平成12(行ケ)311行政訴訟 特許権
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
東京高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成13年12月20日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
パチンコ遊技装置 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回 特許法40条1回
|
キーワード |
審決40回 実施39回 刊行物8回 無効5回 無効審判2回 特許権1回 優先権1回
|
主文 |
|
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「パチンコ遊技装置」とする特許第2787210号の発明(昭
和63年7月4日に、優先権主張を昭和62年12月28日、日本として出願、平
成10年6月5日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成12年(行ケ)第311号 審決取消請求事件(平成13年11月29日口頭
弁論終結)
判 決
原 告 株式会社日商
訴訟代理人弁護士 小 坂 志 磨 夫
同 小 池 豊
同 弁理士 永 井 義 久
被 告 株式会社マースエンジニアリング
訴訟代理人弁護士 安 原 正 之
同 小 林 郁 夫
同 弁理士 安 原 正 義
主 文
特許庁が平成10年審判第35665号特許無効審判事件について平成1
2年6月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事 実
第1 請求
主文同旨
第2 前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「パチンコ遊技装置」とする特許第2787210号の発明(昭
和63年7月4日に、優先権主張を昭和62年12月28日、日本として出願、平
成10年6月5日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成10年12月25日、本件発明について特許無効審判の請求をし、
特許庁に平成10年審判第35665号事件として係属し、原告は、平成12年1
月25日付けで訂正請求をした(以下「本件訂正請求」という。)。
特許庁は、上記審判事件について審理をした結果、平成12年6月27日、「特
許第2787210号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年
7月24日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨(特許請求の範囲の請求項1の記載、本件訂正請求による訂
正前のもの)
上に景品用パチンコ玉の受け皿および下に景品交換用パチンコ玉の受け皿を有す
るパチンコ機に対して、これに隣接する他のパチンコ機との間に金員のの投入に応
じて玉貸用パチンコ玉を排出する玉貸機が1対1で設けられ、これらのパチンコ機
と玉貸機との対が島方向に連続したパチンコ遊技装置であって、前記各玉貸機に
は、これへの金員の投入に応じて、玉貸機の前面から対応するパチンコ機の景品用
パチンコ玉の受け皿に、直接玉貸用パチンコ玉を排出可能とした剛性を有する連結
管を有し、その連結管の出口が景品用パチンコ玉の受け皿の上方に臨んで配置され
た排出装置が設けられており、前記排出装置に、これへの遊技者の操作に応じて玉
貸用パチンコ玉の前記景品用パチンコ玉の受け皿への排出を一時停止するストッパ
ー手段を設け、前記連結管を、パチンコ機を前方に開けたとき衝突しない位置まで
水平にパチンコ機前方から玉貸機前方に逃げるように、玉貸機の前方において鉛直
旋回軸心を有して旋回可能とした、ことを特徴とするパチンコ遊技装置。
(本件訂正請求は、上記の特許請求の範囲の請求項1の記載に関して、上記下線
部の「金員のの」を「金員の」と、「排出を一時停止するストッパー手段」を「排
出の一時停止を選択し残量を前記排出装置内に貯留しておくストッパー手段」とそ
れぞれ訂正することを内容としている。)
3 審決の理由
別紙1の審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおり、
原告が、平成7年5月15日付け手続補正書(甲第12号証)により本件発明の
特許請求の範囲の請求項1記載の「連結管」について、「剛性を有する連結管」と
した補正(以下「本件補正」という。)が、明細書の要旨を変更するものか否かを
検討し、昭和63年7月4日付け出願の願書に添付した明細書(以下「当初明細
書」という。)及び図面(以下「当初図面」といい、これと当初明細書をあわせた
ものを「当初明細書等」という。甲第5、第9号証)には、連結管320に関する
材料、及び連結管320が剛性を有することによる作用・機能・効果は何ら記載さ
れておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項でもないので、本件補正
は、要旨を変更するものであるから、本件発明の出願日は、旧特許法40条の規定
