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平成12(行ケ)149行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年2月22日
事件種別 民事
法令 特許権
民事訴訟法61条1回
特許法64条1回
キーワード 審決30回
実施27回
無効17回
刊行物8回
特許権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第149号 審決取消請求事件
平成13年2月8日口頭弁論終結
             判      決
       原      告    リンテック株式会社
        代表者代表取締役    【A】
        訴訟代理人弁護士    升 永 英 俊
       同           池 田 知 美
      同    弁理士    谷   義 一
      同           橋 本 傳 一
        被      告    三水株式会社
        代表者代表取締役    【B】
        訴訟代理人弁護士    森 田 政 明
        同    弁理士    永 井 義 久
           主      文
        原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成11年審判第35263号事件について平成12年3月28日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  被告は、発明の名称を「記録紙」とする特許第2619728号の特許(平
成2年1月25日出願、平成9年3月11日設定登録、以下「本件特許」といい、
その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
  原告は、平成11年6月3日、本件特許を無効にすることについて審判を請
求した。特許庁は、同請求を平成11年審判第35263号事件として審理した結
果、平成12年3月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、同年4月6日、その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲
(1) 請求項1(以下、この発明を「本件発明1」という。)
 下記(A)と(B)の重量比が1から3の範囲の組成物からなる隠蔽層
(5)が1から20ミクロンの膜厚で着色原紙(1a)、(1b)の表面に形成された
ことを特徴とする、記録紙。
(A)隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子
(B)成膜性を有する水性ポリマー
(2) 請求項2(以下、この発明を「本件発明2」という。)
  タコグラフ用の請求項1の記録紙。
3 審決の理由
  別紙審決書の写しのとおり、原告の主張する無効理由、すなわち、①平成5
年11月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は明細書の要旨を変
更するものであるから、本件特許の出願(以下「本件出願」という。)は、平成5
年11月12日にしたものとみなされるので、本件発明1、2は、本件特許の公開
公報である特開平3-220415号公報(以下「甲第6号証刊行物」とい
う。)、及び特開昭60-223873号公報(以下「甲第7号証刊行物とい
う。)記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものである(理由
イ.)、②本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な
説明には、当業者が容易に実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及
び効果が記載されていない(理由ロ.)との無効理由及び証拠方法によっては、本
件発明1、2に係る特許を無効とすることはできない、と認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1(手続の経緯・本件発明)、2(審判請求人の主張)は認め
る。同3(当審の判断)の(理由イ.について)は、3頁11行の「請求人は」か
ら下から2行の「理解できる。」までを認め、その余は争う。同3の(理由ロ.に
ついて)は、5頁2行から21行まで、27行の「表1の」から28行の「明らか
