平成13(行ケ)165行政訴訟 商標権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成13年9月19日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法4条1項15号2回 商標法26条1項1号1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
審決51回 商標権5回 無効3回 無効審判1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成13年(行ケ)第165号 審決取消請求事件(平成13年7月18日口頭弁
論終結)
判 決
原 告 A
訴訟代理人弁理士 木 村 三 朗
同 佐々木 宗 治
同 大 村 昇
同 小 林 久 夫
被 告 株式会社ジャンニ・ヴェルサーチ・ジャパ
ン
訴訟代理人弁護士 窪 田 英一郎
同 柿 内 瑞 絵
同 弁理士 山 下 穣 平
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第35183号事件について平成13年1月29日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文第1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、別添審決謄本写し末尾の本件商標欄記載のとお
り「alfredo」、「versace」の各欧文字を上下二段に横書きしてなり、平成3年政
令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分(以下「旧商品区分」とい
う。)による第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とする登録第25
29978号商標(平成3年3月12日登録出願、平成4年11月6日登録査定、
平成5年4月28日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成10年4月27日、本件商標登録の無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第35183号事件として審理した上、
平成13年1月29日に「登録第2529978号の登録を無効とする。」との審
決をし、その謄本は同年2月14日原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、「GIANNI VERSACE」、「Gianni
Versace」(ジャンニ・ヴェルサーチ)、「VERSACE」又は「Versace」(ヴェルサー
チ)の文字からなる標章(以下、一括して「VERSACE商標」という。)は、イタリア
の服飾デザイナーBの氏名又はその著名な略称として、また、同人のデザイナーズ
ブランドを表彰し、同人の創立に係る「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ」
ほか国内の関連会社等その事業全体を表彰するいわば代表的出所標識として、我が
国の取引者、需要者において広く認識されていたところ、本件商標をその指定商品
について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、VERSACE商標の著名性及び
商品分野の共通性よりして、構成中の「versace」の文字部分に注意を惹かれて容易
にVERSACE商標を想起し、VERSACE商標の事業主体に係る商品であるかのように混同
を生ずるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録さ
れたものであり、同法46条1項1号により無効とすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由
審決は、審判請求人をイタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエ
イ」と誤って認定する(取消事由1)とともに、「VERSACE」との略称の著名性の認
定を誤り(取消事由2)、また、本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の
出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法と
して取り消されるべきである。
1 取消事由1(審判請求人の誤認)
