ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成11(行ケ)194 行政訴訟 特許権
裁判所 | 請求棄却 東京高等裁判所 |
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裁判年月日 | 平成12年2月29日 |
事件種別 | 民事 |
当事者 | 被告特許庁長官B 原告A |
対象物 | 台形型片持上昇引込式多段格納装置 |
法令 |
特許権 特許法29条2項1回 |
キーワード | 審決22回 実施4回 進歩性1回 |
主文 | 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。事 実第1 請求特許庁が平成7年審判第21442号事件について平成11年5月6日にした審決を取り消す。第2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実) 1 特許庁における手続の経緯原告及びFは、平成3年4月20日、発明の名称を「台形型片持上昇引込式多段格納装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成3年特許願第116743号)をした。Fは、原告に対し、本願の特許を受ける権利を譲渡し、平成7年4月24日、特許庁長官に対し、その旨の出願人名義変更届を提出した。原告は、平成7年8月28日拒絶査定を受けたので、同年11月2日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成7年審判第21442号事件として審理した結果、平成11年5月6日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年6月2日原告に送達された。 2 本願請求項1の発明の要旨それぞれ上昇走行部、湾曲走行部及び引込走行部とを有する逆L字形の外側軌条及び内側軌条の組からなる一対の走行軌条と、外側軌条の内周面上を転動する外側軌条コロと内側軌条の外周面上を転動する内側軌条コロとを有し、外側軌条と内側軌条との間隙に沿って移動する移動枠に固定された搭載台とを含み、少なくとも引込走行部において外側軌条を内側軌条の上方に位置させるとともに、高さ及び水平位置をずらして外側軌条コロ及び内側軌条コロを配置することにより、水平姿勢を保持しつつ搭載台を走行軌条に沿って上昇走行・引込走行させる片持上昇引込式多段格納装置において、上昇走行部を後方に傾斜させ、装置全体を側面から見て台形としたことを特徴とする台形型片持上昇引込式多段格納装置。 3 審決の理由審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本願請求項1の発明は、第1引用例(特公昭62-52117号公報)及び第2引用例(実願平1-66643号(実開平3-5860号)のマイクロフィルム)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない旨判断した。第3 審決の取消事由 1 審決の認否(1) 審決の理由1(手続の経緯・本願請求項1の発明)は認める。(2) 同2(引用例)のうち、第1引用例についての記載(審決書3頁11行ないし7頁4行)は認めるが、第2引用例についての記載(同7頁5行ないし8頁1行)は争う。第2引用例記載の発明は、実施不能である。(3) 同3(対比)は認める。(4) 同4(当審(審決)の判断)のうち、相違点(1) についての判断(審決書10頁4行ないし11頁3行)は認め、相違点(2) についての判断(同11頁5行ないし18行)は争う。(5) 同5(むすび)は争う。 2 取消事由審決は、相違点(2)についての判断を誤った結果、本願請求項1の発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。(1) すなわち、第2引用例記載の発明は、実現不可能の空想発明であり、拒絶理由として引用することができないものである。ア 第2引用例には、「H鋼のフランジ部分には切欠を設けて前記丸パイプからなる軌条及びこの上を滑動するローラを挿通させる必要がある。」