平成11(ワ)228民事訴訟 特許権
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成12年12月26日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
特許権24回 実施15回 侵害8回 差止3回 損害賠償1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成一一年(ワ)第二二八号特許権差止請求権不存在確認等請求事件(甲事件)
同年(ワ)第六六〇五号特許権侵害差止等請求事件(乙事件)
判 決
甲事件原告・乙事件被告 エフテック株式会社
右代表者代表取締役 【A】
右訴訟代理人弁護士 藤 田 健
右補佐人弁理士 植 木 久 一
乙事件被告 日星産業株式会社
右代表者代表取締役 【B】
右訴訟代理人弁護士 野 田 宗 典
同 嶋 田 雅 弘
右補佐人弁理士 宮 崎 嘉 夫
甲事件被告・乙事件原告 【C】
乙事件原告 クリーン・テクノロジー株式会社
右代表者代表取締役 【C】
右両名訴訟代理人弁護士 小 松 陽一郎
同 村 田 秀 人
同 内 藤 欣 也
同 山 田 治 彦
右補佐人弁理士 澤 喜代治
主 文
一 甲事件被告・乙事件原告【C】は、同人自ら又は乙事件原告クリーン・テク
ノロジー株式会社の役員あるいは従業員をして、文書又は口頭で、甲事件原告・乙
事件被告エフテック株式会社の製造する別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各
記載の粉塵除去装置が登録第二八五〇一六九号及び登録第二八一九二五一号の各特
許権を侵害し、又は侵害するおそれがある旨告知したり流布したりしてはならな
い。
二 甲事件被告・乙事件原告【C】及び乙事件原告クリーン・テクノロジー株式
会社の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、甲・乙事件を通じて、甲事件被告・乙事件原告【C】及び乙事
件原告クリーン・テクノロジー株式会社の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 甲事件
主文第一項同旨
二 乙事件
1 甲事件原告・乙事件被告エフテック株式会社(以下「被告エフテック」と
いう。)は、別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置及びそ
れを有する排ガス処理装置を製造し、販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡しのた
めの展示をしてはならない。
2 乙事件被告日星産業株式会社(以下「被告日星産業」という。)は、別紙
イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス
処理装置を販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡しの申出をし、又は、販売若しく
は貸渡しのための展示をしてはならない。
3 被告エフテックは、第1項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処
理装置を廃棄せよ。
4 被告日星産業は、第2項記載の粉塵除去装置及びそれを有する排ガス処理
装置を廃棄せよ。
5 右被告両名は、連帯して、乙事件原告クリーン・テクノロジー株式会社
(以下「原告クリーン・テクノロジー」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこ
れに対する平成一一年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払
え。
第二 事案の概要
〔甲事件〕
甲事件は、粉塵除去装置の製造、販売業者である被告エフテックが、「粉塵
除去方法とその装置」に関する登録第二八五〇一六九号の特許権、並びに「気液分
離方法、気液分離装置、粉塵除去方法及びその装置」に関する登録第二八一九二五
一号の特許権の各特許権者である甲事件被告・乙事件原告【C】(以下「原告
【C】」という。)に対し、原告【C】又は同原告が代表取締役を務める原告クリ
ーン・テクノロジーの従業員が、被告エフテックの代理店又はユーザーに、右粉塵
除去装置の製造、販売行為は右各特許権を侵害している等の事実を告知、流布する
ことは、不正競争防止法二条一項一三号の営業上の信用を害する虚偽の事実の告
知、流布に当たるとして、その禁止を求めたものである。
〔乙事件〕
乙事件は、原告【C】及び右各特許権についての独占的通常実施権者である
原告クリーン・テクノロジーが、被告エフテック及び右粉塵除去装置の販売業者で
ある被告日星産業に対し、右粉塵除去装置の製造、販売等は、右登録第二八五〇一
六九号及び登録第二八一九二五一号の各特許権を侵害するものであるとして、その
製造、販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めたものである。
一 争いのない事実等(証拠の掲記がないものは、当事者間に争いがない。)
1 当事者
被告エフテックは、半導体用排ガス処理装置の製造、販売及びメンテナン
ス業務等を目的とする株式会社、被告日星産業は、化学工業用機器(計量器を含
む)、浄化装置、洗浄機器等の売買及び輸出入等を目的とする株式会社、原告クリ
ーン・テクノロジーは、半導体製造装置、大気汚染防止装置等の製造及び販売等を
目的とする株式会社であり、原告【C】は、原告クリーン・テクノロジーの代表取
締役である。
2 原告【C】は、次の各特許権を有している(以下、(一)記載の特許権を
「本件第一特許権」、その発明(請求項1、2)を「本件第一発明」、(二)記載の
特許権を「本件第二特許権」、その発明(請求項9)を「本件第二発明」とい
う。)。
(一)(1) 発明の名称 粉塵除去方法とその装置
(2) 特許番号 第二八五〇一六九号
(3) 出 願 日 平成三年九月九日(特願平三―三〇七二八六号)
(4) 出願公開日 平成六年四月二六日(特開平六―一一四二二五号)
