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平成12(行ケ)361行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年7月18日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条1項3号2回
民事訴訟法62条1回
キーワード 審決21回
無効4回
刊行物1回
実施1回
特許権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第361号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成14年7月18日
判          決
原      告    豊田合成株式会社
原      告    株式会社豊田中央研究所
原      告    名古屋大学長松尾稔
原      告    科学技術振興事業団
4名訴訟代理人弁護士  大 場 正 成
同 尾 崎 英 男
同 嶋 末 和 秀
同 黒 田 健 二
同訴訟複代理人弁護士 吉 村   誠
4名訴訟代理人弁理士  平 田 忠 雄
同 松 原   等
同訴訟複代理人弁理士 藤 谷   修
  被      告    日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士    品 川 澄 雄
同           山 上 和 則
同     吉 利 靖 雄
同     野 上 邦五郎
同     杉 本 進 介
同     冨 永 博 之
訴訟代理人弁理士  豊 栖 康 弘
同     青 山   葆
同     河 宮   治
同     石 井 久 夫
同     北 原 康 廣
同     田 村   啓
主           文
1 特許庁が平成9年審判第19470号事件について平成12年8月8日
にした審決中,特許第2623466号の請求項1に係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
1 原告らの請求
(1) 主文1項と同旨
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 当事者間に争いのない事実
(1) 特許庁における手続の経緯
原告らは,発明の名称を「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」とする特
許第2623466号の特許(平成2年2月28日特許出願,平成9年4月11日
設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成9年11月13日,本件特許を請求項1ないし4のいずれに関
しても無効にすることについて,審判を請求した。
 特許庁は,これを平成9年審判第19470号事件として審理し,その結
果,平成12年8月8日,「特許第2623466号発明の明細書の請求項1乃至
4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担と
する。」との審決をし,その謄本を同年8月28日に原告らに送達した。
(2) 審決の理由
審決の理由は,①平成8年11月15日付け手続補正書による補正が,本件
特許の出願当初明細書の要旨を変更するものであるため,本件特許の出願は同補正
日になされたものとみなされ,その結果,本件特許の特許請求の範囲の請求項1な
いし4に係る発明は,本件特許に係る公開公報(特開平3-252175号)に記
載された発明であると認められ,特許法29条1項3号の規定に違反して登録され
たものということになる,②本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る
発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明から当業者が容易に
発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して登録
されたものである,③本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明
は,本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の
詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構
成及び効果が記載されているとは認められず,平成2年法律30号改正前の特許法
(以下「旧特許法」という。)36条3項の規定に違反してなされたものである,
とするものである。
(3) 原告らは,本訴係属中の平成14年1月8日に,本件特許に係る異議申立事
件(平成9年異議第75898号)の審理の過程において,本件明細書の訂正を求
める訂正請求書を提出した。特許庁は,同異議事件について審理し,その結果,平
成14年1月31日に,上記訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものである
こと,及び,独立特許要件があることを認めて,訂正をすることを認め(以下「本
件訂正」という。),本件特許の請求項1に係る特許を維持する,との異議の決定
をし,これが確定した。
(4) 本件訂正の内容
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】サファイア基板と,サファイア基板上に有機金属化合物気相
成長法により形成された窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含
