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平成12(行ケ)350行政訴訟 商標権

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裁判所 請求棄却 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年2月1日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法3条1項6号4回
商標法3条1項2号1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決14回
無効3回
商標権1回
主文  原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第350号 審決取消請求事件
平成12年12月21日口頭弁論終結
判 決
   原      告      株式会社高島易断総本部
代表者代表取締役      【A】
訴訟代理人弁理士      瀬  谷 徹
同      斎 藤 栄 一
   被      告      【B】
   被      告      【C】
   被      告      【D】
   被      告      【E】
   被      告      【F】
上記5名訴訟代理人弁理士 中 村  政 美
主 文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成9年審判第16887号事件について平成12年8月1日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、別紙(1)に示す構成より成り、指定役務を第42類「占い、易」とす
る登録第3113779号商標(平成4年5月28日出願、平成8年1月31日設
定登録。以下「本件商標」といい、その登録を「本件登録」という。)の商標権者
である。
 被告らは、平成9年、本件登録が商標法3条1項2号、3号、6号に該当す
るとして、これを無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成
9年審判第16887号事件として審理した結果、平成12年8月1日、「登録第
3113779号の登録を無効とする。」との審決をし、同月21日、その謄本を
原告に送達した。
2 審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおり、本件商標は、易占家の間で、易占という
営業を表象する表示として広く普通に使用されてきた地天泰の標章であるから、こ
れを指定役務である第42類「占い、易」に使用しても、これが何人の業務に係る
役務であるかを需要者が認識することができないとし、これを前提に、本件登録
は、商標法3条1項6号に違反してされたものであるから無効とすべきである、と
したものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件商標は、外観、称呼、観念のいずれをとっても地天泰の標章と類似せ
ず、指定役務との関係で自他役務の識別標識としての機能を有しているから、本件
登録が商標法3条1項6号に違反してされたものであるとした審決の認定判断は誤
っている。審決は違法として取り消されるべきである。
 本件商標は、黒色の略正方形の図形にその上半部の中央にえんじ又は赤色の
縦長な長方形を有し、上下等間隔に平行な5本の白線から成る構成を有する。これ
に対して、地天泰の標章は、算木の組合せを表したものであって、上卦が坤卦を表
し、下卦に乾卦を表したものをいい、その構成は、横長四角形を下3段に、横長四
角形の中程が欠けて成る横長四角形を上3段にして成るものである。
 本件商標と地天泰の標章とを比較すると、本件商標が略正方形の一体の構成
から成るのに対し、地天泰の標章は、独立した横長四角形が6段の構成から成るか
ら、外観上大きな差異を有する。この点をおくとしても、本件商標の上半部の中程
は、えんじ又は赤色から成るのに対し、地天泰の標章の上3段の中程は、欠けて成
るものであり、本件商標は、上記えんじ又は赤色の部分が全体の構成に先立ってひ
ときわ目立つものであるから、地天泰の標章とは別異の印象を与えているものであ
る。この点を無視して、別異の印象を与えるような要因は認められないとする審決
は失当であり、本件商標と地天泰の標章とは、この点において、外観上に大きな差
異を有するものである。
 また、本件商標は、特に称呼を生じるものではなく、単なる図形商標である
のに対し、地天泰の標章は、易占において、おのずと「チテンタイ」の称呼を生ず
るものであるので、称呼において非同一、非類似である。
 さらに、本件商標は、前述のとおり特に称呼を生じないことともあいまっ
て、特に観念を生じることがないのに対し、地天泰の標章は、おのずと易占でいう
地天泰の意味合いを有するものであるから、観念においても非同一、非類似であ
る。
 以上のとおり、本件商標は、外観、称呼、観念のいずれにおいても、地天泰
の標章と同一でもなければ類似してもいないのであるから、地天泰の標章と相紛れ