により、当該手続補正書が提出された時にしたものとみなされ、平成7年5月15
日となると判断した上で、
本件訂正請求の適否について、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係
る発明は、刊行物1(特開平1-250286号公報、甲第5号証。本件発明の当
初明細書等に当たる。)、刊行物2(実願昭61-60187号(実開昭62-1
72484号)のマイクロフィルム、甲第6号証)、及び刊行物3(実願昭61-
36100号(実開昭62-149392号)のマイクロフィルム、甲第7号証)
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求
は認められないとして、
本件発明の要旨を上記2のとおり本件訂正前のものと認定し、本件発明は、刊行
物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、無効
とされるべきであると判断した。
第3 原告主張の審決の取消事由の要点
審決は、平成7年5月15日の「本件補正」が明細書の要旨を変更するものであ
ると誤って判断し、本件発明の出願日の認定を誤ったものであるから、違法として
取り消されるべきである。
1 「剛性を有する連結管」の解釈の誤り
審決は、「「剛性」とは、「物体が弾性変形させようとする外力に対して歪まな
い性質」を意味し、物体を構成する材料の性質及び構造に基づく物理的特性という
ことができる」(審決書2頁22行ないし24行)と認定したが、当初明細書等に
連結管に関する材料が記載されているか否かの詮索を専らとした審決の認定は、そ
の基本において誤っている。
本件明細書(甲第2号証)には、「本発明は、実開昭62-172484号公報
(注、甲第6号証)記載のようにフレキシブルパイプを用いるのではなく、剛性を
有する連結管を用いるものである。したがって、連結管およびその出口位置が明確
に定まり、確実に上受け皿上に位置させることが可能となり、パチンコ玉をホール
内に落としてしまう事態を回避できる。」(5欄34行ないし39行)と記載され
ている。かかる記載から明らかなように、本件発明でいう「剛性を有する連結管」
とは、連結管を構成する材料の性質をいうのではなく、「連結管」として「フレキ
シブル性がないこと」を意味するものであることは明らかである。ちなみに、ここ
で引用している甲第6号証の実施例1における玉案内路61、62は材質としては
金属製であるが(同号証4頁14行)、「フレキシブルパイプ」とされており(同
15行)、連結管が剛性であるか否かは、材質とは直接結びつかないのである。
2 当初明細書等の第3実施例における「連結管」が「剛性であること」につい
ての判断の誤り
当初明細書等の第3実施例(当初図面の第5図に係る実施例、別紙2の図面(第
5図)参照)においては、L字型の接続管321がその底部を中心に水平方向に回
動し、その外側には連結管320が嵌合され、更に連結管の先端部にはパチンコ玉
排出装置310が設けられている。パチンコ球排出装置310は、符号324部分
を支点としてスプリング326に抗して回動するL字状板325が設けられ、通常
はストッパー322により連結管の先端がふさがれており、L字状板325がスプ
リング326に抗して回動されたとき、ストッパー322が開くようになってい
る。
この第3実施例の連結管320は、以下に記載するように、剛性を有するもので
あり、「当初明細書及び第5図には、連結管320に関する材料、及び連結管32
0が剛性を有することによる作用・機能・効果は何ら記載されておらず、また、上
記当初明細書及び図面の記載から自明な事項でもない」(審決書4頁11行ないし
13行)との審決の判断は誤りである。
(1) 当初図面の第5図において、連結管320は接続管321によって片
支持されたものである。すなわち、片支持で回動しても同一形状が維持することが
できるものである。これは、連結管320が剛性を有することが前提とされるから
である。この点につき、審決は、「両位置の間を回動すること及び両位置の状態を
保持することは、上記のように接続管321の作用により行われるものであって、
接続管321が剛性を有すれば、回動及び保持できるものである。」(審決書2頁
31行ないし33行)と述べているが、連結管320は、接続管321に連結され
て一体となっているものであり、回動するに当たっては、通常連結管に手をかけて
回転方向に押したり引いたりするものであって、その結果、これと一体となった接
続管も回動するのであるから、接続管321のみが剛性を有すれば足りるものでは
なく、連結管320そのものに剛性がなければ回動に困難を来すことは明白であ
る。
この点に関して、被告は、実願昭61-60187号(実開昭62-17248
4号)のマイクロフィルム(甲第6号証)の1図の玉案内路61、62、及び実願
昭61-36100号(実開昭62-149392号)のマイクロフィルム(甲第
7号証)の1図の玉案内路6は、いずれもフレキシブルパイプであるが、回動させ
て先端を受皿に設置するものであるから、剛性を有さなくとも回動に困難を来すこ
とはない旨反論している。しかしながら、これらのパイプは、本件発明における当
