知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成10(ワ)8477 特許権侵害差止等請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成10(ワ)8477特許権侵害差止等請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成11年11月30日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 特許権4回
実施3回
侵害2回
差止2回
主文
事件の概要

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成一〇年(ワ)第八四七七号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成一一年一〇月一二日
判      決
       原       告 大同ほくさん株式会社
     右代表者代表取締役 【A】
     右訴訟代理人弁護士 小 坂 志磨夫
同 小池 豊
同 櫻井彰人
     右補佐人弁理士   【B】
       被       告  日本エア・リキード株式会社
     右代表者代表取締役  【C】
      右訴訟代理人弁護士 勝田裕子
 同 高橋 勲
 同 鼎 博之
 同 神山達彦
      右補佐人弁理士   【D】
 同 【E】
 同 【F】
主      文
  一 原告の請求をいずれも棄却する。
  二 訴訟費用は、原告の負担とする。
 事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙第一目録記載の窒素ガス製造装置を製造し、販売し、貸与し、使
用してはならない。
二 被告は、その所有する前項記載の装置を廃棄せよ。
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告及び被告は、いずれも酸素、窒素等の製造、販売などを目的とする株式会
社である。
2 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」と
いう。)を有する。
特許番号  第一五六六五六二号
発明の名称 高純度窒素ガス製造装置
出願日 昭和五九年七月一三日
公告日 昭和六一年一〇月一五日
登録日 平成二年六月二五日
3 本件発明に係る明細書(特許法一七条の三による補正後の明細書、以下「本件
明細書」という。)の特許請求の範囲は、別紙公報(以下「本件公報」という。)
の該当欄記載のとおりである。
4 本件発明の構成要件は、次のとおりに分説できる(以下「構成要件Ⅰ①」、
「構成要件Ⅱ」などという。)。
Ⅰ(前提)
① 外部より取り入れた空気を圧縮する空気圧縮手段と、
② この空気圧縮手段によって圧縮された圧縮空気中の炭酸ガスと水分とを除去す
る除去手段と、
③ この除去手段を経た圧縮空気を超低温に冷却する熱交換手段と、
④ この熱交換手段により超低温に冷却された圧縮空気の一部を液化して底部に溜
め窒素のみを気体として上部側から取り出す精留塔を備えた窒素ガス製造装置であ
って、
Ⅱ(分縮器)
 精留塔の上部に設けられた凝縮器内蔵型の分縮器と、
Ⅲ(液体空気導入パイプ)
 精留塔の底部の貯溜液体空気を上記凝縮器冷却用の寒冷として上記分縮器中に導
く液体空気導入パイプと、
Ⅳ(放出パイプ)
 上記分縮器中で生じた気化液体空気を外部に放出する放出パイプと、
Ⅴ(第1の還流液パイプ)
 精留塔内で生成した窒素ガスの一部を上記凝縮器内に案内する第1の還流液パイ
プと、
Ⅵ(第2の還流液パイプ)
 上記凝縮器内で生じた液化窒素を還流液として精留塔内に戻す第2の還流液パイ
プと、
Ⅶ(液体窒素貯蔵手段)
 装置外から液体窒素の供給を受けこれを貯蔵する液体窒素貯蔵手段と、
Ⅷ(導入路)
 この液体窒素貯蔵手段内の液体窒素を冷熱発生用膨脹器からの発生冷熱に代え圧
縮空気液化用の寒冷として連続的に上記精留塔内に導く導入路と、
Ⅸ(液面制御手段)
 上記分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき上記精留塔に対する上記液体窒
素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し上記液体空気の液面を設定液面位に保
つ液面制御手段と、
Ⅹ(窒素ガス取出路)
 上記精留塔から気体として取り出される窒素および上記精留塔内において寒冷源
としての作用を終え気化した上記液体窒素を上記熱交換手段を経由させその内部を
通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ製品窒素ガスとする窒素ガス
取出路
を備えたことを特徴とする高純度窒素ガス製造装置
5 被告は、窒素ガス製造装置を製造販売している。
