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平成11(行ケ)308行政訴訟 実用新案権

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裁判所 請求棄却 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年11月29日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法3条2項1回
民事訴訟法61条1回
民事訴訟法157条1回
キーワード 刊行物50回
進歩性1回
審決1回
実用新案権1回
新規性1回
主文  原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

平成11年(行ケ)第308号実用新案登録取消決定取消請求事件
平成13年11月15日口頭弁論終結
判 決
   原      告 株式会社タカショー
訴訟代理人弁理士 杉 本 勝 徳
同 山 崎 和 人
同 杉 本 巌
   被      告 特許庁長官 及 川 耕 造
指定代理人    山 口 由 木
同 徳 廣 正 道
同 大 橋 良 三
主 文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成11年8月15日に平成10年異議第73605号事件につい
てした実用新案登録取消決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,考案の名称を「連杭」とする登録第2566080号の登録実用新
案(平成5年2月5日出願,平成9年12月12日設定登録。以下「本件登録実用
新案」といい,その実用新案登録を「本件実用新案登録」といい,その出願を「本
件出願」という。)の実用新案権者である。
 特許庁は,平成10年7月17日,本件実用新案登録につき異議の申立てを受
け,これを平成10年異議第73605号事件として審理した。原告は,取消理由
通知を受け,その指定期間内である平成11年2月15日に,本件登録実用新案の
願書に添付された明細書について訂正請求をした(以下「本件訂正」といい,本件
訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)。特許庁は,上記事件につき審理し
た結果,平成11年8月15日,「実用新案登録第2566080号の実用新案登
録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同月30日,その
謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲
(1) 本件訂正請求前の実用新案登録請求の範囲
「一側が偏平面に形成された平面視略半円状の焼杭本体を複数形成して,こ
れら複数の焼杭本体を,その偏平面が同一側方に位置する状態に並べる一方,折り
曲げ可能な索条を各焼杭本体の偏平面に沿って配設して,該索条を各焼杭本体の偏
平面に留め具により係止していることを特徴とする連杭。」
(2) 本件訂正請求に係る実用新案登録請求の範囲
「一側が偏平面に形成された平面視略半円状の焼杭本体を複数形成して,こ
れら複数の焼杭本体の長さ方向一端部を,先端に向かうに従って先細となるように
斜めにカットすると共に,焼杭本体の表面を焼いて防虫防腐塗装を施し,これら複
数の焼杭本体を,その扁平面が同一側方に位置する状態に並べる一方,折り曲げ可
能なステンレス製の撚り線を各焼杭本体の扁平面に沿って上下2段に配設して,こ
れらの各撚り線を各焼杭本体の扁平面における左右両側の2箇所に又釘により係止
していることを特徴とする連杭。」
(以下,本件訂正請求前の実用新案登録請求の範囲の考案を「本件考案」,本件訂
正請求に係る実用新案登録請求の範囲の考案を「訂正考案」という。なお,別紙図
面(1)参照)
3 本件決定の理由
 本件決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。要するに,訂正考案
は,1992年(平成4年)8月31日タカショー株式会社(原告)発行「PRO
EXTERIOR タカショー総合カタログ 1992」(表紙,46頁,最終頁。本訴の甲
