許
発明を「本件発明」という。)。
ア 発明の名称 ヘアピース
イ 特許番号 第2951259号
ウ 出 願 日 平成8年3月19日(特願平8-62811号)
エ 公 開 日 平成9年9月30日(特開平9-256211号)
オ 登 録 日 平成11年7月9日
カ 特許請求の範囲は、別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の該当
欄記載のとおりである。
(2) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A 偏平に並ぶ毛束を二つに折り重ね、この折り重ね部分に沿って毛束を連
結する連結部を帯状に形成し、
B この帯状の連結部を長さ方向に対してねじり、
C かつ、毛束を前記連結部を中心にしてカールさせている
D ヘアピース。
(3) 被告は、別紙被告製品目録記載1ないし4のヘアピースを製造、販売して
いる(以下、同目録記載1ないし4の順に「イ号製品」、「ロ号製品」、「ハ号製
品」、「ニ号製品」といい、これらを合わせて「被告製品」という。)。
原告は、イ号製品の構造は別紙「イ号製品目録」、ロ号製品の構成は別紙
「ロ号製品目録」、ハ号製品の構成は別紙「ハ号製品目録」、ニ号製品の構成は別
紙「ニ号製品目録」に各記載のとおりであると主張しており、被告は原告の主張す
る同構成を争っている。
(4) 被告製品は、構成要件A、B、Dを備えている。
2 争点
(1) 構成要件Cの充足性
ア 被告製品は「カールさせた毛束」との構成を備えているか。
イ 被告製品は「連結部を中心にしてカールさせている」との構成を備えて
いるか。
(2) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(「カールさせた毛束」との構成の充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 被告製品は、カールさせた毛束(イ号ないしニ号製品目録の毛束2)と、
ちぢれ状(イ号製品)、波状(ロ号製品)、ストレート(ハ号製品)又はらせん状
(ニ号製品)(イ号ないしニ号製品目録の毛束3)の2種類の毛束から成るヘアピ
ースであり、2種類の毛束のうち、前者が「カールさせた毛束」との構成を備えて
いる。
(2) 被告は、被告製品が、ストレート状略直線毛と、ちぢれ状(イ号製品)、
波状(ロ号製品)、ストレート(ハ号製品)又はらせん状(ニ号製品)の2種類を
結合していることを理由に、構成要件Cを充足しないと主張するようである。
しかし、被告のいうストレート状略直線毛(イ号ないしニ号製品目録の毛
束2に相当する。)がカールさせた毛束に当たる以上、被告製品に、ちぢれ状、波
状、ストレート又はらせん状の毛束も使用されていることは、本件発明にこれらの
毛束を付加したにすぎず、被告製品の構成要件充足性に影響を与えない。
〔被告の主張〕
(1) 構成要件Cにいう「カールさせた毛束」とは、強いカールが施されている
形状の片側帯状毛束(通称「片ミノ毛」)のみから構成されているものに限定さ
れ、形状の異なる二つ以上の片ミノ毛を複合的に組み合わせた製品は、本件発明の
技術的範囲に属さない。
「カール」とは、通常、直径約20㎜~30㎜以内の曲率半径の円周状を
形成する状態をいい、曲率半径が約50㎜以上になると人間の頭の曲率半径に近づ
くため、こうした状態は、「カール」とはいえず、ストレート(略直線毛)と呼ん
で差し支えない。
(2) 被告製品は、ストレートに近い略直線毛による毛束(毛質を柔らかく、作
業性を良くするために熱処理を施した毛束)と、ちぢれ状(ワッフル)、波状(ウ
ェーブ)、直線状(ストレート)又はらせん状(スパイラル)の各形状の毛束とい
う、形状の異なる二つの片ミノ毛を、複合的に組み合わせた両側毛束(通称「両ミ
ノ毛」)であり、本件発明の構成要件Cにいう「カールさせた毛束」との構成を備
えていない。
2 争点(1)イ(「連結部を中心にしてカールさせている」との構成の充足性)に
ついて
〔原告の主張〕
(1) 本件発明の構成要件Cにいう「連結部を中心にしてカールさせている」と
は、連結部がねじれを構成できる程度の長さを持った毛の束(ミノ毛)にカールを
施し、これを連結部で長さ方向にねじることによって形成された円筒状の毛束全体
の中心に連結部があることと解するのが相当である。
(2) 本件公報の記載を一般的な技術水準を有する当業者が読めば、従来技術と
してあった帯状の連結部を有するカールした毛束の方向が揃えられていたことによ
る課題を、連結部を長さ方向に対してねじることにより毛束がほぐれて広がり、毛
