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平成12(行ケ)112行政訴訟 商標権

判決文PDF

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成12年11月14日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項15号3回
キーワード 審決19回
刊行物1回
許諾1回
主文
事件の概要

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判決文

平成12年(行ケ)第112号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告   株式会社ダンエンタープライズ
 代表者代表取締役  【A】
 訴訟代理人弁理士  【B】
 被 告   特許庁長官 【C】
 指定代理人   【D】、【E】、【F】
被告補助参加人  ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナ
ーシップ
 代表者  【G】
 訴訟代理人弁理士  【H】、【I】、【J】
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は参加によって生じたものも含め原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成10年審判第20443号事件について平成12年2月21日に
した審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成4年6月1日、「ROYAL POLO SPORTS CLU
B」の欧文字を横書きして成る商標(本願商標)について、指定商品を第25類
「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,
エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足
袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,
耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下
止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き
手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用
特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」として商標登録出願をしたが(平成4年商標登録
願第119742号)、平成10年11月30日拒絶査定があったので、同年12
月21日審判を請求し、平成10年審判第20443号事件として審理されたが、
平成12年2月21日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、そ
の謄本は同年3月8日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
 (1) 原査定の理由
 原査定は、「本願商標は、アメリカ合衆国ニューヨーク州在の『ザ ポロ ロー
レン カンパニー』が商品『被服、ネクタイ』に使用して本件出願時には既に著名
となっている商標『POLO』の文字を有して成るものであるから、このような商
標を本願商標の指定商品に使用するときには、これがあたかも上記会社あるいはこ
れと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく、その出所につ
いて混同を生じさせるおそれがあるものと認める。したがって、この本願商標は、
商標法4条1項15号に該当する。」旨認定して、本件出願を拒絶した。
 (2) 審決の判断
 (2)-1 株式会社講談社(昭和53年7月20日)発行「男の一流品大図鑑」、
サンケイマーケティング(昭和58年9月28日)発行「舶来ブランド事典『 '84
ザ・ブランド』」の記載によれば、以下の事実が認められる。
 アメリカ合衆国在住のデザイナーである【K】は、1967年に幅広ネクタイを
デザインして注目され、翌1968年にポロ・ファッションズ社(以下「ポロ社」
という。)を設立、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、かばんなどのデザインを始
め、紳士物全般に拡大し、1971年には婦人服の分野にも進出した。1970年
と1973年に服飾業界で最も名誉とされる「コティ賞」を受賞し、1974年
に、映画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優【L】の衣装デザインを担当したこ
とからアメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。このころから、そ
