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平成12(行ケ)101行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年2月28日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法3条1項3号7回
商標法3条2項4回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決16回
優先権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第101号 審決取消請求事件(平成13年1月22日口頭弁
論終結)
          判          決
       原      告   レゴ システム エー/エス
       代表者    【A】
       訴訟代理人弁理士   岡 部 正 夫
同 加 藤 伸 晃
同 産 形 和 央
       同 岡 部  譲
同 臼 井 伸 一
同 藤 野 育 男
同 越 智 隆 夫
同          本 宮 照 久
同 高 梨 憲 通
同 朝 日 伸 光
同 高 橋 誠一郎
同 吉 澤 弘 司
       同 花 村  太
       被      告   特許庁長官 【B】
       指定代理人    【C】
       同          【D】
          主          文
 特許庁が平成2年審判第12237号事件について平成11年11月
11日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、1987年(昭和62年)4月7日にデンマーク国においてした商
標登録出願に基づく優先権を主張して、同年9月22日、別紙本願商標欄表示のと
おりの構成から成り、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施
行令別表による商品区分第24類「おもちゃ、ゲームその他の娯楽用具、その他本
類に属する商品」とする商標(以下「本願商標」という。)につき、商標登録出願
(商願昭62-106158号)をしたが、平成2年4月13日に拒絶査定を受け
たので、同年7月12日、これに対する不服の審判を請求した。
   特許庁は、同請求を平成2年審判第12237号事件として審理した上、平
成11年11月11日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は同年11月29日原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標は、全体としてブロックの
図形を表示したものと認識されるにとどまるものであり、これを指定商品「ブロッ
クおもちゃ、組立おもちゃ」に使用した場合、取引者、需用者は、商品の品質を端
的に表したものと理解するにとどまり、自他商品を識別すべき標識とは認識しない
というべきであるから、商標法3条1項3号に該当するものであり、かつ、請求人
(原告)の提出する証拠によっても、同条2項に規定する要件を具備するに至って
いるとは認められないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、本願商標が「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」の品質を端的に表
したにとどまるものではなく、自他商品の識別機能を発揮し得るものであるのに、
商標法3条1項3号に該当する商標であると誤った判断をする(取消事由1)とと
もに、本願商標は、指定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に
係る商品であることを認識することができるものであるのに、同条2項に規定する
要件を具備しないとの誤った判断をし(取消事由2)、また、パリ条約6条の5
A(1)の適用を看過した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべ
きである。
 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)
   原告は、1954年(昭和29年)以来プラスチック製のいわゆるブロック
おもちゃを製造販売する先駆者であり、その製造に係るブロックおもちゃ(以下
「原告製品」という。)は、日本においても昭和37年に本格的な輸入が開始され
て以来、有名デパートや玩具店で販売され、原告の名称(略称)である「LEGO
(レゴ)」は、ブロックおもちゃの代名詞であるかのように認識されるに至ってい
る。このような原告製品の包装箱には、別紙LEGO標章欄記載の構成から成る標
章(以下「LEGO標章」という。)が付され、原告のいわゆるハウスマークとし
ての役割を果たす標章として位置付けられている。
   そして、LEGO標章は、輪郭を構成する四角形の図形の内側背景部が赤色
で着色され、その中にロゴ化された「LEGO」の文字が黒色で太く縁取りされて
配され、背景部と文字との境界には黄色のラインが配されたものであるが、これと
本願商標とは、四角形の図形の中に配されている要素がロゴ化された文字か、ブロ
ックの図形かという相違はあるものの、それ以外の点で構成の軌を一にするもので
ある。
   審決は、本願商標について「ブロックの図形のほか、赤塗りの四角形の図形
が表されているが、この四角形の図形もブロックの図形を際立たせる程度の印象の
希薄なありふれたものであって、全体としてブロックの図形を表示したものと認識
されるに止まる」(審決書3頁8行目~12行目)とするが、上記のように、本願
商標は、LEGO標章におけるロゴ化された「LEGO」の文字に相応する形で8