束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになる結果ヘアピースの外観が軽やかになると
ともに、毛束が連結部を覆い隠して連結部が外部に露出せず、ヘアピースの見栄え
が良くなるというのが本件発明の技術思想であると容易に理解することができる。
このような本件発明の技術思想からすれば、「毛束を前記連結部を中心に
してカールさせている」との構成は、上記(1)記載のとおり解すべきであり、そのこ
とにより、カールした毛束が連結部を中心にほぐれて広がり、中心にある連結部を
覆い隠す状態となることを意味しているものと解釈できる。
(3) 被告は、「毛束を連結部を中心にカールさせている」の「毛束」を、単に
1本の毛又は一つのピッチ(連結部)と理解し、構成要件Cの意義を、カールさせ
た1本の毛若しくは一つのピッチについてカールの中心が連結部に位置することを
意味すると主張するようであるが、かかる解釈は、特許請求の範囲で使用されてい
る「毛束」の意味を二通りに解釈するもので正当でなく、一般的な技術水準を有す
る当業者が、ヘアピースに使用された「毛束」の意味を通常「ミノ毛」と理解する
ことからみても相当でない。
〔被告の主張〕
(1) 本件発明の構成要件Cにいう「連結部を中心にしてカールさせている」と
は、連結部を中心にして毛束をカールさせることを意味すると解すべきである。原
告は、カールさせた毛束の連結部を長手方向にねじることによって形成される円筒
状の毛束全体の中心に、連結部が位置することを意味すると解すべきであると主張
するが、本件公報の記載からは、そのように解することはできない。
(2) 被告製品は、連結部を中心にして毛束をカールさせたものではない。
このことは、被告製品の製造工程をみても明らかである。すなわち、被告
製品の製造工程は、別紙「被告製品の製造工程図」記載のとおりであり、①帯状連
結部7aを始端とした平面状の毛束Mと、帯状連結部7bを始端とした平面状の毛
束Nとを並べて連結部7a、7bを縫い合わせ(同別紙の図1)、②毛束Mをロッ
ドに巻き付けてカールさせる(同別紙の図2)、というものである。毛束Mをロッ
ドに巻き付ける際、毛束Mが他の毛束Nと接触してクロスすると縺れてしまうため
(同別紙の図4参照)、毛束Mは他の毛束Nによって決められる平面を越えること
はない(同別紙の図3参照)。したがって、被告製品のカール毛束の中心Pは、帯
状連結部7a、7bの中心Qから外れた位置となる。
(3) また、本件公報の【発明の詳細な説明】の【発明の効果】の項によれば、
本件発明は「毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになるので、ヘアピースの外観
が軽やかになる。また、毛束が連結部を覆い隠すので、連結部が外部に露出せず、
ヘアピースの見栄えを良くすることができる。」(4欄16~20行)と記載されてい
るが、被告製品は、カール毛束の中心Pが、帯状連結部7a、7bの中心Qから外
れた位置になっているため、そのような効果を有しない。
(4) したがって、被告製品は「毛束を前記連結部を中心にしてカールさせてい
る」(構成要件C)との構成を備えていない。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
(1) 被告は、平成11年7月10日から平成12年9月9日までの間に被告製
品を少なくとも数量25万個、金額にして2億5000万円以上販売した。
被告が被告製品の販売によって得た利益は、売上額の20%、金5000
万円を下ることはない。
(2) よって、原告が、被告による被告製品の販売により被った損害は5000
万円と推定される(特許法102条2項)。
〔被告の主張〕
原告の主張事実は争う。
被告は、平成11年4月末ころまで被告製品を販売していたが、その後は販
売していない。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)ア(「カールさせた毛束」との構成の充足性)について
(1) 「カール」とは、広辞苑〔第五版〕には「頭髪を巻きちぢらすこと。巻き
毛」と記載されており、本件公報の図1(本件発明のヘアピースを示す一部省略斜
視図)には毛束が円周状に巻かれた状況が示されていることからすると、構成要件
Cの「カール」とは、円周状に巻かれた状態を意味すると解される。
甲11~14の各1~3、検甲9~11によれば、被告製品は、直径約3~
4㎝程度の円周状に巻かれた片側帯状毛束(片ミノ毛)と、ちぢれ状(イ号製
品)、波状(ロ号製品)、ストレート(ハ号製品)又はらせん状(ニ号製品)の片
側帯状毛束という2種類の毛束が連結部で縫合されたものであることが認められ
る。
