知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成11(行ケ)243 行政訴訟 実用新案権

この記事をはてなブックマークに追加

平成11(行ケ)243行政訴訟 実用新案権

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成12年6月29日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法3条1項3号3回
実用新案法3条2項2回
特許法120条の41回
キーワード 刊行物60回
実施2回
進歩性1回
実用新案権1回
主文
事件の概要

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 実用新案権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成11年(行ケ)第243号 実用新案取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告   エスエムシー株式会社
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁理士 【B】、【C】
被 告   特許庁長官 【D】
 指定代理人  【E】、【F】、【G】
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年異議第72187号事件について平成11年6月22日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「ダブルパイロット形切換弁」とする登録第2551946号考
案(平成5年5月12日実用新案登録出願(実願平5-29877号)、平成9年
7月4日設定登録。本件考案)の実用新案権者であるが、登録異議の申立てがあ
り、平成10年異議第72187号事件として審理され、平成10年9月29日に
訂正請求をしたが、平成11年6月22日、本件考案の登録を取り消す旨の決定が
あり、その謄本は同月30日原告に送達された。
 2 本件考案の要旨
 (1) 訂正請求書に添付の訂正明細書の請求項1に係る考案
 圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポート
を供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両
側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイ
ロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイ
ロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって
上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、
 上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパ
イロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手
動操作部を設けるとともに、上記第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通
電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電
を表示する第2のランプを、それぞれ設け、
 上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並
設した、
ことを特徴とするダブルパイロット形切換弁。
 (2) 実用新案登録明細書記載に係る考案
 【請求項1】圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これら
の出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁
体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロ
ット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第
1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロッ
ト流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、
 上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパ
イロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手
動操作部を設け、
 上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並
設した、
ことを特徴とするダブルパイロット形切換弁。
【請求項2】主弁第1の手動操作部側に、第1のパイロット弁への通電を表示する
第1のランプを、第2の手動操作部側に、第2のパイロット弁への通電を表示する
第2のランプをそれぞれ設けた、
ことを特徴とする請求項1に記載したダブルパイロット形切換弁。
 3 決定の理由の要点
 (1) 訂正の適否についての判断
 (1)-1 平成10年9月29日付けで提出された訂正請求書に添付した訂正明細
書の請求項1に係る考案は、前記2(1)のとおりと認める。
 (1)-2 引用刊行物記載の考案
 訂正請求項に係る考案に対して、審判で通知した訂正拒絶理由で、下記刊行物1
及び2を引用した。
刊行物1:実願平2-122339号(実開平4-78377号)の願書に添付
した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 刊行物2:実願昭60-21434号(実開昭61-139372号)の願書に
添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 (1)-2-1 刊行物1には、以下の事項が記載されている。
 6頁11~18行中に「詳しくは、前記主弁1は、主弁本体4の中心に軸孔5を
有し、この軸孔5に連通する入力ポートP、第1および第2の出力ポートA,B、
第1および第2の排出ポートRa,Rbが形成されている。軸孔5にスプール状の
主軸9が摺動自在に設けられ、この主軸9には小径部9aと大径部9bとが交互に
形成され、この大径部9bにシール10が嵌着されている。」と記載され、
 8頁19行~9頁7行中に「第1および第2のピストン側流体室18a,18b
内のパイロット圧により摺動する第1および第2のピストン21a,21bで主軸
9を駆動できるようになっている。
 前記第1および第2の手動操作装置2a,2bは手動によりパイロットエアの流
動方向を切換えるもので、パイロット弁本体11およびエンドカバー7内に配置さ
れ、ともに上向きに指向している。」と記載され、
 10頁18行~12頁8行中に「第1のパイロット弁3aをOFFにし、かつ第
2のパイロット弁3bをONにすると、第1図に示すように、第1のパイロット弁
3aでは、第1のプランジャ15aがプランジャばね24の付勢力により固定コア
14から離間する。このため第1のポペット19aが第1のポペット側弁座12a
に押付けられるので、第1のポペット側弁座12aは閉じ、第1のフラッパ20a
がフラッパばね29の付勢力に抗して第1のフラッパ側弁座13aから離間し、第
1のフラッパ側弁座13aが開く。
 第2のパイロット弁3bでは、第2のプランジャ15bがプランジャばね24の
付勢力に抗して固定コア14に磁気的に吸引される。このため第2のポペット19
bが第2のポペット側弁座12bから離間するので、第2のポペット側弁座12b
は開き、第2のフラッパ20bがフラッパばね29の付勢力により第2のフラッパ
側弁座13bに押付けられ、第2のフラッパ側弁座13bが閉じる。
 その結果、第1のピストン側流体室18a内のパイロットエアはパイロット通路
6a、第1のフラッパ側弁座13a、パイロット通路6cを経てパイロット排出ポ
ート28から排出可能な状態となる。
 入力ポートPからの圧縮エアは、軸孔5,パイロット通路6を経て第2のポペッ
ト側流体室17bにのみ流入し、さらにパイロット通路6b、第2の手動操作装置
2bの軸孔5bを経てポート40から第2のピストン側流体室18bに供給され
る。」と記載され、
 12頁19行~14頁8行中に「次いで、第2のパイロット弁3bをOFFに
し、かつ第1のパイロット弁3aをONにすると、前記の場合と逆のプロセスによ
り、主軸9は左方向に移動し、ストローク左端の位置で停止する。
 このように、主軸9がストローク左端の位置にあるときは、入力ポートPからの
圧縮エアは軸孔5を経て第1の出力ポートAからアクチュエータに供給される。ま
た、アクチュエータからの圧縮エアは第2の出力ポートB、軸孔5を経て第2の排
出ポートRbから排出される。
 ここで、第1のパイロット弁3aの使用不能により第1の手動操作装置2aを使
って手動で第1のパイロット弁3aを開弁させる場合、第1の手動操作装置2aに
おいて、操作部32を手動により押下げると、操作軸30が下向きに移動し、これ
に伴い、テーパ部31も下向きに移動し、第1のプランジャ15aに当たり、その
後は、テーパ作用により、第1のプランジャ15aは固定コア14側へ移動し、こ
れにより第1のパイロット弁3aは開弁状態となる。
 また、第2のパイロット弁3bの使用不能により第1の手動操作装置2aを使っ
て手動で第2のパイロット弁3bに代えて、第2のピストン側流体室18bにパイ
ロットエアを供給する場合、第2の手動操作装置2bにおいて、操作部32を手動
により押下げると、操作軸30が下向きに移動し、これに伴い、弁体39が下向き
に移動し、ポート40を越え、パイロット通路6内のパイロットエアは軸孔5bを
経てポート40から第2のピストン側流体室18bに供給される。」と記載され、
 したがって、上記の各記載及び第1図等の記載からみて、刊行物1には以下の考
案が記載されている。
 圧縮エアの入力ポートP、2個の出力ポートA、B及び排出ポートRa、Rbこ
れらの出力ポートA、Bを入力ポートPと排出ポートRa、Rbとに切換えて連通
させる主軸9、並びに該主軸9の軸方向両側に第1、第2のピストン側流体室18
a、18bを有する主弁本体4と、第1、第2のピストン側流体室18a、18b
にパイロットエアを給排する第1、第2のパイロット弁3a、3bとを備え、第
1、第2のパイロット弁3a、3bから第1、第2のピストン側流体室18a、1
8bに給排されるパイロットエアによって上記主軸9を駆動する電磁弁において、
 上記主弁本体4の軸方向両側に、押圧によって上記入力ポートPの圧縮エアを第
1、第2のピストン側流体室18a、18bに直接供給するための第1、第2の操
作軸30を有する第1、第2の手動操作装置2a、2bを設けるとともに、
 上記手動操作装置2a、2bのいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイ
ロット弁3a、3bを並設した電磁弁。
 (1)-2-2 刊行物2には、以下の事項が記載されている。
 1頁5~13行中に「1.パイロット弁の操作力によって主弁の流路を切換える
パイロット形電磁弁において、上記主弁に、パイロット弁への給電端子、電源接続
用のプラグ並びにこれらを電気的に接続する印刷配線した回路を設けた印刷配線板
を取付け、上記パイロット弁の受電端子を、該パイロット弁の主弁に対する取付け
に伴って上記給電端子と電気的に接続されるように圧挿入可能にしたことを特徴と
する印刷配線板付パイロット形電磁弁。」と記載され、
 4頁9行~6頁4行中に「第1図において、ベース1には、入力ポート2,第1
及び第2出力ポート3a、3b及び第1及び第2排出ポート4a、4bがそれぞれ
穿設されている。
 上記ベース1上にシール部材を介して取付けられた主弁5の弁本体6は、その長
手方向に弁孔7及びパイロット孔8が貫通されており、該弁孔7は、その拡径部に
穿設された開口によって上記入力ポート2,第1及び第2出力ポート3a、3b並
びに第1及び第2排出ポート4a、4bに連通すると共に、入力ポート2に連通す
る拡径部に設けられた連通孔8aによって、上記パイロット孔8にも連通してい
る。
 上記弁本体6の上部においては、周辺の突出部9,9間に収容室10が形成され
ている。また、上記弁本体6の両端面は、上記弁孔7に連通する連通孔11及びパ
イロット孔8に連通するパイロット連通孔12が穿設されたエンドプレート13,
13によって閉鎖されており、上記弁孔7内に挿入されたスプール14によって、
周知の5ポート弁が形成されている。また、上記エンドプレート13,13上に
は、周知のパイロット弁17,17が、その電磁部18を上記収容室10上に突出
させて取り付けられている。
 上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両端にパイロット弁1
7,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と反対側の上面の中
央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,17の作動の表示
灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、電磁弁の作動等に
必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取付けられてい
る。」と記載され、
 したがって、上記の各記載及び第1図等の記載からみて、刊行物2には以下の考
案が記載されている。(判決注・刊行物2の第1図は本判決別紙参照)
 圧力流体の入力ポート2、2個の出力ポート3a、3b及び排出ポート4a、4
b、これらの出力ポート3a、3bを入力ポート2と排出ポート4a、4bとに切
換えて連通させるスプール14、並びに該スプール14の軸方向両側に第1、第2
のパイロット室を有する主弁5と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を
給排する第1、第2のパイロット弁17,17とを備え、第1、第2のパイロット
弁17,17から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって
上記スプール14を駆動するパイロット形電磁弁において、
 上記主弁5の軸方向一側に、第1のパイロット弁17、第1の表示灯23を、主
弁5の軸方向他側に、第2のパイロット弁17、第2の表示灯23を設け、前記2
つの表示灯23,23は前記2つのパイロット弁17,17の作動を表示するよう
にしたパイロット形電磁弁。
 (1)-3 対比・判断
 (1)-3-1 そこで、訂正請求項に係る考案と刊行物1に記載された考案とを対
比すると、刊行物1に記載された考案の「圧縮エア」、「入力ポート」、「主
軸」、「主弁本体」、「ピストン側流体室」、「パイロットエア」、「パイロット
弁」、「電磁弁」、「操作軸」、「手動操作装置」は、それぞれ訂正請求項に係る
考案の「圧力流体」、「供給ポート」、「弁体」、「主弁」、「パイロット室」、
「パイロット流体」、「パイロット電磁弁」、「ダブルパイロット形切換弁」、
「手動操作釦」、「手動操作部」に対応している。
 したがって、両者は、
「圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポート
を供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両
側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイ
ロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイ
ロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって
上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、上記主弁の軸方向両側
に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパイロット室に直接供給す
るための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手動操作部を設けるととも
に、上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を
併設した、ダブルパイロット形切換弁。」である点で一致し、以下の点で相違して
いる。
相違点:
 訂正請求項に係る考案では、「第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通
電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電
を表示する第2のランプを、それぞれ設けた」構成を有しているのに対して、刊行
物1に記載された考案では、ランプを有していない点。
 (1)-3-2 そこで、刊行物2に記載された考案を検討すると、
 刊行物2に記載された考案の「入力ポート」、「スプール」、「弁本体」、「パ
イロット弁」、「パイロット形電磁弁」、「表示灯」は、それぞれ訂正請求項に係
る考案の「供給ポート」、「弁体」、「主弁」、「パイロット電磁弁」、「ダブル
パイロット形切換弁」、「ランプ」に相当する。
 また、刊行物2には、前述のように「パイロット弁17,17の作動の表示灯2
3,23,が設けられており」と記載され、また、第1図において各表示灯23,
23が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由は
なく、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識であ
るから、この刊行物2に記載された考案の主弁軸方向の両側に設けられた2つの表
示ランプは、第1の表示ランプが、第1のパイロット電磁弁への通電を表示すると
ともに、第2の表示ランプが、第2のパイロット電磁弁への通電を表示するものと
認められる。
これらのことから、刊行物2に記載された考案は、「圧力流体の供給ポート、2
個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートと
に切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット
室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、
第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2
のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパ
イロット形切換弁」である点で、訂正請求項に係る考案及び刊行物1に記載された
考案と共通する技術分野に属する考案であり、「主弁軸方向の両側に、2つの表示
ランプを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第
2の表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示する」構成を備えている
ものと認められる。
 (1)-3-3 したがって、刊行物1に記載された考案に、刊行物2に記載された
第1,第2のパイロット電磁弁の作動を表示する第1,2のランプを設け、その配
置を、第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプ
を、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプを
配置することは、当業者であれば極めて容易に推考し得るものである。
 したがって、訂正請求項に係る考案は、刊行物1及び刊行物2に記載された考案
に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法
3条2項の規定により、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けること
ができないものである。
 (1)-3-4 むすび
 以上のとおりであるから、訂正は、平成6年法律第116号附則9条2項の規定
によって準用される特許法120条の4第3項の規定によりさらに準用する同法1
26条4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
 (2) 登録異議の申立てについての判断
 (2)-1 本件請求項1,2に係る考案
 本件請求項1及び請求項2に係る考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載か
らみて、それぞれ、その実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載された前
記2(2)とおりと認める。
 (2)-2 取消理由通知の概要
 平成10年7月16日付けで通知した取消理由の概要は、①本件請求項1に係る
考案は、本件登録出願前に頒布された下記異議甲第1号証に記載された考案と同一
の考案であり、実用新案法3条1項3号に該当し、また、②本件請求項2に係る考
案は、本件登録出願前に頒布された異議甲第1号証及び異議甲第2号証に記載の考
案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるというもの
である。
 異議甲第1号証:実願平2-122339号(実開平4-78377号)の願書
に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 異議甲第2号証:実願平3-1894号(実開平4-99486号)の願書に添
付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 (2)-3 異議甲第1、第2号証記載の考案
 (2)-3-1 異議甲第1号証には、前記(1)-2-1に記載のとおりの考案が記
載されている。
 (2)-3-2 異議甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
 【実用新案登録請求の範囲】の欄に、「【請求項1】外側表面に表示部が設けら
れているとともに、作動状態の視認用の発光部が内設されている流体圧機器であっ
て、前記表示部と前記発光部の透光部とが前記外表面側において互いに近接されて
配置され、この近接された前記表示部と前記発光部の透光部とが互いに共通する透
視可能な表示用カバーによって被覆されていることを特徴とする流体圧機器。」と
記載され、
 段落【0016】~【0018】に「図1に示すように、本実施例の流体圧機器
1は、弁本体2とこの両側に結合されたパイロット弁3とを備えたパイロット式ダ
ブルソレノイド形の電磁弁とされている。
 前記弁本体2内には、パイロット弁3からの補助圧縮空気によって所定の流路を
切り換える主軸(図示せず)が軸方向に沿って変位自在に収容されている。
 一方、前記パイロット弁3には、ソレノイド部(図示せず)が形成され、このソ
レノイド部によりパイロット弁3のポペット(図示せず)の開閉作動がなされる構
造とされている。」と記載され、
段落【0028】の第2行目以下に「また、第2嵌合用凹部10の底面における
印刷ラベル12の両側近辺には、穿設孔からなる透光部13および掛止孔14が一
対配置されている。」と記載され、
 段落【0029】に「カバー4の下側の弁本体2には、透光部13に対応して発
光ダイオードなどからなる発光部(図示せず)が一対内設され、この発光部の発光
が透光部13を通じて外部に透光されるようになっている。」と記載され、
 段落【0043】の第6行目以下に「また、前記発光部(図示せず)の透光部1
3が透視可能な表示用カバー15によって被覆されていることにより、その透光部
13を任意の形状に変更することが可能とされ、この透光部13の任意の形状への
変更により表示灯による作動状態の識別機能の明確化ないし拡大化を図ることがで
きる。」と記載され、
 したがって、上記の各記載及び図1ないし図10等の記載からみて、異議甲第2
号証には以下の考案が記載されている。
 所定の流路を切り換える主軸を有する弁本体と、第1、第2のパイロット弁から
の補助圧縮空気によって上記主軸を軸方向に駆動するパイロット式ダブルソレノイ
ド形の電磁弁において、
 弁本体の一側に、第1のパイロット弁及び発光部を、弁本体の他側に、第2のパ
イロット弁及び発光部を設け、パイロット弁の作動を表示するようにしたパイロッ
ト式ダブルソレノイド形の電磁弁。
 (2)-4 本件請求項1に係る考案について
 本件請求項1に係る考案と異議甲第1号証に記載された考案とを対比すると、
「圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポート
を供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両
側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイ
ロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイ
ロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって
上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、
 上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパ
イロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手
動操作部を設け、
 上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並
設したダブルパイロット形切換弁。」
の点で一致し、異議甲第1号証に記載された考案は、本件請求項1に係る考案の構
成をことごとく備えているので、本件請求項1に係る考案は、異議甲第1号証に記
載された考案と同一の考案であり、実用新案法3条1項3号に規定の考案に該当す
る。
 (2)-5 本件請求項2に係る考案について
 (2)-5-1 本件請求項2に係る考案と異議甲第1号証に記載された考案とを対
比すると、請求項2に係る考案は、前記訂正請求項に係る考案と実質的に同一の考
案と認められ、したがって、両者の一致点及び相違点は、前記(1)-3-1で検討し
たとおりのものと認める。
 (2)-5-2 そこで、異議甲第2号証に記載された考案を検討すると、
 異議甲第2号証に記載された考案の「主軸」、「補助圧縮空気」、「弁本体」、
「発光部」、「パイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁」は、それぞれ本件請求
項2に係る考案の「弁体」、「パイロット流体」、「主弁」、「ランプ」、「ダブ
ルパイロット形切換弁」に相当する。
 また、異議甲第2号証には、前述のように「流体用機器には作動状態の視認用の
発光部が内設されている。」、「本実施例の流体圧機器1は、弁本体2とこの両側
に結合されたパイロット弁3とを備えたパイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁
とされている。」、及び「カバー4の下側の弁本体2には、透光部13に対応して
発光ダイオードなどからなる発光部が一対内設され、この発光部の発光が透光部1
3を通じて外部に透光されるようになっている。」との記載があり、これらの記載
からみて、透光部13は、パイロット弁3,3の作動を表示しているものと認めら
れる。
 また、異議甲第2号証の第1図及び第2図において、各表示用透光部13が遠く
に離れた側のパイロット弁3の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側の
パイロット弁3の作動を表示するものと解するのが技術常識である。
 これらのことから、異議甲第2号証に記載された考案は、「所定の流路を切り換
える弁体を有する主弁と、第1、第2のパイロット電磁弁からのパイロット流体に
よって上記弁体を軸方向に駆動するダブルパイロット形切換弁において、」である
点で、本件請求請求項2に係る考案及び異議甲第1号証に記載された考案と共通す
る技術分野に属する考案であり、「主弁軸方向の両側に、2つの表示ランプを設
け、第1の表示ランプは、これに隣接する第1のパイロット電磁弁の作動を表示
し、第2の表示ランプは、またこれに隣接する第2のパイロット電磁弁の作動を表
示する」構成を備えているものと認められる。
 (2)-5-3 したがって、異議甲第1号証に記載された考案に、異議甲第2号証
に記載された第1,第2のパイロット電磁弁の作動を表示する第1,2のランプを
設け、その配置を、第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する
第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第
2のランプを配置することは、当業者であれば極めて容易に推考し得るものであ
る。
 したがって、本件請求項2に係る考案は、異議甲第1号証及び異議甲第2号証に
記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであ
り、実用新案法3条2項に規定により実用新案登録を受けることができない。
 (2)-6 小結
以上のとおり、本件請求項1及び請求項2に係る考案は、特許法等の一部を改正
する法律(平成2年法律第30号)により改正された実用新案法3条1項3号及び
同法3条2項の規定によりそれぞれ実用新案登録を受けることができない。
 したがって、本件請求項1及び請求項2に係る考案についての実用新案登録は、
拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものである。
 (3) 決定の結論
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則9条7
項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を
定める政令(平成7年政令第205号)3条1項及び2項の規定により、本件考案
の実用新案登録を取り消す。
第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、訂正後の本件考案と刊行物1に記載された考案との相違点の判断を誤
り、また、訂正後の本件考案の顕著な作用効果を看過して、訂正後の本件考案が独
立して実用新案登録を受けることができないから訂正を認めないと判断したもので
あり、この誤りは決定の結論に影響を及ぼすものであるから、取り消されるべきで
ある。
 1 刊行物2について
 決定は、刊行物2には「主弁5の軸方向一側に、第1のパイロット弁17、第1
の表示灯23を、主弁5の軸方向他側に、第2のパイロット弁17、第2の表示灯
23を設け、前記2つの表示灯23,23は前記2つのパイロット弁17,17の
作動を表示するようにしたパイロット形電磁弁。」が記載されていると認定した
上、「刊行物2には、前述のように『パイロット弁17,17の作動の表示灯2
3,23が設けられており』と記載され、また、第1図において各表示灯23,2
3が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はな
く、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識である
から、この刊行物2に記載された考案の主弁軸方向の両側に設けられた2つの表示
ランプは、第1の表示ランプが、第1のパイロット電磁弁への通電を表示するとと
もに、第2の表示ランプが、第2のパイロット電磁弁への通電を表示するものと認
められる。これらのことから、刊行物2に記載された考案は、・・・『主弁軸方向
の両側に、2つの表示ランプを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁
弁の作動を表示し、第2の表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示す
る』構成を備えているものと認められる。」と認定しているが、誤りである。
 すなわち、刊行物2には、主弁の軸方向両側にパイロット弁17,17を個別に
設けたこと、及び主弁の軸方向の左右に表示灯23,23を個別に設けたことは記
載されているが、第1図の記載を参照しても、第1図における左側の表示灯23が
左側のパイロット弁17への通電を表示し、右側の表示灯23が右側のパイロット
弁17への通電を表示するものであることを示す記載はない。また、各表示灯が隣
接する側のパイロット電磁弁の作動を表示すると解することが技術常識であるとい
う根拠は、何も示されていない。
 したがって、決定が、刊行物2について「主弁軸方向の両側に、2つの表示ラン
プを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第2の
表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示する構成を備えているものと
認められる。」とした認定は誤りである。
 2 乙号証について
 被告は、刊行物2の第1図において、各表示灯23,23が遠くに離れた側のパ
イロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロ
ット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識であることの証拠として、乙第
1号証ないし乙第6号証を提出している。
 乙第1号証:実願昭60-02907号(実開昭62-12068号)の願書に
添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 乙第2号証:特開昭56-157206号公報。
 乙第3号証:特開昭59-103102号公報。
 乙第4号証:実願昭54-12002号(実開昭55-112353号)の願書
に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 乙第5号証:実願昭54-64756号(実開昭55-164727号)の願書
に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 乙第6号証: 実願昭61-7305号(実開昭62-120298号)の願書に
添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。
 しかし、乙第1号証に記載の切換弁は、パイロット弁8自体に、該パイロット弁
の手動操作部(切換ボタン22)と表示灯(ランプ部25)とを組み込んで一体と
したものであるから、パイロット弁に一体に組み込んだ表示灯が該パイロット弁の
作動を表示すること、及びこれらのパイロット弁を覆う保護カバー33に、各パイ
ロット弁8に組み込んだ手動操作部を個別に作動するための操作ボタン36を設け
ることは、極めて当然のことである。また、同号証記載の切換弁は、主弁の軸方向
一側に2個のパイロット弁を並設するとともに、これらのパイロット弁自体にそれ
ぞれ手動操作部と表示灯とを一体に組み込んだものであるから、訂正後の本件考案
とは、切換弁の構成が基本的に相違する。
 乙第2号証ないし乙第6号証に記載のものは、それぞれ「分電盤」、「操作スイ
ッチの誤操作防止装置」、「電磁開閉器制御回路」、「しゃ断器の開閉表示装
置」、「照明器の制御装置」であるから、いずれも訂正考案のパイロット弁によっ
て作動する切換弁とは、技術分野を全く異にする。したがって、これらの証拠に
は、切換弁において、主弁の軸方向一側に並設した第1、第2のパイロット弁と、
主弁の軸方向両側に分離して設けた第1、第2の手動操作部及び第1、第2のラン
プとの関係については、何も記載されていないから、上記乙号証は、上記技術常識
を立証するものではない。
 3 訂正後の本件考案の作用効果について
 訂正後の本件考案は、第1の手動操作部及びこれに対応する第1のランプと、第
2の手動操作部及びこれに対応する第2のランプとを、主弁の軸方向の一側と他側
とに分離して設けたことによって、並設した2個のパイロット弁のどのパイロット
弁が故障したかということ、及び弁体が主弁の軸方向の左右のいずれ側にあるかと
いうことを、外部において目視確認することができるので、手動操作部の誤操作が
ほとんどなくして即座に操作することができるという作用効果を奏する。
 これにより、訂正後の本件考案は、軸方向の一側に配設した2個のパイロット弁
と軸方向の左右に配設した2個の手動操作部との対応関係が明らかでないために、
2個の手動操作部のいずれを操作すればよいかがわからないので、手動操作部を誤
操作する恐れが大きいという従来技術の問題点を解決したものである。
 これに対して、刊行物1には、第1、第2のパイロット電磁弁を主弁の軸方向一
側に並設するとともに、主弁の軸方向一側と他側に第1、第2の手動操作部を設け
たダブルソレノイド形切換弁が記載されているが、並設した2個のパイロット電磁
弁への通電と主弁の弁体の位置とを関係付けるための構成は示唆さえもないから、
刊行物1記載の考案では、訂正後の本件考案の奏する上記効果を期待することはで
きない。
 また、刊行物2には、主弁の軸方向の左右にそれぞれパイロット電磁弁とランプ
とを備えたダブルパイロット形切換弁が記載されているが、2個のパイロット電磁
弁と2個のランプとを関係付ける記載がなく、また仮にランプによって左右いずれ
かのパイロット弁が故障したことを外部において確認することができたとしても、
手動操作部を備えていないので、手動によって主弁の弁体を作動させることができ
ないものであるから、刊行物2記載の考案では、訂正後の本件考案の奏する上記効
果を期待することができない。
 4 以上のとおり、決定は、刊行物2の記載事項を誤って認定し、訂正後の本件
考案の顕著な作用効果を看過して、その進歩性を否定したものであるから、取り消
されるべきである。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 刊行物2について
 刊行物2には、「上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両側
にパイロット弁17,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と
反対側の上面の中央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,
17の作動の表示灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、
電磁弁の作動等に必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取
付けられている。」(5頁15行ないし6頁4行)と記載されており(別紙刊行物
2の第1図参照)、また、決定が、「第1図において各表示灯23,23が遠くに
離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接す
る側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識である」と認定し
たように、いずれの作動部材が作動中であるかを表示ランプによって表示する場
合、人が誤りなく認識できるように作動部材とその表示ランプとを隣接して配置す
ることは、技術常識である(乙第1ないし第6号証参照)。
 そして、この技術常識をもって、刊行物2記載の考案を見ると、各表示灯23
は、各パイロット弁17の作動を表示するものであるから、第1図において、左側
のパイロット弁17の作動を左側の表示灯23が表示し、右側のパイロット弁17
の作動を右側の表示灯23が表示するように配置されているものと認めるのが相当
であり、このように配置されていることによって、左右いずれのパイロット電磁弁
が作動しているかを、人が誤りなく認識できるものである。もし、これと逆に配置
した場合には、人間の直感と反対になるため、誤認が発生しやすく、また、緊急の
場合にはさらに高い確率で誤認が発生すると思慮されるので、この逆配置は、特別
の事情がない限り使用されることのない配置である。したがって、刊行物2につい
ての決定の認定判断に、誤りはない。
 2 訂正後の本件考案の作用効果について
 原告が主張する作用効果は、前記技術常識を考慮すれば、刊行物1及び刊行物2
に記載された考案から予測し得る程度のものである。
第5 当裁判所の判断
 1 刊行物2に関する原告の主張について
 原告は、刊行物2には、第1図において左側の表示灯23が左側のパイロット弁
17への通電を表示し、右側の表示灯23が右側のパイロット弁17への通電を表
示するものであることを示す記載はなく、また、各表示灯が隣接する側のパイロッ
ト電磁弁の作動を表示すると解することが技術常識であるという根拠は、何も示さ
れていないと主張する。
 そこで判断するに、甲第5号証によれば、刊行物2には印刷配線板付パイロット
形電磁弁に関する考案が記載されており、次の記載があることが認められる。
 「弁本体6の上部においては、周辺の突出部9,9間に収容室10が形成されて
いる。・・・また、上記エンドプレート13,13上には、周知のパイロット弁1
7,17が、その電磁部18を上記収容室10上に突出させて取付けられている。
 上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両側にパイロット弁1
7,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と反対側の上面の中
央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,17の作動の表示
灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、電磁弁の作動等に
必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取付けられている。