個(2×4)の丸い突起を有するブロックの図形が斜めに配されているほか、LE
GO標章と統一的な調和を図る態様をもって全体の色彩が配色されているものであ
る。そして、ブロックおもちゃの中には、丸い突起が4個(2×2)、6個(2×
3)、8個(2×4)のものがあるが、8個(2×4)の突起は原告製品の最も基
本的な構成を成すものである。
   このように、本願商標は、原告のハウスマークであるLEGO標章と相まっ
て、原告によって独創的に創作されたものであり、需用者、取引者に対し、単にブ
ロックおもちゃ、組立おもちゃの品質を端的に表したものと理解させるにとどまら
ず、自他商品の識別機能を十分に発揮することができるものである。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)
   本願商標が、仮に商標法3条1項3号に該当するとしても、本願商標は、指
定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを
認識することができるものであり、同条2項に該当する。
   すなわち、本願商標は、原告製品の一つである「基本セット赤いバケツ」
や「BASIC(Free Style)」の包装箱等に付されて、長年にわたり使用され、また、
本願商標を付した原告製品は大々的に宣伝広告されている。今日では、我が国のブ
ロック玩具の市場において、原告の製造販売に係るブロックおもちゃの占有率は8
0%を占めており、その販売数量、販売店舗数等に照らしても、多くの需要者が本
願商標を目にしていることは明らかである。
   また、米国、イギリス、オーストリア、スイス、旧西ドイツ及びニュージー
ランドにおいては、本願商標と構成を同じくする商標について、使用により識別性
を獲得したことを基礎としてその登録がされている。
 3 取消事由3(パリ条約6条の5A(1)の適用の看過)
   本願商標とその構成を同じくする商標は、デンマーク本国及びヨーロッパ共
同体を始め、世界各国において「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」を指定商品と
して商標登録されているところ、パリ条約6条の5A(1)(いわゆるテルケル条項)
は、本国において正規に登録された商標が他の同盟国においてもそのままその登録
を認められ、かつ、保護される旨を定める。なお、同条の5B2は、その例外とし
て「識別性を有しないもの」を掲げるが、本願商標のような図形商標の識別性の判
断については、各国でその判断が大きく異なるものではないというべきであるか
ら、その登録を拒絶されるべき理由はない。また、本願商標の登録を拒絶すること
は、パリ条約に反しない限り商標の登録を拒絶することができる旨規定する「知的
所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPs協定)15条2項の趣旨にも
反することになる。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
   本願商標の指定商品「ブロックおもちゃ、組立おもちゃ」は、プラスチック
製の小さな直方体で上下の凹凸にはめ込み、模型を作って遊ぶものであって、その
ブロックの一個一個の形状、色彩、凹凸部分の数及び配列等は種々様々であるにせ
よ、基本的な構成において異なるものではない。また、各社とも、ブロックの包装
箱等に、各種構成ブロックの種類を表示したシールを貼付して販売しているのが実
情である。
   そして、各社が製造販売するブロックの形状、色彩、凹凸部分の数及び配列
に照らせば、本願商標に表示されたブロックは、格別独創的な形状のものとはいえ
ず、また、ブロック周囲の地色も単に彩色されているにすぎないものであり、ブロ
ックの縁取りにしても、ブロックを強調している程度にしか認識されないものと解
されるから、本願商標の図形は、ブロックおもちゃの各種ブロックの一種を表した
ものと認識されるにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないと
いうべきである。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
   原告提出の証拠のうち、まず、本願商標の使用態様を示すという証拠(甲第
7~第13号証)に照らしても、本願商標は、ブロックおもちゃの包装箱に入って
いる各種ブロックの構成を示す表示の一種と認識されるように表示されており、本
願商標を商標として認識されるほどに顕著に表示されているものはない。販売店の
私的な証明書(甲第14~第19号証)については、原告の依頼により作成提出さ
れたわずか6通の証明書で本願商標の周知著名性を証明することはできないという
べきである。また、本願商標の付された商品の宣伝広告の状況を証するという証拠
(甲第20号証、第21号証の1~3、第25、第26号証)からは、本願商標が
どのような表示で広告宣伝されたか明らかでないし、玩具売場の写真等(甲第22
号証の1~5)においても、本願商標の表示態様は不明である。さらに、原告製品
の販売数量(甲第24号証)及び販売店舗数(甲第27号証)をみても、本願商標
の使用との関係は明らかでない。
   結局、原告の提出した甲号各証を総合しても、本願商標が商標法3条2項に
該当するとはいえない。
 3 取消事由3(パリ条約6条の5A(1)の適用の看過)について
   原告の主張は、本願商標が識別標識としての機能を有していることを前提と
した主張であるから失当である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
   本願商標の構成は、別紙本願商標欄に表示のとおり、ほぼ正方形の枠内に、
直方体のブロックを斜め上方から見た図形を斜めに配して表示するとともに、当該
