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平成10(行ケ)383実用新案取消決定取消請求事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成11年12月2日
事件種別 民事
法令 実用新案権
民事訴訟法61条1回
実用新案法3条の21回
キーワード 実施6回
刊行物1回
実用新案権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成10年(行ケ)第383号 実用新案取消決定取消請求事件
         判    決
   原      告   泰東製綱株式会社
   代表者代表取締役   A
   訴訟代理人弁護士   会 田 恒 司
   同    弁理士   B
   被      告   特許庁長官 C
   指定代理人    D
   同          E
   同          F
   同          G
         主    文
 1 特許庁が平成9年異議第75010号事件について平成10年10月16日
にした決定を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
         事    実
第1 原告が求める裁判
   主文と同旨の判決
第2 原告の主張
 1 特許庁における手続の経緯
原告は、考案の名称を「防獣ネット」とする実用新案登録第2533000号(平
成5年4月26日登録出願、平成9年1月29日設定登録。この登録に係る考案を
以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
上記登録につき、同年10月16日に登録異議の申立てがなされ、特許庁は、これ
を平成9年異議第75010事件として審理した結果、平成10年10月16日に
「実用新案登録第2533000号の実用新案登録を取り消す。」との決定をし、
同年11月9日にその謄本を原告に送達した。
 2 本件考案の実用新案登録請求の範囲
合成繊維に、直径0.3㎜以上の金属線を併存せしめた綱材により網地状に構成したこ
とを特徴とする防獣ネット。
 3 決定の理由の要点
別紙決定書の理由(一部)写しのとおり、本件考案は、決定のいう先願明細書(以
下、本判決においても「先願明細書」という。)に記載された考案(以下「先願考
案」という。)と同一であって、その実用新案登録は実用新案法3条の2の規定に
違反してされたものであるから、取り消されるべきである、とした(なお、決定2
頁19行の「網材」は「綱材」、5頁16行の「金属繊維」は「金属線」、同頁1
6ないし17行の「編材」は「綱材」の各誤記であると認められる。)。
 4 決定取消事由
決定は、先願考案の技術内容を誤認した結果、本件考案は先願考案と同一であると
判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
すなわち、決定は、先願明細書に金属線の直径が具体的に記載されていないことを
認めながら、先願考案も組紐網に合成繊維と金属線を併存させることによって獣類
により噛み切られることを防止する目的を達成したものであるから、先願考案は
0.3㎜以上の直径を有する金属線を用いることを包含すると解するのが相当である旨
判断しているが、誤りである。
先願考案に係る組紐網は、複数本の合成繊維糸と複数本の金属細線糸とを組み合わ
せて編成した組紐を編網したものであり、この金属細線糸は、金属細線を複数本並
列状態に組み合わせたものである(先願明細書2頁12行ないし20行)から、先
願考案の要件である金属細線は極めて細いものでなければならず、直径0.3㎜以上の
ものを含むと解する余地はない。
   このことは、先願明細書において金属細線が「金属繊維」と言い換えられて
いることによっても明らかである。すなわち、市販されている金属繊維の直径は
0.01~0.1㎜であって、現に、先願明細書の実施例に記載されているステンレスの金
属細線の直径は0.015㎜にすぎないのである。なお、先願明細書には網を構成する組
紐が「柔軟性」を有することが記載されているが(2頁23行)、直径0.3㎜以上の
金属細線を複数本並列状態に組み合わせた金属細線糸を複数本組み合わせて編成し
た組紐が柔軟性を有することはあり得ない。
この点について、被告は、乙第1ないし第4号証を援用して、「金属細線」の用語
は、各種の網状の物に関する発明の明細書において0.03~1.0㎜程度の金属線をいう
ものとして使用されている旨主張する。
しかしながら、「金属細線」という用語のみではその直径を特定できないからこ
そ、乙第1ないし第4号証には、当該発明においては「通常0.1~0.4㎜程度の金属
細線が好適である。」(乙第1号証),金属細線を素材とする金網の製造方法の実
施例として「フェライト系ステンレス鋼の線材を線径0.5 ㎜φ(中略)に仕上げた
ものを素線材とし」(乙第2号証),「金属細線の直径は好ましくは0.03~1.0㎜、
より好ましくは0.05~0.5㎜、最も好ましくは0.1~0.3㎜である。」(乙第4号証)
