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平成12(行ケ)318行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年11月28日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決34回
実施14回
分割4回
無効3回
特許権1回
刊行物1回
無効審判1回
進歩性1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第318号 審決取消請求事件(平成13年11月14日口頭
弁論終結)
          判         決
    原      告   有限会社ケンオン興産
  原      告   有限会社ケイエイエム
原      告   有限会社シミズ
3名訴訟代理人弁護士 河   合   徹   子
       同          岡   村   泰   郎
  同      濱   岡   峰   也
       同          堀   内   康   徳
       同          山   本   健   司
       同 同弁理士 森           治
    被      告   阪神高速道路公団
被      告   株式会社栗本鐵工所
被      告   新日本製鐵株式会社
被      告   川崎重工業株式会社
被      告   神鋼鋼線工業株式会社
被      告   日立造船株式会社
被      告   株式会社神戸製鋼所
被      告   日本鋼管株式会社
被      告   三菱重工業株式会社
被      告   川崎製鉄株式会社
被      告   日本碍子株式会社
11名訴訟代理人弁護士 村   林   隆   一
       同 松   本       司
       同          岩   坪       哲
同   弁理士 小   谷   悦   司
       同 村   松   敏   郎
          主         文
      原告らの請求を棄却する。
      訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告ら
特許庁が平成10年審判第35505号事件、同第35522号事件、同第
35524号事件、同第35535号事件、同第35541号事件、同第3555
3号事件、同第35560号事件、同第35569号事件、同第35582号事
件、同第35588号事件及び同第35599号事件について平成12年7月19
日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
 2 被告ら
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告らは、名称を「高架橋の足場兼用吸音部材」とする特許第267659
8号発明(平成7年9月14日出願、平成9年7月25日登録、以下「本件発明」
という。)の特許権者である。被告阪神高速道路公団、被告株式会社栗本鐵工所、
被告新日本製鐵株式会社、被告川崎重工業株式会社、被告神鋼鋼線工業株式会社、
被告日立造船株式会社、被告株式会社神戸製鋼所、被告日本鋼管株式会社、被告三
菱重工業株式会社、被告川崎製鉄株式会社及び被告日本碍子株式会社は、それぞ
れ、平成10年10月22日、同月29日、同月30日、同年11月5日、同月9
日、同月12日、同月16日、同月18日、同月24日、同月27日、同年12月
1日、本件特許の無効審判の請求をし、平成10年審判第35505号事件、同第
35522号事件、同第35524号事件、同第35535号事件、同第3554
1号事件、同第35553号事件、同第35560号事件、同第35569号事
件、同第35582号事件、同第35588号事件、同第35599号事件として
特許庁に係属した。特許庁は、これらの事件を併合して審理した結果、平成12年
7月19日、「特許第2676598号発明の明細書の請求項1、2及び3に記載
された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年8月
3日、原告らに送達された。
 2 本件発明の要旨(【請求項1】~【請求項3】の発明を、以下「本件発明
1」~「本件発明3」という。)
【請求項1】高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆
うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材であって、多数の透孔を有する上面板
と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出
部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成したことを特徴とする
高架橋の足場兼用吸音部材。
【請求項2】前記膨出部を帯状に形成したことを特徴とする請求項1記載の高
架橋の足場兼用吸音部材。
【請求項3】前記下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填する吸
音材を空洞を有するブロック体で形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の
高架橋の足場兼用吸音部材。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本件発明1及び2は、特開平7
-180118号公報(甲第8号証、以下「引用例1」という。)及び実願昭61
-22117号(実開昭62-138710号)のマイクロフィルム(甲第2号
証、以下「引用例2」という。)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであり、本件発明3は、引用例1及び2に記載された発明並び
に周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、いずれも特許法29条2項の規定に違反し、同法123条1項2号により無効
とされるべきであるというものである。
第3 原告ら主張の審決取消事由
   審決の理由中、第一(手続の経緯、本件特許発明)、第二(審判請求)は認
める。第三(引用刊行物記載の事項)中、引用例1に「吸音材を帯状に形成した高
架式建造物の点検用歩廊兼用吸音部材」(審決謄本30頁14行目~15行目)が
開示されていること及び引用例2に「多数の吸音用小孔を・・・吸音長尺材」(同
32頁7行目~10行目)が開示されていることは争い、その余は認める。第四
(当審での検討)一中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」
(同34頁2行目~9行目)ことは認め、その余は争う。同二1中、「引用例1記
載のものにおいては、吸音材を帯状に形成している」(同35頁22行目~23行
目)ことは争い、その余は認める。同二2中、「引用例1のものにおいては・・・
開示されていない」(同35頁26行目~32行目)ことは認め、その余は争う。
同三1は認め、同三2中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」
(同37頁19行目~26行目)こと及び「又、『第三・・・参照のこと)」(同
38頁3行目~6行目)は認め、その余は争う。同三3中、「引用例1記載のもの
においては、吸音材を帯状に形成している」(同39頁11行目~12行目)こと
は争い、その余は認める。同三4中、「引用例1のものにおいては・・・開示され
ていない」(同39頁20行目~28行目)こと及び「又、『第三・・・参照のこ
と)」(同40頁6行目~9行目)は認め、その余は争う。第五(結び)は争う。
   審決は、引用例2記載の発明(以下「引用例発明2」という。)の認定を誤
り(取消事由1)、本件発明1と引用例1記載の発明(以下「引用例発明1」とい
う。)との相違点1の判断を誤り(取消事由2)、本件発明2との相違点3に係る
引用例発明1の認定を誤った(取消事由3)結果、本件発明1~3が進歩性を欠く
との誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)
  (1) 審決は「引用例2において、『高架橋のスラブの下方に所定の作業空間を
形成してスラブの下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音面状体であっ
て、多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音用小孔を有し、下方に突出す
る膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充
填した吸音材を有する吸音長尺材と、適宜間隔をおいて配設される複数の吸音長尺
材上に敷設した多孔板とで構成した高架橋の足場兼用吸音面状体』が、公知の技術
手段として開示されている。引用例2に記載のものは、高架橋において、そのスラ
ブの下方に、騒音を吸収するとともに作業員が乗って橋桁部の点検補修を可能とす
る足場兼用吸音面状体を有するものであって、『上面板』及び『下面板』との明示
はされてはいないものの、多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音用小孔
を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含む上面
部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材の構成が開示されてい
る。」(審決謄本34頁10行目~23行目)と認定するが、誤りである。
  (2) すなわち、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材
は、外殻がアルミニウム製押出し形材により一体に形成されているものであるか
ら、これを「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でない。仮に
「下面部」が「膨出部」を構成しているとしても、この「膨出部」は「下面部」全
体によって構成され、「下面部」自体が「膨出部」を構成しているのであるから、
引用例発明2に「下方に突出する膨出部を形成した下面部」との構成が開示されて
いるとする審決の認定は、誤りである。
  (3) さらに、上記「膨出部」を構成する「下面部」と「上面部」とが直接一体
化されているから、引用例発明2の吸音長尺材では、「膨出部」を構成している
「下面部」と「上面部」との間のみに吸音材を充填したものである。したがって、
審決が引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した
吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されていると認定した(審決謄本32頁
9行目~13行目)ことは、膨出部以外の上面部と下面部との間における吸音材を
充填する箇所の存在を認めたものであって、誤りである。
  (4) 本件特許出願の願書に添付された明細書(甲第29号証、以下「本件明細
書」という。)には、「上面板31及び枠部材32、さらに、場合によっては、下面板
33を、押出成形により一体成形することができる。」(5欄37行目~39行目)
との記載があるが、この記載は、上面板、枠部材及び下面板の存在を前提とする。
これに対し、引用例発明2では、このような前提はないから、外殻がアルミニウム
製押出し形材により一体に形成された断面中空三角形の吸音長尺材について、「上
面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でない。
 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り)
  (1) 審決は、「請求項1に係る発明(注、本件発明1)においては、その恒久
足場の足場兼用吸音部材が、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下
方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板
との間に充填した吸音材とで構成しているのに対し、引用例1記載のもの(注、引
用例発明1)においては、少なくとも、多数の透孔を有する上面板よりなるボック
ス形状の枠体に、吸音材を設けて構成している点」(審決謄本33頁31行目~末
行)を相違点1と認定した上、上記相違点1について、「引用例1におけるよう
な、高架式建造物(高架橋)の点検用歩廊(恒久足場)兼用吸音部材において、少
なくとも多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に吸音材を設けて
構成されているものに代えて、引用例2におけるような吸音長尺材の構成を採用
し、その際、特に吸音長尺材の上面部を上面板とし、下面部を下面板として、請求
項1に係る発明(注、本件発明1)におけるように構成するようなことは、引用例
1及び引用例2がいずれも高架橋の足場兼用吸音部材に関するものであること、さ
らに引用例1に引用例2を適用することによる構成の組み合わせ又は置換を阻害す
る特段の要因もないことを考慮すると、格別顕著な困難性を見出すことはできず、
当業者が必要に応じて容易になし得た程度のことである。」(同34頁24行目~
33行目)と判断するが、誤りである。
    すなわち、引用例発明2の吸音長尺材は、橋桁部の下面に適宜間隔をおい
て取り付けられるものであるから、本件発明1のような「恒久足場」を構築するた
めには、吸音長尺材のみでは足りず、パンチングメタル、エキスパンドメタル等の
多孔板に適宜間隔をおいて複数の吸音長尺材を敷設することが必要となる。このこ
とは、引用例発明2(甲第2号証)の実用新案登録請求の範囲(1)に「吸音部材が断
面中空三角形状の複数の吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る」(1頁6行
目~8行目)と記載され、また、「このように吸音面状体14の一部を多孔板30にて
構成することにより、吸音長尺材12の併設が容易になると共に、より一層吸音効果
が向上し、しかも、多孔板30上に作業員Aが乗って橋桁部3の点検補修を可能にす
ることができる。」(6頁18行目~7頁3行目)と記載されていることから明ら
かである。このように、引用例発明2の吸音長尺材は、単独では「恒久足場」を構
築することができないものであって、このことは、引用例発明1に引用例発明2の
技術を適用することを阻害する要因となるものである。
    また、引用例発明1では、複数本のルーバー構成部材を互いに並行して形
成した吸音用開口部を閉塞してルーバー構成部材間に吸音材を設けた構成となって
いるが、この吸音材に代えて引用例発明2の吸音長尺材を採用しても、引用例発明
1の上記構成と組み合わされた具体的な構成態様を想到することができないから、
これらを組み合わせることはできない。
  (2) 審決は、「全体として、本件請求項1に係る発明(注、本件発明1)によ
ってもたらされる効果も、引用例1及び引用例2に記載のそれぞれのものから、当
業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別顕著なものと
はいえない。」(審決謄本34頁34行目~37行目)と判断するが、誤りであ
る。
    すなわち、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材
は、断面が三角形であるため、その両端部に充填される吸音材の量(厚み)が漸次
少なくなるだけでなく、適宜間隔をおいて取り付けられることを前提とするもので
あることから、吸音長尺材のみによる吸音効果はさほど期待できず、高架橋やその
下方の道路を走行している車両の騒音の低減効果が得にくいという問題点を有す
る。
    これに対し、本件発明1は、「高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形
成して床版の下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材」であり、下面
板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材が充填されているため、吸音材
が鉛直方向に一定の厚みを有する構成により、高架橋やその下方の道路を走行して
いる車両の騒音を確実に軽減することができるため、恒久足場上の作業空間の作業
環境を良好に維持することができる。これに加えて、本件発明1は、足場兼用吸音
部材単独で恒久足場を構築することができ、補修作業を行う都度足場を組み立てる
必要がないことと相まって、作業効率を向上させることができる等の顕著な作用効
果を奏する。
 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り)
   審決は、本件発明2と引用例発明1との相違点3の認定において、「引用例
1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成している」(審決謄本35頁22行
目~23行目)と認定するが、誤りである。
   すなわち、引用例発明1では、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を
覆うように配設されているから、吸音材が帯状に形成されているものではない。吸
音材10が各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配設されてはいるもの
の、この支持壁は吸音材を固定するための単なる部材にすぎず、吸音材は実質的に
高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されているが、このような設置
形態にあるものを、通常、帯状に形成したとはいわない。
第4 被告らの反論
 1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について
  (1) 本件明細書(甲第29号証)には、「上面板31及び枠部材32、さらに、場
合によっては、下面板33を、押出成形により一体成形することができる。」(5欄
37行目~39行目)と記載されているから、本件発明は上面板と下面板とが押出
成形により一体成形されたものを含む。そうすると、引用例発明2の吸音長尺材が
押出成形により一体成形されたものであっても、この「吸音長尺材」を「上面部」
と「下面部」とに分割して解釈することができる。
  (2) 本件明細書(甲第29号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、「下方
に突出する膨出部を形成した下面板」、「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板
との間に充填した吸音材」との記載があるが、この要件は、下面板の一部にのみ膨
出部を形成するものだけではなく、下面板自体が膨出部を形成するものを含む。ま
た、本件明細書(甲第29号証)には、本件発明の第2実施例の第3変形例につい
て、「この足場兼用吸音部材3は、上記第2実施例の第2変形例において、下面板
33を枠部材32に嵌合、係止することにより固定していたのに代えて、下面板33を枠
部材32にビス又は溶接により固定したものである。」(6欄28行目~32行目)
と記載され、上記第3変形例を示す【図10】(b)には、ほぼ膨出部のみで構成さ
れた下面板が図示されているから、膨出部のみで下面板が構成されているものも本
件発明1に含まれることは明らかである。そうすると、引用例発明2の吸音長尺材
も、「下方に突出する膨出部を形成した下面板」と「下面板の膨出部内を含む上面
板と下面板との間に充填した吸音材」とを具備するものというべきである。
 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り)につい

  (1) 原告らの主張は、本件発明1において吸音部材同士が密に配列され高架橋
裏面全面を覆うことを前提とするものと解されるが、本件発明1は、このような構
成を要件としていない。すなわち、本件発明1は1本の吸音部材のみの発明であっ
て、1本の吸音部材の形状及び構造は特定されているものの、複数の吸音部材がど
のように配列されるかについては一切限定されていない。
    仮に、原告ら主張のように吸音部材の具体的配列が本件発明1の構成要件
であるとしても、当該配列は、引用例発明2に開示されているところであり、引用
例発明1に引用例発明2の技術を適用することに阻害要因はない。すなわち、引用
例発明2の実用新案登録請求の範囲(1)には、「高架橋のスラブの下部に配設される
橋桁部の側面及び下面に吸音部材を被覆して成り、上記吸音部材が断面中空三角形
状の複数の吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る吸音面状体にて構成される
ことを特徴とする高架橋の吸音被覆構造」と記載されているから、複数の吸音長尺
材から成る吸音面状体が高架橋の橋桁部の下面を「被覆する」ことを明確に示して
おり、かつ、その「吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る吸音面状体にて構
成される」という文言は、吸音長尺材を若干間隔をおいて配設しても全体として高
架橋裏面を被覆することとなり、それ自体が足場を構成し得ることを示している。
仮に、引用例発明2単独では足場として兼用し得る吸音部材が開示されていないと
しても、同発明には、少なくとも橋桁側に固定された吸音長尺材12の上に多孔板
30を敷設して成る吸音面状体を足場として兼用し得ること、すなわち、吸音長尺材
12を少なくとも恒久足場の主要強度部材として兼用することが開示されているか
ら、同発明の吸音長尺材12の形状及び構造を、単独で恒久足場に兼用される引用例
発明1の吸音材10に適用し本件発明1の足場兼用吸音部材を想到することは、当業
者が容易にし得たものである。
    本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】には、その前段に「高架橋の床
版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける」との記載が
あるが、この記載は、同請求項の「足場兼用吸音部材」が高架橋の床版の下面を覆
う恒久足場に用いられるものであるという目的及び用途を示す修飾句にすぎない。
  (2) 引用例発明2の実用新案登録請求の範囲(1)には、吸音長尺材の配列間隔
を密にすることによって吸音長尺材のみで「吸音面状体」を構成するものが記載さ
れ、吸音長尺材(吸音部材)を併設することにより足場兼用の吸音面状体が得られ
るという点で、本件発明1と同一の技術が開示されている。当業者にとって、引用
例発明2の上記(1)の記載のみから、吸音長尺材同士を密に配列して本件発明1を想
到することは容易であり、加えて、引用例発明1には、複数の帯状の吸音部材を併
設することにより高架橋の床版の下面を覆うように設ける恒久足場兼用の吸音板が
示されている。引用例発明2には、上面部と下方に膨出する下面部とから成り、上
面部と下面部との間に吸音材を充填した吸音長尺材とこの吸音長尺材を併設すれば
吸音面状体となることが開示されているから、引用例発明1及び2に接した当業者
がこれらを組み合わせて本件発明1の構成を想到することは、容易であるというべ
きである。
    本件発明1は、上面板及び下面板の構造について、「多数の透孔を有する
上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板
の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成した」という特
定しかなく、上面板や膨出部を含む下面板の具体的形状については何ら特定されて
いないのであるから、本件発明1について、吸音材が鉛直方向に一定の厚みを有す
るように構成されているというべき根拠はない。本件発明1の吸音部材と引用例発
明2の吸音長尺材とは、共に高架橋裏面を覆うように配設されるものであって、か
つ、「多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を
形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音
材とで構成した」という具体的構成を有する点で全く一致する以上、両者の作用効
果は基本的に同等であるとみるべきであり、引用例発明2では本件発明1のような
吸音効果が期待できないとする原告らの主張は根拠がない。
 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り)に
ついて
   引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中には、「図示の実施例で
は、開口部8の長手方向に延びるグラスウールからなる厚さ50㎜の吸音材10であ
り、この吸音材10は上記各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配設され
ており、該支持壁6eと上壁6bとで挟持されている」(5欄28行目~32行目)、
「有孔板よりなるボックス形状の枠体21が嵌合状に備えられていて吸音材10を補強
しており、ルーバーパネル17を取付け部19によって高架建造物の桁裏面に空気層
11を形成して装着したとき、前記枠体21が点検用等のための歩廊とされている」
(7欄36行目~40行目)と記載されている。これらの記載及び第1、第6、第
7図が図示するところによれば、1対のルーバー構成部材6a、6a間の各支持壁6eと
上壁6bとの間に、有孔板より成るボックス形状の枠体21により吸音材10を補強した
帯状の吸音材を1単位として幅方向に複数列併設して、その上面を点検用歩廊の足
場板とする構成が示されているから、引用例発明1(甲第8号証)には、吸音材
10を一方向に延びる帯状に形成した構造が開示されており、この点に関する審決の
認定は正当である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について
  (1) 原告らは、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材
は、外殻がアルミニウム製押出し形材により一体に形成されているものであるか
ら、これを「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でないと主張
する。
    しかしながら、本件明細書(甲第29号証)には、「上面板31及び枠部材
32、さらに、場合によっては、下面板33を、押出成形により一体成形することがで
きる。」(5欄37行目~39行目)と記載されているから、この記載によれば、
本件発明1にあっても、上面板、枠部材及び下面板が別体であることを前提とし
て、場合によっては、これらを一体成形することができるものと解される。また、
本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】は、上面板と下面板が別体であるか一体
であるかについて何ら限定しておらず、そうである以上、本件発明1は、これらが
別体であって組み合わされる場合と一体成形される場合の両者を含むものと解さざ
るを得ない。そうすると、仮に、引用例発明2記載の吸音長尺材が一体に形成され
ているものとしても、当該長尺材を「上面部」と「下面部」との各部分から成るも
のということに誤りはない。
  (2) また、原告らは、引用例発明2において「下面部」が「膨出部」を構成し
ているとしても、この「膨出部」は「下面部」全体によって構成されているから、
「下方に突出する膨出部を形成した下面部」との構成が開示されているとの審決の
認定は誤りであること、さらに、「膨出部」を構成する「下面部」と「上面部」と
が直接一体化されているから、これらの間のみに吸音材を充填したものであり、し
たがって、引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填
した吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されているとの審決の認定は、膨出
部以外の上面部と下面部との間における吸音材を充填する箇所の存在を認めたもの
であって、誤りであると主張する。
    しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】には、「下方に
突出する膨出部を形成した下面板」と記載されているが、下面板における膨出部の
大きさや位置については何ら限定がないから、本件発明1は、下面板の一部に膨出
部を形成した場合と下面板全体が膨出部である場合の両者を含むものである。本件
明細書に記載された作用効果に照らしても、下面板全体が膨出部である場合を排除
する理由は見いだせない。そして、引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面
部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されている
との審決の認定についても、本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載に下
面板や膨出部の具体的な形状について何ら限定がない以上、上面板と下面板との間
が下面板の膨出部内である場合を含むものと解されるから、引用例発明2に関する
審決の上記認定に誤りはない。
 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り)につい

  (1) 本件発明1と引用例発明1との相違点1について、「引用例1のもの
(注、引用例発明1)においては、・・・足場兼用吸音部材は、少なくとも、多数
の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に吸音材を設けて構成されてお
り、請求項1に係る発明(注、本件発明1)での『上面板』に対応する構成は有す
るものの、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出
部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した
吸音材とで、足場兼用吸音部材を構成する点は開示されていない」(審決謄本34
頁2行目~9行目)ことは当事者間に争いがない。
    一方、引用例発明2が、「高架橋のスラブの下方に所定の作業空間を形成
してスラブの下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音面状体であって」
(同10行目~12行目)、「適宜間隔をおいて配設される複数の吸音長尺材上に
敷設した多孔板」(同14行目~15行目)をその構成に含むことは当事者間に争
いがなく、上記発明において、「多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音
用小孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含
む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」(同12行目~1
4行目)の構成も開示されているとの審決の認定に誤りのないことは上記1のとお
りである。
  (2) 原告らは、恒久足場を構築するためには多孔板に適宜間隔をおいて複数の
吸音長尺材を敷設することが必要となるところ、引用例発明2の吸音長尺材は、橋
桁部の下面に適宜間隔をおいて取り付けられ単独で恒久足場を構築することのでき
ないものであるから、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することに阻害要
因があると主張する。
    そこで、引用例発明2について検討すると、明細書(甲第2号証添付)の
第1、第2、第3図には、第一実施例として、多孔板を用いずに、断面L形状の取
付け部材5に互いに平行に配設された吸音長尺材12が開示され、第6図には、第二
実施例として、多孔板30を敷設した複数の吸音長尺材12が開示されている。
また、上記明細書には、「吸音長尺材12は1つの角部とその対向する辺部
にビスポケット16を有するアルミニウム製押出し形材等にて形成されており」(5
頁6行目~8行目)、「上記吸音長尺材12は単なる中空状であってもよいが、例え
ば第5図に示すように、吸音長尺材12のほぼ全領域に多数の吸音用小孔22を穿設す
ると共に、吸音長尺材12の中空部内に吸音材24を充填した構造とすることもでき
る」(同6頁3行目~7行目)と記載されており、これらの記載及び第5図によれ
ば、引用例発明2の内部に吸音材を充填した吸音長尺材は、アルミニウム製押出し
形材等により形成されるものであると認められる。
    さらに、上記明細書には、「第2図に示すように、橋桁部3から突設され
るステー4を介して取付けられる断面L形状の取付け部材5に吸音長尺材12を互い
に平行に配設した後、取付け部材5から吸音長尺材12にボルトをねじ込んで各吸音
長尺材12を固定することにより、吸音面状体14が形成される」(5頁12行目~1
7行目)、「第6図はこの考案の第二実施例を示すもので、上記吸音面状体14を例
えばパンチングメタル、エキスパンドメタル等の多孔板30を上記した適宜間隔をお
いて配設される複数の吸音長尺材12上に敷設して形成した場合である。このように
吸音面状体14の一部を多孔板30にて構成することにより、吸音長尺材12の併設が容
易になると共に、より一層吸音効果が向上し、しかも、多孔板30上に作業員Aが乗
って橋桁部3の点検補修を可能にすることができる」(6頁14行目~7頁3行
目)と記載されており、これらの記載によれば、上記第二実施例においても、多孔
板を上に敷設した吸音長尺材12は、第2図が図示する第一実施例のものと同様に、
断面L形状の取付け部材5に配設されていることを前提とするものと認められる。
そうすると、第二実施例におけるアルミニウム製押出し形材等により形成
された吸音長尺材12は、点検補修の作業員が乗るのに安全な程度の強度を有するも
のであるから、引用例発明2の第二実施例が多孔板を用いることにより足場兼用の
機能を奏するものであるからといって、これを引用例発明1に適用することが阻害
されるものということはできない。
  (3) 原告らは、引用例発明1は、複数本のルーバー構成部材を互いに並行して
形成した吸音用開口部を閉塞してルーバー構成部材間に吸音材を設けた構成となっ
ているが、この吸音材に代えて引用例発明2の吸音長尺材を採用しても、引用例発
明1の上記構成と組み合わされた具体的な構成態様を想到することができないか
ら、これらを組み合わせることはできないと主張する。
    しかしながら、引用例発明1(甲第8号証)の特許請求の範囲【請求項
1】には、「複数本のルーバー構成部材を互いに並行して吸音用開口部を形成する
ように配設し、前記開口部を閉塞して前記ルーバー構成部材間に吸音材を設けてい
るとともに、高架式建造物の桁裏面との間に空気層を形成しかつ該裏面を覆って装
着されていることを特徴とする高架式建造物における桁裏面の被覆用ルーバー」と
記載されているが、吸音材やこれを保持するルーバー構成部材の具体的な形状や構
造については何ら限定がなく、引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中
には、「ルーバー構成部材6,15,16は、吸音材を支持するものであればよくデザ
イン、形状等は自由である」(8欄11行目~13行目)との記載があるから、ル
ーバー構成部材やその吸音材を保持する形状や構造について、図1が図示する吸音
材10と支持壁6e又は図7が図示する吸音材10を充填した枠体21とこれを保持するル
ーバー構成部材16における上平面の形状に限定されるものではない。そして、引用
例発明1のボックス形状の枠体から成る吸音材を引用例発明2の吸音長尺材に代え
る際に、引用例発明2の吸音長尺材の形状に適合するように、引用例発明1が開示
する上記支持壁や上記上平面の構造を変更することは、当業者が容易に想到し得る
ものと認められる。
  (4) また、原告らは、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音
長尺材は、断面が三角形であるため、その両端部に充填される吸音材の量(厚み)
が漸次少なくなるだけでなく、適宜間隔をおいて取り付けられることを前提とする
ものであるから、吸音長尺材のみによる吸音効果はさほど期待できないのに対し、
本件発明1は、「高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆
うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材」であって、下面板の膨出部内を含む
上面板と下面板との間に吸音材が充填されているため、吸音材が鉛直方向に一定の
厚みを有する構成により高架橋やその下方の道路を走行している車両の騒音を確実
に軽減することができること、足場兼用吸音部材単独で恒久足場が構築できるの
で、補修作業を行う都度足場を組み立てる必要がないことと相まって作業効率を向
上させることができる等の顕著な作用効果を奏すると主張する。
    しかしながら、引用例発明1に「高架式建造物の桁裏面の下方に所定の作
業空間を形成して桁裏面の下面を覆うように設ける点検用歩廊兼用吸音部材であっ
て、少なくとも、多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に、吸音
材を設けて構成した高架式建造物の点検用歩廊兼用吸音部材」(審決謄本30頁1
0行目~13行目)が開示されていることは当事者に争いがないから、原告らの主
張する、高架橋の床版の下面を覆うように吸音部材を設けたことによる吸音効果
は、引用例発明1が奏するものというべきである。また、本件発明1の構成では
「下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下
面板との間に充填した吸音材とで構成した」との限定はあるものの、充填材の厚み
については何ら限定がなく、また、本件発明1における「下面板の膨出部内を含む
上面板と下面板との間に充填した吸音材」とは、前示のとおり、下面部全体が膨出
部である場合を含むから、本件発明1の吸音部材と引用例発明2の吸音長尺材と
は、その構成において実質的に同一というべきである。さらに、引用例発明2の第
二実施例の吸音長尺材12は、前示のとおり、作業員の足場としての強度を有するも
のである。そうすると、原告らの主張する本件発明1の奏する効果は、いずれも当
業者にとって格別顕著な効果ということはできない。
 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り)に
ついて
  (1) 原告らは、引用例発明1では、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面
を覆うように配設されているから、吸音材が帯状に形成されているものではないと
して、審決が、本件発明2と引用例発明1との相違点3において、引用例発明1は
吸音材を帯状に形成していると認定する点は誤りであると主張する。
  (2) しかしながら、本件明細書(甲第29号証)には、「足場兼用吸音部材3
の第1実施例を、図2~図4に示す。この足場兼用吸音部材3は・・・上面板
31と・・・枠部材32と・・・下方に高架橋1の長手方向に沿って延びる帯状に突出
する膨出部を形成した金属製板材からなる下面板33と・・・吸音材34とで構成す
る。」(5欄3行目~12行目)、「足場兼用吸音部材3の第2実施例を、図5~
図7に示す。この足場兼用吸音部材3は・・・上面板31と・・・枠部材32と・・・
下方に高架橋1の長手方向に沿って延びる帯状に突出する膨出部を形成した金属製
板材からなる下面板33と・・・吸音材34とで構成する。」(同欄27行目~36行
目)、「請求項2記載の発明(注、本件発明2)によれば、下面板の膨出部を帯状
に形成することにより、騒音の軽減効果を向上することができるとともに、足場兼
用吸音部材の製造を容易にしてその製造コストを低廉にすることができる。」(7
欄15行目~19行目)と記載され、本件明細書の特許請求の範囲【請求項2】
は、同【請求項1】を引用するものであるから、本件発明2における「帯状」と
は、高架橋の床版の下面が長手方向に沿って延びた状態を意味すると解するのが相
当である。
  (3) 一方、引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中には、「図示の
実施例では、開口部8の長手方向に延びるグラスウールからなる厚さ50㎜の吸音材
10であり、この吸音材10は上記各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配
設されており、該支持壁6eと上壁6bとで挟持されている。」(5欄28行目~32
行目)と記載されており、この記載に第1、第2、第6、第7及び第8図を総合す
れば、引用例1記載の吸音材10も、各ルーバー構成部材6Aの間に架け渡して高架橋
の床版の下面を長手方向に沿って延びた帯状に形成され、この吸音材自体の形状
は、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されていることに
より影響を受けないと認められる。そうすると、本件発明2との相違点3に係る引
用例発明1の構成について「引用例1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成
しているもの」(審決謄本35頁22行目~23行目)とする審決の認定に原告ら
主張の誤りはない。
 4 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消
すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用し
て、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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