(甲第3号証10頁13行ないし16行)と記載されており、図面には、フランジにこの切欠を書き込んでないので一見すると実現可能な発明に見えるが、この切欠があると、第2図のように自動車搭載台2がリフト式駐車場1に水平に引込まれる前に上段ローラ3が、この切欠から前へ飛び出して自動車搭載台2は、水平を保持することができず下向きになってしまい、自動車を搭載していることは不可能となる。イ また、第2引用例には、「その主たる課題は、上下のローラを同一面に配して軌条に横方向の回転力が働くのを防ぐと共に、省スペースで設置することのできる簡単な構成のリフト式駐車装置を提供することにある。」(同4頁6行ないし10行)と記載されているが、上下のローラを同一面に配する場合に、上昇から横引込み運動をするには、上下運動の時と横引込み運動の時と2個ずつ合計4個のローラが必要であり、かつ、湾曲部を特殊の形にする必要があり、上下のローラ2個では不足で、上昇から引込みに移ることはできない。ウ さらに、H鋼のフランジ(甲第3号証10頁13行、14行)程度の強度では、自動車を搭載するには強度不足である。(2) 被告は、補助ローラ6は第2引用例記載の発明を構成する要件とはなっていない旨主張する。しかしながら、自動車搭載台2を水平に保持するためのフォークには、上段ローラ3と下段ローラ4が設置され、この2つの支点により水平が保持されている。これが、水平の横向軌条部に移ると、後部にある上段ローラ3は上段横向き軌条部12を上へ押上げる力を作用させ、前部の下段ローラ4は下段横向き軌条部13を下へ押し下げる力を作用させ、横向きの上下段軌条部12、13を上下に押し広げる抵抗力で水平を保持している。上段ローラと下段ローラとの角度が3ないし5度程度に浅いとローラーが滑って抵抗力がなくなり、フォークは垂直になり、自動車搭載台も水平が垂直になり、車は落ちてしまう。これを防ぐ目的で、第2引用例では補助ローラ6を考え、取り付けたものであり、補助ローラ6は、第2引用例記載の発明の必須の構成要件の1つである。第4 審決の取消事由に対する認否及び反論 1 認否原告主張の審決の取消事由は争う。 2 反論(1) 第2引用例には、奥行き方向に傾斜して起立する縦向き軌条部を有し、装置全体を側面から見て台形としているリフト式駐車装置が記載されており(第1図参照)、上記縦向き軌条部は、本願請求項1の発明の上昇走行部に相当しているから、相違点(2) は、第2引用例に記載された事項であるということができる。そして、台形は、安定性のある構造として普通に知られたものであるから、第2引用例に記載された上記事項は、縦向き軌条部(上昇走行部)上部において、自動車搭載台と自動車の重心の作用線が縦向き軌条部に近接ないし内側にくるようにし、自動車搭載台と自動車の過大なモーメントが縦向き軌条部の外側に作用しないようにしたものであることは、第2引用例に接する当業者にとって自明の事項である。したがって、第1引用例記載の発明において、本願請求項1の発明のように「上昇走行部を後方に傾斜させ、装置全体を側面から見て台形とする」ことは、第2引用例記載の発明から当業者が容易に設計できることである。そして、その奏する効果も、予想することができる範囲内のものである。(2) 原告は、第2引用例記載の発明は実現不可能であり、拒絶理由として引用することができない旨主張するが、審決は、第2引用例の記載事項については、甲第3号証1頁12行ないし2頁3行並びに第1図及び第2図のみを引用したもので(審決書7頁5行ないし8頁1行)、原告が指摘している「H鋼のフランジ部分には切欠を設けて前記丸パイプからなる軌条及びこの上を滑動するローラを挿通させる必要がある。」(甲第3号証10頁13行ないし16行)並びに第5図及び第6図の記載箇所については、引用していない。よって、審決が第2引用例の記載事項として引用していない箇所の技術的事項について誤りを主張しても、審決の引用箇所を拒絶理由として引用することができない理由とはならない。(3) さらに、第2引用例記載の発明は、実現不可能なものではない。ア 原告が指摘する第2引用例の「H鋼のフランジ部分には切欠を設けて前記丸パイプからなる軌条及びこの上を滑動するローラを挿通させる必要がある。」との記載は、支持体10の縦枠11と上段又は下段横枠12、13との連接部分につき、それぞれの枠がH鋼で形成されており、縦枠11のフランジにより連通状態にならないため、連接部分となる縦枠11のフランジ部分を切欠き、丸パイプからなる軌条を縦枠11から上段又は下段横枠12、13へ配設することができ、ローラを挿通することができるようにする必要があるということであり、この記載内容は合理的な技術事項として理解することができる。