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平成12(行ケ)109行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年2月28日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法50条3回
民事訴訟法61条1回
商標法73条1回
キーワード 審決12回
許諾3回
ライセンス1回
商標権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第109号 審決取消請求事件(平成13年1月22日口頭弁
論終結)
          判          決
   
       原      告   ディル カーネギー アンド アソシエイ
ツ インコーポレーテッド
       代表者    【A】
       訴訟代理人弁護士   森 内 憲 隆
       同          左 高 健 一
       同    弁理士   小 沢 慶之輔
       被      告   株式会社エス・エス・アイ
       代表者代表取締役   【B】
       訴訟代理人弁護士   井 上 定 明
       同    弁理士   稲 垣 仁 義
          主          文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成9年審判第16497号事件について平成11年11月11日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文第1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、「DALE CARNEGIE」の欧文字を横書きして成り、平成
3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第26類「印刷
物、書画、彫刻、写真、これらの附属品、ただし、この商標が特定の著作物の表題
(題号)として使用される場合を除く」を指定商品とする登録第673178号商
標(昭和38年2月4日登録出願、昭和40年4月12日設定登録、平成8年3月
28日に3回目の更新登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
   被告は、平成9年9月29日、原告を被請求人として、本件商標の指定商品
中「印刷物」について不使用に基づく登録取消しの審判の請求をし、その予告登録
が同年10月29日にされた。
   特許庁は、同請求を平成9年審判第16497号事件として審理した上、平
成11年11月11日に「商標法50条の規定により、登録第673178号商標
の指定商品中『印刷物』についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、その
謄本は同年12月8日原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、被請求人(原告)の提出に係る証拠
によっては、本件商標が、本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において
取消請求に係る指定商品「印刷物」についての使用をされていたものと認めること
はできないから、本件商標の指定商品中「印刷物」についての登録は商標法50条
の規定により取り消すべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 本件商標は、以下のとおり、本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内
において、通常使用権者により、その指定商品「印刷物」についての使用をされて
いたから、この使用の事実を認めなかった審決の認定は誤りであり、違法として取
り消されるべきである。
 2 本件商標の使用
(1) 原告は、世界的に著名な文筆家、講演家である故【C】により設立されたア
メリカ合衆国法人であって、故【C】が創案した人間能力の開発方法に基づく教室
教育事業を自ら行い、又はライセンシーを通じて行っている。
(2) パンポテンシア株式会社(以下「パンポテンシア」という。)は、平成6年
以降、原告からライセンスを受け、日本国内において「デール・カーネギー・トレ
ーニング」の名称により上記教室教育事業を行っており、本件商標についても使用
許諾を受けている通常使用権者である。同社の本社営業所が存する東京都渋谷区神
宮前の常設教室では、デール・カーネギー・コース、デール・カーネギー・セール
ス・コース、デール・カーネギー・マネージメント・セミナー、デール・カーネギ
