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平成11(行ケ)256行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成12年11月7日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決13回
実施6回
優先権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成11年(行ケ)第256号 審決取消請求事件
平成12年10月24日口頭弁論終結
         判      決
    原      告   メサッド エレクトロニクス インコーポレイテ
ッド
    代表者        A
    訴訟代理人弁護士   加 藤 義 明
    同          鹿 能 直 子
    同     弁理士  B
    被       告  特許庁長官 C
    指定代理人      D
    同          E
    同          F
        主      文
    1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。
    3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成9年審判第2626号事件について平成11年2月26日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、1990年10月4日にアメリカ合衆国においてした出願に基づく
優先権を主張して、発明の名称を「再利用可能なロック手段を有する時計バネ型イ
ンターコネクター」とする発明(以下「本願発明」という。)につき平成3年9月
26日に特許出願(特願平3-247235号)をしたところ、平成8年11月6
日付けで拒絶査定を受けたので、平成9年2月24日に拒絶査定不服の審判を請求
した。特許庁は、この請求を平成9年審判第2626号事件として審理した結果、
平成11年2月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本を平成11年4月12日原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付
加された。
2 特許請求の範囲請求項1(以下、同項記載の発明を「本願第1発明」とい
う。別紙図面1参照)
  第一開口部を有するハウジング、第二開口部を有するハブ、第一端部と第二
端部を有するコイル状伝導手段からなり、前記ハブは前記ハウジングの前記第一開
口部に回転可能に連結され、前記コイル状伝導手段は前記ハウジングと前記ハブの
結合によって規定される放射状の空間に配置され、前記コイル状伝導手段の第一端
部は前記ハウジングに一体に設けられた第一コネクターに連結されると共に、前記
コイル状伝導手段の第二端部は前記ハブに一体に設けられた第二コネクターに連結
されている時計バネ型インターコネクターにおいて、前記ハブに一体に設けられた
一つ以上のスプリング付勢ロック装置は押し下げられたアンロック位置と押し下げ
られていないロック位置を有していて、それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧
縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記
ロック組立部材を連結すると共に、前記ロック組立部材を押し下げられていない位
置に移動するように押圧し、前記ロック組立部材は前記ハウジングに形成された一
つ以上の凹部に相応する凸状の翼状部材を有することを特徴とする時計バネ型イン
ターコネクター。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、本願第1発明は、実願昭63-8057
2号(実開平2-3688号)の願書に添付したマイクロフィルム(以下「引用
例」という。別紙図面2参照)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであって、特許法29条2項に該当すると認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由2頁2行~3頁12行は認める。同3頁13行~5頁12行は、
引用例に「それぞれのスプリング付勢ロック装置はスプリング13とストッパ部材
12とからなり、スプリング13は可動体1とストッパ部材12を連結する」(4
頁14行~16行)との記載があることを争い、その余は認める。同5頁13行~
7頁11行は、本願第1発明と引用例記載の発明とが、「それぞれのスプリング付
勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネ
は前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」(6頁17行~20行)点で一致す
ることを争い、その余は認める。同7頁12行~8頁16行を認める。同8頁17
行~9頁6行は争う。
審決は、一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネと
ロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材
を連結する」を誤認し(取消事由1)、本願第1発明の奏する顕著な作用効果を看
過した(取消事由2)ものであって、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバ
ネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立
部材を連結する」の誤認)
 審決は、引用例に、「それぞれのスプリング付勢ロック装置はスプリング1
