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平成13(ワ)1560民事訴訟 意匠権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成14年6月28日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法48条1項1号1回
キーワード 意匠権5回
無効5回
侵害2回
新規性2回
損害賠償1回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(ワ)第1560号  損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成14年4月19日
    判      決
原      告     株式会社コム
訴訟代理人弁護士     相 葉 和 良
補佐人弁理士      重 信 和 男
同  清 水 英 雄
被      告     エスエムシー株式会社      
訴訟代理人弁護士     渡 邊  敏
補佐人弁理士       林   宏
同      川 添 不美雄
      主      文
    1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は,原告の負担とする。
    事実及び理由
第1 請求
  被告は,原告に対し,金1億4223万5333円及びこれに対する平成1
2年7月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 
第2 事案の概要等
1 争いのない事実
(1) 原告は,半導体関連装置機械器具の設計製作及び販売,機械器具における
真空装置の設計製作及び販売,精密機械器具の受託加工及び販売等を目的とする株
式会社である。
 被告は,各種濾過装置の製造販売,自動制御機器製品の製造加工販売を目
的とする株式会社である。
(2) 原告は,次の意匠権(以下,「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本
件意匠」という。)を有している。
【出願日】      平成4年4月28日
【登録日】      平成9年10月31日
【登録番号】     第1002366号
【意匠に係る物品】 バルブ用筺体
【登録意匠】 別添「意匠公報」記載のとおり
(3) 被告は,平成8年8月ころから平成12年6月ころまでの間,業として別
紙物件目録1ないし11記載の意匠を有するバルブ(以下,これらを総称して「被
告製品」といい,例えば別紙物件目録1記載の被告製品を「被告製品1」とい
う。)を製造し,販売した(以下,被告製品の意匠を総称して「被告意匠」とい
い,例えば,被告製品1の意匠を「被告意匠1」という。)。
(4) 本件意匠は物品「バルブ用筺体」に係るものであり,被告製品も「バルブ
用筺体」であるから,意匠に係る物品は同一である。
2 事案の概要
 本件は,本件意匠権を有している原告が,被告に対し,被告製品の意匠が本
件意匠と類似しているから,被告による被告製品の製造販売行為は,本件意匠権の
侵害であると主張して,損害の賠償を求める事案である。
3 本件の争点
(1) 被告意匠が本件意匠と類似しているかどうか。
(2) 本件意匠登録に無効理由が存在することが明らかであるかどうか。
ア 乙3の1(乙6の3)のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に
記載されているSerie(シリーズ)12のアングルバルブ(以下「本件アングルバル
ブ」という。)の筺体の意匠(以下「本件アングルバルブ意匠」という。)は,本
件意匠登録出願前に公知であったもので,これにより本件意匠登録は新規性がない
ということができるかどうか。
イ 被告が開発した超高速真空製造システムの弁カバー(別紙写真の符号8
のもの)の意匠と乙1の1,2,5の意匠により本件意匠を創作することが容易で
あったかどうか。
(3) 原告の損害等
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【原告の主張】
(1) 本件意匠の構成態様(以下の番号は別紙図面1記載の番号を指す。)
 ア 基本的構成態様
 バルブ部品等取付用円柱状孔(6)を内側に設け,下部に円錐状部(3)を配
