平成11(ネ)4956民事訴訟 特許権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成12年9月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
特許権1回 侵害1回 進歩性1回 新規性1回 差止1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成一一年(ネ)第四九五六号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成九年(ワ)第一六九〇〇号)(平成一二年七月一〇日口頭弁論終結)
判 決
控訴人(原告) 株式会社ウエスタン・アームス
右代表者代表取締役 【A】
右訴訟代理人弁護士 宗 万 秀 和
同 荒 木 和 男
同 近 藤 良 紹
同 早 野 貴 文
同 川 合 順 子
同 高 橋 隆 二
同 山 枡 幸 文
同 鬼 頭 栄美子
同補佐人弁理士 【B】
被控訴人(被告) 株式会社ケーエスシー
右代表者代表取締役 【C】
被控訴人(被告) 株式会社島
右代表者代表取締役 【C】
右両名訴訟代理人弁護士 安 原 正 之
同 佐 藤 治 隆
右両名補佐人弁理士 【D】
主 文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、原判決別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各製品を製造、
販売してはならない。
3 被控訴人らは、その占有する前項記載の各製品及びそれらを製造するため
の金型を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金二億一七二六万八〇〇〇円及び
これに対する平成九年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払
え。
5 訴訟費用は、第一、第二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨の判決
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決
「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人
1 本件発明は、第1状態における第2のガス通路の状態について何ら限定が
加えられているものではなく、これが閉状態であることを要するとした構成要件H
に関する原審の解釈は、本件発明に不要な要件を加えるものであり、失当である
2 本件発明における「第1のガス通路と第2のガス通路の夫々を開閉制御」
する構成は、「ガス通路制御部」の制御の対象を二つの通路に特定したものである
が、それ以上に「開閉制御」の具体的な技術内容を特定するものではないから、第
1、第2のガス通路がいつどのように「閉状態」に置かれるかは、要件ではない。
3 本件明細書では、「開閉制御」の技術内容について、これを開状態の制御
と閉状態の制御とに区別して記載されておらず、また、「開閉制御」を「開閉」と
「制御」の各文言に区分して説明しているものでもない。本件発明の「ガス通路制
御部」は、ガス通路を閉状態にする制御を行うものと、閉状態にせずに制御を行う
ものの双方を含むものと解すべきである。
4 受圧部にガスが流れ込んでも、弾丸発射までにスライダ部に有意的な移動
が生じない限り、弾道の狂いの原因となり得るスライダ部の後退が生じない。蓄圧
室からのガスが受圧部に流れ込まないようにすることは、本件発明の技術思想にお
いて必然的なものではない。
5 本件発明の構成要件Hにいう「開閉制御」とは、ガス圧の作用のさせ方を
制御することにほかならず、第1のガス通路を通じるガスにより装弾室の弾丸に対
してガス圧を作用させて弾丸を発射させる状態と、第2のガス通路を通じるガスに
よりスライダ部と一体化した受圧部にガス圧を作用させる状態とを変化、制御する
趣旨と解釈されるべきである。
6 技術的な文脈において「開閉制御」という場合、それは、通路の完全な解
放と完全な閉塞を切り換える意味に限定されない概念である。ガス通路の「開閉制
御」とは、ガスの流路の完全な閉塞と解放のみならず、相対的にガスが流れる通路
の有効断面積を変化させる操作が行われることも、これに当たると解すべきであ
る。
二 被控訴人ら
1 本件発明は、従来技術であるツーウェイ方式ガスガン及びアウターシュー
ト方式ガスガンの技術的課題を、「単一のガス導出通路部からのガスを最初は弾丸
発射用に、次に弾丸供給用に作用させる」という技術思想によって解決したもので
あり、その構成は、第1のガス通路及び第2のガス通路を開閉制御することによる
ものである。
2 ガス通路の「開閉制御」の構成要件を、相対的にガスが流れる通路の有効
断面積を変化させる操作を含むと解することは、従来技術に対する本件発明の新規
性及び進歩性を不明確にし、本件発明の技術的範囲を不当に拡大するものである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断するところ、その理由
は、当審における主張につき次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」
の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における控訴人の主張について
1 控訴人は、第1状態における第2のガス通路が閉状態であることを要する
とした構成要件Hに関する原審の解釈は、本件発明に不要な要件を加えるものであ
ると主張する。しかしながら、本件発明の構成要件Hにおいて、「第1のガス通路
と第2のガス通路の夫々を開閉制御し」と規定されているから、この要件の解釈と
して、第2のガス通路の状態が一定のものに限定されると解することは、本件発明
に不要な要件を加えるものではない。
2 また、控訴人は、本件発明の「第1のガス通路と第2のガス通路の夫々を
開閉制御」する構成において、第1、第2のガス通路がいつどのように「閉状態」
に置かれるかは要件とされていないと主張する。しかしながら、本件発明の構成要
件Hには、「第1のガス通路と第2のガス通路の夫々を開閉制御し」と規定されて
おり、ここにいう「夫々」とは、「第1のガス通路」と「第2のガス通路」の双方
を意味し、「開閉制御」とは、「開状態」と「閉状態」とが切り換えられることを
意味するから、本件発明は、「第2のガス通路」が「開状態」と「閉状態」とに切
り換えられることを意味するものというべきである。
3 本件発明の構成要件Hには、「第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧
室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状
態として、・・・第2の状態に移行する」と規定されているから、本件発明におけ
るこの構成を考え併せるならば、第2のガス通路は、開状態となる前では閉状態で
あると解するほかはない。本件発明の「ガス通路制御部」が第2のガス通路を閉状
態にせずに制御を行うものを含むということはできない。
4 なお、受圧部にガスが流れ込んでも、弾丸発射までにスライダ部に有意的
な移動が生じない限り、弾道の狂いの原因となり得るスライダ部の後退が生じない
ということはでき、また、ガス圧を「開閉制御」するという用語一般は、ガス流路
の完全な解放と完全な閉塞を切り換える意味のみならず、ガスの流路の有効断面積
を変化させる操作も、これに当たるということができる。
5 しかしながら、本件において問題となるのは、本件発明の構成要件Hにい
う「開閉制御」が、ガス流路の完全な解放と完全な閉塞のみならず、単にガスの流
路の有効断面積を変化させる操作を含むかどうかである。前記(原判決六三頁二行
目ないし六四頁七行目)のとおり、本件発明は、「装弾室に装填された弾丸の発射
後にスライダ部の移動が開始されるものとすることで、装弾室から発射される弾丸
がスライダ部の移動による影響を受けてその弾道に狂いが生じることになる事態を
回避する」ことを目的の一つとしており、そのためには、装弾室から弾丸が発射さ
れるに至るまでの第1の状態において、スライダ部の後退が生じることのないよう
な構成にすることが必要であり、そのためには、ガス通路制御部が第2のガス通路
を完全な閉状態に制御する構成を採るのが最も望ましく、本件発明がこのような構
成を採用しているものと解するのが合理的である。
6 したがって、本件発明の構成要件Hにいう「開閉制御」の構成は、ガス流
路の完全な解放と完全な閉塞を意味し、単にガスの流路の有効断面積を変化させる
操作を含まないものと解すべきである。
三 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がなく、こ
れを棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄
却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六七条一項本文、六
五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第一三民事部
裁判長裁判官 田 中 康 久
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利
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