ー・カストマー・リレーションズ/エンプロイ・デベロプメント・コース、デー
ル・カーネギー・上級コース経営戦略プレゼンテーション・ワークショップ、デー
ル・カーネギー・リーダー・イン・ユー・コース等の各種講座を開設している。
(3) パンポテンシアは、上記教室教育事業の講座(以下「本件講座」という。)
に使用する教材として、「The DALE CARNEGIE Course Participant Manual」と題す
る印刷物(甲第6号証)及び「Remember Names」と題する印刷物(甲第7号証)を
有償で受講生に提供している。甲第6号証の印刷物は、その表紙に「The DALE
CARNEGIE Course」の文字が付されており、特に「DALE CARNEGIE」の文字は他の文
字とは切り離して記載され、登録商標であることを示す「」のマークが付されて
いるものであり、甲第7号証の印刷物は、その表紙に「DALE CARNEGIE
TRAINING」を二段に記載しており、いずれも本件商標が使用されている印刷物であ
る。
  審決は、これらはそれ自体商取引の目的物として流通性のある商標法上の商
品とはいえないとするが、パンポテンシアは、広く一般に本件講座の内容と印刷物
の提供を宣伝し、これに興味を持つ者が受講生となって本件講座を受講し、上記印
刷物の提供を受けるのであり、これらの印刷物はいずれも一般書店において販売さ
れているものではないが、受講生に提供される教材として有償(ただし、受講料に
含まれる。)で配付されているものであって、取引市場を流通しているということ
ができる。
(4) パンポテンシアは、常設の講座以外に不定期の講演会、研修会等を行ってき
たところ、平成7年9月13日に日刊工業新聞社を顧客として本社営業所で開催し
た講演会を始め、平成9年9月までに開かれた計15回のこうした講演会会場で、
希望者に対し、「THE LITTLE GOLDEN BOOK OF RULES」と題する印刷物(甲第8号
証)を1冊100円で販売したが、この印刷物の表紙には、「Dale Carnegie
の表示が付されており、本件商標が使用されている。
(5) パンポテンシアは、平成8年12月10日、原告に対し、「Dale
Carnegie’s Golden Book」(甲第13号証の1)、「Remember Names」(同号の
2)及び「Speak More Effectively」(同号証の3)の英文印刷物を含む教材を発
注し、平成9年2月24日ころこれを輸入した(甲第12号証の1~5)。これら
の印刷物は、いずれも表紙の左下部に「DALE CARNEGIE/TRAINING」を二段に記
載して、本件商標を使用しているから、本件商標は、これらの印刷物の輸入によっ
ても、我が国における取引市場において商取引の対象である印刷物に使用されたこ
とが明らかである。
第4 被告の反論
 1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 本件商標の使用について
  (1) 原告は、パンポテンシアは広く一般に講座内容と印刷物の提供を宣伝して
いる旨主張するが、同社が一般市場で宣伝しているのは、「デール・カーネギー・
トレーニング」等の名称を付した教育事業講座であり、甲第6、第7号証の印刷物
を宣伝しているわけではない。これらの印刷物は、同講座の受講生全員に無償で配
布され、受講者以外の者が入手することはできないものであり、同講座を離れて一
般市場において商取引の対象となることはないから、商標法上の商品とはいえな
い。
  (2) 甲第6、第7号証の印刷物は、それぞれ「デール・カーネギー・コー
ス」、「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座の受講者だけに配布
される教材であるから、それぞれ「The/DALE CARNEGIE/Course」、「DALE
CARNEGIE/TRAINING」と三段又は二段に表示されていても、一体に認識するはずで
あり、これらの記載は、社会通念上、本件商標と同一の商標を使用しているとはい
えないというべきである。また、「」マークは、日本において登録商標の表示と
して公認されているわけではなく、このマークを付したからといって登録商標の使
用がされているとはいえない。
  (3) 本件商標は、「ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使
用される場合を除く」として登録されているところ、原告主張の印刷物におけ
る「The/DALE CARNEGIE/Course」等は表題を付したものであって、本件商標を使
用するものとはいえない。
  (4) 甲第8号証の印刷物は、B5判用紙の約4分の1の大きさで6頁から成