審決は、「請求人『ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ』(以下、「請
求人会社」という。)は、イタリア国 ミラノ在住の法人と認められる」(審決謄
本9頁16行目~17行目)と認定するが、審判請求人は被告である「株式会社ジ
ャンニ・ヴェルサーチ・ジャパン」であって、イタリア法人「ジャンニ ヴェルサ
ーチ エスピーエイ」ではないから、審判請求人を誤り、これに基づいて本件商標
の著名性の基礎となる事実を認定した違法がある。
すなわち、審決が商品の出所混同を生じさせる「他人の業務」に係るものと
して引用する登録商標(第2708755号、第1471328号、第27184
77号)は、すべてイタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ」の有
する商標であって、その使用に伴って蓄積されるグッドウィルもすべて同社に帰属
する。これに対し、被告は当該商標の付された商品の販売者にすぎず、VERSACE商標
が表彰する事業主体とはいえない。したがって、上記の審判請求人の認定の誤りに
は審決の結論に影響を及ぼす違法があるというべきである。
2 取消事由2(「VERSACE」との略称の著名性の認定の誤り)
審決は、「GIANNI VERSACE」、「Gianni Versace」、「VERSACE」又
は「Versace」の文字からなる標章を一括して「VERSACE」商標として論を進めてい
るが、「ヴェルサーチ」(「VERSACE」、「Versace」)が「ジャンニ・ヴェルサー
チ」(「GIANNI VERSACE」、「Gianni Versace」)の略称として取引者、需要者一
般に広く知られていたとはいえない。
すなわち、審決がVERSACE商標の著名性の認定の根拠とした証拠(審判甲第1
号証・本訴甲第6号証~審判甲第49号証・本訴甲第27号証)において、一部に
「ヴェルサーチ」との略称が使用されている部分もあるが、いずれも「ジャンニ・
ヴェルサーチ」についての記述であることが文脈上自明のこととして「ヴェルサー
チ」との略称を用いたにすぎないものであって、「ヴェルサーチ」
(「VERSACE」、「Versace」)が「ジャンニ・ヴェルサーチ」(「GIANNI
VERSACE」、「Gianni Versace」)の略称として我が国の取引者、需要者一般に広く
知られていたことを示すものではない。
なお、平成6年3月同文書院発行の「新・田中千代服飾事典」(甲第28号
証の1~3)、平成12年1月文化出版局発行の「ファッション辞典」(甲第29
号証の1~3)及び同年4月矢野経済研究所発行の「2000年版インポートマー
ケット&ブランド年鑑」(甲第30号証の1~4)には、「ジャンニ・ヴェルサー
チ」、「Gianni Versace」のフルネームでの記載があるものの、平成13年1月2
0日株式会社チャネラー発行の「ファッション・ブランド年鑑2001」(甲第3
1号証の1~6)には「ジャンニ・ヴェルサーチ」、「Gianni Versace」の記載さ
えなく、これは、Bが1997年(平成9年)に不慮の死を遂げて以来、市場で急
速に忘れられつつあることを示すものである。
3 取消事由3(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)
審決は、本件商標の「(構成)文字全体からは直ちに特定・固有の意味合い
等を感得し得る事情はなく、また、その外観構成よりして容易に上段の『alfredo』
と下段の『versace』とに分離して看取し得るものといえる」(審決謄本13頁6行
目~9行目)と判断するが、本件商標はデザイナーである原告の氏名そのもので構
成された商標であり、文字のデザイン、大きさからしても全体として一つにまとま
っており、上下の部分に分離観察しなければならない理由はない。しかも、デザイ
ナーブランドにおいては、デザイナーのフルネームで認識されるのが通例である
上、「ヴェルサーチ」(「VERSACE」、「Versace」)が「ジャンニ・ヴェルサー
チ」(「GIANNI VERSACE」、「Gianni Versace」)の略称として我が国の取引者、
需要者一般に広く知られているといえないことは上記のとおりであるから、本件商
標は、デザイナーである原告の氏名そのものである「A」として認識されるという
べきであり、VERSACE商標との間に商品の出所混同を生じさせるおそれはない。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(審判請求人の誤認)について
審決が審判請求人をイタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエ
イ」と誤って記述している部分があることは認めるが、審決全体を見れば、請求人
を被告であると正しく認識していることは明らかであるから、単なる誤記であっ
て、審決の結論に影響を及ぼすような誤りとはいえない。
また、審決は、「『GIANNI VERSACE』、『Gianni Versace』(ジャンニ・ヴ
ェルサーチ)、『VERSACE』又は『Versace』(ヴェルサーチ)の文字からなる標章
(以下、これら標章を一括して『VERSACE商標』という。)は、イタリアの服飾デザ
イナーとして世界的に知られるB氏の氏名又はその著名な略称として、また、同氏
に係るいわゆるデザイナーズブランドを表彰し或いは同氏の創立に係り現在その親
族により受け継がれる請求人会社ほか国内の関連会社等その事業全体を表彰するい
わば代表的出所標識として、1980年(昭和55年)頃よりすでにわが国の取引
者、需要者一般において広く認識せられていたものと認められる。そして、同氏又
は請求人会社に係る衣料品を中心とするいわゆるファッション関連各商品は、国内
輸入会社(三井物産株式会社)、国内販売会社(株式会社ジャンニ・ベルサーチ
ジャパン)又は国内各地の直営店、販売店を通じて、当時より現在に至るまでの
間、営々として消費者の需要に供されてきた状況が認められる」(審決謄本12頁
19行目~34行目)と認定しているように、VERSACE商標が表彰する事業の主体が
被告にもあることを認定し、本件商標が被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそ
れがあるとしているのであるから、上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすもので
はない。
2 取消事由2(「VERSACE」との略称の著名性の認定の誤り)について
原告は、「ヴェルサーチ」が「ジャンニ・ヴェルサーチ」の略称として取引
者、需要者に広く知られているとはいえない旨主張するが、「ヴェルサーチ」が
「ジャンニ・ヴェルサーチ」の略称又はそれ自体が独立した商品の出所表示として
広く国内において知られていることは本件の関係証拠から明らかである。この点の
審決の認定に何ら誤りはない。
3 取消事由3(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について
原告の主張は、「VERSACE」との略称が取引者、需要者に広く知られていない
ことを前提とするものであるが、これが失当であることは上記のとおりである。む
しろ、取引者、需要者は被告のブランドが「ヴェルサーチ」であることは容易に認
識するが、その創業者が「ジャンニ・ヴェルサーチ」であることまで正確に認識し
ているとは限らない。このような取引者、需要者が本件商標に接した場合、本件商
標中の「versace」の文字部分に着目し、商品の出所混同を来すことは明らかであ
る。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審判請求人の誤認)について
(1) 本件の審判請求人が被告(株式会社ジャンニ・ヴェルサーチ・ジャパン)
であることは当事者間に争いがない(前記第2の1参照)から、審決が「請求人
『ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ』(以下、「請求人会社」という。)
は、イタリア国 ミラノ在住の法人と認められる」(審決謄本9頁16行目~17
行目)とした認定は誤りというほかなく、これが誤りであること自体は被告も争う
ものではない。
そこで、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものかどうかについて、以
下検討する。
(2) まず、審決は、冒頭の当事者の表示において、「請求人」をその本店所在
地(「大阪府大阪市中央区<以下略>」)及び商号(「株式会社ジャンニ・ヴェル
サーチ・ジャパン」)をもって被告であると正しく表示しているほか、理由中の
「請求人の主張」欄には、「請求人会社(注、前記読替えに係る「請求人会社」で
はなく、「請求人」である被告を指すことは文脈上明らかである。)は、昭和56
年7月に設立され、イタリア国ミラノ在のイタリア国法人『ジャンニ ヴェルサー
チ エスピーエイ』を出資者の一人とする株式会社である。請求人は前記イタリア
国法人の取り扱う『GIANNI VERSACE』、『VERSACE』等の商標を付した被服、身飾品
等を独占的に輸入販売しているものであり、したがって、本件審判を請求するにつ