初図面の第5図のように、接続管と一体となっているものではなく、パイプ自体の
根の部分を基点にして左右に屈曲することができるだけの構成であり、本件発明の
当初図面第5図の接続管321に相当するものが存在しない。したがって、被告の
反論は失当である。
(2) 審決は、「刊行物2(注、甲第6号証)の・・・玉案内路61、62
の材料、及び玉案内路61を貸出機の前面に起立させるものであるということから
みて、玉案内路61は剛性を有するものといえる。 」(審決書6頁18行ないし2
4行)及び「刊行物3(注、甲第7号証)の・・・金属板や合成樹脂板により樋状
に形成すること、及び不要時にはこの案内路61を貸出機前面に沿って起立させる
ことが記載されているから、・・・玉案内路61は剛性を有するものといえる。 」
(審決書6頁25行ないし30行)と認定したが、この認定に従うなら、本件発明
における当初明細書等の連結管320は、接続管321の底部を中心にして水平方
向に回動するのであるから、当然剛性を有するとの結論に導かれるべきである。
(3) 当初図面の第5図では、連結管320の先端部に、スプリング326
に抗して回動するL字状板325が設けられ、通常はストッパー322により連結
管の先端がふさがれているが、玉を排出するときはL字状板325がスプリング3
26に抗して回動されストッパー322が開くようになっている。片支持である連
結管320の先端部を上部からスプリングに抗する力で押すことによってストッパ
ーを開けるのであるから、連結管は剛性でなければならない。
(4) 当初図面の第5図の連結管320は、円筒形状として示され、シュー
ト313及び当初図面の第4図のフレキシブルな蛇腹管のごとき蛇腹状に描かれて
いるものではなく、また審決も剛性であると認める接続管321と描き方は何ら変
わっていない。また連結管320につき、当初明細書において「フレキシブル」と
表現した箇所はなく、しかも内部に鉄製のパチンコ玉が通過したり、貯留したりす
る機能を有しているのであるから、当業者でない者であっても、この連結管がフレ
キブル性がない剛性を有するものであることは、容易に理解し得るところである。
(5) 本件発明は、昭和62年12月28日に、国内優先を主張して出願さ
れ(甲第8号証、以下、「原出願」という)、昭和63年7月4日に本件発明の出
願がなされたものであるが、その当初明細書等には、原出願には存在しなかった第
3実施例が追加されたものであるところ、もし、これが剛性を有する態様の追加で
ないとすると、実施例を追加する特段の事由は存在しない。したがって、この出願
経過からしても、当初明細書等に「剛性を有する連結管」が開示されていたことは
明らかである。
第4 被告の反論の要点
原告の主張には理由がなく、当初明細書等に「剛性を有する連結管」が記載され
ておらず、本件補正が要旨変更に当たるとした審決の判断に誤りはない。
1 「剛性を有する連結管」の解釈について
原告は、本件明細書で、フレキシブルパイプを用いるのではなく、剛性を有する
連結管を用いるとの記載があることを根拠に、本件発明における「剛性を有する」
とは材料の質をいうのではなく、フレキシブル性がないことを意味するものである
と主張する。
しかしながら、本件発明における連結管の剛性の認定においては、材料及び構造
作用、あるいは、材質、樋状に形成、起立させる等を総合的に判断する必要がある
ものであって、フレキシブル性の有無のみ判断すればよいものではない。そして、
審決は、剛性とは、「物体が弾性変形させようとする外力に対して歪まない性質」
であると、一般論を述べた上で、剛性とは物体を構成する材料の性質及び構造に基
づく物理的特性であると認定しており、原告の主張するように連結管に関する材料
のみを検討しているのではない。したがって、フレキシブル性を有しないことが直
ちに剛性を有することに結び付く訳でなく、審決に誤りはない。
2 当初明細書等の第3実施例における連結管が剛性であるとの主張について
(1) 原告は、当初図面の第5図の連結管320が片支持であること、及び
連結管320は接続管321に連結されて一体となっていることから、連結管32
0が剛性を有することは明らかであると主張する。しかしながら、第5図には、連
結管320が水平直線状に表示されているだけであり、その材質も構造も不明であ
って、直ちに連結管320が剛性を有するか否かまで判明しない。また、甲第6号
証の1図の玉案内路61、62、及び甲第7号証の1図の玉案内路6は、いずれも
フレキシブルパイプであるが、回動させて先端を受皿に設置するものであるから、
剛性を有さなくとも回動に困難を来すことはない。したがって、回動することから
直ちに剛性を有するものということはできず、この点に関する原告の主張は妥当で
はない。
(2) 審決は、刊行物2(甲第6号証)の玉案内路61、62、及び刊行物
3(甲第7号証)の玉案内路61が剛性を有すると認定するに当たり、金属板や合
成樹脂という材質、樋状に形成すること、起立させることの3点を総合して判断し
ているのであって、起立状態のみから剛性を判断しているのではない。したがっ
て、原告の主張は、この点において妥当ではない。
(3) 原告は、当初図面の第5図に図示されるストッパーは、スプリングに
