平成11(行ケ)69審決取消請求事件
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成11年12月2日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条の21回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
審決23回 無効3回 実施1回 特許権1回 分割1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成11年(行ケ)第69号 審決取消請求事件
平成11年11月18日口頭弁論終結
判 決
原 告 山一電機株式会社
代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 池田知美
同 弁理士 【B】
訴訟復代理人弁護士 大岩直子
被 告 株式会社エンプラス
代表者代表取締役 【C】
訴訟代理人弁理士 【D】
同 弁護士 永島孝明
同 山本光太郎
同 伊藤玲子
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第35351号事件について平成11年1月22日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「ICソケット」とする特許第2527673号発明
(昭和63年9月30日に特許出願された特願昭63-248614号を原出願と
して平成4年10月20日に分割出願、平成8年6月14日に設定登録、以下「本
件発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成10年7月29日に本件発明に係る特許(以下「本件特許」とい
う。)の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35351号
事件として審理した結果、平成11年1月22日に「特許第2527673号発明
の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本を同年2月22日に原告に送達し
た。
2 本件発明に係る願書添付の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求
の範囲
「IC搭載部に搭載されたICパッケージの端子部材の下面を支持する端子支持
座を備え、該端子支持座に支持された端子部材の上面に自らの弾力にて自己変位し
て加圧接触すべく配置されたコンタクトを備えたICソケットにおいて、該コンタ
クトは自らの弾力にて上記端子支持座へ向け自己変位しその接触片部を該端子支持
座に当接して弾力を蓄えた状態に設置され、更に該接触片部は上記端子支持座に支
持された端子部材の厚みに相当する弾力を蓄えて上記弾力との和を以って上記端子
部材の上面に加圧接触する構成としたことを特徴とするICソケット。」 (別紙図
面1参照)
3 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり、本件発明は、本件特許出願日前の出願であ
って本件特許出願後に出願公開された特願昭62-134470号の願書に最初に
添付された明細書又は図面(以下、これを合わせて「引用例」という、別紙図面2
参照)記載の発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから、本件特許は、
特許法29条の2に違反したものであって無効であると認定判断した。
4 本件明細書の記載
本件明細書には、本件発明について、次のとおりの記載がある。
(1) 「本発明はソケット本体に具備させたコンタクトをICパッケージの端子部材
の上面に接触するようにしたICソケットに関する。」(1欄末行ないし2欄2
行)
「ICパッケージの端子部材の先端を水平に支持し、この支持部の下方よりコン
タクトを上方へ向け立上げ、・・・このコンタクトの先端接点部を上記端子部材の
上面に加圧接触するタイプのソケットにおいては、コンタクトのバネ部に側方圧を
有効に生じさせることはできるが、端子部材の上面に加圧接触するバネ力を充分に
惹起させることができず、従って端子部材とコンタクトとの接触圧が充分に得られ
ず、その改善が課題となっている。」(2欄末行ないし3欄8行)