した略正四角柱の本体(1)と,本体(1)略正四角柱のひとつの平坦な垂直壁面下部中
央から突設した環状フランジを有する円筒状管継ぎ手部(4)と,本体(1)略正四角柱
下部の円錐状部(3)から突設した環状フランジを有する円筒状管継ぎ手部(5)とから
構成され,全体として一体化した態様となっている。
 イ 具体的構成態様
(ア) 本体(1)略正四角柱垂直壁面各面には下部の円錐状部(3)と平坦な垂直
壁面との境界に円弧状線(2)が形成され,また本体(1)略正四角柱垂直壁面角部には
面取り(8)が配されている。
 (イ) バルブ部品等を取り付ける本体(1)略正四角柱上面は平坦面とし,該
平坦面四隅にネジ用小孔(7)を配設し,該平坦面中心からバルブ部品等取付用円柱状
孔(6)を縦横いっぱいに設け,該円柱状孔の上端部には円形状の段部(9)が設けられ
ている。
 (ウ) 本体(1)略正四角柱のひとつの垂直壁面下部中央から突設した円筒状
管継ぎ手部(4)は,円筒管と片側に傾斜面を有する環状フランジとから構成されてい
る。
(エ) 本体(1)略正四角柱下部の円錐状部(3)から突設した環状フランジを有
する円筒状管継ぎ手部(5)は,円筒管と片側に傾斜面を有する環状フランジとから構
成されている。
  (2) 本件意匠と被告意匠1との対比
 被告意匠1の構成態様は,別紙図面2記載のとおりであり,本件意匠の上
記(1)の構成態様を備えている。
   本件意匠の要部は,略正四角柱とした本体において,本件下面の管継ぎ手
部の円筒部から円錐状部を配した点,その結果,本体垂直壁面各面下部の円錐状部
と垂直壁面との境界に円弧状線が形成された点にあるところ,被告意匠1は,本件
意匠の要部に関わる部分が酷似している。
 本件意匠は本体略正四角柱垂直壁面各面を平坦面としているのに対し,被
告意匠1は該垂直壁面のうち管継ぎ手部を配する面以外の3面において両側近傍に
僅かな段差を設けて平坦面凹部を形成し,管継ぎ手部を配する面は両側近傍に僅か
な段差を設けて平坦面凸部を形成している点で異なる。しかし,この本体垂直壁面
に設けられた僅かな段差による平坦な凹凸面は,長さ方向の角部稜線と平行に配設
された印象の薄い一般的な形状で,この種意匠において看者に特徴を喚起する要素
となり得ないので,類否の判断を左右することはない。
 したがって,被告意匠1は,本件意匠に類似する。
(3) 本件意匠と被告意匠2ないし11との対比
 被告意匠2ないし11は,被告意匠1と,本体及び管継ぎ手部の構成比率
において多少相違するが,その余の構成態様は被告意匠1と同一である。したがっ
て,被告意匠2ないし11も,本件意匠と類似する。
【被告の主張】
(1) 本件意匠の構成態様
  ア 基本的構成態様
 バルブ用部品等取付用円柱状孔(6)を内側に設けた本体(1)と,本体(1)壁
面から突設した円筒状管継ぎ手部(4)と,本体(1)下部に連接された円筒状管継ぎ手
部(5)から構成される。
 イ 具体的構成態様
 (ア) 本体(1)略正四角柱垂直壁面各面は平坦であり,やや急峻な傾斜があ
る下部の円錐状部(3)と平坦な垂直壁面との境界にやや急峻な傾斜の円弧状線(2)が
形成されている。円錐状部(3)の高さは,円筒状管継ぎ手部(5)の高さとほぼ同等で
ある。
(イ) 本体(1)略正四角柱垂直壁面角部にはわずかに面取り(8)が配されてい
るが,目立たない。
(ウ) バルブ部品等を取り付ける本体(1)略正四角柱上面は平坦面であり,
該平坦面四隅近傍にネジ用小孔(7)を配設し,該平坦面中心からバルブ部品等取付用
円柱状孔(6)を縦横に設け,該円柱状孔の上端部には円形状で底浅の段部(9)が設け
られている。
(エ) 本体(1)略正四角柱のひとつの垂直壁面下部中央から突設し,本体(1)
の正四角の一辺の約半分強の外周直径になっている円筒状管継ぎ手部(4)は,円筒管
と片側に傾斜面を有する肉厚の環状フランジとから構成されている。
(オ) 本体(1)略正四角柱下部の円錐状部(3)から突設した肉厚の環状フラン
ジを有し,本体(1)の正四角の一辺の約半分強の外周直径になっている円筒状管継ぎ
手部(5)は,円筒管と片側に傾斜面を有する肉厚の環状フランジとから構成されてい
る。
(カ) 特に正面視で円錐状部(3)に円筒状管継ぎ手部(4)がかぶり,円筒状管
継ぎ手部(4),円錐状部(3)及び円筒状管継ぎ手部(5)が一体に見え,あたかも子供の
