平成12(ワ)312民事訴訟 特許権
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成13年1月23日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
特許権5回 差止2回 刊行物1回 実施1回 侵害1回 損害賠償1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成12年(ワ)第312号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成12年11月13日
判 決
原 告 ニッタ株式会社
同代表者代表取締役 【A】
同訴訟代理人弁護士 深 井 潔
同補佐人弁理士 辻 本 一 義
同 吉 田 哲
被 告 北辰工業株式会社
同代表者代表取締役 【B】
同訴訟代理人弁護士 野 村 晋 右
同 高 橋 利 昌
同補佐人弁理士 栗 原 浩 之
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙原告主張物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金3000万円及びこれに対する平成12年1月22
日から支払済みまで年5分の割合のよる金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、「紙葉類搬送用無端ベルト」の特許発明の特許権者である原告が被
告に対し、被告が製造、販売する無端ベルトは同発明の技術的範囲に属すると主張
して、その差止め等と損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告及び被告は、いずれも、紙葉類搬送用のベルト等の製造・販売を業と
する株式会社である。
(2) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る明細
書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の特許発明を「本
件発明」という。)を有している。
ア 発明の名称 紙葉類搬送用無端ベルト
イ 登録番号 第2651910号
ウ 出 願 日 昭和62年3月27日(特願昭62-75291号)
エ 公 開 日 昭和63年10月7日(特開昭63-242848号)
オ 登 録 日 平成9年5月23日
カ 特許請求の範囲は、別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄
記載のとおり。
(3) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
A 紙葉類をベルト間の挟み力により搬送するベルトにおいて、
B ベルトの心体に編物を使用し、
C 心体の表裏に被覆層を形成し、被覆層の搬送面となる側に上記編物の凹
凸を維持する程度に約0.03mm以下の薄いゴム層を形成し、
D 前記編物の厚みは繊維径の約2倍とすると共に、
E 前記編物の伸長率は約100~300%としたこと
F を特徴とする紙葉類搬送用無端ベルト。
(4) 被告は、心体に編物を使用し、その搬送面上に周長方向に伸びた波型形状
の凸部を金型により形成した紙葉類搬送用無端ベルト(以下「被告製品」とい
う。)を製造、販売しており、被告製品は、構成要件A、B、Fを充足する。
被告製品の構成について、原告は別紙原告主張物件目録記載のとおりであ
ると主張し、被告は、原告の主張のうち、ベルトの搬送面の幅方向に峰30が存在す
ること、搬送面に形成されるゴム層が心体の凹凸を維持する程度の約0.01mmの薄い
ものであること、編物の厚みTが繊維径の約2倍であること、伸長率が約250%であ
ることについて争っている。
2 争点
(1) 被告製品は構成要件Cを備えているか。
(2) 被告製品は構成要件Dを備えているか。
(3) 被告製品は構成要件Eを備えているか。
(4) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件Cの充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 本件発明は、搬送面の凹凸の製法に特徴があるわけではないから、どのよ