ブロックの上面に4個ずつ2列の丸い突起を規則的に配し、枠内背景を赤色に、ブ
ロックの周囲を縁取り状に黄色に塗り分けたものである。
   他方、株式会社講談社発行の「日本語大辞典」(乙第1号証)、株式会社河
田発行のブロックおもちゃの包装箱の貼付シール等(乙第2号証の1~3)、マス
セット株式会社発行のブロックおもちゃのカタログ(乙第4号証)及び株式会社主
婦の友社発行のブロックおもちゃのカタログ(乙第5号証)によれば、「プラスチ
ック製の小さな直方体で、上下の凹凸に一個一個がしっかりとはまりこむ」(乙第
1号証)ブロックおもちゃは我が国において一般的な玩具の一種であって、そのブ
ロックの形状としては、直方体の上面に複数の丸い突起を配した形態が一般的で、
当該突起の配列として4個ずつ2列とするものもごく普通に見られるものであるこ
と、また、ブロックの縦、横、高さの比率等においても、本願商標に表示されてい
るブロックは他社製品のものと大差がないこと、この種のブロックおもちゃの包装
箱等に、「部品の種類」などとして各種のブロックの形状を斜め上方から見た図形
で表示することも広く行われていることが認められる。
   以上の事実に照らすと、本願商標の構成要素であるブロックの図形は、一般
的に広く知られているこの種のブロックおもちゃにおける典型的なブロックの形状
の一つを表示したものであり、本願商標におけるほぼ正方形の枠及び枠内の赤色の
彩色は、主要な構成部分であるブロックの図形の背景を示すもの、ブロックの周囲
を縁取り状に黄色く彩色している点も、ブロックを強調する配色と解されるから、
これらの枠や彩色という要素が付加されているにしても、本願商標の図形は、ブロ
ックおもちゃにおけるブロックの図形を、普通に用いられる方法で表示するものと
いうべきである。
   なお、原告は、本願商標が原告のハウスマークであるLEGO標章と構成の
軌を一にする旨主張するが、両者は、ロゴ化された「LEGO」の文字とブロック
の図形という両標章の最も本質的な部分で全く異なった構成となっており、LEG
O標章の存在及び原告主張の両者の相似性は、前記認定を左右するものではない。
   そうすると、本願商標は、その指定商品である「ブロックおもちゃ、組立お
もちゃ」の品質(部品の種類及び形状)を普通に用いられる方法で表示する標章の
みから成る商標というべきであり、これが商標法3条1項3号に該当するとした審
決の判断に誤りはない。
 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
  (1) 原告商品の包装箱(甲第7~第13号証)、株式会社伊勢丹ほかの販売店
作成の証明書(甲第14~第19号証)、協同広告株式会社作成の広告宣伝証明書
(甲第20号証)、原告作成のテレビCM出稿実績その他の集計表(甲第21号証
の1~3、第24、第27号証)、テレビCM画像(甲第25、第26号証)、レ
ゴジャパン株式会社代表者作成の陳述書(甲第28号証)及び在日デンマーク国大
使【E】作成の書簡(甲第29号証)によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、1962年(昭和37年)、日本における原告製品の販売を開
始し、昭和53年1月に日本の子会社であるレゴ・ジャパン株式会社(旧商号・日
本レゴ株式会社)を設立してからは、同社が原告製品を輸入販売するようになり、
現在、原告製品は、トイザラスほかの玩具専門店、イトーヨーカ堂ほかのスーパー
マーケット、高島屋、三越、西武ほかの百貨店、その他玩具を取り扱う全国の主要
店舗で販売されており、原告製品を取り扱う店舗総数は3632店に上る。
イ 原告製品には必ずLEGO標章が付されているが、本願商標は、原告製
品のうち「基本セット」と呼ばれるセット商品にLEGO標章とともに付されて販
売されており、その販売数量は、平成7年~平成12年の間だけでも、セット商品
である品番4132が3万5005個、同4135が2万4873個、同4198
が10万5242個、同4244が28万6400個、同4225が3万6361
個等に及んでいる。なお、現在の我が国におけるブロックおもちゃ市場における原
告製品の占有率は約80%に達する。
ウ また、原告製品については活発な広告宣伝が行われており、そのテレビ
CM本数は、平成4年~平成11年の間に15秒スポットのものが1万5116
本、30秒スポットのものが7221本に上り、少なくともその一部には、やや見
にくい角度ながら原告製品に本願商標が付された状況も映し出されている。
エ 本願商標の使用形態は、原告製品の包装箱等に、おおむねLEGO標章
に準ずる体裁(例えば、箱の正面の左上部にLEGO標章、横面のこれに対応する
左上部に本願商標をそれぞれ付するなど)で使用されており、構成部品の種類を説
明するための表示とは、大きさ、配色、表示位置等から明確に区別されている。
  (2) 以上の事実を総合すれば、本願商標は、その指定商品「ブロックおもち
ゃ、組立おもちゃ」について使用をされた結果、審決時までには、需要者が原告の
業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認めるのが相当
であるから、これに反し、本願商標について商標法3条2項に規定する要件を具備
するに至っていないとした審決の判断は誤りというべきである。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2は理由があり、取消事由3につい
て判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官  篠 原 勝 美
    裁判官  長 沢 幸 男
    裁判官  宮 坂 昌 利
別紙 本願商標・LEGO標章

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