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平成13(行ケ)398行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年12月20日
事件種別 民事
法令 商標権
キーワード 審決15回
無効5回
商標権2回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(行ケ)第398号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告 トライウォール 株式会社
 訴訟代理人弁理士 小林孝次
 被 告 東リ株式会社
 訴訟代理人弁護士 村林隆一、松本司、岩坪哲、井上裕史、弁理士 三枝英二、
中川博司、岩井智子、山田威一郎
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成9年審判第19476号事件について平成13年7月30日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告は、登録第2718181号商標(昭和60年9月5日登録出願、平成8年
11月29日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は、「東リウォー
ル」「TOLI WALL」の文字(「TOLI」の構成中、「O」の文字の上部
には長音記号を有する。以下同じ。)を二段に書してなる構成よりなり、第25類
「壁紙」を指定商品とする。原告は、平成9年11月17日、本件商標の登録を無
効とする、との審決を求める審判請求をし、平成9年審判第19476号事件とし
て審理されたが、平成13年7月30日「本件審判の請求は、成り立たない。」と
の審決があり、その謄本は同年8月8日原告に送達された。
第3 審決の理由の要点
 1 引用商標
 原告が、本件商標の登録無効の理由として引用する登録第635335号商標
(引用商標)は、「TRI-WALL PAK」の欧文字を書してなり、昭和37年
12月20日登録出願、第25類「紙類、文房具類」を指定商品として、昭和39
年1月23日に登録、その後3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、
現在、有効に存続しているものである。
 2 審決の判断
(審決摘示の審判における原告(請求人)の主張の要旨及び被請求人(被告)の答
弁の記載は省略する。)
 本件審理に関し、当事者間に利害関係の有無について争いがあるので、まず、こ
の点について判断するに、本件商標が、原告の現に使用する商標と誤認・混同さ
れ、その結果として、商品の出所について混同を生じるおそれがあるならば、原告
は、本件商標の存在によって不利益を被るといわなければならないから、原告には
本件審判請求をするにつき、法律上の利益を有するものというのが相当である。そ
して、本件商標に係る指定商品は、原告所有の引用商標に係る指定商品に含まれる
ものである。
 そこで、本案に入って、原告が主張する本件商標の無効理由の当否について検討
する。
 本件商標は、前記表示のとおりであるところ、上段及び下段に書された各文字
は、まとまりよく一連に書されているものであって、それぞれより生ずると認めら
れる「トーリウォール」の称呼も格別冗長にわたるものとはいえず、たとえ、構成
中の「ウォール/WALL」の文字が「壁」の意を有するとしても、かかる構成に
おいては、構成前半の「東リ」「TOLI」の文字部分のみが独立して把握、認識
されるとみるべきものとは認められず、本件商標からは、「トーリウォール」の称
呼のみを生ずるとみるのが相当といえる。
 他方、引用商標の構成は、前記表示のとおりであるところ、構成の各文字は、ま
とまりよく一連に表されているものであり、構成の「WALL」「PAK」の意味
合いをそれぞれ詮索し、分断し、称呼を特定すべきものとは認められず、引用商標
からは、構成文字全体に相応して、「トリウォールパック」又は、「トライウォー
ルパック」の称呼を生ずるとみるのが相当である。
 してみると、本件商標より生ずる「トーリウォール」と、引用商標より生ずる
「トリウォールパック」「トライウォールパック」の称呼は、音構成、構成音数に
おいて顕著な差異を有するものであるから、称呼上、相紛れるおそれはないもので
あり、また、両者は、特定の観念を有するものとも認められない。さらに、外観に
おいて明らかに区別し得る差異を有するものである。
 したがって、本件商標は、引用商標と外観、称呼、観念において相紛れるおそれ
のない非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録され
たものではなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすることが
できない。
 なお、原告が例示する審判例は、本件と事案を異にするものであるから、それに
