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平成13(行ケ)488行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年6月26日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項11号1回
商標法46条1項1号1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決23回
無効3回
商標権2回
無効審判1回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(行ケ)第488号 審決取消請求事件(平成14年6月3日口頭弁論
終結)
          判         決
    原      告   株式会社シマノ
訴訟代理人弁理士 成   合       清
同          瀬   戸   昭   夫
       被      告   鋐光實業股 有限公司
        (審決上及び商標登録原簿上の名称)
                  ブイピー コンポウネンツ カンパニー 
リミテッド
          主         文
      特許庁が平成11年審判第35161号事件について平成13年9月
21日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求の趣旨
主文と同旨
第2 原告の主張
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、「EXUS」の欧文字と「エクサス」の片仮名文字を上下2段に横書き
してなり、指定商品を商標法施行令別表の区分による第12類「自転車並びにその
部品及び附属品」とする登録第3120457号商標(平成4年11月5日登録出
願、平成8年2月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であ
る。
   原告は、平成11年4月9日、被告を被請求人として、本件商標登録の無効
審判の請求をし、同請求は、平成11年審判第35161号事件として、特許庁に
係属した。特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成13年9月21日、「本
件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月4日、
原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標と、原告の引用す
る、「NEXUS」の欧文字を横書きしてなり、指定商品を商標法施行令別表の区分によ
る第12類「自転車部品及び付属品(タイヤ・チューブを除く)」とし、商標権存
続期間の更新登録がされ現に有効に存続している登録第2226477号の2商標
(昭和62年9月25日登録出願、平成2年4月23日設定登録。以下「引用商
標」という。)とは、称呼上互いに区別し得るものであり、外観上区別し得る差異
を有し、観念上比較できず、その称呼、外観、観念のいずれにおいても非類似の商
標といわざるを得ないから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録さ
れたものでないとして、同法46条1項1号によりその登録を無効にすることはで
きないとした。
 3 原告主張の審決取消事由
   審決は、本件商標と引用商標が、称呼上互いに区別し得るものであるとの誤
った認定をした(取消事由)結果、両商標が類似せず、本件商標の登録が商標法4
6条1項1号によりその登録を無効にすることはできないとの誤った判断をしたも
のであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 審決は、「異なる『エ』(e)と『ネ』(ne)は、前者が単母音として明確な
開放音で軽くさらりとした音感を生じさせるものであるのに対し、後者が有声歯茎
通鼻音である子音(n)と母音(e)との結合した音節で響きの鈍い音であって、その音
質、音感が異なるばかりでなく、両音は称呼の識別上重要な要素となる語頭に位置
するものであるから、両称呼を全体として称呼しても、その語感が相異なり称呼上
互いに区別し得るものというのが相当である」(審決謄本3頁8行目~13行目)
と認定するが、誤りである。
  審決は、「ネ」が明確な開放音(e)と響きの鈍い子音(n)からなる音である
とするが、そうであれば、「ネ」の音にあっては、子音の「n」よりも母音の
「e」が明確に聴取されるはずであるから、上記の理由により「ネ」と「エ」の音
がその音質、音感を異にするとの判断には、矛盾がある。
  (2) 本件商標及び引用商標の構成によれば、前者は「エクサス」、後者は「ネ
クサス」の称呼を生ずるところ、両称呼は、冒頭において「エ」と「ネ」の音の差
異が存するとはいえ、残る「クサス」の音を共通にする。ところで、日本語におい
ては、大多数の音節は、子音に母音の伴ったものから成り立っていて、通常、一音
節中において中心音をなすのは母音である。引用商標における称呼の冒頭にある