き法律上の利益を有する」(審決謄本2頁7行目~12行目)、「前記イタリア国
法人『ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ』及び請求人『株式会社ジャンニ・
ヴェルサーチ・ジャパン』は、『GIANNI VERSACE』、『VERSACE』、『ジャンニ ヴ
ェルサーチ』及び『ベルサーチ』の商標を被服をはじめとして、装身具、ベルト、
時計、香水等に永年使用し、これら商標は著名デザイナーブランドとして本件商標
の登録出願前に周知著名となっている」(同3頁14行目~20行目)との記載も
ある。
そうすると、審決の理由中の「当審の判断」に上記(1)で認定した誤りがあ
るにしても、審決を全体として見た場合、その名宛人としての審判請求人が被告で
あることは明らかに看取し得るというべきであって、審決には、本来の審判請求人
と異なる者(イタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ」)を名宛人
とした違法があるとはいえない。
(3) 次に、上記の審判請求人の誤認が審決の結論に影響を及ぼすものかどうか
について判断する。
審決は、「請求人会社は、わが国において早い時期から『GIANNI
VERSACE』、『Gianni Versace』若しくは『VERSACE』商標ないしはこれを主要部と
する商標について、旧類別(注、旧商品区分)第17類『被服、布製見回品、寝具
類』を指定商品とする商標登録を取得し(商標登録第2708755号、同第14
71328号、同第2718477号)、その販路確保を図っていた状況が認めら
れる」(審決謄本12頁11行目~16行目)と認定するところ、証拠(甲第3~
第5号証の各1、2)によれば、上記各登録商標はイタリア法人「ジャンニ ヴェ
ルサーチ エスピーエイ」を商標権者とするものであることが明らかであるから、
審決の上記認定中の「請求人会社」とは、本来の審判請求人である被告ではなく、
イタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ」を指していると解され
る。そうすると、審決は、本件商標について商品の出所混同のおそれを生じさせる
「他人の業務」に係る商標であるVERSACE商標が、審判請求人を商標権者とするもの
であるか否かについて、前提事実の認定を誤ったこととなる。
しかしながら、審決は、上記認定に続いて、VERSACE商標は「イタリアの服
飾デザイナーとして世界的に知られるB氏の氏名又はその著名な略称として、ま
た、同氏に係るいわゆるデザイナーズブランドを表彰し或いは同氏の創立に係り現
在その親族により受け継がれる請求人会社ほか国内の関連会社等その事業全体を表
彰するいわば代表的出所標識として、1980年(昭和55年)頃よりすでにわが
国の取引者、需要者一般において広く認識せられていたものと認められる。そし
て、同氏又は請求人会社に係る衣料品を中心とするいわゆるファッション関連各商
品は、国内輸入会社(三井物産株式会社)、国内販売会社(株式会社ジャンニ・ベ
ルサーチ ジャパン)又は国内各地の直営店、販売店を通じて、当時より現在に至
るまでの間、営々として消費者の需要に供されてきた状況が認められる」(同12
頁22行目~34行目)と認定した上、「本件商標をその指定商品について使用し
た場合、これに接する取引者・需要者は、前記認定のVERSACE商標の著名性及び商品
分野の共通性よりして、構成中の『versace』の文字部分に注意を惹かれ強く印象づ
けられるとともに、容易にVERSACE商標を想起し又はその事業主体に係る商品等と関
連づけて認識し把握するとみるのが相当である。してみれば、本件商標は、他人の
業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない」(同13頁
13行目~20行目)と判断するところである。すなわち、審決は、イタリア法人
「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエイ」だけでなく、国内販売会社である被告
等の関連会社を含めてVERSACE商標の「事業主体」と認定し、当該事業主体による
「他人の業務」に係る商品との出所混同のおそれを認めたものにほかならない。
そうすると、審決が、VERSACE商標の商標権が審判請求人に帰属するかどう
かの認定をする上で犯した上記誤りは、商品の出所混同のおそれの有無の判断に何
ら影響を及ぼすものとはいえない。
さらに、証拠(甲第9号証の1~6、甲第10号証、第17号証の3、甲
第22号証の5、甲第23号証の3、甲第25号証の3、甲第27号証、第30号