第3号証,本件決定の甲第1号証。以下「引用刊行物1」という。)に記載された
技術(以下「引用考案1」という。)及び1991年(平成3年)1月ヒルホウル
トガーデンプロダクト社発行「RETAIL PRICELIST OF HILLHOUT GARDEN PRODUCTS
1991/1.」(同社の小売価格リスト 1991.1)(HILLHOUT EDGING, PERGOLA.(ヒルホ
ウルト花壇縁取り,蔓植物用棚が記載された10頁。本訴の甲第4号証,本件決定
の甲第2号証。以下「引用刊行物2」という。)に記載された技術(以下「引用考
案2」という。)に基づき,当業者がきわめて容易に考案することができたと認め
られるので,実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない
ものであり,したがって,本件訂正は認められず,また,本件考案は,引用考案2
に、周知慣用の技術を付加したものにすぎず、当業者がきわめて容易に考案するこ
とができたものであるから,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項の規定に違
反してなされたことになる,とするものである。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
 本件決定の理由中,1(手続の経過),2(訂正の適否についての判断)の
2-1(訂正の概要),2-2(独立登録要件について)の2-2-1(引用考案
の内容)を認め,2-2-2(当審の判断)及び2-3(むすび)を争う。3(実
用新案登録異議の申立てについて)の3-1(本願考案)を認め,3-2(本願発
明と引用考案2との対比),3-3(むすび)を争う。4(むすび)を争う。
 本件決定は,引用刊行物2が本件出願前に頒布された刊行物であると誤認し(取
消事由1),仮に引用刊行物2が本件出願前に頒布された刊行物であると認められ
るとしても,訂正考案と引用考案2との相違点を看過し(取消事由2),訂正考案
の顕著な作用効果を看過し(取消事由3),その結果,本件訂正の請求を認めなか
ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用刊行物2が本件出願前に頒布された刊行物であるとの誤
認)
(1) 本件決定は,引用刊行物2をその一部とする文書(以下「本件カタログ」
という。引用刊行物2は,本件カタログの10頁である。)の表紙(別紙図面(2)参
照)の「1991/1」という表記は,1991年1月の意味であるとするのが相
当であると認定し,その結果,引用刊行物2は本件出願前に頒布されたものである
と認定した。しかし,この認定は,誤りである。
 本件カタログの表紙の「1991/1」の文字が1991年1月を意味すること
を裏付ける客観的証拠は,全くない。審判官が,単に独自の常識に基づいて,「小
売り価格リストの公知時期が1991年1月である」と推測しただけである。仮
に,本件カタログの表紙の「1991/1」の文字が1991年1月を意味するこ
とが認められるとしても,引用刊行物2が本件出願前に頒布されたことを示す証拠
は全くない。
 また,私企業のカタログの頒布日は,我が国においてさえ,必ずしも明らかでな
いことからすれば,オランダという外国の私企業においては,さらに明らかでない
ものというべきである。
 さらに,本件カタログの最終頁には,「本価格及び記載事項は1991年4月1
日現在のものである。将来変更の可能性がある。」との記載があり,頒布日を19
91年1月と認定すると,これとの間に大きな矛盾が生じる。
 以上のとおりであるから,「1991/1」の文字だけで,引用刊行物2が本件
出願前に頒布されたとすることには合理的な根拠がなく,そうである以上,同刊行
物を本件出願との関係における公知文献として採用した点において,本件決定は,
明らかに誤っているものである。
(2) 本件決定は,引用刊行物2は,頒布された刊行物であると認定した。しか
し,この認定も誤りである。
 本件カタログは,私企業の商品の定価表であって,不特定多数の公衆に情報公開
するために発行されるものではなく,秘密を遵守する特定の販売代理店や輸出入業
者にのみ頒布されるものである。
 同じヒルホウルトガーデンプロダクト社発行「TRADE PRICELIST OF HILLHOUT
