ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成25(行ケ)10015 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成25年10月30日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告特許庁長官 原告コネコーポレイション |
| 対象物 | コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ |
| 法令 |
特許権 特許法29条2項2回 特許法36条4項2号1回 |
| キーワード | 審決57回 進歩性13回 実施7回 優先権1回 拒絶査定不服審判1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベー タ」とする発明につき,平成15年(2003年)5月28日を国際特許出願 日(パリ条約による優先権主張:2002年6月7日,フィンランド共和国) として,特許出願(特願2004-511211号。以下「本願」という。) をした。 |
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平成25年10月30日判決言渡
平成25年(行ケ)第10015号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年9月30日
判 決
原 告 コネ コーポレイション
訴訟代理人弁理士 香 取 孝 雄
同 北 島 弘 崇
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 金 澤 俊 郎
同 伊 藤 元 人
同 中 川 隆 司
同 氏 原 康 宏
同 大 橋 信 彦
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2011-15249号事件について平成24年9月3日にした審決を取り消す。
第2 前提事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「コーティングされた巻上ロープを設けたエレベータ」とする発明につき,平成15年(2003年)5月28日を国際特許出願日(パリ条約による優先権主張:2002年6月7日,フィンランド共和国)として,特許出願(特願2004-511211号。以下「本願」という。)をした。原告は,平成21年1月9日付けで拒絶理由通知を受けたので,平成22年7月8日付けでその特許請求の範囲を補正し,その後,平成23年3月9日付けで拒絶査定を受けたので,同年7月14日,拒絶査定不服審判(不服2011-15249号)を請求するとともに,本願の明細書及び特許請求の範囲を補正した(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)。特許庁は,審理の上,平成24年9月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月18日,その謄本を原告に送達した。2 特許請求の範囲の記載
(1) 本願の平成22年7月8日付けの補正後の特許請求の範囲(請求項の数は6)の請求項1の記載は,次のとおりである(甲18。以下,請求項1の発明を「本願発明」という。なお,別紙Aは,本願の図面の図1と図3であり,図1はコーティングされたスチールロープを用いている本願発明による代表的なエレベータ方式の斜視上面図であり,図3は本願発明によるエレベータに用いるコーティングされたスチールロープの断面図である。)。「【請求項1】コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって,巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し,該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み,該巻上ロープは,円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し,前記エレベータでは,前記一連の巻上ロープは,それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて,各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm2 より大きく,約0.2mm2より小さく,前記スチールワイヤの強度は約2000N/mm2より大きく,スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が4~6mmであるとともに,該コアより柔軟で厚さが0.4~0.6mmの被覆でコーティングされ,これによって前記巻上ロープの表面が形成されていることを特徴とするエレベータ。」
(2) 本件補正(平成23年7月14日付けの補正)後の特許請求の範囲(請求項の数は5)の請求項1の記載は,次のとおりである(甲21。以下,請求項1の発明を「本願補正発明」という。下線部は補正箇所を示す。)。「【請求項1】コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって,巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し,該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み,該巻上ロープは,円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し,前記エレベータでは,前記一連の巻上ロープは,それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて,各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm2 より大きく,約0.2mm2より小さく,前記スチールワイヤの強度は約2000N/mm2より大きく,スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が4~6mmであるとともに,該コアより柔軟で厚さが0.4~0.6mmの被覆でコーティングされ,これによって前記巻上ロープの表面が形成され,前記巻上ロープの被覆は,実質的に硬質のゴム,ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて,該材料の硬度は88~95ショアAであることを特徴とするエレベータ。」審決の理由