うな製法によりベルトの搬送面に凹凸を付けたとしても、その凹凸が心体の編物の
凹凸を維持する程度のものであれば、構成要件Cを充足することになる。
また、構成要件Cにおいて、ゴム層の厚みに「約0.03mm以下」との制限が
設けられているのは、搬送面に編物の凹凸を維持させ、それによって搬送状態を安
定化させるためであるから、ベルトの搬送面全体がほぼこの厚み以下のゴム層であ
ることを意味し、一部においてこの厚みを超える部分があったとしても、それをも
って同構成要件の充足性が否定されるものではない。
(2) 被告製品において、搬送面上の周長方向に伸びた波型形状の凸部10は金型
により形成されたものであることは認めるが、一方、幅方向には筋状に盛り上がっ
た峰30(原告主張物件目録の第2図参照)が存在し、その位置は心体である編物の
緯糸が連なった部分に一致する。したがって、峰30は編物の緯糸部によって形成さ
れたものである。また、紙葉類搬送用無端ベルトは、3~15%程度引き伸ばされて使
用されるが、峰30はその引き伸ばされた状態においてより明確に現れる。
そして、峰30の部分(心体の編物の緯糸が連なった部分)におけるゴム層
の厚みは約0.03mm以下である。
(3) また、被告製品は、約20時間の走行試験を経ると、金型で形成された波
型形状の凸部10は摩耗により消滅してしまい、搬送面には心体である編物の繊維に
よる凹凸が現れる。同編物はゴムを含浸しているから、編物の繊維が現れた状態に
おいても、繊維の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されている。
(4) したがって、被告製品は、走行試験を経る前、及び走行試験を経た後のい
ずれの状態においても、搬送面に編物の凹凸を維持する程度の約0.03mm以下の薄い
ゴム層が形成されているから、構成要件Cを充足する。
〔被告の主張〕
(1) 構成要件Cの解釈について
ア 本件発明の先行技術が記載された刊行物として、①実開昭58-144
511号公開実用新案公報(考案の名称:「複写機用原稿自動送り用伸縮性ベル
ト」、乙1)、②実開昭56-934号公開実用新案公報(考案の名称:「無端V
ベルト」、乙2)、③特開昭57-81041号公開特許公報(発明の名称:「紙
葉類搬送用無端ベルト」、乙3)がある。特に③の先行技術は、心体に織布を用
い、その心体に0.08mm以下の薄いゴム層が形成され、搬送面の凹凸が織布心体の緯
糸及び経糸の織目により形成されたものであり、これと比較すると、本件発明は、
心体に織布ではなく編物を用いている点、その心体に約0.03mm以下の薄いゴム層が
形成され、搬送面の凹凸が編物の凹凸により緩やかに形成されている点以外は、③
の先行技術と同一である。
イ 原告は、本件発明の特許出願の経過において、上記先行技術の存在を前
提にした拒絶理由通知及び拒絶査定を受け、本件発明が、織物による凹凸ではな
く、編物の凹凸により搬送面に凹凸を形成したものであるという違いを強調し、明
細書の一部をその趣旨に沿って補正(本件公報5欄27~38行)して、ようやく特許
登録が認められたものである。
ウ さらに、本件公報の実施例を示した第3図、第4図においても、編物の
表面に約0.03mm以下の薄い被覆層を形成することにより、被覆層の表面に編物の凹
凸による凹凸が維持され形成されていることが示されている。
エ したがって、仮に本件発明に特許性があると仮定しても、構成要件C
は、搬送面上に編物の凹凸が維持され、かかる編物の凹凸により搬送面が形成され
ていることを指すことが明らかである。
(2) 被告製品の搬送面上の凹凸は、放電加工により金型に形成した畝状の溝模
様を無端ベルトの被覆層の搬送面となるゴム層表面により転写することにより形成
された周長方向に伸びた波型形状の凸部によるものであって、心体の編物の凹凸と
は関係がない。
そして、この方法により搬送面上の凹凸を形成することで、高いグリップ
力が得られ、かつ紙紛や埃が付着してもグリップ力が維持されて、紙葉類を長期に
わたって安定して搬送することができるという独自の作用・効果を有するものであ
る。
また、搬送面側のゴム層の厚さは、約0.01mmの部分もあるが、0.03mmを超
える部分もある。
したがって、被告製品は構成要件Cを充足しない。
(3) 原告の上記(2)の主張は否認する。
被告製品の搬送面には、原告が主張するような峰30は存在しない。
