平成11(行ケ)217商標登録取消決定取消請求事件
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成11年12月21日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法4条1項7号2回 民事訴訟法61条1回 商標法4条1項15号1回
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キーワード |
許諾2回 商標権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成11年(行ケ)第217号商標登録取消決定取消請求事件
平成11年11月16日口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社セント・ローラン
代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 【C】
被 告 特許庁長官 【D】
指定代理人 【E】
同 【F】
被告補助参加人 ランセル ソジェディ
代表者 【G】
訴訟代理人弁理士 【H】
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年異議第91010号事件について平成11年6月14日にし
た取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、商標法施行令別表第25類の「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつ
り、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」を指定商品とし、
「ILANCELI」の文字を横書きしてなる別紙決定書の理由の写し別紙本件商
標のとおりの商標登録第4101024号商標(平成8年8月26日出願、平成1
0年1月9日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
本件商標の商標登録については、ランセル ソジェディから商標登録異議の申立
てがあり、特許庁は、これを平成10年異議第91010号事件として審理した結
果、平成11年6月14日に「登録第4101024号商標の登録を取り消す。」
との決定をし、同月28日にその謄本を原告に送達した。
2 決定の理由
別紙決定書の理由の写しのとおり、本件商標は、ランセル ソジェディ又はこ
れと関係のある者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混
同を生ずるおそれがあり、また、ランセル ソジェディの世界的に著名な商標「L
ANCEL」(以下「引用商標」という。)の著名性にただ乗りする、社会一般道
徳に反し、かつ、国際信義にも反する商標であるから、商標法4条1項7号及び1
5号に該当すると認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
1 本件商標は、これを構成する各文字が外観上まとまりよく一体的に表現されて
いて、しかも、全体をもって称呼してもよどみなく一連に「イランセリ」又は「イ
ランチェリ」と称呼し得るものである。そして、本件商標の構成中の左右両側の
「I」の文字部分と「LANCEL」の文字部分との間に特に間隔があるわけでな
く、書体の大きさや表示形態を異にするものでもないから、本件商標は、その構成
全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるとみるベきであ
る。他方、引用商標は、その構成文字に相応して「ランセル」の称呼を生ずること
は明らかである。
また、本件商標は、前記のとおりその構成全体をもって一体不可分とする造語よ
りなるものであるから、外観においても、観念においても、引用商標と相紛れるお
それはない。
以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点におい
ても類似しないから、本件商標が引用商標の文字を含む商標であることを、取引
者・需要者が容易に理解し得るとはいえず、商品の出所について混同を生ずるおそ
れはないものである。
東京高等裁判所平成6年(行ケ)第157号平成7年11月22日第13民事
部判決(以下「ノービゲン判決」という。)は、商標「ノービゲン」に関する事件
についてこれと同旨のことを述べている。
2 本件商標を構成する「ILANCELI」の文字は、前述のとおり、一体不可
分の造語よりなるものであり、ランセル ゾジェディとの関連を想起させるもので
はないから、本件商標は、引用商標の著名性にただ乗りする社会一般道徳に反する
ものでも、国際信義に反するものでもない。
3 被告は、原告が本件商標の登録を受けた後に行った、本件商標のブランド使用
許諾についての広告を根拠として、本件商標が他人の業務に係る商品との出所の混
同を意図し、また、他人の著名商標にただ乗りするものであると主張する。
しかし、被告の上記主張は、本件商標ではなく、原告が本件商標の登録後に使
用した商標についての主張であるから、出所の混同のおそれを判断すべき対象とな
る商標を誤った主張である。また、商標法4条1項7号又は15号に該当するか否
かは、登録査定時を基準として判断されるべきものであるから、原告の登録査定後
の行為に基づいて、本件商標が上記各号に該当するか否かを判断することはできな
い。
第4 被告の反論の要点
1 引用商標は、「ランセル」と称呼され、本件商標の商標登録査定時はもとよ
り、出願時においても、フランスの世界的に著名なバッグの商標として広く国民の
間に浸透していたものである。本件商標は、ローマ字8文字で構成されているが、
全体として特別の意味を有するものではない。そして、本件商標の両端の「I」の
字を除いた「LANCEL」は、著名商標であるがゆえに、本件商標は「LANC
EL」(引用商標)の文字を含むことを容易に理解させ、引用商標を想起させるも
のである。
東京高等裁判所平成10年(行ケ)第162号平成10年12月10日第18
民事部判決は、「MEIVOGUE」「メイボーグ」の文字を二段書きした商標を
指定商品「被服」に使用した場合に、商標の構成上の相違にもかかわらず、世界的
に有名なファッション雑誌「VOGUE」(ボーグ)の商標を連想し、商品の出所
について誤認混同のおそれがあると判決している。
2 本件商標は、明らかに、善良な商行為において使用されている世界的に著名な
引用商標の両端に「I」の文字を付したものであって、拒絶の理由を免れるため、
他人の著名な商標を故意に変更して登録を受け、使用をするものであり、他人の商
標の著名性にただ乗りするものである。したがって、本件商標は社会一般道徳に反
し、かつ、国際信義にも反する商標である。
3 原告は、本件商標の登録を受けた後、本件商標のブランド使用許諾についての
広告をしている。その際の本件商標の使用方法は、各々の文字を上下に圧縮し、横
長に表し、その結果、両端の「I」の文字が極端に埋没して、中間の「LANCE
L」の文字が浮き立つようにしたものである。さらに、原告は、商品がフランス製
の商品であるかのように「PARIS」の文字を本件商標の下段に表している。こ
れは、とりもなさず、フランス・パリの「LANCEL」を意識したものであっ
て、他人の業務に係る商品との出所の混同を意図し、また、他人の著名商標にただ
乗りするものである。
第5 当裁判所の判断
1 乙第1ないし第10号証によれば、引用商標は、フランス国パリ市に本店を有
する被告補助参加人ないしその前身の企業が19世紀ころ以来使用しているもので
あって、遅くとも本件商標の商標登録出願時までには、バッグを始めベルト、小物
類等の一流ブランド「ランセル」の商標として、我が国においても著名なものとな
っていたことが認められる。
2 引用商標がそれについて著名性を有する商品であるバッグ、ベルト、小物類
は、ファッション(装身に関する流行)に関係するものである。一方、本件商標の
指定商品も、被服、バンド、ベルト、履物を始めとして、ファッションに関係する
ものである。したがって、引用商標に係る商品と本件商標の指定商品との間には高
い関連性がある。
3 本件商標は、全体として、特定の意味を持つものとは認められない。また、仮
に本件商標から「イランセリ」ないし「イランチェリ」の称呼が生じたとしても、
「イランセリ」ないし「イランチェリ」もまた、特定の意味を持つものとは認めら
れない。
4 そうすると、本件商標の商標登録出願時において本件商標が指定商品に使用さ
れた場合には、本件商標に接した取引者・需要者は、本件商標全体としては特定の
意味を把握できないこと、本件商標を構成する文字の最初と最後に単純な形状の
「I」が同じように配置されていること、引用商標が著名であること、及び本件商
標が付された商品と引用商標に係る商品との間に高い関連性があることから、本件
商標に含まれる「LANCEL」の文字を認識し、本件商標を、引用商標の両側に
飾りが付されているにすぎないものである等と誤認して、その結果、補助参加人の
業務に係る商品との間に出所の混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
5 原告は、本件商標と引用商標が類似しないと主張するけれども、両商標が類似
するか否かと出所の混同を生じるか否かは別の問題であって、両商標の類否は、前
記認定を左右するものではない。
また、ノービゲン判決は、「染毛剤」についての著名な商標であると主張され
た「ビゲン」と、指定商品を「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」とする
が、取引の実情においては「ビニールシート用洗浄剤」ないし「ビニールハウスの
洗浄剤」に付されて使用されている「NOVIGEN」のローマ字と「ノービゲ
ン」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなる商標について、商品の出所の混同を
生じるおそれがないとしたものであって、本件とは、商標の構成も商品の関連性も
異なり、事案を異にするというべきである。
6 そして、本件商標の商標登録出願後、登録査定日(平成9年11月11日)ま
での間に、前記出所の混同が生ずるおそれが消滅するような事情は窺えないから、
上記登録査定日においても前記出所の混同が生ずるおそれは継続していたものと認
められる。
7 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する商標
であって、商標登録を受けることができないものである。したがって、原告主張の
決定取消事由は、その余について判断するまでもなく理由がないものというべきで
あり、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 山 田 知 司
裁判官 宍 戸 充
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