(5) 手続補正日 平成一〇年七月二八日
(6) 設定登録日 平成一〇年一一月一三日
(7) 特許請求の範囲は、別添の本件第一特許権に係る特許公報の該当欄記
載のとおりである。
(8) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
ア 請求項1
A 含塵気流中から粉塵をろ過捕集する為の固定補強あるいは強化さ
れたフィルター1と、
B 可動ブラシからなるフィルター2とで構成されている粉塵除去装
置であって、
C この粉塵除去装置は、
a 可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗取り
すると共に
b その先端部分が前記フィルター1に摺接することによって当該
フィルター1に捕集された粉塵を取り除く
D ことを特徴とする粉塵除去装置。
イ 請求項2
A フィルター1が円筒状で、
B 固且つフィルター2が回転ブラシで形成されてなり、
C この回転ブラシからなるフィルター2の先端部分が前記フィルタ
ー1に摺接しながら回転するように構成されてなる
D 請求項1に記載の粉塵除去装置。
(二)(1) 発明の名称 気液分離方法、気液分離装置、粉塵除去方法及びその
装置
(2) 特許番号 第二八一九二五一号
(3) 出 願 日 平成六年一二月二八日(特願平六―三三九八一三号)
(4) 出願公開日 平成八年七月一六日(特開平八―一八二九一〇号)
(5) 設定登録日 平成一〇年八月二八日
(6) 特許請求の範囲は、別添の本件第二特許権に係る特許公報の該当欄記
載のとおりである。
(7) 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
(請求項9)
Aa 粉塵発生源から導入した粉塵を含有する気体中の油分及び水分
を分離除去する液分離装置で、
b 前記液分離装置が、前記気体を貫流させる円盤状或いは螺旋状
に形成された液分離用回転ブラシと、
c この回転ブラシを駆動する駆動装置と
d この液分離用回転ブラシの周囲を覆う内周面及び内周面に沿っ
て流下した油分及び水分を貯留する底部を有する液分離室とを備える
B 該分離装置で油分及び水分を分離除去された前記気体中の粉塵を
フィルタでろ過して除去する集塵装置とを備える
C ことを特徴とする粉塵除去装置。
3 本件各装置は、本件第一発明の請求項1の構成要件A、Cb、Dを充足す
る。
4 被告エフテックは、別紙イ号装置目録及び別紙ロ号装置目録各記載の粉塵
除去装置(以下それぞれ「イ号装置」、「ロ号装置」といい、イ号装置及びロ号装
置を合わせて「本件各装置」という。)を製造、販売し、被告日星産業は、被告エ
フテックの販売代理店として、本件各装置を販売している。
5 本件紛争の経緯
(一) 原告【C】及び原告クリーン・テクノロジーの従業員は、平成一〇年
一月から同年八月にかけて、被告エフテック及び被告日星産業の取引先に赴き、被
告らの本件各装置の製造、販売行為は、本件第一特許権及び本件第二特許権を侵害
するとして、訴訟を提起する予定であるなどと述べた(以下「本件告知」とい
う。)(甲四、五)。
(二) また、原告【C】は、被告エフテックに対し平成一〇年一一月二四日
付及び同年一二月二一日付内容証明郵便にて、被告日星産業に対し平成一〇年一一
月二四日付内容証明郵便にて、本件各装置を製造、販売することは本件第一特許権
及び本件第二特許権を侵害することになることを理由に、本件各装置を製造、販売
しない旨の確約書の送付、既に製造、販売した製品の総数量及び価額の通知、これ
ら製品の回収及び製造設備の廃棄を求めた(甲六、七)。
6 原告クリーン・テクノロジーは、原告【C】から、本件第一特許権及び本
件第二特許権について、独占的通常実施権の設定を受けている(弁論の全趣旨)。
二 争点
1 本件各装置は、本件第一発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共
通)。
(一) 本件各装置は、請求項1の構成要件Bの「可動ブラシからなるフィル
ター2」及び同Caの「可動ブラシからなるフィルター2が含塵気流中の粉塵を粗
取りする」との構成を備えているか。
(二) 本件各装置は請求項1の構成要件Ca中の「共に」を充足するか。
2 本件各装置は、本件第二発明の技術的範囲に属するか(甲・乙事件共
通)。
3 本件告知は、不正競争防止法二条一項一三号の不正競争行為に当たるか
(甲事件)。
4 損害の発生及び額(乙事件)
三 争点に関する当事者の主張
1 本件各装置の構成について
〔原告らの主張〕
本件各装置の構成は、別紙原告主張イ号構成目録及び原告主張ロ号構成目
録記載のとおりである。
〔被告らの主張〕
後記各争点に関する被告らの主張のとおり、原告ら主張の本件各装置の構
成を争う。
2 争点1(一)について
〔原告【C】らの主張〕
(一) 本件第一発明の請求項1の構成要件B、Caのフィルター2は、含塵
気流中の粉塵を粗取りすることが要件ではあるが、本件第一発明の明細書には「可
動(又は回転)ブラシ」の表現しか使用されておらず、植毛状態を限定することに
ついての記載がないことから、被告エフテックが主張するように、回転軸の上下方
向にわたり密に植毛されていることは、要件となっていない。
(二) 本件各装置のブラシ5a、5bは、含塵気流を流入させて実験した結
果、ブラシの植毛間に多量の粉体が捕集された(乙二、三)ことも明らかなよう
に、粉塵を粗取りする機能を有するから、右構成要件の「可動ブラシからなる含塵
気流中の粉塵を粗取りするフィルター」に該当する。
(三) 被告エフテックは、フィルターの定義を文献から引用し、「二つの空
間を隔てる隔壁あるいは隔膜」と定義することにより、本件各装置のブラシ5a、
5bがその機能を有していないから「フィルター」に該当しないと主張するが、か
かる議論は明細書から離れたものである。本件第一発明の明細書、手続補正書及び
各添付の図面からすれば、含塵気流中の粉塵を粗取りする可動ブラシからなるフィ
ルターの意味内容は自明であり、フィルターの定義は問題にはならない。
また、被告エフテックは、特開昭六〇―一三二六一七号公報において、