り、内容は教えや技法を項目で並べたもので、価格の記載もないから、このような
体裁及び内容からみても、一般市場で流通に供されるものとはいえず、商標法上の
商品には当たらない。
  (5) 原告は、甲第13号証の1~3の印刷物の輸入をしたことをもって、本件
商標の使用に当たる旨主張するが、その輸入部数は極めて少なく、その体裁及び内
容に照らして、一般市場で流通に供されることを目的として輸入されたとは考えら
れない。
第5 当裁判所の判断
 1 本件商標の使用について
  (1) 本件商標の通常使用権者
 甲第5、第6、第9、第15号証及び弁論の全趣旨によれば、パンポテンシ
アは、原告の許諾を得て「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の下に、
「デール・カーネギー・コース」、「デール・カーネギー・セールス・コース」、
「デール・カーネギー・マネージメント・セミナー」等を含む本件講座を主宰して
おり、本件商標についても、平成6年以降その使用許諾を受けた通常使用権者であ
ること、同社は、本件審判請求の予告登録前3年以内である平成6年10月29日
から平成9年10月28日までの間、甲第6~第8号証及び第13号証の1~3の
各印刷物に「DALE CARNEGIE」との表示を付して、これを本件講座に使用するなどし
てきたことが認められる。
 原告は、パンポテンシアのこうした行為は、本件商標を、その指定商品「印
刷物」について使用をするものである旨主張するが、商標法50条の適用上、「商
品」というためには、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物
でなければならず、また、「商品についての登録商標の使用」があったというため
には、当該商品の識別表示として同法2条3項、4項所定の行為がされることを要
するものというべきであるから、この点について以下具体的に検討する。
  (2) 甲第6、第7号証の印刷物について
    甲第6、第7、第9、第10、第15号証及び弁論の全趣旨によれば、甲
第6、第7号証の印刷物は、本件講座(甲第6号証の印刷物については、本件講座
のコースの一つである「デール・カーネギー・コース」)の教材として用いられて
いるものであり、その受講生には配布されるが、同印刷物のみが販売されることは
なく、そのため定価も定められておらず、また、奥書もないこと、甲第6号証の印
刷物は、ビニール貼りの3穴バインダーに、加除可能なように本文が編綴されてい
るものであり、バインダーの表紙には、中央部に大きく三段にわたって「The/DALE
CARNEGIE/Course」と記載されており、本文冒頭の頁にはこれと同じ記載ととも
に、下部に小さく「受講生マニュアル」を意味する「Participant Manual」との記
載があること、その本文は、「このコースは、週1回約3時間の授業で12週間に
亘って行われます。」、「授業は、このマニュアルに書いてある順序に従って行わ
れます。」などと記載されているように、本件講座を受けることを前提とした教材
であって、各講座のポイントのほか、講義において指示されたことを記入するため
の作業欄も設けられていること、甲第7号証の印刷物は、文庫判大、本文12頁の
薄い小冊子で、その表紙には、左上部に大きく「Remember Names」、左下部に小さ
く2段に「DALE CARNEGIE/TRAINING」と記載されていること、その本文は、
「名前を憶える法」を具体例を挙げながら説明するものであることが認められる。
    以上の事実に照らすと、甲第6、第7号証の印刷物は、専ら「デール・カ
ーネギー・コース」等の本件講座の教材としてのみ用いられることを予定したもの
であり、本件講座を離れ独立して取引の対象とされているものではないというほか
なく、したがって、これらを商標法上の商品ということはできない。また、その表
紙に付された「DALE CARNEGIE」の記載については、それぞれ「デール・カーネギ
ー・コース」ないし「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座の教材
であることを示す「The/DALE CARNEGIE/Course」ないし「DALE CARNEGIE
TRAINING」との記載の一部分にすぎないから、題号としての使用にとどまるか、本
件講座に係る役務の出所又は役務の内容を表示するものであって、いずれにせよ、
当該印刷物自体の識別表示と解することはできないから、当該印刷物について本件
商標の使用がされたということもできない。なお、「」のマークは、本来、米国
における商標登録の表示形式であって、日本において登録商標の表示として公認さ
れている法定形式ではないから(商標法73条、同法施行規則17条参照)、これ