なお、心体の編物面には峰30に相当する峰形状は存在しないから、仮に被
告製品に峰30が存在するとしても、それは、編物の凹凸を維持する程度の薄いゴム
層を形成したことによるものではない。
また、被告製品の高いグリップ力は、通常の使用時の引き延ばされた状態
においても、搬送面の周長方向に伸びた波型形状の凸部から生じているものであ
り、原告が存在すると主張する峰30から生じるものではない。
(4) 原告の上記(3)の主張は否認する。
被告製品は、原告主張のような走行試験や実際の使用状態で容易に摩耗す
るものではない。
仮に被告製品の搬送面が摩耗するとしても、原告が存在すると主張する峰
30がより早い段階で消失するであろうし、摩耗により編物の繊維が現れた状態は、
編物の表面に薄いゴム層が形成された状態でないことは明らかである。
2 争点(2)(構成要件Dの充足性)について
〔原告の主張〕
構成要件Dにおいて、「編物の厚みは繊維径の約2倍とする」としているの
は、心体に用いる編物の厚みを薄くすることにより、周長差を小さくしてベルト相
互間のたわみの発生や無用な摩耗を防止できるという効果を奏するためである。し
たがって、同構成要件における「編物の厚み」とは、ベルトの心体として用いられ
ている状態の編物の厚みをいう。
被告製品の心体として用いられている状態の編物は、繊維径dの約2倍の厚
さを有するから、構成要件Dを充足する。
被告は、少なくとも全体として編物の厚みは繊維径の約2倍となっているわ
けではないと主張するが、本件発明における編物の厚みとは、編み糸が重なってい
る部分の厚みを意味するものであり、被告の同反論は技術的意義を誤ったものであ
る。
〔被告の主張〕
原材料としての状態では、被告製品の編物の厚さを自然な状態で計測すると
約0.6mmであり、繊維径約0.15mmの4倍である。
製造後の状態では、編物の厚さは約0.1mmであり、つぶれて伸びた繊維径約
0.1mmの等倍であって、ごく部分的には約2倍の部分もあるかも知れないが、少なく
とも全体として、「編物の厚みは繊維径の約2倍」となっているわけではない。
3 争点(3)(構成要件Eの充足性)について
〔原告の主張〕
構成要件Eの「伸長率」とは、編物の切断伸び率(切断されるときの伸び
率)のことを意味し、被告製品の切断伸び率は約250%であるから、被告製品は構成
要件Eを充足する。
〔被告の主張〕
原告の主張は争う。
「伸長率」は様々な意味にとり得るものであり、構成要件Eにいう「伸長
率」が原告が述べる意味であると特定する根拠はない。仮に編物の伸長特性として
「切断伸び率」が当業者によく知られているのであれば、構成要件Eにおいてもか
かる用語を用いたはずであり、「切断」の語句も付されていない「伸長率」はむし
ろ別の意味と考えるべきである。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
被告は、平成10年6月以降、被告製品を製造販売し、その総売上高は3億
円以上であり、少なくともその10%の3000万円の利益を得ているから、原告
が、被告の被告製品の製造・販売行為により被った損害は、3000万円と推定さ
れる。
〔被告の主張〕
原告の主張事実は否認する。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 本件発明の構成要件Cは、「(ベルトの)心体の表面に被覆層を形成し、
被覆層の搬送面となる側に上記編物の凹凸を維持する程度に約0.03㎜以下の薄いゴ
ム層を形成する」というものである。
(2) 上記の「被覆層の搬送面となる側に編物の凹凸を維持する程度に……ゴム
層を形成する」ことの意義について検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明に
は次のような内容の記載があることが認められる(甲1)。
ア 本件発明は、紙幣等の紙葉類をベルト間の挟み力により多方向に搬送す
る無端ベルトに関するものであるが、この種の無端ベルトでは、紙葉類を挟むベル
ト間の周長差及び周速差が生じ、ベルトにたるみができて、ベルトの走行が不安定
になるなどの不都合が生じていた。このような不都合を解消するために、従来技術
として、織布心体に被覆層を形成した無端ベルトにおいて、被覆層の搬送面となる