である。」まで、及び33行から35行までを争い、その余を認める。同4(むす
び)は争う。
  審決は、無効理由イ.ロ.についての判断を誤ったものであって、これらの
誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消され
るべきである。
1 取消事由1(無効理由イ.についての判断の誤り)
  審決は、「『混合割合』を『重量比』に変更する補正は、当初明細書(判決
注・願書に最初に添付した明細書をいうことが明らかである。以下、同じ意味で用
いる。)に記載された範囲内での補正であり、要旨不明であったものを補正により
その要旨を明確にする、すなわち当初明細書の要旨を変更するものとは認められな
い」(4頁17行~20行)と判断したが、誤りである。
(1) 明細書の要旨変更に該当するか否かは、「出願当初の明細書又は図面に記
載した事項」を基準として、その記載上「自明」かどうかによって判断されるべき
である。
 混合割合の基準には「重量」のほか、「容量」や「モル」がある。また、
「重量」でも、各配合成分を水など溶媒を除いた正味の重量であるいわゆる「固形
分重量」や、水など溶媒込みのいわゆる「製品重量」など、多数の基準があり、当
業者の間で、これらの基準が適宜使用されている。
 したがって、本件出願において、当初明細書にいう「混合割合」は「重量
基準による割合」であることが、「出願当初の明細書又は図面に記載した事項」を
基準として、自明であるとは決していえないのである。
(2) 審決は、「一般的に塗布剤のような、液体、固体、分散体など様々な形態
の配合成分を混合してなる組成物は、それらの配合成分の配合割合を記載するにあ
たってはその重量を基準として記載することが最も合理的」(審決書3頁末行~4
頁2行)であるとして、このことを、その判断の根拠の一つとしている。
ア しかし、明細書の要旨変更に該当するか否かは、「出願当初の明細書又
は図面に記載した事項」を基準として、その記載上「自明」かどうかによって判断
されるべきであるから、先行技術や当時の技術水準からみて、「混合割合」という
用語が、重量基準の割合を意味するように用いられることが「最も、合理的であ
る」と仮定しても、そのことは、要旨変更か否かの判断基準にはなり得ない。
イ 次に、「塗布剤のような、液体、固体、分散体など様々な形態の配合成
分を混合してなる組成物」に係わる技術分野においては、組成物の配合成分の配合
割合を記載するに当たっては、一般に、重量基準、容量基準及びモル基準を、適
宜、任意に選択して使用している。そのため、当業者は、このような組成物の配合
割合を記載するときには、その都度、採用した基準を明示している。
 また、本件発明は塗装技術の分野に属する。塗装技術の分野では、容量
基準である顔料容量濃度(顔料の容積/(ビヒクル容積+顔料の容積)×100。
PVCともいう。)も広く用いられており、固形分容量割合という概念が、固形分
重量割合という概念と併存している。そして、単位のない数値として示された場
合、それが固形分比であると仮定しても、数値自体からだけでは、固形分容量割合
なのか固形分重量割合なのかを知ることは困難である。
 さらに、応用化学の分野では、一般に、液体からなる複数の化学成分を
混合する場合、容量基準を用いて計量し、混合することが多い。
 したがって、本件出願において、「配合成分の配合割合を記載するにあ
たってはその重量を基準として記載することが最も合理的」であるということは、
あり得ない。
ウ それどころか、実施例の記載からは、(A)と(B)の重量比を計算し
ようとしても、全く不可能である。
 すなわち、実施例の配合№1において、「ローペイクOP-62 2
5」の数字「25」が、配合割合を示し、重量基準であるものと仮定しても、「2
5」の数値が水その他の液体を含んだ製品全体の重量を表すのか、または、製品中
の固形分の重量を表すのかが、不明である。「アクリルエマルジョンポリマー 1
2・5」の数字「12・5」についても同様である。
 また、配合№1において、アクリルエマルジョンポリマーの「12.
5」の数値が製品重量基準で表示されていると仮定すると、固形分の重量比として
の(A)/(B)を求めるには、アクリルエマルジョンの固形分の濃度が必要とな
る。ところが、実施例の配合№1においては、アクリルエマルジョンポリマーの固
形分の濃度が記載されていないので、アクリルエマルジョンポリマーの固形分の重
量は全く不明である。
 このように、当業者が、実施例の配合№1から、特定の(A)/(B)
の重量比を計算することができないのに、審決のように『重量を基準として記載す
ることが最も合理的であ』ると認定することは、到底できない。