体を想起する全体として一体化した態様となっている。
  (2) 本件意匠と被告意匠との対比
ア 本件意匠は,正四角柱状の本体と下面の円筒状管継ぎ手部との間を円錐
台状面によって連結するという態様であるが,同一物品又は関連する機械部品にお
いて,多角筒状部材と円筒状部材との連結部や,大径部材と小径部材との間の連結
部における具体的構成態様を円錐台形状のものにすることは極めて常識的な連結態
様であり,しかも角筒状部材と円錐台形状との連結を行う場合には,角筒状部の各
平面と円錐台状部との接合部には,当然に該平面側に円弧状線が現れる。
 また,本体と下面の円筒状管継ぎ手との接合部分は,本体の下に隠れた
状態で表示されているから,上記接合部分はバルブ用筺体の意匠において目立つ特
徴部分といえるものではない。
したがって,本件意匠の要部は,正四角柱状の本体と下面の円筒状管継
ぎ手部との間を円錐台状面によって連結するという態様にあるのではなく,本件意
匠の特に正面視で円錐状部(3)に円筒状継ぎ手部(4)がかぶり,円筒状管継ぎ手
部(4),円錐状部(3)及び円筒状管継ぎ手部(5)が一体に見え,あたかも子供の体を想
起する全体として一体化した態様にある。
 また,仮に,本件意匠の要部が上記円錐台形状部分にあるとしても,そ
の類似範囲は,本件意匠の図面に示された形状に極めて近い同一性の範囲のものか
又は円弧状線が円形状に現れるものに限定されるべきである。
イ 被告意匠1の構成は別紙図面3記載のとおりであり,正面視で円錐状
部(3)に円筒状継ぎ手部(4)がかぶり,円筒状管継ぎ手部(4),円錐状部(3)及び円筒
状管継ぎ手部(5)が一体に見え,あたかも子供の体を想起する全体として一体化した
態様を備えていない。
 また,被告意匠1は,略正四角柱の本体の下面における円筒状管継ぎ手
部との接合部分が僅かな曲面になっているが,本件意匠のような円錐台形状ではな
く,そのため正四角柱の本体の各面とその下部の接合面部分との境界に現れる円弧
状線もほとんど直線状となっており,本件意匠のように曲率半径の小さな明確な円
弧状となっているものではない。
 ウ 被告意匠1は,略正四角柱状本体の各角垂直壁面の左右に,その上端か
ら下端に至る明確な段部を形成している。これらの段部は,バルブ用筺体の上部に
取り付けるバルブ駆動用シリンダ等の意匠と整合するように取付け時に一体的な態
様のものと認識させるために形成したものであり,バルブ用筺体において非常に目
立つ四隅に現れているから,被告意匠1の大きな特徴となっている。
 本件意匠の本体は,側壁面につき,上記段部に相当するものを全く備え
ず,周囲四面が完全に平面状をなしているから,被告意匠1は,本体の側壁面の態
様において,本件意匠とは明らかに異なっている。
エ したがって,被告意匠1は,本件意匠と類似しない。
オ また,後記3のとおり,本件意匠は,本件アングルバルブ意匠と同一で
あるから,上記のとおり相違点を有する被告意匠1が本件意匠と類似するというこ
とはできない
カ さらに,被告意匠1は,上記のとおり,略正四角柱の本体の下面におけ
る円筒状管継ぎ手部との接合部が,本件意匠のような円錐台形状ではなく,そのた
め,正四角柱の本体の各面とその下部の接合面部分との境界に現れる円弧状線もほ
とんど直線状となっているから,本件意匠登録出願前に知られていた意匠(乙1の
2,5)に近似するのであって,このような公知意匠に類似するものを本件意匠と
類似するということはできない。
キ 以上の点は,別紙図面4記載の構成を有する被告意匠2ないし11も同
様であるから,被告意匠2ないし11も,本件意匠と類似しない。 
2 争点(2)アについて
【被告の主張】
 本件意匠に係る物品のバルブ用筺体と本件アングルバルブの筺体とは物品が
同一である。また,本件アングルバルブ意匠は,本件意匠登録出願当時スイスにお
いて公知となっており,本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様をすべて備
えている。したがって,本件意匠は新規性を有せず,本件意匠登録に無効理由が存
在することは明らかである。
【原告の主張】
 本件アングルバルブが,本件意匠登録出願時に公知であったとの主張は争
う。
 本件カタログ中の本件アングルバルブの写真では,そのボディから伸びる円
筒状管継ぎ手部を右手前方向に向けた状況でしか表現されておらず,その背面部の