るおそれはない。
 なお、易占でいう64卦中の「天地否」の卦の図形が、「易断」を指定役務
として商標登録出願され、公告され、設定登録されているという事実がある(甲第
18号証の1及び2)。このような審査例が存在することは、ほかならぬ「地天
泰」の図形をはじめ、64卦中の「天地否」以外の図形を「占い、易」の役務に使
用しても、自他役務の識別標識としての機能を有し、商標法3条1項6号に該当し
ないことを示唆するものというべきである。
第4 被告らの反論の要点
 審決の認定判断は、正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
 本件商標と、地天泰の標章として従来使用されてきたものとを比較したと
き、両者は、上3段の中央の欠けた横長四角形の部分が、本件商標においては赤色
であるという点を除き、その他は、すべて同一ということができる。そして、本件
商標において、上記欠けた部分の赤色部分とされることによって、本件商標と、従
来の地天泰の標章として使用されてきたものとで、見る者に与える印象が、異なっ
たものとなるということはできない。結局、本件商標は、単に、地天泰の坤卦の中
央が欠けた部分を赤色に表示しているにすぎず、本件商標が「地天泰」の標章の一
つであることは明らかである。
 「地天泰」の卦は、64卦中、最もめでたい卦とされており、易占家の看板
に描かれているのももっぱらこの卦であることは、周知の事実である。すなわち、
この「地天泰」の卦は、易占業者のシンボル(象徴)とされ、地天泰を表示する標
章は、易占業者により、易占の営業そのものに係るシンボル(象徴)として、広く
普通に看板、旗などに使用されてきているものである。
 したがって、本件商標をその指定役務である「占い、易」に使用しても、需
要者がこれにより何人かの業務に係る役務であることを認識することはできないの
である。
第5 当裁判所の判断
1 本件商標が、その指定役務を第42類「占い、易」とするものであること
は、当事者間に争いがない。
 甲第1号証によれば、本件商標は、別紙(1)のとおり、略正方形の図形を横に
6等分して6本の横長四角形とし、それぞれの横長四角形の間には、等間隔のわず
かなすき間を設け、下3段の横長四角形はすべて黒色とし、上部3段については、
横長四角形の中央部の約5分の1をえんじ又は赤色とし、その余を黒色とした図形
であることが認められる。
2 甲第7号証(1991年(平成3年)ころ徳間書店発行「超能力易断」)、
第9号証(大正14年3月28日【G】発行「易道詳傳 全」)、第10号証(明
治43年5月28日早稲田大学出版部発行「【H】著 漢籍國字解全書 易経
上」)、第11号証(1990年(平成2年)12月30日朝日新聞社発行「中国
古典選1 易(上)」)及び第12号証(平成8年3月1日株式会社虹有社発行
「易入門 正しい易占の要領」)によれば、算木と筮竹とを用いる易占において、
6個の算木によって表される「卦」は、基本的な組合せが8種類あって、これを
「八卦」と称し、さらに、「八卦」を上卦と下卦とし、これを組み合わせて64卦
として構成して、この「卦」から吉凶を読みとるものであること、6個の算木には
「陰」のしるしの面と「陽」のしるしの面とがあり、前者では、横長四角形の中央
に欠けていることを表すしるしが表示されており、後者では、欠けていることを表
すしるしのない横長四角形であり、これら6個の算木によって卦を表すものである
こと、地天泰は、「卦」のうちの一つであり、上3段がいずれも「陰」の面となっ
て「地」(坤)を表し、下3段がいずれも「陽」の面となって「天」(乾)を表し
ており(別紙(2)参照)、易の世界では、64卦中、最もめでたい卦とされているこ
とが認められる。
 また、甲第6号証(1992年(平成4年)2月10日人文書院発行「易と
日本の祭祀 神道への一視点」(初版第6刷、初版第1刷は1984年(昭和59
年)11月29日)によれば、「地天泰」について、「64卦中、もっとも目出度
い卦とされ、周知のように易占家の看板に描かれるのも、専らこの卦である。」
(90頁11行及び12行)との記載があること、甲第13号証(1995年(平
成7年)10月26日ダイヤモンド社発行「易経入門」)によれば、「地天泰」に
ついて、「めでたくて平和であるこの卦は、易者の看板のシンボルとなっていま
す。」(109頁3行)との記載があること、甲第15号証(平成2年11月25
日発行「Glutton」)によれば、同雑誌の高島易断総本部発真会会長【I】
に対するインタービュー記事の冒頭の記者の言葉の部分に、地天泰の標章が「易の
看板」であると記載され、続いて、「これを地天泰といい、地は下方へ向い、天は
上方へ向かうことにより互いに相和し、調和し、そして発展するという最高の卦で
ある。」(62頁)と記載されていることが認められる。
 上記認定の各記載によれば、本件商標の登録出願当時、地天泰の標章を易占
家の看板に使用することが周知の事実となっていたことが認められる。
3 上記認定のとおり、地天泰の卦は、算木の上3段がいずれも「陰」の面、下
3段がいずれも「陽」の面となっているから、その標章は、図形の構成が、中央が
切れていない横長四角形を下3段に、中央が切れている横長四角形のを上3段に