粉塵掻き落し用ブラシが粉塵の粗取りをすることが添付図面上容易に理解できると
いうことを前提として、本件第一発明の本質的部分は隔壁としての機能(フィルタ
ー)を可動ブラシに持たせたことにあると主張するが、同公報に何ら記載のない粉
塵の粗取り機能を公知技術の範囲に取り込むべきではなく、同被告の右主張は前提
を欠くものである。
(四) 被告日星産業は、本件各装置が、フィルター装置において可動ブラシ
を用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る公知技術の延長線上にあるもの
である旨主張するが、右主張は、本件各装置がフィルターとしての粗取り機能を有
しないという誤った認識に基づく主張である。
〔被告エフテックの主張〕
(一) 本件第一発明の構成要件Bの可動ブラシからなる「フィルター」と
は、二つの空間を隔てる隔壁あるいは隔膜であり、気体あるいは液体が圧力差によ
ってこの隔壁を通過する際に、異相を分離するものであるので、隔壁あるいは隔膜
の両側の圧力差によって吸引される気体あるいは液体は、強制的にこの隔壁あるい
は隔膜であるフィルターを通過させられることになる。
そして、本件第一発明の公開特許公報(甲一)及び手続補正書(甲二)
の図面には、回転軸の上下方向にわたり密に植毛された可動ブラシが示され、右可
動ブラシは、可動ブラシの上方の空間と可動ブラシの外周方向の空間(この外周方
向の空間は目に見えるほどの広い空間ではないが、円筒状フィルター2の内面との
間に空間の存在が想定されている。)の二つの空間を隔て、フィルターの機能を有
するものであるから、構成要件Bにいう「可動ブラシからなるフィルター2」と
は、右のような回転軸の上下方向にわたり密に植毛された可動ブラシを意味すると
解すべきである。
(二) 本件第一発明出願時の公知技術として、特開昭六〇―一三二六一七号
公報(甲一九)に示された、粉塵掻き落し用ブラシがフィルター表面に堆積した粉
塵を掻き落とす機能を有する粉塵除去装置があり、同公報には、粉塵掻き落し用の
可動ブラシが粉塵の粗取りをすることについて記述がないものの、第2図を見れ
ば、粉塵が右可動ブラシに衝突して払い落とされ、可動ブラシが含塵気流中の粉塵
を粗取りする機能を有することが容易に理解できる。
右公知技術の可動ブラシは、密に植毛されている訳ではなく隔壁又は隔
膜として二つの空間を隔てるものではないので、フィルターとはいえないが、右公
知技術には、可動ブラシをフィルターとして用いることを除き、本件第一発明のす
べての要件が開示されている。
したがって、右公知技術と比較すれば、本件第一発明は、可動ブラシに
隔壁又は隔膜として二つの空間を隔てるフィルターとしての機能を持たせた点にそ
の本質的部分がある。
(三) 本件各装置のブラシ5a、5bは、回転軸4aの平面視において二本
の回転ブラシ5a、5bを対称位置に上端から下端に至るまで各々一八〇度ねじら
れた植毛予定線4m、4nに沿って植設配置される構造になっており、回転軸の上
下方向にわたり密に植毛されておらず、隔壁あるいは隔膜の役割を果たしていない
から、フィルターではない。
そして、このような構造のため、上方から流入された含塵気流は強制的
に植毛間を通過させられることなく、抵抗なしに円筒状フィルター7内の広い空間
全体を満たすことになり、円筒状フィルターの全面でろ過できるものであって、回
転ブラシ体4は、単に円筒状フィルター7に付着した粉塵を掻き取る機能を有する
にすぎず、含塵気流から粉塵を粗取りする機能は有していない。
〔被告日星産業の主張〕
(一) 本件第一発明は、明細書の特許請求の範囲の記載からみて、含塵気流
中から粉塵をろ過捕集するための固定補強あるいは強化されたフィルター1と、可
動ブラシからなるフィルター2を含むことが前提であり、可動ブラシからなるフィ
ルター2は、「含塵気流中の粉塵を粗取りする」ものであることが必要である。し
かるに、本件各装置の回転ブラシ体4は、植毛部分が一八〇度ひねられた構造のも
のであり、含塵気流の流れに対し空間部分が多く、フィルターとしての機能を発揮
するための密な植毛部分を有していないから、本件各装置は「可動ブラシからなる
含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター」を備えていない。
(二) 特開昭六〇―一三二六一七号公報(丙二)、実開昭六一―二〇四六一
八号公報のマイクロフィルム(丙三)、実開昭六二―一九四四一六号公報のマイク
ロフィルム(丙四)、特開昭六二―一四〇六一七号公報(丙五)、実開平二―六一
四一三号公報のマイクロフィルム(丙六)には、いずれもフィルター装置におい
て、可動ブラシを用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る技術が記載さ
れ、同技術は周知であったが、右各技術における可動ブラシは、本件第一発明のよ
うにフィルターを兼ねるものではない。
したがって、密な植毛部分を有せずフィルターとしての機能を備えない
回転ブラシ体4からなる本件各装置は、右従来技術の延長線上にあるものであっ
て、本件第一発明の技術的範囲に属するものではない。
3 争点1(二)について
〔原告らの主張〕
(一) 本件第一発明の請求項1の構成要件Caの「共に」とは、可動ブラシ
からなるフィルター2が、粉塵気流中の粉塵を粗取りする機能を有するとともに、
その先端部分がフィルター1に摺接することによってフィルター1に捕集された粉
塵を取り除くという機能をも有するという意味であり、「同時に」という時間的な
意味ではない。
本件第一発明の明細書中に、粉塵の粗取り機能と、フィルター1に捕集
された粉塵の除去機能とを同時に実施する趣旨の記載があるとしても、それは実施
例の一つとしての記載であって、右二つの機能を同時に行う装置に限定されるもの
ではない。
(二) したがって、仮に本件各装置が、ブラシ5a、5bによる粉塵の粗取
り機能と、フィルター1に捕集された粉塵の除去機能とを同時に実施できない機構
になっているとしても、ブラシ5a、5bが右二つの機能を有する以上、右構成要
件の「共に」との構成を備えている。
〔被告らの主張〕
(一) 本件第一発明の明細書には、「粉塵の粗取りとフィルター1に捕捉さ