(1) 審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は,次のとおりである。本願補正発明は,国際公開第01/68973号(甲1。以下「引用文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定による,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は却下されるべきものである。本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2) 審決が認定した引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである(なお,別紙Bは,引用文献のFIG.1とFIG.8であり,FIG.1は,引用発明のロープの第1実施例の断面概略図であり,FIG.8は,引用発明のエレベータの第1の実施例の斜視図である。)。ア 引用発明の内容「ロープ被覆5を施されたロープ53を設けた機械室を有しなくてもよいエレベータであって,駆動機59はシーブ56を介して一連のロープ53に係合し,該一連のロープ53は実質的に円形の断面を有するロープ被覆5を施された複数のロープ53を含み,該ロープ53は,円形の断面を有する実質的に強靭な鋼製素線2で撚り合わせた負荷支持部を有し,前記エレベータでは,前記一連のロープ53は,それぞれの経路を移動するつり合い重り57および乗りかご51を支持しているエレベータにおいて,各ロープ53の鋼製素線2の断面積は0.049mm2 ないし0.196mm2 であり,前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり,鋼製素線2で構成された各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmであるとともに,該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され,これによって前記ロープ53の表面が形成され,前記ロープ53のロープ被覆5は,実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている,エレベータ。」イ 一致点「コーティングされた巻上ロープを設けた望ましくは機械室を有しないエレベータであって,巻上機は駆動綱車を介して一連の巻上ロープに係合し,該一連のロープは実質的に円形の断面を有するコーティングされた複数の巻上ロープを含み,該巻上ロープは,円形および/または非円形の断面を有する実質的に強靭なスチールワイヤで撚り合わせた負荷支持部を有し,前記エレベータでは,前記一連の巻上ロープは,それぞれの経路を移動するカウンタウェイトおよびエレベータカーを支持しているエレベータにおいて,各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は所定の数値範囲内であり,前記スチールワイヤの強度は所定値より大きく,スチールワイヤで構成された各巻上ロープのコアは直径が所定の数値範囲内であるとともに,該コアより柔軟で所定の厚さの被覆でコーティングされ,これによって前記巻上ロープの表面が形成され,前記巻上ロープの被覆は,実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている,エレベータ。」ウ 相違点(ア) 相違点1スチールワイヤの断面積について,本願補正発明においては,「各巻上ロープのスチールワイヤの断面積は約0.015mm2 より大きく,約0.2mm2 より小さく」となっているのに対し,引用発明においては,「各ロープ53の鋼製素線2の断面積は0.049mm 2 ないし0.196mm2であり」となっている点。(イ) 相違点2スチールワイヤの強度について,本願補正発明においては,「スチールワイヤの強度は2000N/mm2 より大きく」となっているのに対して,引用発明においては,「前記鋼製素線2の破断強度は1770MPa以上であり」となっている点。(ウ) 相違点3コアの直径について,本願補正発明においては,「各巻上ロープのコアは直径が4~6mmである」のに対して,引用発明においては,「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」点。(エ) 相違点4被覆の厚さについて,本願補正発明においては,「該コアより柔軟で厚さが0.4~0.6mmの被覆でコーティングされ」ているのに対して,引用発明においては,「該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され」ている点。(オ) 相違点5巻上ロープの被覆の硬度について,本願補正発明においては,「前記巻上ロープの被覆は,実質的に硬質のゴム,ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて,該材料の硬度は88~95ショアAである」のに対して,引用発明においては,「前記ロープ53のロープ被覆5は,実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている」点。
第3 原告主張の取消事由
審決は,引用発明の認定及び相違点1ないし5の判断を誤った結果,本願補正発明の進歩性の判断を誤り(取消事由1),また,同様の理由により本願発明の進歩性の判断を誤った(取消事由2)。これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)
本願補正発明の進歩性を否定した審決の判断は,以下のとおり誤りである。
(1) 引用発明の認定の誤り
審決は,引用発明は「鋼製素線2で構成された各ロープ53の鋼製素線を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmであるとともに,該鋼製素線2を撚り合わせた部分より柔軟で厚さが例えば約0.56mmのロープ被覆5で被覆され」という構成を含むものとして認定している。しかし,「鋼製素線を撚り合わせた部分は直径が約5.0mmないし10mmである」との認定の根拠は,本願明細書の第1図のみであるところ,第1図は,概略図にすぎないものである。審決は,各構成要件の比率に基づいて鋼製素線2を撚り合わせた部分の長さを推定しているにすぎない。このような認定方法が誤りであることは明らかである。したがって,審決の上記認定は誤りである。
(2) 相違点1の判断の誤り
ア 本願補正発明と引用発明の間には,スチールワイヤ(素線)の断面積について,特に範囲の下限に大きな差があり,本願補正発明の方が引用発明と比較して使用可能なスチールワイヤの範囲の自由度が高く,従来のエレベータと比較して製造段階における構造的,経済的な面における制約が少なくなる。したがって,相違点1は実質的な相違点である。イ 審決は,エレベータ用ワイヤの技術分野において,スチールワイヤの断面積を0.049mm2ないし0.196mm2と重複する数値範囲とすることは,周知技術(例えば特表2002-505240号公報(平成14年2月19日公表)の【0029】等。以下「周知技術1」という。なお,エレベータに用いるワイヤの直径を0.10~0.20ミリメートルとすることは,断面積にすると,0.01m2ないし0.04m2とすることに相当する。)であるとして,仮に相違点1が実質的な相違点であったとしても,引用発明において,周知技術1を考慮して,相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できたことであると判断した。しかし,周知技術1は平形ロープ(引張り部材)を有するエレベータシステムに用いられる技術である。円形ロープを使用している引用発明を改良しようとする当業者が,円形ロープの欠点を解消すべく平形ロープが採用された周知技術 1 を考慮するはずがない。したがって,相違点 1 が容易想到であるとする審決の判断は誤りである。
(3) 相違点2の判断の誤り
