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平成13(ワ)6269民事訴訟 実用新案権

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成13年10月31日
事件種別 民事
法令 実用新案権
キーワード 実用新案権7回
実施4回
侵害4回
損害賠償2回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(ワ)第6269号実用新案権侵害による損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成13年9月17日
              判       決  
       原      告     X
       訴訟代理人弁護士     寺 内 從 道
       被      告     トヨタ自動車株式会社
       訴訟代理人弁護士     上 谷   清
                    宇 井 正 一
                    笹 本   摂
              主       文  
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   被告は原告に対し100万円及びこれに対する平成13年1月9日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   原告は,被告に対し,変速装置を搭載した四輪駆動自動車を製造,販売する
被告の行為が,原告の有する実用新案権を侵害するとして,損害賠償金の支払を求
めた。
 1 前提となる事実
  (1) 原告の実用新案権
  原告は,以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案の
請求項2及び4を「本件考案」という。)を有している(争いがない。)。
   ア 実用新案登録番号    3012727号
   イ 考案の名称       自動車用変速機構
   ウ 出願日         平成6年12月20日
   エ 登録日         平成7年4月12日
   オ 実用新案登録請求の範囲
  別紙登録実用新案公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとお
り。
【請求項2】四輪駆動自動車において,エンジンと前輪駆動用連動機構の
間と,エンジンと後輪駆動用連動機構の間に,オートマチックトランスミッション
またはマニアルトランスミッションの何れか一方を各介在させることに依って,当
該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該エンジンと駆
動用連動機構との連結を図るように構成したことを特徴とする自動車用変速機構。
【請求項4】何れか一方のミッションが作動している場合は,他のミッシ
ョンはOFF以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した請求項1乃至請
求項3の何れかに記載の自動車用変速機構。
  (2) 構成要件の分説
  実用新案登録出願に添付した本件考案の明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の「実用新案登録請求の範囲」を構成要件に分説すると以下のとおりである
(甲1及び弁論の全趣旨)。
【請求項2】
A 四輪駆動自動車において,
B エンジンと前輪駆動用連動機構の間と,エンジンと後輪駆動用連動機構
の間に,オートマチックトランスミッションまたはマニアルトランスミッションの
何れか一方を各介在させることに依って,
C 当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接続して当該
エンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成した
D ことを特徴とする自動車用変速機構
【請求項4】
E 何れか一方のミッションが作動している場合は,他のミッションはOF
F以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した
F 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の自動車用変速機構
  (3) 被告自動車
  被告は,別紙被告自動車目録記載の各自動車(以下「被告自動車」とい
う。)を製造し,販売している(争いがない。)。
 被告自動車の構成については,争いがある(必要な部分のみを各主張欄に
記載した。)
(4) 実用新案技術評価書の提示
  原告は,平成10年7月2日付け実用新案技術評価書を提示して,平成1
1年3月11日,被告自動車の製造,販売は,本件実用新案権を侵害する可能性が
ある旨を警告した(甲2,3,弁論の全趣旨)。
 2 主要な争点
(1) 構成要件Bについて(請求項2)
(原告の主張)
 構成要件Bにおける「エンジンと前輪駆動用連動機構の間と,エンジンと
後輪駆動用連動機構の間に,オートマチックトランスミッションまたはマニアルト
ランスミッションの何れか一方を各介在させる」との記載部分は,「エンジン」と
「一体化した四輪の駆動系」との間に,オートマチックトランスミッションとマニ
アルトランスミッションの両者を設け,密接不可分状態となってそれぞれの個性を
伝達し,所望のトランスミッションを用いた自動車走行を可能にさせる構造であれ
ば足りると解すべきである。
 一方,被告自動車に搭載されている変速装置(以下「被告装置」とい
う。)においては,エンジンと,一体化した四輪駆動系との間に,オートマチック
トランスミッションとマニアルトランスミッションである副変速機が介在し,シフ
トレバー等の操作により,オートマチック走行とマニアル走行とを切り換えること
ができる。したがって,被告装置は構成要件Bを充足する。
(被告の反論)
 構成要件Bにおける「エンジンと前輪駆動用連動機構の間と,エンジンと
後輪駆動用連動機構の間に,オートマチックトランスミッションまたはマニアルト
ランスミッションの何れか一方を各介在させる」の記載部分は,オートマチックト
ランスミッション及びマニアルトランスミッションの両者が搭載された変速装置に
おいて,トランスミッションの一方が前輪駆動系とエンジンの間に介在し,トラン
スミッションの他方が後輪駆動系とエンジンの間に介在すると理解すべきであっ
て,各トランスミッションが「一体化した四輪の駆動系」に接続されさえすれば足
りるとの意味に解することはできない。原告の主張は,請求項の記載と明らかに矛
盾する。
 一方,被告装置において,オートマチックトランスミッションで変速され
たエンジン出力は,副変速機を介して四輪のすべてに伝達される。したがって,被
告装置は構成要件Bを充足しない。
(2) 構成要件Cについて(請求項2)
(原告の主張)
 構成要件Cにおける「当該両トランスミッション中の何れか一方を切り替
え的に接続して当該エンジンと駆動用連動機構との連結を図る」との記載部分は,
エンジンの出力を駆動系に伝達する過程にオートマチックトランスミッションとマ
ニアルトランスミッションを設け,これを切り換えることができるという意味に解
すべきである。
 一方,被告装置においては,オートマチックトランスミッションを利用し
たDレンジの走行と,副変速機を利用したL4Lモード又はH4Lモードの走行と
を,自由に切り替えて運転することができるから,被告装置は構成要件Cを充足す
る。
(被告の反論)
 被告装置において,副変速機はオートマチックトランスミッションに直列
的に接続されており,オートマチックトランスミッションによる走行と,副変速機
による走行とを切り換えることはできないから,被告装置は構成要件Cを充足しな
い。
 すなわち,本件考案の作用効果は,オートマチックトランスミッションに
よるオートマチック走行と,マニアルトランスミッションによるマニアル走行を,
同一車両において切り替えることが可能とされる点にあることは明らかである。
 被告自動車においては,副変速機によるギア比の拡大を利用する場合であ
っても,駆動輪には,オートマチックトランスミッションによる変速を経たエンジ
ン出力が常に伝達されるから,被告自動車の走行は常にオートマチック走行であ
り,マニアル走行のみを行うことはできない。したがって,被告装置は構成要件C
を充足しない。
(3) 構成要件Eについて(請求項4)
(原告の主張)
 構成要件Eにおける「何れか一方のミッションが作動している場合は,他
のミッションはOFF以外の場所にシフトレバーが動かないように構成した」との
記載部分は,単に,選択されなかったトランスミッションが作動しないことを意味
するのではなく,シフトレバーの操作によって誤りなく切り替えるように構成され
ていることを意味する。
 一方,被告装置においては,オートマチックトランスミッションを利用し
たDレンジの走行の際にはマニアルトランスミッションはOFFの状態にあり,副
変速機を利用したL4Lモード又はH4Lモードの走行の際にはオートマチックト
ランスミッションはOFFの状態にある。そして,この両者の走行状態は,シフト
レバー類の操作によって誤りなく切り替え得るよう構成されているから,被告装置
は,構成要件Eを充足する。
 (被告の認否,反論)
 被告装置においては,オートマチックトランスミッションによる走行中
に,副変速機のシフトレバーを自由に切り換えることが可能であり,副変速機を切
り換えるシフトレバーがいずれの位置にあっても,オートマチックトランスミッシ
ョンのシフトレバーを自由に動かすことができる。したがって,被告装置は構成要
件Eを充足しない。
(4) 損害について
(原告の主張)
  本件実用新案権の侵害によって原告の受けた損害は,100万円を超え
る。原告は被告に対し,その損害の一部である金100万円を請求する。
(被告の認否)
  争う。
第3 争点に対する判断
   被告装置は,少なくとも,本件考案の構成要件B及びCを充足しない。その
理由は以下のとおりである。
1 構成要件Bについて
(1) 構成要件Bの解釈
 構成要件Bのうち,「エンジンと前輪駆動用連動機構の間と,エンジンと
後輪駆動用連動機構の間に,オートマチックトランスミッションまたはマニアルト
ランスミッションの何れか一方を各介在させる」との記載部分は,いずれか一方を
「各」介在させるとの文言が用いられていることに照らすと,「オートマチックト
ランスミッション」又は「マニアルトランスミッション」のいずれか一方を「エン
ジンと前輪駆動用連動機構との間」に介在させた場合には,他方を「エンジンと後
輪駆動用連動機構との間」に介在させることを要するとの趣旨に解すべきことは文
言上当然である。
 この点,原告は,構成要件Bについて,「エンジン」と「一体化した四輪
の駆動系」との間に,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッ
ションの両者が密接不可分状態となってそれぞれの個性を伝達し,所望のトランス
ミッションを用いることができる機構であれば足りるとの趣旨に理解すべきである
と主張する。
 しかし,上記のように,実用新案登録請求の範囲の記載から,原告主張の
ように解する余地がないことは明らかである。のみならず,本件明細書の「考案の
詳細な説明」欄に,実施例についての説明として,「17はオートマチックトラン
スミッション,18はマニアルトランスミッションであって,上記したエンジン1
5とこれに直結されている所定の駆動用シャフトの間に介在させてある。そして,
当該エンジン15と駆動用シャフトとは,オートマチックトランスミッション17
またはマニアルトランスミッション18の何れかを介してその連動自在の連結が図
られるように構成してある。換言すると,エンジン15と駆動用シャフトとは,オ
ートマチックトランスミッション17またはマニアルトランスミッション18のい
ずれかを介して連結されており(0021欄)」,「図4に示す実施例にあって
は,前輪の駆動用シャフトにオートマチックトランスミッション17が連結され,
後輪の駆動用シャフトにマニアルトランスミッション18が連結されるように構成
する(0022欄)」と記載され,これらの記載を参酌すれば,原告が主張する解
釈はおよそ採用できない。
(2) 被告装置との対比
ア 証拠(乙2の2,乙3の2,3,5及び6,乙4の2及び3)及び弁論
の全趣旨によれば,被告装置の構成は以下のとおりと認められ,これに反する証拠
はない。
  被告装置は四輪駆動自動車用の変速装置であり,その主要部分は,オー
トマチックトランスミッション部分と,トランスファー部分からなる。オートマチ
ックトランスミッション部分は,動力の伝達及びトルクの変換を行うトルクコンバ
ーター部分と,遊星歯車を電子制御で操作し,エンジンからの回転を前進四段,後
進一段に変速するトランスミッション部分からなる。オートマチックトランスミッ
ション部分の操作はシフトレバーの切替えによって行われ,Dレンジを選択した場
合,前進四段の範囲でギアの変更は自動的に行われる。
  トランスファー部分は,遊星歯車を利用した副変速機と,後輪駆動と四
輪駆動の切替えを行う分配機からなる。副変速機の切替えによって,トランスミッ
ション部分で変速された動力をそのまま駆動輪に伝達するハイレンジモードと,さ
らに変速を行って回転数を下げることにより,特に大きな駆動力を生じさせるロー
レンジモードの切替えが行われる。副変速機及び分配機の操作は,専用のシフトレ
バーとスイッチによって行われ,ハイレンジモードとローレンジモードの切替え
は,手動で行われる(なお,被告自動車においては,四輪駆動の形式として,パー
トタイム4WDとマルチモード4WDの区別が存するが,前後輪間の差動機構とそ
の動作制限をする機構が異なる点を除けば,基本的構成は同一である。)。
  オートマチックトランスミッション部分とトランスファー部分は直列的
に配置され,エンジンから生じる動力は,オートマチックトランスミッション部分
とトランスファー部分の両者を介して駆動輪(前輪及び後輪)に伝達され,いずれ
か一方のみを介して動力が伝達されることはない。また,ハイレンジモードを選択
した場合,変速はトランスミッション部分のみで行われ,副変速機は,トランスミ
ッション部分から伝達された動力を,そのまま分配機を介して駆動輪に伝えるにす
ぎないが,ローレンジモードを選択した場合,トランスミッション部分で変速され
た動力について,副変速機によりさらに変速を行う。すなわち,被告装置を全体と
して見ると,副変速機の作用は変速比の拡大にあり,副変速機のみが作動して,オ
ートマチックトランスミッション部分が作動しないといった状態は存在しない。
イ 以上認定した事実を前提として,被告装置が構成要件Bを充足するかに
ついて検討する。
  被告装置におけるオートマチックトランスミッション部分が,本件構成
要件Bのオートマチックトランスミッションに当たることは争いがない。しかし,
被告装置の副変速機は,オートマチックトランスミッション部分が変速機としての
機能を有することを前提に,副次的にその変速比を拡大するものであるから,これ
を構成要件Bのマニアルトランスミッションに当たると解すべきかについては疑問
があるが,一応,構成要件Bのマニアルトランスミッションに該当するものと仮定
した上で検討する。
 そうとすると,被告装置において四輪駆動を選択した場合,動力は,直
列的に配置されたオートマチックトランスミッション部分及びトランスファー部分
の両者を経て、駆動輪(前輪及び後輪)すべてに伝達される構造となっている。し
たがって,被告装置において「オートマチックトランスミッション部分」と「副変
速機」のいずれか一方を「エンジンと前輪駆動用連動機構との間」に介在させた場
合に,他方を「エンジンと後輪駆動用連動機構との間」に介在させるという構造が
採られていないことは明らかである。
  被告装置は構成要件Bを充足しない。
2 構成要件Cについて
(1) 構成要件Cの解釈
  構成要件Cは,「両トランスミッション中の何れか一方を切り替え的に接
続して,エンジンと駆動用連動機構との連結を図るように構成した」との記載部分
は,オートマチックトランスミッションとマニアルトランスミッションのいずれか
を選択して,駆動輪への動力伝達を一方に切り替えた場合には,他方はトランスミ
ッションとしては作動しないことを意味すると解すべきである。
  この点,原告は,構成要件Cについて,オートマチックトランスミッショ
ンによる走行と,マニアルトランスミッションによる走行とを,自由に切り替えて
運転することができれば足りる意味に解すべきであると主張する。しかし,本件明
細書の「考案の詳細な説明」欄に,「マニアルトランスミッションの作動中は,オ
ートマチックトランスミッションのシフトレバーをOFF位置に保っておく。これ
に依り,オートマチックトランスミッションは切り離された状態となり,自動車は
マニアルトランスミッションによる走行がなされる。そして,オートマチックトラ
ンスミッションの作動中は,マニアルトランスミッションのシフトレバーをOFF
位置に保っておく。これに依り,オートマチックトランスミッションは切り離され
た状態となり,自動車はオートマチックトランスミッションによる走行がなされる
(0008欄)。」と記載されていること,また,実施例の説明として,「両トラ
ンスミッションが同時に接続されることが無いように構成してある(0021
欄)」,「当該両トランスミッションは,いずれか一方だけを切り替え的に作動
し,両者が同時に作動することが無いように構成してある(0022欄)」と記載
されていることを参酌すると,原告の主張を採用する余地のないことは明らかであ
る(実施例の説明では,選択されていない方の変速機は,変速ができないだけで駆
動力の伝達は直結的にされるよう構成する旨の記載があるが,この場合も,選択さ
れていない変速機は,トランスミッションとして作動していない。)。
(2) 被告装置との対比
  被告装置については,前記1(2)アで認定したとおり,副変速機においてハ
イレンジモード,ローレンジモードのいずれを選択した場合であっても,オートマ
チックトランスミッション部分は常に作動し,動力の伝達,切断,変速等を行って
いる。
  したがって,たとえ副変速機がマニアルトランスミッションに当たると仮
定したとしても,被告装置において,オートマチックトランスミッションとマニア
ルトランスミッションの何れか一方を切り替え的に接続しているということはでき
ないから,被告装置は,構成要件Cを充足しない。
3 結論
  以上によれば,被告装置は本件考案の構成要件のB及びCを充足しないの
で,本件考案(請求項2及び4)の技術的範囲に属しない。原告の請求は,その余
の点について判断するまでもなく理由がない。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官    飯  村  敏  明
裁判官 谷     有  恒
裁判官 佐  野     信
被告自動車目録
車   種    ハイラックスサーフ
ボデー形状    ワゴン型四輪駆動自動車
車両形式     E-RZN185W-GAPVK
     E-RZN185W-GAPXK
 E-RZN185W-GKPXK
     E-VZN185W-GAPGK
      KD-KZN185W-GAPVT
     KD-KZN185W-GAPXT
     KD-KZN185W-GAPGT
     KD-KZN185G-GKPXT

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