(3) 審決は、「本件特許発明においても、例えば参考例においては酸化チタン
粉末が用いられており、配合割合を示す数字『25』が体積を基準としているもの
とは考えにくく、重量を基準としているものと解するのが妥当である。」(審決書
4頁9行~12行)として、このことをも、その判断の根拠の一つとしている。
 しかし、本件発明の参考例は、酸化チタン粉末が顔料として使用されたも
のであり、その場合、容量基準である顔料容量濃度で表されていることも、十分に
合理的に考えられるからである。
 また、酸化チタンは、固体といっても粉末(粉体)であり、このような粉
末(粉体)の体積を計量容器で計り取ることも、合理的に可能である。粉体や粒子
状のものでも計量カップや計量スプーンで容量を計り取ることは、例えば、小麦
粉、砂糖、塩、米、大豆等について、日常的に行われているところである。
 したがって、たとい本件発明の参考例において酸化チタン粉末が用いられ
ているとしても、その数値は、重量基準に基づくものではなく、容量基準に基づく
ものであると解釈することにも、十分合理性が認められるのである。
(4) 審決は、「また、実施例の各配合例におけるそれぞれの数字の和が100
となっていないことから、各数値が重量%でなく重量部(重量割合)を示している
ことは明らかである。」(4頁12行~14行)とする。しかし、他の成分が記載
されていない可能性も合理的に存在するから、審決の認定は、誤りである。
(5) そして、審決は、本件補正が明細書の要旨を変更するものではないことを
前提として、「甲第6号証及び甲第7号証を検討するまでもなく、請求人の主張す
る上記理由イ.によって本件特許を無効とすることはできない。」(審決書4頁2
3行~25行)としたが、本件補正は明細書の要旨を変更するものであるから、無
効理由イ.について、甲第6、第7号証刊行物を検討しなかった審決には、判断遺
脱の違法がある。
2 取消事由2(無効理由ロ.についての判断の誤り)
(1) 請求人(原告)が記載不備を主張したa.の点について、審決は、無効理
由イ.についての上記認定判断、すなわち、本件発明の実施例における数字「2
5」「12.5」等は重量を基準とした各成分の配合割合を表わしているものと理
解でき、また、配合割合が重量を基準とするものであれば、「37.5%固形分」
も重量を基準とした重量%であると解することができるという認定判断を前提とし
て、本件明細書の記載が不備であるとすることはできないと認定判断した。
 しかし、審決の無効理由イ.についての認定判断は、前述のとおり誤りで
あるから、これを前提とする審決の前記認定判断もまた、誤りである。
(2) 同じく、b.の点について、審決は、「『重量比が1~3』の根拠が記載
されていないことのみをもって明細書の記載が不備であるとすることはできない」
(審決書5頁20行~21行)と認定判断したが、誤りである。
ア 実施例の配合№1の「ローペイクOP-62 25」及び「アクリルエマ
ルジョンポリマー 12・5」の「25」及び「12・5」の数値について、水その他
の液体を含んだ製品全体の重量を表すのか、製品中の固形分の重量を表すのかが不
明であるから、固形分の重量比としての(A)/(B)を求めることができない。
イ 実施例の配合№1ないし№3において、(B)の成分である成膜性を有
する水性ポリマーの固形分濃度が明らかではなく、固形分の重量比としての(A)
/(B)を求めることができないから、重量比が1~3の範囲内にあることを確認
することができない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(無効理由イ.についての判断の誤り)について
  明細書の全記載によれば、「混合割合」は「重量基準での混合割合」である
ことは、極めて明白な事項であるから、これを重量比と明示した本件補正は、当初
明細書記載の範囲内の補正であって、その要旨を変更するものではない。
(1) 本件発明のように、化学反応を伴わず、かつ分子量にばらつきを持った高
分子を扱うものである場合に、「混合割合」がモル比基準でないことはいうまでも
ない。モル比基準は単一分子量の低分子で化学反応を伴う場合の比の基準だからで
ある。
(2) 例えば、当初明細書の実施例の配合No.1には、配合成分を示す「ロー
ペイクOP-62 25」の次の行に、字を繰り下げて「ロームアンドハース社製
品 37.5%固形分」と記載されている。したがって、「ロームアンドハース社
製品 37.5%固形分」の記載は、「ローペイクOP-62」がロームアンドハ
ース社製品であり、その固形分が37.5%であることを示すことは明らかであ