「本発明は上記問題点を解決して、略水平に置かれた端子部材の上面に下方から
延ばされたコンタクトの接点部を加圧接触する形式のICソケットを健全に実施で
きるようにしたものである。」(3欄19行ないし22行)
(2) 「端子支持座の下方から同支持座を超えて縦方向に延在されたコンタクトは自
らの弾力による自己変位にてその接触片部が上記端子支持座に弾力を蓄えた状態で
当接され、待機状態に置かれる。そして上記接触片部は上記端子支持座に支持され
た端子部材に接触する時、該端子部材の厚みに相当する弾力を蓄え、この弾力と上
記予備弾力との和で上記加圧接触を図ることができ、コンタクトのバネ部の弾力を
効率的に活用し薄肉の端子部材の厚みの範囲内でも充分なる加圧力を以って端子部
材の上面に接触でき、信頼性を著しく向上する。」(3欄37行ないし47行)
「又留意すべきは接触片部が製造誤差や組立誤差によってその存在位置にバラツ
キがあっても、この発明によれば有効必要接触圧のバラツキを可及的に減少し上記
接触の信頼性向上に寄与する。」(8欄21行ないし25行)
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由の「(当事者の求めた裁判)」、「(当事者の主張)」、「(手続
の経緯・本件発明の要旨)」、「(本件特許出願の出願日)」及び「(請求理由1
について)」は認める。同「(請求理由2について)」の1は、引用例からの引用
箇所について、引用例にその旨の記載があることを認め、その余は争う。同2は、
20頁5行の「本件特許発明」から同12行ないし13行の「相当する」までを認
め、その余は争う。同「(むすび)」は争う。
審決は、引用発明の認定を誤った結果、引用発明と本件発明との対比におい
て、相違点とすべき点を一致点と誤認した。すなわち、審決は、引用例に「基台1
1に搭載されたICパッケージPのリード端子Lの下面を支持する基台上端面を備
え、該上端面に支持されたリード端子Lの上面に自らの弾力にて自己変位して加圧
接触すべく配置されたコンタクトピン33を備えたソケット本体10において、該
コンタクトピン33は自らの弾力にて上記上端面へ向け自己変位しその接触片33
dを該上端面に当接して弾力を蓄えた状態に設置され、更に該接触片33dは上記
上端面に支持されたリード端子Lの厚みに相当する弾力を蓄えて上記弾力との和を
以って上記リード端子Lの上面に加圧接触する構成としたソケット本体10」(審
決19頁11行ないし20頁2行)が記載されていると認定したうえ、この認定を
前提に、引用発明と本件発明とを対比し、前者は後者の構成をことごとく備えると
判断したが(20頁5行ないし14行)、審決が行った引用発明の上記認定は、
「その接触片33dを該上端面に当接して弾力を蓄えた状態に設置され」の部分に
おいて誤っており(接触片33dは、「当接して弾力を蓄えた状態」(以下、この
ように当接して弾力を蓄えた状態に設置されていることを「プリロード」とい
う。)にはなっていない。)、したがってまた、これを前提とする「上記弾力との
和を持って」の部分においても誤っているから、上記認定を前提とした引用発明と
本件発明の対比における審決の判断も、引用発明の「接触片33d」が、本件発明
の「接触片部」と同じく、プリロードの状態に置かれている点でも同一の構成であ
るとした限りで誤っている。
審決の上記誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、違
法であり、取り消されるべきである。
1 引用例には、コンタクトピンの接触片33dがプリロードの状態に置かれてい
ることを明示する記載は全くない。
2 審決が、引用発明におけるコンタクトピンの接触片33dがプリロードの状態
に置かれているとの記述の根拠にしているものは、いずれもその根拠になり得ない
ものばかりである。
(1) 洗濯ばさみを根拠とする認定について
審決は、洗濯ばさみを例示して、挟示手段の弾性部材にプリロードが極めて普通
に採用されていると認定判断した。しかし、洗濯ばさみをもってIC検査用ソケッ
トである引用発明におけるコンタクトピンの接触片33dのプリロードを根拠づけ
るのは誤りである。
ア 洗濯ばさみとIC検査用ソケットのコンタクトピンとでは、技術分野が全く異
なる。そのうえ、挟持の形態も異なる。洗濯ばさみは、プリロードをかけた状態に