の名前は我が国の服飾業界においても広く知られるようになり、そのデザインに係
る一群の商品には、横長四角形中に記載された「Polo」の文字と共に「by 
RALPH LAUREN」の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の
各標章が使用され、これらは「ポロ」の略称で呼ばれるようになった。
 (2)-2 株式会社洋品界(昭和55年4月15日)発行「月刊『アパレルファッ
ション店』別冊、1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」、株式会社
アパレルファッション(昭和57年1月10日)発行「月刊アパレルファッション
2月号別冊 海外ファッション・ブランド総覧」の「ポロ/POLO」の項、及び
昭和63年10月29日付日経流通新聞の記事によれば、我が国においては、西武
百貨店が昭和51年にポロ社から使用許諾を受け、同52年から【K】のデザイン
に係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、同53年から婦人服の輸入、販売をした
ことが認められる。
 (2)-3 また、【K】のデザインに係る紳士服、紳士用品については、前出「男
の一流品大図鑑」、「舶来ブランド事典『 '84ザ・ブランド』」を始め、株式会社
講談社(昭和55年1月20日)発行「男の一流品大図鑑 '81」、同社(昭和55
年11月15日)発行「世界の一流品大図鑑 '80年版」、同社(昭和56年6月2
0日)発行「世界の一流品大図鑑 '81年版」、株式会社チャネラー(昭和53年9
月20日)発行「別冊チャネラー ファッション・ブランド年鑑 '80年版」、株式
会社講談社(昭和60年5月25日)発行「FASHION SHOPPING 
BIBLE '85 流行ブランド図鑑」などの書籍において、「POLO」、「ポ
ロ」、「Polo」、「ポロ(アメリカ)」、「ポロ/ラルフ・ローレン(アメリ
カ)」等の表題の下に紹介されていることが認められる。
 (2)-4 「Polo」標章に関し、判決においても、「我が国において、遅くと
も本件商標の登録出願がされた昭和59年までには既に、引用標章(Polo)が
【K】のデザインに係る被服等及び眼鏡製品を表す標章であるとの認識が広く需要
者及び取引関係者の間に確立していたものということができる。」旨認定している
(東京高等裁判所平成2年(行ケ)第183号平成3年7月11日判決言渡)。
 (2)-5 さらに、【K】のデザインに係る被服等について使用される標章を模倣
した、偽物ブランド商品が市場に出回っている事実も少なくない。例えば、198
9年5月19日付朝日新聞には、「昨年二月ごろから、米国の『ザ・ローレン・カ
ンパニー』社の・・・『Polo』の商標と、乗馬の人がポロ競技をしているマー
クをつけたポロシャツを・・・売っていた疑い。」なる記事が掲載された。また、
1992年9月23日付読売新聞(東京版、朝刊)、1993年10月13日付読
売新聞(大阪版、朝刊)、1999年9月9日付日本経済新聞等にも同様の記事が
掲載され、昭和63年には既に、我が国において「Polo」の文字、馬に乗った
ポロ競技のプレーヤーの図形などを使用した偽物ブランド商品が出回っていた事実
が認められ、その後も同様な事例が跡を絶たないことをうかがわせる。
 (2)-6 上記(2)-1ないし5で認定した事実を総合すれば、【K】のデザイン
に係る被服等について使用される標章は、「Polo」の文字と共に、「by R
alph Lauren」の文字及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」
などの各標章であると認められるところ、我が国においては、これらの標章を総称
して単に「Polo」、「ポロ」と略称していたということができ、「Polo」
(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される
標章として、本件出願前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識される
に至っていたものと認められ、その認識の度合いは現在においても継続していると
いうのが相当である。
 (2)-7 本願商標は、前記に示したとおりの構成より成るものであるところ、構
成文字全体をもって親しまれた団体名称を表したものとは認め難いし、一連不可分
にのみ認識されるべき格別の理由も見いだし難く、その構成中に、前記(2)-6で認
定した【K】のデザインに係る紳士服、婦人服等の被服及び眼鏡製品について使用
され、我が国においても取引者、需要者に広く認識されている標章と同一綴り文字
より成る「POLO」の文字を有して成るものであることは明らかである。
 してみると、本願商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する取
引者、需要者は、前記の事情からすれば、「POLO」の文字部分に強く印象付け