また、上記印刷配線板20には、給電端子21,21、プラグ22、表示灯23,
23及び電気、電子部品24,・・を電気的に接続する回路が印刷配線されてい
る。
 上記パイロット弁17,17における電磁部18の受電端子19,19は、該電
磁部18から下方に向けて突出し、かつ該パイロット弁17,17を主弁5に対し
て取付ける際に、印刷配線板20の両側に設けた給電端子21,21に自動的に圧
挿入されるような位置に設けられ、その圧挿入によって電気的に接続されるもので
ある。
 また、上記印刷配線板20の上面側は、プラグ22、受電端子19,・・を露出
させる孔及び表示灯23,23を収容する収容室25を形成した保護カバー26に
よって覆われている。上記プラグ22は、給電線の先端のソケット27を嵌挿する
ことによって電源に接続されるものである。」(5頁4行ないし7頁2行)
 この記載及び刊行物2の第1図の記載(別紙刊行物2の第1図)によれば、電源
からプラグ22を経て印刷配線板20に給電された電源電流は、左右に分かれて、
電子部品24、表示灯23、給電端子21、受電端子19を経由し、パイロット弁
17に通電するものと認められる。したがって、刊行物2の第1図においては、左
側の表示灯23が左側のパイロット弁17への通電を表示し、右側の表示灯23が
右側のパイロット弁17への通電を表示するものであると認めるのが自然である。
刊行物2には印刷配線板20の配線図の開示がないが、この認定を妨げるべき特段
の事情を認めるべき証拠はない。
 したがって、決定には、原告が主張するような刊行物2についての認定の誤りは
ない。
 2 訂正後の本件考案の作用効果に関する原告の主張について
 原告は、訂正後の本件考案の、並設した2個のパイロット弁のどのパイロット弁
が故障したかということ、及び弁体が主弁の軸方向の左右のいずれ側にあるかとい
うことを、外部において目視確認することができるので、手動操作部の誤操作をほ
とんどなくして即座に操作し得るという作用効果が、刊行物1及び2記載の各考案
においては期待することができないと主張する。
 しかし、前判示のとおり、刊行物2には、パイロット弁に隣接して左右に設けら
れた表示灯が該パイロット弁の通電状態を表示することが記載されている。そし
て、刊行物1に、パイロット弁の故障などの際に作動させる手動操作装置が左右に
設けられている点が記載されていることは、決定が認定する刊行物1の記載事項
(原告はこの点を争っていない。)から明らかであり、かつ、乙第1、第2、第3
及び第6号証によれば、実願昭60-102907号(実開昭62-12068
号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1
号証)の第4図に示された操作ボタン36と透光性のランプカバー38、特開昭5
6-157206号公報(乙第2号証)の第5図に示されたハンドル2aと通電表
示ランプ4、特開昭59-103102号公報(乙第3号証)の第1図に示された
操作スイッチ11とその作動状態を示す状態表示ランプ14、実願昭61-730
5号(実開昭62-120298号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮
影したマイクロフィルム(乙第6号証)の第2図に示された制御用操作スイッチ1
5~22と表示ランプ11~14の関係にみられるように、手動操作キーとその表
示灯(ランプ)を対応させて近接して設けた点は、技術分野を問わず広く行われて
いる自然な設計事項であることを認めることができる。そして、その前提として、
操作する人の手動操作の誤操作をなくして即座に操作し得るようにするという技術
的課題が存在することも、当業者であれば自明な事項にすぎないことは明らかであ
る。
 刊行物1及び刊行物2記載の各考案が共通の技術分野に属することは決定が認定
したとおりであり、この点を覆すべき特段の事実関係も認められない以上、刊行物
1に記載の電磁弁に接した当業者が、操作する人の手動操作の誤操作をなくして即
座に操作し得るようにするという周知の技術的課題を解決するために、刊行物2記
載のパイロット弁の通電状態を表示する左右に設けられた表示灯を適用すること
は、当業者であれば極めて容易に想到し得たものと認められる。
 これらの認定によれば、原告が主張する訂正後の本件考案の作用効果も、当業者
の予測を超えるような格別顕著なものではないと認められる。
 3 取消事由に対する判断のまとめ
 結局、決定には原告が主張するような誤りはなく、訂正後の本件考案が出願の際
独立して実用新案登録を受けることができないとした決定の判断を誤りとすること
はできず、原告主張の決定取消事由は理由がない。
第6 結論
 よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成12年6月15日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   橋   本   英   史
刊行物2の第1図

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

来週の知財セミナー (12月2日~12月8日)

12月4日(水) - 東京 港区

発明の創出・拡げ方(化学)

12月5日(木) - 東京 港区

はじめての米国特許

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

たかのは特許事務所

愛知県名古屋市中区丸の内二丁目8番11号 セブン丸の内ビル6階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

山口晃志郎特許事務所

岐阜県各務原市つつじが丘1丁目111番地 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 コンサルティング 

IVY(アイビー)国際特許事務所

愛知県名古屋市天白区中平三丁目2702番地 グランドールS 203号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング