平成11(行ケ)54行政訴訟 実用新案権
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
東京高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成12年6月29日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
実用新案権
民事訴訟法61条1回
|
キーワード |
刊行物28回 審決10回 分割2回 実用新案権2回 無効1回
|
主文 |
|
事件の概要 |
|
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 実用新案権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成11年(行ケ)第54号 審決取消請求事件
平成12年6月15日口頭弁論終結
判 決
原 告 竹下産業株式会社
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁理士 B
訴訟復代理人弁理士 C
被 告 豊和工業株式会社
代表者代表取締役 D
被 告 西部産業株式会社
代表者代表取締役 E
両名訴訟代理人弁護士 吉 武 賢 次
同 神 谷 巖
同 弁理士 F
同 G
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第35060号事件について平成11年1月18日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告らは、考案の名称を「簀枠の移送機構」とする実用新案登録第2501
048号考案(昭和57年10月26日にされた実用新案登録出願の一部が、昭和
62年7月7日に新たな出願として分割され、この一部が、更に平成6年6月23
日に新たな出願として分割されたもの、平成8年3月28日実用新案権設定登録、
以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
原告は、平成10年2月12日に本件考案に係る実用新案登録の無効の審判
を請求し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35060号事件として審理した
結果、平成11年1月18日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、その謄本を同年2月8日に原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲
乾燥室前部と奥部に設けたスプロケットに懸回した無端状の往復道よりなる
簀枠保持棒付乾燥チェーンを上下二段に配設し、それらの上下二段の乾燥チェーン
の下側移送路に沿って簀枠保持棒間の簀枠のチェーン側枠棒を係止可能な移送レー
ルを配設し、上段の移送レールの端部から下段の乾燥チェーンの端部との間に、簀
枠のチェーン側枠棒を係止してそのチェーン側枠棒を上段の移送レールから下段の
乾燥チェーンの簀枠保持棒間に簀枠を反転して移送して簀枠を受渡し可能な係止突
起付移送チェーンを配設してなる簀枠の移送機構。(別紙図面参照)
3 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり、本件考案は、その出願の日前の出願であ
って、本件考案の実用新案登録出願(以下「本件出願」という。)後に出願公開さ
れた実願昭和57-148368号の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面
(以下、これらをまとめて「先願明細書」という。)記載の考案(以下「先願考
案」という。)と同一であるということはできないと認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由ⅠないしⅢは認める。同Ⅴは、本件考案と先願考案との対比(8
頁6行ないし9頁17行)を認め、その余は争う。同Ⅵは争う。
審決は、周知技術の存在を看過して先願考案を誤認した結果、これと本件考
案の同一性の判断を誤ったものであって、この誤りが結論に影響を及ぼすことは明
らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 簀枠を反転して簀枠の受け渡しを行うに際し、本件考案が「簀枠のチェーン
側枠棒」を係止して受渡しを行うのに対し、先願考案は「簀枠のチェーン側枠棒と
は反対側の枠棒」(以下「反対側枠棒」という。)を係止して受渡しを行ってお
り、両者は、この点において一応相違する。審決の認定は、上記一応の相違点があ
るという限度では、そのとおりである。
2 しかし、上段の移送レールと下段の乾燥チェーンとの間で簀枠の受渡しを行
うに際し、簀枠のチェーン側枠棒を移送チェーンに係止して受渡しを行う技術は、
実開昭55-65994号公報(以下「甲第5号証刊行物」という。)、甲第5号
証刊行物記載の考案の実用新案登録出願である実願昭53-148863号の出願
時の明細書及び図面(以下「甲第6号証刊行物」という。)、特開昭57-265
70号公報(以下「甲第7号証刊行物」という。)及び特公昭50-32314号
公報(以下「甲第8号証刊行物」という。)に記載されているとおり、周知の技術
である。
なお、甲第8号証刊行物には、乾燥チェーンは使用されていないけれども、
乾燥室内を循環する移送機構としてとらえれば、本件考案の簀枠を搬送する乾燥チ
ェーンと甲第8号証刊行物の歯杆82、83とは同じ機能の部材とみなすことが可
能である。
3 以上のとおり、上記一応の相違点に係る本件考案の構成は、本件出願時にお
いて周知技術であるから、本件考案は、先願考案とは実質的に同一の考案とみるこ
とができるのである。
第4 被告らの反論の要点
1 原告は、簀枠を反転して簀枠の受渡しを行うに際し、本件考案が「簀枠のチ
ェーン側枠棒」を係止して受渡しを行うのに対し、先願考案は「反対側枠棒」を係
止して受渡しを行っており、両者は、この点において相違するものの、この相違は
一応のものにすぎないと主張する。
しかし、これは、本件考案においては、チェーン側枠棒を係止突起で係止し
て、係止した状態でそのチェーン側枠棒を下段の乾燥チェーンの簀枠保持棒間に移
送するので、確実に移送できるのに対し、先願考案においては、反対側枠棒を係止
して受渡しを行っているため、確実には移送できないという点を看過し、単に係止
する枠棒の相違にのみ問題を矮小化している点で誤っている。
2 甲第5、第6及び第7号証各刊行物が頒布されたのは、本件出願のわずか2
年5月前及び8月前という直前の時期である。甲第8号証刊行物が頒布されたの
は、本件出願の7年前であるが、同刊行物記載の発明は実用的ではなく、実際には
利用されたことがない。したがって、これらの刊行物によって、簀枠のチェーン側
枠棒を移送チェーンに係止して受渡しを行う上記技術が周知技術であったとするこ
とはできない。
3 上記各刊行物のいずれにも、チェーン側枠棒の代わりに反対側枠棒を使用し
てもよい、という趣旨の記載はない。記載されているのは、チェーン側枠棒を係止
することによって、簀枠を反転して反対側枠棒を下段チェーンに受け渡す技術、又
は反転しないで反対側枠棒を受け渡す技術のみである。チェーン側枠棒を使用する
技術と反対側枠棒を使用する技術が自由に流用できることを示す記載がない以上、
本件考案と先願明細書記載の考案とを同一視することはできない。
4 甲第5及び第6号証各刊行物には、チェーン側枠棒を係止して、反対側枠棒
を下段の乾燥チェーンの係止突起である簀枠保持棒間に移送する技術が開示されて
いるのであり、係止されたチェーン側枠棒を簀枠保持棒間に移送する技術は、何ら
開示されていない。
第5 当裁判所の判断
1 本件考案と先願考案の係止突起付き移送チェーンによる簀枠移送機構が、本
件考案においては、簀枠のチェーン側枠棒を係止してそのチェーン側枠棒を上段の
移送レールから下段の乾燥チェーンの簀枠保持棒間に簀枠を反転して移送して簀枠
の受渡しを行うのに対して、先願考案においては、簀枠のチェーン側枠棒とは反対
側の枠棒を係止し、その係止した枠棒を前側に位置させて横移動させた後、簀下端
部昇降用昇降回動杆を下方向に回動させ、簀枠のチェーン側枠棒を前側に位置させ
て案内レールを滑らせて上段の移送レールから下段の乾燥チェーンの簀枠保持棒間
に簀枠を反転して移送して簀枠の受渡しを行うものであり、この点において両者が
少なくとも一応相違することは、当事者間に争いがない。そして、移送されるチェ
ーン側枠棒が簀枠保持棒間に係止されていない場合には、簀枠の揺れ等による簀枠
保持棒間への移送の失敗が発生し得るのに対して、そのチェーン側枠棒が係止され