3とストッパ部材12とからなり、スプリング13は可動体1とストッパ部材12
を連結する」(4頁14行~16行)という構成が記載されていると認定し、これ
を前提として、本願第1発明と引用例記載の発明とが、「それぞれのスプリング付
勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネ
は前記ハブと前記ロック組立部材を連結する」(6頁17行~20行)点で一致し
ていると認定したが、誤りである。
(1) 引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係につ
いて
ア 引用例記載の発明において、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置
に相当する構成は、ストッパ部材12とスプリング13と支持板11の3つの部品
である。このスプリング13は、ストッパ部材12と、可動体1に複数の連結ピン
によって固着された支持板11との間に、単に圧縮されて配置されているだけであ
るから、可動体1と接触していない。可動体1と接触さえしていないスプリング1
3によって、ストッパ部材12と可動体1を連結させることはそもそも構造的に不
可能である。
イ 被告は、①引用例記載の発明の支持板11は、可動体1の一部を形成す
る部材である、②本願第1発明のハブには、支持板を固着して形成する態様のもの
も含まれる、と主張する。
 しかし、引用例記載の発明の支持板11は、単にスプリング13を支持
する目的で可動体1に固着されているのであるから、「スプリング付勢ロック装
置」を構成するものである。このスプリング付勢ロック装置は、スプリング13が
ストッパ部材12を可動体1に向けて押圧する構成になっているので、構造上必然
的に可動体1とは別部材の支持板11が必要であり、組立の最終段階で、この支持
板11が可動体1に固着されることによって、スプリング付勢ロック装置が完成す
るものと考えられる。つまり、支持板11は、可動体1にスプリング付勢ロック装
置を設けるために、可動体1に付加的に固着すべき部材であって、可動体1に固着
されているという理由から仮に支持板11を可動体1の一部とみなしたとしても、
この支持板11には、「スプリング付勢ロック装置」の構成要素のほかには、可動
体1の一部としての存在意義は全く見当たらないのである。
 本願第1発明のスプリング付勢ロック装置は、圧縮コイルバネとロック
組立部材のみからなっており、圧縮コイルバネがロック組立部材をハブに結合する
ことで、スプリング付勢ロック装置が規定されて、スプリング付勢ロック装置が完
成している。したがって、本願第1発明のハブが、引用例記載の発明の可動体のよ
うに、スプリング付勢ロック装置の構成要素としての支持板を固着して形成する態
様のものを包含しないことは明らかである。
(2) 本願第1発明の「連結する」について
ア 「連結する」という用語は「結び合わせる」というのが本来の意味であ
る。本願第1発明の特許請求の範囲においても、もちろん、この本来の意味で使用
されている。
イ 引用例記載の発明では、スプリング13は、ストッパ部材12と支持板
11との間に圧縮されて配置されているだけであって、ストッパ部材12と支持板
11を連結する(結び合わせる)ものではないと解するのが、技術的に最も合理的
である。
ウ 被告は、「連結」という用語を、「配置」等の意味を含むと解釈する。
 確かに、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、実施例の構成に関し
て、「圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロッ
ク組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】5行~
6行)との記載がある。しかし、「連結する」という用語がその本来の字義にした
がって「結び合わせる」という意味で使用されていることは明白であるから、実施
例について前記のような記載があるからといって、本願第1発明における「連結す
る」という用語を、あえて位置関係のみを示す意味に解釈すべきではない。実施例
は本願発明の構成を前提としているのであるから、この実施例についての前記【0
014】の記載は、「前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部材を連結
する」という構成を具体的に実現する際に、圧縮コイルバネ60の第二の端部とロ
ック組立部材66の穴62との「連結」を目的とした位置関係を説明したものであ
ると理解すべきである。
 また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄において、「それぞれのスプ
リング付勢ロック装置50は圧縮コイルバネ60とロック組立部材66からなる。
それぞれのスプリング付勢ロック装置50はハブ26に組み込まれており、圧縮コ
イルバネ60の第一の端部によってハブ26に取り付けられている。圧縮コイルバ
ネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形
成された穴62内に配置されている。」(【0014】2行~6行)という記載と
「スプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネとロック組立部材を含んでいる。圧
縮コイルバネはロック組立部材をハブと結合し、これによりスプリング付勢ロック
装置を規定している。好ましくは、ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮
コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端