(右4の事実は、甲三と弁論の全趣旨により認め、その余の事実は争いがない。)
二 本件は、原告が、「被告は、別紙第一目録記載のとおりに特定される窒素ガス
製造装置を製造販売しているところ、同窒素ガス製造装置は、本件発明の技術的範
囲に属するから、その製造販売は、本件特許権を侵害する。」と主張して、被告に
対し、別紙第一目録記載の窒素ガス製造装置の製造販売等の差止め及び廃棄を求め
る事案である。
三 争点
 被告は、別紙第一目録記載のとおりに特定される窒素ガス製造装置を製造販売し
ているかどうか及び被告の製造販売する窒素ガス製造装置が本件発明の技術的範囲
に属するかどうか。
第三 争点に関する当事者の主張
一 原告の主張
1 被告は、別紙第一目録(以下「原告目録」という。)記載のとおりに特定され
る窒素ガス製造装置を製造販売している(以下、原告目録記載の窒素ガス製造装置
を「原告主張装置」という。)。
2 原告主張装置は、次のとおり本件発明の構成要件をすべて充足するから、本件
発明の技術的範囲に属する。
(本項では、原告目録の図面の符号及び符号の説明を用いて表記する。)
(一)(1) 原告主張装置は、外部より取り入れた空気を圧縮する手段として、空気圧
縮機9を有するから、構成要件Ⅰ①を充足する。
(2) 原告主張装置は、空気圧縮機9によって圧縮された圧縮空気中の炭酸ガスと水
分とを除去する手段として、ドレン分離器10、吸着塔12を有するから、構成要件Ⅰ
②を充足する。
(3) 原告主張装置は、右除去手段を経た圧縮空気を超低温に冷却する熱交換手段と
して、熱交換器13を有するから、構成要件Ⅰ③を充足する。
(4) 原告主張装置は、この熱交換手段により超低温に冷却された圧縮空気の一部を
液化して底部に溜め、窒素のみを上部側から気体として取り出す精留塔15を備えた
窒素ガス製造装置であるから、構成要件Ⅰ④を充足する。
(二) 原告主張装置では、第1の分縮器21は、精留塔15とは別個独立に設置されて
いるが、構成要件Ⅱの「精留塔の上部に設けられた」とは、分縮器が精留塔内の上
部に一体として配置されていると限定して解釈する理由はない。
本件発明において、精留塔は、その底部に投入された圧縮空気を、それが上昇す
る過程で精留棚を下降する液体窒素と接触させて、窒素のみを精留塔内の上部に気
体として溜める働きをし、また、分縮器は、精留塔内上部に溜まった窒素ガスを第
1の還流液パイプにより分縮器内の凝縮器に導き、液化した後、第2の還流液パイ
プを通って液体窒素としての自重により精留塔に戻す働きをすることから、本件発
明では、分縮器を精留塔の上方に設けるとの構成を採用したものである。
原告主張装置において、第1の分縮器21は、精留塔15の上方に設けられていて、
精留塔内の上部に溜まった窒素ガスが同分縮器に導入され、液化された後、第2の
還流液パイプ21cを通って自重により精留塔に戻されるのであるから、「精留塔の
上部に設けられた」との要件を充たす。
したがって、原告主張装置は、精留塔15の上部に設けられた凝縮器21aを内蔵し
た第1の分縮器21を有するから構成要件Ⅱを充足する。
(三) 原告主張装置は、精留塔15の底部の液体空気18を凝縮器21a冷却用の寒冷と
して第1の分縮器21中に導くパイプ19を有するから構成要件Ⅲを充足する。
(四) 原告主張装置は、第1の分縮器21中で生じた気化液体空気を外部に放出する
放出パイプ29を有するから構成要件Ⅳを充足する。
(五) 原告主張装置は、精留塔15内で生成した窒素ガスの一部を凝縮器21a内に案
内する第1の還流液パイプ21bを有するから構成要件Ⅴを充足する。
(六) 原告主張装置は、凝縮器21a内で生じた液化窒素を還流液として精留塔15内
に戻す第2の還流液パイプ21cを有するから構成要件Ⅵを充足する。
(七) 原告主張装置は、装置外から液体窒素の供給を受けこれを貯蔵する液体窒素
貯蔵手段として、液化窒素貯槽23を有するから構成要件Ⅶを充足する。
(八) 原告主張装置は、液化窒素貯槽23内の液体窒素を、圧縮空気液化用の寒冷と
して連続的に精留塔15内に導く導入路パイプ24aを有するから構成要件Ⅷを充足す
る。
(九)(1) 原告主張装置は、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、液
化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して
精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御し、右液体空気の
液面を設定液面位に保つ液面制御手段として、液面計25を有するものと認められる
から、原告主張装置は、構成要件Ⅸを充足する。
(2) 仮に、後記二(被告の主張)2(三)のとおり、液面計25は、第1の分縮器21内
の液体空気の液面の変動に基づき、パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して精