抗して開けるのであるから、連結管320は剛性を有する旨主張する。しかしなが
ら、スプリングの付勢力の程度によりスプリングに抗する力は異なり、ストッパー
がスプリングに抗して開けるからといって、連結管320が剛性を有することには
ならない。したがって、原告の主張は妥当ではない。
(4) 原告は、当初図面の第5図に図示される連結管320は、接続管32
1と同一描写法で描かれていること、蛇腹状に描かれていないこと、及び蛇腹管に
ついてはフレキシブルと形容されるが、連結管320についてはそのような形容が
なされていないことを理由に、連結管320は剛性を有する旨主張する。しかしな
がら、同一描写方法であるからといって材質、構成、機能が同一とはいえず、ま
た、連結管320については、フレキシブルとも剛性を有するとも記載がないので
あるから、当初明細書等からは連結管320が剛性を有するか否かは不明であり、
原告の主張は妥当ではない。
(5) 原告は、出願経過についても主張するが、本件補正が要旨変更に当た
るか否かの判断においては、当初明細書等に剛性を有する連結管320が記載され
ているか否かが問題となるのであって、この認定に出願人の意図は関係しない。特
に、後になってからの出願人の意図は関係がなく、後の手続により当初明細書等の
解釈が変更することは認められず、原告の主張は妥当ではない。
理 由
1 本件発明における「剛性を有する連結管」の解釈について
(1) まず、一般的に、「剛性」の用語の意義についてみると、我が国におけ
る一般的な辞典であり、いずれも当裁判所に顕著な文献である「広辞苑(第4
版)」には、「物体が曲げ・ねじれなどに対して破壊に耐える能力」、「岩波国語
辞典」には、「物体の、(体積の変化を伴わない)形の変化に対する弾性。弾性体
が、曲げ・ねじりなどの力に対して歪まない性質」、「機械工学事典」(日本機械
学会発行)には、「任意の断面形状を持つ物体又は機械要素が外力を受けた場合に
変形しやすいかどうかの変形抵抗を表し、こわさともいう。材料自身の示す弾性変
形抵抗は弾性係数・・・を用いて表示されるのに対して、これは断面形状を考慮し
た変形抵抗を意味する。」と記載されており、総じて、「剛性」の用語は、「物体
が、曲げ・ねじれなどの外力を受けた場合に、変形しない(歪まない)性質」を意
味するものであると認められる。
ところで、本件では、本件発明を構成する「連結管」について、本件補正によっ
て、「剛性を有する連結管」とされたものであるから、本件発明における「剛性を
有する連結管」という構成の技術的な意義は、「連結管」という物体全体が、曲
げ・ねじれなどの外力を受けた場合に変形しない性質を有するもの、ということで
あると解される。ところで、いかなる外力に対しても全く変形しない(歪まない)
物体はあり得ないものであるところ、本件発明を構成する「連結管」がどの程度の
外力について上記の性質を有するものとして構成要件とされたものであるかについ
ては、本件発明に係る明細書及び図面(甲第2号証)に基いて、当該「連結管」に
ついて、それを構成する部材の材質の名称及び性質、「連結管」の用途、性質(性
能)、構造(状態)、機能(作用効果)等の記載内容を勘案し、これらを総合して
認定すべきである。
(2) そこで、本件発明における「剛性を有する連結管」の用語の具体的な意
義についてみると、甲第2号証によれば、本件明細書及び図面には、「連結管」に
関して、以下の記載内容があることが認められる。
① 【特許請求の範囲】に、上記第2の2のとおり、「上に景品用パチンコ玉の
受け皿および下に景品交換用パチンコ玉の受け皿を有するパチンコ機に対して、こ
れに隣接する他のパチンコ機との間に金員のの投入に応じて玉貸用パチンコ玉を排
出する玉貸機が1対1で設けられ、これらのパチンコ機と玉貸機との対が島方向に
連続したパチンコ遊技装置であって、前記各玉貸機には、これへの金員の投入に応
じて、玉貸機の前面から対応するパチンコ機の景品用パチンコ玉の受け皿に、直接
玉貸用パチンコ玉を排出可能とした剛性を有する連結管を有し、その連結管の出口
が景品用パチンコ玉の受け皿の上方に臨んで配置された排出装置が設けられてお
り、前記排出装置に、これへの遊技者の操作に応じて玉貸用パチンコ玉の前記景品
用パチンコ玉の受け皿への排出を一時停止するストッパー手段を設け、前記連結管
を、パチンコ機を前方に開けたとき衝突しない位置まで水平にパチンコ機前方から
玉貸機前方に逃げるように、玉貸機の前方において鉛直旋回軸心を有して旋回可能
とした、ことを特徴とするパチンコ遊技装置。」との記載、
② 【発明の詳細な説明】の欄に、〔発明が解決しようとする課題〕欄に、「実
開昭62-172484号公報のように、玉貸機と上受け皿上とをフレキシブルパ
イプで連結することは、下受け皿への排出をも可能とすることができる点で便利な
点があるものの、逆に、フレキシブルパイプ全体が自由に動きその出口の位置およ
び方向が容易に変わってしまい、しかもストッパー手段を有しないので、フレキシ
ブルパイプの移動中にパチンコ玉を誤って流出させ、落としてしまう危険性があ
る。しかも、フレキシブルパイプでは、一旦、その出口を上受け皿上に位置させた
後、左手を放すとき、フレキシブルパイプを不意に動かして上受け皿上から外して
