平成13(ネ)1773民事訴訟 特許権
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
大阪高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成13年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条の21回 特許法37条3号1回
|
キーワード |
実施9回 無効8回 特許権7回 無効審判5回 審決4回 差止4回 侵害3回 損害賠償1回
|
主文 |
|
事件の概要 |
|
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成13年(ネ)第1773号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成12年(ワ)第5352号-A)
判 決
控訴人(1審原告) アンドウケミカル株式会社
同訴訟代理人弁護士 北 方 貞 男
被控訴人(1審被告) 株式会社東海化成
被控訴人(1審被告) タキイ種苗株式会社
被控訴人(1審被告) 株式会社サカタのタネ
被控訴人(1審被告) 有限会社堤製陶所
被控訴人(1審被告) 後藤種苗合名会社
被控訴人(1審被告) 有限会社空閑園芸
被控訴人(1審被告) 株式会社福岡セルトップ
被控訴人(1審被告) 有限会社吉田園芸
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 後 藤 昌 弘
同 川 岸 弘 樹
同補佐人弁理士 広 江 武 典
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2(1) 被控訴人株式会社東海化成(以下「被控訴人東海化成」という。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件を生産し,譲渡し,譲渡のために展
示してはならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金5000万円及びこれに対する平成12年4月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人タキイ種苗株式会社(以下「被控訴人タキイ種苗」という。)
は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件を譲渡し,譲渡のために展示しては
ならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金2500万円及びこれに対する平成12年4月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人株式会社サカタのタネ(以下「被控訴人サカタのタネ」とい
う。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件を譲渡し,譲渡のために展示しては
ならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金1500万円及びこれに対する平成12年4月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人有限会社堤製陶所(以下「被控訴人堤製陶所」という。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件を譲渡し,譲渡のために展示しては
ならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金2000万円及びこれに対する平成12年4月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人後藤種苗合名会社(以下「被控訴人後藤種苗」という。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件の譲渡及び使用並びに原判決別紙ロ
号物件目録記載の物件の使用をしてはならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の各物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金200万円及びこれに対する平成12年4月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被控訴人有限会社空閑園芸(以下「被控訴人空閑園芸」という。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載の各物件を使用しては
ならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の各物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金200万円及びこれに対する平成12年4月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被控訴人株式会社福岡セルトップ(以下「被控訴人セルトップ」とい
う。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録記載の物件の譲渡,譲渡のために展示及び使用
をしてはならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金100万円及びこれに対する平成12年4月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 被控訴人有限会社吉田園芸(以下「被控訴人吉田園芸」という。)は,
ア 原判決別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載の各物件を使用しては
ならない。
イ その事業所(倉庫を含む。)に存在する前項の各物件を廃棄せよ。
ウ 控訴人に対し,金100万円及びこれに対する平成12年4月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
4 この判決は,仮に執行することができる。
第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,原判決別紙イ号物件目録記載の物件は後記A発明の技術
的範囲に属し,これを生産し,譲渡し,譲渡のために展示し,使用する被控訴人ら
の各行為は後記A特許権を侵害するとして,被控訴人らに対しその差止等と損害賠
償を請求し,また,原判決別紙ロ号物件目録記載の物件は後記B発明の技術的範囲
に属し,これを生産し,譲渡し,譲渡のために展示する被控訴人東海化成の行為並
びにこれを使用する被控訴人後藤種苗,同空閑園芸,同セルトップ及び同吉田園芸
の各行為は後記B特許権を侵害するとして,同被控訴人らに対しその差止等を求め
た事案である。
原判決は,上記イ号物件目録記載の物件はA発明の技術的範囲に属さず,ま
た,上記ロ号物件目録記載の物件については,被控訴人東海化成及び同セルトップ
を除くその余の被控訴人らは,いずれも現在ではこれを使用していないとして,上
記ロ号物件目録記載の物件に係る被控訴人東海化成及び同セルトップに対する差止
め等の請求を除き,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が,これを不服
として控訴を提起した。
2 本件の前提となる事実(争いのない事実等),争点及び争点に係る当事者の
主張は,次に付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概
要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決4頁12行目~7頁23行
目,8頁22行目~12頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用す
る。
3 原判決の付加,訂正
(1) 原判決4頁11行目の次に改行の上,「(当事者間に争いのない事実
等)」を加える。
(2) 同5頁7行目の「右無効審判請求を争っている」を「上記無効審判請求に
ついて争った」と改め,同頁17行目の次に改行の上,次のとおり加える。
「上記特許無効審判の請求について,特許庁は,平成13年1月9日,上記
訂正を認めた上で「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をしたが,被控訴
人タキイ種苗らは,これを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起した
(甲14,15,弁論の全趣旨)。」
(3) 当審における付加主張
【控訴人】
ア A発明における育苗ポット用樹脂成形体の製造のために必要な金型は,
その強度を維持するために,金型上端開口縁に一定の肉厚を残さざるを得ないか
ら,このような金型を使用して樹脂材料を真空成形した場合(産業技術上,真空成
形以外にはA発明の実施可能な方法はない。),育苗ポットの上端開口部の周縁に上
記肉厚に由来する「バリ」が生じる。特許発明は,産業上実施されることを当然の
前提とする技術であるから,このように産業技術上不可避的に生じる微差は,クレ
ーム解釈上,技術的には無意味なものとして無視されなければならない。
イ イ号物件の各ポット単体の上端開口部に形成されたフランジ状部も,上
記のような意味での「バリ」にすぎず,格別の技術的意味を有さないから,A発明
実施上の微差として無視されるべきである。
なお,イ号物件の「バリ」の幅は,控訴人の製品の「バリ」の幅より少
し広いが,これは専ら金型技術の差によるものにすぎない。
そして,上記フランジ状部が単なる「バリ」にすぎないことは,①イ号
物件に認められるフランジ状部は,その幅が平均1㎜未満であって(甲16にみら
れるように,控訴人が万能投影機を使用して実測した結果では,イ号物件の各ポッ
ト単体相互の間隔は1.959㎜あるいは1.989㎜であったから,その半
分。),先願発明における「連結耳部」の作用効果を奏しないこと(乙4の【00
09】),②イ号物件は,隣接するポット単体同士をつなぐ部分の適宜の位置で切
断すべく構成されており,フランジ状部の幅の確保に格別の関心が払われていない
ため,切断後のポット単体にはフランジ状部が全くないものも存在すること,③イ
号物件を製造する金型上端開口縁の肉厚は1㎜と考えられるが(なお,金型におけ
る各ポット単体相互の間隔は2個分であるから2㎜となる。),これは,金型製作
技術上,限りなくゼロにすることを目指してようやく達成される肉厚であること,
④先願発明にいうような「連結耳部」を設けることは,「連結耳部」を設けると耳
の幅だけポットが小さくなり,ポットに入れることのできる土の容量が減る等の欠
点があり,現実には有害無益であるから,イ号物件がそのようなものを意図してフ
ランジ状の部分を設けたとは考えられないことからも明らかというべきである。
ウ なお,被控訴人らは,乙6の金型と控訴人の金型とでは基本的に構造が
異なると主張しているが,イ号物件が乙6の金型で成形されたものなら,被控訴人
らの主張を前提にすると,ポット単体の上端縁の幅は,ポリプロピレンの収縮率1
7/1000として2.4575㎜なければならないのに,前記イ①のとおり,実
際には1.989㎜とか1.959㎜にすぎないこと,イ号物件における隣接ポッ
ト単体との連結部分は2点であるのに,乙6の(6)のカッターはこれにより製造され