基づく原告の主張は採用することができない。
第4 原告主張の審決取消事由
審決は、引用商標からは「トリウォールパック」又は「トライウォールパック」
の称呼のみを生ずるとみるのが相当である、とする。しかし、以下に述べるとお
り、引用商標からはむしろ「トリウォール」又は「トライウォール」の称呼も生ず
るとみるべきである。そうであるなら、本件商標の称呼「トーリウォール」は引用
商標の1称呼「トリウォール」と類似し、商標法第4条第1項第11号に違反して
登録されたもので登録を無効にされるべきである。
 1 本件商標と引用商標との対比
 (1) 称呼についてであるが、前者からは「トーリウォール」、後者からは「トリ
ウォール」「トライウォール」「トリウォールパック」「トライウォールパック」
のいずれかが生ずる。しかし、この「パック」は第25類の商品、例えば包装用紙
との関係で、識別力がないと考えられる。「パック」は包装を意味する言葉として
国語化しているからである。「パック」は単に「パック」だけでなく「パッキン
グ」としても馴染まれており、一般に国語化している。包装には通常、紙が用いら
れること一般であるから、指定商品「壁紙」及び「紙類」にあって、取引者、需要
者は「トリウォールパック」の称呼中「パック」部分については省略して意に介し
ない者が多数いると想像される。引用商標の「PAK」からは、パックすなわち
「包装」の概念を直感的に想起すると推測されるのである。したがって、引用商標
の称呼中「パック」は省略され得るものであって、引用商標からは「トリウォー
ル」の称呼も生じる。
 「PAK」「PACK」「PAC」「パック」又は「ぱっく」との結合商標で、
商標法第3条第1項各号に規定のいわゆる識別力がない商標と判断され登録を拒絶
された商標登録出願が多数ある。
 したがって、称呼「パック」には識別力がなく、商標として機能する力が一般に
ないというべきであるから、省略されることが十分想定され、本件の場合も引用商
標は「トリウォールパック」とも、あるいは「トリウォール」とも称呼されると考
えるのが自然である。
 (2) そこで「トーリウォール」対「トリウォール」の称呼上の類否いかんを問え
ば、第1音が長音か短音かの僅差にすぎず、両者は明らかに類似する。この違いは
簡易迅速を尊ぶ取引社会においては省略ないし看過されることも少なくないからで
ある。
 (3) 観念上の類否であるが、本件商標の「東リ ウォール/TOLI WAL
L」も引用商標の「TRI-WALL PAK」もともに造語である。ただし「W
ALL」は「壁」を意味する英語として十分一般に認識されている。したがって
「TOLI WALL」と「TRI-WALL PAK」のうち「WALL」が共
通し、これが「壁」という観念を生じて記憶されやすい。一方「PAK」は上述の
とおり包装という概念を想起させるから、指定商品との関係で識別力は非常に弱く
省略されやすい。「TOLI」と「TRI」は造語であるが、その観念化は困難で
あるから記憶上混同されやすい。日本人は一般にLとRとを発音上区別せず、した
がって記憶するに区別しないという事情もある。
 2 本件商標と参考商標Fとの対比
 引用商標の連合商標として登録された商標「TRI-WALL VLC」(参考
商標F)は、指定商品を第25類の紙類、文房具類とする。これは、本件商標に類
似する引用商標の「TRI-WALL PAK」の連合商標として、本件商標より
後に出願されたにもかかわらず登録された。つまり引用商標と参考商標Fとは互い
に類似すると判断されている。両者は「TRI-WALL」を共通にし、後続する
「PAK」と「VLC」を異にする。「PAK」と「VLC」とは明らかに非類似
であるから、それにもかかわわらず両者が類似とされたのは、たとえ「TRI-W
ALL PAK」の称呼が「トリウォールパック」であって「パック」は省略され
ることはないとしても、もう一方の「TRI-WALL VLC」の「VLC」は
省略され得るもので、その結果「トリウォールパック」と「トリウォール」とは類
似していると判断されたからである。これは「PAK」には十分なる識別力がな
い、と特許庁が判断していることを意味する。
 3 本件商標及び参考商標Fの出願から登録に至るまでの手続上の矛盾
① 昭和60年9月5日 本件商標の出願
② 昭和63年5月17日 参考商標Fの出願(引用商標と連合)
③ 平成5年7月30日 本件商標の公告決定
④ 平成5年10月8日 参考商標Fに対する拒絶理由通知書起案
(引例:商公平5-107727(本件商
標))
⑤ 平成7年6月9日 参考商標Fの公告決定
 上記のように本件商標は公告され、次に本件商標の後願である参考商標Fが本件
商標を引例されて拒絶理由通知を受けた。両者は類似するとされたのである。しか
しその後参考商標Fはなぜか公告された。したがって前の拒絶理由通知は撤回され
たのであるから、両者は非類似と判断されたはずである。参考商標Fが公告決定さ
れたということは、一方で参考商標Fの「TRI-WALL VLC」と引用商標