具体的形状を確認,特定できない。また,本件アングルバルブの具体的形状を明ら
かにする外観図,設計図,図面等は一切示されていない。したがって,本件アング
ルバルブ意匠が本件意匠と同一の意匠であるかどうかは疑問である。
3 争点(2)イについて
【被告の主張】
 被告は,超真空を短時間で作り出す超高速真空製造システムを開発し,19
91年に国際真空産業展及びアメリカで開催された真空協会の展示会に出展した。
上記システムの弁カバー(別紙写真の符号8のもの)は,下部に円錐状部を配した
平坦な垂直面からなる略正四角柱と,略正四角柱の垂直壁面下部中央から突設した
円筒状管継ぎ手部を有する。
本件意匠は,物品がバルブ用筺体であり,上記弁カバーもバルブ用筺体であ
るから,この周知の弁カバーの形状を,本件意匠登録出願前に知られていた意匠
(乙1の1,2,5)に当てはめて,本件意匠を創作することは容易である。
 したがって,本件意匠登録に無効理由が存在することは明らかである。
【原告の主張】
 被告が主張する弁カバー(別紙写真の符号8のもの)には,垂直壁面から突
設した円筒状管継ぎ手部はもとより,垂直壁面下部中央から突設した円筒状管継ぎ
手部もない。
 また,バルブ筺体とは一般にバルブハウジングと呼称され,弁,弁座及び流
路を内部に持ち,流路以外から流体が外部に流出しないように密閉された箱の部分
を指す。したがって,バルブ筺体とは,別紙写真の符号5で示される箱の部分をい
うのであり,被告が主張する弁カバーは,バルブ用筺体ではない。
 さらに,被告が主張する弁カバーが周知であったということもない。
 よって,被告が主張するように周知の弁カバーから本件意匠を創作すること
は容易であるということはない。
4 争点(3)について
【原告の主張】
(1) 被告は,1年間において,少なくとも下記のとおりの内容,数量の被告製
品を製造,販売している。
フランジのサイズ         数量
     16 2000個
25 2000個
     40 6000個
     50 6000個
(2) 原告が,被告製品の代替品を製造,販売した場合の1個当たりの利益の額
は次のとおりである。
フランジのサイズ 利益の額
     16 1720円
     25 1800円
     40 2796円
     50 5840円
(3) 上記(1)及び(2)からすると,原告の1年間当たりの損害額は次のとおりと
なる。
フランジのサイズ 損害額
16 344万円
     25 360万円
     40 1677万6000円
50     3504万円
(4) よって,原告が被った1年間当たりの損害額の合計は5885万6000
円となり,被告による本件意匠権侵害行為の開始後である平成10年2月から平成
12年6月までの損害額の合計は,1億4223万5333円となる。
【被告の主張】
争う。
第4 争点に対する判断
1 まず,本件意匠登録に無効理由が存在することが明らかであるかどうかにつ
いて判断する。
 (1) 本件意匠の構成態様について
 上記争いのない事実並びに証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によると,本件
意匠の構成態様は,以下のとおりであると認められる(以下の番号は別紙図面1記
載の番号を指す。)。
 ア 基本的構成態様
 バルブ部品等取付用円柱状孔(6)を内側に設け,下部に円錐状部(3)を配
した略正四角柱の本体(1)と,本体(1)略正四角柱のひとつの平坦な垂直壁面下部中
央から突設した環状フランジを有する円筒状管継ぎ手部(4)と,本体(1)略正四角柱
下部の円錐状部(3)から突設した環状フランジを有する円筒状管継ぎ手部(5)とから
構成される。
 イ 具体的構成態様
(ア) 本体(1)略正四角柱垂直壁面各面には下部の円錐状部(3)と平坦な垂直
壁面との境界に円弧状線(2)が形成され,また本体(1)略正四角柱垂直壁面角部には
面取り(8)が配されている。
(イ) バルブ部品等を取り付ける本体(1)略正四角柱上面は平坦面とし,該
平坦面四隅にネジ用小孔(7)を配設し,該平坦面中心からバルブ部品等取付用円柱状
孔(6)を縦横に設け,該円柱状孔の上端部には円形状で底浅の段部(9)が設けられて
いる。
(ウ) 本体(1)略正四角柱のひとつの垂直壁面下部中央から突設した円筒状