れた粉塵の取り除きとは、可動ブラシからなるフィルター2によって同時に行われ
る」【〇〇二二】等の可動ブラシによる粉塵の粗取りと、フィルター1に捕捉され
た粉塵の取り除きとを時間的に同時に行うことを意味する記載があり、早期審査に
関する事情説明書においても、可動ブラシによる前記二つの機能が時間的に同時に
行われることを明確にする説明が追加、補正されたから、請求項1の構成要件Ca
の「共に」は「同時に」の意と解すべきである。
(二) 本件各装置は、ブラシ5a、5bを停止した状態で含塵気流を被告装
置内に流入して円筒状フィルター7で除塵し、円筒状フィルター7の内面に粉塵が
堆積されると、含塵気流の流入を停止して、モーターによりブラシ5a、5bを回
転させて、円筒状フィルター7の内面の粉塵を掻き落とすものであるから、可動ブ
ラシによる粉塵の粗取りと、フィルター1に捕捉された粉塵の取り除きとを「共
に」(すなわち、時間的に同時に)行うとの構成を備えていない。
4 争点2について
〔原告らの主張〕
(一) 本件各装置の構成は、本件第二発明の構成要件をすべて充足する。
(二) 被告エフテックは、本件各装置は液体成分が実質的に存在しない環境
下で使用されることを前提とする粉塵除去装置であると主張する。しかし、本件各
装置は半導体の製造過程で用いられるものであるところ、シランガスを用いた半導
体の製造工程では、酸化ケイ素と水が発生するから、本件各装置をその排ガス処理
工程に用いた場合には、「油分や水分のような液体成分が実質的に存在する環境
下」で用いることになる。
(三) 本件各装置のブラシ5a、5bと同様の構造を有する回転ブラシを用
いて実験した結果、ガス中の水分濃度は、気流入口より気流出口の方が平均して一
三パーセント減少しており(乙五)、また、油分ミストを混入させた含塵気流を流
入させたところ、油分が捕集されたことが確認された(乙八)から、本件各装置に
おいて水分や油分が除去されることは明らかである。
したがって、本件各装置のブラシ5a、5bは、本件第二発明の構成要
件の「液分離用回転ブラシ」に当たり、本件各装置は「粉塵を含有する気体中の油
分及び水分を分離除去する」液分離装置を備えている。
〔被告エフテックの主張〕
(一) 本件各装置は、固体である粉塵を除去する装置であって、液体である
油分や水分を除去する装置ではないから、本件第二発明の構成要件中、「気体中の
油分及び水分を分離除去する液体分離装置」を備えず、また、本件各装置のブラシ
はひねりはあるものの螺旋状といえるものではないから、「円盤状或いは螺旋状に
形成された液分離用回転ブラシ」を備えていない。
(二) 本件第二発明は、油分や水分の液体成分を含む気体について、従来の
粉塵除去装置を用いると、液体成分が粉塵と共にベッタリ付着してフィルターの目
詰まりの原因となっていたという問題点を解決することを目的とするものであり、
気流中から液体成分を捕捉し分離するための液分離用回転ブラシと、この回転ブラ
シの周囲を覆う内周面及びこの内周面に沿って流下した液体成分を貯留する底部を
有する液分離室等を備える液分離装置によって、液体成分を除去する粉塵除去装置
に関するものである。
一方、本件各装置は、あくまでも粉塵等の固体成分の除去を目的とする
装置であり、液体成分が実質的に存在しない環境下で使用されることを前提とする
粉塵除去装置であるから、本件第二発明に必須の液分離用回転ブラシを備えていな
い。
したがって、本件各装置が、本件第二発明の技術的範囲に属さないこと
は明らかである。
〔被告日星産業の主張〕
本件第二発明は、液分離装置と集塵装置とを備える粉塵除去装置を前提と
し、右液分離装置は、液分離用回転ブラシ、同回転ブラシの駆動装置、液分離室と
からなるものであるが、本件各装置は、液体成分を含まない含塵気流を処理する粉
塵除去装置であって、液分離装置を備えていない。
したがって、本件各装置は、本件第二発明の技術的範囲に属するものでは
ない。
5 争点3について
〔被告エフテックの主張〕
前記2ないし4の被告エフテックの主張のとおり、本件各装置は本件第一
発明及び本件第二発明の技術的範囲に属さないから、本件告知は、不正競争防止法
二条一項一三号に該当する。
〔原告【C】の主張〕
争う。
6 争点4について
〔原告クリーン・テクノロジーの主張〕
(一) 被告エフテックは、乙事件訴状送達前の六か月間に、少なくとも本件
各装置一〇〇個を一個当たり約二〇万円で製造、販売、貸渡し等を行い、被告日星
産業は、販売代理店として、右販売、貸渡し等を行った。被告エフテックの得た利
益は右売上合計約二〇〇〇万円の三五パーセントの七〇〇万円、被告日星産業の得
た利益は、同売上合計の一五パーセントの三〇〇万円をそれぞれ下らない。
(二) よって、被告らの行為により原告クリーン・テクノロジーが被った損
害は、特許法一〇二条二項に基づき、右利益額合計一〇〇〇万円となる。
〔被告らの主張〕
原告クリーン・テクノロジーの右主張事実は争う。
第四 争点に対する判断
一 争点1(一)について
1(一) 本件第一発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載が
ある(乙一)。
(1) 【産業上の利用分野】の項
「本発明は、…従来の粉塵ろ過装置では不可能であった微粉塵(直径
〇・三μm以下)ろ過を長期に渡って安定に行うことを目的とした粉塵除去方法と
その装置に関する。」(3欄三一ないし三五行)
(2) 【従来の技術】の項
「従来の微粉塵用フィルター(ヘパフィルター等)は、表面積を大き
く取り、長期にわたって目詰まりを起こさない構造とする為、ギャザー構造等種々
の工夫をこらした再生不可能な使い捨てフィルターが一般的であった。又、より長
期にわたって使用できるように逆圧クリーニング等の工夫が凝らされた再生機能付
きフィルターも使用されていた。」(3欄三七ないし四四行)
(3) 【発明が解決しようとする問題点】の項
「本発明は、これら従来からの粉塵ろ過装置では不可能であった微粉
塵(直径〇・三μm以下)のろ過を、安全なクリーニング機構を設けることによっ
て長期にわたって安定に操業できると共に、構造が単純で製造コストが低く、表面