(連合商標)の「TRI-WALL PAK」とは類似と判断され、他方で参考商
標Fの「TRI-WALL VLC」と本件商標の「東リウォール/TOLI W
ALL」とは非類似と判断されたことになる。これは矛盾である。
 また手続上からも疑義がある。本件商標登録の異議申立手続があったが、その経
緯は下記のとおりである。
① 平成5年12月7日 異議申立書
② 平成6年8月3日 異議答弁書
③ 平成8年4月1日 異議申立人の上申書
④ 平成8年7月18日 異議決定
 異議申立書にも、また異議答弁書にも、本件商標が参考商標Fの「TRI-WA
LL VLC」に類似する旨が述べられている。それにもかかわらず参考商標Fが
本件商標と非類似として公告決定されたのであるから、特許庁は当事者双方に見解
を述べる機会を与えてしかるべきであった。別事件で進行したこととはいえ、上述
のように関連する事件において一方で「TRI-WALL VLC」と「TRI-
WALL PAK」とを類似と判断しておきながら、他方で「TRI-WALL
VLC」と「TOLI WALL」とを非類似と判断したのであるから、その理由
について明らかにするか、あるいはその点を論ずる機会を与えるべきであった。
 この点は審決の瑕疵である。
第5 審決取消事由に対する被告の反論
 引用商標からは「トリウォールパック」「トライウォールパック」のいずれかの
称呼のみを生じ、「PAK」の部分を省略することはあり得ない。また、本件商標
及び引用商標とも造語であり、特別の観念を有しない。
 一連にみて比較する商標類似判断からすると、両商標を非類似のものとした審決
の判断に誤りはない。
第6 当裁判所の判断
 1 本件商標の上段及び下段に書された各文字は、まとまりよく一連に書されて
いるものであって、上段及び下段のそれぞれから生ずる「トーリウォール」の称呼
も格別冗長なものではなく、本件商標からは、「トーリウォール」の称呼のみを生
ずるものと認められる。
 他方、引用商標を構成する文字もまとまりよく一連に表されており、構成する
「WALL」「PAK」の意味合いをそれぞれ詮索し又は分断して特定し、その結
果一連に称される称呼が一部省略されるなどして変容するものとは認められない。
したがって、引用商標からは、構成文字全体に相応して、「トリウォールパック」
又は「トライウォールパック」の称呼を生ずるものと認められる。
 2 原告は、引用商標の「PAK」の部分は包装を意味する言葉として、その指
定商品中包装用紙などとの関連で識別力を有しないと主張する。しかしながら、包
装を意味する英語の綴りは「PACK」であり、しかも、造語に係る綴りである引用商
標中の「PAK」の部分は視覚的に印象が強いものであることを考慮すると、「P
AK」の部分から生じる称呼「パック」が「PACK」から生じる称呼「パック」と同
一のものであり、包装の観念を想起させるものであるとしても、まとまりよく一連
に表されている文字から構成される引用商標は一連に称呼されるものである、との
上記判断は左右されるものではない。
 3 原告は、「WALL」は「壁」を意味する英語として十分一般に認識されて
おり、「TOLI WALL」と「TRI-WALL PAK」のうち「WAL
L」が共通し、これが「壁」という観念を生じて記憶されやすいと主張するが、本
件商標及び引用商標がともに造語であることは、原告自身認めており、両商標とも
特定の観念を生じるものではないものと認められる。観念に関する原告の上記主張
をもってしても、両商標が類似するものと判断することはできない。
 4 原告は、参考商標F「TRI-WALL VLC」が引用商標との連合商標
として登録されたことをもって、本件商標が引用商標に非類似とされるのは矛盾す
るなどと主張するが、商標の類否判断は、個別にされるべきものであるから、原告
のこの主張をもってしても、上記判断を左右するものではなく、本件商標と引用商
標との類否判断に影響を与えるものではない。原告主張の手続違反に基づく審決の
瑕疵の主張も、原告主張の矛盾のあることを前提にするものであり、理由がない。
 5 以上説示したところによれば、「本件商標より生ずる「トーリウォール」
と、引用商標より生ずる「トリウォールパック」「トライウォールパック」の称呼
は、音構成、構成音数において顕著な差異を有するものであるから、称呼上、相紛
れるおそれはないものであり、また、両者は、特定の観念を有するものとも認めら
れない。さらに、外観において明らかに区別し得る差異を有するものである。」と
した審決の判断に誤りがあるものということはできない。
第7 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成13年11月8日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   古   城   春   実

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