ある弾性部材と、弾性部材とは別の部材である一対の可動の挟持片とを備え、一
方、引用発明のコンタクトピンは、コンタクトピン自体が弾性部材である。
イ 同じ洗濯物を挟持する目的の挟持手段であっても、洗濯物干しハンガーである
別紙図面3の接触片2のように、プリロードをかけていないものが存在する。そし
て、同図面の洗濯ばさみが被挟持物(洗濯物)の自重を支える構造であるのに対し
て、上記接触片2の挟持手段は被挟持物の自重を支える構造ではない。一方、IC
検査用ソケットのコンタクトピンも被挟持物(リード端子)の自重を支える構造で
はなく、上記接触片2の挟持手段と構造上の類似性を有しているから、IC検査用
ソケットのコンタクトピンには、上記接触片2の挟持手段のようにプリロードをか
けていないとみるのが自然である。
ウ 弾性部材の弾力を利用する挟持手段であっても、筆記具の樹脂製キャップのク
リップ等のように、プリロードをかけていないものが存在する。
(2) 制作誤差等への対応を根拠とする根拠について
審決は、制作誤差や組み付け誤差への対応に着目して、「このような誤差が生じ
た場合にも、リード端子Lを確実に挟み付けあるいは変形したリード端子を矯正す
る程度の押圧力を生じさせるためには、接触片33dが基台11を直接押圧するよ
うに弾力を蓄えた状態で設置させることが有利であることは、当業者にとって自明
の事項である。」(審決18頁4行ないし9行)と認定判断した。しかし、上記認
定判断は誤りである。
ア 製作誤差等への対応を考慮するとしても、対応するために取り得る手段として
は、コンタクトピンにプリロードをかけた状態に構成することも、コンタクトピン
にプリロードをかけない状態に構成することも、いずれも可能である。プリロード
をかけた状態に設置することによっても、プリロードをかけずにバネ定数の大きな
コンタクトピンを用いることによっても、リード端子の厚みに応じて同じ量だけ変
位するときに同じ大きさの押圧力を得ることができ、リード端子を確実に挟み付
け、あるいは変形したリード端子を矯正する程度の押圧力は得ることができるから
である。
イ また、引用発明のICソケットの場合は、コンタクトピンの外部端子30a、
31a、32a、及び固定片30b、31b、32bの形状がそれぞれ異なり、各
コンタクトピンは1列には列設されない。このような複雑な構造の場合には、基台
上端面を基準面としてプリロードがかかった状態にすることにより、かえって組付
誤差を生じるおそれがあるから、当業者であれば、プリロードをかけることを回避
することはあっても、積極的にプリロードをかけるとは考え難い。
(3) 審決が根拠に挙げる引用例の記載について
審決は、引用発明におけるコンタクトピンのプリロードを認める根拠の一つとし
て、引用例の「接触片33dはリード端子Lの押圧を解除する方向に回動され、基
台11から離れる。」との記載を挙げている。しかし、この記載は、リード端子を
まだ戴置していない段階で、解除体を押圧すると、コンタクトピンの接触片33d
が基台から離れる構造を意味するにすぎないことは、引用例のその前後の記載から
明らかであり、リード端子が存在しない状態で接触片33dが基台に対してプリロ
ードされているか否かとは無関係である。
また、上記記載と引用例の特許請求の範囲にある「上記基台上に載置されたリ
ード端子を上記弾性湾曲部の有する弾力により押圧し得る接触片」との記載を合わ
せて読んでも、そこからコンタクトピンがICパッケージ非搭載時にも基台に対し
てプリロードがかかっていることは出てこない。すなわち、コンタクトピンの先端
がICリードLの上面を押圧している場合といっても、それには、①ICリードL
の上面を押圧してはいるが、基台にプリロードをかけていない場合と、②ICリー
ドLの上面を押圧するばかりでなく更にICリードLの下面の下に位置する基台に
ついてもプリロードをかけている場合の2つがあり得るからである。
第4 被告の反論の要点
1 洗濯ばさみを根拠とする認定について
(1) 洗濯ばさみは日用品であって、そこに見られる技術は、一般人が認識できる技
術常識であり、これを知らない人はいないから、技術分野のいかんにかかわらず、
応用可能なものである。
(2) 洗濯ばさみは、大きく開いてから閉じて物体を挟むという面で、引用発明のコ
ンタクトピンと共通しているので、引用例に明示的に記載されてはいないが記載さ
れているに等しい事項を模索するときの斟酌すべき技術常識として、極めてふさわ
しいものである。
(3) 筆記具については、プリロードをかけないものもあるが、かけたものが主流で
あり、洗濯物干しハンガーの先端部分の挟持手段については、厚物用のものを除け
ば、やはりプリロードをかけたものが主流であるといってよい。
2 制作誤差等への対応を根拠とする認定について
(1) 原告は、制作誤差等に対応する押圧力は、コンタクトピンのバネ係数を大きく
することにより得ることができる旨主張する。しかし、押圧力を検討するには、コ
ンタクトピンは、同じバネ係数としたうえで比較されるべきである。そして、同じ
バネ係数を持つコンタクトピンを考えた場合、プリロードをかけたものに比べて、
かけないものは、より大きい変位量が加わらないと同じ押圧力が発生しないから、
不利なことは明らかである。
(2) 引用発明のICソケットのコンタクトピンの外部端子30a、31a、32
a、及び固定片30b、31b、32bは、1列には列設されず、互いに違う列の
第1ないし第3押通孔14a、14b、14cに順次列設されて挿着されているこ
とは、狭い領域に外部との接続を必要とするコンタクトピンを多数を設けるための
手段であり順当なことである。この場合、コンタクトピンが「基台上端面」に対し
てすべて平行で、かつ同一位置に接触するよう配列する(一列にする)ことは、当
然の前提である。
3 審決が根拠に挙げる引用例の記載について
引用例の「接触片33dはりード端子Lの押圧を解除する方向に回動され、基台
11から離れる。」との記載と「上記基台上に載置されたリード端子を上記弾性湾
曲部の有する弾力により押圧し得る接触片」との記載とを合わせれば、引用例に
は、コンタクトピンの接触片33dは基台11に当接し、かつ、弾力が付与されて
いる状態にある旨が示されているものと解釈するべきである。当接しつつ弾力を0
にすることはむしろ非常に困難であり、また、引用例には0にするという記載もな
い以上、上記各記載からは、このような理解以外は生まれ得ないからである。
第5 当裁判所の判断
1 甲第4号証によれば、引用例には、「接触片33dはリード端子Lの押圧を解
除する方向に回動され基台11から離れる。・・・そしてその位置でICパッケー
ジPをガイド突起15に沿って基台11上に載置し、」(3頁右上欄4行ないし1
1行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例記載の発明の接
触片33dは、ICパッケージを搭載しない状態で基台に接触するものであること
が認められる。
2 当業者は、上記接触については、プリロードをかけているものを把握するもの
と認められる。その理由は次のとおりである。
(1)ア 乙第2号証の1、2(平成11年7月6日【E】撮影の洗濯物干しハンガー
の写真)、乙第3号証(同筆記具の写真)及び弁論の全趣旨によれば、挟持手段に
おいて、弾性部材に予め弾力を与えてプリロードをかけておくことは、本件出願時
の前にも、洗濯ばさみ、筆記具を始めとして極めて普通に採用されていたことが認
められ、上記事実によれば、当業者は、挟持手段において、プリロードをかけると
いう方法があることを技術常識として認識しているものと認められる。
イ もっとも、甲第6号証の1、2(平成11年4月16日【F】作成の洗濯物干
しハンガーの写真)及び弁論の全趣旨によれば、挟持手段において、プリロードを
かけていないものも多数あることが認められるけれども(ただし、プリロードがか
かっていない場合には、挟持手段同士は、何も挟持していない場合には接触してい
ないことも多いものと認められる。)、上記事実は、他の構成も採用されているこ
とを意味するにすぎないものであって、当業者がプリロードという方法を技術常識
として認識しているとの上記認定に反するものではない。
ウ 原告は、審決が洗濯ばさみをプリロードの例として例示したことに関して、洗
濯ばさみとIC検査用ソケットは技術分野が全く異なり、挟持の形態も異なる旨主
張する。しかし、洗濯ばさみに限らず、挟持手段において、弾性部材に予め弾力を
与えてプリロードをかけておくことは、日常生活において極めて普通に採用されて
いて一般人の常識になっているものである以上、当業者がプリロードという方法を
技術常識として認識していないとは考えられないから、原告の主張は、前記認定を
覆すに足りるものではない。
また、原告は、プリロードをかけていない洗濯物干しハンガーである別紙図面3
の接触片2は被挟持物の自重を支える構造ではないからIC検査用ソケットと類似
性を有している旨主張する。しかし、乙第2号証の1、2によれば、別紙図面3の
接触片2と同様に被挟持物の自重を支える構造ではない洗濯物干しハンガーについ
て、プリロードをかけたものもあることが認められるから、プリロードの方法が、
被挟持物の自重を支える構造ではない挟持手段に限って技術常識から除外されるも
のとは認められない。
(2) 甲第4号証によれば、引用例には、「本発明によるIC検査用ソケット
は、・・・基台上に載置されたリード端子を上側から自己の有する弾力で押圧し得
る接触片を形成したコンタクトピンとを備えている。従って、リード端子は・・・
コンタクトピンとの接触も確実になされ得る。」(2頁左上欄末行ないし右上欄8
行)、「基台11上に載置したICパッケージPのリード端子Lをコンタクトピン
33等の接触片33dが上から押圧する構造であるから接触が確実で、・・・変形
しているリード端子を実装時に矯正することができ」(3頁左下欄19行ないし右
下欄4行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、引用発明のコンタ
クトピン33が有する弾力によってリード端子と接触片33dが挟み付ける力は、
接触片33dと基台11との間にリード端子Lを確実に挟み付けるとともに、変形
したリード端子Lを矯正できるほどに、大きなものであることが認められる。
一方、甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば、ICパッケージは、薄肉のリード
端子を多数有するものであって、IC検査用ソケットである引用例記載の発明は、
これに応じて多数のコンタクトピン33の接触片33dを有することが認められる
から、引用例記載の発明の多数のコンタクトピン33の接触片33dについて、製
造誤差や組立誤差によってその位置にばらつきが発生することを当業者が認識し得
たことは明らかである。
上記のようなばらつきの存在を前提とした場合、プリロードをかけない構成を採
用しつつ、すなわち、すべての接触片33dについて、リード端子の載置されてい
ない基台11に接触しているときの押圧力をちょうど0としつつ、しかも、薄肉の
リード端子のわずかな厚みに応じて変位する間に前述のように大きな押圧力を得る
ということが困難であることは明らかであり、かつ、そのような困難があるにもか
かわらず、あえて、リード端子の載置されていない基台11に接触しているときの
押圧力をちょうど0としなければならない必要性は、本件全証拠によっても認めら
れないから、引用例に接した当業者は、上記接触片33dには、プリロードがかか
っていると認識するものと認められる。
原告は、プリロードをかけずにバネ定数の大きなコンタクトピンを用いることに
よっても、大きな押圧力を得ることができる旨主張する。しかし、製造誤差や組立
誤差を考慮した場合には、プリロードをかけずに薄肉のリード端子に対して大きな
押圧力を得ることは困難であって、プリロードをかけた方が有利であることは前示
のとおりであるから、原告の主張は、採用することができない。
また、原告は、引用発明は複雑な構造であるから、基台上端面を基準面としてプ
リロードがかかった状態にすることにより、かえって組付誤差を生じるおそれがあ
るから、当業者であれば、プリロードをかけることを回避することはあっても、積
極的にプリロードをかけるとは考え難い旨主張する。しかし、製造誤差や組立誤差
を考慮した場合には、プリロードをかけずに薄肉のリード端子に対して大きな押圧
力を得ることは困難であって、プリロードをかけた方が有利であることは前示のと
おりであって、複雑な構造であれば、上記困難はなおさら増大し、組み付け誤差が
生じやすいことは明らかであるから、引用発明が複雑な構造であるとしても、やは
りプリロードをかけた方が有利であることに変わりはないものというべきである。
原告の上記主張も、採用することができない。
3 以上のとおりであるから、 原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 山 田 知 司
裁判官 宍 戸 充
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