平成12(ネ)4198民事訴訟 不正競争
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成12年12月5日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
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キーワード |
侵害7回 損害賠償7回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成一二年(ネ)第四一九八号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
一〇年(ワ)第一三三五三号事件、平成一二年一〇月二四日口頭弁論終結)
判 決
控訴人(原告) 株式会社ナコインターナショナル
右日本における代表者 【A】
右訴訟代理人弁護士 吉 田 武 男
同 杉 浦 智 也 子
被控訴人(被告) 有限会社ブルブル
右代表者代表取締役 【B】
被控訴人(被告) 阿部ハトメ株式会社
右代表者代表取締役 【C】
右訴訟代理人弁護士 中 根 秀 夫
同 中 根 秀 樹
主 文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴人の求めた判決
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自金一四五八万円及びこれに対する平成
一〇年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 次の二のとおり、控訴人が当審において予備的請求を追加し、また、次の
三、四のとおり、当審における控訴人及び被控訴人阿部ハトメ株式会社の主張の要
点を付加するほか(被控訴人有限会社ブルブルは、当審における口頭弁論には出頭
しておらず、追加の主張はない。)、原判決の「第二 事案の概要」のとおりであ
る。なお、当裁判所も、「本件第一商品」、「本件第二商品」の用語について、原
判決と同様に用いる。
控訴人は、控訴人が製造した本件第一商品(ネコの手を模した形態のミニゲ
ーム機)と実質的に同一の形態の本件第二商品を被控訴人らが他の玩具メーカーに
製造させ、これを輸入、販売する行為は、不正競争防止法二条一項三号に該当する
として、同法四条に基づき、被控訴人ら各自に対して一四五八万円の損害賠償を請
求したのに対し、原判決は、被控訴人らは、本件第一商品を商品化して市場に置く
に際し、費用及び労力を投下してその制作に関与した者であると認定し、被控訴人
らにとって本件第一商品は、同法二条一項三号に規定する「他人の商品」に該当し
ないと判断して、控訴人の本訴請求を棄却した。
二 控訴人の当審における予備的請求
控訴人は、仮に、被控訴人らが本件第二商品を輸入、販売した行為が、不正
競争行為に当たらないとしても、被控訴人らの右の行為は、控訴人の営業上の利益
を違法に侵害するものであるとして、被控訴人らに対して、民法七〇九条に基づく
損害賠償として同額の金員の請求を予備的に追加した。
三 当審における控訴人の主張の要点
1 被控訴人らが本件第一商品を商品化するに際し、若干の関与をしたことは
否定しないが、その関与の内容は、次のとおり、本件第一商品が被控訴人らの商品
であると評価し得るほどの費用と労力とを被控訴人らが投下したというには程遠い
ものであるといわざるを得ず、本件第一商品は、被控訴人らにとって、不正競争防
止法二条一項三号規定の「他人の商品」に該当する。
(一) 確かに、本件第一商品の外観デザインを最終的に確定するに際し、被
控訴人らが関与したことは否定しないが、これは、控訴人が、日本国内でその商品
を販売することになっていた被控訴人らから、販売者としての立場からの意見を聴
取したものであって、商品そのもの、すなわち、当該ゲームの中身の考案はもちろ
ん、商品のデザインについて最終的に決定したのは控訴人である。このように、商
品の製造元が商品を販売する業者からこの種の意見を聴取することはよくあること
で、特に、本件のように、商品の市場の情報や動向等に疎い国外の商品の開発や製