そして、対応する第2図、第5図及び第6図の記載も、上段又は下段横枠12、13との連接部分に相当する縦枠11のフランジ部分が切欠かれていることが予想できるもので、第2引用例の上記記載と矛盾しないものである。イ 補助ローラ6については、その補助ローラ6を軌条に挿通するため、別途縦枠11のフランジ部分及び軌条の前側丸パイプの一部を切欠く必要性があり、それにより自動車搭載台の上下段ローラ3、4が切欠より飛び出すことが起こり得るが、第2引用例の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、上段ローラ及び下段ローラについては、第2引用例記載の発明の構成要件として記載されているが、補助ローラ6については、必須の構成要件とはなっていない。したがって、補助ローラ6を設けた実施例による欠陥を主張し、これをもって、補助ローラ6を構成要件としていない第2引用例の発明全体を実施不可能の発明であるということはできない。理 由 1 争いのない事実本願請求項1の発明の要旨及び第1引用例の記載事項は、当事者間に争いがない。そして、本願請求項1の発明と第1引用例記載の発明との対比及び相違点(1)についての判断も当事者間に争いがない。 2 相違点2についての判断について(1) 甲第3号証によれば、平成3年1月21日に公開された第2引用例の実用新案登録請求の範囲には、「軌条部が、奥行き方向に傾斜して起立する前後一対の縦向き軌条部と、該前方の縦向き軌条部と連接し奥行き方向に向かって水平に延びる上段の横向き軌条部と、前記後方の縦向き軌条部と連接すると共に上段の横向き軌条部と平行して延びる下段の横向き軌条部とからなっており、上段ローラが前方の縦向き軌条部から上段の横向き軌条部にガイドされ、下段ローラが後方の縦向き軌条部から下段の横向き軌条部にガイドされて自動車搭載台を水平に保持しつつ移動させることを特徴とするリフト式駐車装置。」と記載され、その第1図(側面図)には、台形状の駐車装置が図示されていることが認められる。これらの記載によれば、第2引用例には、前部にある縦向き軌条部(本願請求項1の発明の「上昇走行部」に相当)が奥行き方向に(同「後方に」に相当)傾斜して起立する全体形状を側面からみて台形としたリフト式駐車装置(同「片持上昇引込式多段格納装置」に相当)が開示されていることが認められる。そして、台形が安定性のある構造であることは普通に知られていることからすると、第2引用例の上記開示事項が、縦向き軌条部上部において、自動車搭載台と自動車の重心の作用線が縦向き軌条部に近接ないし内側に来るようにし、自動車搭載台と自動車の過大なモーメントが縦向き軌条部の外側に作用しないようにしたものであることは、第2引用例に接する当業者にとって自明の事項であると認められる。そうすると、相違点(2)につき、本願請求項1の発明のようにすることは、当業者が容易に推考することができるものと認められ、そのように構成することによる作用効果も、予測の範囲内のものと認められる。(2) 原告は、第2引用例記載の発明は実現不可能の空想発明であるから、拒絶理由として引用することができない旨主張する。しかしながら、上記(1) に説示のとおり、第2引用例には、自動車搭載台と自動車の過大なモーメントが縦向き軌条部の外側に作用しないようにするため、縦向き軌条部が奥行き方向に傾斜して起立する全体形状を台形としたリフト式駐車装置が開示され、この開示の限度では、第2引用例記載の発明は実施可能であると認められ、審決がした第2引用例及び相違点2についての認定、判断に誤りはない。 3 結論以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。(口頭弁論終結の日 平成12年2月15日)東京高等裁判所第18民事部裁判長裁判官 永 井 紀 昭裁判官 塩 月 秀 平裁判官 市 川 正 巳 |
事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯 原告及びFは、平成3年4月20日、発明の名称を「台形型片持上昇引込式多段 格納装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成3年特 許願第116743号)をした。 |
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