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平成10(ワ)24損害賠償請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成11年12月22日
事件種別 民事
法令 実用新案権
キーワード 実施18回
実用新案権8回
損害賠償4回
侵害2回
許諾1回
主文
事件の概要

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判決文

平成一〇年(ワ)第二四号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結日 平成一一年一〇月五日)
         判         決
  原         告  【A】
原         告 有限会社岡山技研
  右代表者代表取締役  【A】
  右両名訴訟代理人弁護士  井波 理朗
右         同 太田 秀哉
右         同 柴崎伸一郎
  被         告  日本電気株式会社
右代表者代表取締役  【B】
右訴訟代理人弁護士 野村 晋右
右同 茂木 龍平
右訴訟復代理人弁護士 高橋  淳
補助参加人 住商マシネックス株式会社
右代表者代表取締役 【C】
右訴訟代理人弁護士 本谷康人
補助参加人 東京特殊電線株式会社
右代表者代表取締役 【D】
右訴訟代理人弁護士 木下洋平
補助参加人 シーゲート・テクノロジー・インク
右代表者 【E】
右訴訟代理人弁護士 角山 一俊
右同 城山 康文
右同 安達  理
  主         文
 一 被告は、原告【A】に対し、金九六〇万円及びこれに対する平成八年七月四
日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用は、原告【A】に生じた費用の三分の二と被告に生じた費用の三分
の一を同原告の負担とし、同原告に生じた費用のその余と被告に生じた費用の六分
の一を被告の負担とし、その余のすべての費用を原告有限会社岡山技研の負担とす
る。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
理         由
第一 請求
   被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金一億〇三四七万八二五〇円及びこれ
に対する平成八年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告らが被告に対し、実用新案権(仮保護の権利を含む。)及びその実
施権に基づいて損害賠償を請求した事案である。
一 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)
1 実用新案権
原告【A】(以下「原告【A】」という。)は、次のとおりの実用新案権を有し
ていた(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)。ま
た、原告有限会社岡山技研(以下「原告会社」という。)は、原告【A】から、本
件実用新案権の実施許諾を受けていた(右実施権が独占的通常実施権か非独占的通
常実施権かについては争いがある。)。
(一) 発明の名称   整列巻コイル
(二) 登録番号    実用新案登録第二〇四三三〇三号
(三) 出願日     昭和五六年七月三日
(四) 登録日     平成六年一二月一六日
(五) 実用新案登録請求の範囲 
自己融着線を用いた二等辺A、Bを有する三角形又は台形等
の形状のコイルにおいて、内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ
点を二等辺A、B以外の頂部又は底部に配設したことにより、コイル本体4の磁界
を直交する二等辺A、B部分の線束が直線状に形成されていることを特徴とする偏
平型モータの整列巻偏平コイル
本件実用新案権は、平成八年六月二二日、登録料の不納を原因として、消滅し、
平成九年四月二三日抹消登録がされた。
2 本件考案の構成要件
本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 自己融着線を用いた二等辺を有する三角形又は台形等の形状のコイルであるこ