る。
 当初明細書の実施例の記載における各配合成分の固形分について、「%固
形分」の記載は、すべての配合例並びに参考例を通じて統一されている。
 ここに「%固形分」における「%」とは、本件発明の技術分野における不
揮発分測定法の測定単位として用いられる記載であって、その意味は重量%であ
る。これは、JIS規格(JIS K-6833の「不揮発分の計算方法」)をは
じめ、ごく一般的なハンドブックである「エマルジョン・ラテックス ハンドブッ
ク」(株式会社大成社昭和50年3月25日発行。乙第2号証)などで定められ
た、ごく一般的な約束事なのである。
(3) 本件発明は、ポリマーの混合割合を規定するものである。ポリマーの混合
割合の、重量%は、「固形分%」と記載すれば直接測定できるのに対し、容量(体
積)%は、ポリマーの比重と重量%を計算しなければ求められないため、「固形分
%」という記載のみから容量(体積)%を表すことはあり得ない。
(4) 製品カタログ「PRIMAL PARALOID」(ローム・アンド・ハ
ース・ジャパン株式会社平成2年1月発行。以下「乙第3号証の1刊行物」とい
う。)には、中空孔ポリマーである「ローペイクOP-62」を含め、各製品の固
形分に関し「固形分(%)」としか記載されていない。これは、「固形分(%)」
は重量%の意味であるため、あえて「固形分(重量%)」と記載する必要がないか
らである。
(5) また、当初明細書に参考例として掲げられている配合例№5に挙げられた
「Ti-Pure P-610」は、酸化チタン粉末であるから、この配合割合を
示す数値「25」が重量基準に基づくものであることも明らかである。粉末の配合
割合を、原告が主張する容量(体積)基準で表すことは、極めて不自然なことであ
る。
(6) 本件発明により配合されるのは、中空孔を有する水性ポリマーである。そ
の配合割合が容量基準により示されていると仮定した場合、当初明細書には、それ
につき何らの測定方法も開示されていないから、測定不可能であり、これでは、異
なる粒子の配合割合を定めることができない。したがって、配合割合は重量比であ
ると解釈することが、最も合理的である。
2 取消事由2(無効理由ロ.についての判断の誤り)について
(1) 前述のとおり、無効理由イ.についての審決の認定判断に誤りはないか
ら、これが誤りであることを前提とするa.の点に関する原告の主張は、失当であ
る。
(2) b.の点についても、「混合割合」の基準は重量基準であり、配合例にお
いて、例えば、「SBR0629」及び「ニッカゾール TS-662」は、製品
名で特定されているから、当業者であれば製造メーカーのカタログなどから当然に
固形分濃度を知ることができ、これによって重量比を計算することができるもので
ある。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由イ.についての判断の誤り)について
(1) 甲第2号証(当初明細書)によれば、当初明細書には、「本発明は着色さ
れた原紙上に下記の(A)及び(B)成分より成る組成物を塗布し乾燥させると、
原紙上にこの組成物が被覆されて得られる記録紙に関する。(A)隠蔽性を有する
水性ポリマー粒子 (B)成膜性を有する水性ポリマー」(1頁14行~2頁1
行)、「隠蔽性を有する水性ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーの混合割
合は1:9~9:1であり好ましくは1:3~3:1である。」(7頁10行~1
2行)との記載があることが認められる。
 そこで、上記「混合割合」の「1:3~3:1」が重量比であるのか、容
積比であるのかについて、検討する(なお、弁論の全趣旨によれば、本件発明のよ
うに、化学反応を伴わず、かつ分子量にばらつきを持った高分子を扱うものである
場合に、当業者が「混合割合」をモル比基準であると理解することはない、と認め
られる。)。
(2) 弁論の全趣旨によれば、前記(1)認定に係る当初明細書の(A)、(B)
成分の固形分は、いずれも微細な粒子であり(ちなみに、甲第2号証によれば、当
初明細書には、上記(A)成分の粒子径は、5~0.1ミクロンであると記載され
ていることが認められる。)、「ローペイクOP-62」、「ボンコートPP-1
000」、「アクリルエマルジョンポリマー」及び「SBR0629」において
は、それが液体中に分散された状態となっていることが認められる。このように微
細な粒子が液体中に分散されている物の固形分の容量(体積)を計測することが、
不可能ではないにしても、容易でないことは明らかである。一方、乙第2号証