しまい」(3欄29行ないし39行)との記載、「前記実開昭62-172484
号公報技術においては、その第3図において上下シフト機構内に継手管を上下可能
に設け、その継手管に剛性を有する樋状の玉案内路を玉貸機の前面に対して直交す
る水平は枢軸をもって設けることを開示しており、玉案内路を起立させると玉の排
出を停止することもできる。」(4欄1行ないし6行)との記載、〔課題を解決す
る手段〕欄に、上記①と同様の記載(4欄29行ないし49行)、〔作用〕欄に、
「排出装置に、これへの遊技者の操作に応じて玉貸用パチンコ玉の前記景品用パチ
ンコ玉の受け皿への排出を一時停止するストッパー手段を設けた。したがって、遊
技者は購入した玉貸用パチンコ玉の受け皿上に購入全量を排出することによる溢れ
を防止しながら、残量を貯留しておくことができる」(5欄23行ないし29行)
との記載、「本発明は、実開昭62-172484号公報記載のようにフレキシブ
ルパイプを用いるのではなく、剛性を有する連結管を用いるものである。したがっ
て、連結管およびその出口位置が明確に定まり、確実に上受け皿上に位置させるこ
とが可能となり、パチンコ玉をホール内に落としてしまう事態を回避できる」(5
欄34行ないし39行)との記載、「本発明では、連結管を、パチンコ機前面から
パチンコ機を前方に開けたとき衝突しない位置まで水平に玉貸機前方に逃げるよう
に玉貸機の前方において鉛直旋回軸心を有して旋回可能としたので、パチンコ機の
内部の点検を支障なく行うことが可能である。ところで、前述の実開昭62-17
2484号公報技術においては、不要時には樋状の玉案内路を玉貸機前面に平行な
面に沿って同広報第3図鎖線で示すように起立させ、樋状の玉案内路全体を玉貸機
前面に位置させることにより邪魔にならないようにしているが本発明ように(注、
「本発明のように」の誤記と認められる。)玉案内路が鉛直旋回軸心を有しないの
で・・・可能な限り玉貸機の幅を狭くし、ホール収用率(遊技者)数を多くしたい
とのホール側の要請に合致するものではない。」(5欄44行ないし6欄13行)
との記載、〔実施例〕欄に、「ストッパー手段は、連結管の出口だけでなく、シュ
ートの途中や出入口、連結管の途中や入口に設けることができる。」(10欄17
行ないし19行)との記載がそれぞれ認められる。
また、甲第6号証によると、本件明細書で上記のとおり引用されている実開昭6
2-172484号公報は、実願昭61-60187号の公開公報であり、そのマ
イクロフィルムには、「玉案内路は鋼線をコイルスプリング状に巻回して折曲自在
に形成したパイプ体」(明細書2頁4行、5行)、及び「玉案内路は金属又は合成
樹脂製等の板体でダクト状に形成し、これを貸出機の前面に平行な面に対し起伏自
在に枢着した」(同2頁8行ないし10行)との記載が見られ、前者が甲第6号証
の第1図に該当し、本件明細書に「フレキシブルパイプ」と表現されているもので
あること、及び後者が同号証の第3図に該当し、本件明細書に「剛性を有する樋状
の玉案内路」と表現されているものであることは明らかである。
(3) 上記の本件明細書の記載内容からすると、本件発明を構成する「連結
管」は、パチンコ遊技装置において、玉貸機への金員の投入に応じて、玉貸機の前
面から対応するパチンコ機の景品用パチンコ玉の受け皿に、直接玉貸用パチンコ玉
を排出可能とするように、その出口が景品用パチンコ玉の受け皿の上方に臨んで配
置され、遊技者の操作に応じて玉貸用パチンコ玉の景品用パチンコ玉の受け皿への
排出を一時停止するストッパー手段がその出口や途中に設けられることがあり、そ
の場合にその中に景品用パチンコ玉を貯留し、かつ、パチンコ機を前方に開けたと
き衝突しない位置まで水平にパチンコ機前方から玉貸機前方に逃げるように、玉貸
機の前方において鉛直旋回軸心を有して旋回可能としものであることが認められ
る。したがって、本件発明における「連結管」が有する「剛性」とは、これらの機
能(作用効果)を阻害しない程度に外力に対して変形しない(歪まない)性質を有
するものとして、構成要件とされたものであることが明らかである。
また、一般的に、「フレキシブル」の用語の意義についてみると、「広辞苑(第
4版)」には、「柔軟なさま。」、「岩波国語辞典」には、「柔軟性があるさ
ま」、「機械工学事典」(日本機械学会発行)には、「フレキシビリティ」の用語
につき「柔軟性」と記載されるとおり、「柔軟性があること」を意味するものであ
ると認められるところ、本件明細書では、本件発明の「剛性を有する連結管」につ
いて、上記のとおり、従来技術である実開昭62-172484号公報における第
1図に該当するものと対比して、「本発明は、実開昭62-172484号公報記
載のようにフレキシブルパイプを用いるのではなく剛性を有する連結管を用いるも
のである。したがって、連結管およびその出口位置が明確に定まり、確実に上受け
皿上に位置させることが可能」であるものとして採用した構成であり、このことか
らすると、本件発明の「連結管」が有する「剛性」とは、パチンコ遊技機におい
て、玉貸機への金員の投入に応じて、玉貸機の前面から対応するパチンコ機の景品
用パチンコ玉の受け皿に、直接玉貸用パチンコ玉を排出可能とするように、その出