管継ぎ手部(4)は,円筒管と片側に傾斜面を有する環状フランジとから構成されてい
る。
(エ) 本体(1)略正四角柱下部の円錐状部(3)から突設した円筒状管継ぎ手
部(5)は,円筒管と片側に傾斜面を有する環状フランジとから構成されている。
 (2) 本件アングルバルブの公知性について
 ア 証拠(乙3の1,乙6の1,2,乙6の4の1ないし4,乙8,乙9の
1,2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
 (ア) 本件カタログにはスイスのセテック(CETEC)株式会社(以下 
 「セテック社」という。)の社名が付され,同社名のシールが貼付さ  れてい
るが,同社は現在フィテック株式会社に商号変更している。
 (イ) 上記シールの下には「BKF」との社名が表示されている。
 (ウ) フィテック株式会社の代表者のマルコ ヴェ・ティナー(1968年
 11月8日生)は,公証人が認証した宣誓書の中で以下のとおり供述し てい
る。 
 ① 本件カタログの中で「Cetec Serie 12」と称されるアングルバルブ
 は,1992年4月28日以前に公知となっている。
 ② 本件カタログの印刷が最終的に行われたのは,1989年3月であ
 る。
 ③ また,当該アングルバルブは1986年2月14日にデザインさ
れ, それから一般に販売された(添付の請求書4通参照)。
 ④ ビー・ケー・エフ(BKF)社が,1988年まで我社のドイツの
 卸売業者であったことを認める。この業者とは1988年9月以前に 契約を解
消したので,ビー・ケー・エフ社の名称を記していない。
 (エ) 上記のセテック社発行の請求書4通には以下の記載がある。
 ① ABB ASEA BBROWN BOVERRI株式会社宛請求書(乙6の4の1)
1989年5月18日発行
      請求書番号 3.903121
      アングルバルブND40 10点
      コード番号 12016EVV9
      高級鋼製ケーシング
      フランジ接続 CF35/KF25
 ② ACV株式会社宛請求書(乙6の4の2)
      1989年6月30日発行
      請求書番号 3.906145
      アングルバルブND63 1点
      コード番号 12018EVV3
      ステンレススチール製
  継手 ヴィトン/フランジ CF
 ③ ACV株式会社宛請求書(乙6の4の3)
1989年6月30日発行
      請求書番号 3.906142
      アングルバルブND16 4点
      コード番号 12312EVV1
      ステンレススチール製
      継手 ヴィトン/フランジ KF
 ④ ドクター・KERSPE宛て請求書(乙6の4の4)
      1989年6月11日発行
      請求書番号 2.908129
      アングルバルブND40 シリーズ12 1点
      電気空気圧操作式
      コード番号 12316AVV1
      アングルバルブND50 シリーズ12 3点
      電気空気圧操作式
      コード番号 12318AVV
      アングルバルブND63 シリーズ12 1点
      電気空気圧操作式
      コード番号 12318AVV2
      アングルバルブND100 シリーズ12 1点
      電気空気圧操作式 
      コード番号 12320AVV2
 (オ) セテック社のエレクトロマグネティック アングル・ベント バルブ
 のシリーズ13とシリーズ145/146についての概要説明書(乙  8)に
は参考オーダー例として別紙のとおりの記載がある。
イ 上記ア認定のとおり,本件カタログには,BKF社の社名が表示された
上にセテック社名のシールが貼られているのであるが,これは,上記アで認定した
事実によると,セテック社とBKF社との契約が1988年9月以前に解消された
ので,BKF社の社名が記載された上にセテック社名のシールが貼られたものと認
めることができる。そうすると,本件カタログは,1988年9月以前に印刷され
たものであると認められる。
 また,上記ア認定の事実によると,上記ア(エ)認定の各領収書は,「アン
グルバルブ シリーズ12」についての領収書であると認められる。しかるとこ
ろ,証拠(乙3の1,乙6の3)によると,本件カタログには,シリーズ12とし