留塔底部の液体空気から右分縮器21に対する液体空気の供給量を制御するものであ
り、液面計44は、精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24a
に設けられたバルブ26を調節して液化窒素貯槽23から精留塔に対する液体窒素の供
給量を制御するものであるとしても、第1の分縮器21の液面が変動すると液面計
25の信号によりバルブ19aが調節されて分縮器21への液体空気の供給量が変動し、
これにより精留塔底部の液面が変化し、その結果、液面計44の信号によりバルブ
26が調節されて、液化窒素貯槽23からの液体窒素の量が制御されており、また、安
定的な操業を行っている場合には、両液面は一定に保たれている。したがって、右
のような構成を有する装置は、分縮器内の液面と精留塔底部の液面の変動とが密接
に関連し、両液面が一定に保たれることにより、液化窒素貯槽23からの液体窒素の
供給量を制御するものであるから、分縮器内の液面の変動に基づき、液体窒素貯蔵
手段からの液体窒素の供給量を制御するものということができる。よって、構成要
件Ⅸを充足する。
(一〇) 原告主張装置においては、精留塔15の上部に溜まった窒素ガスは、取出パ
イプ27を通って、第1の還流液パイプ21bと第1の窒素取出パイプ27aに分岐す
る。そして、第1の窒素取出パイプ27aに分岐した窒素ガスは、液化窒素戻りパイ
プ27b、第2の窒素取出パイプ27c及びパイプ27fを通り、熱交換器13内で圧縮空
気と熱交換され、メインパイプ28から製品窒素ガスとして取り出される。
したがって、原告主張装置は、精留塔15から気体として取り出される窒素及び精
留塔15内において寒冷源としての作用を終え気化した液体窒素を、熱交換器13を経
由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ、製品窒
素ガスとする窒素ガス取出路である、取出パイプ27、第1の窒素取出パイプ27a、
液化窒素戻りパイプ27b、第2の窒素取出パイプ27c、パイプ27f及びメインパイ
プ28を有するから、構成要件Ⅹを充足する。
 なお、原告主張装置では、窒素ガスを精留塔15上部から取り出す取出パイプ27と
製品窒素ガスとして取り出すメインパイプ28の間に、第2の分縮器7→液化窒素戻
りパイプ27b→第2の窒素取出パイプ27c→液化窒素セパレータ51という工程を経
るが、これは、単に精留塔15上部から取り出された窒素ガスを一旦液化して液体窒
素とした後、再度気化して窒素ガスに戻しているだけであって、技術的に無意味な
工程であるから、この工程の存在は、原告主張装置が構成要件Ⅹを充足することを
左右するものではない。
(一一) 以上のとおり、原告主張装置は、本件発明の構成要件をすべて充足するか
ら、本件発明の技術的範囲に属する。
二 被告の主張
1 被告が、原告主張装置を製造販売していることは、否認する。
 被告が製造販売している窒素ガス製造装置は、別紙第二目録(以下「被告目録」
という。)記載のとおりに特定されるものである(以下、被告目録記載の窒素ガス
製造装置を「被告主張装置」という。)。
2 被告主張装置は、本件発明の技術的範囲に属さない。
(本項では、被告目録の図面の符号及び符号の説明を用いて表記する。)
(一) 構成要件Ⅰ④及び構成要件Ⅹについて
本件発明では、精留塔から気体として取り出される窒素は、「熱交換手段を経由
させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ、製品窒素
ガスとする」(構成要件Ⅹ)ものであるが、被告主張装置では、精留塔から第一の
還流液パイプ7aを通って気体として取り出される窒素は、凝縮器7により熱交換
されて液体窒素となり、第二の還流液パイプ7bを通って精留塔に戻されるのであ
り、「熱交換器を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温
度上昇させ製品窒素ガス」として取り出されるものではない。
したがって、被告主張装置は、本件発明の「窒素のみを上部側から気体として取
り出す精留塔」(構成要件Ⅰ④)を備えておらず、また、本件発明の「精留塔から
気体として取り出される窒素を熱交換器を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱
交換させることにより温度上昇させ、製品窒素ガスとする」との構成(構成要件
Ⅹ)も備えていない。
よって、被告主張装置は、構成要件Ⅰ④及び構成要件Ⅹを充足しない。
(二) 構成要件Ⅱについて
本件発明の「精留塔の上部」とは、精留塔の一部分である精留塔の上の部分を示
すものであるところ、被告主張装置の凝縮器21a内蔵型の分縮器21は、精留塔の上
方に精留塔とは別個独立に設けられている。
したがって、被告主張装置は、構成要件Ⅱを充足しない。
(三) 構成要件Ⅸについて