む)の気相成長膜を有する発光素子であって,前記気相成長膜は,前記気相成長時
に導入されたシリコンを含むことにより抵抗率が3×10-1~8×10-3Ωcmである
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】前記気相成長膜は窒化ガリウム(GaN)であることを特徴と
する請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】前記サファイア基板と前記気相成長膜との間に,バッファ層を
有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】前記バッファ層は,気相成長膜の成長温度より低温で,サファ
イア基板上に有機金属化合物気相成長法により形成されたことを特徴とする請求項
3に記載の発光素子。」
(イ) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線部が訂正
された箇所である。)。
「【請求項1】サファイア基板と,サファイア基板上に有機金属化合物気相成
長法により形成された窒化ガリウム化合物半導体(GaN)の気相成長膜と,前記
サファイア基板と前記気相成長膜との間に,前記気相成長膜の成長温度より低温で
サファイア基板上に有機金属化合物気相成長法により形成されたバッファ層とを有
する発光素子であって,前記気相成長膜は,前記気相成長時にドーピングされたシ
リコンがドナーとして作用して抵抗率を3×10-1~8×10-3Ωcmの範囲の所望の
値に設定できる制御可能状態で形成されたN型の層であることを特徴とする窒化ガ
リウム系化合物半導体発光素子。」
(【請求項2】,【請求項3】,【請求項4】はいずれも削除された。その
後,本件特許の請求項2ないし4を無効とした審決を取り消すとの訴えは,取り下
げられた。)
3 争点
 本件訂正により本件特許に係る特許請求の範囲が減縮されたか。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 原告ら
(ア) 本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「訂正前発明1」という。)と本
件訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正後発明1」という。)とを比較すれ
ば,特許請求の範囲が減縮されていることは,明らかである。
(イ) 被告は,本件訂正により特許請求の範囲が減縮されたかどうかについて
は,本件訂正前の請求項4に係る発明(以下「訂正前発明4」という。)と,訂正
後発明1とを比較して判断すべきである,と主張する。しかし,両者の請求項を比
較しても,前者において,「前記気相成長膜は,前記気相成長時に導入されたシリ
コンを含むことにより抵抗率が3×10-1~8×10-3Ωcmである」とされていたも
のが,後者において「前記気相成長膜は,前記気相成長時にドーピングされたシリ
コンがドナーとして作用して抵抗率を3×10-1~8×10-3Ωcmの範囲の所望の値
に設定できる制御可能状態で形成されたN型の層である」と減縮されたものである
ことは明らかである。
(ウ) 審決は,訂正後発明1において追加された要件について審理判断していな
い。したがって,審決は,取り消されるべきである(最3小判平成11年3月9
日・民集53巻3号303頁)。
(2) 被告
(ア) 本件訂正は,請求項1ないし4をまとめて請求項1と訂正したものである
から,訂正後発明1の特許請求の範囲が減縮されたかどうかは,本件訂正前の請求
項1ないし4全体と本件訂正後の請求項1とを比較すべきである。
  仮に,本件訂正により,本件訂正前の請求項1が本件訂正後の請求項1に
訂正されたものであるとしても,最3小判平成11年3月9日の趣旨は,特許請求
の範囲が訂正により減縮された場合には,新たな要件が付加されているため,改め
て公知事実との対比を行わなければ,同発明が特許を受けることができるかどうか
の判断をすることができず,このような判断を,特許庁における審判の判断を経る
ことなく,審決取消訴訟の係属する裁判所において第1次的に行うことはできない
というものであることからすれば,本件についても,特許庁が,審判において,訂
正後発明1について,既に審理判断していたかどうかによって決すべきである。訂
正後発明1が審判において既に審理判断された訂正前発明4と同一であった場合に
ついてまで,審決を取り消すべき理由はない。
(イ) 本件訂正前の請求項4は,請求項3に従属し,同請求項3は請求項2に従
属し,同請求項2は請求項1に従属しているから,請求項4を単独で(請求項1な
いし3の内容を明示して)記載すると次のとおりである。
 「【請求項4】 サファイア基板と,サファイア基板上に有機金属化合物気
相成長法により形成された窒化ガリウム化合物半導体(GaN)の気相成長膜と,
前記サファイア基板と前記気相成長膜との間に,前記気相成長膜の成長温度より低
温で,サファイア基板上に有機金属化合物気相成長法により形成されたバッファ層
とを有する発光素子であって,前記気相成長膜は,前記気相成長時に導入されたシ
リコンを含むことにより抵抗率が3×10-1~8×10-3Ωcmであることを特徴とす
る発光素子。」
  この訂正前発明4と訂正後発明1とを比較すれば,前者において,「前記
気相成長膜は,前記気相成長時に導入されたシリコンを含むことにより抵抗率が3
×10-1~8×10-3Ωcmである」とされていたものが,後者において「前記気相成
長膜は,前記気相成長時にドーピングされたシリコンがドナーとして作用して抵抗
率を3×10-1~8×10-3Ωcmの範囲の所望の値に設定できる制御可能状態で形成
されたN型の層である」とされた点だけが相違するにすぎない。