側を薄く形成して織布の凹凸が表われるようにしたものが開発されており、この無
端ベルトは、搬送面に凹凸を形成することによって動摩擦係数を減少させて周速差
の発生を防止ないし抑制することと、搬送面となる側の被覆層を薄くして巻き付け
長さの差を小さくすることによって周長差の発生を防止ないし抑制することを意図
したものであった。
イ 上記のような従来技術においては、強度上あるいは心体保護上ベルトに
必須である被覆層が存在する以上は、被覆層の改良によって周長差、周速差を解消
するには限界があるので、本件発明は、心体を改良することによって、周長差、周
速差の発生を防止ないし抑制しようとするものである。
ウ 本件発明は、織布心体のベルトに比べて伸縮性の大きい編物を心体に用
いることによりベルト間の張力を小さくして、張力によって生じる周長差の発生を
防止ないし抑制するとともに(ただし、乙1によれば、適正な伸縮度を得るため
に、紙葉類搬送用無端ベルトの心体に編物を用いること自体は、本件発明の出願前
の公知技術として存在していたことが認められる。)、編物を用いたことにより、
織布を心体に使用した前記従来技術に比して薄くできるので、被覆層の搬送面とな
る側のゴム層の厚さを約0.03㎜以下に薄く形成したことと合わせて、心体の中心か
ら搬送面までの距離を短縮することができ、その結果、周長差を小さくすることが
できる。
エ さらに、前記従来技術では、「ゴム層の搬送面となる側の凹凸は織布心
体の緯糸及び経糸の編目によって形成されており、編目によって形成された搬送面
の凹凸は緯糸の小きざみな起伏に維持されているので、挟み込み搬送時には、摩擦
係数の高い凸部と摩擦係数の低い凹部とが搬送面相互間においてランダムに接する
こととなるため、動摩擦係数が小きざみに変動することとなり、搬送状態が不安定
になる。」(本件公報5欄28~34行)という欠点があったが、本件発明は、「編物
心体のベルトは搬送面の凹凸が緩やかであるので、搬送面は紙葉類に対して比較的
に連続的に接することとなり、搬送中の動摩擦係数が安定する。」(同5欄35~
38行)
(3) 本件明細書の上記のような記載からすれば、本件発明は、従来技術として
摘示された、織布心体に被覆層を形成した無端ベルトでは、ゴム層の搬送面となる
側の凹凸が織布の織目によって形成され、小きざみな起伏が維持されているので、
動摩擦係数が小きざみに変動し、搬送状態が不安定になるという問題点があったこ
とから、このような問題点を解決するために、心体に編物を用い、その編物の編組
織による緩やかな凹凸が被覆層(ゴム層)の搬送面となる側に維持され表われるよ
うに形成することにより、搬送面が紙葉類に対して比較的連続的に接し、無端ベル
トの搬送面の動摩擦係数を安定させるという効果を得たことに本質的な特徴の一つ
があるというべきである。
上記事実によれば、構成要件Cにいう「被覆層の搬送面となる側に編物の
凹凸を維持する程度に……ゴム層を形成する」ことの意義は、被覆層の搬送面とな
る側に形成される凹凸が、心体の編物の編組織の凹凸によるもの(少なくとも関連
を有するもの)であり、編物の凹凸形状と同様の緩やかな凹凸形状が被覆層表面に
表われることを意味し、しかも、この被覆層の凹凸形状は、搬送面の動摩擦係数の
安定化に効果的な役割を果たす程度のものであることを要すると解するのが相当で
ある。
(4) 前記第2、1、(4)記載のとおり、被告製品の搬送面には、金型により形成
された周長方向に伸びた波型形状の凸部が存在する(この事実は、当事者間に争い
がない。)。
原告は、被告製品には幅方向に筋状に盛り上がった峰30が存在すると主張
するが、被告製品の搬送面の拡大写真(甲9、13)によれば、被告製品の幅方向
に極めてわずかな筋状の凸部(原告のいう峰30)が存在し、この凸部の高さ等の具
体的な状況は判別できないものの、周長方向に伸びた波型形状の凸部に比してその
高さはかなり小さいものであること、被告製品を伸び率3%、5%、7%、10%、15%
に伸ばすと、同凸部は伸び率が大きくなるにつれて多少顕著になるものの極めてわ
ずかな存在であることに変わりはないこと、同凸部以外の搬送面の形状は金型によ
り形成された波型形状の凸部及び凹部により形成されていること、同凸部が心体の
編物の凸部に対応する位置に存するとしても、同編物の凸部のわずかな部分が反映
されているのみで同編物のほとんどの凹凸形状は搬送面に反映されていないことが
