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平成11(行ケ)138審決取消請求事件

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成11年10月28日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項11号1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決9回
主文
事件の概要

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判決文

平成11年(行ケ)第138号 審決取消請求事件
平成11年9月7日口頭弁論終結
         判      決
    原      告    ダナ アレクサンダー インコーポレイテッド
    代表者     【A】
    訴訟代理人弁理士    【B】
    同           【C】
    被      告    特許庁長官 【D】
    指定代理人    【E】
    同           【F】
     主      文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定め
る。
    事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成8年審判第4036号事件について平成10年12月15日にした
審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実 
1 特許庁における手続の経緯
  原告は、商標法施行令別表第29類の「ユッカから作ったスナックチップ、サ
ツマイモから作ったスナックチップ、ルビータロから作ったスナックチップ、その
他の根菜類から作ったスナックチップ、その他の加工野菜及び加工果物」を指定商
品とし、「TERRA」の文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」とい
う。)について、平成5年9月21日に商標登録出願をした(平成5年商標登録願
第96375号)ところ、平成7年12月25日に拒絶査定を受けたので、平成8
年3月21日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成8年審判
第4036号事件として審理した結果、平成10年12月15日に「本件審判の請
求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成11年1月20日に原告に
送達された。
2 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、本件商標は、商標登録第2502259号
商標(以下「引用商標」という。)と「テラ」の称呼を共通にする称呼上類似の商
標であり、外観、観念についての相違を考慮しても、これに類似する商標であっ
て、指定商品が包含関係にあるから、商標法4条1項11号に該当すると認定判断
した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由1、2を認め、同3を争う。
  審決は、本願商標及び引用商標の称呼の認定を誤り、その結果両者の類比の判
断を誤るに至ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
1(1) 本願商標に係る「TERRA」の語は、英和辞典によれば、「t・r・」と
発音され、「地、土地、地球」を意味するラテン語であることは理解されるが、わ
が国において親しまれている言葉ではない。
 本願商標に係る指定商品は、幼児から年寄りまでを対象とする一般大衆商品であ
る。そして、駅名や地名は、例えば札幌を「SAPPORO」とするようにローマ
字表記することが多いことに加え、ローマ字は小学校4年生ころに履修するもので
あって、一般世人に極めてよく親しまれているから、本願商標に接する取引者・需
要者は、ローマ字読みで「テッラ」と発音するはずである。
 また、外国語に知識のある者は、本願商標の「TERRA」をラテン語であると
理解するから、これをラテン語読みで「テルラ」と発音することになる。
 したがって、本願商標からは、ローマ字読みの「テッラ」及びラテン語読みの
「テルラ」の称呼が生じ、「テラ」の称呼は生じない。
(2) 被告主張のとおり新聞の記事中に「TERRA」の文字が掲載されているとし
ても、一般紙である朝日・毎日・読売・産経の各新聞では、10年間に19件にす
ぎず、他は専門紙や地方紙のものである。しかも、これらを合わせても決して多数
