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平成10(ワ)3678民事訴訟 実用新案権

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成12年2月29日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社鶴見製作所
原告株式会社荏原製作所
法令 実用新案権
キーワード 分割10回
実用新案権7回
実施4回
侵害3回
差止2回
特許権1回
損害賠償1回
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

平成一〇年(ワ)第三六七八号実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成一一年一二月二一日
判 決
原 告 株式会社荏原製作所
右代表者代表取締役 【A】
右訴訟代理人弁護士 福田親男
同 近藤惠嗣
被 告 株式会社鶴見製作所
右代表者代表取締役 【B】
右訴訟代理人弁護士 安田有三
同 小南明也
右補佐人弁理士 【C】
同 【D】
主 文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙物件目録記載の水中モータポンプを製造し、販売してはならな
い。
二 被告は、その占有する別紙物件目録記載の水中モータポンプを廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金四億五〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月五
日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。
登録番号 実用新案登録第二一四八九九八号
考案の名称  水中モータポンプ
出願日  平成元年一二月二六日
公告日  平成七年六月二一日
登録日  平成九年一〇月三日
2 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録
請求の範囲記載の請求項1及び同2は、次のとおりである(以下、請求項1記載の
考案を「本件考案1」と、請求項2記載の考案を「本件考案2」といい、両者を併
せて「本件考案」という。)。
(一) 請求項1
「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する
水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面
に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴ
ムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴と
する水中モータポンプ。」
(二) 請求項2
「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌
合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾
性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載
の水中モータポンプ。」
3 本件考案1の構成要件は、次のとおりに分説できる(以下「構成要件A」など
という。)。
A 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用す
る水中モータポンプにおいて、
B 上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、
C 該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、
D ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを
E (右中間ケーシングの下面に)嵌め込んだ
F ことを特徴とする水中モータポンプ。
4 被告は、別紙物件目録記載の水中モータポンプ(以下「イ号物件」という。)
を製造、販売している。
二 本件は、原告が被告に対し、イ号物件の製造販売は本件実用新案権を侵害する
と主張して、イ号物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為に
よる損害賠償を求める事案である。
第三 争点
一 イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するかどうか
1 原告の主張
(一) 構成要件A及びB
(1) 「製造上の中子を不要とする」(構成要件A)との限定は、下部側ケーシング
の形状を限定するものであり、これは、技術的には「鋳造以外の方法で製造可能
な」との限定とほぼ同意義であって、下部側ケーシングが鋳造技術で製造されるこ
と(金属製であること)を前提とするものではない。
 イ号物件のポンプケーシング20は、本件考案の「下部側ケーシング」に当た