したがって、被告製品は、円周状に巻かれた状態の毛束、すなわち「カー
ルさせた毛束」との構成を備えている。
(2) なお、被告は、「カール」とは、直径約20㎜~30㎜以内の曲率半径の
円周状を形成する状態をいい、曲率半径が約50㎜以上になると人間の頭の曲率半
径に近づくため、こうした状態は「カール」とはいえず、ストレート(略直線毛)
と呼んで差し支えないと主張するが、本件公報中の記載には、「カール」との文言
が、直径約20㎜~30㎜以内の曲率半径の円周状を形成する状態をいうと限定し
て解さなければならないとする根拠はなく、本件全証拠によっても、当業者間にお
いて「カール」の語が被告主張のような意義で用いられていることを示す事情は認
められない。
また、被告は、人間の頭の曲率半径に近づくような曲率半径が約50㎜以
上の円周状に巻かれた状態は「カール」に当たらないと主張するが、上記(1)のとお
り、被告製品の一方の片ミノ毛(被告が略直線毛と呼称するもの)は、直径約3~
4㎝程度の円周状に巻かれた毛束から構成されており、被告が主張するような人間
の頭の曲率半径に近い円周状に巻かれたものではない。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
(3) また、被告は、本件発明のヘアピースは、強いカールが施された片ミノ毛
のみからなるものを意味し、形状の異なる二つ以上の片ミノ毛を複合的に組み合わ
せた製品は、本件発明の技術的範囲に属さないと主張する。
しかしながら、被告製品が本件発明の構成要件Cにいう「カールさせた毛
束」との構成を備えていることは上記のとおりであり、本件公報の特許請求の範囲
及び発明の詳細な説明によっても、本件発明が「カールさせた毛束」以外の毛束を
含む構成を除外するものであることを認めるに足りる記載はない。
したがって、被告製品が「カールさせた毛束」と、ちぢれ状、波状、スト
レート又はらせん状の各毛束との2種類から構成されることをもって、「カールさ
せた毛束」との構成を備えないとする被告の主張は理由がない。
2 争点(1)イ(「連結部を中心にしてカールさせている」との構成の充足性)に
ついて
(1) 「連結部を中心にしてカールさせている」との構成の解釈について
ア 【特許請求の範囲】の記載をみると、構成要件Cは「毛束を前記連結部
を中心にしてカールさせている」とされているから、この文言からすれば、「連結
部を中心にして」との文言は「カールさせる」に掛かり、「(毛束を)カールさせ
る」すなわち円周状に巻かれた状態に形成する際に、「連結部を中心」にした円周
状にすることを意味すると解するのが自然な解釈である。
イ さらに、本件公報の【発明の詳細な説明】の記載を検討する。
(ア) 【従来の技術および発明が解決しようとする課題】の項には、「従
来より、このようなヘアピースは、図3に示すように、偏平に並ぶ毛束8と、この
毛束8を互いに連結する帯状の連結部7とからなり、この毛束8をカールしたもの
を、ネットベースに取り付けて形成されている。」(1欄12~2欄1行)、「しか
し、(従来の)このようなヘアピースでは、前記した毛束の方向が揃えられている
ために、デザインが見た目に重く感じられるという問題や、前記連結部が外部から
見えやすいために、この連結部を目立たないようにしようとすると、毛束の量が多
くなり、軽やかな外観を損なうという問題があった。」(2欄6~11行)、「そこで
この発明は、ヘアピースの外観を軽やかにするとともに、毛髪の連結部分を外部か
ら目立たないようにして、ヘアピースの見栄えを良くすることを課題とする。」
(2欄12~15行)と記載されている。
(イ) 【課題を解決するための手段】の項には、「(本件発明の)構成を
採用すると、連結部が長さ方向に対してねじれているので、毛束の毛髪が連結部を
中心にして立体的に広がって、軽やかな外観が得られる。」(3欄6~9行)、「ま
た、この毛髪が連結部を中心にしてカールしているので、連結部が毛束によって全
体に覆い隠されることとなる。」(3欄9~11行)と記載されている。
(ウ) 【発明の実施の形態】の項には、
a 「連結部1は、長さ方向に対してねじれた形状をなしている。ま
た、毛束2は、偏平に並べた多数の毛髪をカールして形成されており、連結部1の
周囲を囲んでいる。」(3欄17~20行)、
b 「このように形成されたヘアピースにおいては、連結部1が前記し
たようにねじれているので、毛束2を構成する毛髪がそれぞれほぐれて広がり、ヘ
アピースの外観が軽やかとなる。」(4欄2~5行)、
c 「そして、毛束2を構成する毛髪が連結部1の周囲を囲んで、連結
部1を覆い隠すので、連結部1が外部に露出することがない。」(4欄6~8行)