部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている。」(【0026】1行~
5行)という記載とが部分的に類似しているからといって、後者の記載「穴に連結
されている」の意味を、対応する前者の記載「穴62内に配置されている」を根拠
に、「連結」を無視して単なる位置関係の意味に解釈することは、極端な論理の飛
躍であって、許されるべきものではない。
エ 被告は、本願第1発明において圧縮コイルバネが他部材を「連結」する
ことによる技術的意義は、この圧縮コイルバネが「前記ロック組立部材を押し下げ
られていない位置に移動するように押圧」し得る状態を保持するところにあると主
張する。
 しかし、本願第1発明において、圧縮コイルバネがハブとロック組立部
材を連結することの技術的意義は、単に被告主張に係る作用に関係するだけでな
く、2つの部品からなる簡単な構成のスプリング付勢ロック装置の容易な組立を可
能にするという構成・組立上の効果にも関与している。
 これに対して、引用例記載の発明では、本願第1発明のスプリング付勢
ロック装置に機能的に類似するものとして、支持板11とストッパ部材12とスプ
リング13の3つの主要な部品が必要である。しかも、その組立のために、あらか
じめストッパ部材12には複数の孔12cを穿設し、支持板11には複数の連結ピ
ンを設けることが必要であり、そしてその組立に際してはスプリング13の弾発力
に抗しながら複数の連結ピンを複数の孔12cに挿通させて、この連結ピンにより
支持板11を可動体1に固着させる必要がある。
 したがって、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置と引用例記載の
発明の支持板11とストッパ部材12とスプリング13からなる構成単位とを比較
すれば、本願第1発明のスプリング付勢ロック装置が簡単な構成と容易な組立の点
で格別な効果を奏し得ることは明白である。
2 取消事由2(作用効果の看過)
 審決は、本願第1発明の奏する作用効果について、「引用例に記載されたも
のが奏する作用効果から予測される以上のものとも認められない」(8頁17行~
19行)と認定判断したが、誤りである。
 本願第1発明は、「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバネ
とロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立部
材を連結する」ことによって、「圧縮コイルバネはロック組立部材が押し下げられ
ていないロックされた位置にくるように、ロック組立部材をハブから離すように押
圧する。」という作用を奏するとともに、スプリング付勢ロック装置は、圧縮コイ
ルバネとロック組立部材という2つの部品のみを必要とし、それだけ構成が簡単で
あるとともに、組立が容易であるという効果を奏するものである。
 これに対して、引用例記載の発明は、スプリング付勢ロック装置は、ストッ
パ部材12とスプリング13と支持板11の3つの部品を必須の構成要素としてお
り、スプリング13は、ストッパ部材12と支持板11との間に単に圧縮されて配
置されていて、ストッパ部材12を可動体1に向けて押圧するものであるから、こ
れから本願第1発明の前記作用効果を予測することは全く不可能である。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバ
ネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立
部材を連結する」の誤認)について
(1) 引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係につ
いて
  引用例記載の発明において、支持板11は、可動体1と別体とはいえ、こ
れに一体に固着され、この一体固着状態の下で、スプリング13を支持する機能を
果たすのである。したがって、支持板11は、実質上可動体の一部を形成している
とみるのが相当である。
  一方、本願第1発明のハブ26は、それがどのように形成されるかについ
て格別の限定がなされていないから、引用例記載の発明の可動体のように、支持板
を固着して形成する態様のものも包含すると解し得るのである。
  したがって、引用例記載の発明の支持板11は、本願第1発明のハブの一
部を形成する部材に相当する。
(2) 本願第1発明の「連結する」について
ア 本願第1発明における「連結」という用語について、明確な定義をする
記載は、本願明細書中に存在しない。
 これに関連する本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみると、以
下のとおりである。
(ア) 「圧縮コイルバネはハブとロック組立部材を結合する第一端部と第
二端部を有する。」(【0008】欄15行~16行)
(イ) 「圧縮コイルバネは第一および第二端部を有し、ハブとロック組立
部材を結合する。」(【0009】欄12行~13行)
(ウ) 「それぞれのスプリング付勢ロック装置50はハブ26に組み込ま
れており、圧縮コイルバネ60の第一の端部によってハブ26に取り付けられてい
る。圧縮コイルバネ60の第二の端部は、スプリング付勢ロック装置50のロック
組立部材66に形成された穴62内に配置されている。」(【0014】欄3行~
6行)
(エ) 「圧縮コイルバネはロック組立部材をハブと結合し、これによりス
プリング付勢ロック装置を規定している。好ましくは、ロック組立部材をハブと結
合するために、圧縮コイルバネの第一の端部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コ
イルバネの第二の端部は、ロック組立部材に形成された穴に連結されている。」
(【0026】欄2行~5行)
 以上のうち、【0008】欄及び【0009】欄では、「連結」に対応
する用語として「結合」が用いられているということができる。一方、【001