(「エマルジョン・ラテックス ハンドブック」株式会社大成社昭和50年3月2
5日発行)、第6号証(「日本工業規格 化学製品の減量及び残分試験方法」財団
法人日本規格協会昭和41年8月1日発行)によれば、このように微細な粒子が液
体中に分散されている物の固形分の重量は、日本工業規格や基本的な技術書に従っ
て容易に測定することができることが認められる。したがって、当業者は、当初明
細書の「混合割合」の「1:3~3:1」をみれば、それだけで、この割合が重量
基準に基づくもの、すなわち重量比である可能性が高いと認識するものと認められ
る。
(3) 甲第2号証によれば、当初明細書には、更に次の記載があることが認めら
れる。
ア 「実施例1 下記の配合で得られた塗布液・・・
 配合 №1  ローペイクOP-62 25 
          ロームアンドハース社製品 37.5%固形分
        アクリルエマルジョンポリマー 12.5
          BA:Maa=97:3  Tg:-50.5℃
        水  20
        フロラードFC-149(1%)        0.5
          住友スリーエム社製  有効分1%水溶液」(8頁
13行~9頁下から2行)
  「№2    ポーコートPP-1000 25(判決注・「ポーコー
ト」は、「ボンコート」の誤記と認める。なお、甲第3号証によれば、平成3年4
月25日付け手続補正書によって、「ポーコート」は、「ボンコート」と補正され
たことが認められる。)
           大日本インキ化学工業製品 45%固形分
        SBR0629      12.5
          日本合成ゴム製品
          スチレンブタジエンラテックス
        水            20」(9頁末行~10頁
6行。№3、4についても、同様の記載がある。)
イ 「参考例・・・Ti-Pure p-610 25 デュポン社製品 
酸化チタン粉末」(11頁5行~9行)
(4)ア 上記記載によれば、当業者は、「ローペイクOP-62」、「ボンコー
トPP-1000」及び「Ti-Pure p-610」の次の「25」、「アク
リルエマルジョンポリマー」及び「SBR0629」の次の「12.5」につい
て、「混合割合」と同じ基準、すなわち、「混合割合」が重量基準であれば重量、
容量基準であれば容量を示すものと理解するものと認められる。
イ 前記「37.5%固形分」、「45%固形分」等の記載について検討す
る。
(ア) 乙第1号証(「日本工業規格 接着剤の一般試験方法」財団法人日
本規格協会昭和55年2月29日発行)、第6号証、第10号証(「JIS接着
剤・接着用語」財団法人日本規格協会昭和60年11月30日発行)によれば、本
件出願以前から、日本工業規格において、接着剤・接着用語として単に「固形分」
といえば、重量%の趣旨であって、それに用いられる測定方法は、化学製品の一般
的方法であるとされていたことが認められる。
 乙第2号証(昭和50年3月25日発行)によれば、本件出願以前か
ら、エマルジョン・ラテックスの業界においては、単に「全固形分」と称して重量
%を表し、「固形分」の測定と称して重量を測定していたことが認められる。
(イ) 乙第3号証の1(乙第3号証の1刊行物(平成2年1月発行))、
2(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社平成11年7月12日作成の証明
書)によれば、米国の総合化学会社ローム・アンド・ハース社の日本法人ローム・
アンド・ハース・ジャパン株式会社は、同社の製品一覧表である乙第3号証の1刊
行物において、中空孔ポリマーの含有量について、重量%であるものを単に「固形
分(%)」と表示していることが認められる。
 上記事実によれば、上記刊行物が刊行されたころには、中空孔ポリマ
ーの含有量について、重量%であるか、体積(容量)%であるか等の表示を省略し
て、単に「固形分(%)」と表示された場合には、当業者は、重量%の趣旨である
と理解する状態が生まれていたものと認められる。なぜなら、製品一覧表に、趣旨
の不明な記載や誤解を招く記載をすれば、営業活動に支障を生じることは明らかで
あるから、上記記載は、同社及び同社の顧客(本件発明に係る技術分野の当業者と
解される。)の属する業界においては、中空孔ポリマーの含有量について、重量%
であるか、容量%であるか等の表示を省略して、単に「固形分(%)」とした場合
には、同社及び同社の顧客は、それが重量%の意味であると理解することを当然の
前提としたものと考えるべきだからである。
 甲第18号証(「ローペイク OP-62」と題する書面(ローム・