認められる。
そうすると、被告製品の搬送面の凹凸は、金型により形成された周長方向
に伸びた波型形状の凸部によりそのほとんどが形成されており、紙葉類との動摩擦
係数を決定する搬送面の形状的因子は、そのほとんどが搬送面の同波型形状の凸部
により決定され、心体の編物の凸部が反映した原告の主張する峰30の部分は、動摩
擦係数の安定化に何ら効果的な役割を果たしていないものというべきである。
したがって、被告製品の搬送面の峰30の存在をもって、構成要件Cの編物
の凹凸を維持する程度に薄いゴム層を形成するとの要件を充足しているとの原告の
主張は理由がない。
(5) また、原告は、被告製品は、約20時間の走行試験を経ると、金型で形成
された波型形状の凸部は摩耗してしまい、心体である編物の繊維による凹凸が現
れ、同編物はゴムを含浸しているから、編物の繊維が現れた状態においても、繊維
の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成されている旨主張する。
そして、甲14(実験報告書)には、被告製品を、ベルト周速度1.8m/sで
27秒走行し、5秒停止するというサイクルを繰り返すという走行実験を行った結果、
5~18時間の走行実験によりベルト中央付近における波型形状の凸部は不鮮明と
なり、約20時間の走行実験により、ベルト中央付近では、その表面ゴム層の摩耗
が進行し、縦方向及び横方向の糸の編み組織が搬送面にかなり鮮明に現れるとの実
験結果が記載されていることが認められる。
被告製品の実際の使用状況、あるいは使用前のならし運転が、上記実験報
告書記載の実験で行われた条件と同一ないし近似するものであることを認めるに足
りる証拠はないが、仮に、被告製品の搬送面の状況が、約20時間の上記走行実験
の後の状態、すなわち、ベルト中央付近では、その表面ゴム層の摩耗が進行し、縦
方向及び横方向の糸の編み組織が搬送面にかなり鮮明に現れた状態であったとして
も、そうした状態は、心体の編物の凸部において繊維が露出した状態であり、同凸
部においては薄いゴム層が何ら存在しない状態であることが推認できる。
この点について、原告は、心体の編物はゴムを含浸しているから、編物の
繊維が現れた状態においても、繊維の周りには約0.03mm以下の薄いゴム層が形成さ
れている旨主張するが、甲14によれば、約20時間の走行実験の後のベルトは、
心体の編物の繊維が露出した状態であり、もはや被覆層の搬送面となる側に薄いゴ
ム層が形成されているとは認められないし、その他、原告の同主張を認めるに足り
る証拠はない。
したがって、走行試験後の摩耗した状態をもって、構成要件Cの編物の凹
凸を維持する程度に薄いゴム層を形成するとの要件を充足しているとの原告の主張
は理由がない。
2 以上によれば、被告製品は、構成要件Cを充足しないから、その余の点につ
いて判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属さないものというべきであ
る。
よって、 原告の本訴請求は理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 小 松 一 雄
裁判官 阿 多 麻 子
裁判官 前 田 郁 勝
別 紙
原告主張物件目録
1 名称
紙葉類搬送用無端ベルト
2 構成
このベルトは、紙葉類をベルト間の挟み力により搬送するものであり、その心
体11は、編物である。前記心体11の表裏には被覆層が形成されており、この被覆層
の搬送面となる側には、周長方向に伸びた波型形状の凸部10と、幅方向に峰30を写
真(第2図)のような形態で有している。
そして、搬送面には、心体の凹凸を維持する程度の約0.01㎜の薄いゴム層12が
形成されている。前記編物の厚みTは繊維径dの約2倍であり、かつ、その伸長率
は約250%である。
3 図面番号及び図面の説明
(1) 第1図は、被告製品の全体図である。第1図におけるベルトの外側が紙葉の
搬送面である。
(2) 第2図は、前記無端ベルトの搬送面の拡大写真である。
(3) 第3図は、ベルト幅方向の断面拡大写真である。
(4) 第4図は、心体である編物の縦の糸と横の糸が重なった部分の断面拡大図で
ある。
第1図・第2図 第3図 第4図
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