るポット単体同士の連結点が1点であることを示していることなどから,そもそ
も,乙6の金型はイ号物件を製造した金型とはいえない。
【被控訴人ら】
ア 控訴人は,A発明の実施上,各ポット単体の上端開口部にフランジ状部
が必然的に形成されるとした上,このフランジ状部は産業技術上やむなく生じる
「バリ」である旨主張しているが,仮にそうであったとしても,A特許権につい
て,控訴人は,被控訴人タキイ種苗らが申し立てた特許無効審判手続において,特
許無効事由を回避するために,敢えてA発明の権利範囲について耳部のあるものを
含まない旨強く主張し,その結果,審決においてA特許権が維持された経緯からし
て,A発明がかかるフランジ状部を含むポットを対象としないことは明らかである
といわざるを得ない。のみならず,A発明の育苗ポット用樹脂成形体の成形法とし
ては,控訴人が前提とする真空成形に限らず,例えば射出成形のような確立された
公知の成形法があり,この方法によれば「バリ」を発生させることなく容易にA発
明の実施ができることは当業者に周知のところである。したがって,A発明の実施
上フランジ状部が必然的に形成されるとして,これを産業上のやむなく生じる微差
として無視すべきであるとの控訴人の主張は,失当である。
イ 控訴人は,イ号物件のフランジ状部をもって,上記のような「バリ」で
あると主張するが,合成樹脂を金型に流し込む際にはみ出した部分を「バリ」とい
うのであればまだしも,イ号物件のフランジ状部は,単に余剰の樹脂がはみ出した
というものでは全くなく,一定の幅を持つのみならず,ポットの本体部分よりも厚
く形成されており,そのために先願明細書にいう補強縁としての作用効果を奏して
いるのである。
ウ また,控訴人の金型は,単体のポット金型をビスで台金に連設したもの
であるから,個々のポット金型に一定の強度を維持するために,その上端部に一定
以上の厚みを持たせることが必要となり,その結果,控訴人の金型を用いて製造さ
れた各ポット単体の相互の間には個々のポット金型の上端部の厚み2個分に相当す
る間隔が生じることになる。これに対し,被控訴人東海化成の金型は,乙6の写真
からも明らかなように,個々のポット金型をビスで台金に連設するものではなく,
複数のポット単体の金型を一体的に成型したものを複数組み合わせており,強度の
維持も金型の最外部の外周部分が担うため,個々のポット金型で強度を維持する必
要はなく,技術的には各ポット金型の上端部の厚みは幾らでも薄くすることが可能
である。被控訴人東海化成は,かかる技術的背景がある上で,敢えて各ポット金型
の上端部の厚みを一定の幅に設定して製造しているのである(乙13)。
なお,控訴人は,乙6の金型はイ号物件の製造に用いられるものではな
いと主張するが,そうでないことは,乙6の金型の底面部の形状を確認すればおの
ずと明らかである。
エ A特許権に係る訂正明細書の特許請求の範囲において,請求項1には,
育苗ポット樹脂成形体が独立請求項として特定されており,請求項2には,育苗ポ
ット樹脂成形体を製造するための装置が独立請求項として特定されているが,請求
項2の発明は,A発明(請求項1の発明)と一の願書で特許出願されているから,
両発明は,特許法37条3号に規定する関係を満足する関係にあるため,請求項2
の発明の装置を使用して製造された「樹脂成形体物」は,A発明の樹脂成形体に包
含される一実施の形態であるとせざるを得ない。そうすると,訂正後のA発明は,
一見,個々の育苗ポット単体は,上端開口部の周縁にフランジ状部を有しない育苗
ポットのみとなったようにみえるものの,請求項2の発明の装置で製造できるの
は,上端開口部の全周縁から外方向に張り出したフランジ状部を有する育苗ポット
のみであることを考慮すると,A発明の樹脂成形体は,その両者を含む上位概念に
て特定されていると解さざるを得ない。
そうすると,A発明の樹脂成形体の個々のポット単体は,上端開口部周
縁間が耳部(フランジ状部)を介して連接されているものを含むことになり,結
局,先願発明と同一のものとなるから,A発明についての特許は特許法29条の2
の規定に違反し無効とされるべきものであって,明白な無効理由を有するものとい
うべきであるから,これに基づく控訴人の請求は権利濫用として許されない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は,原判決主文掲記の限度で理由があり,その余
の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次に付加,訂正するほ
かは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」(原判決12頁
22行目~17頁17行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の訂正等
(1) 原判決13頁6行目の「同10年8月18日」の前に「A発明に係る特許
出願後の」を加える。
(2) 同15頁6行目の次に改行の上,次のとおり加える。
「オ もっとも,イ号物件の連結箇所は,原判決イ号物件目録記載のとおり2
か所とされている(この点は当事者間に争いがない。)ところ,乙6の(6)のシート
切断用カッターの刃の部分の切れ込みからみて,同カッターによっては連結箇所が
1か所しか作製されないことが窺われることからすると,乙6の金型がイ号物件を
製造するための金型であるかについては,厳密な意味では,疑問が残るところでは
あるが,乙4の先願明細書には「例えば,連結耳部(6)の各辺の1個所で連結す
るほか,間隔をおいて複数個所で連結することができる」(【0022】)と記載
されていることや,控訴人自身,原審における平成13年1月10日付準備書面お
いてその点の指摘をしていながら,金型自体に争点にかかわるような仕様の変更が
あった旨の主張は何らしていないことからみて,カッターの仕様に係る連結箇所の