られ、前記のように広く認識されている標章を連想、想起し、該商品がラルフ・ロ
ーレン、若しくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所
について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
 (2)-8 原告(請求人)は、本願商標は、その構成より「POLO」の文字部分
のみを分離しなければならない理由はなく、また、「POLO」の語は、ポロ競技
及びポロ競技において着用するポロシャツを表示する普通名称であるから、アパレ
ル関連商品については自他商品の識別機能を有しないか、極めて弱いものであり、
かつ、取引者、需要者は、ラルフ・ローレンのポロと他の「POLO」の文字を含
む商標と区別しているから、本願商標をその指定商品について使用しても、「ザ 
ポロ ローレン カンパニー」若しくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに
係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないか
ら、本願商標は登録されるべきである旨主張する。
 しかしながら、「Polo」(ポロ)の標章が、本件出願前には既に、【K】の
デザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、我が国の取引
者、需要者の間に広く認識されていたことは前記のとおりであり、その偽物商品が
市場に多数出回っている事実があること、ポロ競技が我が国においてはさほど馴染
みのあるスポーツではないことなどを総合すれば、ファッション関連の商品に「P
olo」、「POLO」、「ポロ」などの文字を使用した場合は、これに接する取
引者、需要者は、スポーツ競技の名称あるいは商品「ポロシャツ」を表したと理解
するというより、【K】のデザインに係る商品を表したと認識するというのが相当
であるから、本願商標をその指定商品について使用した場合、該商品が、【K】の
デザインに係る商品、ないしはその関連会社の取扱いに係る商品との間に、出所の
混同を生じさせるおそれがないと断ずることはできず、このことは、過去において
「POLO/ポロ」の文字を含む商標が多数併存して登録されている事実が存在す
るとしても、これにより前記認定が左右されるものではない。
 (2)-9 したがって、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとして拒絶し
た原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、審決の理由の要点(2)-7において、取引の実情を勘案することなく、本
願商標の構成中に「POLO」の文字が含まれていることをもって、直ちに本願商
標とラルフ・ローレンに係る「POLO」標章とは商品の出所について混同を生じ
るおそれがあると誤って判断したものであるから、違法であり取り消されるべきで
ある。なお、審決の理由の要点中(2)-1ないし5は認め、(2)-6についてはあえ
て争わない。
 1 「Polo(ポロ)」がポロ競技を意味することは、辞書等において説明さ
れており、本件出願時において、馬に乗ってプレーするスポーツであるポロ競技を
意味することは我が国においても広く知られていた。また、ポロ競技に際してプレ
イヤーが着用する衿つき半袖シャツは古くから「POLO SHIRT/ポロシャ
ツ」と称されており、現在では遊び着的な衿つきシャツを広く指称する普通名称と
なっている。そして、商品「POLO SHIRT/ポロシャツ」は、本件出願当
時、我が国の取引の実際において、「POLO」「ポロ」と略称されている。
 このように、「POLO」「ポロ」の語は、「ポロ競技」を意味する既存の英単
語であり、また我が国において商品「被服」について自他商品の識別機能を果たし
得ない普通名称であるから、商品「被服」について使用される商標の一部に「PO
LO」の文字が含まれていることをもって、取引者、需要者が直ちにラルフ・ロー
レンに係る「POLO」標章を想起すると結論づけることはできない。
 2 商品「ポロシャツ」はラルフ・ローレンの本国である米国でも、「POL
O」と略称されているし、フランス国においても同様である。したがって、「PO
LO」の語は、米国、フランス国においても商品「被服」について自他商品の識別
機能を果たし得ない普通名称であり、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体
の発展等に伴い、一般消費者が海外の流行に直接触れる機会が多いことからする
と、日本においても、「POLO」の語は普通名称とみるべきである。
 先使用主義法制を採用する米国において「POLO」を含む商標が「被服」「時
計」「眼鏡」等を指定商品として、複数の第三者によって多数登録されている。こ
のことも、本願商標の登録の可否に関して考慮すべき取引の実情の一つである。
