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平成13(行ケ)109行政訴訟 実用新案権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年2月27日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法3条2項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決22回
実施13回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(行ケ)第109号 審決取消請求事件(平成14年1月23日口頭弁
論終結)
          判         決
       原      告   郡山チップ工業株式会社
       訴訟代理人弁理士   清 水 定 信
       被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人    酒 井  進
       同          長 屋 陽二郎
同 大 野 克 人
       同          宮 川 久 成
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第10971号事件について平成13年1月25日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成5年1月27日、名称を「スクリューリング釘」とする考案に
つき、実用新案登録出願をした(実願平5-5793号)が、平成11年6月8日
に拒絶査定を受けたので、同年7月7日、これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成11年審判第10971号事件として審理した上、
平成13年1月25日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は、同年2月19日、原告に送達された。
 2 本願考案の要旨
   胴部にスクリュー加工とリング加工とが施され、前記胴部は尖端に向けて縮
小するテーパー状に形成されたことを特徴とするスクリューリング釘。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願考案は、実願昭52-126
783号(実開昭54-52562号)のマイクロフィルム(甲第2号証、以下
「引用文献1」という。)に記載された考案(以下「引用考案1」という。)及び
従来周知の技術事項に基づき当業者がきわめて容易に考案し得たものと認められる
から、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとし
た。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用文献1の記載事項の認定、本願
考案と引用考案1との一致点及び相違点の各認定は認める。
   審決は、本願考案と引用考案1との相違点についての判断を誤り(取消事
由)、本願考案が、引用考案1及び従来周知の技術事項に基づき当業者がきわめて
容易に考案し得たとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消され
るべきである。
 2 取消事由(本願考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、本願考案と引用考案1との相違点として認定した「本願考案で
は、胴部が『尖端に向けて縮小するテーパー状に形成されている』のに対して、引
用考案(注、「引用考案1」の誤記と認められる。)では、その点が不明である
点」(審決謄本2頁31行目~32行目)につき、「本願考案は、相違点に係る本
願考案の構成により、釘の胴部の多くの区域で木の繊維にからみつくようにして釘
の引抜耐力を向上させるものであるが、胴部を『尖端に向けて縮小するテーパー状
に形成』することにより、釘の胴部の多くの区域で木の繊維にからみつくようにし
て釘の引抜耐力を向上させるような技術思想は、従来より、木ねじ等において広く
採用されている周知の事項と認められる・・・引用考案1において、引用文献1の
記載『ガイド部の外径をスクリューリング部の最大外径に対して2/3以下とし
た』等からみて、従来周知の技術思想を適用できない特段の事情があるとも認めら
れない。してみると、この相違点に係る本願考案の構成は、引用考案1に従来周知
の技術思想を適用することにより当業者がきわめて容易に想到できたものといわざ
るを得ない」(同2頁34行目~3頁10行目)と判断し、上記周知事項の例とし
て、実願平1-29344号(実開平2-121611号)のマイクロフィルム
(甲第3号証、以下「周知例1」という。)及び実願昭58-121009号(実
開昭60-28611号)のマイクロフィルム(甲第4号証、以下「周知例2」と
いう。)を挙げた(同3頁2行目~4行目)。
    しかしながら、以下のとおり、審決の上記判断は誤りである。
  (2) 引用文献1(甲第2号証)の「従来一般には、釘の引抜耐力を大きくする
ためスクリュー釘及びリング釘が使用されている。スクリュー釘は打込む際に自動
的に姿勢を修正する機能を有しているが、引抜時の抵抗、即ち引抜耐力が小さい欠
点がある。一方、リング釘の引抜耐力はスクリュー釘に比較して若干小さいが、打
込抵抗が大きい欠点がある。本考案の目的は、スクリュー釘よりも打込抵抗が小さ
く、かつリング釘よりも引抜耐力が大きい釘を提供することを目的とする。」(昭
和53年1月9日付け手続補正書による補正後の1頁10行目~2頁1行目)、
「第3図(a)には通常使用されているスクリュー釘9が示され、第3図(b)には通常
使用されているリング釘10が示され、第3図(c)には本考案による釘1が示されて
いる」(3頁8行目~11行目)との各記載及び第3図(a)~(c)の図示に照らし
て、引用考案1のスクリューリング釘は、スクリュー釘よりも打込み抵抗が小さ
く、かつリング釘よりも引抜耐力が大きい釘を提供することを目的とするものであ
り、その胴部は全長にわたり同一径に構成されたものを前提としている。
    しかしながら、引用考案1のように、胴部が全長にわたり同一径であるス
クリューリング釘においては、打ち込むと、尖端付近が空けた穴の内壁を胴部の途
中ないし基端からさらえた状態(打ち込んだ穴の部分の木の繊維が切断された状
態)で打ち込まれるので、木の繊維が胴部の尖端に近い部分にしかからまず、胴部
の全長にわたってからまない結果、尖端に近い部分しか引抜きに対する抵抗力を発
揮せず、引抜耐力が低いという欠点があった。
    そこで、本願考案は、この欠点を解決することを技術課題として、「胴部
は尖端に向けて縮小するテーパー状に形成された」との構成を採用したものであ
る。
    このような技術課題は、引用文献1(甲第2号証)並びに審決が挙げた周
知例1(甲第3号証)及び同2(甲第4号証)に記載されておらず、当業者がきわ
めて容易に想到することのできるものではない。
  (3) 審決は、周知例1、2を挙げて、胴部を尖端に向けて縮小するテーパー状
に形成することにより、釘の胴部の多くの区域で木の繊維にからみつくようにし
て、釘の引抜耐力を向上させるとの技術思想が、従来周知の事項であるとした。
    しかしながら、周知例1、2が示す従来周知の事項は、審決が認めるとお
り、「ねじ込み」によって用いられる木ねじ等に係る技術思想であって、「打込
み」によって使用するスクリューリング釘に係る技術思想を示すものではない。
    「打込み」によって使用するスクリューリング釘においては、従来、胴部
を尖端に向けて縮小するテーパー状に形成すると引抜耐力が低下すると考えられて
おり、すべて胴部を全長にわたり同一径に構成していた。なお、「打込み」によっ
て使用するねじ釘は、従来から胴部を尖端に向けて縮小するテーパー状に形成する
ものがあったが、これは、打込み時の貫入抵抗を小さくするためである。
    上記のような技術的背景の下において、「打込み」によって使用するスク
リューリング釘の胴部を、尖端に向けて縮小するテーパー状にすることは、当業者
がきわめて容易に想到することができるものではない。
  (4) 兼松日産農林株式会社が、本願考案の実施例に係る実施品と従来例に係る
実施品との引抜耐力の比較試験(以下「本件試験」という。)をした結果は、同会
社作成の試験報告書(甲第8号証)に記載されたとおりである。
    同試験報告書記載の「郡山チップ工業製65㎜スクリュウリング釘」(以
下「スクリューリング釘A」という。)は、本願明細書(甲第5号証)の図1に示
された本願考案の実施例に係る実施品であって、全長65㎜、線径(頭部の直下)
3.25㎜、同(中間点)3.02㎜、同(尖端部の手前)2.96㎜であり、ま
た、同試験報告書記載の「他社製65㎜スクリング」(以下「スクリューリング釘
B」という。)は、本願明細書の図3に示された従来例に係る実施品であって、全
長65㎜、線径3.1㎜であるところ、本件試験の結果によれば、スクリューリン
グ釘Aの引抜耐力は、栂材において平均221.7㎏、雑木(楢材)において平均
287.1㎏であり、他方、スクリューリング釘Bの引抜耐力は、栂材において平
均84.7㎏、雑木(楢材)において平均193.4㎏であったから、スクリュー
リング釘Aの引抜耐力がスクリューリング釘Bの引抜耐力に比べ、極めて大きいこ
とが明らかである。なお、同比較試験における引き抜いた釘の状況を撮影した写真
(甲第9号証)により、スクリューリング釘Aの胴部には、スクリューリング釘B