証の3)によれば、被告はVERSACE商標の付された被服等の商品の国内販売会社であ
ることが認められるから、被告の審判請求人適格を肯定した審決の判断(同2頁9
行目~12行目)にも問題はないというべきである。
(4) したがって、審判請求人を誤認した誤りは、審決の結論に影響を及ぼすも
のではないから、取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(「VERSACE」との略称の著名性の認定の誤り)について
(1) 原告は、「ヴェルサーチ」(「VERSACE」、「Versace」)が「ジャンニ・
ヴェルサーチ」(「GIANNI VERSACE」、「Gianni Versace」)の略称として取引
者、需要者に広く知られていたとはいえない旨主張する。
(2) しかしながら、「ジャンニ・ヴェルサーチ」のフルネームだけでなく、
「ヴェルサーチ」との略称が、イタリアの服飾デザイナーであるB若しくは同人に
係るデザイナーブランド又はイタリア法人「ジャンニ ヴェルサーチ エスピーエ
イ」ないしその関連会社による事業全体を示すものとして多用されていることは、
平成2年株式会社研究社発行の「英和商品名辞典」(甲第8号証の2)452頁
が、「Versace ヴェルサーチ」との独立した項目を設け、「→Gianni Versace」
(注、「Gianni Versace」の項目を参照との意味)と記載していること、業界紙や
一般需要者向けの雑誌等においても、「ヴェルサーチの15年にわたるデザイナー
活動」(平成3年9月9日付け繊研新聞記事、甲第9号証の1)、「伊のヴェルサ
ーチ社」、「ヴェルサーチを専門的に展開する新会社」(平成2年9月10日付け
繊研新聞記事、甲第9号証の2)、「伊ヴェルサーチ・グループ」(平成3年1月
8日付け繊研新聞記事、甲第10号証)、「ヴェルサーチブランド」、「ヴェルサ
ーチファン」(平成3年2月12日付け繊研新聞記事、甲第11号証)、「92年
秋冬ミラノ・メンズコレクション・・・で、ヴェルサーチがショーを取りやめ商品
展示にとどめた」(平成4年1月14日付け繊研新聞記事、甲第13号証)、「主
力ブランド別の売上・・・はヴェルサーチが40%増と最も伸び」(平成4年1月
24日付け繊研新聞記事、甲第14号証)、「デザインや雰囲気はヴェルサーチの
ものだが、生地、生産方法などを変えることによって価格を抑えた」(平成4年1
月27日付け繊研新聞記事、甲第15号証)、「強気のヴェルサーチも下方修
正」、「『高すぎないヴェルサーチ』づくりに加え『派手すぎないヴェルサーチ』
イメージを広げることにも力を入れていく」(平成4年7月2日付け繊研新聞記
事、甲第16号証)、「ヴェルサーチブティック」(株式会社講談社発行の「世界
の一流品大図鑑」’83年版、甲第17号証の3ほか)、「色調は黒と白をメイン
に明るい色を対比的にあしらうヴェルサーチ独特のカラーバランス」(株式会社講
談社発行の「世界の一流品大図鑑」’85年版、甲第18号証の2)、「ヴェルサ
ーチ35歳、イタリアの名高いデザイナーのなかでも・・・常に注目を集めていま
す」、「今シーズンは“モダン・スポーツ”をテーマに繰り広げるヴェルサーチ」
(株式会社世界文化社発行の「世界の特選品」’84LADIES’、甲第22号証の
2、4)、「30歳にして、イタリア・モード界を背負うリーダーの一人となった
ヴェルサーチ」(株式会社講談社発行の「男の一流品大図鑑」’81年版、甲第2
4号証の2)、「英のロック歌手Cが・・・結婚することになり、その衣装をヴェ
ルサーチが製作した」(平成4年8月13日付け日本繊維新聞記事、乙第1号証)
等の記載が見られることから認めることができ、その詳細は、審決の認定(審決謄
本9頁19行目~12頁10行目)するとおりである。また、VERSACE商標の一つで
ある商標登録第2708755号(平成2年3月9日登録出願、平成7年7月31
日設定登録、甲第3号証の1、2)は、「V2」と「by Versace」を上下二段に書
してなるものであるところ、この商標の構成は、「Versace」の派生ブランドである
「V2」との意味に解されるものであるから、イタリア法人「ジャンニ ヴェルサ
ーチ エスピーエイ」自身も「Versace」の略称を用いていたということができる。
(3) 上記認定の事実を総合すれば、本件商標の登録出願日(平成3年3月12
日)の前後を通じて、「ヴェルサーチ」との略称が我が国の取引者、需要者一般に
広く知られていたことが認められるというべきである。なお、上記の業界誌や雑誌
の記事中で「ヴェルサーチ」との名称が「ジャンニ・ヴェルサーチ」との名称と併