アンド・ハース・ジャパン株式会社発行。発行日不明)によれば、ローム・アン
ド・ハース・ジャパン株式会社は、中空孔ポリマーの「固形分」として、「重量
%」、「容量%」を明記して並記することもあることが認められるけれども、その
場合には、それが「重量%」、「容量%」であることを明記しているのであるか
ら、上記事実は、単なる「固形分%」が、同社及び同社の顧客の属する業界におい
ては、中空孔ポリマーの含有量についての「固形分(%)」が重量%であることが
自明であるとの前記認定を左右するものではない。
(ウ) 乙第11号証(「ニカゾール ニッセツ」日本カーバイド工業株式
会社発行。発行年月日は、2枚目に「昭和57年3月には・・・湘南ファインセン
ターを開設致しました。」との記載があり、東京都千代田区所在の同社本社の電話
番号の局番が3桁であることから、昭和57年ころから平成3年ころまでの間と認
められる。)、第12号証(日本カーバイド工業株式会社作成の平成11年7月1
6日付け証明書)によれば、同社は、エマルジョン型接着剤・粘着剤、溶液型接着
剤・粘着剤、建築塗料用NAD(非水エマルジョン)、紙加工用エマルジョン、塗
料・建材用エマルジョン、繊維加工用エマルジョン等について、重量%であるもの
を、製品一覧表には、単に「固形分 %」と表示していることが認められる。以上
の事実によれば、塗布剤のような、液体、固体、分散体等様々な配合成分を混合し
てなる組成物を取り扱う業界においても、単に「固形分 %」と表示された場合に
は、当業者は、重量%の趣旨であると理解するものと認められる。
(エ) 以上の事実によれば、当業者は、前記「37.5%固形分」、「4
5%固形分」を、重量%であると理解するものと認められる。
(オ) 原告は、「塗布剤のような、液体、固体、分散体など様々な形態の
配合成分を混合してなる組成物」に係わる技術分野においては、組成物の配合成分
の配合割合を記載するに当たっては重量基準、容量基準及びモル基準を、適宜、任
意に選択して使用しており、当業者は、組成物の配合割合を記載するときには、そ
の都度、基準を明示していると主張する。しかし、「塗布剤のような、液体、固
体、分散体など様々な形態の配合成分を混合してなる組成物」に係わる技術分野に
おいて、組成物の配合割合を、基準を明示せず、「固形分(%)」、「固形分 
%」と記載される場合があること、及び、その場合には、重量%を示すものである
とされてきたことは、前認定のとおりであるから、原告の主張は、採用することが
できない。
 また、原告は、本件発明は塗装技術の分野に属し、塗装技術の分野で
は、容量基準であるPVCも広く用いられており、固形分容量割合という概念が、
固形分重量割合という概念と併存していると主張する。しかし、本件全証拠によっ
ても、固形分容量割合について、そのことを記載せず、「固形分(%)」と記載す
ることが一般に行われていると認めることはできないから、固形分容量割合という
概念が、固形分重量割合という概念と併存していることは、以上の認定を左右する
ものではない。
ウ したがって、当業者は、「37.5%」、「45%」は、混合割合を計
算上明らかにするための重量%で示された記載であると認識し、「ローペイクOP
-62」、「ボンコートPP-1000」及び「Ti-Pure p-610」の
次の「25」も、重量基準によるものであると理解するものと認められる。なぜな
ら、一般に重量基準に基づくものとされる形で数値を付記した物について、何の注
記もないのに、容量基準に基づく記載として理解するというのは、不自然かつ不合
理だからである。
 そして、当業者は、上記「25」が重量基準によるものであると認識す
る以上、これと混合するものである、「アクリルエマルジョンポリマー」及び「S
BR0629」の次の「12.5」も、重量基準によるものであると認識すること
は、明らかである。
 そうである以上、当業者は、当初明細書の「混合割合」の「1:3~
3:1」も、重量基準、すなわち重量比であるものと理解するものと認められる。
(5)ア また、前記(3)認定の事実によれば、当初明細書に参考例としてあげら
れているTi-Pure p-610は、酸化チタン粉末であることが認められ
る。そして、粉末は、重量で計測するのが最も自然であることは明らかであるから
(粉末を容器に入れ、その後に軽く容器を揺すると、粉末の体積が減少することか
らも明らかなように、粉末を体積で正確に計測することは困難である。)、当業者
は、「Ti-Pure p-610」の次に記載されている配合割合を示す「2
5」は、重量基準(配合する成分の合計が100でないことから、重量部)による
ものであると認識するものと認められる。