に比べ多くの木の繊維がからみついていることが認められるが、このことからも、
本願考案の実施品であるスクリューリング釘Aの引抜耐力が従来品であるスクリュ
ーリング釘Bに比べてはるかに大きいことが理解される。
    審決は、本願考案に係る、従来例のものと比較して引抜耐力が著しく大き
いという顕著な効果を看過して、本願考案が当業者においてきわめて容易に想到す
ることができるとの判断をしたものであって、その判断が誤りであることは明白で
ある。
第4 被告の反論
 1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本願考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り)につい

  (1) 原告は、胴部が全長にわたり同一径であるスクリューリング釘の引抜耐力
が低いという欠点を解決しようとする本願考案の技術課題が、引用文献に記載され
ていないと主張するが、以下のとおり、誤りである。
    すなわち、引用文献1(甲第2号証)には、「本考案の目的は、スクリュ
ー釘よりも打込抵抗が小さく、かつリング釘よりも引抜耐力が大きい釘を提供する
ことを目的とする。この目的を達成するための本考案はスクリュー部、スクリュー
リング部、ガイド部及び尖鋭状の先端部を有していることを特徴とする」(1頁1
8行目~2頁4行目)、「スクリューリング部4の外径はスクリュー部3の外径に
等しく、このスクリュー部3、スクリューリング部4およびガイド部5には軸方向
に対してリード角の大きい斜めになった多数の螺旋条7が付加されている。ガイド
部5の外径はスクリューリング部4の最大外径よりも小さく、最小外径よりも若干
大きくなるように設定されている。ガイド部5の外径をスクリューリング部4の最
大外径に対して2/3以下とすることが望ましく、引抜耐力を向上させることにつ
ながる。」(2頁11行目~3頁1行目)との各記載がある。
    これらの記載によれば、引用考案1のスクリューリング釘は、本願考案と
同様、引抜耐力を大きくすることを目的とするものであって、そのために、スクリ
ュー部、スクリューリング部、ガイド部及び尖鋭状の先端部を有しているところ、
ガイド部は、スクリューリング部とは異なるものの、螺旋条(スクリュー)が施さ
れており、引抜耐力に寄与する部分である。そして、引用文献1は、そのガイド部
の外径をスクリューリング部の最大外径の三分の二以下とすることが引抜耐力の向
上につながるとしているのであるから、引用文献1では、スクリューリング釘にお
いて、引抜耐力を大きくするために、胴部各部分の外径に大小関係を設けることが
検討されているのである。したがって、本願考案の技術課題が引用文献に記載され
ていないとする原告の主張は誤りである。
    また、原告は、本願考案の上記技術課題が周知例1、2に記載されていな
いとも主張するが、固着要素の胴部にねじを施し、これを回転させながら木材中に
押し込めば、木の繊維を切断することが少なく、ねじ部分に木の繊維がからみつい
て引抜耐力を大きくすることは、当業者にとって技術常識であり、周知例1、2が
開示する「釘」のねじ部分がこのような作用効果を奏することは明白である。した
がって、本願考案の上記技術課題は、周知例1、2から、当然に想起し得ることで
ある。
  (2) 原告は、周知例1、2が示す従来周知の事項は、「ねじ込み」によって用
いられる木ねじ等に係る技術思想であって、「打込み」によって使用するスクリュ
ーリング釘に係る技術思想を示すものではないから、スクリューリング釘の胴部
を、尖端に向けて縮小するテーパー状にすることには、当業者がきわめて容易に想
到することはできないと主張する。
    しかしながら、ねじに係る技術分野と釘に係る技術分野とは極めて近接す
るものであるのみならず、周知例1(甲第3号証)の考案の名称が「隠しねじ釘」
であり、周知例2(甲第4号証)の考案の名称が「セメント系外壁材の固定釘」で
あるとおり、これらは釘に係る技術分野に属するものである。
    さらに、実願昭63-93213号(実開平2-19919号)のマイク
ロフィルム(乙第1号証)及び特開昭61-201910号公報(乙第2号証)
に、頭部上面にドライバー等のねじ込み工具が係合する係合溝を設けたスクリュー
釘が開示されていることによって明らかであるとおり、スクリュー釘では、「打込
み」により使用される外に、「ねじ込み」による使用も従来からの慣用方法であ
る。また、スクリュー釘及びスクリューリング釘は、その打込みに際して、胴部に
施されたスクリューの機能によりその軸線を中心として回転し、その結果、木の繊
維がからみつくことによって引抜耐力を向上させることが図られているのである。
    そして、周知例1、2に開示された「釘」がスクリューに相当するねじを
有する以上、スクリューリング釘と共通するものであるから、周知例1、2が示す
従来周知の事項を、「打込み」によって使用するスクリューリング釘の胴部を形成
するに際して適用することを妨げる事由は存在しない。
    したがって、本願考案の構成は、引用考案1に周知事項を適用することに
より、当業者がきわめて容易に想到することができたものである。
  (3) 本件試験に係る試験報告書(甲第8号証)には、スクリューリング釘Aの
胴部径の寸法、特に、テーパーの形状に関する寸法が示されていない。この点につ
き、原告は、頭部の直下3.25㎜、中間点3.02㎜、尖端部の手前2.96㎜
であるとするが、頭部の直下が3.25㎜、尖端部の手前が2.96㎜であるとす
れば、下記の式のとおり、単純計算によれば中間点の線径は3.105㎜となるか
ら、これを3.02㎜とする原告の主張は正確な数値を示したものということはで
きない。
      (3.25+2.96)/2=3.105
    そして、胴部直径が太い釘が細い釘と比較して大きな締着力を有すること
は技術常識である。
    また、スクリューリング釘Aとスクリューリング釘Bの胴部の形状がどの
ようなものであったかが明らかでない。
    異なる製作者によって製作された釘の場合には、胴部が同じ特徴を有する
としても、細部構成の仕様が異なるものであり、それによって引抜き耐力は異なる
ものとなる。したがって、スクリューやリングを構成する山谷の大きさの程度を含
めた胴部の形状の仕様が明示されなければ、引抜耐力の絶対値のみ比較しても、本
願考案のスクリューリング釘が従来例のスクリューリング釘より引抜耐力が大きい
根拠を示したものということはできない。
    なお、写真(甲第9号証)には、引き抜けた状態の釘が撮影されている
が、本件試験との関連を示すものは何ら存在せず、また、この写真によって、本件
試験におけるスクリューリング釘A、Bの胴部の形状の仕様が明らかになるもので
もない。
    したがって、本件試験及び上記写真を根拠として、本願考案が従来品に比
べて引抜耐力が大きいといえるものではない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本願考案と引用考案1との相違点についての判断の誤り)につい

  (1) 原告は、引用考案1のように胴部が全長にわたり同一径であるスクリュー
リング釘においては、木の繊維が胴部の尖端に近い部分にしかからまず、引抜耐力
が低いという欠点があるところ、本願考案は、この欠点を解決することを技術課題
とするものであるが、このような本願考案の技術課題は、引用文献1(甲第2号
証)並びに周知例1(甲第3号証)及び同2(甲第4号証)に記載されておらず、
当業者がきわめて容易に想到することはできない旨主張する。
    しかしながら、釘は、木材等の部材の接合や固定等の固着手段として通常
用いられるものであるから、その引抜耐力を向上することは、当然に求められると
ころである。このことは、スクリューリング釘であっても、その用途が部材の接合
等に用いられる固着手段であることに変わりがないから、同様というべきであっ
て、現に、引用文献1(甲第2号証)の「本考案の目的は、スクリュー釘よりも打
込抵抗が小さく、かつリング釘よりも引抜耐力が大きい釘を提供することを目的と
する。この目的を達成するための本考案はスクリュー部、スクリューリング部、ガ
イド部及び尖鋭状の先端部を有していることを特徴とする。」(1頁18行目~2
頁4行目)、「スクリューリング部4の外径はスクリュー部3の外径に等しく、こ
のスクリュー部3、スクリューリング部4およびガイド部5には軸方向に対してリ
ード角の大きい斜めになった多数の螺旋条7が付加されている。ガイド部5の外径
はスクリューリング部4の最大外径よりも小さく、最小外径よりも若干大きくなる
ように設定されている。ガイド部5の外径をスクリューリング部4の最大外径に対
して2/3以下とすることが望ましく、引抜耐力を向上させることにつながる。」
(2頁11行目~3頁1行目)との各記載及び図面第1~第3図によれば、引用文
献1には、引抜耐力の向上を課題として、ガイド部の外径をスクリューリング部の
最大外径に対して2/3以下とするスクリューリング釘が開示されていると認めら
れるが、このような記載を待つまでもなく、スクリューリング釘においても、その
引抜耐力を向上することは、当業者には自明の課題であるというべきである。
    また、スクリュー釘及びスクリューリング釘が、その打込みに際して、胴
部に施されたスクリューの作用によりその軸線を中心として回転することは当業者
に明らかな技術的事項であると認められる。そして、胴部が全長にわたり同一径で
ある引用考案1のようなスクリューリング釘を木材に使用した場合に、回転力によ
りねじ山が木材を切り込み排除しながら進入し、穴を形成する作用が、スクリュー
リング釘の尖端部分でされることは明らかであり、また、穴空け作用を行うスクリ
ューリング釘の尖端部に木材の繊維が最も多くからむことは、技術常識に基づいて
当然に予測し得ることである。
    そうとすれば、本願考案の上記技術課題は、木材に用いられる従来のスク
リューリング釘において、当業者に自明の課題であったものと認められるから、当
業者がこれをきわめて容易に想到することはできない旨の原告の主張は採用するこ
とができない。
  (2) 原告は、周知例1、2が示す従来周知の事項は「ねじ込み」によって用い
られる木ねじ等に係る技術思想であって、「打込み」によって使用するスクリュー
リング釘に係る技術思想を示すものではないから、スクリューリング釘の胴部を尖
端に向けて縮小するテーパー状にすることは、当業者がきわめて容易に想到するこ
とはできない旨主張する。
    しかしながら、実願昭63-93213号(実開平2-19919号)の
マイクロフィルム(乙第1号証)には、「第4図は、この考案の第2実施例を示
し、スクリュー釘1における大径頭体5の上面に、ドライバー等の工具14が係脱
される係合溝15を形成したものである。・・・このような構造によれば、工具1
4を前記係合溝15に係合させた状態でスクリュー釘1の打ち込み方向に力を加え
且つ前記工具14を回転させれば、スクリュー釘1は構築部材に容易にねじ込まれ
ることになる。」(10頁4行目~13行目)との記載があり、さらに、特開昭6
1-201910号公報(乙第2号証)には、「この発明は、スクリュー釘・・・
に関するものである」(1頁右下欄4行目~6行目)、「第6図はこの発明に係る
スクリュー釘を示しており、一端に頭部11を有する軸12の外周面にスクリュー
13が設けられ、軸12の他端にドリル部14が連成されている。」(3頁右上欄
1行目~4行目)、「頭部11はドライバー係合溝25が・・・成形される。」
(同頁左下欄11行目~13行目)との各記載があって、これらの記載によれば、
スクリュー釘においては、頭部にドライバー等の工具が係脱される係合溝を有し、
打込みのほか、ねじ込みによる使用が想定されているものもあることが周知の事項
であると認めることができる。
    また、周知例1(甲第3号証)には、「隠しねじ釘に関する」(1頁17
行目)考案が記載され、その実施例に関し、「隠しねじ釘1を用いた二部材(被固
着部材と固着部材)の固着手順を第2図(a),(b),(c)により説明する。先ず、第2
図(a)に示す様に、ドライバー21の先端を締付け穴4に係合し、隠しねじ釘1を被
固着部材11にねじ込む。次に、第2図(b)に示す様に、木槌22を用い、当て木2
3を介して、固着部材12に隠しねじ釘1を打ち込む。この時、第3図(c)に示す様
に、隠しねじ釘1は、矢印A方向、即ち被固着部材11及び固着部材12にねじ込
まれる方向に僅かに回転する為、被固着部材11と固着部材12との固着が強固に
行われる」(5頁2行目~15行目)との記載があるところ、この記載と図面第1
図(a)、(b)及び第2図(a)~(c)の各表示とによれば、周知例1記載の隠しねじ釘
は、上部ねじ頭に逆ねじ山が形成され、また、胴部はねじ山が形成され、かつ、尖
端に向けて縮小するテーパー状とされ、まず被固着部材にねじ込まれた後、当て木
を介して頭部に固着部材12が打ち込まれた際、隠しねじ釘の軸線まわりに回転力
が発生して、隠しねじ釘が被固着部材及び固着部材に更にねじ込まれる作用を奏す
るものと認められる。そうすると、周知例1に記載された隠しねじ釘は、「ねじ込
み」に加えて、「打込み」により回転し進入する釘の作用を有するものということ
ができる。
    さらに、周知例2(甲第4号証)には、「頭部とスクリュー部とからなる
セメント系外壁材の固定釘」(実用新案登録請求の範囲)の考案が記載され、その
考案の効果として、「金槌で固定釘Aを打ちつけるとスクリュー部が胴縁4及びセ
メント系外壁材5を貫通して頭部1がセメント系外壁材5の表面に到達して固定さ
れる」(3頁4行目~7行目)との記載があるところ、金槌で固定釘Aを打ちつけ
た場合には、スクリュー部に施されたスクリューの作用によりその軸線を中心とし
て回転し胴縁に進入するものと認められるから、周知例2に記載された固定釘も、
「打込み」により回転し進入する釘の作用を有するものと認められる。
    そうすると、上記(1)のとおり、スクリュー釘及びスクリューリング釘は、
その打込みに際して、胴部に施されたスクリューの機能によりその軸線を中心とし
て回転するものであるのみならず、スクリュー釘にあっては、打込みによって使用
されるとともに、ねじ込みによる使用が想定されているものがあり、他方、周知例
1には、ねじ込みに加えて、打込みにより回転し進入する隠しねじ釘が、周知例2
には、打込みにより回転し進入する固定釘が記載されているのであるから、周知例
1、2に開示された釘とスクリュー釘及びスクリューリング釘とは固着手段として
共通するものと認められる。
    そして、上記(1)のとおり、引用文献1には、引抜耐力の向上を課題とし
て、引用考案1のスクリューリング釘のガイド部の外径をスクリューリング部の最
大外径に対して2/3以下とすることが開示されているのであるから、そのガイド
部の外径をスクリューリング部の最大外径に対して2/3以下とする形状を、周知
例1、2に示された、釘の胴部を「尖端に向けて縮小するテーパー状に形成」する
周知の形状に置き換えて本願考案の構成とすることは、上記のとおり、周知例1、
2に開示された釘とスクリュー釘及びスクリューリング釘とは固着手段として共通
するものである以上、当業者であればきわめて容易に想到できたことと認められ
る。
    したがって、原告の上記主張は採用することができない。
  (3) 原告は、本件試験の結果のとおり、本願考案の実施品であるスクリューリ
ング釘Aの引抜耐力が従来品であるスクリューリング釘Bに比べて極めて大きいこ
とが明らかであるから、審決には、本願考案に係る、従来例のものと比較して引抜
耐力が著しく大きいという顕著な効果を看過して、本願考案が当業者においてきわ
めて容易に想到することができるとの判断をした誤りがある旨主張する。
    しかしながら、比較試験により、本願考案が従来例のものと比較して顕著
な効果を奏することが明らかであるというためには、当該比較試験を実施する際の
条件を同じくすることはもとより、本願考案において新規である構成部分以外の構
成部分、すなわち、従来例のものと共通する構成部分についても従来例のものと同
じくして当該比較試験に供することが必要であるものというべきである。ところ
が、本件試験に係る試験報告書(甲第8号証)においては、本願考案の実施品であ
るとして本件試験に供したスクリューリング釘Aについては「郡山チップ工業製6
5㎜スクリュウリング釘 線径3.25」と、従来品であるとして本件試験に供し
たスクリューリング釘Bは「他社製65㎜スクリング 線径3.1」と特定されて
いることにかんがみて、それぞれ製造者を異にする一般の市販品であることがうか
がわれ、そうであるとすれば、例えば、技術常識上スクリューリング釘の引抜耐力
に多大な影響を及ぼすものと認められるリング加工部分におけるリング加工の数や
形状等が当然に同一であるとは認められない。同報告書には、スクリューリング釘
Aにつき「これは実願平5-5793号明細書(注、本願明細書)添付の図面の図
1に示すスクリューリング釘に対応する物である」との、また、スクリューリング
釘Bにつき「これは実願平5-5793号明細書添付の図面の図3に対応するもの
である」との各記載があるが、同各記載が、スクリューリング釘A及びスクリュー
リング釘Bがそれぞれリング加工の数や形状等も含めて同明細書の図面表示のスク
リューリング釘と同一であることをいう趣旨とは解されず、他に、スクリューリン
グ釘Aとスクリューリング釘Bとで、上記の点が同一であることを明らかにする証
拠もない。そうすると、本件試験の結果に基づいて、本願考案が従来例のものと比
較して顕著な効果を奏するものと直ちに認めることはできない。
    のみならず、本願考案の要旨は、「胴部は尖端に向けて縮小するテーパー
状に形成された」と規定するのみであって、そのテーパー角度について格別の限定
はない。そうすると、仮に本件試験に供したスクリューリング釘Aが、胴部が全長
にわたり同一径である従来例のスクリューリング釘Bと比較して、その引抜耐力に
有意の差異が認められたとしても、それは、本願考案の一実施例の効果にすぎず、
本願考案の効果であると直ちに認めることはできない。本願考案には、胴部のテー
パー角度が極めてわずかであり、胴部が全長にわたり同一径である従来例のスクリ
ューリング釘と比較して構成上の相違が微差にすぎないものも含まれるところ、そ
のようなものが従来例のものと比較して顕著な作用効果を奏するものとは技術常識
上考え難いというべきであるから、結局、本願考案の効果は、当業者が従来例から
予測できる程度のものであって、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
    したがって、審決が、本願考案に係る、従来例のものと比較して引抜耐力
が著しく大きいという顕著な効果を看過したとする原告の主張は採用することがで
きない。
 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官  篠   原   勝   美
    裁判官  石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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