り、内側がやや上方に開いた形状をしているから、中子を使用せずに製造できる形
状である。
(2) 「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)という表現
は、モータを含めた水中モータポンプ全体における中間ケーシングが、水圧を保持
するという上部側ケーシングの役割を果たしていることを明確にしたものである。
イ号物件のオイルケーシング29は、右のような意味での、本件考案の「上部側
ケーシングに相当する中間ケーシング」に該当し、これとポンプケーシング20に
よって上下分割型ポンプケーシングを構成している。
(3) したがって、イ号物件は、構成要件A及びBを充足する。
(二) 構成要件C及びD
(1) イ号物件のオイルケーシング取付ボルト131の頭部は、ポンプ室のボリュー
ト渦径付近に位置し、後面ライナ31がなければ水流にさらされる場所に位置して
いるから、後面ライナ31は、取付ボルト131を水流から遮蔽するものである。
 なお、後面ライナ31は、オイルケーシング29の下面全面を覆っているが、そ
のことから後面ライナ31が取付ボルト131を水流から遮蔽するものではないと
いうことはできない。
(2) 本件考案の「リング」(構成要件D)は、シャフトの貫通する中央部に開口部
がある略円形状の物を意味しており、帯状の物に限定されないところ、後面ライナ
31は、中央部にオイルケーシング29の主軸貫通部を通過させるための円形の開
口部がある略円形状をしており、この開口部は、オイルケーシング29下面の中央
にあるシャフト貫通部の円形段部(貫通孔周辺部29c)に嵌め込まれるものであ
る。また、後面ライナ31は、ゴム製で、交換可能な部品である。
(3) したがって、後面ライナ31は、「中間ケーシングをモータに取付けるボルト
部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能な
リング」に当たるから、イ号物件は、構成要件C及びDを充足する。
(三) 構成要件E
 イ号物件の後面ライナ31の中央の開口部の周囲の厚さ及び直径は、オイルケー
シングの中央部に段部として形成された貫通孔周辺部29cの高さ及び直径と一致
している。また、後面ライナ31の円形の開口部の内側には環状突起31eが形成
され、この環状突起31eをオイルケーシングの溝29dに嵌め込むと同時に、オ
イルケーシング29の三角溝29aに後面ライナ31の肉厚部31dを当てること
によって、後面ライナ31がオイルケーシング29に固定されるのであるから、後
面ライナ31は、オイルケーシング29に嵌め込まれているといえる。
 したがって、イ号物件は、構成要件Eを充足する。
(四) 以上のとおり、イ号物件は、本件考案1の全ての構成要件を充足するから、
その技術的範囲に属する。
 また、イ号物件は、後面ライナ31の円形の開口部の内側側面に突起が設けられ
ているから、本件考案2の「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け」との
構成要件を充足し、オイルケーシング29の主軸貫通部が下方に向かって円板状に
少し突出し、その突出部の側面に溝が設けられているから、本件考案2の「中間ケ
ーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け」との構成要件を充足し、後面ライナ
31をオイルケーシング29に強く押し付けることにより、後面ライナ31の右突
起は、オイルケーシング29の右溝に嵌め込まれ、後面ライナ31は、オイルケー
シング29に固定されるから、本件考案2の「これらの突起と溝を強制的に嵌め込
むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたこと」
との構成要件を充足する。
 したがって、イ号物件は、本件考案1の全ての構成要件を充足した上で、本件考
案2の全ての構成要件を充足するから、本件考案2の技術的範囲に属する。
2 被告の主張
(一) 構成要件A及びB
(1) 「製造上中子を不要とする」とは、上下分割型ケーシングの製法を限定する要
件であり、右の「製造」とは、鋳込み製造をいうから、本件考案の「ケーシング」
は、鋳込み製造によって得られる鋳物(金属製)であることを要する。
イ号物件は、ポンプケーシング20を含むポンプ部がゴム製であり、鋳物(金属
製)ではないから、構成要件Aを充足しない。
(2) 本件実用新案登録の出願時には、弾性体の上部側ケーシング及び下部側ケーシ
ングによってポンプケーシング(上下分割型ケーシング)を構成し、金属製の中間
ケーシングをボルトでモータフレームに取り付けた水中モータポンプが知られてお
り、この水中モータポンプは、中間ケーシング、上部側ケーシング及び下部側ケー
シングの三層構造となっている。
 これに対し、本件考案は、中間ケーシングが上部側ケーシングを兼ねて、上部側
ケーシングを不要とするものであり、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシン
グ」(構成要件B)と「下部側ケーシング」(構成要件A)により「上下分割型ケ