ア 本願補正発明のロープ径は,巻上ロープのコアの直径及びコアの被覆の厚さに鑑みれば,引用発明のロープ径(12mmで固定されている。)の約2分の1程度であると考えられる。ロープ径が小さくなればなるほど,安全性確保などの観点から最低限必要な破断強度は大きくなるということは技術常識である。審決は,スチールワイヤの強度について,ロープ径の大きさを何ら考慮せずに,単に数値範囲のみを対比して,相違点2は実質的な相違点ではないと認定しているが,このような認定は誤りである。相違点2は実質的な相違点である。イ 審決は,高強度ワイヤロープの技術分野において,スチールワイヤの強度を2000N/mm2 より大きくする技術は,周知技術(例えば,特開平5-171580号公報の【0010】。以下「周知技術2」という。なお,270kgf/mm2 は,270×9.8=2646N/mm2に相当する。)であるとして,仮に相違点2が実質的な相違点であったとしても,引用発明において,周知技術2を考慮して,相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できたことであると判断した。しかし,周知技術2では,素線は少なくとも270kgf/mm2 =2646N/mm 2 の強度を必要とする。他方,本願補正発明におけるスチールワイヤは少なくとも約2000N/mm2 の強度を有すれば十分である。そうすると,周知技術2を考慮したところで,2000N/mm2以上かつ2646N/mm2 未満の範囲の強度の素線は想到するのは容易ではない。したがって,相違点2が容易想到であるとする審決の判断は誤りである。
(4) 相違点3の判断の誤り
ア 前記(1)のとおり審決は引用発明の認定を誤っており,引用発明に含まれる各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分の直径は約12mmと推定され,本願補正発明の巻上ロープのコアの直径である4~6mmと重複する範囲を含んでいない。したがって,相違点3が実質的な相違点ではないとする審決の認定は誤りである。イ 引用発明を改良したところで,4~6mmの直径の巻上ロープコアには想到できないか,想到できたとしても当業者の高度な創作能力が必要なはずである。したがって,相違点3が容易想到であるとする審決の判断は誤りである。
(5) 相違点4の判断の誤り
ア 本願明細書の【0014】に「スチールワイヤコアの適切な太さは約4~6mmであり,その場合,被覆の厚さは実質的には約0.4~0.6mmで…ある。」と記載されているように,相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項は,相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項と一体となってこそ最適な効果が得られる構成である。そして,前記(4)のとおり,引用発明は本願補正発明の巻上ロープのコアの直径である4~6mmと重複する範囲を含んでいないから,仮にロープ被覆5の正しい厚さに関して本願補正発明と重複する数値範囲があったとしても,巻上ロープのコアの直径が全く異なる以上,ロープ被覆の厚さの重複は技術的に何ら意味を有さない。イ 審決は,被覆ロープの技術分野において,直径が4~6mmであるロープのコアに対して,厚さが0.4~0.6mmの被覆でコーティングする技術は,周知技術(特開2001-207388号公報(以下「甲4公報」という。)の【0008】,特開昭60-19431号公報(以下「甲5公報」という。)の特許請求の範囲,3頁右上欄7~13行,登録実用新案第3037451号公報(以下「甲6公報」という。)の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】,【0006】,【0007】,【0010】~【0012】等。以下「周知技術3」という。)であるとして,仮に相違点4が実質的な相違点であったとしても,引用発明において,周知技術3を考慮して,相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できたことであると判断した。しかし,甲4公報に記載されている技術は,PCテンドンを形成する重防食PC鋼より線の技術分野に関するものであり,甲5公報及び甲6公報に記載されている技術は,魚網用ロープの技術分野に属するものであって,いずれもエレベータ用の巻上ロープとは全く異なる技術分野に属する技術である。また,いずれの文献も,開示のロープはエレベータの技術分野に使用できる旨の示唆をしていない。したがって,周知技術3は,相違点4に係る本願補正発明の容易想到性判断において考慮すべきではないから,周知技術3を考慮して相違点4が容易想到であるとする審決の判断は誤りである。
(6) 相違点5の判断の誤り
審決は,被覆用のポリウレタン樹脂の硬度を本願補正発明の数値範囲と重複する数値範囲とすることは,周知技術(甲5公報の特許請求の範囲,3頁右上欄7~13行,同頁右下欄1~10行,甲6公報の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】,【0006】,【0007】,【0010】~【0013】等,実願平1-49136号(実開平2-140999号)のマイクロフィルム(以下「甲7文献」という。)の明細書1頁16行~2頁1行,5頁20行~6頁3行,同頁13~17行,特開平2-157070号公報(以下「甲8公報」という。)の3頁左上欄9~20行,特開平7-330857号公報(以下「甲9公報」という。)の特許請求の範囲の請求項3,【0010】,【表1】等。以下「周知技術4」という。)として,引用発明におけるロープ被覆のポリウレタン樹脂として,周知技術4のような硬度を有するポリウレタン樹脂を採用することにより,相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると判断した。しかし,甲5公報及び甲6公報には,魚網用被覆ロープが開示されているにすぎない。甲7文献には,送電線等延線用連結ロープが開示されているにすぎない。甲8公報は,モータ等の回転によって発生する駆動力を伝達するためのベルトとしてカセットテープやカードディスペンサなどに使用できるポリイミド管状物に代わる複層管状物についての開示文献である。甲9公報は,サッカー靴底,野球靴底,タイヤ滑り止め装置,時計バンド,ヒールトップ,ギヤ,キャスタのような成形品に用いられる樹脂組成物についての開示文献である。以上のとおり,上記各文献に記載されている技術は,いずれもエレベータ用の巻上ロープとは全く異なる技術分野に属する技術である。また,いずれの文献も,開示のロープがエレベータの技術分野に使用できるとの示唆をしていない。したがって,周知技術4は,相違点5に係る本願補正発明の容易想到性判断において考慮すべきではないから,周知技術4を考慮して相違点5が容易想到であるとする審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本願発明の進歩性の判断の誤り)
本願発明と引用発明との間には,本願補正発明と引用発明との相違点1ないし4で挙げた構成上の違いがある。また,本願発明においては,「前記巻上ロープの被覆は,実質的に硬質のゴム,ポリウレタンその他の非金属材料で作られていて,該材料の硬度は実質的に80ショアAより大き」いのに対して,引用発明においては,「前記ロープ53のロープ被覆5は,実質的にポリウレタンその他の非金属材料で作られている」ため,本願補正発明と引用発明との相違点5と実質的に同様な性質の相違点があることになる。そして,前記1のとおり,相違点1ないし5は容易想到ではないから,本願発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