て,本件アングルバルブしか掲載されていないことが認められるから,これらの領
収書は,本件アングルバルブに関するものと認めるのが合理的である。
 そして,これらの事実に,その他の上記アで認定した事実を総合する
と,本件カタログの中で「Cetec Serie 12」と称されるアングルバルブ(本件アン
グルバルブ)は,本件意匠登録出願の日である平成4年(1992年)4月28日
より前に,外国において公然知られていたものと認められる。
ウ 原告は,①アングルバルブシリーズ12はシリーズ13の用途も含む広
範な用途のアングルバルブを指し,シリーズ13のアングルバルブは特殊な駆動形
態の真空制御弁であることのみを表示しており,コード番号の冒頭に用いる「1
2」,「13」がボディ(弁筺体)の形を特定する番号ではないこと,②別紙記載
の参考オーダー例にある「5」,「16」,「E」,「V」,「V」,「1」は,
シリーズ12及びシリーズ13に共通に使用され,それらはボディ(弁筺体)の寸
法,材質,フランジの形式の違いを示しているに過ぎず,ボディの形状を示すもの
でないこと,③セテック社のアングルバルブとして外観の異なる6種類の形状の異
なるボディの製品群が存在し,これらを特定するためのコード番号が存在していな
いこと,④本件カタログに示されたアングルバルブの外観図,設計図が示されてお
らず,本件アングルバルブが販売用として製造されたのか疑わしいことを理由に,
セテック社がシリーズ12として製造販売しているアングルバルブには,複数の形
状のものが存在すると主張する。
  しかし,アングルバルブシリーズ12と同じ形状のものがシリーズ13
に存するからといって,シリーズ12に,本件アングルバルブ以外の形状のものが
存したことにはならないというべきである。また,セテック社のカタログ(甲2
2)には,シリーズ12として,複数のアングルバルブが記載されていることが認
められるが,弁論の全趣旨によると,このカタログは,現在のカタログであって,
本件意匠登録出願前のものではないと認められるうえ,上記の複数のアングルバル
ブも,このカタログの記載のみでは,本件アングルバルブとの形状の異同が明らか
でない。その他,原告の上記主張は,上記イの認定を覆すに足りるものではない。
 また,仮に,シリーズ12に本件アングルバルブと異なる形状のアング
ルバルブが存在し,上記ア(エ)認定の各領収書が,必ずしも本件アングルバルブのも
のとは認められないとしても,上記アで認定した他の事実からすると,本件アング
ルバルブは,本件意匠登録出願の日より前に存在し知られていたものと認められ
る。
(3) 本件アングルバルブ意匠の構成態様
ア 証拠(乙3の1,乙6の3)及び弁論の全趣旨によると,本件アングル
バルブの筺体の意匠(本件アングルバルブ意匠)の構成態様は以下のとおりである
と認められる。
 (ア) 基本的構成態様 
下部に円錐状部を配した略正四角柱の本体と,本体略正四角柱のひと
つの平坦な垂直壁面下部中央から突設した環状フランジを有する円筒状管継ぎ手部
と,本体略正四角柱下部の円錐状部から突設した環状フランジを有する円筒状管継
ぎ手部とから構成される。
 (イ) 具体的構成態様
 ① 本体略正四角柱垂直壁面各面には下部の円錐状部と平坦な垂直壁面
との境界に円弧状線が形成され,また本体略正四角柱垂直壁面角部には面取りが配
されている。
 ② 本体略正四角柱上面は平坦面とされている。
 ③ 本体略正四角柱のひとつの垂直壁面下部中央から突設した円筒状管
継ぎ手部は,円筒管と環状フランジとから構成されている。
 ④ 本体(1)略正四角柱下部の円錐状部(3)から突設した円筒状管継ぎ手
部(5)は,円筒管と環状フランジとから構成されている。
イ 原告は,本件アングルバルブがボディから伸びる円筒状管継ぎ手部を右
手前方向に向けた状況でしか表現されておらず,その背面部の具体的形状を確認,
特定できないと主張するが,本件カタログ(乙3の1,乙6の3)の写真に照らす
と,背面部の形状は,右手前から見た形状と同様であると推認することができるか
ら,本件カタログをもってその構成態様を上記のとおり認めることができるという
べきである。
(4) 他の公知意匠の存在
ア 証拠(甲12,乙1の2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認
められる。
