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平成13(行ケ)223行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年10月25日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法3条1項3号11回
商標法56条1項4回
商標法5条3項2回
商標法3条2回
特許法153条2項2回
商標法3条1項6号1回
商標法3条1項1号1回
キーワード 審決48回
実施6回
拒絶査定不服審判1回
主文
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は、「車文化の創造」の文字よりなり(標準文字による商標)、指定役務を 商品及び役務の区分第41類の「自動車運転・道路交通法の教授」(平成12年1 0月20日付け手続補正書による補正後のもの)とする商標(以下「本願商標」と いう。)について、平成10年9月2日に商標登録出願(平成10年商標登録願第 74940号)をしたところ、特許庁は、平成12年5月29日に拒絶査定をし た。  原告は、同年6月29日、拒絶査定不服審判の請求をし、特許庁は、この請求を 不服2000-9763号事件として審理した結果、平成13年3月27日に「本 件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年4月16日に原 告に送達された。  2 審決の理由   別紙の審決書の写しのとおり、  「原査定の理由」として、拒絶査定は、本願商標「車文化の創造」について、指 定役務との関係から、全体として「車に係る文化の創造」といった意味合いを想起

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判決文

平成13年(行ケ)第223号 審決取消請求事件(平成13年8月23日口頭弁
論終結)
判    決
   原      告      株式会社シグマ
  訴訟代理人弁理士      伊   藤   捷   雄
   被       告      特許庁長官
                 及   川   耕   造
  指定代理人          泉   田   智   宏
   同             上   村       勉
   同             茂   木   静   代
    主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
事    実
第1 請求
  特許庁が不服2000-9763号事件について平成13年3月27日にし
た審決を取り消す。
第2 前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯
原告は、「車文化の創造」の文字よりなり(標準文字による商標)、指定役務を
商品及び役務の区分第41類の「自動車運転・道路交通法の教授」(平成12年1
0月20日付け手続補正書による補正後のもの)とする商標(以下「本願商標」と
いう。)について、平成10年9月2日に商標登録出願(平成10年商標登録願第
74940号)をしたところ、特許庁は、平成12年5月29日に拒絶査定をし
た。
 原告は、同年6月29日、拒絶査定不服審判の請求をし、特許庁は、この請求を
不服2000-9763号事件として審理した結果、平成13年3月27日に「本
件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年4月16日に原
告に送達された。
 2 審決の理由 
 別紙の審決書の写しのとおり、
 「原査定の理由」として、拒絶査定は、本願商標「車文化の創造」について、指
定役務との関係から、全体として「車に係る文化の創造」といった意味合いを想起
させるにすぎないから、これを本願商標の指定役務に使用するときには、「車に係
る文化の創造に関する知識の教授」であること、つまり、単に役務の質(内容)を
表示するにすぎないものと認められるので、本願商標は商標法3条1項3号に該当
する旨認定判断して本願商標の登録出願を拒絶したと認定した上で、
 「当審の判断」として、本願商標は、「車文化の創造」の文字よりなるところ、
車と文化の関係は、近年、車の使用により余暇生活の幅を広げるなど、密接な関係
があることは顕著な事実であり、企業が商品の生産や役務を提供するに当たって、
文化的側面を無視して活動することはできないのが現状であるため、本願商標が使
用された場合、取引者、需要者は、「車にかかわる文化を創造する」という程の意
味を表しており、ひいては、それを通じて企業として社会に貢献したいとの表明で
あると直ちに理解、認識するものと認められ、本願商標は、その指定役務の質(内
容)を表示するにとどまり、自他役務を識別することができる標識部分を有しない
ものであるから、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することがで
きない商標であるというのが相当であり、したがって、本願商標は同法3条1項3
号に該当するとした拒絶査定は妥当なものであって取り消す限りでない旨認定、判
断した。
第3 原告主張の審決の取消事由の要点
 1 商標法3条1項3号該当の認定判断の誤り
  (1) 本願商標の「車文化の創造」を審決のように「車にかかわる文化の創
造」としてとらえたとしても、指定役務の関係からして、自動車運転や道路交通法
を教えることが直ちに「車にかかわる文化の創造」について教えることを意味する
とは、一般取引者、需要者は通常考えないので、「車にかかわる文化の創造」は、
本願商標の指定役務の質(内容)を直ちに表示するものではなく、本願指定役務の
関係からして、自他役務識別力を有するとすべきである。
  (2) 審判手続で提出した電話帳の自動車教習所の欄(甲第4号証)や、本
訴で新たに提出したインターネットを用いて集めた各自動車教習所等の広告欄(甲
第5号証の1ないし10、甲第12号証の1ないし5)にも、「車文化の創造」な
る字句は一切使用されていない。
 このように、「車文化の創造」の用語は、自動車運転・道路交通法を教授する業
界において使用している事実は一切なく、また、広辞苑や国語辞典、及び現代用語
辞典等(甲第6号証の1ないし3)においても一切記載されていない。
 これらの点からしても、本願商標はその指定役務について自他役務識別力を有す
るというべきである。
  (3) 車文化を創造するものは、あくまで車を使用する人であって、その中
には自動車を所有し、これを運転する人もいるが、運転免許を持たず、道路交通法
を知らず、単に車に乗せてもらう人もたくさんいるのである。したがって、自動車
の運転を教えたり、道路交通法について教えることそれ自体は間接的に車文化の創
造に寄与することはあっても、自動車運転や道路交通法を教授する業界においては
通常具体的に車文化の創造、つまり車を用いた生活習慣の創造等について教えるこ
とではないので、「車文化の創造」は本願指定役務の質(内容)を表示するもので
はない。換言すれば、「車文化の創造」の担い手としては、自動車の運転ができる
人、道路交通法を知っている人も含まれるので、その意味において「自動車運転・
