平成11(ワ)16773損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成12年1月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社エヌエイチケイソフトウ 原告有限会社ダンゴ
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法令 |
商標権
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キーワード |
許諾10回 侵害9回 商標権7回 損害賠償3回
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主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。二 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
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判決文
平成一一年(ワ)第一六七七三号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結日 平成一一年一一月二二日)
判 決
原 告 有限会社ダンゴ
右代表者代表取締役 【A】
右訴訟代理人弁護士 田 辺 信 彦
同 市 川 佐知子
同 眞 岡 加奈子
被 告 株式会社エヌエイチケイソフトウ
ェア
右代表者代表取締役 【B】
右訴訟代理人弁護士 宮 川 勝 之
同 高 木 裕 康
同 中 村 優 子
同 内 藤 滋
主 文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、金九二九七万七四〇〇円及びこれに対する平成一一年八
月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告に対し、別紙謝罪広告目録一記載の内容の謝罪広告を同目録二記
載の新聞に、同目録三記載の要領で各一回掲載せよ。
第二 事案の概要
本件は、後記標章の使用を許諾した被告の行為が、主位的には、原告の有する商
標権を侵害すると主張して、予備的には、原告のブランドイメージを保持する利益
を侵害すると主張して、原告が被告に対し、損害賠償の支払と、謝罪広告の掲載を
請求した事案である。なお、損害賠償は、一部請求である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)
1 原告の商標権
原告は、以下の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録
商標」という。)を有している。
(一) 登録番号 第四一六四一八五号
(二) 出願日 平成八年一一月二一日
(三) 登録日 平成一〇年七月一〇日
(四) 指定商品 第二五類 被服・ベルト・履物
(五) 登録商標 別紙商標目録記載のとおり
2 被告の行為
被告は、株式会社バンダイ(以下「バンダイ」という。)に対し、別紙標章目録
一記載の標章(以下「被告標章一」という。)、同目録二記載の標章(以下「被告
標章二」という。)を付した子供服の製造販売を許諾し、バンダイは、右標章を付
した子供服を製造販売した。被告は、株式会社イングラム(以下「イングラム」と
いう。)に対し、被告標章一、被告標章二及び別紙標章目録三記載の標章(以下
「被告標章三」という。)を付した大人服を製造販売することを許諾し、イングラ
ムは、右標章を付した大人服を製造販売した。(被告標章三につき、甲五、乙一
〇)
二 争点
1 被告各標章は、本件登録商標と類似するか。
(原告の主張)
本件登録商標は、「dango」の欧文字を横書きした文字部分と、三つの円を
横並びにして、その中心部分を線分で貫いた図形部分とからなり、「だんご」の称
呼を生じる。被告標章一は、「だんご」の文字と「3兄弟」の文字を横書きで二段
に並べたものであり、被告標章二は、中に小さな目鼻の付いた三つの円を右斜め上
に並べて、その中心部分を線分で貫いた図形からなる。被告標章三は、「だんご」
の文字と「3兄弟」の文字を横書きで二段に並べた文字部分と、三つの円を右斜め
上に並べて、その中心部分を線分で貫いた図形部分とからなる。
本件登録商標と被告各標章とは、以下のとおり、外観、観念、称呼のすべてにつ
いて同一又は類似である。
外観については、いずれも団子を意味する「dango」あるいは「だんご3兄
弟」の文字と、三つの円を並べ、その中心部分を貫通させた、いわゆる三連団子の
図形とからなる点で一致しており、類似している。本件登録商標は、一般に、団子
が一本の串に四個刺されているのに対し、団子の数を三個にした点に独自性がある
が、被告各標章はこの点が共通している。
観念については、各文字部分及び図形部分がいずれも食べ物の団子を観念させる
点で同一である。
称呼については、本件登録商標の称呼は「だんご」であり、被告各標章の文字部
分の称呼は「だんごさんきょうだい」であるが、その主要部分は「だんご」であ
り、また、図形部分の称呼は「だんご」であるから、両者は一致する。
したがって、被告各標章は本件登録商標と類似する。
(被告の反論)
本件登録商標と被告各標章とは、以下のとおり類似しない。
本件登録商標は、「dango」の欧文字を横書きした文字部分と、三つの白抜
きの円(ただし、そのうち右の円は、右半分に斜線が引かれている。)を相互に間
隔を置いて横に並べ、これを黒い直線で結んだ図形部分からなる。
外観について、被告各標章は、以下のとおり、いずれも本件登録商標と類似しな
い。
被告標章一は、「だんご3兄弟」の文字からなる標章であるが、その文字はデザ
イン化された独創的なものであり、「3」の文字を白抜きの文字とし、「3兄弟」
の上部に「さんきょうだい」とルビを付すことにより、「3兄弟」の部分が強調さ
れている。また、被告標章二は、三つの手書き風の円を右斜め上に向かって互いに
接して並べ、これらを一本の黒い直線で突き刺した図形からなるが、円の中には、
眉、目、鼻、口が描かれている。被告標章三は、三つの白抜きの手書き風の円を、
ほぼ上方に向かって互いに接して並べ、これらを一本の白い直線で突き刺した図形
部分と、その右側下方に配された被告標章一と同一形状の文字部分からなる。
次に、称呼について、被告各標章は、以下のとおり、いずれも本件登録商標と類
似しない。
本件登録商標からは、「だんご」の称呼が生じる。これに対し、「だんご3兄
弟」はNHK教育テレビで放送された歌曲の題名であり、右歌曲が収録されたCD
が爆発的に売れたこと、被告標章一と被告標章二は常に一体のものとして放送等で
公表されていることから、被告標章一及び二からは、「だんごさんきょうだい」の
称呼が生じる。被告標章三も、「だんごさんきょうだい」の称呼が生じる。
さらに、観念について、被告各標章は、以下のとおり、いずれも本件登録商標と
類似しない。
本件登録商標からは、「団子」の観念が生じる。これに対し、被告標章一及び二
からは、これらを組み合せたもの全体から、テレビ放送された歌曲の動画の観念が
生じる。被告標章三も、同様に歌曲の観念を生じる。
2 被告の行為につき、原告のブランドイメージを保持する利益を侵害したことに
よる不法行為が成立するか。
(原告の主張)
(一) 原告代表者は、団子の絵柄をマークとするブランドを育てようと考え、平成
八年五月一四日、「有限会社ダンゴ」という商号で、被服製造卸を目的として原告
を設立し、同年一一月二一日、本件登録商標につき登録出願した。そして、原告
は、ダンゴブランドを、一過性のものではなく、息の長い定番ブランドに育てるた
め、地道な営業活動を続け、本件登録商標に付加されたブランドイメージを築き上
げてきた。
被告は、イングラム及びバンダイに対し、本件登録商標に類似した被告各標章を
被服に付すことを許諾して、ダンゴブランドのブランドイメージを毀損し、原告の
ブランドイメージを保持する利益を侵害した。
(二) 平成一一年三月ころ、「だんご3兄弟」の歌のヒットに乗じて、被告が、
「だんご3兄弟」のキャラクターグッズの製造、販売を許諾するという噂が立ち始
めた。そこで、原告は、被告に対し、原告が本件商標権を有し、ダンゴブランドの
商品を扱っていること、「だんご3兄弟」のキャラクターが本件登録商標に類似す
ること、「だんご3兄弟」のキャラクター商品が一過性の商品として粗製乱造乱売
されると、原告の商品までが流通業者や消費者に一過性の商品と誤解される危険が
あること等を告げ、さらに、被告が「だんご3兄弟」のキャラクター商品の製造、
販売を許諾すれば、本件商標権の侵害行為に当たる旨警告した。それにもかかわら
ず、被告は、被告各標章の使用を許諾したのであり、被告には、右権利侵害につ
き、故意ないしは過失があった。
(被告の反論)
被告各標章は本件登録商標と類似せず、その使用には違法性がなく、不法行為は
成立しない。
3 損害額はいくらか。
(原告の主張)
「だんご3兄弟」の歌のブームが下火になるとともに、「だんご3兄弟」のキャ
ラクター商品は売れなくなり、被告各標章と類似する本件登録商標を付した原告の
商品も、「だんご3兄弟」のキャラクター商品のシリーズ物と誤解されるなどの理
由から、平成一一年度春夏物の原告の商品の売上は減少した。このため、原告は、
平成一一年度秋冬物から、日本におけるダンゴブランド商品の企画販売を中止し
た。
これにより、原告は次のような損害を受けた。
① 平成一一年度春夏物の売上の減少による逸失利益 一九〇万円
② 平成一一年度秋冬物から平成一四年度春夏物の販売を中止したことによる逸失
利益 一億三九〇九万二〇〇〇円
③ 子供服分野への進出を断念したことによる逸失利益
四四九六万二八〇〇円
以上合計 一億八五九五万四八〇〇円
(被告の反論)
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(被告各標章と本件登録商標との類否)
1 本件登録商標及び被告各標章の詳細は、以下のとおりである。
(一) 本件登録商標は、欧文字の「dango」を横書きした文字部分と、その下
側に、三つの白抜きの円(ただし、一番右側の円は、右半分に斜線が引かれてい
る。)を、互いに間隔を置いて横に並べ、これらの中央を突き抜くように黒い直線
が一本横に引かれた図形部分とからなる。本件登録商標は、文字部分がローマ字で
「だんご」と読むことができ、また図形部分が三つ串に刺さった三つの団子を描い
た図柄であると一般に理解される。本件登録商標からは、「だんご」の称呼を生
じ、「団子」の観念を生ずる。
(二) 被告標章一は、「だんご」の文字と「3兄弟」の文字を二段に横書きしたも
のであり、その字体はデザイン化され、「3」の文字だけが白抜きとされ、また、
「3兄弟」の上部には「さんきょうだい」とルビが付されている。
被告標章二は、手書き風の三つの円が、右斜め上方に向かって互いに接して並べ
られ、これらの中央を突き抜くように一本の黒い直線が描かれ、各円には、眉、
目、鼻、口がほほえんでいるようにコミカルに描かれた特有の図形であり、顔の絵
が描かれた団子三つが串に刺さっている図形と一般に理解される。
被告標章三は、手書き風の三つの白抜きの円を、ほぼ上方に向かって、互いに接
して並べ、これらの中央を突き抜くように一本の白い線が描かれた図形部分と、そ
の右側下方に配された被告標章一と同一形状の文字部分とからなる。図形部分は、
団子が三つ串に刺さっている図柄と一般に理解される。
(三) 「だんご3兄弟」は、平成一一年一月に、NHK教育テレビの「おかあさん
といっしょ」の番組において、「一月の歌」として放送された歌曲であり、その後
CD化され、同年三月三日に発売が開始されると、同年四月五日までに、シングル
とアルバム合計三〇〇万枚近くも売れるヒット曲となった。被告標章一と被告標章
二及びその動画は、右放送及びCDの表紙等で使用され、右歌曲の題名ないしは特
有の図柄として広く知られるに至った(乙三ないし七)。
2 被告標章一と本件登録商標とを対比する。被告標章一は、デザイン化された独
特の文字からなるのに対し、本件登録商標は、欧文字の「dango」を横書きし
た文字部分と図形の組合せであるので、外観において類似しない。また、被告標章
一は、前記1(三)のとおり、テレビ番組及び歌曲がヒットした経緯に照らすと、
「だんごさんきょうだい」の称呼を生じ、テレビ番組の一部ないし歌曲の「だんご
3兄弟」の観念を生じるのに対し、本件登録商標は、前記のとおり「だんご」の称
呼を生じ、「団子」の観念を生ずるので、称呼及び観念において類似しない(な
お、被告標章一と本件登録商標の文字部分のみを対比しても、外観、称呼、観念の
いずれにおいても類似しない。)。よって、被告標章一は本件登録商標と類似しな
い。
次に、被告標章二と本件登録商標とを対比する。被告標章二は、手書き風の三つ
の団子を連想させる円が、右斜め上方に向かって互いに接して並べられ、これらの
中央を突き抜くように串を連想させる一本の黒い直線が描かれ、各円には、眉、
目、鼻、口がほほえんでいるように描かれた特有な図柄であるのに対し、本件登録
商標は、三つの白抜きの円が、互いに間隔を置いて横に並べられ、これらの中央を
突き抜くように黒い直線が一本横に引かれた図形と欧文字「dango」との組み
合わせであるので、外観において類似しない。また、被告標章二は、前記1(三)の
とおり、「だんご3兄弟」の歌曲の特有な図柄として広く知られている経緯に照ら
すと、被告標章二は、「だんごさんきょうだい」の称呼を生じ、テレビ番組の一部
ないし歌曲の「だんご3兄弟」の観念を生じるのに対し、本件登録商標は、前記の
とおり「だんご」の称呼を生じ、「団子」の観念を生ずるので、称呼及び観念にお
いて類似しない(なお、被告標章二と本件登録商標の図形部分のみを対比しても、
外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しない。)。よって、被告標章二は本件
登録商標と類似しない。
さらに、被告標章三と本件登録商標とを対比する。被告標章三は、手書き風の三
つの白抜きの団子を連想させる円が、ほぼ上方に向かって、互いに接して並べら
れ、これらの中央を突き抜くように、串を連想させる一本の白い線が描かれた図形
部分と、その右側下方に配された被告標章一と同じ文字部分とからなるのに対し、
本件登録商標は、欧文字の「dango」を横書きした文字部分と図形の組合せで
あるので、外観において類似しない。また、被告標章三は、前記のとおり、「だん
ごさんきょうだい」の称呼を生じ、テレビ番組の一部ないし歌曲の「だんご3兄
弟」の観念を生じるのに対し、本件登録商標は、前記のとおり「だんご」の称呼を
生じ、「団子」の観念を生ずるので、称呼及び観念において類似しない。よって、
被告標章三は本件登録商標と類似しない。
以上のとおりであるので、本件商標権侵害を理由とする原告の請求は理由がな
い。
二 争点2(ブランドイメージを保持する利益の侵害による不法行為)について
前記一のとおり、被告各標章は本件登録商標と類似するとは認められないので、
第三者に対して被告各標章の使用を許諾する被告の行為が違法であると解すること
はできない。本件全証拠によるも、被告の右許諾行為について、違法性を有する行
為であると解するに足りる事情は認められない。よって、被告の右許諾行為は不法
行為を構成しない。
したがって、ブランドイメージを保持する利益を侵害したとの原告の主張は失当
である。
三 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はい
ずれも理由がない。主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二九部
裁 判 長 裁 判 官 飯 村 敏 明
裁 判 官 八 木 貴美子
裁 判 官 沖 中 康 人
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