積を最大限に有効に活用できるフィルター構造を使用した粉塵除去装置及び方法を
提供することを目的とするものである。」(4欄一一ないし一七行)
(4) 【問題を解決するための手段】の項
「本発明に係る粉塵除去装置は、含塵気流中から粉塵をろ過捕集する
為の固定補強あるいは強化されたフィルターと、可動ブラシからなるフィルターと
で構成されている粉塵除去装置であって、この粉塵除去装置は、可動ブラシからな
るフィルターが含塵気流中の粉塵を粗取りすると共にその先端部分が前記フィルタ
ーに捕集された粉塵を取り除くことを特徴とする。」(4欄二二ないし二九行)、
「又、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターは、微粉塵
をろ過できるものであればその形状は特に限定されず、たとえず、円筒状、中空の
円錐状、平面状等の単純な形状でもよいのである。」(4欄三五ないし三八行)、
「即ち、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターが円筒状
で、且つフィルターが回転ブラシで形成されてなり、この回転ブラシからなるフィ
ルターの先端部分が前記フィルターに摺接しながら回転するように構成されてなる
ものでも良く、又はフィルターが中空の円錐状で、且つフィルターが回転ブラシで
形成されてなり、この回転ブラシからなるフィルターの先端部分が前記フィルター
に摺接しながら回転するように構成されてなるものでも良く、或いはフィルターが
平面状であり、且つフィルターが回転ブラシで形成されてなり、この回転ブラシか
らなるフィルターの先端部分が前記フィルターに摺接しながら回転するように構成
されてなるものでも良いのである。」(4欄三九行ないし5欄一行)、
「又、本発明に係る粉塵除去装置においては、フィルターが回転する
のに代えて、フィルターが可動ブラシからなり、この可動ブラシからなるフィルタ
ーがフィルターに摺接しながら直線運動を行うよう構成されてなるものでも良いの
である。」(5欄二ないし六行)、
「更に、本発明に係る粉塵除去装置においては、可動ブラシからなる
フィルターは、含塵気流中の粉塵を粗取りすると共にその先端部分がフィルターに
摺接することによって前記フィルターに捕集された粉塵を取り除くことができるも
のであれば特に限定されず、回転ブラシあるいは上下左右方向に往復する直線運動
を行うものでもよいのである。」(5欄七ないし一三行)
(5) また、実施例を示す概略図【図1】には、可動ブラシからなるフィル
ター2として、回転軸の上下方向にわたり密に植毛されている回転ブラシが示され
ている。
(二) 右明細書の記載には、「可動ブラシからなるフィルター2」の構造に
ついて、実施例の一つとして概略図【図1】に示されるのみで、構成要件の「含塵
気流中の粉塵を粗取りする」との機能的な記載を具体化する記載は見当たらない。
2(一) 次に、出願前の公知技術について検討する。
(1) 特開昭六三―一三二六一七号公開特許公報には、特許請求の範囲を
「金網状フィルター、粉塵掻き落し用ブラシ、粉塵堆積部より成り、該フィルター
表面に堆積した粉塵を連続的または間欠的に掻き落し、該落下粉塵が堆積部に堆積
する構造を特徴とするフィルター装置。」とし、その実施例を示す第2図には、気
流入口から気流出口に向かう途中に設置された平面状のフィルターと、そのフィル
ターの気流入口側に、回転軸に対し放射状に設置された回動可能なブラシが、その
先端がフィルターに接触してフィルターに付着した粉塵を掻き落すことができる位
置に設置された装置が示されており、同図に示された気体の流路及び右ブラシの位
置関係は、流入した気体の少なくとも半分程度が、右ブラシの毛間を通過し、その
後フィルターに導かれるようなものになっている(甲一九、丙二)。
(2) 特開昭五三―三〇一九七号公開特許公報には、防塵マスクにおけるフ
ィルターの粉塵除去に関して、フィルターの外面(空気流入側)と接するブラシを
作動杆により回動ないし摺動可能に設置して、作動杆を回転ないし摺動させること
により、フィルターの粉塵を除去する技術が示されている(甲一四)。
(3) その他、実開昭六一―二〇四六一八号公開実用新案公報のマイクロフ
ィルム(丙三)、実開昭六二―一九四四一六号公開実用新案公報のマイクロフィル
ム(丙四)、特開昭六二―一四〇六一七号公開特許公報、実開平二―六一四一三号
公開実用新案公報のマイクロフィルム(丙六)には、いずれもフィルター装置にお
いて、可動ブラシを用いてフィルターに付着したダスト等を掻き取る技術が記載さ
れている。
(二) 右各公知技術は、いずれも、含塵気体から粉塵をフィルターによって
除去する際、同フィルター表面に付着した粉塵を、同フィルターの気体流入側の表
面にその先端が接触する位置にブラシを設置し、ブラシを回動、摺動させることな
どにより、右粉塵を払い落とす方法に関するものである。
そして、右各公知技術には、右ブラシが粉塵を粗取りするフィルターと
しての機能を有するとの記載はないものの、右ブラシはいずれもフィルター通過前
の含塵気体にさらされているから、フィルターに捕集される以前にある程度の粉塵
が右ブラシに付着する状況にあることが窺われ、とりわけ、前記(1)の公知技術にお
いては、流入した気体の少なくとも半分程度が回転ブラシの毛間を通過して、一定
程度の粉塵の粗取りが行われる状況にあると考えられる。
3(一) さらに「フィルター」の一般的な意味についてみると、「濾過器、フ
ィルター…異相を含む気体、液体が通過する隔壁の両側に圧力差を設けて気体、液
体からその中の懸濁している異相(主に固相)の粒子を効果的に分離する装置の総
称」(化学大辞典〔共立出版〕、甲一七)、「濾過器(filter)…濾過に用いられ
る器具を総称していう。フィルターという場合には、濾過に用いる隔膜状材を指す
ことが多い。」(化学大辞典〔東京化学同人〕、甲一八)、「気固系用ろ過器…じ
んあいを含む気体は、ろ布や特殊なろ紙製のバッグあるいは特別に調整した繊維層
を通過させることにより、固体粒子を捕集する。」(世界科学大事典〔講談社〕、
甲二一)、「濾過…多孔性の膜や層のろ材を通して、気体あるいは液体の流動相の