4】欄と【0026】欄の記載を対比すると、圧縮コイルバネの第一の端部につい
ては、「ハブに取り付けられ」ている点で共通し、第二の端部については、穴内に
「配置」されることと、「連結」されることとが対応している。特に、【002
6】欄の、「ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端
部はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材
に形成された穴に連結されている」という記載からは、少なくとも、「連結」とい
う用語が、「結合」のために「取り付け」られていることのみを意味するのではな
いことが明らかである。
 このように、「結合」又は「連結」の語が統一的に用いられておらず、
異なる二つの語として使用されていること自体、「連結」と「結合」とを、全く同
義の語とみるべきではないことを示唆している。
 以上指摘した各用語の対応関係と使用状況から、本願第1発明の「連
結」とは、必ずしも「結合」、あるいは「結合」のための「取り付け」のみを意味
するのではなく、「結合」、「取り付け」、「配置」等の意味を含む、総称的な用
語として使用されているとみるのが相当である。
イ 引用例記載の発明において、スプリング13は、ストッパ部材12と支
持板11との間に「圧縮されて配置されている」から、ストッパ部材12と支持板
11(可動体1の一部)を「連結する」ものである。
ウ 本願第1発明において圧縮コイルバネが他部材を「連結」することによ
る技術的意義は、特許請求の範囲の記載によれば、この圧縮コイルバネが「前記ロ
ック組立部材を押し下げられていない位置に移動するように押圧」し得る状態を保
持するところにある。この技術的意義に鑑みると、引用例記載の発明のスプリング
13も、ストッパ部材12と支持板11との間に「圧縮されて配置されてい」て、
スプリングとしての弾発機能を果たす状態が保持されているのであるから、本願第
1発明の圧縮コイルバネと同様、他部材を「連結」することになるのである。コイ
ルバネやスプリングの端部が他部材と「結合」され、あるいは「取り付け」られて
いるか否かは、本願第1発明及び引用例記載の発明において、技術上格別の意義を
有するものではない。
 また、本願明細書においては、「結合」あるいは「取り付け」という語
句こそ使用されているものの、当該結合や取り付けに関して、作用効果等の具体的
な言及や、構成を示す明瞭な図示がないことは、引用例と変わるところがない。し
かも、「結合」や「取り付け」等の常套手段は、明細書や図面等の記載及び表現
上、常に明確に反映されるというものではない。
 これらのことをも考慮すれば、「結合」や「取り付け」のような常套手
段の開示の有無は、発明の対比において、本質的な意味を持つとはいえない。
 したがって、仮に、「連結」が「結合」や「取り付け」であるとして
も、引用例に、そのような常套手段が開示されていないことをもって、本願第1発
明と引用例記載の発明の有意な相違点とみるのは、著しく適切を欠くというべきで
ある。
2 取消事由2(作用効果の看過)について
 引用例記載の発明において、「スプリング付勢ロック装置」を構成する部
材は、「ストッパ部材12とスプリング13」の二部材であるから、本願第1発明
が二部材でロック装置を構成することに対応する作用効果は、引用例記載の発明に
おいても変わるものではない。本願第1発明の奏する作用効果は、引用例の記載か
ら予測される以上のものとは認められない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点「それぞれのスプリング付勢ロック装置は圧縮コイルバ
ネとロック組立部材とからなり、前記圧縮コイルバネは前記ハブと前記ロック組立
部材を連結する」の誤認)について
(1) 引用例記載の発明の支持板11、スプリング13及び可動体1の関係につ
いて
ア 甲第3号証によれば、引用例には、「可動体1の下方にはばね受部11
aを有する支持板11が配置され、該支持板11は図示省略した複数の連結ピンに
よって可動体1に固着されている。これら可動体1と支持板11との間にはストッ
パ部材12が上下動可能に介設されており、該ストッパ部材はスプリング13によ
って図示上方へ付勢されている。」(9頁下から5行~10頁2行)、「ストッパ
部材12がスプリング13の弾発力によって第1図に示す上方位置にある場合にお
いて、・・・可動体1を固定体6に対して回動しようとしても、ストッパ部材12
の係合突部12aが係合部10の凸部10aと衝当し、可動体1を回動することは
できない。」(10頁9行~16行)との記載があることが認められ、この記載に
よれば、引用例記載の発明において、可動体1の固定体6に対する回動を阻止する
ときに移動ないし変形してロック装置として作用するのはストッパ部材12とスプ
リング13であり、このとき支持板11は、可動体1に固着され、これと一体とな
ってスプリング13を支持する機能を果たしていることが認められる。そうする
と、引用例記載の発明において、支持板11は、可動体1の一部とみることができ
る。
 そして、引用例記載の発明の可動体1が本願第1発明のハブに相当する
ことは当事者間に争いがないから、引用例記載の発明の支持板11も、本願第1発
明のハブの一部に相当するというべきである。
イ 原告は、引用例記載の発明の支持板11は、可動体1にスプリング付勢
ロック装置を設けるために、可動体1に付加的に固着すべき部材であって、スプリ
ング付勢ロック装置の構成要素のほかには、可動体1の一部としての存在意義は全
く見当たらないと主張する。
 しかし、本願第1発明のハブは、圧縮コイルバネを支持する機能があ
り、スプリング付勢ロック装置は、ハブを含まないのである。一方、上記支持板1
1は、可動体1(ハブ)と一体となって、スプリング(圧縮コイルバネ)を支持す
る機能を果たすのであるから、本願第1発明のハブに相当するものというべきであ