イ 原告は、粉末を計量容器でその体積を計り取ることも合理的に可能であ
って、小麦粉、砂糖、塩、米、大豆等の粉体や粒子状のものでも計量カップや計量
スプーンで容量を量り取ることは日常行われていると主張する。しかし、粉末を体
積によって計測することには、相当な誤差が伴うことは明らかであり、家庭等にお
ける使用であって、相当な誤差が発生することを前提として容認する場合はともか
く、誤差を排除したい場合にも、粉末を体積によって計測することが日常行われて
いるとは考えられない。そして、本件全証拠によっても、本件発明に係る製品のよ
うに品質管理を要求される工業製品において、粉末を体積で計り取ることが日常行
われていると認めることはできない。
 なお、上記「25」を顔料容量濃度25%の趣旨だとすると、配合する
他の物質(ノプコサントK 6、トライトンCF-10 0.5、水 30、ペガ
ールLV-19 12.5)との合計が100%にならないため、不合理である。
したがって、当業者が、これを顔料容量濃度25%の趣旨と認識するものとは認め
られない。原告は、他の成分が記載されていない可能性も合理的に存在すると主張
する。しかし、それでは、参考例について、他の成分が不明であることにより追試
不可能となる。当業者が、明細書の記載について、追試可能な理解を排して、でき
るだけ追試不可能となるように理解しようとするとは認められないから、原告の主
張は採用することができない。
ウ そうである以上、何の説明もなく、配合比率を、参考例についてのみ重
量部で記載し、実施例では、他の比率等で記載するなどというのは、余りにも不自
然であるから、当業者が、実施例についても、参考例同様重量基準で記載されてい
るものと理解することは、この点からも、認めることができる。
(6) 原告は、実施例の配合№1から、特定の(A)/(B)の重量比を計算す
ることができないとして、これを、本件補正が要旨の変更であることの根拠の一つ
として主張する。
 しかし、当業者が、当初明細書の「混合割合」を、重量比であると理解す
る以上、仮に、実施例の配合№1から、特定の(A)/(B)の重量比を計算する
ことができないとしても、それは、発明の詳細な説明が、当業者が容易に実施する
ことができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されているか否かという
問題を生じることはともかく(なお、本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者が
容易に実施することができる程度に本件発明の目的、構成及び効果が記載されてい
ることは、後記認定のとおりである。)、そのことを理由として、「混合割合」を
「重量比」とした本件補正を、明細書の要旨を変更するものであるとすることはで
きない。
 また、原告は、明細書の要旨変更に該当するか否かは、「出願当初の明細
書又は図面に記載した事項」を基準として、その記載上「自明」かどうかによって
判断されるべきであり、「混合割合」は、「重量基準による割合」であることが、
出願当初の明細書又は図面に記載した事項を基準として、自明であるとは決してい
えないと主張する。
 しかし、仮に、明細書の要旨変更に該当するか否かは、「出願当初の明細
書又は図面に記載した事項」を基準として、その記載上「自明」かどうかによって
判断されるべきであるとしても、当初明細書に接した当業者が、そこに記された
「混合割合」を重量比であると理解することは、上述のとおりであり、その意味
で、「混合割合」は、「重量基準による割合」であることが、出願当初の明細書又
は図面に記載した事項を基準として、自明であるということができる。原告の主張
は、前提を欠くものであって、採用できない。
(7) なお、仮に、当業者が、当初明細書の「混合割合」の「1:3~3:1」
が重量比であることについて、断定をするまでには至らないとしても、前記(1)ない
し(5)に認定したところによれば、上記「混合割合」の「1:3~3:1」を重量比
とすることについては、当初明細書に十分に開示されているものというべきであ
る。したがって、本件補正は、単に、重量比であると一応は理解されるものの、重
量比であるのか容量比であるのかに不明瞭な要素が残るものとなっている記載につ
いて、誤解の余地のないように明瞭にしたにすぎないものであって、明瞭でない記
載の釈明に該当する。
 上記のような明瞭でない記載の釈明は、出願公告をすべき旨の決定の謄本
の送達があった後においてさえ、許されるのであるから(平成6年法律116号に
よる改正前の特許法64条)、本件補正のように出願公告をすべき旨の決定の謄本