し、各算木の間に若干の間隔をとって配置されて成るものということができる(別
紙(2)参照)。
 一方、本件商標は、前述のとおり、別紙(1)のとおりであって、略正方形の図
形を横に6等分して6本の横長四角形とし、それぞれの横長四角形の間には、等間
隔のわずかなすき間を設け、下3段の横長四角形はすべて黒色とし、上部3段につ
いては、横長四角形の中央部の約5分の1をえんじ又は赤色とし、その余を黒色と
した図形であるから、上3段の横長四角形の中央が切れている部分がえんじ又は赤
色に彩色されている点、各横長四角形の間隔がわずかであり、全体として略正方形
である点に特徴があるだけで、その他の点では、地天泰を表す他の標章と同じこと
になるから、これらの点に格別の意味を認めることができない限り、これを見る者
に、地天泰の表す他の多くの標章と同じく、地天泰を表す標章の一つとして認識さ
れることになることは明らかである。
 ところが、本件全証拠を検討しても、上記格別の意味を認めさせる資料を見
出すことはできないのである。
 そうすると、本件商標は、見る者に、易占家の間で、易及び易占という営業
の象徴(シンボル)として看板などに広く使用されてきた地天泰の他の多くの標章
と同じ意味を有するものと認識されるというべきであるから、これを指定役務「占
い、易」に使用しても、その役務が何人の業務に係る役務であるかを需要者が認識
することはできないことになる。
4 原告は、本件商標と地天泰の標章とを比較すると、本件商標が略正方形の一
体の構成から成るのに対し、地天泰の標章は、独立した横長四角形が6段の構成か
ら成るから、外観上大きな差異を有する旨主張する。
 しかしながら、本件商標は、全体として略正方形の形状をしていると同時
に、独立した横長四角形が6段の構成から成るともみることができるのであり、本
件全証拠によっても、略正方形の形状をしていることが、需要者がこれを地天泰の
標章の一つであると把握し認識することを妨げる事情となるものと認めることはで
きない。なお、前記甲第6号証、第7号証、第9号証ないし第13号証、甲第5号
証(1992年(平成4年)3月20日人文書院発行「陰陽五行と日本の民俗」初
版第11刷の249頁、初版第1刷は1983年(昭和58年)6月4日)、第1
7号証の1(昭和53年日本電信電話公社発行「職業別電話帳(上)名古屋版」4
90頁及び492頁)、同号証の2(昭和54年日本電信電話公社発行「職業別電
話帳(上)横浜市版」898頁)、同号証の3(昭和54年日本電信電話公社発行
「職業別電話帳(下)大阪市、尼崎市、守口市/東大阪市、吹田市、豊中市、門真
市、摂津市、八尾市の一部版」829頁)、同号証の4(昭和54年日本電信電話
公社発行「東京23区職業別電話帳 生活編(下)」620頁)によれば、地天泰
の標章として従来使用されてきたものには、全体としての形状が縦長長方形のもの
が多いとはいうものの、決してそれに限られるわけではなく、主として全体の表示
を横書きとするものにおいて、略正方形のもの(例えば、甲第5号証、甲第17号
証の1の490頁、同号証の2の898頁、同号証の4の620頁)、横長長方形
のもの(例えば、甲第17号証の1の492頁、同号証の3の829頁)なども少
なからず存することが明らかである。
 また、原告は、本件商標は、えんじ又は赤色の部分が全体の構成に先立っ
て、ひときわ目立つものであるから、地天泰の標章とは別異の印象を与える旨主張
するけれども、本件商標の全体の構成が前記のとおりのものであることに照らす
と、えんじ又は赤色の部分が全体の構成に先立って目立つとは考えられない。この
主張は、地天泰の標章が全体として陰陽の組合せによる卦を象徴的に表示した特色
あるものであり、周知となっていることを忘れた議論というべきであり、採用でき
ないことが明らかである。
5 なお、原告は、易占でいう64卦中の「天地否」の卦の図形に係る商標の登
録を認めていることを理由に、審決の判断を非難する。
 しかしながら、本件において問題なのは、本件登録が商標法3条1項6号に
違反してされたものであるかどうかであるから、過去に特許庁で類似事例について
どのような取扱いをしていたかは、本件とは直接には関係がないことである。しか
も、「天地否」の卦の図形に係る商標が設定登録されているという事実のみを取り
上げても、このような事例もあるというだけであり、仮に、この種事案において一
般的に妥当な実務上の取扱いがあり得るとしても、上記事実が、それを証する資料
となるものではないことは明らかである。
6 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれ
を取り消すべき理由は見当たらない。よって、本件請求を棄却することとし、訴訟
費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとお
り判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官 山  下  和  明
      裁判官 宍  戸     充
      裁判官 阿  部  正  幸
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