第4 被告の反論
1 取消事由1(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)に対し
(1) 引用発明の認定について
引用文献は,国際出願の公表公報であり,その図面は,米国特許商標庁においては,先行技術として使用される可能性があるものであり,その第1図は,たとえ概略図であるとしても,ある程度の正確性をもって記載されていると解し得るものである。そのため,審決は,第1図から,各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分の直径及びロープ被覆の厚さの各寸法について,一応の数値(数値範囲)として読み取ったものである。審決は,かかる数値(数値範囲)については,本願補正発明との対比において,相違点としており,本願補正発明と引用発明とが実質的に相違する場合についても判断している。したがって,引用発明の認定に原告主張の誤りがあるとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(2) 相違点1の判断について
ア 原告は,本願補正発明と引用発明の間には,特に範囲の下限に大きな差があると主張する。しかし,断面積の数値範囲の設定について,特に下限値として0.015mm2 を設定すること自体に格別の技術的意義があるものと解すべき合理性はない。したがって,引用発明に基づいて,「約0.015mm2より大きく,約0.2mm2より小さく」という数値範囲とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。イ 原告は,円形ロープを使用している引用発明を改良しようとする当業者が,円形ロープの欠点を解消すべく平形ロープが採用された周知技術 1 を考慮するはずがないと主張する。しかし,引用文献には,従来の(鋼撚り線入りの)平型ベルトを引用しつつ,その短所を克服する過程が記載されている(甲1・明細書2頁14ないし17行,11頁28行ないし12頁5行,12頁13ないし18行,14頁7ないし16行)。このように,周知技術1が平形ロープに係るものであっても,かかる技術は円形の断面を有するロープ(いわゆる円形ロープ)にも応用され得る技術というべきものであるから,平形ロープを構成するスチールワイヤの断面積が,円形ロープを構成するスチールワイヤの断面積として参考になることは,当業者には自明である。
(3) 相違点2の判断について
ア 原告は,引用発明のロープ径は12mmで固定されているとするが,引用発明は,ロープの寿命,強度の低下を抑制してエレベータの信頼性と安全性を確保しつつ,ロープの曲げ半径を減少させ,シーブ径を減少させることを目的とし,モータの径,駆動機,ブレーキ及び頂部プーリ並びにモータ及び巻き上げ機をはじめとした機器を小型化できるという作用効果を奏するものであるから,そのような目的・作用効果に照らせば特にロープ径を12mmと限定して解釈すべき合理性はない。原告は,審決がスチールワイヤの強度に重大な影響を与えるロープ径の大きさを考慮していないと主張するが,そもそもロープ径とスチールワイヤの強度とが技術的に関係することは当業者の技術常識であって,審決もそのような技術常識を踏まえて相違点2の容易想到性について判断したものである。イ 原告は,審決が周知技術2を示す文献として挙げた甲3公報では,素線は少なくとも270kgf/mm2=2646N/mm2の強度を必要とするから,周知技術2を考慮したところで,2000N/mm2 以上かつ2646N/mm2 未満の範囲の強度の素線には想到するのは容易ではないと主張する。しかし,審決は,スチールワイヤの強度を約2000N/mm2 より大きくする技術を周知技術2と認定するものであって,2646N/mm2の値を周知技術2として認定するものではない。
(4) 相違点3の判断について
本願補正発明において,各巻上ロープのコアの直径を「4~6mm」という数値範囲に設定することに格別な技術的意義は認められない。引用発明は,そもそも,少なくとも,エレベータもしくは少なくともその機械装置の大きさおよび/または重量を減らすことを目的として,巻上ロープの太さ(直径)を低減することを技術的課題としている。エレベータのワイヤロープとして,直径を4ないし6mmに設定することはエレベータの技術分野において普通に想定される。したがって,引用発明においてコアの直径を4~6mmとする程度のことは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものというべきである。
(5) 相違点4の判断について
ア 引用発明のロープ被覆5は,少なくともシーブ溝との接触による摩耗等を考慮して適宜の値に設定され得るものであって,ロープ被覆5を施したロープ1は小型化されたシーブに案内されるものであることをも考慮すれば,ロープ被覆5がロープ1の主体をなすコアの直径に比して十分薄く形成されることは当業者には自明である。そして,前記(3)のとおり,引用発明においてコアの直径を4~6mmとする程度のことは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものというべきであるところ,かかるコアにその直径に比して十分薄くロープ被覆5を施すこと(被覆の厚さを0.4~0.6mmに設定すること)は,周知技術3をも考慮すれば容易に想到し得るものといえる。イ 原告は,周知技術3として甲4公報,甲5公報及び甲6公報の記載を考慮すべきではないと主張する。しかし,上記各公報に記載されたロープは,本願補正発明と同様に,素線を撚り合わせてストランドを構成し,さらにストランドを撚り合わせてロープを構成するものであって,ロープの基本的な構造について共通するものである。また,各ロープは,その使用に際し強い張力がかかるところ,ロープに被覆を施すことにより耐久性を向上させる点でも共通するものといえる。そもそもロープに関する技術はその用途が異なるとしてもロープの技術として体系付け得るものである。したがって,相違点4の容易想到性判断において周知技術3のロープの技術が参考となること(数値範囲の最適化の目安になること)は当業者には明らかである。
(6) 相違点5の判断について
ア 審決が周知技術4を示す文献として挙げた甲5公報,甲6公報,甲7文献,甲8公報及び甲9公報の記載によれば,実質的にポリウレタンその他の非金属材料の物性(特性)として,硬度「88~95ショアA」のものが,耐摩耗性,強度,柔軟性,屈曲性,耐久性の点で優れることは,当業者であれば当然理解し得ることであって,技術常識ともいうべきものである。そして,引用発明のロープ被覆5は,「実質的にポリウレタンその他の非金属材料」で作られるものであるところ,その設計に際し,耐摩耗性,強度,柔軟性,屈曲性,耐久性を良好なものとするように,その硬度を設定することは当業者にとって至極当然なことである。引用文献には,ロープ被覆5の硬度について明記されていないが,引用発明のロープ被覆5においても,同様に「耐摩耗性,強度,柔軟性,屈曲性,耐久性」が必要とされるのであるから,その硬度は「88~95ショアA」の物性を有するものであるとも推認できる。イ 原告は,周知技術4として上記各文献の記載を考慮すべきではないと主張する。しかし,前記(5)のとおり,そもそもロープに関する技術はその用途が異なるとしてもロープの技術として体系付け得るものであり,また,ロープ以外の技術であっても,耐摩耗性,強度,柔軟性,屈曲性,耐久性等の特性は,その材料に特有のものであり,当業者はそれを知見としているのであるから,引用発明のロープ被覆がエレベータ用のロープであるとしても,周知技術4の技術が参考となること(数値範囲の最適化の目安になること)は当業者には明らかである。