 (ア) 株式会社玉井エンジニアリング出願に係る別紙「公開実用新案公報」
(平成2年5月21日公開)には,同図面第1ないし第3図のとおり,高真空バル
ブが図示されている。
 (イ) 上記(ア)記載の図面の意匠は,次の構成を有している。
 ① 本体を略正四角柱とすること。
 ② バルブ部品等を取り付ける本体略正四角柱上面は平坦面とし,該平
坦面四隅にネジ用小孔を配設し,該平坦面中心から縦横にバルブ部品等取付用円柱
状孔を設け,該円柱状孔の上端部には円形状で底浅の段部が設けられていること。
 ③ 本体略正四角柱のひとつの平坦な垂直下部中央から突設している円
筒状管継ぎ手部は,円筒部と片側に傾斜面を有する環状フランジとからなること。
 ④ 本体略正四角柱下部から円筒状管継ぎ手部が突設している円筒状管
継ぎ手部は,円筒部と片側に傾斜面を有する環状フランジとからなること。 
   イ 以上の認定事実によると,上記アの意匠は,本件意匠の構成態様のう
ち,本体略正四角柱の下部に円錐状部が形成され,本体略正四角柱垂直壁面各面に
は下部の円錐状部と平坦な垂直壁面との境界に円弧状線が形成され,本体略正四角
柱垂直壁面角部には面取りが配されている点を除くすべての構成態様を備えている
ことが認められる。本件意匠と上記アの意匠との以上の違いのうち,面取りについ
ては,特に看者の注意を惹く部分ではないから,上記アの意匠と本件意匠との主な
違いは,本体略正四角柱の下部に円錐状部が形成され,本体略正四角柱垂直壁面各
面には下部の円錐状部と平坦な垂直壁面との境界に円弧状線が形成されている点に
あるものと認められる。 
(5) 本件意匠と本件アングルバルブ意匠との対比
ア 証拠(乙3の1,乙6の3,乙7)及び弁論の全趣旨によると,本件ア
ングルバルブの筺体は,入口と出口の中心線が直角で,流体の流れ方向が直角に変
わるバルブの筺体であると認められるから,「バルブ用筺体」ということができ,
本件意匠とは物品が同一であると認められる。
イ 上記(1)(3)で認定した事実によると,本件アングルバルブ意匠は,本体
略正四角柱上面の平坦面の四隅にネジ用小孔を配設し,該平坦面中心からバルブ部
品等取付用円柱状孔を設け,該円柱状孔の上端部に円形状で底浅の段部を設ける構
成を備えていること及び円筒状管継ぎ手部の環状フランジの片側に傾斜面を有する
ことを除いては,本件意匠の構成態様を備えているものと認められる。また,本件
カタログ(乙3の1,乙6の3)における本件アングルバルブの写真及び証拠(乙
1の3,4,乙7,8)により認められるアングルバルブの一般的な形状からする
と,本件アングルバルブ意匠においては,本体略正四角柱上面の平坦面に何らかの
孔が設けられていたものと認められる。そうすると,本件意匠と本件アングルバル
ブ意匠とでは,違いがあるとしても,その違いは,上記平坦面上の孔の大きさや形
状,上記平坦面の四隅におけるネジ用小孔の有無,上記平坦面上の孔の上端部にお
ける底浅の段部の有無及び円筒状管継ぎ手部の環状フランジの片側に傾斜面の有無
ということになるが,本件意匠全体からすると,これらは支配的な部分であるとい
うことができないうえ,上記(4)で認定した事実によると,本件意匠におけるこれら
の点に関する構成態様は,本件意匠登録出願時に既に知られていたものと認められ
るから,これらの点が特に看者の注意を惹く部分であるとは認められない。本件ア
ングルバルブ意匠は,その余の本件意匠の構成態様については,すべての構成態様
を備えている。そうすると,本件意匠は,本件アングルバルブ意匠と類似するもの
と認められる。
ウ したがって,本件意匠登録には,無効理由(意匠法48条1項1号,3
条1項3号)が存在することが明らかであるということができるから,本訴請求は
権利濫用に当たる。
2 以上の次第で,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理
由がない。
  東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官   森  義 之
裁判官   内 藤 裕 之
裁判官   上 田 洋 幸
(別紙)
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ー例

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