の送達前にされた補正においても許されることは、いうまでもないところである。
(8) 原告は、本件補正が明細書の要旨を変更するものであることを前提とし
て、甲第6、第7号証刊行物を検討しなかった審決に判断遺脱の違法があると主張
するが、原告の主張が、その前提において誤りであることは、以上に説示したとこ
ろから明らかである。
 原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(無効理由ロ.についての判断の誤り)について
(1) 原告は、無効理由イ.についての審決の認定判断が誤りであることを前提
として、a.の点についての審決の認定判断が誤りであると主張する。しかし、原
告の主張が、その前提において誤りであることは、前記1に説示したところから明
らかであるから、原告の主張は、採用することができない。
(2) 原告は、b.の点について、実施例の配合№1の「ローペイクOP-62
 25」及び「アクリルエマルジョンポリマー 12・5」の「25」及び「12・
5」の数値について、水その他の液体を含んだ製品全体の重量を表すのか、製品中の
固形分の重量を表すのかが不明であると主張する。
 しかし、実施例の配合№1に、「ローペイクOP-62 25」と並列的
に、水の配合割合を重量基準で示したものと認められる「水 20」という記載が
あることは、前記1(3)認定のとおりである。そして、水に「製品中の固形分」が存
在しないことは明らかであるから、上記「20」は、固形分の重量を表したもので
はないこともまた、明らかである。そうである以上、当業者は、これと並列的に記
載されている「ローペイクOP-62」の「25」も、固形分の重量を表したもの
ではなく、製品全体の重量を表したものと理解するものと認められる。
 また、原告は、実施例の配合№1ないし№3において、(B)の成分であ
る成膜性を有する水性ポリマーの固形分濃度が明らかではないから、(A)/
(B)の重量比が1~3の範囲内にあることが確認できないとして、発明の詳細な
説明が、当業者が容易に実施することができる程度にその発明の目的、構成及び効
果が記載されていないと主張する。
 しかし、甲第4号証(本件特許公報)によれば、本件明細書には、「隠蔽
性を有する水性の中空孔ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーの重量比は1
~3であり」(4欄41行~42行)との記載があるから、上記重量比が、実施例
の各配合例にまで逐一記載されている必要はない。そして、本件明細書には、実施
例として、「№2・・・SBR0629 12.5 日本合成ゴム製品 スチレン
ブタジエンラテックス」(6欄12行~16行)、「№3・・・ニカゾールTS-
662 12.5 日本カーバイド工業製品 粘着剤アクリルエマルジョンポリマ
ー」(6欄18行~23行)として、№2、3について、製造業者及び製品名を特
定して記載されているから、当業者がこれらの製造業者から特定された製品を購入
し、これを使用して、№2、3を実施することは容易であるものと認められる。換
言すれば、特定の製品の固形分の重量割合が明細書に記載されていなければ、その
製品を購入して実施することができない、などという筋合いのものではないのであ
る。
 したがって、配合№1のアクリルエマルジョンポリマーの固形分の重量割
合が不明であると否とにかかわらず、発明の詳細な説明が、当業者が容易に実施す
ることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていないというこ
とはできない。
 なお、当業者において、「SBR0629」、「ニカゾールTS-66
2」等の厳密な固形分の重量割合を確認する必要があれば、製造業者に問い合わせ
(例えば、「ニカゾールTS-662」の製造業者である日本カーバイド工業株式
会社が現在も東京証券取引所上場企業であることは、当裁判所に顕著であるから、
問い合わせに支障があるとは考えられない。)、又はカタログにより、これを容易
に知ることができることは明らかである。
3 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決す
る。
       東京高等裁判所第6民事部
             裁判長裁判官     山  下  和  明
 
                裁判官     山  田  知  司
 
                裁判官    阿  部  正  幸

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