などと説明的に記載されているのである。したがって、乙第1ないし第4号証は、
本件考案が対象とする防獣ネットの技術分野においても「金属細線」の用語が
0.03~1.0㎜程度の金属線をいうと解することの根拠にはならない。
ちなみに、先願考案の要件である金属細線は上記のように極めて細く、1本ならば
獣類が噛み切ることができるものであるから、これを複数本並列状態に組み合わせ
て金属細線糸としても、獣類が1本ずつ噛み切ってゆけば、最後には網を噛み切る
ことができることになる。これに対して、本件考案の要件である金属線は、その直
径を0.3㎜以上に特定したことによって、1本でも獣類が噛み切ることのできないも
のであるから、獣類がネットを噛み切ることは不可能である。このように、両考案
は得られる作用効果においても著しく相違するから、本件考案は先願考案と同一で
あるとした決定の判断は是認し難いものである。
第3 被告の主張
原告の主張1ないし3は認めるが、4(決定取消事由)は争う。決定の認定判断は
正当であって、これを取り消すべき理由はない。
原告は、先願考案の要件である金属細線は極めて細いものでなければならず、直径
0.3㎜以上のものを含むと解する余地はない旨主張する。
しかしながら、「金属細線」の用語は、各種の網状の物に関する発明の明細書にお
いて0.03~1.0㎜ 程度の金属線をいうものとして使用されているから(乙第1ない
し第4号証参照)、先願考案の要件である金属細線に「直径 0.3㎜以上」  のも
のが含まれると解することには何らの不都合もない。
この点について、原告は、先願考案の組紐網は複数本の金属細線糸を使用するもの
であるが、この金属細線糸は金属細線(金属繊維)を複数本並列状態に組み合わせ
たものである旨主張する。
しかしながら、先願考案の実用新案登録請求の範囲には「合成繊維糸と金属細線と
が組み合わされて編成された組紐」と記載されているにすぎないから、金属細線と
して、より細いもの(先願明細書はこれを「金属繊維」と表している。)を複数本
並列状態に組み合わせて特定の太さにした金属細線(先願明細書はこれを「金属細
線糸」と表している。)を使用するか、同じ太さの金属細線を1本使用するかは、
目的とする物品の性状に即して適宜に選択すれば足りることである。
原告の上記主張は、金属細線糸を複数本使用することを含め、先願考案の一実施例
のみを論拠とするものであって、失当である。
なお、原告は、極めて細い金属細線を複数本並列状態に組み合わせて金属細線糸と
しても、獣類が1本ずつ噛み切ってゆけば最後には網を噛み切ることができる旨主
張するが、より細いものを複数本組み合わせて特定の太さにした金属細線の強度
が、同じ太さの1本の金属細線の強度よりも常に小さいとする理由はない。また、
本件考案は金属線の性質について何ら規定しておらず、同じ直径でも金属線に何を
用いるかで噛み切られやすさは変るのであるから、「直径0.3㎜以上」とすることに
格別の意味は与えられない。
         理    由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の実用新案登録
請求の範囲)及び3(決定の理由の要点)は、被告も認めるところである。
第2 甲第3号証(実用新案登録公報)によれば、本件考案の概  要は次のとお
りと認められる。
 1 技術的課題(目的)
本件考案は、獣類による破網を困難にした防獣ネットに関するものである(1欄7
行,8行)。
野生獣類の侵入を防止するための防獣ネットには種々のものがあるが、いずれも、
完全なものではなく(1欄15行ないし3欄7行)、特に、合成繊維に直径0.3㎜未
満の非常に細い金属線を併存させた綱材によって構成したネットは、鹿や兔等の獣
類によって容易に噛み切られてしまい、実効性がない。このことは、非常に細い金
属線の本数を増やしても全く同様であった(2欄8行ないし13行)。
本件考案の目的は、従来技術の欠点を解消した防獣ネットを提供することである。
 2 構成
上記の目的を達成するために、本件考案はその実用新案登録請求の範囲記載の構成
を採用したものである(1欄2行ないし4行)。
 3 作用効果
本件考案によれば、獣類によって容易に噛み切られることのない防獣ネットを得る
ことが可能である(4欄25行ないし29行)。
第3 以上を前提に、原告主張の決定取消事由の当否について検討する。
原告は、先願考案に係る組紐網は複数本の合成繊維糸と複数本の金属細線糸とを組
み合わせて編成した組紐を編網したものであり、この金属細線糸は金属細線を複数
本並列状態に組み合わせたものであるから、先願考案の要件である金属細線は極め
て細いものでなければならず、直径0.3㎜以上のものを含むと解する余地はない旨主
張する。
甲第4号証(先願明細書)によれば、先願考案の実用新案登録請求の範囲には、決
定が認定しているとおり、先願考案の要件である金属細線の直径は記載されていな
いことが認められる。
決定は、この認定の下で、「両者は合成繊維と金属線を併存せしめて獣類によりか
み切られることを防止するという目的を達成したものであるから」(6頁19行な