GARDEN PRODUCTS 1989/1.」(同社の小売価格リスト 1989.1)(乙第2号証)の最終
頁には,「・・・適切な卸価格リスト及び小売り価格リストで皆様にお役にたちた
い。」との記載があり,「卸価格」との表示があることからすれば,このような定
価表を不特定多数の公衆に情報公開の目的で頒布するとは考えにくい。
 また,本件カタログの内容をみると,きわめて多数の商品のコード番
号(Art.No.)と思われる数字と,単位不明の定価と思われる数字とが,16頁にも
わたって列挙されており,しかも,全体的に書体が小さく,定価と思われる欄に定
価を示す表示が全くない。そうすると,本件カタログは,いわゆるプロ用の定価表
であり,一般不特定多数に配布するために作成されたものではないものであること
がうかがわれる。特に,定価表は,一般に,カタログと異なって,特別な対象者の
みに配布されるものである(甲第8号証,甲第11号証参照)。
 以上のとおり,本件カタログは,特別な対象者のみに配布されたものであるか
ら,それの一部である引用刊行物2を頒布された刊行物とするのは,誤りなのであ
る。
(3) 被告は,本件カタログの原本を,本訴において初めて乙第1号証として提
出した。異議手続の段階で現れたのは,本件カタログの10頁(引用刊行物2)と
表表紙の2枚だけ(甲第4号証)であるのに対して,本件カタログは,小売価格リ
スト全体であり,前表紙と後表紙を含めると20頁になる。
 雑誌等の定期刊行物を証拠とする場合には,そのパブリシティが明確であるか
ら,表紙,奥付及び内容の掲載されたページのみを書証として提出することが認め
られており,これは,一般的に採られている手法でもある。しかし,引用刊行物2
は,外国の私企業のカタログの一部であり,このようなカタログにはパブリシティ
がほとんど存在しないのであるから,表紙と掲載頁の写し2枚だけを引用しても,
証拠価値があるとはいえないというべきである。
 被告は,本件カタログの最終頁の「本価格及び記載事項は1991年4月1日現
在のものである。将来変更の可能性がある。」との記載を根拠に,引用刊行物2の
頒布日が本件出願前であると主張している。しかし,上記記載は,甲第4号証には
存在していない。原告は,本件カタログのうちの表表紙と掲載頁の2枚を除いた1
8枚について,異議手続の段階において防御活動をすることができなかったもので
あるから,本件カタログは,引用刊行物2とは別の,異議手続で審理されていない
新たな証拠というべきであり,本訴において提出され,証拠として採用されること
は許されないというべきである。
2 取消事由2(訂正考案と引用考案2との相違点の看過)
 本件決定は,訂正考案と引用考案2とを対比して,「(1)前者が焼杭本体の表
面を焼いて防虫防腐塗装を施すのに対して,後者はそのように構成されていない
点(2)前者が折り曲げ可能なステンレス製の撚り線を使用しているのに対して,後者
は亜鉛メッキ製ワイヤーである点(3)前者が複数の杭本体の長さ方向の一端部を,先
端に向かうに従って先細となるように斜めにカットされた杭であるのに対して,後
者は柵であって長さ方向の一端部を,先端に向かうに従って先細となるように斜め
にカットされてもいない点」(審決書9頁9行~20行)で相違し,その余の点で
は一致すると認定して,上記3相違点以外に相違点は存在しないものとした。しか
し,両考案には,上記3相違点以外にも,訂正考案は,「折り曲げ可能なステンレ
ス製の撚り線を各焼杭本体の扁平面に沿って上下2段に配設して,これら各撚り線
を各焼杭本体の扁平面における左右両側の2箇所に又釘により係止している」との構
成を有しているのに,引用考案2(別紙図面(3)参照)は,この構成を有していない
という相違点がある。
 したがって,本件決定は,相違点の認定において既に誤っているから,違法とし
て取消しを免れない。
3 取消事由3(訂正考案の顕著な作用効果の看過)
 訂正考案の,複数の焼杭本体を折り曲げ可能なステンレス製の撚り線で連結
するという構成は,1本の線材で複数の焼杭本体を連結する場合に比較して,①所
定の引っ張り強度を確保しながら,訂正考案に係る登録公報の図2に示されるよう
に,隣合う各焼杭本体を容易に折り曲げることができる,②複数本の線材を撚って
なる撚り線は,その表面に凹凸が生じてしっかりと木製の焼杭本体に食い込み,か
つ,釘で止められた撚り線が,杭本体に対して不用意にずれ動くことがない,とい