 3 ラルフ・ローレンは、「POLO」の文字を「Polo by RALPH LAUREN」ある
いは「POLO RALPH LAUREN」として、「RALPH LAUREN」と関連づけて長年商品「被服
等」に使用することにより「POLO」の文字とラルフ・ローレンとの関連性を強
くアピールしている。したがって、「POLO RALPH LAUREN」の語の存在を抜きにして
「POLO」の語そのものに強い自他商品識別力を認めることはできない。
 4 本願商標がラルフ・ローレンに係る「POLO」標章と商品の出所について
混同を生じるか否かについては、上記の事情を勘案して、遅くとも査定時(審決
時)までに、本願商標中の「POLO」の文字部分が、取引の実際において、独立
して自他商品の識別機能を発揮する部分として認識される外観上、観念上あるいは
称呼上の要素があるか否かによって決定されなければならない。各要素について
は、以下のとおりである。
 (1) 外観上の要素
 本願商標は、「ROYAL」「POLO」「SPORTS」「CLUB」の各語を同一の書体で表し、
等間隔で左横書きに配した構成のものである。各語は日本人にとってなじみの深い
簡潔な英単語である。したがって、本願商標の外観構成上、取引の実際において
「POLO」の文字部分が独立して自他商品の識別機能を発揮する部分として分離
抽出される要素はない。
 (2) 観念上の要素
 ポロ競技は、欧米の富裕層が楽しむスポーツ競技で高級イメージがある。そし
て、本願商標は、「王の」あるいは「王者の」を意味する「ROYAL」の語と、「ポロ
競技」を意味する「POLO」の語と、「スポーツクラブ」を意味する「SPORTS
CLUB」の語を結合した商標である。また、欧米には各地にポロ競技のクラブが多数
存在しており、ポロ競技はいわゆる貴族趣味のスポーツであることから、これらの
語は観念的に密接な関連性を有している。各語は日本人にとってもなじみ深い簡潔
な英単語であるから、観念上、本願商標中の「POLO」の文字部分が独立して自
他商品の識別機能を果たすと認識すべき要素はない。
 (3) 称呼上の要素
 前述のとおり、本願商標は、外観構成上一体的に表示されていること、本願商標
を構成する各語はいずれも日本人にとってもなじみの深い簡潔な英単語であり、こ
の四者が一体となったからといって、全体の称呼が冗長になるものではない。この
ことと、本願商標を構成する各語は観念的にも密接な関連性を有していること、
「POLO」の語はポロシャツの略称としてファッション関連商品の取引者、需要
者に広く知られていることなどからすると、本願商標中の「POLO」の文字部分
に相当する「ポロ」の称呼が独立して自他商品の識別機能を果たすと認識しなけれ
ばならない要素はない。
 したがって、本願商標からは「ロイヤルポロスポーツクラブ」の一連の称呼のみ
が生じるから、「ポロ」の称呼を生じるラルフ・ローレンに係る「POLO」標章
とは商品の出所について混同を生じるおそれはない。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 「Polo」の標章は、被服などのファッション関連の商品分野において、
【K】のデザインに係る被服等について使用される標章を総称するものとして、そ
の取引者、需要者の間に広く認識されているものであり、我が国において、「Po
lo」を始め、「by Ralph Lauren」及び「馬に乗ったポロ競技のプ
レーヤーの図形」などの各標章を真似た偽物を、「【K】のデザインに係る商品」
などと触れ込んで販売している事実があること、及び、我が国においてポロ競技が
馴染みの薄いスポーツであることなどを総合して勘案すれば、被服などのファッシ
ョン関連の商品に「Polo」、「POLO」、「ポロ」などの文字を使用した場
合は、これに接する取引者、需要者は、スポーツ競技の名称を表したと理解すると
いうより、【K】のデザインに係る商品であると認識するというべきである。
 すなわち、ラルフ・ローレンの「Polo」標章は、我が国の被服等の商品分野に
おいては、その取引者、需要者に広く認識されており、その結果、「Polo」を
始め、「by Ralph Lauren」及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤー
の図形」などの各標章を真似た偽物商品が多数販売されている実情よりすれば、極
めて強い自他商品の識別機能を有するものというべきである。
 2 我が国におけるポロ競技の知名度についてみれば、一般世人が購読する「ス
ポーツ用語」(株式会社教育社、1992年11月25日発行)、「ニュースポー
ツ百科」(株式会社大修館書店、1995年9月20日発行)及び高等学校などの教
材に使用される「NEW COLOR SPORTS 1995」(一橋出版株式会
社、1995年4月1日発行)には、「ポロ競技」についての掲載はなく、また、
1998年1月17日付読売新聞(東京、夕刊6頁)には、「『ポロ』の国内初の
競技場が、福岡県粕屋町に建設されることになった」ことに関する記事において、