と記載されている。
(エ) 【発明の効果】の項は、「ねじれた形状の連結部によって毛束がほ
ぐれて広がり、毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになるので、ヘアピースの外
観が軽やかになる。」(4欄15~17行)、「また、毛束が連結部を覆い隠すので、
連結部が外部に露出せず、ヘアピースの見栄えを良くすることができる。」(4欄
18~20行)と記載されている。
ウ 【発明の詳細な説明】の上記記載からすれば、本件発明は、毛束の方向
が揃えられていた従来のヘアピースが有していた、デザインが見た目に重く感じら
れるという課題に加え、毛束を互いに連結した帯状の連結部が外部から見えやすい
ことから、これを目立たせないためには毛束の量を増やさざるを得ず、軽やかな外
観を損なうという課題を解決するため、「帯状の連結部を長さ方向に対してねじ
る」構成を採ることにより、毛束が連結部を中心にしてほぐれ、一つ一つのカール
(毛髪)が立体的に広がることでヘアピースの外観を軽やかにするとともに、「毛
束を連結部を中心にしてカールさせる」構成を取ることにより、毛束が連結部を覆
い隠して連結部が外部に露出せず、ヘアピースの見栄えが良くなるようにしたとこ
ろに、その技術思想があるというべきである。
そして、上記イ(イ)の記載からすれば、毛束を連結部を中心としてカー
ルさせるという構成は、連結部を長さ方向に対してねじることにより様々な方向に
ほぐれた一つ一つのカール(毛髪)が各々連結部の周囲を囲むことにより、連結部
を全体に覆い隠すための手段であると解すべきである。そうすると、「毛束を前記
連結部を中心にしてカールさせる」とは、毛束を巻いてカールを形成する際に、完
成した一つ一つのカールの最も内側(中心点)に連結部が位置するようにするこ
と、すなわち、毛束を巻くときの中心(製造時のロッドの位置)を連結部に置くこ
とと解するのが相当である。
エ(ア) 原告は、構成要件Cは「カールした毛束をねじることによって形成
される円筒状の毛束全体の中心に、連結部が位置する」と解すべきであると主張す
る。しかしながら、本件公報には、【特許請求の範囲】にも【発明の詳細な説明】
にも、原告の上記主張を裏付けるような記載はない。かえって、上記イ(イ)のとお
り、本件公報の【発明の詳細な説明】中に、毛束を構成する「毛髪」が連結部を中
心にしてカールしていることにより、連結部が毛束によって全体に覆い隠されると
の記載が存在することを考慮すると、連結部の位置は、長さ方向にねじることによ
りほぐれた毛髪(一つ一つのカール)の中心にあることを要すると解するのが相当
であり、原告の上記主張は理由がない。
(イ) また、原告は、本件公報の記載から認められる本件発明の技術思想
からすれば、構成要件Cを原告主張のとおり解すべきであり、そのことにより、カ
ールした毛束が連結部を中心にほぐれて広がり、中心にある連結部を覆い隠す状態
となることを意味しているものと解釈できると主張するが、上記ウ記載のとおり、
「連結部を覆い隠す」という効果は、毛束をねじることによってのみ得られるもの
ではなく、毛束をカールさせる際に「連結部を中心」にするという構成を採ること
も大きく寄与するものであるから、原告の主張は理由がない。
(ウ) さらに、原告は、「連結部を中心にしてカールさせている」のは、
その連結部がねじれを構成できる程度の長さを持った「毛束」であって、1本の
「毛」でもないし、また一つの「ピッチ」(連結部の縫合の最小単位)でもないと
主張する。
しかし、仮に、原告が主張するように「毛束」とは、1本の「毛」や
一つの「ピッチ」ではなく、連結部がねじれを構成できる程度の長さを持った「毛
束」であると解すべきであるとしても、そのことから直ちに、構成要件Cを「カー
ルさせた毛束をねじることによって形成される円筒状の毛束全体の中心に、連結部
が位置する」と解すべきことに結びつくものではない。
(エ) その他に、本件公報中には、原告が主張するような「カールさせた
毛束をねじることによって形成される円筒状の中心に、連結部が位置する」との解
釈を基礎付ける記載は見当たらない。
オ 以上によれば、「(毛束を)連結部を中心にしてカールさせている」
(構成要件C)は、毛束を「カール」させる、すなわち円周状に巻かれた状態にす
る際に、「連結部を中心」にした円周状にすることを意味すると解すべきである。
(2) 構成要件Cの上記解釈に従って、被告製品が「毛束を連結部を中心にして
カールさせている」との構成を備えているか否かについて検討する。
ア 原告は被告製品の構成が別紙イ号ないしニ号製品目録記載のとおりであ
ると主張するが、各別紙添付の図1の記載からすれば、連結部は、「カール」すな