う顕著な作用効果を有するものであり,この作用効果は,引用刊行物1からも同2
からも容易に予想し得なかったものである。
 さらに,訂正考案は,線材をステンレス製の撚り線とする構成と,焼杭本体の表
面を焼いて特殊防虫防腐塗装を施す構成と,焼杭本体の長さ方向一端部を,先端に
向かうに従って先細となるように斜めにカットして地面に差し込み易くした構成と
が有機的に結合して,全体として耐久性に優れ,野外での使用に最適な杭とするこ
とができるに至ったのである。
 本件決定は,これらの顕著な作用効果を看過して,「訂正考案により奏される効
果も格別なものとは認められない。」(決定書12頁4行,5行)と認定した。こ
の誤りが,本件訂正を認めないとの本件決定の判断に影響することは,明らかであ
る。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(引用刊行物2が本件出願前に頒布された刊行物であるとの誤
認)について
(1) 小売り価格リストは,消費者に商品の存在と価格を知らせるために作成さ
れるものであって,商品の宣伝の一形態ともいえるものであるから,商品を製造し
販売する者が,小売り価格リストを作成したならば,それを頒布しないことは通常
あり得ないことであって,このことは,洋の東西を問わないものと考えられる。そ
して,引用刊行物2をその一部とする本件カタログ(乙第1号証)によると,その
最終頁に「本価格及び記載事項は1991年4月1日現在のものである。将来変更
の可能性がある。」と記載されているから,本件出願日である平成5年(1993
年)2月5日に先立つこと1年10か月前である1991年4月1日以降,長期にわ
たり,当該小売り価格リストが消費者に頒布されないということは,常識に反する
ことである。
 消費者に情報を提供するガイドやカタログ類の刊行物において,表紙にその版の
年号を記載することは,外国においても慣用的になされていることである。本件カ
タログの表表紙に表記された「1991/1」の「1991」は,上記最終頁記載
の年代の数値と符合し,上記慣行から考えて,「1991年」の意味であると理解
することができる。
 一般に,発行日付のある雑誌は,発行日とは異なった年月日に頒布されたと認め
られる特別の事情が存しない限り,その発行日又はこれに近接した日に頒布された
ものと推認できるものと解するべきであり,この点は,本件のカタログにもいえる
ことであるから,原告が,発行日とは異なった年月日に頒布されたと主張するので
あれば,原告には,特別の事情を主張立証する責任があるものというべきである。
 被告は,原告の主張に対する反論のため,ヒルホウルト社から,1987年ない
し1989年に発行された「卸価格リスト」(Trade Pricelist)を入手した(乙第
2号証~第4号証)。乙第2号証は,1989年に発行されたヒルホウルト社の卸
価格リストであって,表紙には,「1989/1」と記載され,その最終頁には,
「本価格及び記載事項は1989年5月31日現在のものである。将来変更の可能
性がある。」と記載されている。乙第2号証の最終頁上部には,「ヒルホウルト
は,品質の良い園芸用品を製造販売するだけではなく,更に様々なことを行ってお
ります。皆様の売り上げに個人的な関心を持っており,良い資料,適切な卸価格リ
スト及び小売り価格リストで皆様にお役にたちたい。」と記載されており,乙第3
号証(1988/1と表紙に表記された卸価格リストの表紙),乙第4号証(198
7/2と表紙に表記された卸価格リストの表紙)が存在することからしても,引用刊
行物2を含む本件カタログが,定期刊行物と同様に頒布されていたことが明らかで
ある。
(2) 本件カタログ(乙第1号証)は,「RETAIL PRICELIST」と記載されている
とおり,小売価格リストであり,その対象が一般消費者であることは明らかであ
る。
 また,本件カタログの最終頁には,「横に描かれているのは、ヒルホウルト社の
「ベルゴデュール」で我々のユニークな置き棚・ディスプレイシステムです。ベル
ゴデュールは、皆様が最も簡単に、そして可能な限り便利に製品を選べるように、
ヒルホウルト社により特別に設計され、開発されました。もっとも小さな園芸製品
から、もっとも創造性に富む園芸のコンセプトまで、皆様が必要とされるものが何