ーシング」(構成要件A)を構成するものである。
 したがって、本件考案は、構成要件A及びBにより、「中間ケーシング及び上部
側ポンプケーシングの両者を使用することを排除した」ものということができる。
 イ号物件は、オイルケーシング29を中間ケーシングと仮定しても、これと上部
ポンプケーシング31aの両者を組み合わせて使用しているから、本件考案の「中
間ケーシング及び上部側ポンプケーシングの両者を使用することを排除した」こと
に当たらない。
(二) 構成要件C及びD
(1) 本件考案に係る水中モータポンプは、剛性体のオイルケーシングを中間ケーシ
ングとし、その下面により直接土砂水の流れるポンプ室上面の蓋をし、中間ケーシ
ング上部のオイル室に発生する熱をポンプ室に伝え、ポンプ室の冷却作用でオイル
室の温度上昇を抑えるものであるから、中間ケーシングの下面を水流で冷却するた
め、中間ケーシングの下面が弾性体リングを介することなく、ある所定の範囲で直
接水流に触れることを要する。
 本件考案においては、右のような理由から「リング」(帯状の物)と定めたので
あり、弾性体リングは、モータ主軸貫通部を除く中間ケーシングの下面全面を覆う
ものであってはならない。
(2) イ号物件の後面ライナ31は、オイルケーシング29の下面全体を覆ってい
る。
また、後面ライナ31は、オイルケーシング29全体に対応する三次元の構造体
であり、「リング」(帯状の物)とはいえない。
したがって、後面ライナ31は、本件考案の「ボルト部を水流から遮蔽する弾性
体からなるリング」(構成要件C、D)に当たらない。
(三) 構成要件E
 リングを「中間ケーシングの下面に嵌め込む」とは、リングの幅に沿う溝を中間
ケーシングの下面に切るようにして、このリング幅に沿う溝にゴムのリングを押し
込んで嵌め込み、リングを中間ケーシングに固定することを意味する。
イ号物件は、オイルケーシング29、後面ライナ31、ポンプケーシング20、
押さえ金具127及びストレーナスタンド23の五者全体を、オイルケーシング2
9とストレーナスタンド23との両者間でボルト72で締め込み、強固に一体とし
て結合するものであり、これは、後面ライナ31をオイルケーシング29に「嵌め
込む」ことには当たらない。
したがって、イ号物件は、構成要件Eに当たらない。
(四) 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件考案1の技術的範囲に属しな
い。また、本件考案2(請求項2)は、本件考案1(請求項1)の従属項であるか
ら、イ号物件が本件考案1の技術的範囲に属しない以上、本件考案2の技術的範囲
にも属しない。
二 原告の損害
1 原告の主張
被告は、平成三年七月ころからイ号物件の製造、販売を開始し、本件実用新案権
の公告日である平成七年六月二一日以降平成一〇年一月末までの間に、イ号物件を
一台当たり六万円以上で合計七万五〇〇〇台以上販売したから、右期間におけるイ
号物件の売上総額は四五億円を下らない。
本件実用新案権の通常の実施料は売上高の一〇パーセントを下らないから、被告
は、少なくとも右売上総額の一〇パーセントに当たる四億五〇〇〇万円を原告に賠
償する義務を負う。
2 被告の主張
原告の主張を争う。
第四 当裁判所の判断
一 争点一について
1 証拠(甲二)によると、本件明細書の考案の詳細な説明には、次の記載がある
ことが認められる(以下の記載で引用されている図面は、別紙本件考案図面のとお
りである。)。
(一) 従来の技術
「従来、上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプには、・・・外装型水
中ポンプと、・・・半側流形水中ポンプと、・・・全周流形モータポンプとがあ
る。上記三つの型式のうちの一つである半側流形水中モータポンプは、第5図に示
すように、モータ1によって駆動される羽根車2を収容したポンプケーシング3
は、下部側ケーシング3Bと、上部側ケーシングに相当する中間ケーシング3A、
ストレーナを兼ねた底板3Cとをボルト4によって締結して構成され、該中間ケー
シング3Aと、モータ1を内蔵したモータフレーム5とは、ボルト6によって締結
されてモータポンプを構成している。」
(二) 考案が解決しようとする課題
「上記した従来の水中モータポンプ(第5図)では、下部側ケーシング3Bは、上
部開口がボリュート渦径Rより小径に形成されているため、製作時、中子を必要と
する形状が多かった。そのため、この構造は、生産性が悪く、コスト高になるとい
う問題点があった。」
「また、中間ケーシング3Aをモータ1に取付けるボルト6部は、水流にて長時間
さらされるとボルト頭部等が摩耗(腐食)して、保守(メンテナンス)時に分解が
不可能となる。ところが、下部側ケーシング3Bが、第5図に示すように中子を必
要とする場合は、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト6部を、下部ケ
ーシングポリュート渦径Rとは無関係に、水流から遮蔽することができる。
 一方、下部側ケーシング3Bが上方に開放されていて製造上中子を必要としない
場合には、第6図に示すように、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト
6部を遮蔽しようとすると、常にボリュート渦径Rの制約を受ける。即ち、渦径R
が決まると、ボルト6の平面方向の位置設置場所が制約される。その結果、ボルト
座は、必要以上に外周側によってしまい、ポンプ部の最大外形が大きくなってしま
うという問題点があった。」
「本考案は、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングをモータに取付けるボル
ト座のためにポンプ最大外径を大きくすることなく、ボルト部を保護し、且つ下部
ケーシングの生産性を向上できるようにした水中モータポンプを提供することを目
的としている。」
(三) 課題を解決するための手段
「上記の目的を解決するために、本考案は、
(i)下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用
する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下
面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、
ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴
としている。」
(四) 作用
「本考案は上記のように構成されているので、
(i)中間ケーシングにモータを取付けるボルトは、中間ケーシングの下面に交換
可能に嵌め込まれた耐摩耗性の弾性体リングによって水流から遮蔽されており、ポ
ンプ運転時、羽根車から吐出された水流の中に、たとえ土砂などの異物が含まれて
いても、該ボルト部が摩耗することはない。また、上記ボルトを該リングによって
水流から遮蔽することによって、該ボルトの位置を、ポンプ最大外径を大きくする
ことなく、ボリュート渦径Rとは無関係に設定することができる。
 また、上記弾性体リングの材質を耐摩耗性に優れるゴム・・・で製作すれば、ポ
ンプ運転時、・・・羽根車から吐出される水流によって構造上摩耗し易い羽根車裏
面に対向する中間ケーシング壁面(下面)部wの摩耗を防止することができる。」
(五) 実施例
「第1図は、本考案の一実施例を示す水中モータポンプの縦断面図であっ
て、・・・図において、モータ1によって駆動される羽根車2を収容したポンプケ
ーシング3は、下部側ケーシング13Bと、上部側ケーシングに相当する中間ケー
シング13A、ストレーナを兼ねた底板3Cとをボルト4によって締結して構成さ
れ、該中間ケーシング13Aと、モータ1を内蔵したモータフレーム5とは、ボル
ト6によって締結されてモータポンプを構成している。」
「本実施例(本考案)では、下部側ケーシング13Bが製造上の中子を不要とする
上方を開放した形状をなしており、中間ケーシング13Aの下面には、該中間ケー
シング13Aを(モータ1を内蔵する)モータフレーム5に取付けるボルト6部を
水流から遮蔽するようにゴムからなる弾性体リング11が嵌め込まれている。」
(六) 考案の効果
「以上説明したように、本考案によれば次のような効果が奏される。
(i)下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする構造とすると共に、中間ケー
シングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を遮蔽する耐摩耗
性の弾性体リング嵌め込んだことにより、ポンプ最大外径を大きくすることなくボ
リュート渦径とは無関係に、ボルト部を保護し且つ、下部ケーシングの生産性を向
上させるばかりでなく、構造上摩耗し易い羽根車裏面の高価な中間ケーシングの摩
耗を防ぐことができる。」
2(一) 右1で認定した事実と弁論の全趣旨によると、本件考案は、上下分割型ケ
ーシングを使用する水中モータポンプに関する考案であること、従来の上下分割型
ケーシングを使用する水中モータポンプにおいては、ポンプケーシングが下部側ケ
ーシングと、上部側ケーシングに相当する中間ケーシング、ストレーナを兼ねた底
板とをボルトAによって締結して構成され、当該中間ケーシングはボルトBによっ
てモータフレームに締結されていたが、このような従来の水中モータポンプでは、
中間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルトBが水流に長時間さらされる
とボルト頭部等が摩耗(腐食)して、保守(メンテナンス)時に分解が不可能とな
るという問題があったこと、これを避けるために、下部側ケーシングを製造上中子
を必要とする形状とした場合には、当該下部側ケーシングの上面によってボルトB
を水流から遮蔽することができるが、そのような形状の下部側ケーシングは、生産
性が悪く、コスト高になるという問題点があったこと、他方、下部側ケーシングが
上方に開放されていて製造上中子を必要としない形状の場合には、当該下部側ケー
シングの上面によってボルトBを水流から遮蔽しようとすると、ボルト座が必要以
上に外周側に寄ってしまい、ポンプ部の最大外形が大きくなってしまうという問題