造業者の場合はその傾向が顕著なのであり、原判決は、この点について事実を誤認
して、被控訴人らの関与の中身を過大に評価したものである。
(二) 本件第一商品のパッケージデザインや取扱説明書について、被控訴人
有限会社ブルブルが決定し、作成したことは、原判決認定のとおりであるが、本件
で問題となっているのは、パッケージや取扱説明書ではなく、商品そのものである
から、これらの点を問題とするのは筋違いである。そもそも、被控訴人有限会社ブ
ルブルがパッケージデザインや取扱説明書を決定・作成したのは、控訴人製造の本
件第一商品を控訴人から購入して、国内で販売するために、その販売元としてした
ものにすぎない。本件のように、外国製品を輸入し、日本国内で販売するケースで
は、国内の販売業者が、国内販売の実情に合わせて、パッケージや取扱説明書を作
成することはよくあることである。原判決の考え方によれば、製造元から商品を購
入した販売業者が、その立場でパッケージや取扱説明書を作成して商品を販売した
場合、商品化のために費用を負担したということになり、そのような販売業者が当
該商品を模倣して製造、販売しても不正競争に当たると判断される余地があり、不
当である。
(三) 原判決は、被控訴人らが新規商品である本件第一商品の一〇万個を市
場に流通させ、販売することによって費用の回収を図ることができるか否かのリス
クを専ら負担したと判示しているが、被控訴人らは、自ら判断の上で利益を追求し
て控訴人から商品を購入して国内市場で販売しようとしたもので、控訴人のリスク
を背負う意思は毛頭なかったものである。原判決の考え方によれば、新規開発商品
を購入する者は、新規の商品化に伴うリスクの負担者となってしまう。
2 仮に、被控訴人らが本件第二商品を輸入、販売した行為が、不正競争行為
に当たらないとしても、被控訴人らの右の行為は、控訴人の営業上の利益を違法に
侵害するものであり、民法七〇九条の不法行為に該当することは、次のとおり明ら
かである。
(一) 被控訴人らが控訴人以外の第三者である香港の玩具メーカーから購入
したと主張する本件第二商品は、控訴人が被控訴人らに販売した本件第一商品と、
商品の外観だけでなく、そのゲームの中味についても実質的に同一である。これ
は、控訴人が被控訴人らに提供した脚本(甲第五号証の一)や被控訴人らが保持し
ていた本件第一商品に関する図面等の資料を被控訴人らが香港のメーカーに交付し
て製造させたものと考えられる。
(二) 本件第一商品の商品化の過程で、商品の形状については被控訴人らの
関与があったことは否定しないものの、控訴人の役割、すなわち、商品の基本的な
形状や中心となるゲームの中味を考案し、商品を具体化させ、控訴人の費用で製造
を手配したこと等を考慮すれば、そのことを熟知していた被控訴人らが、本件第一
商品と形状やゲームの中味を実質的に同一とする本件第二商品を右(一)の方法で第
三者に製造させ、それを輸入し、販売する行為は、違法な行為であり、控訴人の営
業上の利益を侵害する不法行為に該当する。
四 当審における被控訴人阿部ハトメ株式会社の主張の要点
1 控訴人は、原判決の誤りを主張するが、原判決は、本件第一商品の商品化
における被控訴人らの役割を適切に認定したものであり、控訴人の主張は理由がな
い。
2 控訴人の予備的請求について、次のとおり、被控訴人阿部ハトメの行為に
は、控訴人の営業上の利益を侵害する違法性は存在しない。
(一) 控訴人の予備的請求の主張は、そもそも、被控訴人らのいかなる行為
が、控訴人のいかなる権利を侵害し、また、なぜ違法と評価されるのかについて明
らかでない。
(二) また、被控訴人阿部ハトメ株式会社は、被控訴人有限会社ブルブルが
本件第二商品を輸入する際に、その代金決済のために信用状(LC)を組んだにす
ぎず、本件第二商品を販売したのは、被控訴人有限会社ブルブルであって、被控訴
人阿部ハトメ株式会社ではない。
(三) もともと本件商品は、被控訴人らが開発した商品であり、その製造を
控訴人に委託したにすぎない。
そして、被控訴人有限会社ブルブルが第三者に本件第二商品を製造させ
たのは、次の事情による。
すなわち、被控訴人有限会社ブルブルによって本件第一商品が開発され
た後に、控訴人が最初に注文された(平成九年三月一〇日ころ)本件第一商品の一