であれ、真に専門的なアドバイスや専門知識でご奉仕することは喜びに他なりませ
ん。我々は、ヒルホウルト製品に全くの信頼を置いており、それが我々が10年の
保証をしている理由です。もっとも我々は、それらがもっと長もちすることを知っ
ていますが。我々は、このカタログが皆様のユニークでエキサイティングなアイデ
アを刺激し助長することを願っております。お持ちのどんなアイデア又は御疑問に
ついてでも、当社と相談が必要とお感じでしたら、我々はお役に立てれば非常な喜
びでございます。スケッチやダイアグラムを一緒にお持ちください。そうして一緒
にあらゆる可能性を探りましょう。」との記載があり,この記載は,園芸製品を購
入しようとする一般消費者を対象としたものであることが明らかである。
 さらに,欧州においては、事業者間取引では「税抜き」表示が一般的であるため
(事業者間取引で付加価値税抜きの表示をするのは、欧州における卸売業者及び小
売業者が付加価値税の支払いにおける仕入れ税を控除する計算がインヴォイス方式
であり、卸業者は、小売業者宛てのインヴォイス(商品送り状:請求書)におい
て、商品価格(付加価値税を除いた額)と税額とを分離して表示することが義務づ
けられており、卸価格リストにおいても、付加価値税は商品価格と分離されて表記
されていた方が、利便性がよいからであると考えられる。),消費者保護の観点か
ら行われる価格表示に関する諸規制により、消費者に対する価格表示は付加価値税
込で表示することとされている。本件カタログ(乙第1号証)をみると,その表紙
に「V.A.T.INCLUDED」と記載され,付加価値税(消費税)が含まれていることが明
示されている。したがって,本件カタログは,業者向けではなく、一般消費者向け
であり、公衆に頒布されたものということができる。
 なお,仮に業者に配布されるものであるとしても,販売店において秘匿されるよ
うなものでないことは,明らかである。
2 取消事由2(訂正考案と引用考案2との相違点の看過)について
 原告は,引用刊行物2に,訂正考案の「折り曲げ可能なステンレス製の撚り
線を各焼杭本体の扁平面に沿って上下2段に配設して,これらの各撚り線を各焼杭
本体の扁平面における左右両側の2箇所に又釘により係止している」との構成が開
示されていない旨主張する。
 しかし,引用刊行物2には,「巻き上げ可能な花壇の縁:機械によって半円形に
切断された柵を高い耐久性の結合を得るために,亜鉛メッキ製staplesによって,亜
鉛メッキ製ワイヤーをそれぞれ柵にしっかり結びつけたもの。」(本件決定書8頁
3行~7行)との記載と,亜鉛メッキ製ワイヤーをまたぐようにstaplesが杭本体に
打ってある図面が示されており,また,「staples」とは,「留め金,製本・書類な
どのU字状の針金」という意味を有することから(研究社発行「新英和中辞典 携
帯版」(第3版)1499頁),引用刊行物2には,「折り曲げ可能なステンレス
製の撚り線」を除いた原告主張の上記構成のすべてが記載されているということが
できるのである。
3 取消事由3(訂正考案の顕著な作用効果の看過)について
 原告は,訂正考案には,所定の引っ張り強度を確保しながら,訂正考案に係
る登録公報の図2に示されるように,隣合う各焼杭本体を容易に折り曲げることが
できる,という顕著な作用効果を有すると主張する。しかし,所定の引っ張り強度
を確保しつつ,隣り合う各焼杭本体を容易に折り曲げることは,ステンレス製の撚
り線に限らず,適切な太さの金属線を利用することによる一般的な効果といえるも
のであり,引用考案2に記載された連杭においても,折り曲げ可能なように金属線
が配されていることが図面上明らかであるから,上記効果は,訂正考案に特有なも
のではない。
 また,原告は,訂正考案には,複数本の線材を撚ってなる撚り線は,その表面に
凹凸が生じてしっかりと木製の焼杭本体に食い込み,かつ,釘で止められた撚り線
が,杭本体に対して不用意にずれ動くことがない,という顕著な作用効果を有する
旨主張する。しかし,撚り線を使用すると,焼杭本体に若干食い込む場合があるこ
とは,被告も否定しないが,それにより奏される効果は,当業者でなくともきわめ
て容易に気づく程度のものであって,格別なものとはいえない。しかも,この効果
は,出願当初の明細書には記載されていないものである。
 さらに,原告は,訂正考案は,線材をステンレス製の撚り線とする構成と,焼杭
本体の表面を焼いて特殊防虫防腐塗装を施す構成と,焼杭本体の長さ方向一端部
を,先端に向かうに従って先細となるように斜めにカットして地面に差し込み易く
した構成とが有機的に結合して,全体として耐久性に優れ,野外での使用に最適な
杭とすることができるに至った旨主張する。しかし,「先端に向かうに従って先細
となるように斜めにカットして地面に差し込み易くした構成」は,訂正明細書には
一切記載されていない。かえって,実用新案登録公報によると,「次に花壇の囲い
5を作る位置の地面に,焼杭本体2の厚みと同じ大きさの幅で溝を掘り下げて,こ
の溝内に連杭1の下部を埋めた後,その花壇の囲いの内側に土を入れて,植物を植
える」(4欄28行~31行)との記載があり,第1図をみると,先端部が地表か
らでていることが示されているから,先細とした先端側は,原告主張のような地面
に差し込み易くする構成ということはできない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用刊行物2が本件出願前に頒布された刊行物であるとの誤認)
について
(1) 本件カタログの表表紙の「1991/1」という表記の意味について検討
する。
 甲第4号証によれば,引用刊行物2をその一部とする文書(本件カタログ)の表
表紙には,「ヒルホウルト社ガーデニング製品小売価格リスト 1991/1. 
付加価値税込み」との意味の英語の記載があることが明らかである。
 乙第1号証によれば,本件カタログの裏表紙には,「すべてのサイズは,概数で
ある。説明及び価格は1991年4月1日現在のもので,連絡なく変更されること
がある。」との意味の英語(以下上記文書の記載として掲げるものは,原文はすべ
て英語である。)記載されていることが認められる。
 本件カタログの上記認定の記載によれば,同カタログの表表紙の「1991」の
記載は,西暦1991年を表すことが明らかである。
 このように,本件カタログの表表紙の「1991」の記載が,1991年を表す
ことが明らかであることからすれば,特別の事情のない限り,上記カタログは,1
991年中に発行されたものと認めるのが,合理的な認定方法であるというべきで
ある。そして,本件全証拠を検討しても,上記特別の事情を認定し得る証拠を見い
だすことはできない。
 上記「1991/1.」のうちの「1.」が1月を意味するのか第1号を
意味するのかは,必ずしも明らかとはいえないものの,本件出願のなされたのが平
成5年(1993年)2月5日であることからすれば,1月を意味するのか第1号
を意味するのかは,明確にするまでもないことである。
(2) 本件カタログの表表紙に,「RETAIL PRICELIST OF HILLHOUT 
GARDEN PRPDUCTS 1991/1. V.A.T.INCLUDED」との記載があることは,前記のとお
りであり,「RETAIL」とは「小売り」を意味するから,「RETAIL PRICELIST」とは
小売価格リストの意味であり,上記カタログは小売価格を掲載しているものであ
る。
 乙第1号証によれば,本件カタログの最終頁には,「横に描かれているのは,ヒ
ルホウルト社の「ベルゴデュール」で我々のユニークな置き棚・ディスプレイシス
テムです。ベルゴデュールは,皆様が最も簡単に,そして可能な限り便利に製品を
選べるように,ヒルホウルト社により特別に設計され,開発されました。もっとも
小さな園芸製品から,もっとも創造性に富む園芸のコンセプトまで,皆様が必要と
されるものが何であれ,真に専門的なアドバイスや専門知識でご奉仕することは喜
びに他なりません。我々は,ヒルホウルト製品に全くの信頼を置いており,それが
我々が10年の保証をしている理由です。もっとも我々は,それらがもっと長もち
することを知っていますが。我々は,このカタログが皆様のユニークでエキサイテ
ィングなアイデアを刺激し助長することを願っております。お持ちのどんなアイデ
ア又は御疑問についてでも,当社と相談が必要とお感じでしたら,我々はお役に立
てれば非常な喜びでございます。スケッチやダイアグラムを一緒にお持ちくださ
い。そうして一緒にあらゆる可能性を探りましょう。」と記載され,裏表紙には,
「すべてのサイズは,概数である。説明及び価格は1991年4月1日現在のもの
で,連絡なく変更されることがある。」と記載されていることが認められる。
 上記認定の記載,特に,「皆様が最も簡単に,そして可能な限り便利に製品を選
べるように」,「皆様が必要とされるものが何であれ,真に専門的なアドバイスや
専門知識でご奉仕することは喜びに他なりません」,「我々は,このカタログが皆
様のユニークでエキサイティングなアイデアを刺激し助長することを願っておりま
す」との記載によれば,製品を選ぶ者,同社のアドバイスの対象となる者,具体的
な園芸のアイデアを持っている者を「皆様」としているのであるから,卸売業者の
みならず不特定多数の消費者を包含するものであることが,明らかというべきであ
る。
 原告は,本件カタログは,特別な対象者のみに配布されたものであるから,その
一部である引用刊行物2は頒布された刊行物とはいえないなどと主張しているが,
上述したところに照らし,採用できないことが明らかである。
(3) 原告は,本件カタログ(乙第1号証)のうちの表表紙と掲載頁の2枚を除
いた18枚について,異議手続の段階において防御活動をすることができなかった
ものであり,本件カタログは,引用刊行物2とは別の,異議手続で審理されていな
い新たな証拠というべきであり,本訴において提出され,証拠として採用されるこ
とは許されない旨主張する。
 しかしながら,特許庁における異議手続において現れておらず審理判断の対象と
されなかった資料であるからといって,それだけで,直ちに,決定に対する取消訴
訟において提出することが許されなくなるというものではない。異議決定に対する
取消訴訟は,異議決定の違法性の有無につき当事者が主張立証を尽くし,それを前
提として裁判所が判断をすることを予定するものであって,出願された発明や考案
の新規性なり進歩性なりを検討する前提として,決定において引用されている刊行
物でないものを,取消訴訟になって引用刊行物として持ち出すことは,取消訴訟の
性質に照らして許されないとしても,異議手続において既に引用されている刊行物
の頒布の時期や記載内容を明らかにするために,異議手続の段階では現われていな
かった資料を提出することは,それが,異議手続と取消訴訟を通じてみて,故意や
重大な過失により時期に遅れて提出したものと認められ,これによりより訴訟の完
結を遅延させることとなると認められるとき許されなくなることがある(民事訴訟
法157条参照)のは別として,何ら差し支えのないものというべきである。
 本件についてみると,異議手続においては,引用される刊行物として,1991
年(平成3年)1月ヒルホウルトガーデンプロダクト社発行「RETAIL PRICELIST OF
HILLHOUT GARDEN PRODUCTS 1991/1.」(同社の小売価格リスト 1991.1)の10頁が
特定された上,同刊行物の記載内容と頒布時期を明らかにすべき証拠資料として甲
第4号証(本件決定の甲第2号証)が用いられ,同号証の表表紙の記載から頒布時
期が認定され,掲載頁(引用刊行物2)から,引用発明2の技術内容が認定され,
これに対して,本訴においては,表表紙の記載から頒布時期を認定した本件決定の
当否が争点となったために,被告において,上記認定の正しさを補強するために,
引用刊行物2をその一部とする文書(本件カタログ)の全体の原本を乙第1号証と
して提出したというものである。このような資料を本訴において提出することが何
ら差し支えのないものであることは明らかである(最高裁平成3年4月25日第一
小法廷判決・取消訴訟集(平成3年)(23)194頁参照)。
(4) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(訂正考案と引用考案2との相違点の看過)について
(1) 原告は,訂正考案の「折り曲げ可能なステンレス製の撚り線を各焼杭本体
の扁平面に沿って上下2段に配設して,これらの各撚り線を各焼杭本体の扁平面に
おける左右両側の2箇所に又釘により係止している」との構成が引用考案2にはな
いにもかかわらず,本件決定は,両考案のこの相違点に係る構成が引用刊行物2に
開示されていないことを看過していると主張する。
(2) 上記「折り曲げ可能なステンレス製の撚り線を各焼杭本体の扁平面に沿っ
て上下2段に配設して,これらの各撚り線を各焼杭本体の扁平面における左右両側
の2箇所に又釘により係止している」という構成中,「折り曲げ可能なステンレス
製の撚り線」を使用している点について,両考案が相違していることは,本件決定
が相違点(2)として指摘しているとおりである。
(3) 甲第4号証によれば,引用刊行物2には,「Description」との欄
に,「EDGING ON ROLL Made of machine rounded semi-cirde rails, fastened
with galvanised staples to galvanised wire for a highly durable
conneclion.」(「巻き上げ可能な花壇の縁:機械によって半円形に切断された柵を
高い耐久性の結合を得るために,亜鉛メッキ製staplesによって,亜鉛メッキ製ワイ
ヤーをそれぞれ柵にしっかり結びつけたもの」)との記載があることが認めら
れ,「staples」が,「留め金,製本・書類などのU字状の針金」といった意味を有
することは,弁論の全趣旨から明らかであり,これが訂正考案の「又釘」に該当す
ることは,いうまでもないことである。
 また,引用刊行物2の「Article」の欄の図をみると,ワイヤーが,柵の扁平面に
沿って上下2段に配設されており,このワイヤーを各柵ごとに2個のstapleで固定
している図面が示されていることが認められる。
 以上によれば,引用刊行物2には,「折り曲げ可能なステンレス製の撚り線」を
除いた原告主張の上記構成,すなわち,「各焼杭本体の扁平面に沿って上下2段に
配設して,これらの各撚り線を各焼杭本体の扁平面における左右両側の2箇所に又
釘により係止している」との構成のすべてが記載されていることが明らかである。
 原告主張の取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(訂正考案の顕著な作用効果の看過)について
 原告は,訂正考案の,複数の焼杭本体を折り曲げ可能なステンレス製の撚り
線で連結するという構成は,1本の線材で複数の焼杭本体を連結する場合に比較し
て,①所定の引っ張り強度を確保しながら,訂正考案に係る登録公報の図2に示さ
れるように,隣合う各焼杭本体を容易に折り曲げることができる,②複数本の線材
を撚ってなる撚り線は,その表面に凹凸が生じてしっかりと木製の焼杭本体に食い
込み,かつ,釘で止められた撚り線が,杭本体に対して不用意にずれ動くことがな
い,という顕著な作用効果を有する旨主張する。しかし,上記作用効果は,訂正考
案の構成を採用した場合の,自明の作用効果であって,当業者においてきわめて容
易に予想し得たものというべきである。
 また,原告は,訂正考案は,線材をステンレス製の撚り線とする構成と,焼杭本
体の表面を焼いて特殊防虫防腐塗装を施す構成と,焼杭本体の長さ方向一端部を,
先端に向かうに従って先細となるように斜めにカットして地面に差し込み易くした
構成とが有機的に結合して,全体として耐久性に優れ,野外での使用に最適な杭と
することができるに至った旨主張する。
 しかしながら,原告の主張する「焼杭本体の長さ方向一端部を,先端に向かうに
従って先細となるように斜めにカットして地面に差し込み易くした構成」が訂正考
案の内容となっていないことは,実用新案登録請求の範囲の記載自体から明らかで
ある。
 しかも,仮に,上記構成が訂正考案の内容となっているとしても,原告の主張す
る作用効果は,原告の主張する三つの構成を採用すれば得られることが自明の作用
効果であり,当業者においてきわめて容易に予想し得たものであることは,上記同
様である。
 原告主張の取消事由3も理由がない。
4 以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がないことが明らかで
あり,その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告
の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民
事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
   裁判長裁判官 山  下  和  明
      裁判官 設  樂  隆  一
裁判官 宍  戸     充
別紙図面(1)  別紙図面(2)   別紙(3)  

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