口が景品用パチンコ玉の受け皿の上方に臨んで配置された連結管において、
「フレキシブル(柔軟性があること)」でなく、折り曲げ自在ではないことを意味
するものであるということもできる。
2 当初明細書の第3実施例(当初図面の第5図)における「連結管」が、「剛性
を有する」か否かについて
(1) 当初明細書の第3実施例(当初図面の第5図)における「連結管」が、
前記1の意味における「剛性」を有するものとして記載されているか否かについて
検討すると、この判断も、前記1の本件発明の「剛性」の構成要件の解釈と同様
に、当初明細書等(甲第5号証、第9号証)に基いて、当該「連結管」について、
それを構成する部材の材質の名称及び性質、「連結管」の用途、性質(性能)、構
造(状態)、機能(作用効果)等の記載内容を勘案し、これらを総合して認定すべ
きである。
(2) 甲第5、第9号証によれば、当初明細書等には、第3実施例(当初図面
の第5図)における「連結管」に関して、以下の記載内容があることが認められ
る。
① 「2.特許請求の範囲」に、「1)パチンコ機台の上面に設けた下材と該下
材の上方に配された上材との間に、景品用パチンコ玉の受け皿がそれぞれ設けられ
た複数のパチンコ機と、各パチンコ機の前記受け皿に前記景品用パチンコ玉を排出
するパチンコ玉排出装置と、前記パチンコ機の近傍に、コイン投入口がそれぞれ形
成された複数の玉貸機とを配したパチンコ遊技装置の玉貸機において、前記コイン
投入口にコインが投入された時、所定数の玉貸用パチンコ玉を前記受け皿へ直接排
出することを特徴とするパチンコ遊戯装置の玉貸機。2)前記受け皿へ直接排出す
る手段は、前記パチンコ玉排出装置に接続された接続手段と、該接続手段と前記受
け皿とを連結する連結管と、該連結管の出口に取付けられたストッパーとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のパチンコ遊戯装置の玉貸機。」(甲第5号証1
頁左欄5行ないし右欄4行)との記載、「3.発明の詳細な説明」の〔作用および
発明の効果〕欄に、「ストッパーによって、パチンコ玉を一時連結管内に貯留で
き、」(同2頁左下欄10行、11行)との記載
② 〔実施例〕欄に、第1実施例として、「第1図は本発明の第1実施例に採用
されたパチンコ遊技装置を示し、」(同2頁右下欄3行、4行)及び「パチンコ玉
排出装置7は、・・・シュート72と受け皿32とを接続するフレキシブルな蛇腹
管73とを備える。」(同3頁右上欄11行ないし16行)との記載、第2実施例
として、「第4図は本発明のパチンコ遊技装置の玉貸機の第2実施例を示す。」
(同4頁左上欄11行、12行)、及び「本実施例では、蛇腹管73の出口に手動
式のストッパーを設けている。」(同4頁左上欄14行、15行)との記載、
③ 第3実施例として、「第5図は本発明のパチンコ遊技装置の玉貸機の第3実
施例を示す。」(同4頁右上欄7行、8行)、「本実施例の玉貸機300は、パチ
ンコ機3の上方に形成されたコイン投入口・・・にコインが投入された時、所定数
の玉貸用パチンコ玉を受け皿32へ直接排出する。」(同4頁右下欄10行ないし
13行)、「パチンコ玉排出装置310として、・・・シュート313と受け皿3
2を接続する連結管320とを備える。」(同4頁右下欄13行ないし17行)、
「ケーシング312の中央部には、上面に凹部314を形成した連結管320を取
付けるためのブラケット315を取付けている。」(同5頁左上欄1行ないし3
行)、「連結管320は、入口に約90°回動可能な略L字状の接続管321、及
び出口にストッパー322を設けている。」(同5頁左上欄6行ないし8行)、及
び「接続管321を約90°回動させることにより、パチンコ機3の全面(注、
「前面」の誤記と認められる。)より移動させることができ、パチンコ機3を開い
てパチンコ機の裏面を点検する際に、連結管320が邪魔にならない」(同5頁左
上欄13行ないし17行)との各記載が認められる。
さらに当初明細書には、「蛇腹管」と「連結管」とを区別して、「蛇腹管や連結
管」と併記する記載が同5頁左下欄6行、10行、12行、及び13行、14行に
みられるとともに、第1実施例が当初図面の第1図ないし第3図に、第2実施例が
第4図に、及び第3実施例が第5図にそれぞれ図示されているところ、第1図、第
3図、及び第4図においては、「蛇腹管73」は、その外形部分がギザギザ状に描
かれているのに対し、第5図においては、ブラケット315に接続管321が取付
けられているとともに、接続管321、及び、それに挿入されて先端にストッパー
322を有する管(この管は、審決が「接続管321」とは別部材の「連結管32
0」として認定している部分である。しかし、後記のとおり、当初明細書の記載内
容からすれば、この管の部分は、「接続管321」とともに、「連結管320」を
構成するものであり、「接続管321」は、「連結管320」と別部材ではなく、
「連結管320」を構成する部材であると認められる。以下、この管の部分につい
て、「審決認定の連結管の部分」という。)の外形部分は、いずれも、ギザギザ状
ではなく、直線状(屈曲部では曲線状)に描かれていることが認められる。
また、第5図の連結管320(接続管321及び審決認定の連結管の部分)は、