みを通過させ、混在する固体粒子を分離する操作。」(大百科事典〔平凡社〕、甲
二二)、「濾過…多孔質物質のフィルター(filter、濾材)を通過させることによ
って、液体または気体とその中に含まれている固体とを分離する操作。」(理化学
大辞典〔岩波書店〕、甲二三)とそれぞれ定義されている。
(二) 右各記載によれば、ろ過器ないしフィルターとは、固体粒子を含む気
体の場合でいえば、気体のみを通過させ、気体中に含まれる固体粒子を右膜ないし
層によって捕集するものであって、ろ過の際には、気体をもれなく右ろ過器ないし
フィルターを通過させ、気体の中から固体粒子を分離することが通常の方法である
ことが認められる。
4 そうすると、「含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター」について、本
件第一発明の明細書には、概略図【図1】以外に具体的な解釈の指針となる記載は
なく、前記2記載のとおり、可動ブラシが含塵気流中の粉塵を粗取りする旨の記載
がないものの、流入気体の少なくとも半分がブラシの毛間を通過し、含塵気体がフ
ィルターに到達する前に、ブラシによって一定量の粉塵が捕集(粗取り)される技
術が公知であったのであることに加え、前記3記載のフィルターの一般的な意味内
容を併せ考慮すると、本件第一発明において「可動ブラシからなる含塵気流中の粉
塵を粗取りするフィルター2」は、実施例に示された可動ブラシのように、流入気
体がブラシの毛間を通過する間にブラシの毛により大部分の粉塵が捕集される構造
のものをいうと解すべきである。
5 本件各装置のブラシ5a、5bは、回転軸4aの上端から下端に至るまで
一八〇度ひねりながら反対方向の二方向のみに植毛されている構造のものである。
乙二、三によれば、本件各装置に含塵気流を流入させると、ブラシ5a、5bの全
面にわたって粉塵が捕集され、一定の粗取り機能を有していることは認められる
が、ブラシ5a、5bの構造が右のようなものであるから、含塵気流入り口2aか
ら流入した気体のかなりの部分は、ブラシ5a、5bの毛間を通ることなく、ブラ
シ間の空間を抜けて円筒状フィルター7に導かれる構造となっているものといえ
る。
そうすると、本件各装置のブラシ5a、5bは、本件第一発明の請求項1
の「可動ブラシからなる含塵気流中の粉塵を粗取りするフィルター2」に該当する
とはいえず、本件各装置は構成要件B及びCaの「可動ブラシからなるフィルター
2」との構成を充足しないものというべきである。
二 争点1(二)について
1(一) 本件第一発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載が
ある(乙一)。
(1) 【作用】の項
「本発明において、含塵気流は、まず、フィルター1に摺接しながら
運動する可動ブラシ即ちフィルター2を通過する。この際に、フィルター2が気流
中に含まれる粉塵を粗取りする。」(6欄四ないし七行)、
「本発明において、粉塵の粗取りとフィルター1に捕捉された粉塵を
取り除きとは、可動ブラシからなるフィルター2によって同時に行われる。」(6
欄一六ないし一八行)
(2) 【実施例】の項
「フィルター1内に流入した含塵気流は、モーター5によって回転駆
動され、且つ回転ブラシからなるフィルター2のブラシ部分によって粉塵が粗取り
されると共に、フィルター1によって完全にろ過された後、ろ過済気流出口4から
排出される。」(6欄三三ないし三八行)
(3) 【発明の効果】の項
「可動ブラシからなるフィルターは、含塵気流からの粉塵の粗取りと、
ろ過用フィルターに捕捉された粉塵の取除きとを同時に行うことができるので、構
造がシンプルとなり、粉塵の除去を低コストで行うことができるのである。」(7
欄八ないし一二行)
(二) 明細書の右各記載は、いずれも、可動ブラシによる粉塵の粗取りとフ
ィルター1に捕捉された粉塵を取り除きとが、時間的な意味で同時に行われること
を前提とした記載となっているといえる。
2 出願経過について
(一) 本件第一発明の公開特許公報(甲一)によれば、出願時の特許請求の
範囲は、「含塵気流中から粉塵をろ過捕集する為の固定補強あるいは強化されたフ
ィルター―Ⅰ(円柱状、円錐状、平面状等)及び前処理用のフィルターとフィルタ
ー―Ⅰ表面の粉塵を取り除く両方の機能を持つ可動式ブラシ等(回転運動及び直線
運動)から成るフィルター―Ⅱを備える構造を持つ粉塵除去方法とその装置。尚、
本方法とその装置は単数或いは複数を組み合わせて使用してもよい。」とされ、右
フィルター―Ⅱが、①前処置用のフィルターとしての機能と②フィルター―Ⅰ表面
の粉塵を取り除く機能とを併せ持つことが記載されるものの、同公報の記載中に、
右二つの機能が時間的に同時に行われるか否かについて言及した部分はない。
(二) 原告【C】が本件第一発明について特許庁長官に対して提出した平成
一〇年七月二八日付早期審査に関する事情説明書(甲一三)には、次の記載があ
る。
(1) 「(C)補正案の発明の説明」の項に、請求項1ないし5の発明につ
いて、「可動ブラシからなるフィルター2が、含塵気流中からの粉塵の粗取りとフ
ィルター1に捕集された粉塵の取り除きとを同時に行う為、粉塵除去装置をシンプ
ルな構造とすることができ、低コスト化が図れるという効果を奏する。」、「更
に、可動ブラシからなるフィルター2が、ろ過用のフィルター1に捕集された粉塵
を常時連続して取り除くこと、及び可動ブラシからなるフィルター2によって粉塵
の取り除きをフィルター1の全面に対して行い得ることは、本願発明の趣旨に含ま
れるところであり、長期にわたって安定したろ過能力が得られるとの効果を奏する
と共にフィルター1の表面積を最大限に有効活用できるとの効果をも奏するのであ
る。」と記載されている。
(2) さらに、先行技術文献に示された技術について、
ア 「(D)先行技術文献(イ)(特開昭五三―三〇一九七号公報)と
の対比説明」の項に、同公報記載の技術について「ブラシによる粉塵の掻き落とし
は、フィルターに目詰まりが生じたり、あるいはフィルターの粉塵捕集効果が低下
した際にまとめて行われるのであって、防塵マスクの使用中に常時連続して行われ