本件発明の液面制御手段は、「分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき、精
留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し、液体空気の液面
を設定液面位に保つもの」である。
これに対し、被告主張装置では、第一の液面制御計25は、分縮器21内の液体空気
の液面の変動に基づき、液体空気導入パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して
精留塔底部の液体空気から分縮器21に対する液体空気の供給量を制御し、分縮器
21内の液体空気の液面を設定液面位に保つものであり、第二の液面制御計44は、精
留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ
26を調節して液体窒素貯蔵タンク23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御
し、精留塔底部の液体空気の液面を設定液面位に保つものである。
このように、被告主張装置では、第一の液面制御計25と第二の液面制御計44とが
それぞれ独立して制御を分担しており、第一の液面制御計25は、液体窒素貯蔵タン
ク23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御していない。
したがって、被告主張装置は、構成要件Ⅸを充足しない。
第四 当裁判所の判断
一 原告は、原告主張装置について、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に
基づき、液化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバルブ
26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御し、
右液体空気の液面を設定液面位に保つ液面計25を有すると主張する(前記第三の一
2(九)(1))ので、判断する。
1 証拠(甲一〇)と弁論の全趣旨によると、①被告は、昭和六〇年七月八日付け
で「空気分離装置(TCN・α型)見積仕様書」と題する高純度窒素ガス製造装置
の仕様書を作成したこと、②同仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置は、原
料空気を塔頂の純窒素ガスと塔底の液体空気に分離する窒素精留塔と、この精留塔
の頂部に設置された窒素凝縮器と、装置外から供給を受けた液体窒素を貯蔵する液
体窒素貯蔵手段と、この窒素貯蔵手段内の液体窒素を窒素精留塔内に導くパイプを
備えたものであり、窒素凝縮器に設けられた液面計により液体窒素貯蔵手段の液体
窒素を精留塔に導くパイプに設けられたバルブを制御するようになっていること、
③右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置と原告主張装置は、ともに型番が
TCN・α型であること、以上の事実が認められる。
2 しかし、証拠(甲一〇、乙八)と弁論の全趣旨によると、右仕様書に記載され
た高純度窒素ガス製造装置の窒素凝縮器は、円筒直管型の凝縮器であり、精留塔頂
部に設置されているのに対し、原告主張装置の凝縮器(凝縮器21a)はプレートフ
ィン型の凝縮器であり、精留塔の上方に別個独立に設置されていること、被告は右
仕様書を作成しただけで、この高純度窒素ガス製造装置を実際には製造していない
ことが認められ、これらの事実に照らすと、同一の型番の装置であっても必ずしも
同一の構成を備えているとは限らず、しかも、被告は右仕様書に記載された高純度
窒素ガス製造装置を実際には製造していないのであるから、右1①ないし③の事実
から、直ちに、被告が、液面計25が右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置
の窒素凝縮器に設けられた液面計と同様の制御を行っており、かつ、他の原告主張
装置の構成を備えた装置の製造販売を行っていると認めることはできず、他に、被
告が、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動により、導入路パイプ
24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体
窒素の供給量を制御しており、かつ、他の原告主張装置の構成を備えた装置の製造
販売を行っていることを認めるに足りる証拠はない。
3 したがって、原告主張装置について、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変
動に基づき、液化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバル
ブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御
し、右液体空気の液面を設定液面位に保つ液面計25を有するとの構成(前記第三の
一2(九)(1))を備えているとは認められない。
二 原告は、仮に、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づ
き、パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して精留塔底部の液体空気から右分縮
器21に対する液体空気の供給量を制御し、液面計44が精留塔底部の液体空気の液面
の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して液化窒素貯槽
23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御するものであるとしても、構成要件
Ⅸを充足すると主張する(前記第三の一2(九)(2))ので、判断する。
1 証拠(甲二、三)によると、
(一) 本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例の説明として、
①「25は液面計であり、分縮器21内の液体空気の液面が一定レベルを保つようその
液面に応じてバルブ26を制御し液体窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御す
る。」(本件公報、訂二三、一一行、一二行)との記載、②「この装置では、製品
窒素ガスの需要量に変動が生じても液面計25のような制御手段がバルブ26の開度等
を制御し、精留塔15に対する液体窒素の供給量を制御することにより分縮器21内の
液体空気の液面を一定に制御するため、需要量の変動に迅速に対応でき、かつこの
ときにも先に述べた理由により純度ばらつきを生じない。」(本件公報、訂二五、
一三行ないし一七行)との記載及び③「上記液面計25による制御は、液面計が取付
けられた部分に供給される液体窒素の供給量をその部分の液面で制御する(直接液
面制御)のではない。すなわち精留塔15に対する液体窒素の供給量を精留塔15内の
液面ではなく、分縮器21内の液面で制御する(間接液面制御)ため、精留塔内の還
流液の総量を常時一定量に制御でき(精留塔内の液面で制御する場合には、精留塔
の底部に新たに液面計を設けてこれでバルブ26を制御するとともに、現行の液面計
25でバルブ19aを制御することとなり、制御系が2系列になるため、精留塔内の還
流液《分縮器からの還流液+供給液体窒素》の総量は常時一定にならない。)、そ
れによって、製品窒素ガスの純度を需要変動に関係なく一定に保持できるようにな
る。」(本件公報、訂二五、二九行ないし三六行)との記載があること、本件発明
の効果として、④「特に、この発明の装置は、精留塔の上部に凝縮器内蔵型の分縮
器を設け、この凝縮器へ精留塔の窒素ガスの一部を常時導入して液化還流液化し、
還流液が常時精留塔内へ戻るようにすると同時に、液面制御手段によって、分縮器
内の液体空気の液面の変動にもとづき精留塔に対する液体窒素の供給量を制御し液
体空気の液面を設定液面位に保つという間接液面制御を行うため、負荷変動に対し
て極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないのであ
る。」(本件公報、訂二七、一四行ないし一九行)との記載があること、
(二) 構成要件Ⅸは、公告後の補正によって補正されたものであるが、補正前の特
許請求の範囲のこの部分は、「上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液
体窒素の供給量を制御することにより上記分縮器内の液体空気の液面を一定に制御
する制御手段と、」というものであって、精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの
液体窒素の供給量の制御が何に基づいてされるかの記載はなく、また、補正前の明
細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例として、右(一)①及び②の記載は
あったが、③の記載はなく、さらに、発明の効果についての④の記載は、「特に、
この発明の装置は、精留塔の上部に凝縮器内蔵型の分縮器を設け、この凝縮器へ精
留塔の窒素ガスの一部を常時導入して液化還流液化し、還流液が常時精留塔内へ戻
るようにすると同時に、」の部分は同一であるが、「液面制御手段によって、分縮
器内の液体空気の液面の変動にもとづき精留塔に対する液体窒素の供給量を制御し
液体空気の液面を設定液面位に保つという間接液面制御を行うため、負荷変動に対
して極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないので
ある。」の部分は、「制御手段によって上記精留塔に対する液体窒素貯蔵手段から
の液体窒素の供給量を制御して分縮器の液面を一定に制御するため、負荷変動に対