個数の変更の点は格別,上記の事実から直ちに,金型自体の仕様に大きな変化があ
ったとも認めることはできない(なお,甲26(控訴人代表者の陳述書)によれ
ば,被控訴人東海化成が韓国において控訴人の金型を模倣して作らせた金型が使用
されているかのような供述記載がなされているが,その根拠とするところは,いず
れも伝聞ないし推測にすぎないことが明らかであるから,直ちに上記供述を採用す
ることはできない。また,控訴人は,甲16の測定結果がイ号物件の正確な測定値
であることを前提にした主張をしているが,後記3で述べるところに照らし,同数
値を正確なものとして,これによることもできない。)」
(3) 同15頁15行目の「0029」を「0031」と改める。
(4) 同17頁8行目の「存在するとこと」を「存在すること」と改める。
3 当審における付加主張に対する判断
控訴人は,特許発明の実施に当たり,産業技術上不可避的に生じる微差は,
クレーム解釈上,技術的には無意味なものとして無視されなければならない旨主張
するところ,一般論による限り,当業者の技術常識に照らして,当該部分が,例え
ば製造技術上の制約等から不可避的に発生するものであることが明らかであり,か
つ,当該部分に格別の技術的意味も認められないようなときは,控訴人主張のよう
に,クレーム解釈上,これを無意味なものとして解釈することも許されないではな
いものと解される。
しかしながら,本件においては,A発明の構成要件①にいう「コップ形状」
が,周壁の上端開口部が切りっぱなし状態に形成されたものを意味するもので,切
りっぱなし状態にある周壁の上端開口部から外方向に張り出した部分を有するもの
は含まれないと解すべきことは前記引用に係る原判決13頁21行目から14頁1
3行目に記載のとおりであり,また,A発明は,フランジ状部を一体形成したもの
を含まない点においてのみ先願発明と相違し,かつ,被控訴人タキイ種苗らが申し
立てた特許無効審判手続において,控訴人は,敢えてA発明の権利範囲について耳
部のあるものを含まない旨を強く主張し,その結果,審決においてA特許権が維持
された経緯があることが認められること(甲12~14,乙5)からすると,上記
「コップ形状」に係るクレーム解釈は厳格になされなければならないものといわな
ければならない。
しかるところ,控訴人は,イ号物件のフランジ状部も上記のような意味での
「バリ」にすぎない旨主張するが,A発明の育苗ポット用樹脂成形体の製造につい
て控訴人主張のように真空成形以外には実施可能な方法がないか否かの点はさて措
き,イ号物件も真空成形によっていることは明らかであることから,真空成形によ
ることを前提にするとしても,控訴人主張のように,イ号物件において,その製造
に用いる金型製作上の制約から個々のポット単体の間に2㎜程度の間隔が不可避的
に生じるものとまで認めるに足りる証拠はなく(甲23も,乙13の記載に照らし
て直ちには採用できない。),かえって,乙6におけるように(これがイ号物件製
造のための金型であるかの点は措く。),単体のポット金型をビスで台金に連設す
るのでなく,複数のポット単体の金型を一体的に成型したものを用いるとすれば,
金型強度との関係で,控訴人主張のような制約を受ける可能性も少なくなり,金型
上端開口縁をより薄くすることも不可能ではないことが窺われる。
次に,控訴人は,万能投影機を使用してイ号物件を実測した結果の報告書と
して甲16を提出しているが,これがイ号物件の測定結果であることを客観的に確
認し得る資料や具体的にどの部分を実測したのか等の詳細は提出されていない。ま
た,その測定結果は,イ号物件の各ポット単体相互の間隔が1.959㎜あるいは
1.989㎜であるというものであり,先願明細書には,各ポット単体の幅として
1㎜から5㎜の範囲(各ポット単体相互の間隔は2㎜から5㎜の範囲)が好適であ
るとの記載はあるものの,その補強縁としての作用効果やフランジ状部がポット本
体部分よりも厚く形成されていることからみて,上記の程度これを下回っただけ
で,直ちにその作用効果が失われるものとも解しがたい。
また,控訴人は,イ号物件は,隣接するポット単体同士をつなぐ部分の切断
につき,フランジ状部の幅の確保に格別の関心が払われていないことから,フラン
ジ状部が全くないものまで存在するとも主張しているが,原判決の理由(原判決1
6頁16行目~同頁20行目)に加えて,育苗ポットがいわゆる精密部品ではない
ことをも考慮すると,そのゆえに,イ号物件のフランジ状部をもって「バリ」にす
ぎないということもできないし,また,先願発明の「連結耳部」が有害無益である
と主張する点も,「連結耳部」に補強縁としての作用効果が認められる以上,控訴
人主張のように被控訴人東海化成が「連結耳部」を設けようとするはずがないと断
ずることはできない。
以上によれば,上記の控訴人主張の点を考慮しても,イ号物件の各ポット単
体の上端開口部に形成されたフランジ状部が,控訴人主張のような意味での「バ
リ」にすぎないということはできず,本件全証拠を精査しても,他にこの点に関す
る控訴人の主張を認めるに足りる証拠はないから,イ号物件の各ポット単体をもっ
て,A発明にいう「コップ形状」の育苗ポットに該当するということはできない。
4 その他,原審及び当審における控訴人提出の各準備書面記載の主張に照ら
し,原審及び当審で提出,援用された全証拠を精査しても,引用に係る原判決を含
め,当審の認定,判断を覆すほどのものはない。
第4 結 論
以上によると,原判決は相当であるから,本件控訴をいずれも棄却し,控訴費用
は控訴人に負担させることとして,主文のとおり判決する。
(平成13年10月30日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 竹 原 俊 一
裁判官 小 野 洋 一
裁判官 西 井 和 徒
最新の判決一覧に戻る