掲載されたものとはいい得ない。
 これらの記事は、ほとんどのものが雑誌のタイトルや団体名のように固有名詞的
に「TERRA」の文字が使用されたものであり、また、「TERRA」の文字の
みならず「テラ」のカタカナ文字も同時に掲載されているものもあることからする
と、新聞の発行者は、「TERRA」の文字は元々親しまれたものではないことを
自覚していたからこそ、「テラ」のカタカナ文字も一緒に掲載したものと思われ
る。したがって、これらの記事は、決して「TERRA」が「テラ」と一般に称呼
されていることを裏付けるものではない。
2 引用商標の「OKUNOS」の部分は、引用商標の出願人である株式会社奥野
に関連するものであって、「奥野の」という意味合いを想起させる。また、「テ
ラ」は「寺」の意味合いを想起させる。そして、取引の実情においては、「OKU
NOS」は無視されるものではなく、「奥野の寺」といった全体の意味合いからし
ても、「OKUNOS」と「テラ」とは不可分一体のものとしてのみ理解、認識さ
れる。
  したがって、引用商標からは、「オクノステラ」の一連の称呼が生じるもので
あり、単なる「テラ」の称呼は生じない。
3 以上のとおり、本願商標と引用商標の称呼は異なるものであって、相紛れるお
それもないから、称呼においても非類似である。
第4 被告の反論の要点
1(1) 「TERRA」の文字は、昨今の各種新聞記事において多数掲載されてお
り、また、これらの中には「テラ」と称呼されているものも多く見受けられる。
わが国における英語教育の状況、商業広告等において使用される頻度において、
他の外国語に比べて英語が圧倒的に高いこと等に鑑みれば、本願商標に接した取引
者・需要者は、これを英語の「TERRA」(地、土地、地球)と認識し、「テ
ラ」と称呼するものとみるのが相当である。
 また、「TERRA」の文字についての知識を有しない者も、自己の有する英語
の知識に従って商標の文字の配列となるべく似たような配列からなる英単語を探し
出し、称呼を特定するから、「TERRACE」を「テラス」、「TERRACO
TTA」を「テラコッタ」と称呼することなどからすれば、本願商標は、「テラ」
と称呼されるとみるのが自然である。
(2) 日本語の発音において、「促音」は、原則として「カ・サ・タ・パ」行音の前
に、例外的に「ガ・ザ・ダ・バ」行音及び「ハ」行音の前に現れるとされており、
現実にも、「ら」の前に促音を伴う日本語はほとんどない。したがって、「テッ
ラ」は、日本語を用いる者にとって非常に発音しにくい音であるということができ
る。しかも、本願商標を、一見してローマ字表記による日本語を表したものと理解
することもできない。このような状況において、本願商標が、原告主張のようにロ
ーマ字読みで「テッラ」と発音されるということはあり得ない。
ラテン語は、わが国において特に親しまれている言語ではなく、本願商標の指定
商品との関係においても、本願商標を親しみの薄いラテン語読みにしなければなら
ない格別な理由も見当たらない。したがって、本願商標について、英語の発音であ
る「テラ」をさしおいて、ラテン語の「テルラ」の発音がされる理由はない。
2 「OKUNOS」が「奥野の」、「テラ」が「寺」を容易に想起させるという
ことはない。そして、「奥野の寺」が引用商標あるいは引用商標の指定商品との関
連において、いかなる意味を有するか不明であるから、「OKUNOS」と「テ
ラ」とが一体不可分のものとしてのみ認識されることはない。引用商標からは、
「オクノステラ」のほか、「テラ」の称呼をも生ずる。
3 以上のとおり、本願商標と引用商標は、称呼が同一である。
第5 当裁判所の判断
1(1) 甲第2、第3号証によれば、「TERRA」は、英語では「テラ」のように
発音され、「地、土地、地球、大地」等の意味を表すことが認められる。
(2) わが国においては、外国語のうちでは英語の普及率が圧倒的に高く、商業広告
でも、英語が使用される頻度が他の外国語が使用される頻度よりも非常に高いこと
は当裁判所に顕著であり、この事実によれば、外国語と思われる商標に接した者
は、その発音を知らない場合であっても、一般には、自己の有する英語の知識に従
って、これを英語風に読もうとするものと解される。そして、例えば、甲第2、第
3号証にみられるように、高校程度で履修される英語である「TERRACE」は
「テラス」のように、「TERRIBLE」は「テリブル」のように、「TERR
ITORY」は「テリトリ」のように、「TERRACOTTA」は「テラコッ
タ」のように発音されるなど、「RR」が1つの「R」として発音される語が英語
に珍しくないことは当裁判所に顕著であるから、英語としての「TERRA」の発
音を知らない取引者・需要者も、一般には、上記「TERRACE」等の発音など
から類推して、本願商標を「テラ」と称呼するものと認められる。