「ネ」の音節において中心音となるのは母音の「エ」である。また、「ネ」の音節
の子音である「n」は、口腔の調音器官が閉鎖を形成し、声を伴った呼気が咽頭か
らすぐ鼻腔を通じて流出する場合に生ずる鼻音であって、響きが弱く明りょうさを
欠くものである。したがって、「エクサス」と「ネクサス」の差異である子音
「n」が両称呼の全体に及ぼす影響は、明りょうに聴取されないわずかなものであ
り、両商標は、称呼において類似する。
(3) 称呼において異なる部分が、鼻音及び母音からなる音とその母音のみから
なる音のみである商標は、例えば、「NEMASOL」と「エマゾール
/EMASOL」、「NEXTILE」と「XTILE」、「Nannette」と「ANNETTE/アネット」など
が、いずれも審決において称呼上類似する商標であるとされており、このような審
決例は、原告の主張を裏付けるものである。
(4) 以上のように、本件商標及び引用商標は、称呼上類似する商標であり、外
観及び観念においてもこれをしのぐ差異はないから、全体的に観察して類似する商
標である。審決は、両商標が称呼上互いに区別し得るとの誤った認定をし、称呼に
おいて類似しないとの誤った判断をした結果、全体的に考察しても類似しないとの
誤った判断をしたものである。
第3 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書そ
の他の準備書面も提出しない。
第4 当裁判所の判断
 1 被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書そ
の他の準備書面も提出しないから、原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及
び2(審決の理由)を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したもの
とみなす。
 2 取消事由(称呼上区別し得るとの認定の誤り)について
  (1) 本件商標から「エクサス」の称呼を、引用商標から「ネクサス」の称呼を
生ずることは、両商標の構成から明らかである。両商標は、4音構成中「クサス」
の3音を同一とし、異なる1音も「エ」と「ネ」であって、母音を同じくし、子音
として鼻音の「n」を有するかどうかという点においてのみ相違するから、両商標
をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感が互いに近似して紛らわし
く、称呼上類似する商標というべきである。
(2) 審決は、「異なる『エ』(e)と『ネ』(ne)は、前者が単母音として明確な
開放音で軽くさらりとした音感を生じさせるものであるのに対し、後者が有声歯茎
通鼻音である子音(n)と母音(e)との結合した音節で響きの鈍い音であって、その音
質、音感が異なる」(審決謄本3頁8行目~11行目)と認定するところ、確か
に、前者が単母音であり、後者が有声歯茎通鼻音である子音と単母音の結合した音
であることは認められるが、前者が「軽くさらりとした音感を生じさせるもの」で
あるのに対し後者が「響きの鈍い音」であるというような、際立った差異を有する
とまでいうことはできず、まして、「その音質、音感が異なる」ということはでき
ない。
    また、審決は、「両音は称呼の識別上重要な要素となる語頭に位置するも
のである」(同頁11行目~12行目)と述べるところ、一般に、語頭部分が語尾
部分に比べて称呼の識別上重要な要素となることは肯定されるけれども、語頭部分
が異なるからといって、直ちに、両称呼が類似しないとの結論が導かれるわけでは
なく、その余の部分の同一性又は類似性と、語頭部分の類否とを総合考慮して、商
標の構成文字全体としての称呼の類否が判断されるべきものである。本件において
は、4音構成からなる両商標中3音が同一であり、かつ、語頭部分の相違が上記の
程度にすぎないのであるから、語頭部分の相違は、上記3音の同一性をしのぐもの
ではなく、両商標は、称呼において類似するというべきである。
(3) 本件商標及び引用商標は、いずれも、通常の欧文字及び片仮名文字をあり
ふれた字体で横書きしたものにすぎず、外観において特段強い印象を与えるもので
はなく、また、いずれも造語であって、特段の観念を生ずるものではないから、両
商標における外観及び観念は、称呼における上記程度の類似性をしのぐものではな
い。したがって、両商標は、全体的に観察して類似する商標であるというべきであ
って、両商標が非類似であるとした審決の判断は誤りである。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結
論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに
上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民事
訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   岡   本       岳
            裁判官   長   沢   幸   男

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