B 内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を2等辺以外の頂部
又は底部に配設していること
C コイル本体の磁界を直交する二等辺部分の線束が直線状に形成されていること
D 偏平型モータの整列巻偏平コイルであること
3 被告の行為
被告は、平成三年一月から平成八年六月末まで(以下「本件期間」という。)、
業として、補助参加人ら及び第三者の製造に係る別紙物件目録記載のコイル(以下
「被告コイル」という。)を組み込んだハード・ディスク・ドライブ(以下「被告
ハード・ディスク・ドライブ」という。)及びフロッピー・ディスク・ドライブ
(以下「被告フロッピー・ディスク・ドライブ」という。)を搭載したパーソナル
コンピュータ(以下「被告パソコン」という。)を製造、販売し、また、被告ハー
ド・ディスク・ドライブを、単体として販売した。
4 被告コイルの構成
被告コイルの構成は、以下のとおりである。
a 自己融着線を用いた二等辺を有するほぼ台形の形状のコイルであること
b 内層から外層に巻き上げる線の交差点若しくは乗り上げ点を二等辺以外の頂部
又は底部に配設していること
c コイル本体の磁界を直交する二等辺部分の線束が直線状に形成されていること
d 偏平型モータの整列巻偏平コイルであること
二 争点
1 本件実用新案権侵害の有無
(原告らの主張)
被告コイルは、本件考案の構成要件AないしDをすべて充足する。
(被告の反論)
被告コイルが本件考案の構成要件AないしDをすべて充足することは認める(た
だし、被告の使用したコイルのすべてが充足しているのではなく、後記2のとお
り、その一部にすぎない。)。
 以下は、補助参加人東京特殊電線株式会社(以下「補助参加人東京特殊電線」と
いう。)及び同シーゲート・テクノロジー・インク(以下「補助参加人シーゲー
ト」という。)の主張である。
 被告コイルにおいては、整列巻をしていないし、費用上の理由から、乗り上げ点
を二等辺以外の頂辺及び底辺に集めていない。被告コイルは、本件考案の構成要件
B及びCを充足しない。
 被告コイルは、ハード・ディスク・ドライブ用のヘッドアクチュエータの乱巻偏
平コイルである。ところで、原告は、本件考案の出願過程において、ハード・ディ
スク・ドライブのヘッドアクチュエータについて、意識的に除外しているので、被
告コイルの構成dは本件考案の構成要件Dを充足しないことになる。
 本件考案は、その明細書中において、課題解決手段を具体的に特定し開示してい
ないから、未完成ないし実施不能の考案である。
2 損害額
(原告の主張)
被告は、平成三年一月から同八年六月末までの間に、被告パソコンを八〇九万五
三一九台、被告ハード・ディスク・ドライブを二二五万二五〇六台、合計一〇三四
万七八二五台を販売した。
被告は、被告コイルを使用して、被告パソコン及び被告ハード・ディスク・ドラ
イブを製造、販売することによって、一製品当たり、少なくとも金一〇〇円の純利
益を得ていた。また、本件考案の実施料相当額は、被告パソコン及び被告ハード・
ディスク・ドライブ一製品当たり、金一〇円を下らない。
原告【A】には被告パソコン及び被告ハード・ディスク・ドライブ一製品当たり
右実施料相当額の、原告会社には被告が得た利益相当額の、それぞれ損害が生じた
(利益相当額については、内金として一製品につき金一〇円の損害を請求す
る。)。
 したがって、原告各自に生じた損害は、それぞれ金一億〇三四七万八二五〇円を
下らない。
(被告の反論)
(一) 被告コイルに係る販売数量
(1) 被告が第三者からハード・ディスク・ドライブを購入した場合
 補助参加人シーゲート製のハード・ディスク・ドライブについては、被告コイル
を用いた可能性がある。コナーペリフェラルズ、ウェスタンデジタル、日本IBM
株式会社(以下「日本IBM」という。)及び株式会社東芝(以下「東芝」とい
う。)製のハード・ディスク・ドライブについては、いずれも被告コイルを用いて
いない。
 その他エアリアル、日本ディジタルイクイップメント、日本ビクター、日立製作
所、プレリーテック製のハード・ディスク・ドライブについては、被告コイルが含
まれているか否か不明である。
(2) 被告が自らハード・ディスク・ドライブを製造し、その部品としてコイルを購
入した場合
 補助参加人東京特殊電線製のコイルについては、被告コイル及びこれと構成を異
にするコイルとが混在しているが、その割合を半々と解すべである。