わち円周状に巻かれた状態の毛束2の円周上に位置しており、同毛束2が「連結部
を中心」にした円周状であるとは認められない。
イ また、甲11~14の各1~3、検甲9~11によっても、市販されてい
る被告製品は、上記各別紙添付の図1の記載と同じように、連結部は円周状に巻か
れた状態の円周上に位置していることが認められる。
ウ さらに、乙24及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の製造工程は、別
紙「被告製品の製造工程図」記載のとおりであり、①帯状連結部7aを始端とした
平面状の毛束Mと、帯状連結部7bを始端とした平面状の毛束Nとを並べて連結部
7a、7bを縫い合わせ(同別紙の図1)、②毛束Mをロッドに巻き付けてカール
させる(同別紙の図2)というものであることが認められ、こうした製造工程から
みても、被告製品の連結部が円周状に巻かれた状態の円周上に位置することが裏付
けられる。
エ そうすると、被告製品は、「毛束を連結部を中心にしてカールさせてい
る」との構成を備えていると認めることはできず、構成要件Cを充足するとはいえ
ない。
3 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいず
れも理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 小 松 一 雄
裁判官 阿 多 麻 子
裁判官 前 田 郁 勝
(別紙) 被告製品目録
1 イ号製品
製品名:AM6W、ツイストシニヨンワッフル
ただし、品番の末尾に「A」が付加されたものを含む。
2 ロ号製品
製品名:AM6V、ツイストシニヨンウエーブ、ツイストミノウエーブ
ただし、品番の末尾に「A」が付加されたものを含む。
3 ハ号製品
製品名:AM6S、ツイストシニヨンストレート、ツイストミノストレート
ただし、品番の末尾に「A」が付加されたものを含む。
4 ニ号製品
製品名:AM306、AM59
ただし、品番の末尾に「A」が付加されたものを含む。
(別紙) イ号製品目録
1 図面の説明
第1図は連結部を長さ方向に対してねじる前の全体を示す斜視図
第2図は連結部を長さ方向に対してねじった後の全体を示す斜視図
2 構造の説明
(1) カールさせた毛束2とちぢれ状に変形させた毛束3の二種類の毛束を互いの
連結部1で縫合している。
(2) 二種類の毛束2、3は、それぞれ毛束を偏平に並べて二つに折り重ね、この
折り重ね部分に沿って毛束を連結する連結部1を帯状に形成している。
(3) 帯状の連結部1は長さ方向に対してねじれている。
(4) 毛束2、3を前記連結部を中心にカールさせている。
(別紙) ロ号製品目録
1 図面の説明
第1図は連結部を長さ方向に対してねじる前の全体を示す斜視図
第2図は連結部を長さ方向に対してねじった後の全体を示す斜視図
2 構造の説明
(1) カールさせた毛束2と波状に変形させた毛束3の二種類の毛束を互いの連結
部1で縫合している。
(2) 二種類の毛束2、3は、それぞれ毛束を偏平に並べて二つに折り重ね、この
折り重ね部分に沿って毛束を連結する連結部1を帯状に形成している。
(3) 帯状の連結部1は長さ方向に対してねじれている。
(4) 毛束2を前記連結部を中心にカールさせている。
(別紙) ハ号製品目録
1 図面の説明
第1図は連結部を長さ方向に対してねじる前の全体を示す斜視図
第2図は連結部を長さ方向に対してねじった後の全体を示す斜視図
2 構造の説明
(1) カールさせた毛束2とストレートの毛束3の二種類の毛束を互いの連結部1
で縫合している。
(2) 二種類の毛束2、3は、それぞれ毛束を偏平に並べて二つに折り重ね、この
折り重ね部分に沿って毛束を連結する連結部1を帯状に形成している。
(3) 帯状の連結部1は長さ方向に対してねじれている。
(4) 毛束2を前記連結部を中心にカールさせている。
(別紙) ニ号製品目録
1 図面の説明
第1図は連結部を長さ方向に対してねじる前の全体を示す斜視図
第2図は連結部を長さ方向に対してねじった後の全体を示す斜視図
2 構造の説明
(1) カールさせた毛束2とらせん状の毛束3の二種類の毛束を互いの連結部1で
縫合している。
(2) 二種類の毛束2、3は、それぞれ毛束を偏平に並べて二つに折り重ね、この
折り重ね部分に沿って毛束を連結する連結部1を帯状に形成している。
(3) 帯状の連結部1は長さ方向に対してねじれている。
(4) 毛束2を前記連結部を中心にカールさせている。
(別紙) 被告製品の製造工程図
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