いし7頁1行)として、すなわち、先願考案も金属線の併存により獣類により噛み
切られることを防止するものであることのみを論拠に、同考案が本件考案のものと
同じ直径を有する金属線を用いるものを包含すると判断した。
しかし、金属線の併存により防獣の目的を達成するという限度では同一であって
も、先願明細書にも述べられている網の柔軟性の要請など(甲第4号証2頁23
行、3頁23行参照)をも考慮しつつ、それを実現する具体的態様には種々のもの
が考えられることはいうまでもないことであり、その態様に関する事項の一つとし
て金属線の太さが問題となることがあり得ることもいうまでもないことである。金
属線の併存による防獣という点で共通することのみを根拠に、それ以上の検討を何
ら加えないままなされた決定の判断には、論理の飛躍があるというべきである。
そこで、次に、先願明細書の考案の詳細な説明あるいは図面に、先願考案の要件で
ある金属細線の直径についてどのような記載があるかをみる。
前掲甲第4号証によれば、先願明細書の考案の詳細な説明において、金属細線の特
定に関する記載は、実施例の説明としての「ステンレス等の金属細線(金属繊
維)」(2頁14行,15行及び3頁12行,13行)という記載のみであること
が認められる。そして、同号証によれば、この「ステンレス等の金属細線(金属繊
維)」の記載がいかなる意味を有するかについての説明は先願明細書のどこにもな
いことが明らかである。そうだとすると、上記記載は、先願考案の要件である金属
細線は金属繊維と言い換えることができるものであることを意味するとみるのが、
最も自然な理解というべきである。
それでは、「金属繊維」の直径は一般にどの程度のものとされているかというと、
甲第5号証によれば、社団法人繊維学会編「第2版繊維便覧」(丸善株式会社平成
6年3月25日発行)には、「現在市販されている代表的な金属長繊維の特性を表
1・64に示す。」(130頁右欄下から5行,4行)、「切削加工,特にひびり振動
法により(中略)直径20~50μmの金属短繊維が作られ」(131頁左欄2行ない
し4行)と記載され、同頁の表 1・64「市販の金属長繊維の特性」には線径として
13~100μm(0.013~0.1㎜)が示されていることが認められる。これによれば、金
属繊維とは、直径が最大でも0.1㎜程度のものをいうのであって、これを大きく越え
る直径のものは金属繊維とはいわれていないものと認めることができる(なお、上
記繊維便覧は先願考案の登録出願(甲第4号証によれば、平成4年3月17日であ
る。)より後に発行されたものであるが(ただし、上記表 1・64には、同表の内容
が1991年(平成3年)発行の刊行物からの引用であると解される付記があ
る。)、その記載内容からみて、先願考案の登録出願当時の技術常識を示すものと
解することに妨げはない。)。
そうすると、先願考案の要件である金属細線は直径が最大でも0.1㎜程度のものであ
って、0.3㎜以上の直径のものは含まれないと解するのが最も合理的な理解というこ
とにならざるを得ない。現に、前掲甲第5号証によれば、先願考案の実施例として
記載されているステンレスの繊維の直径は、上記表 1・64では15μm(0.015㎜)と
記載され、同頁の図 1・161「各巻取速度で紡糸したIN856ステンレス鋼繊維の直径
と引張強さの関係」ではほぼ 2~8 μm(0.002~0.008㎜)として図示されている
ことが認められるのである。前掲甲第4号証によれば、先願明細書の二つの実施例
のいずれの説明にも、金属細線を単独で使用することは記載されておらず、「金属
細線(金属繊維)3が複数本並列状態に組み合わされた金属細線糸」を使用するこ
とのみが記載されている(2頁14行,15行及び3頁12行,13行)ことが認
められるが、これも、金属細線の直径が最大でも0.1㎜程度であることを前提とする
ことにより、自然な理解が可能となるところである。
以上のとおり、先願考案の金属細線の直径は最大でも0.1㎜程度とみる余地が十分あ
るにもかかわらず、先願考案も金属細線の併存により防獣の目的を達成しようとす
るものであることのみを根拠に、それ以上の検討を加えないままに、先願考案は
0.3㎜以上の直径を有する金属線を用いることを包含するとした決定の判断は誤りで
あって、この誤りが、本件考案は先願考案と同一であるとした決定の結論に影響を
及ぼすことは明らかである。
第4 よって、決定の取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容
することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して、主文のとおり判決する。
  (口頭弁論終結日 平成11年11月16日)
     東京高等裁判所第六民事部
         裁判長裁判官 山 下 和 明
            裁判官 春 日 民 雄
            裁判官 宍 戸   充

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