点があったこと、本件考案は、右のような問題点を解決すべき課題として、上部側
ケーシングに相当する中間ケーシングをモータに取り付けるボルト座のためにポン
プ最大外径を大きくすることなく、ボルト部(ボルトB)を保護し、かつ下部側ケ
ーシングの生産性を向上できるようにした水中モータポンプを提供することを目的
としたものであり、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、当該中
間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルト部を水流から遮蔽するように弾
性体からなるリングを嵌め込むことにより右課題を解決したものであること、以上
のとおり認められる。
(二) ところで、実用新案登録請求の範囲の請求項1には、「上部側ケーシングに
相当する中間ケーシング」(構成要件B)、「該中間ケーシングをモータに取付け
るボルト部」(構成要件C)と記載されているところ、この記載に右1で認定した
事実を総合すると、本件考案の対象とする水中モータポンプは、ボルトでモータに
取り付けられている中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシングを兼ね
るものであると認められ、本件考案は、そのようなモータポンプについて、下部側
ケーシングを製造上中子を必要としない形状とした場合においても、ポンプ最大外
径を大きくすることなく、中間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルトを
水流から遮蔽することができるように、当該中間ケーシングの下面に弾性体からな
るリングを嵌め込んだものであるということができる。
 そうすると、本件考案の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成
要件B)は、中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシングを兼ねている
ことを意味し、また、本件考案の「弾性体からなる交換可能なリング」(構成要件
D)は、ポンプケーシングを構成する「上部側ケーシング」に嵌め込まれるもの
(構成要件E)であるから、それ自体は「上部側ケーシング」ではない、すなわ
ち、「上部側ケーシング」とは別個の部材であるということができる。
3(一) 別紙物件目録と証拠(検乙一)によると、イ号物件は、ポンプ部の一部で
あるポンプ室(ポンプケーシング)が周側ポンプケーシング20a、底部ポンプケ
ーシング20b、オイルケーシング29の貫通孔周辺部29c、保護プレート5
8、後面ライナ31の上部ポンプケーシング31aによって構成されていること、
後面ライナ31は、ゴム製で、オイルケーシング29の下面に固定され、ポンプケ
ーシングの上面を貫通孔周辺部29cを除いてほぼ全面にわたって覆っているこ
と、オイルケーシング29は、モータフレーム64の下部にボルトで取り付けら
れ、モータ部の一部であるオイル室を形成していること、以上のような構造を有す
るものと認められる。
(二) 右(一)のイ号物件の構成のうち、オイルケーシング29は、モータフレーム
64にボルトで取り付けられているものであって、ポンプ部とモータ部の境に位置
するものであるから、本件考案の中間ケーシングに当たるものと認められる。
 しかし、ポンプケーシングの上面は、ほぼ全面にわたって後面ライナ31によっ
て覆われていて、覆われていないのは、オイルケーシング29の貫通孔周辺部29
cのみであるから、イ号物件においては、後面ライナ31が「上部側ケーシング」
に当たり、オイルケーシング29が「上部側ケーシング」を兼ねているとは認めら
れない。
 そうすると、イ号物件は、中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシン
グを兼ねるものではないから、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」
(構成要件B)との要件を充足せず、また、後面ライナ31が、「上部側ケーシン
グ」とは別個の部材である本件考案の「弾性体からなる交換可能なリング」(構成
要件D)に当たることもない。
4 以上のとおり、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくい
ずれも理由がない。
 なお、原告は、平成一一年四月二六日付け第三準備書面(不陳述)第一項により
登録番号第二七八二五六九号特許権の侵害を請求原因として追加しているところ、
これは民事訴訟法一四三条一項の訴えの変更(請求の原因の変更)に当たり、右請
求は、本訴請求と請求の基礎を異にするものと認められるから、右訴えの変更を許
さないこととする。
東京地方裁判所民事第四七部
 裁判長裁判官 森 義之
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 杜下弘記

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