道路交通法の教授」は車文化の創造に間接的に寄与はするが、自動車運転・道路交
通法を教授することが直ちに「車文化の創造」即ち「車を使用した新しい生活の仕
方」を教えるものではない。
 この点、審決は、「本願商標は、前記したとおり「車文化の創造」の文字よりな
るところ、車と文化との関係は、近年、車の使用により余暇生活の幅を広げるな
ど、密接な関係があることは顕著な事実といえる。そして、企業が商品の生産や役
務を提供するにあたって、文化的側面を無視して活動することはできないのが現状
である。そうすると、かかる現状において、本願商標が使用された結果、取引者・
需要者は、「車にかかわる文化を創造する」という程の意味を表しており、ひいて
は、それを通じて企業として社会に貢献したいとの表明であると直ちに理解認識す
るものと認められる。」(審決書2頁下から8行ないし9頁1行)と説示している
が、上述したように、本願商標の「車文化の創造」が本願指定役務である「自動車
運転・道路交通法の教授」との関係からして、直接的にこの指定役務の質(内容)
を想起すると解釈することには無理があり、審決は失当である。
 特許庁の審査基準においても、商標法3条1項3号規定の「指定役務の質」を間
接的に想起する商標は、本号の規定に該当しないと明記されている(甲第7号
証)。
   (4) 被告の主張に対する反論 
 被告は、本願商標の構成のうち「文化」の文字部分について、「文徳で民を教化
すること」を意味する語であるとした上で、本願商標の指定役務を取り扱う自動車
教習所では、運転技量、交通ルール等のみならず、交通社会に参加するための倫理
観、情操教育なども重要なこととされているが、これは自動車に関わる事柄を「文
徳で教化すること」というべきものであり、自動車教習所は、自動車との関わり合
いをよりよいものにしていくため、自動車に関わる文化を創造し、教授していく担
い手として重要視されているのであるから、「車文化の創造」の文字よりなる本願
商標をその指定役務について使用した場合、これに接する一般の需要者は、提供さ
れる役務の内容について、通常提供される運転技量、交通ルール等の教授に、交通
社会に参加するための倫理観等の指導が付加されたもの、すなわち、人と自動車と
の関わり合いを通じて「車にかかわる文化を創造する」ともいうべき教授、指導が
行われていると理解するにとどまる旨主張している。
 確かにこれだけ自動車が普及し、交通事故が多発する原状においては、自動車教
習所や自動車学校において、交通安全について意を砕くことは当然のことであり、
原告はこれを異とするものではない。
 しかしながら、「文化」の語句の意味するところは、次のとおり、各辞典のすべ
てが一致しているわけではないので、被告が主張するように「文化」の意味を「文
徳で民を教化する」こととして「車」との関係をとらえることが相当であるとはい
い難い。
 すなわち、「文化」の語は、岩波書店発行の広辞苑第2版(甲第13号証の1)
では、「①世の中が進歩して文明になること。ひらけること。文明開化。②文徳で
民を教え導くこと。③(culture)人間が学習によって社会から習得した生活の仕方
の総称。」となっており、三省堂発行の大辞林第2版(甲第13号証の2)では、
「(1)〔culture〕社会を構成する人々によって習得・共有・伝達される行動様式な
いし生活様式の総体。言語・習俗・道徳・宗教、種々の制度などはその具体例。文
化相対主義においては、それぞれの人間集団は個別の文化をもち、個別文化はそれ
ぞれ独自の価値をもっており、その間に高低・優劣の差はないとされる。カルチャ
ー。(2)学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたも
の。(3)世の中が開け進み、生活が快適で便利になること。文明開化。(4)他の語の
上に付いて、ハイカラ・便利・新式などの意を表す。」となっている。さらに、講
談社発行の現代実用辞典改訂増補版(甲第13号証の3)では、「①世の中が開け
進むこと。②自然を人間の生活に役だつようにかえていく活動が作りだした成果。
③学問・芸術など、人間の精神活動の所産。」となっており、角川書店発行の国語
辞典新版(甲第13号証の4)では、「①世の中が開け進むこと。②学問・道徳
で、民を教え導くこと。③人間が本来の理想を実現していく活動の過程。その物質
的所産である文明に対して、特に精神的所産の称。芸術・科学・道徳・宗教・法律
など。」となっている。
 したがって、「車文化」という場合には、現在では「車」は生活の用具となって
いることから、一般取引者、需要者の認識としてはむしろ「車によって生活が快適
で便利になること」としての意味にとらえるべきであり、「車文化の創造」という
場合には、「車によって生活が快適で便利になる新しい方法を造り出す」という意
味にとらえるべきである。
 そうすると、本願商標の指定役務である「自動車運転・道路交通法の教授」それ
自体はあくまで、実務的、技術的なものの教授であって、それが直ちに「生活が快
適で便利になる新しい方法を造り出す」ことを教授することを意味するものではな
く、「車文化」の語について、被告が指摘するような自動車に関連する業界での使
用例があったとしても、その使用例は例えば「車社会」といった場合より遥かに少
なく(甲第11号証)、役務提供者や一般取引者、需要者にとって、自動車教習所
が上述した意味の車文化の創造について教授することを役務としているとは認識し
ているものではないので、本願商標はその指定役務についてその質を表すものでは
なく、さらに本願商標をその指定役務について使用しても自他役務の識別力を有す
ると判断せざるを得ない。
 また、このことは、被告が主張するように「文化」を「文徳で民を教化」すると
いう意味にとらえても、そのような役務は本願商標の上記指定役務の中には直接的
に含まれないし、また、指定役務の提供をする上記業界がそのようなことを役務と
することは、当該業界はいうに及ばず、一般取引者、需要者も認識するところでは
ない点で同じである(甲第5号証の1ないし10、甲第12号証の1ないし5参
照)。
 さらに、被告が主張するように、政府や公共機関において、本願商標の指定役務
を提供する業界に対して、交通安全に関する問題や交通社会に参加するための倫理
観、情操教育を行うことを期待していたとしても、現状はそのようなことは行われ
ておらず、また、一般社会からも認識期待されている形跡もない。
 以上のとおり、本願商標が商標法3条1項3号に該当するという被告の主張は失
当である。
   (5) 過去の登録例について
 本願商標の出願日以前の過去の登録例も審決の判断の適法性を判断する上で大切
である。この観点から、原告は、審判手続において提出した手続補正書(甲第3号
証)において、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」を指定役務とする「パ
ソコン家庭教授」、「環境文化」という商標の登録例(甲第8号証の1、2、甲第
9号証の1ないし3。下記表のイ、ウ)について主張したが、本訴において、さら
に下記のア、エないしキの登録例を加えて主張する。
            記
     商標 登録番号        指定役務
 ア 環境文化の創造  4229090号  有害動物の防除(農業・園芸又は
林業に関するものを除く。)、床磨き、厨房の清浄、防鼠工事、防虫工事
 イ 環境文化     4352613号  技芸・スポーツ又は知識の教授他
 ウ パソコン家庭教授 3365900号  技芸・スポーツ又は知識の教授
 エ 動物占い     4432877号  技芸・スポーツ又は知識の教授他
 オ 草の学校     4426404号  技芸・スポーツ又は知識の教授他
 カ 技の教室     4457601号  技芸・スポーツ又は知識の教授他
 キ 海の学校     4397516号  技芸・スポーツ又は知識の教授他
 これらの登録例は、いずれも本願商標よりもはるかにそれぞれの指定役務の質
(内容)を想起させるものであるが、すべてが登録となっている(甲第10号証の
1ないし5)。審決の判断は、これらの過去の登録例に明らかに反し、誤ってお
り、審決には審理不尽の違法があるというべきである。
 少なくとも、登録商標である「環境文化の創造」(甲第10号証の1)の語は、
その指定役務の「有害動物の防除、防鼠工事、防虫工事他」との関係でみれば、指
定役務を提供することによって、生活環境が快適となることは明らかであるから、
本願商標が役務の質を表すというのなら、より強く役務の質を表すというべきであ
り、同じく「環境文化」(甲第8号証の1)の語は、その指定役務の「技芸・スポ
ーツ又は知識の教授他」からすれば、「環境文化」について教えることとなり、役
務の質そのものを表していることは明らかである。しかも、「環境文化」の語は、
使用例も多くあり(甲第9号証の1ないし3参照)、大学の学科名ともなっている
ことから、普通一般に使用されている用語である。商標登録の判断がいかに個別具
体的にされるといっても、本願商標の登録が許されないことは、公平性に反し、納
得のいくものではない。
2 手続違背の違法性
  (1) 審決は、「原査定の理由」の認定として、拒絶査定は、本願商標「車
文化の創造」について、指定役務との関係からして、全体として「車に係る文化の
創造」といった意味合いを想起させるにすぎないから、これを本願指定役務に使用
するときには、「車に係る文化の創造に関する知識の教授」であること、つまり、
単に役務の質(内容)を表示するにすぎないものと認められ、したがって、本願商
標は、商標法3条1項3号に該当する旨認定判断して、商標登録出願を拒絶したも
のであると認定している。
 しかし、拒絶査定は、甲第2号証のとおり、「車文化」なる字句は、「自動車を
所有する文化」といった意味合いを想起するとしているのであり、審決が認定する
ように、「車文化の創造」の字句が「車に係る文化の創造」といった意味合いを想
起するとはしていない。
 さらに、拒絶査定は、「車文化」なる文字を指定役務に使用するときは、「「自
動車を所有する文化の創造に関する知識の教授」であること、つまり、単に役務の
質(内容)を表示するに過ぎないものと認めます」としているのであり、審決のよ
うに単に「車に係る文化の創造に関する知識の教授」を表示するものであるとはし
ていない。
 つまり、拒絶査定の審査官が「車文化」なる字句を「自動車を所有する文化」と
とらえているのに対し、審決は、「車にかかわる文化」としてとらえており、その
意味内容について明らかに違いがあり、前者は狭く、後者は広い意味となってい
る。そして、審決は、「当審の判断」の項において、「本願商標が使用された結
果、取引者・需要者は「車にかかわる文化を創造する」という程の意味を表してお
り」と認定し、この認定内容を理由にして判断している。
 しかし、原告は、本件審判事件において、本願商標を指定役務に使用した場合
に、本願商標が「自動車を所有する文化の創造」の意味を有するものとして、単に
指定役務の質(内容)を想起するにすぎないとしたことの拒絶査定の当否を争って
いるのであり、審決がこれを本願商標を指定役務に使用した場合に、本願商標が
「車にかかわる文化の創造」の意味を有するものとしてその意味を拡張し、本願商
標は単に指定役務の質(内容)を想起させるにすぎないと認定し、これに基いて審
決したことは、明らかに当事者が申し立てていない理由に基いて審理したことにな
る。
 かかる場合について、商標法は、その審理の結果、つまり「車文化の創造」を拒
絶査定の「自動車を所有する文化の創造」ではなくて、「車にかかわる文化の創
造」と認定した結果を、当事者に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立て
る機会を与えなければならないと規定している(商標法56条1項で準用する特許
法153条2項)。したがって、この手続を採らなかった審決には重大な手続違背
があるというべきである。
 なお、被告が主張するとおり、本件に係る平成11年12月16日付の拒絶理由
通知(乙第1号証)では、審査官は本願商標の「車文化の創造」を「車に係る文化
の創造」としてとらえており、原告もこれを前提とした意見書を提出し、手続補正
書で指定役務を「第41類 技芸・スポーツ又は知識の教授」から「第41類 自
動車運転・道路交通法・自動車整備技術の教授」に補正している。
 しかしながら、拒絶査定(甲第2号証)の内容によれば、審査官が本願商標の
「車文化の創造」を「自動車を所有する文化の創造」としてとらえていることは明
らかであるというべきである。確かに、被告が指摘するように、拒絶査定では、審
査官は「この商標登録出願は、平成11年12月16日付けで通知した理由によっ
て拒絶すべきものと認めます。」と述べているが、本願商標の「車文化の創造」の
意味合いについて、上述したように、平成11年12月16日付けの拒絶理由通知
(乙第1号証)で述べた事項と、拒絶査定(甲第2号証)で述べた事項に違いがあ
る以上、前者(拒絶理由通知)で述べた事項は、後者(拒絶査定)によって撤回さ
れたとみるべきであり、拒絶理由通知で述べている本願商標の「車文化の創造」を
「車に係る文化の創造」とする部分は、拒絶査定で言う「平成11年12月16日
付の理由」の中に含まれていないとみるのが相当である。
 してみると、審査官は拒絶査定で拒絶理由の内容を一部撤回し、本願商標の「車
文化の創造」を「車を所有する文化」という意味合いにとらえて拒絶査定し、これ
について原告が拒絶査定不服の審判を請求して争ったのであるから、これを「車に
係る文化の創造」としてとらえて判断した審決は、当事者が争っていない事実につ
いて判断を下したものというべきであり、被告の主張は失当である。
  (2) 審決は、「需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識するこ
とができない商標というのが相当である」(審決書4頁10行ないし12行)とし
て、本願商標について、商標法3条1項6号規定の「前各号に掲げるもののほか、
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商
標」に該当するかのような判断を示している。
 しかし、本願商標の登録出願の拒絶の理由としては、あくまで商標法3条1項3
号違反について争われているのであるから、明らかに判断の逸脱である。
 そして、このような判断を示すには、商標法56条1項で準用する特許法153