(3) 乙第2号証の1、2、6、7、9ないし11、13、20、乙第6号証によれ
ば、昭和62年ころから平成3年ころにかけて、味の素株式会社が年商30億円程
度の規模でスポーツドリンク「TERRA」を販売していて、上記スポーツドリン
クは「テラ」と称呼されていたこと、平成2年ころから平成8年ころにかけて、安
田火災海上保険株式会社が情報誌「TERRA」を発行していて、上記情報誌は
「テラ」と称呼されていたこと、平成3年ころ、東急グループに属する建築会社が
マンションに「TERRA」という商品名を付し、上記マンションは「テラ」と称
呼されていたこと、平成元年ころから平成9年ころにかけて、東京都の商店街や静
岡市の合唱団で「TERRA」と命名されているものがあり、いずれも「テラ」と
称呼されていたことが認められる。この事実は、「TERRA」につき、ラテン語
としての発音を示すものを例外として、現実生活において「テラ」以外の称呼が当
てられた例が、本件全証拠によっても認められないことと相まって、「TERR
A」から「テラ」の称呼が自然なものとして生じることを裏付けるものというべき
である。
(4) 以上のとおりであるから、本願商標からは、「テラ」の称呼が生じることが認
められる。
2 原告は、本願商標に接する取引者・需要者は、ローマ字読みで「テッラ」と発
音する旨主張するので検討する。
 確かに、発音について正確な知識のないローマ字群に接したとき、ローマ字読み
をしてみるということは大いにあり得ることである。そして、「TERRA」を正
確にローマ字読みすれば、「テッラ」と発音することになるのは、原告主張のとお
りである。
 しかし、乙第3、第4号証によれば、日本語において、「ラ」音の前に促音がつ
く言葉としては、あえて挙げるとしてわずかに「かっらかっら」という擬音語があ
る程度であり、一般には促音は「ラ」行音の前には付かないものとされていること
が認められるから、一般の取引者・需要者にとって、「テッラ」は、発音し慣れな
い言いにくい言葉であるものというべきである。このようなとき、本願商標に接し
た一般の取引者・需要者が、「TERRA」について、あえて正確なローマ字読み
に従って「テッラ」と称呼するとすれば、それを必要とする何か特別な事情がある
場合に限られるというべきであり、その必要がなければ、正確なローマ字読みに従
うことを放棄して、それに発音が最も近く発音もしやすい「テラ」の称呼を採用す
るか、ローマ字読み自体をやめてしまうかのいずれかであろう。ところが、一般の
取引者・需要者が発音しにくい「テッラ」を採用すべき上記特別な事情は本件全証
拠によっても認めることはできない。要するに、ローマ字読みに従うことを出発点
にしても、一般の取引者・需要者が、言いにくい「テッラ」とのみ称呼して、英語
風の読み方でもある「テラ」を排除するとは考えられないのである。
3 甲第5号証によれば、引用商標は、上段に小さくローマ字で「OKUNO
S」、下段に大きくカタカナで「テラ」と表記したものであることが認められ、上
記事実によれば、引用商標からは、「オクノステラ」の称呼と並んで「テラ」の称
呼も生じるものと認められる。
 原告は、引用商標の「OKUNOS」の部分は「奥野の」、「テラ」は「寺」の
意味合いを想起させ、「奥野の寺」といった全体の意味合いからしても、「OKU
NOS」と「テラ」とは不可分一体のものとしてのみ理解、認識されるから、引用
商標からは、「オクノステラ」の一連の称呼が生じるものであり、単なる「テラ」
の称呼は生じない旨主張する。しかし、「OKUNOS テラ」は日本語としても
英語としても「奥野の寺」という意味には理解できないし、「奥野の寺」が指定商
品との関係で特定の意味があるものとも理解できないから、「OKUNOS テ
ラ」が不可分一体のものとして理解、認識されるものとは認められない。したがっ
て、原告の主張は、採用することができない。
4 そうすると、本願商標と引用商標は、「テラ」の称呼を共通にするものであっ
て、外観、観念についての相違を考慮しても、類似の商標というべきである。
5 以上のとおりであるから、 原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告
受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法6
1条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官   山  下  和  明
        
          裁判官   山  田  知  司
 
          裁判官  宍  戸  充

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