用されているものも含まれていること、また、原告主張のように、ファッション関
係の辞典類には、「ジャンニ・ヴェルサーチ」、「Gianni Versace」のフルネーム
で記載され、「ヴェルサーチ」の略称が用いられていないもの(平成6年同文書院
発行の「新・田中千代服飾事典」〔甲第28号証の1~3〕、平成12年1月文化
出版局発行の「ファッション辞典」〔甲第29号証の1~3〕、平成12年4月矢
野経済研究所発行の「2000年版インポートマーケット&ブランド年鑑」〔甲第
30号証の1~4〕)もあること等の事情を勘案しても、上記の認定を妨げるもの
ではない。
また、原告は、平成13年1月20日株式会社チャネラー発行の「ファッ
ション・ブランド年鑑2001」(甲第31号証の1~6)に「ジャンニ・ヴェル
サーチ」、「Gianni Versace」の記載がないことを根拠として、Bが1997年
(平成9年)に不慮の死を遂げて以来、VERSACE商標は市場で急速に忘れられつつあ
る旨主張するが、上記書証のみで原告の上記主張のように認めるには足りない。か
えって、「ジャンニ・ヴェルサーチ」ブランドの平成2年1月期の売上高は77億
円で、業界紙の「インポートブランドランキング」において、ルイ・ヴィトン、シ
ャネル、バリーに続く4位にランクされていたこと(平成3年8月4日付け繊研新
聞記事、甲第27号証)、その後も、平成7年~平成11年にかけて、概ね100
億円前後の年商で推移していること(上記「2000年版インポートマーケット&
ブランド年鑑」〔甲第30号証の3〕)が認められるところであり、原告主張のよ
うに「ヴェルサーチ」の知名度が急速に衰えたとは到底いうことができない。
(4) したがって、「ヴェルサーチ」(「VERSACE」、「Versace」)が「ジャン
ニ・ヴェルサーチ」(「GIANNI VERSACE」、「Gianni Versace」)の略称として、
本件商標登録出願当時から現在に至るまで、我が国の取引者、需要者一般に広く知
られていたとの審決の認定に誤りはないというべきである。
3 取消事由3(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について
原告は、本件商標がデザイナーである原告の氏名からなるものであること及
び「ヴェルサーチ」(「VERSACE」、「Versace」)の略称が我が国の取引者、需要
者一般に広く知られているとはいえないことを根拠として、審決は本件商標に係る
商品の出所混同のおそれの判断を誤った旨主張するが、後者の根拠が理由を欠くこ
とは上記2のとおりである。
そこで、前者の点について見るに、本件商標が原告主張のように原告の氏名
そのものからなるものであるとしても、審決も認定判断(審決謄本13頁24行目
~35行目)するとおり、「A」はデザイナーである原告の氏名そのものであるこ
とが我が国の取引者、需要者一般に知られていることを認めるに足りる証拠はない
から、本件商標に接した取引者、需要者が、これを原告の氏名ないしそのデザイナ
ーブランドとして認識するとは考えられず、「versace」の文字部分から前記のよう
に著名なベルサーチ商標を想起し、その事業主体に係る商品と出所の混同を生ずる
おそれがあるというべきである。そうすると、本件商標には、登録出願時(平成3
年3月12日)及び登録査定時(平成4年11月6日)を通じ、商標法4条1項1
5号所定の登録障害事由が存在するものといわざるを得ず、このことは、本件商標
が同書同大の文字からなるとしても変わりはない。また、イタリア国の主要都市に
おける電話番号案内の検索リスト(甲第32号証の1~12)からうかがわれるよ
うに、「VERSACE」が同国では普通にありふれた姓にすぎないとしても、我が国にお
ける取引者、需要者一般の認識を示すものではないから、上記判断を何ら左右する
ものではない。
なお、原告が、商標法26条1項1号により自己の氏名権の行使として本件
商標の使用を継続し得るとしても、同法4条1項15号、46条1項の適用によ
り、本件商標を専有する排他的、独占的な商標権を対世的、遡及的に失効させるこ
とを妨げるものではない。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理申立のための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民
事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利
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