条2項のとおり、当事者にその旨を伝え相当の期間を指定して意見を申し述べる機
会を与えなければならない。しかるに、審決は、この点についてもこのような手続
を採っていない。
 したがって、審決には手続違背による違法性があるから取り消されるべきであ
る。
 なお、被告が主張するとおり商標法3条1項1号から5号が同項6号の例示的列
挙であるとしても、6号は1号から5号に該当しない場合に適用する規定であり、
6号に該当する場合と3号に該当する場合とでは、その防御方法が明らかに異なっ
てくるのであるから、勝手に適用する規定を変えることは原告の防御権を損うもの
である。
  (3) 以上のとおり、審決には、商標法56条で準用する特許法153条2
項に違反する手続違背があり、違法であるから取り消されるべきである。
第4 被告の反論の要点
 1 商標法3条1項3号の該当性について
 原告は、本願商標は、本願の指定役務の分野において使用されている事実はな
く、また、自動車運転や道路交通法を教授する業界においては、車文化の創造、つ
まり車を用いた生活習慣の創造等について教えることはないので、本願商標は、役
務の質を直接的に表示するものでもないから、商標法3条1項3号に該当しない旨
主張している。
 しかしながら、以下に述べるとおり、原告の上記主張は失当である。
  (1) 本願商標は、「車文化の創造」の文字を書してなるものであるとこ
ろ、該文字は、商標法5条3項で規定する「特許庁長官の指定する文字(標準文
字)のみによって」構成されているものである。
 そして、本願商標中の「車」の文字部分は、「①軸に貫いて回転する仕組みの
輪。車輪。②車輪の回転によって動く仕掛けのものの総称。牛車・荷車・人力車な
ど。現在では自動車を指すことが多い。」などを意味する語(広辞苑第5版、乙第
5号証の1)であるところ、指定役務「自動車運転・道路交通法の教授」との関係か
らみれば、「自動車」の意味を表したと理解されるものである。
 また、同じく「文化」の文字部分は、「①文徳で民を教化すること。②世の中が
開けて生活が便利になること。」などを意味する語(広辞苑第5版、乙第5号証の
2)である。
 さらに、「創造」の文字部分は、「新たに造ること。新しいものを造りはじめる
こと。」などを意味する語(広辞苑第5版、乙第5号証の3)である。
  (2) ところで、自動車は、我が国において20世紀初頭に実用化されて以
来、その保有台数は増加の一途をたどり、株式会社日刊自動車新聞社2000年5
月25日発行「自動車年鑑2000年版」(乙第6号証の1)によれば、1999
年には、特殊用途車を除く4輪車合計で7000万台を突破したことが認められ
る。
 上記我が国における現在の保有台数からみても、自動車の異常ともいえる普及に
より、人々の活動範囲が広がり、生活様式も多様化するといったように、日常生
活・社会全般に大きな変革をもたらしたものであることが窺える。
 一方で、自動車の急増に伴い、排気ガス等による地球温暖化現象、騒音などの環
境問題、交通事故の増大、交通渋滞などさまざまな悪影響がクローズアップされて
いる実情にもある。
 このように自動車の利便さだけを追求した結果、その見返りとして、排ガス、騒
音等の環境問題、交通事故の増大などの課題に直面しているという自動車の100
年の歴史というものそれ自体に、良いにせよ悪いにせよ我が国において自動車に関
わる文化は形づけられているといえるのである。
 のみならず、近時、自動車による弊害を減らし、むしろ自動車を活用して自動車
と人、地域社会との共存を図り、さらには地球環境をも考慮した施策が推し進めら
れている状況にある。
 例えば、介護タクシー、低床バス等の導入、福祉車両の開発等の交通のバリアフ
リー化を実現し、高齢社会に対応した施策が進められていること、環境問題に関し
ては、電気自動車、ハイブリッドカーといわれる低公害車の開発、排ガス規制、ア
イドリングストップ運動など環境を配慮した提案がなされていることなどが挙げら
れる。
  (3) さらに、内閣府の「交通安全対策」によれば第7次交通安全基本計画
として、「交通安全思想の普及徹底」と題する項目(乙第7号証)の中で、「交通
安全教育は、自他の生命尊重という理念の下に、交通社会の一員としての責任を自
覚し、交通安全意識と交通マナーの向上に努め、相手の立場を尊重し、他の人々や
地域の安全にも貢献できる良き社会人を育成する上で、重要な意義を有している。
交通安全意識と交通マナーを身につけるためには、人間の成長過程に合わせ、生涯
にわたる学習を促進していくことが必要である。」とし、「段階的かつ体系的な交
通安全教育の推進」等を挙げている。
 また、前出「自動車年鑑2000年版」の「自動車教習所」の項(乙第6号証の
2)によれば、「求められる生涯交通教育」等として、「・・教習所が初心運転者
教育に取り組むに当たって、単に運転技量のみを教えればよいのではなく、交通社
会に参加するための倫理観、情操教育なども重要な課題になってきている。実際モ
ラルを身につけるという観点で、・・・安全意識の向上につながる社会活動への参
加といった情操教育につながる講習方法も取り入れられている。」、「・・・98
年8月に国家公安委員会がまとめた「交通安全教育指針」では、幼児から高齢者ま
での年齢層別、かつ歩行者、自転車乗車中、自動車乗車中といった状態別に、目的
や目標、教育内容を示した体系的な交通教育体制が必要だとされている。・・・こ
うした体系的な交通生涯教育の試みとして、指定教習所ではいくつかの試みにチャ
レンジしているところもある。」などの記載が認められ、さらに、同「自動車教育
の現状」の項(乙第6号証の3)によれば、「「自動車教育」の重要性」と題し、
「自動車の持つ利便性を享受しつつ、そこから生じる様々な課題を解決していくた
めには、自動車に関連した社会的・経済的な知識や、構造・機能に関する理解が不
可欠である。また、その知識や理解は、運転者のみならずクルマ社会に生きるすべ
ての人に求められている。・・・自動車先進国である欧米諸国は、この分野の教育
にも早くから取り組み、成果を上げている。本稿では、馬車/自動車文化で歴史が
あり、学校教育やチャリティ(民間公益活動)で独自性を誇るイギリスの実情を踏
まえ、日本の現状を考えてみたい。」として、イギリスにおける「自動車教育」を
取り上げ、日本の「自動車教育」がどうあるべきかを説いている。
 このように、交通安全に関する問題については、官民一体となって取り組んでい
るところであり、とりわけ、学校や自動車教習所は、運転技量、交通ルール等のみ
ならず、交通社会に参加するための倫理観、情操教育なども重要視されるとあり、
これはまさに自動車に関わる事柄を「文徳で教化すること」というべきものであ
り、現在及び将来にわたって、自動車との関わり合いをよりよいものにしていくた
め、自動車に関わる文化を創造し、教授していく担い手として重要視されていると
考える。
  (4) そして、自動車教習所では、交通安全に関して実際に種々の試みがな
されている実情にあることは、例えば、
     ア 平成4年6月25日付け読売新聞(乙第8号証)によれば、「交通
事故5000人突破・・・」と題する記事には、「警視庁は交通死亡事故が世界各
国でも多発していることを踏まえ、・・・中・長期対策としては自動車教習所の普通
自動車教習カリキュラムの大幅改正も検討中だ。技能教習時間を現行より増や
し、・・・「免許量産」から「安全思想と安全運転重視」の教習に力点を置き換え
る。」との記載がある。
     イ 平成4年7月31日付け読売新聞(乙第9号証)によれば、「「と
れんど」安全運転は「声だし確認」で」と題する記事には、「山形県にある自動車
教習所が、興味深い実践を報告している。鉄道と同じように、声に出して安全確認
を行う教習だ・・・。声と行動という〈形〉を通じて、安全意識やマナーを習慣づ
けようとする試みだ。」との記載がある。
     ウ 平成12年10月6日付け読売新聞(乙第10号証)によれば、
「交通事故防止へ ざん新アイデア」と題する記事には、「松山西署管内の唯一の
教習所だが、・・・幼稚園児の交通安全指導教室を開いた。・・・「人間教育その
ものなんです。」という言葉に、交通事故を少しでも減らそうという、堅い決意を
にじませた。」との記載がある。
 これらの新聞記事からも、自動車との結びつきが極めて密接な自動車教習所が、
いかに交通事故が減らせるかなど交通安全対策を模索する状況にあることが明らか
である。
  (5) 「車文化の創造」ないし「自動車文化の創造」なる語の使用例
     ア 昭和60年10月31日付け日本経済新聞(乙第11証)によれ
ば、「東京モーターショー、あすから一般公開」と題する記事中に、「今回のテー
マはより豊かな自動車文化の創造の意味を込めた「走る文化。くるま新世代」。」
との記載が認められる。
     イ 平成元年5月9日付け日本経済新聞(乙第12号証)によれば、
「トヨタ自動車副社長佐々木紫郎氏-変容する自動車産業」と題する記事中に、
「カーエレクトロニクスは車内にとどまらず、道路環境や社会全体との結びつきを
深めていく。新しい車文化の創造にも一役買うだろう。」との記載が認められる。
     ウ 平成4年7月19日付け毎日新聞(乙第13号証)によれば、「参
院選・比例代表区38政党の公約/17 モーター新党」と題する記事中に、「自動
車大国・日本のふさわしい自動車文化の創造を目指します。交通安全教育を義務教育
に導入します。」との記載が認められる。
     エ 平成6年5月21日付け読売新聞(乙第14号証)によれば、
「[ちょっとそこまで]マツダのアンテナショップ「M2」“夢の一台”を」と題
する記事中に、「「ユーザーと触れ合うことにより新しい自動車文化を創造しよ
う」と、・・・」との記載が認められる。
     オ 平成12年11月16日付け日経産業新聞(乙第15号証)によれ
ば、「ベンチャー調査回答一覧-卸・小売業(3)」と題する記事中に、オート ト
レーディング ルフト ジャパンは「車文化への“創造と貢献”をテーマに、世界中
から車の輸入および輸出をし、国内では、生活者への販売とディーラーへの卸業を
実施。」との記載が認められる。
 以上のように、「車文化の創造」、「自動車文化の創造」の語は、自動車に関連
する業界で使用されている実情からすれば、普遍的な語であるといわざるを得な
い。
  (6) 指定役務との関係について
 上記(2)ないし(5)に述べたように、我が国において自動車が実用化されて
以来およそ100年の歴史があり、その間に自動車は、我が国の国民の日常生活に
密着し、今や欠くことができない存在となっていることは事実であり、将来におい
ても、自動車は、その弊害を減らし、さらに活用の道が開かれる人の道具として、
人、あるいは社会との関わり合いを深めていくことが予測され、このような車社会
といわれる今日の日本において、本願商標の指定役務を取り扱う自動車教習所は、
運転技量、交通ルール等のみならず、交通社会に参加するための倫理観、情操教育
なども重要視されていることは前記したとおりであり、人との関わり合いを含めた
自動車に関する文化を創造していくことが要請されているといえる。
 また、「車文化の創造」などの語が自動車に関連する業界等で普通に使用されて
いる実情を併せ考えると、「車文化の創造」の文字よりなる本願商標をその指定役
務について使用した場合、これに接する一般の需要者は、提供される役務の内容に
ついて、通常提供される運転技量、交通ルール等の教授に、交通社会に参加するた
めの倫理観等の指導が付加されたもの、すなわち、人と自動車との関わり合いを通
じて「車にかかわる文化を創造する」ともいうべき教授、指導が行われていると理
解するにとどまり、自他役務を識別すべき商標とは認識し得ないというべきであ
る。
  (7) 以上のとおり、本願商標は、その指定役務について使用しても役務の
質(内容)を表示するものであるから、本願商標が商標法3条1項3号に該当する
として、登録することができないとした審決の認定判断に何ら誤りはなく、原告の
主張は失当である。
  (8) 過去の登録例について
 本願商標と原告の挙げた登録例は、これらを構成する文字、またはその文字から
生ずる意味合いにおいて異なり、さらには使用する役務も異なるものも存在するも
のであり、出願された商標が商標法3条1項3号に該当するか否かは、当該商標の
査定時又は審決時において、その商標が使用される商品又は役務の取引の実情等を
考慮し、個別具体的に判断されるものであるから、原告の挙げた登録例は、本願商
標と事案を異にするものといわざるを得ない。そして、本願商標は、役務の質を表
示するものであって、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないことは上記
のとおりであり、原告の挙げた登録例の存在によってその認定が左右されるもので
はないし、また審決に原告主張の審理不尽の違法はない。
 2 手続違背(商標法56条1項で準用する特許法153条2項)について
  (1) 原告は、拒絶査定の理由が、「本願商標は、「自動車を所有する文
化」といった意味合いを想起する」旨認定したのに対し、審決は、「本願商標は、
「車に係る文化の創造」といった意味合いを想起する旨認定したものであるとし
て、当事者が申し立てない理由に基づいて審理した場合は、その結果を当事者に通
知し、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならないとこ
ろ、これをしなかった審決には重大な手続違背がある旨主張している。
 しかしながら、拒絶査定(甲第2号証)の「理由」中に「この商標登録出願は、
平成11年12月16日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認めま
す。」と記載されていることから明らかなように、本件に係る平成11年12月1
6日付の拒絶理由通知(乙第1号証)は、「この商標登録出願に係る商標
は、・・・・「車に係る文化の創造」といった意味合いを想起させるにすぎないか
ら・・・・商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定し、出願人(原告)に
対して、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えた。
 これに対して、原告は、平成12年2月16日付け意見書をもって意見を述べ、
同日付け手続補正書をもって指定役務を補正したものである(乙第2号証及び乙第
3号証)。
 してみると、平成12年5月29日付け拒絶査定においては、甲第2号証に記載
のとおり、「「自動車を所有する文化」といった意味合いを想起させるにすぎな
い」旨の記載があるとしても、審決の「本願商標は「車にかかる文化を創造する」
を意味し、指定役務の質(内容)を表示するに止まる。」旨の認定は、原告に拒絶
理由として既に通知しているものであり、これに対し原告は、反論の意見書を提出
し、手続補正書をもって指定役務を補正したものであるから、原告の防御権を損な
うことは全くないというべきである。
  (2) また、原告は、審決が本願商標につき「需要者が何人かの業務に係る
役務であることを認識することができない商標」と商標法第3条1項6号のような
判断をしているが、本願商標は同法3条1項3号に該当するとして拒絶されたので
あるから判断の逸脱であり、このような場合は、当事者にその旨を通知し相当の期
間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならないところ、これをしなか
った審決には重大な手続違背がある旨主張している。
 しかしながら、商標法3条は、商標登録を受けることができる商標についての要
件を規定し、同条1項各号は、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果
たし得ない商標を列挙している。そして「六号は、一号から五号までの総括条項で
ある。逆にいえば一号から五号までは、六号を導き出すための例示的列挙といえる
ものであり、「特別顕著」の一般的意味を明らかにしている」(特許庁編、工業所
有権逐条解説、乙第4号証)ところから、単に役務の提供場所や質等を普通に用い
られる方法で表示する標章のみからなる商標であって、同項3号に該当する場合に
おいても、当然のこととして、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であるこ
とを認識することができない商標であることに何ら変わりはないものである。
 したがって、審決が、本願商標について「需要者が何人かの業務に係る役務であ
ることを認識することができない商標」と認定したことは、同項6号のような判断
をしたものではなく、拒絶査定の適用条文に即して認定判断したものである。
 (3) 以上(1)(2)で述べたとおり、本件審決は、その手続において、商
標法56条で準用する特許法153条2項に違反してなされたものではなく、原告
の主張はいずれも失当である。
   理    由
1 本願商標の構成及び指定役務
 本願商標が「車文化の創造」の文字を書してなるものであり、該文字は、商標法
5条3項に規定の特許庁長官の指定する文字(標準文字)のみによるものであるこ
と、本願商標の指定役務は、平成12年10月20日付け手続補正書により商品及
び役務の区分第41類の「自動車運転・道路交通法の教授」とされていることは争
いがない。
2 商標法3条1項3号該当の認定判断の誤りの存否について
 (1) 本願商標の構成中の「車」の語は、指定役務の「自動車運転・道路交通
法の教授」との関係からみて、「自動車」を意味をするものであることは明らかで
ある。
 同じく「文化」の語について、一般的な国語辞典をみると、原、被告が指摘する
ように、「①文徳で民を教化すること。②世の中が開けて生活が便利になるこ
と。」(広辞苑第5版、乙第5号証の2)、「①世の中が進歩して文明になるこ
と。ひらけること。文明開化。②文徳で民を教え導くこと。③(culture)人間が学
習によって社会から習得した生活の仕方の総称。」(広辞苑第2版、甲第13号証
の1)、「(1)〔culture〕社会を構成する人々によって習得・共有・伝達される行
動様式ないし生活様式の総体。言語・習俗・道徳・宗教、種々の制度などはその具
体例。文化相対主義においては、それぞれの人間集団は個別の文化をもち、個別文
化はそれぞれ独自の価値をもっており、その間に高低・優劣の差はないとされる。
カルチャー。(2)学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出され
たもの。(3)世の中が開け進み、生活が快適で便利になること。文明開化。(4)他の
語の上に付いて、ハイカラ・便利・新式などの意を表す。」(大辞林第2版、甲第
13号証の2)、「①世の中が開け進むこと。②自然を人間の生活に役だつように
かえていく活動が作りだした成果。③学問・芸術など、人間の精神活動の所産。」
(現代実用辞典改訂増補版、甲第13号証の3)、「①世の中が開け進むこと。②
学問・道徳で、民を教え導くこと。③人間が本来の理想を実現していく活動の過
程。その物質的所産である文明に対して、特に精神的所産の称。芸術・科学・道
徳・宗教・法律など。」(国語辞典新版、甲第13号証の4)とそれぞれ記載され
ていることが認められる。
 また、「創造」の語は、「新たに造ること。新しいものを造りはじめること。」
(広辞苑第5版、乙第5号証の3)を意味することが認められる。
 (2) 以上の本願商標「車文化の創造」を構成するそれぞれの語が有する意義
を前提として、本願商標が指定役務「自動車運転・道路交通法の教授」に使用され
て、その需要者が本願商標に接した場合に、本願商標についてどのように理解し認
識するかについて検討する。
    ア 被告が指摘するとおり、我が国において、自動車は20世紀初頭に実
用化されて以来、その保有台数は増加の一途をたどっており(乙第6号証の1(株
式会社日刊自動車新聞社平成12年5月25日発行「自動車年鑑2000年版」)
によれば平成11年には特種用途車を除く4輪車合計で7000万台を突破してい
ることが認められる。)、これに伴って国民の活動範囲が広がり、生活様式も多様
化し、余暇生活の幅も広がるなど、自動車は日常生活に密着して生活様式を変容さ
せて、社会全般に大きな変革をもたらしていること、他方では、自動車保有台数の
著しい増加に伴い、交通事故による死傷者数の増大、排気ガス、騒音、RV車の無
軌道な走行等による環境問題など、大きな社会問題が生じていること、そして、近
年では、自動車の保有、利用によってもたらされる日常生活上の利便性、快適性を
享受する一方で、その弊害をできるだけ減らすことが重要であることが認識され
て、交通安全教育、交通マナー・道徳教育が社会的にも重視されるようになり(乙
第7ないし第10号証参照)、さらには、自動車を活用して地域社会との共存を図
り、地球環境をも考慮した施策が推し進められている状況にあり、例えば、介護タ
クシー、低床バス等の導入、福祉車両の開発等の交通のバリアフリー化を実現し、
高齢社会に対応した施策が進められ、環境問題に関しては、電気自動車、ハイブリ
ッドカーといわれる低公害車の開発、排ガス規制、アイドリングストップ運動など
環境を配慮した提案がなされていることは、いずれも広く国民の一般に認識され、
浸透しており、顕著な事実であると認められる。
    イ 上記のとおり、自動車が普及した現代の社会生活において、交通安全
教育、交通マナー・道徳教育が重視されており、また、自動車教習所、自動車学校
は、単に運転技術や交通法規の教授にとどまらず、交通安全教育を担う者として、
交通安全教育に関する種々の試みをしていることを示す具体例として、本件証拠
上、以下の記述が挙げられる。
     (ア) 乙第7号証によれば、内閣府の「交通安全対策」における第7
次交通安全基本計画として、「交通安全思想の普及徹底」との項目の中で、「交通
安全教育は、自他の生命尊重という理念の下に、交通社会の一員としての責任を自
覚し、交通安全意識と交通マナーの向上に努め、相手の立場を尊重し、他の人々や
地域の安全にも貢献できる良き社会人を育成する上で、重要な意義を有している。
交通安全意識と交通マナーを身につけるためには、人間の成長過程に合わせ、生涯
にわたる学習を促進していくことが必要である。」とし、「段階的かつ体系的な交
通安全教育の推進」を挙げ、「成人に対する交通安全教育」として、成人に対する
交通安全教育は、自動車等の安全運転の確保の観点から、免許取得時及び免許取得
後の運転者の教育を中心として行う」とされ、「運転免許取得時の教育は、自動車
教習所における教習が中心となることから、教習水準の一層の向上に努める」とさ
れている。
     (イ) 前掲「自動車年鑑2000年版」の「自動車教習所」の項(乙
第6号証の2)に、「教習所が初心運転者教育に取り組むに当たって、単に運転技
量のみを教えればよいのではなく、交通社会に参加するための倫理観、情操教育な
ども重要な課題になってきている。実際モラルを身につけるという観点で、97年
の道路交通法一部改正で違反点数三点以下の軽い交通違反を繰り返したドライバー
に対して、安全意識の向上につながる社会活動への参加といった情操教育につなが
る講習方法も取り入れられている。」、「98年8月に国家公安委員会がまとめた
「交通安全教育指針」では、幼児から高齢者までの年齢層別、かつ歩行者、自転車
乗車中、自動車乗車中といった状態別に、目的や目標、教育内容を示した体系的な
交通教育体制が必要だとされている。・・・こうした体系的な交通生涯教育の試み
として、指定教習所ではいくつかの試みにチャレンジしているところもある。」と
記載され、「自動車教育の現状」の項(乙第6号証の3)に、「「自動車教育」の
重要性」と題して、「自動車の持つ利便性を享受しつつ、そこから生じる様々な課
題を解決していくためには、自動車に関連した社会的・経済的な知識や、構造・機能
に関する理解が不可欠である。また、その知識や理解は、運転者のみならずクルマ
社会に生きるすべての人に求められている」と記載されている。
     (ウ) 乙第8号証(平成4年6月25日付け読売新聞)には、「警視
庁は交通死亡事故が世界各国でも多発していることを踏まえ、・・・中・長期対策と
しては自動車教習所の普通自動車教習カリキュラムの大幅改正も検討中だ。・・・
「免許量産」から「安全思想と安全運転重視」の教習に力点を置き換える。来年秋
ごろから実施に踏み切りたいという。・・・ドライバーも歩行者も、車の利便さの
裏側に潜む悲惨さに改めて思いをめぐらせ、第二次交通戦争に終止符を」と記載さ
れている。
     (エ) 乙第9号証(平成4年7月31日付け読売新聞)には、「山形
県にある自動車教習所が、興味深い実践を報告している。鉄道と同じように、声に
出して安全確認を行う教習だ・・・。声と行動という〈形〉を通じて、安全意識や
マナーを習慣づけようとする試みだ。」と記載されている。
     (オ) 乙第10号証(平成12年10月6日付け読売新聞)には、
「松山西署管内の唯一の教習所だが、・・・幼稚園児の交通安全指導教室を開い
た。指導員が「意識の高揚への動機付けになれば」と考え、子供たちの顔写真を載
せた「チビッコ免許証」を全国で初めて作った。・・・「人間教育そのものなんで
す」という言葉に、交通事故を少しでも減らそうという、堅い決意をにじませ
た。」と記載されている。
    ウ 自動車教習所、自動車学校の案内広告においても、「21世紀は心の
世紀」、「明るく楽しく互譲の心」、「人命を尊び、自然に優しいドライバー教育
に取り組んでいます」(甲第5号証の7)と記載したり、「特色」として、第1番
目として「「親切」と「思いやり」をモットーに」(甲第5号証の9)と記載した
り、「校訓」として、「生命の大切さを教えます」、「運転の責任を教えます」、
「運転の楽しさを教えます」、「地域の安全に貢献します」(甲第5号証の10)
と記載するなど、その役務である自動車運転・道路交通法の教授において、広く交
通安全教育や交通マナー・道徳教育を対象者に対して実施して、交通安全教育の担
い手としての役目を果たすことを明示して、募集、宣伝している例も見受けられ
る。
    エ また、「車文化の創造」ないし「自動車文化の創造」という語の使用
例をみても、我が国で発行の新聞記事に以下のとおりの記載があるように、これら
の語は、自動車関連の分野において、一般的な用語として使用されていることが認
められる。
     (ア) 乙第11号証(昭和60年10月31日付け日本経済新聞)に
は、「東京モーターショー、あすから一般公開」と題する記事中に、「今回のテー
マはより豊かな自動車文化の創造の意味を込めた「走る文化。くるま新世代」。」
と記載されている。
     (イ) 乙第12号証(平成元年5月9日付け日本経済新聞)には、
「トヨタ自動車副社長佐々木紫郎氏-変容する自動車産業」と題する記事中に、
「カーエレクトロニクスは車内にとどまらず、道路環境や社会全体との結びつきを
深めていく。新しい車文化の創造にも一役買うだろう。」と記載されている。
     (ウ) 乙第13号証(平成4年7月19日付け毎日新聞)には、「参
院選・比例代表区38政党の公約/17 モーター新党」と題する記事中に、「自動
車大国・日本のふさわしい自動車文化の創造を目指します。交通安全教育を義務教育
に導入します。」と記載されている。
     (エ) 乙第14号証(平成6年5月21日付け読売新聞)には、
「[ちょっとそこまで]マツダのアンテナショップ「M2」“夢の一台”を」と題
する記事中に、「ユーザーと触れ合うことにより新しい自動車文化を創造しよう」
と記載されている。
     (オ) 乙第15号証(平成12年11月16日付け日経産業新聞)に
は、「ベンチャー調査回答一覧-卸・小売業(3)」と題する記事中に、オート ト
レーディング ルフト ジャパンは「車文化への“創造と貢献”をテーマに、世界中
から車の輸入および輸出をし、国内では、生活者への販売とディーラーへの卸業を
実施。」と記載されている。
 (3) 上記(2)のアないしウの事実によれば、我が国では、自動車の保有台
数が著しく増えて、自動車は、我が国の国民の日常生活に密着し、その生活様式を
大きく変容させ、利便性や快適性を享受させるものとして不可欠な存在となってい
るが、他方では、交通事故、環境問題等という重大な弊害も生じていることから、
その弊害をできるだけ減らすことが重要であることが認識されて、交通安全教育、
交通マナー・道徳教育が社会的にも重視されるようになり、さらには、自動車を活
用して地域社会との共存を図ることが試みられており、自動車と人との関わり合い
において全体として調和がとれた社会が実現することが望まれている状況にあると
認められる。
 そして、本願商標の指定役務である「自動車運転・道路交通法の教授」を取り扱
う自動車教習所、自動車学校は、需要者である受講対象者に対して、運転技術を習
得させて自動車の保有、利用による利便性、快適性を享受させることのみならず、
広く交通安全教育、交通マナー・道徳教育を実施することも重視されているのであ
り、上記のとおりの調和のとれた社会を実現するに際して重要な役割を果たすこと
が要請されているということができる。
 このような状況に、「車文化の創造」の語が自動車に関連する分野で一般的な用
語として使用されていること(上記(2)のエの事実)、自動車教習所、自動車学
校の案内広告において、その役務である自動車運転・道路交通法の教授において、
広く交通安全教育や交通マナー・道徳教育を対象者に対して実施して、交通安全教
育の担い手としての役目を果たすことを明示して、募集、宣伝している例も見受け
られること(上記(2)のウの事実)を併せ考慮すると、「車文化の創造」を標準
文字で書してなる本願商標をその指定役務である「自動車運転・道路交通法の教
授」について使用した場合、これに接する一般の需要者は、「車文化の創造」の語
は、上記のとおり自動車と人との関わり合いにおいて全体として調和のとれた社会
を実現することを意味するものであり、提供される役務の内容について、運転技術
や交通法規の教授だけでなく、その社会の実現のために必要とされる交通安全教
育、交通マナー・道徳教育が十分にされることを表明しているものと理解するにと
どまり、自他役務を識別すべき商標として認識することは困難であるといわざるを
得ない。
 (4) 以上によれば、本願商標は、その指定役務について使用した場合に、役
務の質(内容)について、普通に用いられる方法で表示した標章であるということ
ができるから、本願商標が商標法3条1項3号に該当し登録することができないと
した審決の認定判断に誤りはなく、これに反する原告の取消事由の主張は理由がな
い。
 なお、原告は、本願商標以外の過去の登録例に関する主張をしているが、これら
の登録商標は、いずれも構成文字及び指定役務において本願商標と異なるものであ
って、上記の認定判断を左右するに足りるものではなく、したがって、審決には原
告主張の審理不尽の違法はないものと認められる。
3 手続違背(商標法56条1項で準用する特許法153条2項)の存否について
 (1) 原告は、拒絶査定の理由が、「本願商標は、「自動車を所有する文化」
といった意味合いを想起する」旨認定したのに対し、審決は、「本願商標は、「車
に係る文化の創造」といった意味合いを想起する旨認定したものであるとして、当
事者が申し立てない理由に基づいて審理した場合は、その結果を当事者に通知し、
相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければないところ、これをし
なかった審決には重大な手続違背がある旨主張している。
 しかしながら、甲第2号証によれば、拒絶査定は、その「理由」として、「この
商標登録出願は、平成11年12月16日付けで通知した理由によって、拒絶をす
べきものと認めます。」と記載していることが認められ、乙第1号証によれば、上
記の引用にかかる平成11年12月16日付けの拒絶理由通知は、「この商標登録
出願に係る商標は、・・・・「車に係る文化の創造」といった意味合いを想起させ
るにすぎないから・・・・商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定し、出
願人(原告)に対して、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えたこ
と、そして、乙第2、第3号証によれば、この拒絶理由通知に対して、原告は、平
成12年2月16日付け意見書をもって意見を述べ、同日付け手続補正書をもって
指定役務を補正したことが認められる。
 (2) この点に関して、原告は、拒絶査定は、平成11年12月16日付で通
知した理由によって拒絶すべきものと認めます旨述べているが、本願商標の「車文
化の創造」の意味合いについて平成11年12月16日付けの拒絶理由通知に記載
された「車に係る文化の創造」とは異なって、「自動車を所有する文化」と記載さ
れているので、拒絶理由通知で述べた事項は、この拒絶査定によって撤回されたと
みるべきである旨主張している。
 しかしながら、甲第2号証によれば、拒絶査定の理由は、上記(1)のとおりの
ものであり、原告がこれと異なると指摘する拒絶査定中の「自動車を所有する文
化」との記載部分は、上記拒絶査定の理由を冒頭に記載した上で、次に「なお」と
書き起こして、原告が上記(1)の意見書において本願商標の「車文化」なる語句
は造語の一種であり、特別顕著性がある旨主張したことに対して、新聞に一般的な
用語として使用されているとの証拠を挙げて、「車文化」の文字は造語といえるも
のではなく、「自動車を所有する文化」といった意味合いを想起させるにすぎない
から、先の拒絶査定の認定を覆すことができない旨説示したものであると認められ
るから、この原告指摘の記載があることをもって、拒絶査定の理由を撤回ないし変
更したものとみることはできず、原告の上記主張は採用することができない。
 (3) 以上のとおり、平成12年5月29日付けの拒絶査定は、その「理由」
として、平成11年12月16日付の拒絶理由通知の内容を引用しているところ、
この拒絶理由通知に対して、原告は、反論の意見書を提出し、手続補正書をもって
指定役務を補正したものであるから、原告の防御権は何ら損なわれておらず、本件
の審判手続の過程において違法性があるとは認めることができず、原告の手続違背
の主張は、理由がない。
 (4) なお、原告は、審決は本願商標につき「需要者が何人かの業務に係る役
務であることを認識することができない商標」と商標法第3条1項6号のような判
断をしているが、本願商標は同項3号に該当するとして拒絶されたのであるから審
決には判断の逸脱がある旨主張している。
 しかしながら、被告が指摘するとおり、商標法3条は、商標登録の要件を規定
し、同条1項各号は、その除外要件として、自他商品又は自他役務の識別標識とし
ての機能を果たし得ない商標を列挙しているのであるから、同項3号に該当する場
合においても、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するこ
とできない商標であることに変わりはなく、審決が本願商標について「需要者が何
人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標」であると認定し
たことは、この趣旨で記載したものであり、審決は本願商標について同項3号に該
当するものと判断して拒絶査定を維持したしたものであり、同項6号に該当すると
判断したものでないことは、審決書(甲第1号証)の理由の記載内容に照らして明
らかであるというべきであるから、原告の上記の取消事由も理由がない。
4 結論
 このように原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこれ
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
      裁判官   古   城   春   実
     裁判官  橋   本   英   史

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