杉原製作所製のコイルについては、すべて被告コイルである可能性が高い。紀正
電機製で、補助参加人住商マシネックス株式会社(以下「補助参加人住商マシネッ
クス」という。)から購入したコイルは、被告コイルである可能性が高い。三映電
子工業製及び他の一社については、紀正電機製のコイルをサンプルとして製造され
たので、被告コイルである可能性が高い。
(3) 被告がパソコンに搭載したフロッピー・ディスク・ドライブには、ボイス・コ
イル・モータは存在せず、コイルの形状も異なるから、被告コイルは用いられてい
ない。
(二) 損害の算定方法
(1) 平成三年四月から同八年六月までの間における、原告主張に係るハード・ディ
スク・ドライブを搭載したパソコンの販売台数は、計四〇九万二五七一台である
(原告主張の台数より少ないのは、出荷時にハード・ディスク・ドライブを搭載し
ないモデルが存在するためである。)。また、同期間における被告ハード・ディス
ク・ドライブ単体の販売台数は、計八八万〇二二三台である。なお、平成三年一月
ないし同年三月までの販売台数は、資料が存在しないので不明である。
本件考案の実施料相当額は、コイルの単価が一〇円程度であること、実施料率は
三パーセント程度が相当であることからすると、コイル一個当たり三〇銭程度であ
る。
 また、コイルの販売額は、以下のとおり、一個当たり九円七九銭とすべきであ
る。すなわち、偏平コイルをボビンに接着してユニットとしたものの販売額は金一
七五円で、製造原価は金一五一円四一銭、販売費及び一般管理費並びに利益は二三
円五九銭であること、他方、偏平コイルの製造原価は八円四七銭であり、これに右
と同率の経費及び利益を加算すると九円七九銭となる(補助参加人東京特殊電線の
反論である。)。
(2) 原告会社は、原告【A】から独占的通常実施権の設定を受けていると主張し
て、原告【A】とは別に損害賠償請求をしているが、原告会社は原告【A】から通
常実施権の設定を受けたに過ぎないこと、そうでないとしても、独占的通常実施権
者は、権利の性格上、実施料相当額の請求はできないことからすると、原告会社の
損害賠償請求は認められない。
第三 争点に対する判断
一 本件実用新案権侵害の有無
弁論の全趣旨によれば、被告コイルは、本件考案の構成要件AないしDをすべて
充足することが認められる。
 なお、補助参加人東京特殊電線及び同シーゲートは、被告コイルは構成要件を充
足していない旨主張する。しかし、乙五号証(枝番号は省略する。以下同じ。)及
び弁論の全趣旨によれば、補助参加人東京特殊電線及び同シーゲート製のハード・
ディスク・ドライブについて、本件考案の構成要件のすべてを充足するコイルを用
いたものが含まれていることが認められ、右各主張は採用できない。
 そこで、以下、原告の被った損害額について検討する。
二 損害額
1 被告コイルの販売数量等について
(一) 被告が、整列巻コイルを用いた場合として、以下の四つの流れがある。すな
わち、①パソコンを製造、販売するに際し、第三者から購入したハード・ディス
ク・ドライブを組み込む場合、②パソコンを製造、販売するに際し、自ら製造した
ハード・ディスク・ドライブを組み込む場合、③自ら製造したハード・ディスク・
ドライブを、単体で販売する場合、④パソコンを製造、販売するに際し、フロッピ
ー・ディスク・ドライブを組み込む場合がある。右いずれにおいても、被告は、整
列巻コイルを自ら製造したことはなく、第三者から購入している。
 それぞれの流れによって、整列巻コイルの製造者、仕様、製造形態等が異なるの
で、被告がハード・ディスク・ドライブ等に組み入れて販売した被告コイルの数量
を確定するためには、それぞれの場合に分けて、検討するのが相当である。
(二) パソコンを製造、販売するに際し、第三者から購入したハード・ディスク・
ドライブを組み込む場合
証拠(甲一三、乙一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、被告の製造、販売に
係るパソコンPCー九八〇一NA120には、補助参加人シーゲート製のハード・
ディスク・ドライブが搭載され、これには被告コイルが使用されていること、他
方、PCー九八二一Ap2/U8Wにはコナー・ペリフェラルズ製のハード・ディ
スク・ドライブが、PCー九八二一Ap2/U8Wにはウエスタンデジタル製のハ
ード・ディスク・ドライブが、PCー九八二一Ne340/Wには日本IBM製の