ている場合には、そのおそれはないから、上記一応の相違点は、作用効果の相違を
もたらしており、技術的に意味のあるものというべきである。
2 上記一応の相違点について検討する。
(1) 甲第6号証によれば、甲第6号証刊行物には、「乾燥装置cは、乾燥室
c’内に海苔簀ホルダー2の幅h以上の間隔wで垂直方向に平行するよう配設さ
れ、その各チェーンピースfに海苔簀ホルダー2の一端を係止してその下面に近接
されたガイドレール33に沿って移送するための係止突起f’が形成され、かつ互
に隣接するものとは対称方向に前起(判決注・「前記」の誤記と認める。)係止突
起f’の間隔宛前記チェーンコンベヤ1と同期又は交互して間欠運行される数個の
チェーンコンベヤ24,25,26・・・と、第2位以下のチェーンコンベヤ2
5,26・・・の始端の反転部分にそれぞれ相対向しかつ当該反転部分における各
係止突起f’がなす角度と略同角度の間隔で海苔簀ホルダー2の他端を係止する係
止突起gが形成され前記コンベヤ25,26・・・の前記反転部分と略同一円心を
なす略円弧状のガイドレール47の外周に沿って対称的に間欠運行されるそれぞれ
の反転用チェーンコンベヤ42とによって構成され」(明細書2頁下から4行~3
頁14行)、「チェーンコンベヤ24の終端に達した海苔簀ホルダー2は、ガイド
レール33の先下り状の端部33’に沿って自重で落下しつつその上端はチェーン
コンベヤ42の係止突起gに係止され、その下端はガイド48で案内されてコンベ
ヤ25の係止突起f’に係止され、これら両突起gとf’とに支持された状態でコ
ンベヤ25およびコンベヤ42の間欠運行によって1ピッチ宛反転し、反転し終っ
たならばコンベヤ25の下向の係止突起f’に係止され、コンベヤ25の下方のガ
イドレール33に沿って第16図右方向へ間欠移送される。」(明細書15頁3行
~13行)として第16図が記載されていることが認められ、以上の記載によれ
ば、甲第6号証刊行物記載の係止突起付移送チェーン(反転用チェーンコンベヤ4
2)による簀枠(海苔簀ホルダー2)の移送機構は、簀枠のチェーン側枠棒を係止
して、反対側枠棒を、上段の移送レール(上段のガイドレール33)の下方に吊さ
れた位置から下段の乾燥チェーン(チェーンコンベヤ25)の簀枠保持棒間に簀枠
を反転して移送して簀枠を受け渡す技術であることが認められる。
上記技術において、簀枠保持棒間に移送されるのは、係止されているチェ
ーン側枠棒ではなく、係止されていない反対側枠棒であるから、先願考案の係止突
起付き移送チェーンによる簀枠移送機構を上記技術に置換したとしても、簀枠のチ
ェーン側枠棒を係止してそのチェーン側枠棒を上段の移送レールから下段の乾燥チ
ェーンの簀枠保持棒間に簀枠を反転して移送して簀枠の受渡しを行うという、前記
一応の相違点に係る構成を得ることはできない。したがって、上記技術が仮に周知
であるとしても、そのことをもって、本件考案が先願明細書記載の考案と同一であ
るということはできない。
原告は、先願明細書に、反対側枠棒を係止して、係止されていないチェー
ン側枠棒を簀枠保持棒間に移送して簀枠を受け渡す技術が記載されていることか
ら、甲第6号証刊行物記載の前記技術から、「簀枠のチェーン側枠棒を係止して移
送する」との部分のみを抽出して、先願明細書記載の上記技術に置換することを主
張するものとも思われる。
しかし、それは、甲第6号証刊行物に1つのまとまった技術として記載さ
れている係止突起付き移送チェーンによる簀枠移送機構の中から、一部分を抽出し
て、これを、先願明細書に1つのまとまった技術として記載されている係止突起付
き移送チェーンによる簀枠移送機構の一部分に置換しようとするものであって、先
願考案と甲第6号証刊行物記載の技術との組合せ、換言すれば、先願明細書記載の
考案からの容易推考性を主張する意味しか有し得ないものというべきである。した
がって、仮に上記置換がきわめて容易であるとしても、そのことをもって、本件考
案が先願明細書記載の考案と同一であるということはできない。のみならず、そも
そも甲第6号証刊行物記載の係止突起付き移送チェーンによる簀枠移送機構の一部
分を先願明細書記載の考案の係止突起付き移送チェーンによる簀枠移送機構の一部
分にどのように置換すれば前記一応の相違点に係る本件考案の構成が得られるとい
うのかということ自体が明らかではなく(特に、係止したチェーン側枠棒を簀枠保
持棒間に移送するという構成が、どのようにして得られるのかが明らかではな
い。)その置換がきわめて容易とも認められないところである。
(2) 甲第5号証刊行物は、甲第6号証刊行物に係る出願の公開公報であって、
同刊行物記載の技術以上のものが記載されているとは認められない。
(3) 甲第7号証によれば、甲第7号証刊行物には、「海苔簀枠24を・・・さ
らに上記下側移行部の終端開口部10では下降誘導装置14に誘導されて下段の無
端チェン5’の上側移行部の始端開口部10’に下降し支持杆6、6に挟持され」
(2頁右上欄3~14行)として第1、第2図が記載されていることが認められ、
上記記載によれば、甲第7号証刊行物記載の係止突起付移送チェーン(縦向無端間
歇回動チェン11)による簀枠(海苔簀枠24)の移送機構は、簀枠のチェーン側
枠棒を係止して、反対側枠棒を、上段の移送レール(水平案内ガイド8のみから構
成される海苔簀枠落下防止装置9)の下方に吊された位置から下段の乾燥チェーン
(無端チェン5’)の簀枠保持棒間に、簀枠を反転しないで移送して簀枠を受け渡
す技術であることが認められる。
そうすると、上記技術においても、簀枠保持棒間に移送されるのは、係止
されているチェーン側枠棒ではなく、係止されていない反対側枠棒であるから、こ
れが周知であるとしても、そのことをもって、本件考案が先願明細書記載の考案と
同一ということができないことは、前記(1)に説示したところと同様である。
(4) 甲第8号証によれば、甲第8号証刊行物記載の係止突起付移送チェーン
(無端チェーン18)による簀枠(簀4を張設した枠3)の移送機構は、簀枠のレ
ール側枠棒(チェーンは存在しない。)を係止して、第2段のレール52から次の
レール53に、簀枠を反転しないで移送して簀枠を受渡す技術であることが認めら
れる。
そうである以上、甲第8号証刊行物記載の技術は、上段の移送レールと下
段の乾燥チェーンとの間で簀枠の受渡しを行うに際し、簀枠のチェーン側枠棒を移
送チェーンに係止して受渡しを行う技術ということはできない。
この点に関して、原告は、乾燥室内を循環する移送機構としてとらえれ
ば、本件考案の簀枠を搬送する乾燥チェーンと甲第8号証刊行物の歯杆82、83
とは同じ機能の部材とみなすことができると主張する。
しかし、本件考案は、チェーン側枠棒を上段の移送レールから下段の乾燥
チェーンの簀枠保持棒間に簀枠を反転して移送して簀枠の受渡しを行うというもの
であって、この構成を乾燥チェーンではなく歯杆を使用する技術と同一視すること
はできない。歯杆を使用する技術を、機能の一部の共通性に着目して乾燥チェーン
を使用する技術に応用することができるとしても、それをもって、いずれも乾燥チ
ェーンを使用する技術である本件考案と先願明細書とを同一とする根拠とすること
はできないのである。
(5) 原告は、甲第5ないし第8号証各刊行物から、「簀枠のチェーン側枠棒を
係止して移送する」という周知技術を抽出できるとしたうえで、これをもって、前
記一応の相違点は、単なる周知慣用技術の転換にすぎないと主張するものとも解さ
れる。しかし、前記一応の相違点は、簀枠のチェーン側枠棒を係止してそのチェー
ン側枠棒を上段の移送レールから下段の乾燥チェーンの簀枠保持棒間に簀枠を反転
して移送して簀枠の受渡しを行うというものであるから、「簀枠のチェーン側枠棒
を係止して移送する」という周知技術が仮に存在するとしても、それだけでは、そ
のことをもって、本件考案が先願明細書記載の考案と同一であるということはでき
ない。すなわち、上記原告の主張は、先願考案と「簀枠のチェーン側枠棒を係止し
て移送する」という周知技術との組合せ、換言すれば、先願明細書記載の考案から
の容易推考性を主張するものというべきであること、及び「簀枠のチェーン側枠棒
を係止して移送する」という技術を先願明細書記載の考案の係止突起付き移送チェ
ーンによる簀枠移送機構の一部分にどのように置換すれば前記一応の相違点に係る
本件考案の構成が得られるというのかということ自体が明らかではなく、その置換
がきわめて容易とも認められないことは、前記(1)において判示したところと同様で
ある。したがって、原告の主張は、採用することができない。
3 以上のとおりであるから、 原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 山 田 知 司
裁判官 宍 戸 充
別紙図面
最新の判決一覧に戻る