上記③のとおり、玉貸用パチンコ玉が受け皿32に排出される通路であること、及
びその図示の記載態様からすると、円筒状の構造のものであることは明白である。
(3) 上記(2)の当初明細書等の各記載内容によれば、当初明細書の第3実
施例(当初図面の第5図)における「連結管」は、前記1において説示した意味に
おける「剛性」を有するものとして当初明細書等に記載されていることは、当業者
にとって自明であるというべきである。その理由は、次のとおりである。
ア 当初明細書の第3実施例(当初図面の第5図)として記載された「連
結管」は、円筒状の構造からなることが認められ、パチンコ遊戯装置の玉貸機のコ
イン投入口にコインが投入された時に、所定数の玉貸用パチンコ玉を受け皿へ直接
排出するものとして受け皿に連結されており、また、その出口には、ストッパーが
取り付けられているものであって、コインの投入数に応じた数量で一定の重量のあ
る玉貸用パチンコ玉が通過し、また、出口のストッパーによって玉貸用パチンコ玉
の排出が止められた際に、その中に所定の数量で一定の重量のある玉貸用パチンコ
玉が一時貯留するという機能を果たすものであり、かつ、その入口に約90°回動
可能な略L字状の接続管321を設けていて、該接続管321を約90°回動させ
ることにより、パチンコ機3の前面より移動させることができるものであって、該
連結管321は、パチンコ機の前面に存する受け皿に連結する位置とパチンコ機と
約90°の位置との間を自在に回動すること、及び両位置の状態を保持するという
機能を果たすものであることが認められる。
イ 当初明細書等には、玉貸機のシュートと受け皿とを接続する管とし
て、第1及び第2実施例の「フレキシブルな蛇腹管73」と、第3実施例の「連結
管320」とが記載されているところ、パチンコ機の裏面を点検するために、これ
をパチンコ機の前面の位置から移動する必要があることは、第3実施例に限ったこ
とではなく、第1及び第2実施例でも行われることと認められる。その場合に、蛇
腹管が点検の邪魔にならないようにするには、蛇腹管が「フレキシブル」であると
いう特性を利用して、パチンコ機前面から退避させることが可能であることから、
第1及び第2実施例においては、そのために蛇腹管が用いられていると解される。
このように、管を「フレキシブル(柔軟性があること)」とすることの技術的意義
は、折曲することが自在であるという特性を利用することにあるのであって、その
ような必要性のない場合には、管をフレキシブルとすることの技術的意義を認める
ことができない。ところで、第3実施例では、接続管321の旋回性により、連結
管320がパチンコ機前面から退避させることができる構成となっているのである
から、連結管320をフレキシブルとすることには技術的意義がなく、
むしろ、これをフレキシブルにすることは、上記アの機能を損なうおそれがあるも
のということができる。この点を踏まえて、当初図面の第1図、第3図、及び第4
図並びに第5図の、「蛇腹管73」と「連結管320」の描写形態を比較すれば、
「蛇腹管73」は、フレキシブル(柔軟性があること)であり、折曲することが自
在であることを示すために、上記のとおり、外形部分がギザギザ状に描かれている
のであり、他方、「連結管320」は、これと対比して、フレキシブルではないこ
とを示すために、その外形部分を直線状(屈曲部では曲線状)に記載したものであ
ると理解することが自然であり、このことは、上記のとおり、当初明細書には、
「蛇腹管や連結管」と記載されており、「連結管」が「フレキシブルな蛇腹管」と
区別され、並記されていることにも符合するものである。これに対して、このよう
に理解することの妨げとなる事項は何ら記載されていない。
ウ 甲第6、第7号証及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の出願前に、
パチンコ遊技機の技術分野において、玉貸機からパチンコ機の前面の受け皿に玉貸
用パチンコ玉を直接排出するために、玉貸機と受け皿とを連結する本件発明の連結
管320に相当する玉案内路であって、剛性を有するものがあることは、当業者に
広く知られた技術的事項であることが認められる。
(4) 以上(3)のアないしウに判示したことを総合して考察すれば、パチン
コ遊技機の技術分野における当業者は、当初明細書等の上記(2)の記載から、当
初明細書等に記載された本件発明の第3実施例の「連結管」について、これが、パ
チンコ遊技装置において、玉貸機への金員の投入に応じて、玉貸機の前面から対応
するパチンコ機の景品用パチンコ玉の受け皿に、直接玉貸用パチンコ玉を排出可能
とするように、その出口が景品用パチンコ玉の受け皿に連結するように配置され、
遊技者の操作に応じて玉貸用パチンコ玉の景品用パチンコ玉の受け皿への排出を一
時停止するストッパー手段がその出口に設けられ、その場合にその中に景品用パチ
ンコ玉を貯留し、かつ、パチンコ機を前方に開けたとき衝突しない位置まで水平に
パチンコ機前方から玉貸機前方に逃げるように、玉貸機の前方において旋回可能と
したものであって、これらの機能(作用効果)を阻害しない程度に外力に対して変
形しない(歪まない)性質を有するものであり、また、「フレキシブル(柔軟性が