  そして,本件明細書の記載によれば,訂正前発明4の上記の「前記気相成
長膜は,前記気相成長時に導入されたシリコンを含むことにより抵抗率が3×10-1
~8×10-3Ωcmである」との構成は,「前記気相成長膜は,前記気相成長時にドー
ピングされたシリコンがドナーとして作用して抵抗率を3×10-1~8×10-3Ωcm
の範囲の所望の値に設定できる制御可能状態で形成されたN型の層である」との意
味で記載されていたことは明らかであり,審決もこのような意味に解釈して公知技
術との対比をしていたのである。したがって,訂正後発明1は,審判において既に
審理判断された訂正前発明4と同一であるから,審決を取り消すべき理由はない。
5 当裁判所の判断
(1) 上記当事者間に争いのない事実及び証拠(甲76,77)によれば,本件訂
正は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1を,訂正後の請求項1と訂正し,訂正前
の請求項2ないし4を削除したものであると認められる。したがって,訂正前発明
1は,本件訂正により,訂正後発明1に訂正されたものである。そして,両者を比
較すれば,その特許請求の範囲が減縮されたものであることは,明らかである。
(2) 原告らの挙げる最高裁判決(最3小判平成11年3月9日)は,特許請求の
範囲が訂正により減縮された場合には,新たな要件が付加されているのであるか
ら,改めて公知事実との対比を行わなければ,同発明が特許を受けることができる
かどうかの判断をすることができず,このような判断を,特許庁における審判の判
断を経ることなく,審決取消訴訟の係属する裁判所において第1次的に判断を行う
ことはできないと判示したものである。この最高裁判決の判示からすれば,本件に
おいては,訂正前発明1ないし4について,既に審判により審理判断がされている
のであるから,特許庁における審判の判断を経ることなく,審決取消訴訟の係属す
る裁判所において判断を行うことができるか否かは,単に訂正前発明1だけとでは
なく,訂正前発明1ないし4のすべてと比較して,決定すべきことになるのは,当
然である。具体的には,訂正前発明1ないし4のうち,訂正後発明1に最も近似し
ているのが訂正前発明4であることは,明らかであるから,これと訂正後発明1と
を比較した上で,これを判断すべきである。すなわち,訂正前発明4の特許性が審
決において判断され,その後,この発明に係る請求項が本件訂正により削除された
としても,訂正後発明1の請求項がこの削除された請求項と同一であった場合につ
いては,訂正後発明1については既に審判による審理判断がなされているとみるこ
とができるのであるから,本件訂正が確定し,訂正前の請求項4が削除されたとの
理由のみによって,審決を取り消すべきではない,というべきである。
(3) 被告は,訂正後発明1は,審判により審理判断された訂正前発明4と同一で
ある,と主張する。しかし,この訂正前発明4と訂正後発明1の特許請求の範囲を
比較すれば,前者において,「前記気相成長膜は,前記気相成長時に導入されたシ
リコンを含むことにより抵抗率が3×10-1~8×10-3Ωcmである」とされていた
ものが,後者において「前記気相成長膜は,前記気相成長時にドーピングされたシ
リコンがドナーとして作用して抵抗率を3×10-1~8×10-3Ωcmの範囲の所望の
値に設定できる制御可能状態で形成されたN型の層である」と,下線を付加した部
分が付加されて訂正されたものであることは,明らかである。この訂正が,発明を
特定する特許請求の範囲の文言を,訂正前のものから,これに新たな要件を付加す
る形のものを加えるものであることは,明らかである。
  被告は,本件明細書の記載によれば,訂正前発明4における前者の記載が,
訂正後発明1における後者の記載の意味で記載されているものであることは明らか
である,と主張する。しかし,訂正後発明1の特許請求の範囲の記載は,上記認定
のとおり,一見する限り,訂正前発明4に新たな要件を付加するものとなっている
のであるから,この新たな要件のようにみえるものについて,これが訂正後発明1
において,どのような意味を与えているのか,被告が主張するように訂正前発明4
のものと実質的に同趣旨のものとみることができるのかどうか,ということがまず
問題となるのであり,これにつき,特許庁における審判の審理判断を経ることな
く,審決取消訴訟の係属する裁判所において第1次的に判断を行うことはできない
ものと解さざるを得ないのである。
(4) 上述したところによれば,本件特許の訂正前の請求項1については,特許法
29条1項3号,特許法29条2項,旧特許法36条3項の規定に違反して登録さ
れた特許であることを理由に特許を無効とした審決の取消しを求める訴訟の係属中
に,当該特許に係る発明を特定する特許請求の範囲につき,それを減縮する形で文
言を変更する本件訂正を認めた異議の決定が確定したということになり,審決は,
結果として,判断の対象となるべき発明の要旨の認定の基礎となる特許請求の範囲
の文言の認定を誤ったものとなる。この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明
らかである。したがって,審決は取消しを免れない。
6 以上によれば,本訴請求は理由がある。そこで,これを認容し,訴訟費用の負
担については,原告らに負担させるのを相当と認め,行政事件訴訟法7条,民事訴
訟法62条,65条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     設   樂   隆   一
裁判官     高   瀬   順   久
(別紙)
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