2 取消事由2(本願発明の進歩性の判断の誤り)に対し
本願補正発明は,本願発明の発明特定事項をすべて含むものであるから,本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)について
(1) 引用発明の認定の誤りについて
ア 審決は,鋼製素線2で構成された各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分の直径(以下「コア直径」という)が約5.0mmないし10mmであると認定しているが,この認定は,引用文献の第1図に示された素線2の直径とコア直径との図示比率のみを根拠とするものである。ところで,一般に,特許出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り,当該図面に表示された寸法については,必ずしも厳密な正確さが要求されるものではない。そこで,引用発明の技術内容についてみると,引用発明は,樹脂材料で素線を被覆すると共に,ロープ外周を樹脂材料で被覆したワイヤロープに関する発明であり,従来,エレベータシステムの小型・軽量化を図るためには,シーブを小径化する必要があるところ,小径のシーブを用いた場合,シーブに巻き掛けられたワイヤロープの曲げ半径が減少し,シーブとの接触圧力が高くなって,ワイヤロープの寿命や強度が低下するといった問題があったことから,このような問題を解決するために,引用発明は,ワイヤロープの構造を改良し,複数の素線を撚り合わせたストランドを複数本撚り合わせることによって構成されたワイヤロープにおいて,素線及びワイヤロープ外周の双方を樹脂材料で被覆するものであって,素線の被覆によって,シーブ通過時における素線相互の滑りによる摩耗を抑制でき,また,ワイヤロープの被覆によって,シーブとの接触面積の増加および接触圧の低下を図ることができ,その結果として,シーブ溝との接触によるワイヤロープの摩耗を抑制できるというものである(甲1・明細書1頁5行目から8行目,同頁25行目から27行目,2頁10行目から13行目,同頁22行目から3頁9行目)。上記によれば,引用発明は,素線及びワイヤロープ外周の双方を樹脂材料で被覆するという,ワイヤロープの構造自体に特徴があるものといえる。そして,引用文献の第1図については,「図面の簡単な説明」の項に「第1図は,本発明のロープの第1実施例の断面概略図であり」(甲1・明細書3頁12行目)と記載され,「発明を実施するための最良の形態」の項に「第1図を参照すると,荷重支持部材であるワイヤロープ1は,鋼製の素線2を撚り合わせてストランド3を構成し,さらに,ストランド3を撚り合わせて構成される。各素線2は,素線被覆4が施され,ロープ1全体は,中間被覆材6で覆われ,さらに最外層はロープ被覆5が施される。」(同4頁12行目から15行目)と記載されている。以上によれば,引用文献の第1図は,引用発明の構成を示す概略図として記載されたものであることが明らかであり,このような図面の性質上,各部材の寸法ないし図示比率については厳密な正確さをもって図示されているものとは認められない。したがって,第1図に示された素線2の直径とコア直径との図示比率を根拠として,コア直径が約5.0mmないし10mmであるとする審決の認定は誤りである。同様の理由により,第1図に示された素線2の直径とロープ被覆5との図示比率を根拠として,ロープ被覆5の厚さが約0.56mmであるとする審決の認定も誤りである。イ よって,原告が取消事由1(1)(引用発明の認定の誤り)として指摘するところは理由がある。
(2) 相違点1の判断の誤りについて
ア 引用文献(甲1・明細書5頁14行目から18行目)には,鋼製素線の直径を0.50mm(断面積0.196mm 2 )程度及び0.25mm(断面積0.049mm2 )程度とすることが記載されている。また,素線の直径が両者の間であってもよいことは自明である。したがって,引用文献には,鋼製素線の断面積を0.049mm2 程度ないし0.196mm2 程度とすることが記載されているといえる。そうすると,相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は,引用文献に記載された数値範囲を内包するものであるから,相違点1は実質的な相違点ではない。イ 原告は,本願補正発明と引用発明の間には,特に範囲の下限に大きな差があると主張する。しかし,本願明細書には,スチールワイヤロープにおけるワイヤ(素線)の断面積の数値範囲の設定について,特に下限値として「0.015mm2 」を設定すること自体に格別の技術的意義があると解すべき記載はない。すなわち,本願明細書(甲11)の【0010】には,「本発明に適用可能なロープでは,ワイヤの平均太さは0.4mmより小さい。強靭なワイヤで作った適合性の高いロープは,ワイヤの平均太さが0.3mmもしくは0.2mm以下のロープである。例えば,細いワイヤで作った強靭なmmのロープは,完成したロープにおける平均ワイヤ太さが0.15mm~0.25mmのワイヤによって,比較的経済的に撚ることができ,この場合,最も細いワイヤはわずか約0.1mmの太さにしてもよい。」と記載され,同じく【0019】には,「例えば,約0.2mmのワイヤを使用すれば,非常に優れた構造の4mmの太さのエレベータ用巻上ロープを作ることができる。用いる巻上ロープの太さおよび/または他の理由に応じて,スチールワイヤロープにおけるワイヤの太さは,望ましくは0.mmから0.5mmの範囲にしてよく,この範囲であれば優れた強度特性を有するスチールワイヤを容易に入手することができ,個々のワイヤも摩擦抵抗が十分に大きく,被損傷性が十分に低い。」と記載され,同じく【0020】には,「以上,円形断面のスチールワイヤで作ったロープを説明してきたが,同様の原理を適用して,全部または一部に非円形断面のワイヤ使ってロープを撚ってもよい。このような場合,そのワイヤの断面積は,望ましくは実質的に円形ワイヤの場合と等しい。すなわち0.0mm2~0.2mm2である。このような範囲の太さを有するワイヤを用いれば,約2000N/mm2のワイヤ強度及び0.015mm2~0.mm2 のワイヤ断面積を有し,ロープ断面積におけるスチール材料の割合が大きいスチールワイヤロープを,例えばウォーリントン構造を用いて達成したのと同様に,容易に実現できる。」と記載されている。上記のとおり,本願明細書では,スチールワイヤロープにおけるワイヤの太さについて,様々な太さが言及されているが,何故断面積が「0.015mm2 より大きく,約0.2mm2 より小さく」(すなわち,直径約0.14~0.5mm)という数値範囲が選択されたのかという根拠は何ら記載されていない。したがって,断面積の数値範囲の設定について,特に下限値として0.015mm2 を設定すること自体に格別の技術的意義があるとは認められない。原告の上記主張は理由がない。ウ 以上のとおり,相違点1は実質的な相違点ではないから,相違点1に係る審決の判断に誤りはない。なお,原告は,周知技術1が平型ロープに関する技術であることを理由に,審決の相違点1に関する判断は誤りであると主張する。しかし,相違点1に関する審決の判断に誤りがないことは上記説示のとおりであり,このことは周知技術1について考慮するまでもないことであるから,この点に関する
(原告の主張)
も理由がない。
(3) 相違点3の判断の誤りについて
相違点2と相違点3に関する原告の取消事由の主張内容に鑑み,まず相違点3の判断の誤りについて判断する。ア 前記(1)のとおり,審決の引用発明の認定には誤りがあり,引用発明における各ロープのコア直径は不明であるから,相違点3は次のとおり認定されるべきである。「コアの直径について,本願補正発明においては,「各巻上ロープのコアは直径が4~6mmである」のに対して,引用発明においては,「各ロープ53の鋼製素線2を撚り合わせた部分の直径は不明である」」点(以下「修正相違点3」という。)。そこで,次に修正相違点3の容易想到性について判断する。まず,引用文献(甲1)には,「モータをはじめとしたエレベータシステムの小型・軽量化のためには,シーブを小径化することが必要である。」(明細書1頁26行目から27行目),「本発明の目的は,ロープの曲げ半径を減少させた場合に,それに伴うロープの寿命,強度の低下を抑制して,安全性と信頼性を確保したロープを提供することにある。本発明のさらに別の目的は,シーブ径を減少させた場合に,それに伴うロープの寿命,強度の低下を抑制して,安全性と信頼性を確保したエレベータを提供することにある。」(同2頁22行目から27行目),「機械システムの小型,軽量化を促進するため,シーブ径Dを小径化する際には,素線の小径化による曲げ応力の低減,素線2の小径化に伴う摩耗を減少させるための素線2への素線被覆4,及びロープ1全体へのロープ被覆5に加えて,ロープ1の撚り方法もロープが持つ柔軟性に影響を及ぼす」(同7頁10行目から13行目),「疲労の観点から,素線2に生じる曲げ応力σbは,前述したように素線2の直径δを小径化することにより低減できる。一方で,素線2の小径化は,ロープの寿命要因である素線2の相互移動による摩耗を考慮すると,寿命に対して悪影響を及ぼす。…相互移動の距離を低減するためには,ロープ径dは小径であることが望ましい。しかしながら,ロープ径dの減少は,同時にロープ1の破断強度を低下させるため,素線2の破断強度を増加させる必要がある。このため,ロープ1を構成する素線2は,破断強度が1,770MPa以上である素線で構成するとよい。」(同5頁19行目から27行目)と記載されている。上記記載に照らすと,引用発明も本願補正発明と同様に,少なくとも,エレベータシステムの小型軽量化のために,シ-ブを小径化し,そのために素線2も小径化して,ロープのコア直径を小径化しているものであることが明らかである。また,前記(1)のとおり,引用発明は,素線及びワイヤロープ外周の双方を樹脂材料で被覆するという,ワイヤロープの構造自体に特徴があるものであるから,ロープのコア直径を特定の大きさのものとすることに発明の特徴があるわけではない。そして,エレベータのワイヤロープとして,直径を4~6mmに設定することは,以下のとおり,エレベータの技術分野において普通に想定されていることであって,格別なことではない。すなわち,JIS G 3525:1998(乙3)には,「1.適用範囲 この規格は,・・・エレベータ,・・・などに用いる一般用ワイヤロープ(以下,ロープという。)について規定する。」(1頁「1.」の欄)と記載され,15頁の付表5には,公称径として4mmから40mmのロープが記載され,その中で4mm,5mm,6mmが小径の公称径のロープとして記載されている。また,ISO4344(乙4)には,「1.適用の範囲及び分野 本国際規格は乗客用もしくは貨物用の,垂直なガイドレール間もしくは垂直から15度を超えない程度に傾斜したガイド間を移動するエレベータの吊り下げ目的で使用される鋼ワイヤロープ特性を明記する。」(1頁「1」の欄)と記載され,4頁のTable2(表2)には,Nominal diameter(公称径)として6mmから22mmのロープが記載され,その中で6mmが小径の公称径のロープとして記載されている。さらに,特開平9-21084号公報には,「【従来の技術】従来,図(断面図)に示すようなワイヤロープ100構造が知られている。・・・」(【0002】),「・・・ロープ本体103と,このロープ本体1の外周面を被覆した被覆層110とによって略4mmφのワイヤロープ100が形成されている。」(【0003】),「このようなワイヤロープ100は,通常,重量物を牽引したり吊持するために用いられるが,・・・その用途は広汎である。具体的な用途としては,・・・エレベータの吊持用,・・・等が挙げられる。」(【0006】)と記載されている。上記認定によれば,引用発明においては,エレベータシステムの小型軽量化のために,シーブを小型化し,そのために素線も小径化し,ロープのコア直径も小径化しているものであること,及び,JISの規格において,ロープのコア直径が小径のものとして,公称径を4~6mmとしたものが記載されていることなどからすれば,引用発明において,ロープのコア直径を4~6mmとすることは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。イ したがって,相違点3に係る審決の判断は,その結論において誤りではない。
(4) 相違点2の判断の誤りについて
ア スチールワイヤの破断強度について,本願補正発明は約2000N/mm2 より大きいのに対して,引用発明は1770MPa(1770N/mm2 )以上であり,本願補正発明は引用発明の数値範囲の一部を限定したものである。しかし,本願明細書には,スチールワイヤの破断強度の数値範囲の設定について,特に下限値として2000N/mm2 を設定すること自体に格別の技術的意義があるものと解すべき記載はない。すなわち,スチールワイヤの強度について,本願明細書(甲11)の【0010】には,「本発明は約2000N/mm2 以上の強度を有するロープワイヤを用いている。ロープワイヤの強度の適切な範囲は2300~2700N/mm2である。原則としては,約3000N/mm2以上の強度を有するロープワイヤを用いることができる。」と記載され,同じく【0020】には,「本発明の実施上,特に適しているのは,2300N/mm2~2700N/mm2の範囲のワイヤ強度を有するロープである。なぜなら,このようなロープはロープの太さに関連して非常に大きな負荷耐性能力を有しているが,強靭なワイヤの高い硬度は,ロープのエレベータにおける使用に実質的な困難を生じることがないからである。」と記載されている。上記のとおり,本願明細書には,スチールワイヤの強度の適切な範囲は,2300N/mm2 ~2700N/mm2 であることが記載されており,本願補正発明における「約2000N/mm2 より大きく」との数値範囲は,本願明細書において「適切な範囲」とされる数値範囲以外の数値範囲を含んでいる。したがって,本願補正発明における破断強度の数値範囲の設定について,特に下限値として約2000N/mm2 を設定すること自体に格別の技術的意義があるとは認められないから,相違点2は,実質的な相違点ではない。イ 原告は,ロープのコア直径が小さくなればなるほど,安全性確保などの観点から最低限必要な破断強度は大きくなるということは技術常識であるから,審決が,スチールワイヤの強度に重大な影響を与えるロープ径の大きさを何ら考慮せずに,単に数値範囲のみを対比して,その範囲の一部が重複するとして相違点2は実質的な相違点ではないと認定したのは誤りであると主張する。確かに,ロープ径が小さくなるほど,安全性確保などの観点から最低限必要な素線の破断強度が大きくなることは技術常識といえる。そこで,相違点3のコア直径を考慮して,相違点2の容易想到性について検討すると,次のとおりである。(ア) まず,前記(1)のとおり,引用発明は,素線及びワイヤロープ外周の双方を樹脂材料で被覆するという,ワイヤロープの構造自体に特徴があるものであり,ロープの直径を特定の大きさのものとすることに発明の特徴があるわけではない。そして,前記(3)のとおり,引用発明においては,ロープのコア直径を小径化しているものであることから,JISの規格の中から直径が小径のものを採用し,ロープのコア直径を4~6mmとすることは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないといえるところである。次に,JIS G 3525:1998(乙3)には,エレベータ等に用いるワイヤロープの強度について,B種(1770N/mm2 級)(5ページ表2)と規定されている。これは,付表5(15ページ)に示されているように,公称径4mm,5mm及び6mmのワイヤロープについても使用されるものである。また,ISO4344(乙4)においても,「4.1 ロープワイヤ」の欄(1ページ)において,tensile grade(引張りグレード)1770N/mm2 と規定されている。これは,Table2(4ページ)に示されている,Nominal diameter(公称径)6mmのワイヤロープについても使用されるものである。上記によれば,ロープのコア直径が4~6mmの巻上ロープにおいて破断強度を1770N/mm2 とすることは,JISやISOといった標準規格においても定められている周知の事項であると認められる。(イ) また,審決が周知技術2として認定したように,スチールワイヤの強度を2000N/mm2 より大きくすることは,高強度ワイヤロープの技術分野における周知技術であると認められる。この点について,原告は,審決が周知技術2を示す文献として挙げた甲3公報では,素線は少なくとも270kgf/mm2 =2646N/mm2 の強度を必要とするから,周知技術2を考慮したところで,2000N/mm2以上かつ2646N/mm2未満の範囲の強度の素線には想到するのは容易ではないと主張する。しかし,甲3公報の【0007】には,「なお,前記ロープ心1と側ストランド7を構成する各素線の引張り強度の下限は,素線の強度が小さくなりすぎると所定のロープ強度が得られないため,約200Kgf/mm2以上,好ましくは220Kgf/mm2以上である。」とも記載されている。ここで,「約200Kgf/mm2 以上,好ましくは220Kgf/mm2以上」は,換算すると,「約1960N/mm2以上,好ましくは2156N/mm 2 以上」になる。すなわち,甲3公報には,本願補正発明における「約2000N/mm2 以上」とほぼ同じ強度である「約1960N/mm2 以上」とすることも記載されている。したがって,審決の周知技術2の認定に誤りはない(審決は,2646N/mm2という数値を,「約2000N/mm2より大きくする」という範囲を充足する一例として例示したものと解される。)。そうすると,引用発明においては,ロープのコア直径を小径化しているものであることから,JISの規格の中から,コア直径が小径のものを採用し,ロープのコア直径を4~6mmとすることは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないところ,このようなものについて,JISやISOの規格にあるワイヤロープや周知技術2における強度を考慮して相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,単なる設計事項にすぎず,当業者が容易に想到できたことであるといえる。したがって,原告の上記主張は理由がない。ウ 以上のとおり,引用発明において,JISの規格を採用し,ロープのコア直径を4~6mmとすることは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないところ,このようなコア直径を考慮して,相違点2のスチールワイヤの強度について,本願補正発明の構成を採用することは,単なる設計的事項にすぎず,当業者が容易に想到できたことであるといえる。したがって,相違点2に係る審決の判断に誤りはない。
(5) 相違点4の判断の誤りについて
ア 前記(1)のとおり,審決の引用発明の認定には誤りがあり,引用発明におけるロープ被覆5の厚さは不明であるから,相違点4は次のとおり認定されるべきである。「被覆の厚さについて,本願補正発明においては,「該コアより柔軟で厚さが0.4~0.6mmの被覆でコーティングされ」ているのに対して,引用発明においては,該コアより柔軟な被覆でコーティングされているものの,被覆の厚さは不明である」点(以下「修正相違点4」という。)。そこで,修正相違点4の容易想到性について検討すると,次のとおりである。まず,引用文献(甲1)には,「素線2の直径δを減少させ,シーブ径Dの小径化を図る場合,素線2相互の滑りによる摩耗の他,ロープ1の最外層素線とシーブ溝との接触による摩耗も考慮しなければならない。このため,本実施例では,第1図に示すように素線2とシーブ溝との摩耗を低減するため,ロープ1の最外層表面に,ロープ被覆5を施した。」(明細書6頁14行目から18行目)と記載されているように,引用発明におけるロープ被覆5は,少なくともシーブ溝との接触による摩耗等を考慮して適宜の値に設定され得るものである。そして,引用発明におけるロープ被覆5を施したロープ1は小型化されたシーブに案内されるものであり,ロープ被覆5がロープ1の主体をなすコアの直径に比べて適宜の薄さで形成されることは当業者にとって設計的な事項であるところ,前記(4)のとおり,引用発明においてロープのコアの直径を4~6mmとする程度のことは,引用文献に接した当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものというべきであり,かかるコアにその直径に比して適宜な薄さでロープ被覆5を施し,その被覆の厚さを0.4~0.6mmに設定することは,これもまた単なる設計事項であり,当業者が通常の創作能力を発揮して容易に想到し得ることである。イ したがって,相違点4が容易想到であるとした審決の判断は,結論においてに誤りではない。なお,原告は,相違点4に係る本願補正発明の容易想到性判断において,周知技術3を考慮すべきではないと主張するけれども,相違点4の容易想到性の判断において周知技術3について考慮することなく判断できるのは上記説示のとおりであるから,原告の上記主張について判断する必要はない。
(6) 相違点5の判断の誤りについて
ア 引用文献(甲1)には,「素線2の直径δを減少させ,シーブ径Dの小径化を図る場合,素線2相互の滑りによる摩耗の他,ロープ1の最外層素線とシーブ溝との接触による摩耗も考慮しなければならない。このため,本実施例では,第1図に示すように素線2とシーブ溝との摩耗を低減するため,ロープ1の最外層表面に,ロープ被覆5を施した。この被覆材は,先に示した素線2の被覆材のうちの一つを用いればよい。」(明細書6頁14行目から18行目)と記載され,ここでいう「先に示した素線2の被覆材」材料の一つとしてポリウレタンが例示されている(同5頁28行目から6頁1行目)。引用文献に記載されたロープは,上記のとおり耐摩耗性が要求されるものであるから,ロープの材料となるポリウレタン等については,エレベータ用のロープの被覆層に適した硬度のものを用いるべきことは,当業者にとって自明である。イ ポリウレタンを耐摩耗性が要求される用途に使用する場合の強度について,甲5公報,甲6公報,甲7文献及び甲8公報には,以下の記載がある。(ア) 甲5公報は,定置漁網や養殖漁網に用いられる漁網編成用原糸に関するものである。甲5公報には,上記原糸が,芯体と,この芯体の外周に形成された筒状被覆層とによって構成され,結束して網地を編成した形態で使用されること,筒状被覆層は,ポリウレタン-ポリエーテル共重合樹脂(ポリウレタンの一種)よりなり,その硬度は,JIS-A値において70~90であることが記載されている(特許請求の範囲,3頁右上欄7行目から13行目,同頁右下欄1行目から19行目)。(イ) 甲6公報は,定置網類の側綱などとして好適な漁業用被覆ロープに関するものである。甲6公報には,上記被覆ロープが,ワイヤー線条体を内在しこれを外囲するように繊維層を配したロープ本体と,このロープ本体の外周に被覆された熱可塑性エストラマー層とによって構成され,海中に敷設された複数の袋網や囲網の形を形成するための手段として使用される。熱可塑性エストラマー層としては,ウレタン系が例示されており,その硬度は,ASTM準拠したショアA試験での値が60~95であることが記載されている(実用新案登録請求の範囲の【請求項1】,【0006】,【0007】,【0010】~【0013】)。(ウ) 甲7文献は,光ファイバー複合架空地線のような送電線等を延線するに際して,延線径間の両端鉄塔及び各中間鉄塔間に支持金具を介して張り渡された支持線上で,送電線等を抱持し前記支持金具を越して滑動する搬機群を,連結し牽引する送電線等延線用連結ロープに関するものである(2頁4行目から9行目)。上記連結ロープは,芯体と,この芯体の表面に形成された合成樹脂の被覆層とによって構成されており,被覆層は,ポリウレタン樹脂よりなり,その硬度(JISA)は,90以上であることが記載されている(1頁16行目から2頁1行目,5頁20行目から6頁3行目,6頁13行目から17行目)。(エ) 甲8公報は,「モーター等の回転によって発生する駆動力を伝達するためのベルトとしてカセットテープやカードディスペンサーなどに使用できる(1頁右欄2行目から5行目)複層管状物に関するもので,管状物を構成するポリアミド樹脂の外周に熱可塑性エストラマーを設けたものである。甲8公報には,上記熱可塑性のエストラマーがウレタンゴムよりなり,そのゴム硬度は,ASTM D2240-64Tに基づいてショアAを30~99,好ましくは70~95であることが記載されている(3頁左上欄9行目から20行目)。ウ 上記各文献に記載されたポリウレタンは,いずれも,漁網編成用原糸(甲5公報),漁業用被覆ロープ(甲6公報),送電線等延線用連結ロープ(甲7文献),駆動力伝達用のベルトとして使用できる複層管状物(甲公報)といった負荷支持部材を被覆するために用いられるものであり,引用発明におけるポリウレタンと同様に,耐摩耗性が要求されるものである。上記各文献に記載されたポリウレタンの硬度は比較的大きなショアAの範囲内(概ねショア70~95程度)に収まっており,これは,耐摩耗性が要求される引用発明のロープ被覆の硬度を設定する際に参考となり得る事項であるといえる。したがって,引用発明のロープ被覆としてポリウレタンを採用し,耐摩耗性の観点から,その硬度を88~95ショアAの範囲とすることは,当業者の通常の創作能力を発揮して容易に想到し得ることである。エ 原告は,周知技術4はエレベータ用の巻上ロープとは異なる技術分野に属する技術であるから,相違点5に係る本願補正発明の容易想到性判断において,周知技術4を考慮すべきではないと主張する。しかし,周知技術4はロープ等の負荷支持部材の被覆に関する技術であり,引用発明とはその用途が異なるとしても,ロープ等の負荷支持部材の被覆を構成するポリウレタンの耐摩耗性や強度等の物性は,その材料に特有のものであり,引用発明のロープ被覆についても周知技術4は参考になるものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。オ したがって,相違点5に係る構成が容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。
(7) 小括
以上のとおり,審決の引用発明の認定には誤りがあるが,相違点1ないし5に係る判断に誤りはない。したがって,本願補正発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。取消事由2(本願発明の進歩性の判断の誤り)について本願補正発明は,本願発明の発明特定事項をすべて含むものである。したがって,本願発明の進歩性を否定した審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。付言本願明細書には,従来技術の一つとして,引用文献が挙げられており(甲11の【0005】),図2は,その従来技術のエレベータ用ロープ13を示すものである(同【0013】)との記載があり,そこには別紙Cの図2のとおり,ロープ被覆が相当厚く,またその断面形状はいびつに変形しており,到底円とはいいがたい形状のものが記載されている。しかし,実際の引用文献に示された図1は,別紙BのFIG.1のとおりであり,そこに描かれたロープ被覆は薄く,その断面の形状は円である。本願明細書の【0013】には「明確のため,ポリウレタン層15の厚さおよびロープ断面の変形をやや誇張して示している。」との記載があるが,本願明細書における従来技術の記載は,「やや誇張」にとどまるものではなく,著しく不正確であり,特許法36条4項2号の趣旨に照らしても,明細書としては不適切な記載である。結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官 設 樂 一裁判官 西 理 香裁判官 田 中 正 哉別紙A【図1】【図3】別紙B別紙C【図2】
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MyTokkyo.Aiで何ができる? MyTokkyo.Ai導入検討者向け説明会|研究開発・知財のための基本機能と活用事例
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はじめての外国特許出願 ~ 外国特許出願ってどうするの? 制度の基本から実務の流れまで、そのいろはを一日でわかりやすく解説します! ~
11月10日(火) - オンライン
11月10日(火) - 大阪 北
グローバル知財戦略の「平時」と「有事」~知財ガバナンスの構築から、特許侵害訴訟におけるeディスカバリー(電子情報開示)対策まで~
11月10日(火) - オンライン
AI Native知財 - 私たちはどう生きるか? - 来城知佳 氏(株式会社Showcase gig 法務マネージャ) x 弁理士木本大介(リーガルテック株式会社アドバイザー)
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創薬・ライフサイエンス研究を加速する画像解析AI「IMACEL」~個別開発事例から研究者自身が使えるノーコードAIプラットフォームまで~
11月13日(金) - 東京 千代田区
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