平成11(行ケ)74審決取消請求事件
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成12年1月31日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法4条1項11号1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
審決25回 無効4回 商標権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成11年(行ケ)第74号審決取消請求事件(平成11年12月22日口頭弁論
終結)
判 決
原 告 株式会社横山本社
代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
被 告 タウン アンド カントリー サーフショップ,インコー
ポレイテッド
代 表 者 【G】
訴訟代理人弁理士 【H】
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成9年審判第10139号事件について、
平成11年1月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、別添審決書写し別紙「本件商標」のとおりの構成よりなり、第17類
「被服、布製身回品その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改
正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第2713
554号商標(昭和61年6月16日登録出願、平成8年4月30日設定登録、以
下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成9年6月12日、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効
の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成9年審判第10139号事件として審理した上、平成1
1年1月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本
は、同年2月17日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、同写し別紙「引用商標」の
とおりの構成よりなり、第17類「被服」を指定商品とする登録第1976394
号商標(昭和49年2月19日登録出願、昭和62年8月19日設定登録、平成9
年6月3日更新登録、以下「引用商標」という。)と、外観、称呼及び観念のいず
れよりみても互いに紛れるおそれのない非類似の商標といえるので、商標法4条1
項11号の規定に違反して登録されたものということができないから、同法46条
1項の規定によりその登録を無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件商標及び引用商標の構成及び指定商品の認定、当事者の主張
の認定は認める。
審決は、本件商標が、引用商標と、称呼及び観念上互いに紛れるおそれのない非
類似の商標であると誤って判断している(取消事由)ので、違法として取り消され
るべきである。
1 審決が、本件商標について、「『Town & Country 』と『Surf Designs
』の各文字は、同書、同大で外観上まとまりよく一体的に構成されており、しか
も、図形の中央部に左右を白黒反転させて表わすことによって図形と自然に調和さ
れていることも相俟って、該各文字がより一体的に認識し、把握されるとみるのが
相当である。」(審決書10頁16~21行)と認定した上、「本件商標からは、
前記構成文字に相応して『タウンアンドカントリーサーフデザインズ』の称呼のみ
を生ずるものといわなければならない。」(同10頁24行~11頁2行)、「本
件商標は、・・・その『Town & Country 』の部分が分断、抽出され観念されな
い」(同11頁17~19行)と判断したことは、いずれも誤りである。
すなわち、本件商標の欧文字部分の5単語全部を、常に「タウンアンドカントリ
ーサーフデザインズ」と、19音を一連に称呼することは、普通の感覚からして、
あまりに冗長であり、これらの5単語を外観上又は意味的にまとまりのよいところ
で適当に短く区切って簡潔に称呼されるか、あるいは、これらの単語の内から読み
やすい部分又は特に目立つ部分だけを抽出し簡略化して称呼されるとみるのが、簡
易迅速を好む取引の実情に適うものである。
本件商標についてみると、「Town & Country 」と「Surf Designs 」が、上
下2段に分けられた構成であるので、一見して「Town & Country 」の部分
と、「Surf Designs 」の部分に分けられる。そして、「Town &Country 」の3
単語の部分は、バックの「陰陽曲玉巴」の図形の円輪郭の外側へ左右にはみ出てお
り、左の白の曲玉の上に「Town」の文字全部を黒字、右の黒の曲玉の上に「Country
」の文字全部を白抜き文字にして、「Town」と「Country 」とを白黒反対色によっ
て対照的に表している。
このようなデザインから、一方が「Town・にぎやかな町」を示唆し、他方
が「Country ・静かな町」を示唆するかのような印象さえ与える。これに対
し、「Surf Designs 」の部分は、「陰陽曲玉巴」の図形の内側に収まっており、
バックの色に応じて白黒反転させてあるのみで特に配慮されていない。したがっ
て、デザイン上、「Town &Country 」の部分は、「Surf Designs 」の部分より
も、明らかに目立つよう特に強調されている。
また、意味的にみても、「Town & Country 」の部分は、「&」の前後
の「Town」と「Country 」が、「町」と「田舎」という互いに関連性のある意味を
有するため、一体のものと認識されるのである。しかも、一般に「〇〇& ××」
と構成されたフレーズは、語調が親しみやすいことから、通常よく耳にする馴染み
深いものであり、実際に、「Town & Country 」の語を一連に称呼してみると、
この3語が全体として「強・弱・強」という調子のよいリズムを構成するため、耳
に心地よくまとまり感がある。これに対し、下段の「Surf Designs 」は、「サー
フのデザイン」という説明的な表現であって、上段の「Town &Country 」との意
味的関連性も存在しないため、単なる付加的部分にすぎないと認識される。
なお、特許庁における過去の審決例においても、「文字と図形で構成された」商
標が、読みやすい部分を捉えて称呼され取引に資すると判断された例が多数ある
(甲第5~第11号証)。そもそも、「文字と図形で構成された」商標について
は、文字や図形といった商標の各構成要素が一体不可分に結合していると認められ
るような特段の事情がない限り、把握の容易な「文字の部分」を抽出し、この部分
によって類否判断を行うという手法が、通常の取引界のみならず、特許庁及び裁判
所においても確立しているといえる(甲第16~第19号証)。
しかも、現実の取引業界において、対比される両商標のいかなる部分に自他商品
識別力が認められているかという点を考慮し、このような取引業界における実際の
使用態様に基づいて商標の類否を判断するという手法が広く認められているとこ
ろ、被告は、インターネット上に掲載するホームページにおいて、「Town &
Country 」の態様により自己の商標を使用しており(甲第21号証)、この使用の
実態からみても、本件商標の「文字」の部分こそが自他商品識別機能を発揮するも
のである。
2 以上のとおり、本件商標は、「Town & Country 」の文字部分から、「タ
ウンアンドカントリー」の称呼及び「町と田舎」という観念を生じると認められる
から、これと共通の称呼及び観念が生じる引用商標と類似することが明白である。
第4 被告の反論の要点 審決の認定判断は正当であり、原告の主張の取消事由は
理由がない。
被告は、1971年(昭和46年)3月、米国ハワイ州にサーフボード及びティ
ーシャツの製造及び販売を主な業務として設立され、翌年から本件商標と同一又は
類似の商標を自己の業務に係る商品に付して販売を始め、かつ、肩書被告代表者名
義で、1972年(昭和47年)9月26日、米国ハワイ州法の下に、サーフボー
ド及びティーシャツを指定商品として、本件商標と同一の構成を有する商標の登録
を受けた。
その後、被告の製造、販売に係るサーフボードが、手作りサーフボードとして好
評を博し、その生産量は年々増加の一途をたどった。また、被告は、本件商標と同
一又は類似の商標を継続的に使用し、しかも、世界的に著名な業界雑誌である「S
URFER」及び「SURFING」等に、本件商標と同一又は類似の構成を有す
る商標を付した商品の広告を定期的に掲載するなどして、意欲的な宣伝活動を行
い、現在では、本件商標と同一又は類似の構成を有する商標を付した商品を、被告
の所在地である米国内で販売するだけでなく、日本、オーストラリア、ニュージー
ランド及び南アフリカへも輸出している。
その結果、本件商標と同一又は類似の構成を有する商標は、被告の業務に係る商
品を表示するものとして、需要者及び取引者の間に広く認識されるに至っている。
また、本件商標と同一又は類似の構成を有する商標の登録を無効とする審決(乙
第4号証)において、被告が使用する本件商標と同一又は類似の構成を有する標章
が、少なくとも当該審判請求に係る商標の出願日(昭和56年5月1日)より前
に、被告の製造、販売に係る商品「サーフボード」について、米国のみならず、日
本及びサーフィンの盛んな国や地域の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っ
ていると判断されている。
このような取引者・需要者の認識ないしは実績からして、本件商標から「Town
& Country 」の文字部分のみが抽出され、この部分のみが注目されるものではな
いから、本件商標と引用商標「Town & Country 」とが類似するものではない。
したがって、この点に関する審決の認定(審決書10頁8行~11頁23行)に
誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本件商標及び引用商標の構成及び指定商品の認定、引用商標
が、その構成文字に相応して「タウンアンドカントリー」の称呼を生じ(審決書1
1頁3~6行)、「町と田舎」程の観念が生じること(同11頁16~17行)
は、当事者間に争いがない。
原告は、本件商標と引用商標とが、外観上、明確に区別し得る差異を有すること
(同10頁5~7行)は、明らかに争わない。
2 本件商標は、「Town & Country 」と「SurfDesigns 」の各欧文字を、上
下2段に横書きしたものであり、全体が同一の書体、大きさをもってまとまりよく
一体的に構成されているところ、その文字の背景には、円輪郭の内側に、右側が白
色、左側が黒色の2つの曲玉が組み合わされた、いわゆる「陰陽曲玉巴」の図形が
大きく配置され、該図形の円輪郭下方の外側に沿って、円弧状に「Pearl
City,Hawaii 」の文字が書されている。そして、該図形の左の白色の曲玉の上
の「Town &」(「T 」の左半分程度が、円の外側に出ている。)と「Surf D 」
の文字全部及び「e」の文字の左側が黒字、右の黒色の曲玉の上の「Country 」
(「y 」の右側一部分が、円の外側に出ている。)と「signs 」の文字全部及び
「e」の文字の右側が白抜き文字とされており、このように背景の図形の白黒と対
照的に文字部分を黒白とし、しかも、図形及び文字部分をいずれも左右で白黒反転
させて表わすことによって、図形と文字部分とが一体的に構成され、極めて自然に
調和しているものと認められる。
この点について、原告は、「Town & Country 」の文字部分が、「陰陽曲玉
巴」の図形の円輪郭の外側へ左右にはみ出ていることや、「Town」と「Country 」
とを白黒反対色によって対照的に表していること等を理由に、該文字部分
が、「Surf Designs 」の部分よりも、明らかに目立つよう強調されていると主張
する。
しかし、前示のとおり、「Town & Country 」の左右がわずかに円輪郭の外側
へ出ていることによって、特に該文字部分が強調されるものではないし、「Town」
と「Country 」とが白黒反対色によって表されているのと同様に、「Surf Designs
」の部分も、「e」の文字部分を中心として白黒反対色によって表されているので
あるから、特に「Town & Country 」の部分のみが目立つよう強調されているも
のでないことは明らかであり、原告の主張は失当というほかない。
以上の認定事実に照らして、「Town & Country 」の部分が、互いに関連性の
ある意味を有するため、一体のものと認識されるのに対し、「Surf Designs 」
は、説明的な表現であって、単なる付加的部分にすぎないとの原告の主張が、独自
の見解であってこれを採用できないことも明らかといえる。
また、原告は、本件商標の「Town & Country 」から、「町や田舎」という観
念が生じると主張するが、前示のとおり、「Town & Country Surf Designs
」の各欧文字が、同書、同大でまとまりよく構成され、「陰陽曲玉巴」という独特
の図形部分とも極めて自然に調和していることから、これは全体的一体的に認識把
握され、その英語全体の意味内容、あるいは図形との結合に基づいて、何らかの観
念が生ずることがあるとしても、その前段部分の「Town & Country 」のみか
ら、「町や田舎」という独立した観念が生じる余地はないものと認められ、原告の
主張は採用できない。
さらに、原告は、取引業界における実際の使用態様に基づいて商標の類否を判断
すべきところ、被告が、インターネット上に掲載するホームページにおい
て、「Town &Country 」の態様により自己の商標を使用しており、この使用の実
態からみても、本件商標の「文字」の部分こそが自他商品識別機能を発揮すると主
張する。
しかし、商標の類否判断において、このような取引業界における実際の使用態様
を考慮するとしても、本件の場合、ホームページにおける当該箇所が、本件商標の
使用といえるか疑問であるし、写真中の看板には、本件商標がそのまま表示されて
いるのである(甲第21号証)から、原告の主張は失当であって、これを採用する
余地はない。
最後に、本件商標の称呼について検討するに、前示のとおり、「Town &
Country Surf Designs 」の各欧文字が、一体的に構成され、図形部分とも極め
て自然に調和していることから、「タウンアンドカントリーサーフデザインズ」の
称呼が生じることは当然としても、簡易迅速を好む取引の実情を考慮すると、上記
5単語全部を常に一連に称呼するだけでなく、これを簡潔に区切って称呼する場合
もあると推測され、その場合には、本件商標が外観上、上下2段に記載されること
から、上段の「Town &Country 」の部分のみをもって「タウンアンドカントリ
ー」と称呼することがあるものと認められ、この点に関する原告の主張には理由が
ある。
そうすると、審決が、「本件商標からは、前記構成文字に相応して『タウンアン
ドカントリーサーフデザインズ』の称呼のみを生ずるものといわなければならな
い。」(審決書10頁24行~11頁2行)と判断したことは、誤りといわなけれ
ばならない。
しかしながら、本件商標については、前示のとおり、「Town & Country
Surf Designs 」の各欧文字が、同書、同大でまとまりよく構成され、「陰陽曲玉
巴」という独特の図形部分とも極めて自然に調和し、全体的一体的に認識把握さ
れ、その結果、仮名文字及び欧文字だけからなる引用商標と、外観上明確に区別し
得る差異を有すること、通常は「タウンアンドカントリーサーフデザインズ」とい
う一連の称呼を生じること、単に「町や田舎」という観念を生じる余地がないこと
などが認めれ、また、サーフィンに関する日本及び米国の業界雑誌において、図形
及び文字部分からなる本件商標と同一又は類似の商標が、サーフボード等の商品に
付されたり、一般的広告表示とされたりして頻繁に掲載され(甲第13~15号
証、乙第2号証)、本件商標と同一又は類似の構成を有する商標が、被告の業務に
係る商品を表示するものとして、需要者、取引者の間で認識されているものと認め
られることを併せ考慮すると、本件商標から「タウンアンドカントリー」の称呼を
も生じ、その限りにおいて引用商標の称呼と一致するとしても、両商標は、一般の
需要者、取引者にとって、互いに紛れるおそれのない非類似の商標といわなければ
ならない。
なお、原告は、「文字と図形で構成された」商標について、文字や図形といった
商標の各構成要素が一体不可分に結合していると認められるような特段の事情がな
い限り、把握の容易な「文字の部分」を抽出し、この部分によって類否判断を行う
という手法が、特許庁及び裁判所においても確立していると主張するところ、前示
のとおり、本件商標は、まさに、文字部分と「陰陽曲玉巴」という独特の図形部分
が一体不可分に結合している商標と認められるから、「文字の部分」の一部の称呼
のみによって、類否判断を行うべき事例でないことが明らかである。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書11頁21~23行)に、結果
的に誤りはない。
3 以上によれば、審決が、「本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反
して登録されたものということができないから、商標法第46条第1項の規定によ
りその登録を無効とすることはできない。」(審決書11頁24行~12頁2行)
と判断したことは正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田 中 康 久
裁判官 石 原 直 樹
裁判官 清 水 節
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