〇万個を生産開始にこぎ着けるまでに約三か月もかかり、ようやく生産開始した後
も、控訴人がICチップを仕入れることができなかったためにゲーム部分が完成す
ることができず、初回の入荷が平成九年七月の半ばころまで遅れ、しかも、控訴人
による一回の納品は数百個から数千個足らずしかなく、同年八月の終わりころにな
ってようやく合計約九万個が納品されるという状況であった。このために、被控訴
人らは、納期が遅延し、販売の正確な予定も立たないために、納品先から多数のキ
ャンセルを受けるなど、取引先の対応に大変苦労した。そればかりか、控訴人は、
被控訴人らに対して、一方的に、本件第一商品の単価の値上げを要求し、もし、以
後の注文がない場合には、「貴社のデザインを他社及び他の市場に売る。」と申し
渡すなどしたために、いわば、時期ものの本件第一商品を控訴人に発注していたの
ではビジネスにならないと判断したために、被控訴人有限会社ブルブルが他の第三
者に本件第二商品を発注せざるを得なかったのである。
第三 当裁判所の判断
一 不正競争防止法四条に基づく損害賠償請求について
1 当裁判所も、原判決が「第三 当裁判所の判断」として説示するとおり、
被控訴人らは、本件第一商品を商品化して市場に置くに際し、費用及び労力を投下
してその制作に関与した者であり、被控訴人らにとって本件第一商品は、同法二条
一項三号に規定する「他人の商品」に該当せず、控訴人の被控訴人らに対する同法
四条に基づく損害賠償請求は理由がないものと判断する。
2 控訴人の当審における主張は、いずれも、被控訴人らが本件第一商品の商
品化に当たってした行為を、個別に分断して評価して主張するか、原判決摘示の証
拠関係に照らし是認することができない原判決認定に反する事実を前提として主張
するものであり、被控訴人らが本件第一商品を商品化した者であるとの右の認定、
判断を覆すには足りないものであって、失当である。
二 当審における予備的請求(民法七〇九条に基づく損害賠償請求)について
1 原判決認定の前記の事実によれば、本件第一商品の商品化に当たり、被控
訴人らは、その費用と労力とを投下してその制作に関与した者であり、他方、控訴
人も、当該ゲームの商品化の企画を被控訴人らに持ち込み、被控訴人らと協議をし
ながら試作品を作成し、被控訴人らからの注文を受けて本件第一商品の製造に当た
るなどして関与した者であると認められるところ、控訴人と被控訴人らとの間で、
本件第一商品の商品化に当たり、その商品化に関する権利関係につき明確な合意を
取り交わしていなかったことは、弁論の全趣旨に徴し明らかである。
そして、甲第一五号証、第一八号証、乙第一七、第一八号証及び弁論の全
趣旨によると、被控訴人らは、控訴人に対して当初発注した本件第一商品の一〇万
個の納品の時期及び数量、特に納品の遅延について不満を持ち、また、控訴人から
本件第一商品の売買代金単価値上げの要求等を受けたこともあって、本件第一商品
について、以降、控訴人に発注することを取りやめて、被控訴人らは、第三者に対
して本件第二商品の製造を注文して輸入し、日本国内で販売するに至ったことが認
められる。
2 右によれば、本件第一商品の商品化に当たった被控訴人らが、控訴人の同
意を得ることなく、本件第二商品を輸入し、販売したことが、不法行為を構成する
違法な行為であると断ずることは困難であるといわざるを得ず、そのほか被控訴人
らの右行為の違法性を肯定するに足りる権利侵害や法益侵害の具体的な事実につき
主張及び立証はない。
3 したがって、控訴人の被控訴人らに対する民法七〇九条に基づく損害賠償
請求も理由がない。
第四 結論
以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく、控訴人の当審
における予備的請求も理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとお
り判決する。
東京高等裁判所第一八民事部
裁判長裁判官 永 井 紀 昭
裁判官 塩 月 秀 平
裁判官 橋 本 英 史
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