るのではない為、長期にわたって安定したろ過能力が得られない上、細かな粉塵を
個人が吸引することになって、安全衛生上重大な問題を有するのである。」との問
題点が、
イ 「(E)先行技術文献(ロ)(実開平三―二六三一七号公報)との
対比説明」の項に、同公報記載の技術について「このスクレーパーによる粉塵等の
剥離は、フィルター表面への粉塵等の付着が増大し、徐々に吸い込み風量が減少し
てきた時点で集塵機の吸引用ファンを一時停止して行うのであって、集塵機が稼働
している間中、常時連続して行われるのではない為、長期にわたって安定したろ過
能力が得られないのである。」との問題点が、
ウ 「(F)先行技術文献(ハ)(実開平三―三四八一九号公報)との
対比説明」の項に、同公報記載の技術について「弾性爪部材によるフィルタ部材へ
の衝撃エネルギーの付与、及びそれに伴う粉塵の払い落としは、フィルタ部材にあ
る量以上の粉塵がたまったと判断された時点で、あるいは所定時間使用したときに
適時行なわれ、また、その際には集塵機の運転を一時停止するものと推測され、よ
って、集塵機が稼働している間中、常時連続して行われるのではない為、長期にわ
たって安定したろ過能力が得られないのである。」との問題点が、
それぞれ指摘されている。
(3) そして、右各問題点の記載に続いて、前記(1)と同内容の本件第一発
明の作用効果の記載がある。
3 右に見たような本件第一発明の明細書及び出願経過からすれば、本件第一
発明は、フィルターに捕集された粉塵のブラシによる除去を間欠的に実施していた
従来技術の欠点を補うため、可動ブラシによる含塵気流中からの粉塵の粗取りとフ
ィルター1に捕集された粉塵の除去とを同時にかつ常時連続的に行うことを特徴と
したものと解すべきであり、請求項1の構成要件Caの「共に」は、右二つの機能
を併せ備えることを意味するとともに、時間的な意味で「同時に」という意味をも
含むものというべきである。
4 甲一五によれば、被告らが製造、販売する粉塵除去装置は、二つのライン
(Aライン、Bライン)に本件各装置を配設して交互に稼働させ、含塵気流中の粉
塵を除去しているラインでは、回転ブラシ体が回転できないように設計されている
こと、したがって、Aラインの回転ブラシ体が回転して円筒状フィルターに堆積し
た粉塵を掻き取っている間は、Bラインが含塵気流の吸引を行い、Aラインは吸引
を行わないこと、反対に、Bラインの回転ブラシ体が回転して円筒状フィルターに
堆積した粉塵を掻き取っている間は、Aラインが含塵気流の吸引を行い、Bライン
は吸引を行わないことが認められる。
そうすると、被告らの製造、販売する本件各装置は、可動ブラシによる含
塵気流中からの粉塵の粗取りとフィルター1に捕集された粉塵の除去とは、時間的
な意味で同時に行うことができない機構になっており、請求項1の構成要件Caの
「共に」、すなわち右両機能を「同時に」行うという要件を充足しない。
三 以上によれば、本件各装置は、請求項1の構成要件B及びCaの「可動ブラ
シからなるフィルター2」との要件並びに構成要件Caの「共に」との要件をいず
れも充足せず、したがって、請求項1に記載の粉塵除去装置であることを要件に含
む請求項2も充足せず、本件第一発明の技術的範囲に属さないものというべきであ
る。
四 争点2について
1 本件第二発明の明細書の【発明の詳細な説明】の欄には、次の記載がある
(甲一一)。
(一) 【産業上の利用分野】の項
(1) 「本発明は、液分を含んだ気体から液分を分離回収する気液分離方法
及び気液分離装置、粉塵発生源から発生する粉塵を捕獲、除去するための粉塵除去
方法及びその装置に係り、特に簡単な構成で、気液分離処理を中断することなく濾
材を浄化することができ、装置の小型化及びコンパクト化を図ることができる上、
メンテナンスがすこぶる簡単になるようにした気液分離方法及び気液分離装置と、
半導体素子製造工程において生成される〇・三μm程度以下の粉塵を長時間にわた
って効率良く捕獲でき、しかも、装置の小型化及びコンパクト化が図れるようにし
た粉塵除去方法及びその装置に関する。」(5欄二ないし一三行)
(2) 「自己再生型の集塵装置を、例えば実際の半導体素子製造工程におけ
る粉塵除去装置をして試用したところ、予想よりも短時間内にフィルタ101の圧
力損失が大きくなり、しかも、ブラシ102を回転させてもフィルタ101を再生
できなくなることが判明した。」(6欄三六ないし四一行)
(3) 「そこで、更に鋭意検討を重ねた結果、半導体製造工程等の粉塵の発
生源で使用される真空ポンプやオイルロータリーなどから漏れた油分、研磨や切断
などに用いる水性或いは油性の工作液などの液体成分が微小滴状になって処理する
気体の中に浮遊したり、ダクトの周面に付着した後、気流に押されたりしてフィル
タ101まで運ばれてその表面に粉塵と共にベッタリ付着してフィルタ101の目
詰まりの原因となり、更に、フィルタ101の周囲に浮遊する粉塵を吸着してフィ
ルタ101の目詰まりを促進することが判明した。」(6欄四二行ないし7欄一
行)
(4) 「しかも、このフィルタ101の表面に付着した油分や水分は気体の
圧力や毛細管現象によってフィルタ101の目の中に浸透して貯留されるのであ
り、また、フィルタ101の表面に粉塵と共にベッタリ付着すると、ブラシ102
に掃いたりした程度ではフィルタ101から除去できなくなり、その結果、再生不
能な目詰まりを起こしていることが確認された。」(7欄二ないし八行)
(二) 【発明が解決しようとする課題】の項
「本発明は、上記技術的課題を解決し、簡単な構成である上、メンテナ
ンスが簡単であり、しかも、気液分離処理と並行してフィルタの浄化が行えるよう
にした気液分離方法と、この気液分離方法を実施できる気液分離装置と、粉塵発生
源、特に半導体素子製造工程から発生する〇・三μm以下の粉塵を長期間にわたっ
て効率良く捕獲でき、しかも、装置の小型化及びコンパクト化を図れるようにした
粉塵除去方法及びその装置とを提供することを目的とする。」(7欄三五ないし四
三行)
(三) 【課題を解決するための手段】の項
(1) 請求項1の気液分離方法に関し、
「液分を含有する気体を液分離用回転ブラシの回転軸心方向の片側か
らその反対側に貫流させると、気体中の液分が液分離用回転ブラシの毛や既に毛に
付着している液分に接触してその毛に付着することにより該液分離用回転ブラシの
毛間に捕捉され、気流から分離される。」(8欄八ないし一三行)、
「この液分離用回転ブラシに捕捉された液分を該液分離用回転ブラシ
の回転に伴い生じる遠心力により該液分離用回転ブラシの周囲に設けた液分離用回
転ブラシの周囲に設けた液分離室の内周面に運ぶ。」(8欄二一ないし二四行)、
「前記内周面に運ばれた液分をこの内周面に沿って落下させ、前記液
分離室の底部に貯留する。」(8欄五〇行ないし9欄二行)
(2) 請求項2の気液分離装置に関し、
「前記本発明第1方法(請求項1の気液分離方法)を実施するため
に、前記気体を貫流させる円盤状或いは螺旋状に形成された液分離用回転ブラシ
と、この液分離用回転ブラシを駆動する駆動装置と、前記液分離用回転ブラシの周
囲を覆う内周面及び該内周面に沿って流下した液分を貯留する底部を有する液分離
室とを備える。」(9欄六ないし一二行)
(3) 請求項3ないし8の粉塵除去方法に関し、
「粉塵発生源からの粉塵を含んだ気体から上記本発明第1方法(請求
項1の気液分離方法)により、液分、すなわち、油分及び水分を除去した後、該気
体をフィルタに導いて該フィルタで濾過することにより粉塵を分離して回収するの
である。」(10欄四六ないし五〇行)
(4) 請求項9ないし21の粉塵除去装置に関し、
「本発明第1装置(請求項2の気液分離装置)と本発明第1装置で油
分及び水分を除去された前記気体中の粉塵をフィルタで濾過して除去する集塵装置
とを備えるのである。」(12欄二九ないし三二行)
(四) 【作用】の項
(1) 「本発明第2方法(請求項3ないし8の粉塵除去方法)及び本発明第
2装置(請求項9ないし21の粉塵除去装置)によれば、粉塵発生源かち粉塵を含
有する気体が液分離装置に導入されて水分、油分などを分離した後に集塵装置に導
入される。従って、集塵装置のフィルタの表面に水分、油分或いはこれらと共にこ
れらに吸着された粉塵が付着するおそれが無くなり、フィルタの目詰まりの進行が
気体中の水分や油分によって促進されることが防止される。」(15欄二ないし九
行)
(2) 「又、集塵装置のフィルタに水分や油分が浸透して残留することも無
くなり、フィルタ内への水分や油分の残留による再生能力の低下ないし喪失が防止
される。」(15欄一〇ないし一三行)
2 本件第二発明は、特許請求の範囲の記載によれば、「粉塵発生源から導入
した粉塵を含有する気体中の油分及び水分を分離除去する『液分離装置』」と「該
分離装置で油分及び水分を除去された前記気体中の粉塵をフィルタでろ過して除去
する『集塵装置』」とを備える「粉塵除去装置」であり、かつ、前記「液分離装
置」が「液分離用回転ブラシ」と、「駆動装置」と、「液分離用回転ブラシの周囲
を覆う内周面及び該内周面に沿って流下した油分及び水分を貯留する底部を有する
『液分離室』」とを備えるという構成になっている。しかるところ、明細書の前記
記載によれば、本件第二発明は、従来、油分や水分の液体成分を含む含塵気流を粉
塵除去装置に通すと、フィルターに液体成分が付着して目詰まりを起こすという問
題点があったため、あらかじめ液分離用回転ブラシや液分離室等からなる「液分離
装置」で液体成分を分離し、その後、液体成分を含まない気体のみを集塵装置のフ
ィルターに導いてろ過することにより、右問題点を解決することを目的とするもの
であるから、本件第二発明において液分離装置を構成する液分離室は、液体成分を
除去した気体中の粉塵をフィルターでろ過して除去する集塵装置とは別に設けられ
ている必要があり(甲一一によれば、明細書の【発明の詳細な説明】の欄中の本件
第二発明に係る粉塵除去装置の三種類の実施例でも、右のような構成の粉塵除去装
置が示されていることが認められ、右の実施例の記載からもこのことが裏付けられ
る。)、また、液分離室は、液分離用回転ブラシを覆う内周面を有し、その内周面
に沿って捕捉した液体成分が流下するような構成のものでなければならないと解さ
れる。
3 原告らの主張によれば、本件各装置は、回転軸4a、ブラシ5a、5bか
らなる回転ブラシ体4が、粉塵除去を行う(本件第一発明でいう「粉塵を粗取りす
る」)とともに、螺旋状に形成された液分離用回転ブラシとして液分離装置を構成
しているとするものであるから、液分離装置と集塵装置とが区別されず、一体にな
ったものであり、この点で、既に本件第二発明の構成とは異なり、技術思想を異に
するものといわざるを得ない。原告らは、円筒状フィルター7とその下にあるボッ
クス9をもって本件第二発明の「液分離室」に当たると主張する趣旨であると解さ
れるが、仮に、右回転ブラシ体4が液体成分を捕捉する機能を有するとしても、そ
の周囲に設けられた円筒状フィルター7が本件第二発明の「液分離室」の内周面に
該当するということはできない。
したがって、本件各装置は、本件第二発明の「液分離室」を備えた「液分
離装置」を有しておらず、本件第二発明の技術的範囲に属さないものというべきで
ある。
五 争点3について
以上によれば、原告【C】又は原告クリーン・テクノロジー従業員による本
件告知は、本件各装置の製造、販売行為が本件第一特許権及び本件第二特許権を侵
害するものであるという点において、虚偽の事実というべきであり、かつ、原告エ
フテックの営業上の信用を害するものと認められるから、不正競争防止法二条一項
一三号の不正競争行為に当たる。
六 よって、乙事件における原告【C】及び原告クリーン・テクノロジーの各請
求はいずれも理由がないから棄却し、甲事件における被告エフテックの請求は理由
があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一二年八月二九日)
大阪地方裁判所第二一民事部
裁判長裁判官 小 松 一 雄
裁判官 阿 多 麻 子
裁判官 前 田 郁 勝
別 紙
イ号装置目録 図面
ロ号装置目録 図面
原告主張イ号構成目録
原告主張ロ号構成目録
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