ポロ競技は「日本では競技人口約30人の超マイナースポーツ。」なる記載があ
る。このようなことからすると、「ポロ競技」は、我が国においては、その愛好者
は極めて少なく、馴染みの薄いスポーツである。
 3 原告主張のように、商品「ポロシャツ」が取引の実際において、「POLO
/ポロ」と略称されている事実があるとしても、これを示す刊行物の多くが、ラル
フ・ローレンの「Polo」標章の著名性が確立された以降の平成7年から11年に
発行されたものであるところから、ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性に
引きずられたものとみられないこともない。ラルフ・ローレンの「Polo」標章の
著名性が確立された昭和50年代後半(ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名
性が確立された時期)より前に発行された、同文書院(1979年7月5日増補第
10刷)発行「田中千代 服飾事典」、文化出版局(昭和54年4月13日第2刷)
発行「服飾辞典」、株式会社洋品界(昭和53年1月10日重版)発行「現代衣料
事典」、文化服装学院出版局(昭和44年5月20日3版)発行「服装大百科事典
下巻・上巻」には、「ポロ」(polo)の語が「ポロシャツ」の略称であることに
ついての記載は見当たらないし、それ以後に発行された、株式会社誠文堂新光社
(昭和63年6月10日)発行「ファッション用語ハンドブック」、株式会社朝倉
書店(1997年7月1日初版第1刷)発行「被服学辞典」、文化出版局(199
9年3月31日第1刷)発行「ファッション辞典」などの服飾辞典類にも、「ポ
ロ」の語が「ポロシャツ」の略称であるとの記載がないものも存在する。
 4 原告主張のように、米国において「POLO」を含む商標が第三者により登
録されている事実があるとしても、米国の商標法による商標の保護制度と日本の商
標法による商標の保護制度とは、米国と日本との間に国情の相違があるように、同
一のものと解釈しなければならない事情は存しないばかりでなく、前記したよう
に、我が国においては、「Polo」標章を含めた外国の著名商標の偽造品の製造
販売が跡を絶たない実情にあることよりすれば、著名商標の保護は一層重要度を増
している。
 5 ポロ競技は、我が国において、一般に馴染みの薄い競技であり、このこと
は、本件出願から審決に至るまで、一貫して変わらず、我が国において近時際立っ
て親しまれているスポーツであるといった事情の変化が生じたという事実はないこ
と、また、「ポロ」が「ポロシャツ」の略語として使用される場合があるとして
も、ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性(自他商品の識別力があることを
前提としての著名性)に何ら影響するものではないことなどを考え合わせると、ラ
ルフ・ローレンの著名な「Polo」標章と同一の綴り文字より成る「POLO」の
文字を有して成る本願商標は、その登録出願時はもちろんのこと、審決時において
も、これをその指定商品について使用した場合、該商品が【K】のデザインに係る
商品、ないしその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所につ
いて混同を生じさせるおそれがある。
 本願商標は、構成全体として我が国において親しまれた団体名称を観念させるも
のではなく、また、その構成中に、ラルフ・ローレンの著名な「Polo」標章と同
一綴り文字の「POLO」を有しているものであるから、これに接する取引者、需
要者は、その構成中の「POLO」の文字部分に強く印象付けられるものであると
したものである。
 以上のとおり、「POLO」の語がポロ競技を意味する英単語であり、ポロシャ
ツの略称を表すものであるから、本願商標は、その構成中の「POLO」の文字部
分のみが独立して自他商品の識別機能を発揮する部分として分離抽出される要素は
なく、ラルフ・ローレンに係る「Polo」とは商品の出所について混同を生ずるお
それはないとすることはできない。
第5 当裁判所の判断
 1 本願商標は、指定商品として広く被服を含むものであり、平成4年6月1日
に登録出願されたものであるが、審決の理由の要点中の(2)-1ないし5の事実は原
告も認めているところである。これら審決認定事実によれば、審決の理由の要点
の(2)-6において、「【K】のデザインに係る被服等について使用される標章は、
「Polo」の文字と共に、「by Ralph Lauren」の文字及び「馬
に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章であると認められるところ、
我が国においては、これらの標章を総称して単に「Polo」、「ポロ」と略称し
ていたということができ、「Polo」(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係
る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、本件出願前には既に、我が国
の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その認識の
度合いは現在においても継続しているというのが相当である。」とした審決の判断
は優に支持することができる。
 2 そして、本願商標は、「ROYAL POLO SPORTS CLUB」
の欧文字から成るものであるが、「POLO」の文字以外の部分の欧文字は、いず
れも我が国においてなじみの深い意味を有し、その読みも一般化し普通名詞となっ
ている英単語であり、それのみで際立って自他商品識別力を有するものではなく、
また、原告の使用の態様において自他商品識別力を有するものであるとの主張立証
もない(例えば、甲第11号証(本訴訴訟代理人作成の平成11年9月8日付け商
標調査報告書)によれば、「ROYAL POLO SPORTS CLUB」の
欧文字と月桂冠の中に二人のポロプレイヤーが描かれた図形との結合商標が、米国
カリフォルニア州の会社により、指定商品をスポーツ用衣類とし登録番号
1,825,203として米国の連邦登録を受けていることが認められるが、これと本願商標
との関連についての主張立証はない。)。
 以上の観点に従って外観、観念及び称呼の三要素を総合判断すると、本願商標
は、これに接する取引者、需要者にとって、その指定商品の分野で、【K】のデザ
インに係る商品について使用される標章として我が国の取引者、需要者の間に広く
認識されるに至っていた「Polo」(ポロ)の標章と同一綴りから成る「POL
O」の文字部分に強く印象付けられ、広く認識されている「Polo」(ポロ)の標
章を連想、想起するものであり、本願商標を付した商品がラルフ・ローレン、若し
くはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同
を生ずるおそれがあるものというべきである。
 3 原告は、「ROYAL」は「王の」あるいは「王者の」を意味し、欧米には各地に
ポロ競技のクラブが多数存在しており、ポロ競技はいわゆる貴族趣味のスポーツで
あることから、これらの語は観念的に密接な関連性を有していると主張するが、日
本においては、「ポロ競技」が「王」あるいは「王者の」という語と観念上結び付
くような伝統や実態があるとは認められないし、密接な関連性を有するものとして
一般的に認識されているということもできないから、本願商標中の「ROYAL」の文字
部分に特別な顕著性を認めることはできない。
 原告はまた、ポロ競技に際してプレイヤーが着用する衿つき半袖シャツは古くか
ら「POLO SHIRT/ポロシャツ」と称されており、現在では遊び着的な衿
つきシャツを広く指称する普通名称となっていて、商品「POLO SHIRT/
ポロシャツ」は、本件出願当時、我が国の取引の実際において、「POLO」「ポ
ロ」と略称されていると主張し、甲第5ないし第7号証、第23号証、第24号証
の1ないし4、第27号証などを提出している。なるほどこれらの書証によれば、
衿つきの半袖シャツのある種のものは古くから「POLO SHIRT/ポロシャ
ツ」と称されていることが認められるが、これは本願商標の指定商品のうちの一部
について普通名称として用いられているにすぎないし、「ポロシャツ」が「ポロ」
と略称されることはむしろ少ないことが認められる(乙第5ないし第11号証参
照)ほか、「Polo」(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係る被服等のファ
ッション関連の商品について使用される標章として、本件出願前既に、我が国の取
引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたとの事実に照らせば、前記2に説
示したところにより、本願商標がその指定商品に関し、商品の出所について混同を
生ずるおそれがあるとの点を覆し得るものではない。
 なお、甲第14ないし第19号証によれば、「POLO」の文字を含む商標が被
服を含む商品を指定商品として出願あるいは登録された事実のあることが認められ
るが、それらの登録の可否は、それぞれの登録出願時期あるいは商標中の他の文字
等との関連において個別に判断されるべきものであり、これらをもって、上記判断
を左右することはできない。
 4 原告主張のその余の点を勘案してみても、前記2の判断を動かすものではな
く、「本願商標が商標法4条1項15号に該当するとして拒絶した原査定は、妥当
であって取り消すことはできない」とした審決の判断に誤りはない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成12年9月19日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永  井  紀  昭
        裁判官   塩  月  秀  平
        裁判官   橋  本  英  史

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