が付されていることは、上記判断を左右するものではない。
  (3) 甲第8号証の印刷物について
    甲第8、第15号証及び弁論の全趣旨によれば、甲第8号証の印刷物は、
B7判程度の大きさで本文6頁のごく薄い小冊子であり、「『人を動かす』による
法則」と「『道は開ける』による法則」との各見出しの下に、「人間関係を伸ばす
法/1.批判も非難もしない。苦情もいわない。/2.率直で、誠実な評価を与え
る。3.強い欲求を起こさせる。/4.誠実な関心を寄せる。」等の簡潔な教えが
箇条書きで記され、それ以上に特段の記載のないものであること、その表紙には、
上部に「THE LITTLE GOLDEN BOOK OF RULES」、中段に【C】の肖像写真、その右下
に「Dale Carnegie」、下部に「From HOW TO WIN FRIENDS AND INFLUENCE
PEOPLE and HOW TO STOP WORRYING AND START LIVING」、「1964 Dale Carnegie
& Associates, Inc.」との記載があること、パンポテンシアは、この印刷物を常設
の教室で行う本件講座の教材として使用するほか、顧客の依頼に応じて随時開かれ
る講座において、その参加者に対し、希望に応じて1冊100円で販売したことが
あること、しかし、同印刷物が書店等で一般に販売されることはないことが認めら
れる。
    以上の事実によれば、甲第8号証の印刷物は、上記のような抽象的一般的
で簡潔にすぎる記載内容や、その体裁等からすると、本件講座を受講することを前
提に、その講義内容の理解を助けるためにポイントとなる点を列挙したにすぎない
ものと認められ、独立した読み物としての内容を有していないものであって、本件
講座を離れて市場において独立して商取引の対象となるものとは認められないか
ら、同印刷物についても、これを商標法上の商品ということはできない。ま
た、「Dale Carnegie」との記載についても、上記のような記載態様からする
と、上記肖像写真の人物が故【C】であることを表示しているにすぎないと解され
るものであって、当該印刷物自体の識別表示ということはできないから、当該印刷
物について本件商標の使用がされたということもできない。
  (4) 甲第13号証の1~3の印刷物について
    甲第12号証の1~5、第13号証の1~3、第14、第15号証及び弁
論の全趣旨によれば、パンポテンシアは、平成7年12月ころと平成9年2月こ
ろ、それぞれ原告から、「Dale Carnegie’s Golden Book」と題する英文印刷物
(甲第13号証の1)を114冊及び57冊、「Remember Names」と題する英文印
刷物(同号の2)を91冊及び68冊、「Speak More Effectively」と題する英文
印刷物(同号証の3)を112冊及び56冊輸入したこと、これらの印刷物は、表
紙の左下部に「DALE CARNEGIE/TRAINING」と二段に記載しているなど、前記甲
第7号証の印刷物とほぼ同一の体裁であること(甲第7号証の印刷物は、甲第13
号証の2の印刷物の日本語版であることが明らかである。)が認められる。
    そして、原告は、パンポテンシアによる上記各印刷物の輸入により、本件
商標がこれら印刷物について使用された旨主張するが、パンポテンシアにおいて、
これらの印刷物を一般市場で流通に供することを目的として輸入したものであると
認めるに足りる証拠はなく、むしろ、これらの印刷物と甲第7号証の印刷物との類
似性に照らすと、甲第13号証の1~3の印刷物についても、甲第7号証の印刷物
と同様、専ら本件講座の教材として使用するために輸入されたことが認められる。
そうすると、甲第13号証の1~3の印刷物が原告とパンポテンシア間での取引の
対象となったからといっても、我が国の市場において独立して商取引の対象として
流通に供されたわけではなく、これを商標法上の商品ということはできない。ま
た、これらの印刷物に付されている「DALE CARNEGIE」の記載も、「デール・カーネ
ギー・トレーニング」との名称の講座に使用される教材であることを示す「DALE
CARNEGIE/TRAINING」との表示の一部にすぎず、当該印刷物自体の識別表示であ
ると解することはできないから、当該印刷物について本件商標の使用がされたとい
うこともできない。
 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、
民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官  篠 原 勝 美
    裁判官  長 沢 幸 男
    裁判官  宮 坂 昌 利

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