あること)」でなく、折り曲げ自在ではないものであると理解し、認識すること
は、自明であるというべきである。
(5) これに対して、審決は、当初明細書等における第3実施例における「連
結管」について、「連結管320」と「接続管321」は、別個の部材として記載
されていることを前提として(審決書3頁ないし4頁の「主張(5)について」の
項参照)、「当初明細書の上記の「接続管321を約90°回動させることによ
り、パチンコ機3を開いてパチンコ機の裏面を点検する際に、連結管320が邪魔
にならない」という記載によれば、接続管321と連結管320は、パチンコ機の
前面の位置とパチンコ機と約90°の位置をとることができることは記載されてい
る。しかしながら、両位置の間を回動すること及び両位置の状態を保持すること
は、上記のとおり接続管321の作用により行われるものであって、接続管321
が剛性を有すれば、回動及び保持できるものである。連結管320は、接続管32
1に連結されているので、上記回動操作に伴ってその位置に移動し、また、玉貸用
パチンコ玉を受け皿32に排出することができればよいものであり、そのような機
能を有するものであればよく、連結管320が剛性を有していなくともこのような
作用は得られるものである。」(審決書2頁26行ないし37行)と説示してい
る。
しかしながら、審決が前提とするように、第3実施例における「連結管320」
が、「接続管321」とは別の部材であるとしても、「連結管320」は、「接続
管321」に連結されており、これと一体をなす構造のものであると認められ、か
つ、両者が全体として上記(3)のアの機能を果たすものとされているのであるか
ら、このうち、「接続管321」の部材のみが、上記(3)のアの機能を果たすこ
とができる「剛性」を有しており、「連結管320」については、このような「剛
性」を有しない、「フレキシブル(柔軟性がある)」なものであると当業者が理解
することは、そのように理解すべき特段の事情がない限り、かえって不自然であっ
て、想定し難いといわざるを得ない。
なお、本件訴訟において、原告は、当初明細書等における第3実施例における
「連結管320」と「接続管321」は、別個の部材として記載されているという
審決の採る前提事実を争っていないが、審決のように解することは相当ではない。
すなわち、当初明細書等の第3実施例についての記載事項をみると、前記(2)
の③のとおり、「連結管320は、入口に約90°回動可能な略L字状の接続管3
21、及び出口にストッパー322を設けている。」(甲第5号証左上欄6行ない
し8行)と記載されているように、連結管320は、接続管321及びストッパー
322を入り口と出口とに設ける構成のものとされており、したがって、連結管3
20は、「シュート313と受け皿32を接続する」(同4頁右下欄16行、17
行)、と記載されているのである。このように、接続管321は、連結管320と
別の部材のものではなく、連結管320の構成の一部のものとして記載されている
のであり、このように解することによって、「ケーシング312の中央部には、上
面に凹部314を形成した連結管320を取付けるためのブラケット315を取付
けている。」(同5頁左上欄1行ないし3行)という記載と、第5図でブラケット
315が取り付けられているのは「接続管321」であることとの整合も図れるも
のである。したがって、審決の上記の前提事実は誤りである。
この見地からすると、審決も、上記のとおり「接続管321」が「剛性」である
ことは認めているところ、同じく「連結管320」の一部を構成する「接続管32
1」と「審決認定の連結管の部分」とが、異なる機能を果たす、異なる性質のもの
として構成されているものと理解すべき根拠は、当初明細書等に何ら見いだすこと
はできないから、当初明細書等第3実施例の「連結管320」は、全体として剛性
を有するものというべきである。
3 総括
以上のとおり、当初明細書等の第3実施例における「連結管320」は、本件発
明における「剛性を有する連結管」として記載されていることは自明であるという
べきであるから、「当初明細書及び第5図には、連結管320に関する材料、及び
連結管320が剛性を有することによる作用・機能・効果は何ら記載されておら
ず、また、上記当初明細書及び図面の記載から自明な事項でもないので、「剛性を
有する連結管」という補正は、明細書の要旨を変更する」(審決書4頁11行ない
し14行)との審決の判断は誤りであり、これに反する被告の主張は、採用するこ
とができない。
よって、原告の審決の取消事由2は理由があり、本件訂正請求の当否に関する独
立特許要件の判断、及び本件発明の無効理由の判断に当たって、審決が本件補正に
つき明細書の要旨を変更するものであるとして、本件発明の出願日を平成7年5月
15日とした認定は誤りに帰し、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かである。
4 結論
以上のとおり、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第18民事部
裁判長裁判官 永 井 紀 昭
裁判官 古 城 春 実
裁判官 橋 本 英 史
最新の判決一覧に戻る