ハード・ディスク・ドライブが、パソコン(搭載機種不明)には、東芝製のハー
ド・ディスク・ドライブが搭載されているが、いずれも被告コイルとは形状、構成
を異にすることが認められる。本件全証拠によるも、株式会社トーメンエレクトロ
ニクス(製造元エアリアル)、日本ディジタルイクイップメント株式会社、日本ビ
クター株式会社、株式会社日立製作所、プレリーテック製のハード・ディスク・ド
ライブに被告コイルが使用されていると認めることはできない。
そこで、本件期間における、被告コイルが使用されたハード・ディスク・ドライ
ブの販売数量(すなわち、補助参加人シーゲートから購入したハード・ディスク・
ドライブの数量)について検討する。
 証拠(甲二六、乙七)によれば、平成四年四月から平成八年六月末までの補助参
加人シーゲートからのハード・ディスク・ドライブの購入台数は、二〇万四七七九
台であること、平成三年度、平成四年度における各全購入数量、平成四年度の同補
助参加人からの購入数量は、順に、二二万五一八二個、一三万九七〇八個、六万七
三八〇個であることが認められる。そして、直接の資料がない平成三年一月から平
成四年三月までの同補助参加人からの購入数量について、直後の期間(平成四年
度)における同補助参加人からの購入数量を基礎として、推計して算定すると、以
下のとおり一三万五七五四台となる。
225,182÷139,708×67,380×1.25=135,754
 そうすると、本件期間における、被告コイルが使用されたハード・ディスク・ド
ライブの販売数量は、以下のとおり、三四万〇五三三台である。
135,754+204,779=340,533
(三) パソコンを製造、販売するに際し、自ら製造したハード・ディスク・ドライ
ブを組み込む場合
 証拠(甲一四、二七ないし三三)及び弁論の全趣旨によれば、パソコン(PCー
九八〇一TmodelW7、PCー九八二一Ae/U7、PCー九八〇一BX/U6)に
搭載された被告自らの製造に係るハード・ディスク・ドライブには、被告コイルが
使用されていること、被告は、整列巻コイルを、補助参加人住商マシネックス(製
造元は紀正電機)、同東京特殊電線、三映電子工業、杉原製作所その他から購入し
ていたことが認められる。そして、乙六、九及び一〇号証によれば、同東京特殊電
線から購入したコイルには被告コイルと被告コイルと形状を異にするコイルとが混
在していることが認められ、また、コイル全体における被告コイルの占める割合
は、特段の事情のない本件においては、五割と推認すべきである。なお、補助参加
人東京特殊電線を除く第三者から購入したコイルは、すべて被告コイルであること
については、当事者間で争いがない。
そこで、被告コイルの使用されているハード・ディスク・ドライブの数量を検討
する。
 証拠(甲二七)によれば、平成五年四月から平成八年六月末までに、被告が購入
したコイルの数量は、補助参加人東京特殊電線を除く各社製品の数量は合計七四万
〇八〇八個であること、同補助参加人製品の数量は合計二万九四三三個であるこ
と、同補助参加人製品のうち、被告コイルの数量は、その二分の一である一万四七
一六個(全体の約二パーセントである。)であること、したがって、右期間(合計
三九か月)の被告コイルの購入数量は合計七五万五五二四個であることが認められ
る。なお、平成三年一月から平成四年三月までの購入数量については直接の資料は
ない。
 そこで、本件期間(平成三年一月から平成八年六月までの五四か月)の購入数量
について、月数を基礎として按分的に加算すると、以下のとおり、一〇四万六一一
〇個となる。
755,524×54÷39=1,046,110
 そうすると、本件期間における、被告コイルが使用されたハード・ディスク・ド
ライブの数量は、一〇四万六一一〇台である。
(四) ハード・ディスク・ドライブを単体で販売する場合
証拠(乙一八号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、パソコン市場向けのサ
ブシステム用製品ないしOEM製品として、自社が製造するハード・ディスク・ド
ライブを販売したこと、被告は、整列巻コイルを、補助参加人住商マシネックス
(製造元は紀正電機)、同東京特殊電線、三映電子工業、杉原製作所、その他一社
から購入していたこと、これらのコイル全体における被告コイルの占める割合は、
前記(三)と同じであることが認められる。
そこで、被告コイルの使用されているハード・ディスク・ドライブの数量を検討
する。
 前掲証拠によれば、平成三年四月から平成八年六月までの販売数量は、合計八八
万〇二二三台であったことが認められる。そして、直接の資料がない平成三年一月
から平成三年三月までの数量について、直後の期間(平成三年四月から平成四年三
月まで)の販売数量である二八万三七四六台を基礎として推計して算定すると、七
万〇九三六台となる。したがって、平成三年一月から平成八年六月までの数量は、
九五万一一五九台となる。
 そして、右のうち補助参加人東京特殊電線から購入したコイルの一部について
は、被告コイルと形状を異にするものが用いられ、その割合は全体の二パーセント
に相当するから、その割合を乗じた数量を控除すると、九三万二一三五個となる。
 そうすると、本件期間における、被告コイルが使用されたハード・ディスク・ド
ライブの数量は、九三万二一三五台である。
(五) パソコンを製造、販売するに際し、フロッピー・ディスク・ドライブを組み
込む場合
証拠(甲三四号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、フロッピー・ディス
ク・ドライブをシチズン時計株式会社(以下「シチズン」という。)及びソニー株
式会社から購入していたこと(争いがない。)、シチズン製のものに被告コイルが
使用されていること(被告コイルと形状を異にするコイルが混在しているとの証拠
はない。)、平成五年四月から八年六月末までのシチズンからの購入数量は合計一
二一万三七五五台であり、右期間より以前には購入していないこと(争いがな
い。)が認められる。なお、ソニー株式会社製のものには被告コイルが使用されて
いると認めるに足りる証拠はない。
2 損害額の算定について
証拠(甲二ないし五、乙一五、一六及び丁七)及び弁論の全趣旨によれば、補助
参加人シーゲートが、偏平コイルをボビンに接着してユニットとする場合、その販
売額は一七五円であり、このうち、製造原価は一五一円四一銭、販売費及び一般管
理費並びに利益は二三円五九銭であること、販売価格の製造原価に対する率は、
一・一五五であること、偏平コイルについてみると、その製造原価は八円四七銭で
あること、これに販売費及び一般管理費並びに利益を右同率と解して算定した額を
加算すると、扁平コイルの販売額は九円七九銭(概数一〇円)となることが認めら
れる。さらに、右証拠によれば、本件考案は、VTRやフロッピー・ディスク等に
おける偏平型のモータに使用される偏平コイルであり、整然と細密にコイルを巻き
上げて仕上がり寸法を小さくし、限られた寸法に精度良く収めさせるとともに、電
流密度のバランスを向上させ、電磁力の発生効率を高めるものであること、コイル
はモータにおける主要な構成部分の一つであることが認められ、右事実に鑑みる
と、本件考案の実施料は、コイル一個当たり一円(コイルの価格のおおむね一〇パ
ーセント)とするのが相当である。
そして、前記のとおり、被告コイルを搭載したハード・ディスク・ドライブの数
量は、(二)につき三四万〇五三三台、(三)につき一〇四万六一一〇台、(四)につき
九三万二一三五個であり、その合計台数は二三一万八七七八台であり、被告コイル
を搭載したフロッピー・ディスク・ドライブの数量は、一二一万三七五五台であ
る。そして、ハード・ディスク・ドライブには、各一個のコイルが使用され、フロ
ッピー・ディスク・ドライブには六個のコイルが使用される(甲三四)。
そうすると、被告ハード・ディスク・ドライブ及びフロッピー・ディスク・ドラ
イブには、合計九六〇万一三〇八個の被告コイルが使用されていることになる。
したがって、原告【A】に生じた実施料相当の損害額は、九六〇万円(推計方法
を用いて算定した経緯に照らし、一万円未満は切り捨てた。)であると認められ
る。
なお、原告会社は、原告【A】から独占的通常実施権の設定を受けていると主張
するが、原告会社が原告【A】から独占的通常実施権の設定を受けたことを認める
に足りる証拠はなく、これを前提とする原告会社の請求は理由がない。
三 結論
よって、主文のとおり判決する。
   東京地方裁判所民事第二九部
       裁 判 長 裁 判 官   飯村 敏明
             裁 判 官   沖中 康人
裁 判 官 石村  智

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