して極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないので
ある。」(本件発明に係る補正前の特許公報(甲二)一〇欄一行ないし六行)と記
載されていたこと、
(三) 本件発明に係る図面(第1図ないし第3図)に示された本件発明の実施例の
構成図においては、分縮器21に設けられた液面計25と、導入路パイプ24aに設けら
れたバルブ26とが破線で結ばれていること、
以上の事実が認められる。
2 右1認定の事実に照らすと、構成要件Ⅸにいう「上記分縮器内の液体空気の液
面の変動にもとづき、上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の
供給量を制御し」とは、分縮器内の液体空気の液面のみによって精留塔に対する液
体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御する制御方式を意味するものと解さ
れ、分縮器内の液体空気の液面によって分縮器に対する精留塔底部からの液体空気
の供給量を制御するとともに、精留塔底部の液体空気の液面によって液体窒素貯蔵
手段からの液体窒素の供給量を制御するという二系列の制御方式は、構成要件Ⅸに
いう「制御」には含まれないものと解される。
なお、右1(一)③のかっこ内に記載されている「制御系が2系列になる」ものに
ついて、原告は、液体窒素が精留塔15に供給された部分の液面で液体窒素貯留手段
23からの液体窒素の供給量を制御すると、精留塔15の底部の液面にも液面計を設
け、当該液面計で液体窒素貯留手段23からの供給量を制御することが必要になるか
ら、制御系が二系列になるということを述べたものであると主張するが、右の「制
御系が2系列になる」という記載は、「液面計25が分縮器21内の液体空気の液面の
変動に基づき、バルブ19aを調節して分縮器21に対する精留塔15からの液体空気の
供給量を制御すること」と「精留塔15の底部に設けられた液面計が精留塔15内の液
体空気の液面の変動に基づき、バルブ26を調節して精留塔15に対する液体窒素貯槽
23からの液体窒素の供給量を制御すること」を二系列と表現したものであること
は、本件明細書のその前後の記載から明らかであるから、原告の右主張を採用する
ことはできない。
 しかるところ、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、
パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して右分縮器21に対する精留塔底部からの
液体空気の供給量を制御し、液面計44が精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づ
き、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔に対する液化窒素貯
槽23からの液体窒素の供給量を制御しているものは、右の二系列の制御方式に当た
るというべきであるから、構成要件Ⅸの「上記分縮器内の液体空気の液面の変動に
もとづき、上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制
御し」に該当しない。
3 したがって、 構成要件Ⅸを充足しない。
三 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくい
ずれも理由がない。
東京地方裁判所民事第四七部
  裁判長裁判官 森 義之
   裁判官 榎戸道也
  裁判官 岡口基一

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

来週の知財セミナー (12月2日~12月8日)

12月4日(水) - 東京 港区

発明の創出・拡げ方(化学)

12月5日(木) - 東京 港区

はじめての米国特許

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

あいぎ法律事務所

〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅三丁目13番24号 第一はせ川ビル6階 特許・実用新案 意匠 商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

和(なごみ)特許事務所

〒550-0005 大阪市西区西本町1-8-11 カクタスビル6F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

デライブ知的財産事務所

〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unicoA 303 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング