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平成10(行ケ)289審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 東京高等裁判所
裁判年月日 平成11年11月30日
事件種別 民事
法令 商標権
特許法8条1回
商標法4条1項7号1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決29回
商標権4回
無効3回
刊行物1回
実施1回
主文  原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

平成10年(行ケ)第289号 審決取消請求事件
平成11年9月2日口頭弁論終結
判 決
原       告 A
訴訟代理人弁護士    大 野 幹 憲
同    塩 谷 崇 之
被       告 弁理士会
代表者理事    B
訴訟代理人弁護士    熊 倉 禎 男
訴訟復代理人弁護士 渡 辺 光
同 岩 瀬 吉 和
訴訟代理人弁護士    富 岡 英 次
同     弁理士 C
同    D
主 文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が昭和63年審判第5376号事件について平成10年7月24日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
 社団法人発明学会(以下「発明学会」という。)は、別紙記載のとおり、「特許
管理士」の文字を横書きしてなり、指定商品を旧商品区分の第26類「新聞、雑
誌、その他の定期刊行物」とする登録第765759号商標(昭和41年9月16
日登録出願、昭和42年12月1日登録査定、同年同月27日設定登録)の商標権
者であった。
 発明学会は、昭和61年5月16日、いわゆる権利能力なき社団である特許管理
士会に上記商標権を譲渡し、これに伴い、同年10月27日、発明学会からそのこ
ろ特許管理士会の管理人であったEへの商標権移転登録がなされ、さらに、その後
行われた特許管理士会の管理人の変更に伴い、平成5年11月8日、Eから新しい
管理人である原告への商標権移転登録がなされた。
 被告は、Eを被請求人として(被請求人の地位は後に原告に承継された。)、昭
和63年3月25日、本件商標の登録を無効とするとの審判請求をし、特許庁は、
昭和63年審判第5376号事件として審理した結果、平成10年7月24日、
「登録第765759号商標の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担と
する。」との審決をし、その謄本は同年8月15日原告に送達された。
2 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、「本件商標
は、本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般の
国民に誤認させるものであり、その意味において弁理士に類似する名称と解され、
これをその指定商品に使用することは、弁理士法が弁理士でない者の弁理士に類似
する名称の使用を禁止していることに違反し、ひいては、特許制度の利用者である
一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士に寄せる信頼を害することとなる
から、登録査定時において既に社会公共の利益に反していたものである」(審決書
8頁5行~13行)以上、商標法4条1項7号に違反して登録されたものとして、
同法46条1項によりその登録を無効とすべきである、とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(「士」の有する意味の誤認)
 審決は、本件商標の末尾に付された「士」について、「一般に法律の定める資格
を有する者の名称と理解される」(審決7頁15行~16行)と認定したうえ、そ
れを前提に本件商標をその指定商品に使用することは、登録査定時に既に社会公共
の利益に反していたとの結論を導き出している。しかし、「士」についての審決の
上記認定は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである
から、審決は、このことだけで既に違法であり、取り消されなければならない。
 たしかに、被告の主張するとおり、末尾に「士」の付されたものとして辞書等で
例示されている「資格」名称は、衆議員議員の俗称である「代議士」を除いて、
「法律に定める資格」ではある。しかし、それは偶然によるものというべきであっ
て、決して、「士」の付された「資格」名称のすべてが「法律に定める資格」を有
する者を意味するということはない。辞書などでの定義によっても、「士」とは、
あくまでも「一定の資格」をもった者というにとどまるのであり、一般国民が
「士」の用語から理解するのも、「一定の資格」をもった者ということである。そ
して、ここに「一定の」とは、「ある基準があらかじめ定められこれをクリアし
た」又は「ある一定の試験又は検定がなされ、これをクリアした」との意であり、
一般国民はこのように理解しているのである。そして、この「一定の」の示す水準
には国家試験の水準から民間で定めた水準までの種々のものが含まれている。例え
ば、大臣や省庁の認定のものとしては、「ビル経営管理士」(建設大臣認定(平成
6年))、「建設業経理事務士」(建設大臣認定(平成6年))、「伝統工芸士」
(通商産業省告示(平成4年)財団法人伝統的工芸品産業振興協会)、「自動車安
全整備士」(警察庁認定(昭和55年)、財団法人日本交通管理技術協会)等があ
り、大臣や省庁による認定まではなされていないが公益法人など非営利団体に関す
る資格事業とされているものとしては、犬訓練士(日本警察犬協会本部)、衣料管
理士(社団法人日本衣料管理協会)等があり、その他にも、株式会社その他の団体
で主催する「士」の語が付された資格事業は、極めて多数存在している。
2 取消事由2(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)
 審決は、「本件商標は、本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資
格名称であると一般国民に誤認させるものであり、その意味において弁理士に類似
する名称と解され」(審決書8頁5行~8行)と認定判断し、これを前提に、本件
商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益に反するとの結論を導き出し
ている。しかし、本件商標である「特許管理士」についての上記認定判断は、誤っ
ており、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、
違法であり、取り消されなければならない。
(1) 「弁理士がなし得る業務」が「特許管理」全般に及ぶにしても(弁理士法1
条)、「弁理士のみがなし得る業務」は、弁理士法第22条の2に規定された範囲
に限定され、この限定された範囲外の「特許管理」に関連する業務は、何人もこれ
を行ってよいものである。「特許管理」を支えている人々には、弁理士、弁護士、
研究者、設計技師、企業家その従業員さらには特許資料収集のための調査員など広
い範囲の人が含まれる。そうである以上、広い意味での特許管理の分野のその一部
を「弁理士」が独占していたとしても、このことが、直ちに、本件商標である「特
許管理士」が「本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であ
る」と一般国民に誤認されることにつながるものではないことは、いうまでもな
い。したがって、広い意味での「特許管理」の中に「弁理士のみがなし得る業務」
が含まれているからといって、「特許管理士」は「弁理士に類似する名称」であ
る、ということになるものではない。
(2) 「弁理士」と「特許管理士」とでは、概念、位置づけ、役割が全く相違してお
り、国民、特に企業は、これらの相違を十分に認識してきたものである。
 「弁理士」は、沿革的にも、また現在の「弁理士」に関する諸規定及びその実態
からも、「特許代理人」である。このような趣旨から、法は、弁理士に特許出願等
の代理の独占を許し、その他の者による報酬を得ての代理業を禁止した。他方、
「特許管理士」は、沿革からも、また実態からも、このような代理業務を全く視野
に入れず、むしろ厳しく排除して今日に至っている。そして、用語上の問題として
も、「管理」の用語は、保管、運用について取り仕切ること、業務の処理など、専
ら、内部におけるコントロールを意味し、この用語が外部者に対する関係での代理
(本件ではとくに特許庁などに対する代理業務)を意味することはない。したがっ
て、仮に「弁理士」を「特許代理」人と称し、他方に「特許管理」士と対比して一
般人に示したときに、これらが一方が外部に対する関係で代理人であり、「特許管
理」士が内部でのコントロールをする者といった区別は、一般常識人ならば当然で
きるものであり、両者が混同されるおそれはない。
 審決のいわんとするところを、「弁理士」は、「特許代理」人以上のものであっ
て、広義の「特許管理」部門一般に「報酬」をとって業務ができる「法的資格」で
あり、この意味で、「特許管理士」が「弁理士」と混同を生じるとの趣旨で理解す
るのであれば、特許部に所属する従業員は、すべて「給与」、場合によっては「報
奨金」を会社から受けているのであるから、「特許管理」業務に就くことがことご
とく弁理士法違反になるとの結論に至り、甚だしく不都合な結論に至る。
 「特許管理士」は、主に企業の特許部に属する従業員又はこのような職への就職
希望者についての能力検定にすぎないのであるから、企業の特許部員であることが
弁理士業と矛盾しない以上、「特許管理士」という資格も「弁理士」とは明らかに
異なり、相互に混同するおそれはないというべきである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(「士」の有する意味の誤認)について
 通常の国語辞典および漢和辞典(乙第17号証~第19号証)によれば、末尾に
「士」の付された語は、「一定の資格や特別の職業をもつ人」、「一定の資格を持
った者」、「一定の職業、または資格のある人」等の意味を有する者とされ、その
用例として「弁護士」、「代議士」、「栄養士」及び「学士」等が示されている。
したがって、一般国民は、末尾に「士」の付された名称について、上記例示からも
顕著なように、国家が法律に基づいてその資格を特別に付与したものを表示してい
るものと理解する場合が多いということができる。「士」の文字が付された名称
が、常に必ず法律上の根拠を有する資格のみを表示するものではないことは、上記
一般国民の理解についての傾向が存在しないことを証明するものではない。
 辞書等に掲げられている「士」が末尾に付された用語の例示として、「法律に定
める資格」が多く例示されているのは、「士」が末尾に付された語としては、「法
律に定める資格」を表示する名称として使用される例が最も普遍的なものとして一
般国民に理解されているからであると考えるのが合理的である。一般国民が、
「士」が末尾に付された資格名称について、常に「法律に定める資格」を想起する
とは限らないとしても、まず、「法律に定める資格」を念頭に浮かべることこそ
が、ここでは問題なのである。
2 取消事由2(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)につい

(1) 弁理士法22条の3にいう「弁理士と類似する名称」に該当するか否かは、商
標における一般の類否判断の場合とは異なり、特許等の制度の利用者である一般国
民にとって、当該名称が、弁理士のみがなし得る業務を行うものであるかのような
誤認を生じさせるおそれがあるものであるか否かを基準として決定すべきである。
すなわち、弁理士法22条の3の規定の趣旨を勘案すれば、審決がいうように「法
律の定める正しい資格名称およびその全てを具体的に認識していない一般の国民」
(7頁17行目~20行目)を頭に置いて、本件商標「特許管理士」が、このよう
な一般国民をして、「弁理士のみがなし得る業務」を行うものであると誤認させる
ようなものであるか否かを判断基準とし、そのように誤認させるようなものである
場合に「弁理士に類似する名称」であると認定する、という方法こそが、正当な判
断方法となるものというべきである。
 上記のような判断基準に立って、「特許管理」の語が、特許出願行為等の代理行
為など、弁理士のみがなし得る業務を含むものであること、名称の末尾に「士」の
文字をつけたものは、一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解され易いこ
とを考慮すれば、審決の認定に誤りのないことは明らかである。
 原告は、特許の「管理」と「代理」は、一般常識人ならば、当然区別できると主
張しているが、そのようなことはない。特許法における特許管理人は、「特許出
願、請求その他特許に関する手続」(同法3条2項)を業務内容とし、「その特許
に関する代理人であ」ることが明確に定められている(同法8条)。このように、
特許法自体が、特許の「管理」と「代理」とを明確に区別していないくらいなので
あるから、まして、一般常識人が特許の「管理」と「代理」とを判然と区別するこ
とができるはずがないのである。
(2) 実際、昭和50年10月12日付け毎日新聞(乙第10号証)には、「特許管
理士」が実用新案登録出願を代行し報酬を受け取るなど業として出願代行業務を行
ったとして東京地検が弁理士法違反で略式起訴した旨記載されており、沖縄タイム
ス(乙第20号証の1、2)には、資格なく特許申請を行い弁理士法違反で摘発さ
れた事件に関して、民間資格の「特許管理士」という肩書きで、申請手続きを代行
していた旨が記載されているのであって、一般国民の中に、「特許管理士」の肩書
きを使用するものを弁理士と同等の資格を有するものと誤認するおそれがある者が
実在する。さらに、この点に関して、ほかにも弁理士法違反等が問題となって、出
願人との間に問題が発生した事案において、問題を生じさせた者が、「特許管理
士」の肩書きを利用していた例が少なからず存在するのである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(「士」の有する意味の誤認)について
(1) 乙第17号証(昭和47年4月30日発行「角川国語辞典」20版)、乙第1
8号証(昭和47年10月16日発行「広辞苑」第2版)及び乙第19号証(昭和
53年10月5日発行「学研漢和大字典」)によれば、末尾に「士」の付された語
の通常の意味は、「一定の資格や特別の職業をもつ人」、「一定の資格を持った
者」、「一定の職業、または資格のある人」などといったものであり、その用語例
として、「弁護士」、「栄養士」、「学士」、「代議士」等が挙げられていること
が認められる。
 ここにいう一定の資格に何が含まれるかについては、格別の制限が付されていな
いから、形式的には、国家資格(法令に根拠を有するもの)、民間資格(それ以外
のもの)のいずれをも含み得ることになる。
 しかし、末尾に「士」の付された名称の中で、一般国民にとって接する機会が多
く、したがってまた一般国民にとって知られている度合いの大きいものの多くは、
上記「弁護士」、「栄養士」、「学士」をはじめ、税理士、建築士、不動産鑑定
士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士など国家資格に係るものであり(なお、
前記「代議士」は、原告主張のとおり衆議院議員の俗称であって、法令に基づく名
称ではないが、衆議院議員が法令に基づく地位であることは明らかであるから、国
家資格に係る名称であることに変わりはない。)、しかも、その状態が古くから続
いてきていることは、当裁判所に顕著である。
 また、末尾に「士」の付された名称のうち、国家資格に係るものは、国家が、公
共の福祉その他政策上の目的のために、国民の職業選択の自由を制限してでも、一
定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位ないし権限を付与する必要が
あると認めて法令をもってそのように定めたものであり、そのために、国家資格に
伴う地位ないし権限は、必然的に対世的かつ排他的なものとなる。これに対して、
民間資格は、上記のような必要に基づくものでも、法令に根拠を有するものでもな
く、したがってまた、対世的かつ排他的な地位ないし権限の付与を伴うものでもな
い。このように、国家資格と民間資格とでは、一般国民に対して現実に果たしてい
る役割の重要性において比較にならない相異がある。
 これらの事情の下では、一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場
合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解することが多いのは当然の
ことである。
(2) 原告の主張は、要するに、末尾に「士」の付された名称の中には民間資格に係
るものもあるという点のみをとらえ、末尾に「士」の付された名称が「法律に定め
る資格」に結び付くものではないというものであって、事の一面だけを見て他を見
ようとしない議論というべきであり、失当である。
(3) 審決の「○○士と名称の末尾に「士」の文字を付けたものは、・・・一般に法
律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。」(審決書7頁11行
目~16行目)との認定は、「一般に」の語に着目するとき、上記(1)で述べたのと
同じ趣旨のものと理解することができ、このように理解する限りにおいて審決の上
記認定に誤りはない。原告主張の取消事由1は採用できない。
2 取消事由2(「特許管理士」の有する意味についての認定判断の誤り)につい

(1) 弁理士法22条の2第1項は、「弁理士ニ非サル者ハ報酬ヲ得ル目的ヲ以テ特
許、実用新案、意匠若ハ商標若ハ国際出願ニ関シ特許庁ニ対シ為スベキ事項若ハ特
許、実用新案、意匠若ハ商標ニ関スル異議申立若ハ裁定ニ関シ通商産業大臣ニ対シ
為スベキ事項ノ代理又ハ此等ノ事項ニ関スル鑑定若ハ書類若ハ電磁的記録(電子的
方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式ニ依リ作ラルル記
録ヲ謂フ次項ニ於テ亦同ジ)ノ作成ヲ為スヲ業トスルコトヲ得ス」と定めているか
ら、弁理士の業務のうち、報酬を得る目的をもってなす特許等の出願手続、異議申
立て等の手続の代理、これらの事項に関する鑑定、書類等の作成は、弁理士のみが
なし得る業務である。
(2) 「特許管理」の語は、通常の用語例に従えば、「特許」を「管理」することを
意味するものであるから、これに従えば、特許を管理するという広範な意味合いを
有するものとして理解されることになる。そして、一般国民がこれと異なる理解を
していることを示す資料は本件全証拠を検討しても見出せないから、一般国民は、
「特許管理」の語に接したとき、上記意味合いのものとして理解するものと認めら
れる。この中に、業務としては上記弁理士のみがなし得るものが含まれることは論
ずるまでもないことである。
(3) なお、甲第4号証、第5号証、乙第1号証及び第2号証によれば、「特許管
理」という語は、企業用語としては、我が国において、昭和32年ころから、企業
による特許制度の利用に関して使われ始めるようになった造語であり、その意義は
必ずしも明確なものではないが、企業が利潤を追求するに当たって適切な効果を生
むように特許制度を利用することを目的とした企業の政策又は業務であって、広義
では、企業経営政策の一部として企業全般の特許問題に対する姿勢を整えることを
意味し、狭義では、企業の特許部あるいは特許課などの専任担当部門において日常
処理される業務を意味するものと認められる。
 そうすると、企業用語としての「特許管理」が上記狭義の意味で用いられるとき
には、それが代理でなされる限り弁理士のみがなし得る特許等の出願手続、異議申
立て等の手続を行うことも含まれることになる。
 いずれにせよ、一般国民が、企業用語としての「特許管理」の上記意味を的確に
理解していることを示す資料は本件全証拠を検討しても見出せないから、企業用語
としての「特許管理」の存在により、「特許管理」の語に接したときの一般国民の
理解についての前記認定が影響を受けることはないということができる。
(4) 一般国民は、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付
与された者を表していると理解することが多いことは、前記1(1)認定のとおりであ
る。これを本件でいえば、上記のような広範な意味を有する「特許管理」という語
の末尾に「士」を付した場合、特許制度、弁理士制度に専門的な知識を有していな
い一般国民は、「特許管理士」の語から、特許等に関する出願や異議申立て等をも
含めた広範な意味での特許管理を業務として行うことができる国家資格を有する者
を想起あるいは連想することが多いものと認められる。
 そして、このように想起あるいは連想される限り、そこでの「特許管理士」の業
務の中に、弁理士のみがなし得るものとされているものも含まれることになるの
は、むしろ自明というべきである。原告は、「管理」と「代理」の区別は一般常識
人ならば当然できると主張するが、広範な意味での「管理」の概念の中に「代理」
による「管理」が入り得るものであることは、特許法自体が「特許に関する代理
人」を「特許管理人」と名付けている例(特許法8条)を挙げるまでもなく、明ら
かなことであるから、採用できない。
 そうである以上、「特許管理士」の語は、本来、「弁理士」の語と、互いにあい
まぎらわしく、混同を生じさせやすい性質を有するものというべきである。
(5) 甲第15号証、甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証の1ないし7、乙
第10号証、乙第11号証、乙第20号証及び乙第21号証の各1、2によれば、
次の事実が認められる。
(イ) 発明学会は、昭和39年以降、毎年のように弁理士試験に類似した特許管理
士試験を実施して、その合格者に「特許管理士」の資格を付与し、この特許管理士
によって構成される団体として特許管理士会を結成して、民間に特許管理士制度を
創設した。
(ロ) 発明学会は、特許管理士の受験資格に特段の限定をしていなかったところ、
初期のころ、その大半は企業における特許業務担当者であったが、中には企業と無
関係に資格取得の手段として受験しようとする者もいた。昭和41年ころには、特
許管理士会の幹事の中に、複数の企業の顧問となって特許管理業務に従事する者が
出現し、また、同じころ、特定の企業に属さずに特許管理の業務を営む目的で特許
管理士の資格取得を目指す者も現われた。
(ハ) 昭和50年ころ、特許管理士の1人が、東京都内に事務所を構えて実用新案
登録出願を代行して報酬を受け取っていたことから、東京地方検察庁に摘発され、
弁理士法違反で略式起訴された。また、同じころ、別の特許管理士が、香川県にお
いて、「正田技術法務事務所」という名で、特許出願等の無料相談、指導等を業務
として行っていた。さらに、平成8年9月ころには、別の特許管理士が、沖縄県で
事務所を構えて、特許出願、実用新案登録出願の代行業務を行っていたことから、
沖縄県警に弁理士法違反で摘発された。
 上記認定の各事実の下では、民間資格である「特許管理士」の資格は、その当初
から、本人の特許管理業務を代行して、弁理士のみがなし得る業務を行う危険性を
はらんでいたものであり、現に、昭和50年ころから平成8年までの間に、特許管
理士の名で特許管理業務を代行して捜査機関に摘発されるなどの事態が出来してい
る、ということができる。
(6) 以上述べてきた諸事情を考慮すると、「特許管理士」の語は、本件商標の登録
査定時において、既に、一般国民の間において、現実には弁理士にしか許されてい
ない業務を行う資格を有する者と誤信され、弁理士と混同されるおそれがあったも
のと認められるから、そのころ既に、弁理士法22条の3にいう「弁理士ニ・・・
類似スル名称」に該当すると判断されるものであったということができる。
(7) 原告は、「弁理士」と「特許管理士」とでは、概念、位置づけ、役割が相違し
ており、国民、特に企業はこれらの相違を十分に認識し得るとして、これを前提
に、「特許管理士」の語が「弁理士」と類似せず、混同するおそれもない旨主張す
る。
 しかしながら、特許制度、弁理士制度について専門的知識を有し、特許管理士の
業務内容について十分理解している者であればいざ知らず、そうでない者にとって
は、「弁理士」と「特許管理士」との地位、業務の相違を的確に認識することは不
可能である。そして、一般国民が上記の専門的知識や十分な理解を有していないこ
とは当裁判所に顕著である。原告の上記主張は、誤った前提に立つものであって、
採用できない。
 原告は、審決の述べるところを、「弁理士」は、「特許代理」人以上のものであ
って、広義の「特許管理」部門一般に「報酬」をとって業務ができる「法的資格」
であり、この意味で、「特許管理士」は「弁理士」と混同を生じるとの趣旨で理解
するのであれば、企業の特許部に所属する従業員は、すべて「給与」、場合によっ
ては「報奨金」を会社から受けているのであるから、「特許管理」業務に就くこと
がことごとく弁理士法違反になるとの結論に至り、甚だしく不都合な結論に至ると
主張する。
 しかしながら、弁理士法22条の2第1項において弁理士のみがなし得る業務と
されるものは、特許等の出願手続、異議申立て等の手続の代理等をすることであっ
て、本人自らが特許等の出願手続、異議申立て等の手続をすることまでも禁じてい
るものでないことは自明であり、特許部に所属する従業員は、企業自らが特許等の
出願手続、異議申立て等の手続をする場合に、その補助者としての行為をしている
にすぎない。そして、審決が企業従業員によるこのような形での特許等への関与と
弁理士の業務との関係を何ら論拠にしていないことは、審決の記載自体で明らかで
ある。原告の上記主張は、審決の述べるところを曲解して審決を非難することに帰
し、失当であることが明らかである。
(8) 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由2も採用できない。
第6 以上によれば、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決
にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、原告の請求を棄却すること
とし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、
主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
   裁判長裁判官 山   下   和   明
       裁判官 山   田   知   司
       裁判官 宍   戸      充

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