って、スプリング付勢ロック装置ではないことは明らかである。
 また、原告は、本願第1発明のハブには、スプリング付勢ロック装置の
構成要素としての支持板を固着して形成する態様のものは包含されないと主張す
る。
 しかし、引用例記載の発明の支持板11が、スプリング付勢ロック装置
ではないことは、前示のとおりである。そして、本願第1発明の特許請求の範囲に
は、ハブの構造を、支持板を固着したものを含まないように限定する記載はない。
原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、失当である。
(2) 本願第1発明の「連結」について
ア 「連結」とは、普通は、「連ね結ぶこと」ないし「結び合わせること」
という意味である。しかし、本願第1発明の特許請求の範囲の記載において、「連
結」が二つのものを「取り付ける」という意味であることまでは、一義的に明確と
いうことはできない(「結び合わせる」という語は「物事を関連づける」という意
味に使われることもあり、「結ぶ」という語は「都心と空港を結ぶ道路」というよ
うに離れている地点をつないで連絡できるようにするという意味に使われることも
ある。)ので、本願明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌することとする。
 甲第2号証(本願明細書)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明に
は、「連結」の用語について明確な定義もなく、「連結」の技術的意義、作用効果
も明示されていないこと、実施例に関するものとして、「圧縮コイルバネはハブと
ロック組立部材を結合する第一端部と第二端部を有する。」(【0008】欄15
行~16行)、「圧縮コイルバネは第一および第二端部を有し、ハブとロック組立
部材を結合する。」(【0009】欄12行~13行)、「それぞれのスプリング
付勢ロック装置50はハブ26に組み込まれており、圧縮コイルバネ60の第一の
端部によってハブ26に取り付けられている。圧縮コイルバネ60の第二の端部
は、スプリング付勢ロック装置50のロック組立部材66に形成された穴62内に
配置されている。」(【0014】欄3行~6行)、「圧縮コイルバネはロック組
立部材をハブと結合し、これによりスプリング付勢ロック装置を規定している。好
ましくは、ロック組立部材をハブと結合するために、圧縮コイルバネの第一の端部
はハブに取り付けられ、一方、圧縮コイルバネの第二の端部は、ロック組立部材に
形成された穴に連結されている。」(【0026】欄2行~5行)との記載がある
ことが認められる。これらの記載のうち、【0008】欄と【0009】欄の記載
では、本願第1発明の「連結」に対応する用語として「結合」が用いられているこ
とは明らかである。一方、【0014】欄と【0026】欄の各記載では、圧縮コ
イルバネの、第一の端部は、「ハブに取り付け」られていることにおいて同じであ
り、第二の端部は、穴内に「配置」されることと、穴に「連結」されることとが対
応している。そうすると、本願明細書では、「連結」とは、「取り付け」られてい
る場合に限らず、穴内に「配置」されている場合も含まれる用語として使用されて
いるものと認められる。とりわけ、上記【0026】欄の記載は、「ロック組立部
材をハブと『結合』するために、・・・第一の端部はハブに『取り付け』ら
れ、・・・第二の端部は、・・・穴に『連結』されている」というものであるか
ら、「連結」が「取り付け」られていることのみを意味するものではないことは明
らかというべきである。
 以上の事実によれば、本願第1発明において、「連結」とは、取り付け
られ、物理的に固着している場合に限らず、接触した状態で配置されている場合も
含まれるものと認められる。
イ 甲第3号証によれば、引用例記載の発明のスプリング13は、ストッパ
部材12と支持板11との間に圧縮され、両者と接触した状態で配置されているこ
とが認められる。したがって、このスプリング13は、ストッパ部材12と支持板
11(可動体の一部)を連結するものということができる。
ウ 原告は、「連結する」という用語がその本来の字義にしたがって「結び
合わせる」という意味で使用されていることは明白であるから、実施例について前
記のような記載があるからといって、本願第1発明における「連結する」という用
語を、あえて位置関係のみを示す意味に解釈すべきではないと主張する。 しか
し、「連結」という用語が、必ず「取り付け」られていることを意味するというも
のではなく、本願第1発明の特許請求の範囲の記載が一義的に明白ということはで
きない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌し、これによっ
て、「連結」の意味を確定することが必要であることは当然である。原告の主張
は、採用することができない。
2 取消事由2(作用効果の看過)について
 本願第1考案の構成を採用した場合に、原告主張の作用効果が得られること
は自明である。したがって、作用効果についての原告の主張は、理由がない。
3 以上のとおりであるから、 原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審
決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告
受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法6
1条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
          裁判官  山  田  知  司
          裁判官 阿  部  正  幸
別紙図面1 別紙図面2

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