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平成8(行ケ)68行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成8年12月19日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法50条2回
商標法2条3項1号1回
民事訴訟法89条1回
キーワード 審決23回
無効審判1回
無効1回
商標権1回
主文
事件の概要

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判決文

       主   文
1 特許庁が平成3年審判第20696号事件について平成8年2月8日にした審
決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第1 当事者が求める裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
 原告(審判被請求人)は、別紙表示のとおり「A to Z」の欧文字を横書き
してなり、旧第26類(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令1条
別表)「印刷物(書籍を除く)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品
とする登録第1726219号商標(昭和53年8月4日登録出願、昭和59年1
0月31日設定登録、平成7年4月27日存続期間の更新登録。以下、「本件商
標」という。)の商標権者である。
 被告(審判請求人)は、平成3年10月23日、その指定商品中「印刷物(書籍
を除く)」について本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求し(平成3
年12月4日審判請求の登録)、平成3年審判第20696号事件として審理され
た結果、平成8年2月8日、「本件商標の指定商品中「印刷物(書籍を除く)」に
ついてはその登録は、取り消す。」との審決がなされ、その謄本は同年3月11日
原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 被告の主張
① 本件商標は、その指定商品中「印刷物(書籍を除く)」について使用をしてい
る事実を見出すことができない。
 なお、被告は、「エーツーゼット」の片仮名文字及び「A to Z」の欧文字
を2段に横書きしてなる商標について、旧第26類を指定商品とする商標登録出願
をしている者である。
② 原告が援用する甲第3号証(本判決において摘示する書証番号は、すべて本件
訴訟におけるものである。)の絵はがきは、表面の中央下欄に「(C)1990A
 to Z」の文字を表し、裏面の左側下欄に「A to Z」の文字を表してな
るものであり、甲第4号証の絵はがきは、表面の中央下欄に「(C)1990A 
to Z」の文字を表してなるものである。
 今日、商品「絵はがき」について万国著作権条約に基づく著作権の保護を要求す
るための方式に倣った表示、すなわち「(C)の記号、第一発行年及び著作権者の
氏名又は名称の表示」が業界において行われていることが顕著な事実であることに
照らし、甲第3号証及び甲第4号証の表面の中央下欄に表されている「A to 
Z」の文字は、「(C)」の記号と第一発行年とおぼしき「1990」の数字と共
に表されているから、いずれも絵はがきの著作権者(すなわち、原告)の名称を表
示したものと把握される。
 また、原告が登録第2085351号商標の登録無効審判事件における審判請求
書において、「本件請求人は、「エイトゥーゼット」および「A to Z」を昭
和52年5月31日から現在に至るまで建築事務所の名称として一貫して使用し続
け現在に至るものであり(中略)、長年の信用を蓄積している。」と述べているこ
と、甲第3号証の絵はがきの裏面の左側下欄に表されている「A to Z」の文
字は、表面の「A to Z」の文字と構成を一にするばかりでなく、上記のとお
り「建築事務所の名称として一貫して使用し(中略)、長年の信用を蓄積してい
る」とされる原告の名称「A to Z」とも構成を一にするものであるから、そ
の部位、方向とも相伴って、原告の名称を表示したものと把握される。
(2) 原告の主張
 原告は、甲第3号証及び甲第4号証に示されているとおり、本件商標を自らが製
造する「絵はがき」に使用し、また、同「絵はがき」を展示のため貸し渡しあるい
は譲渡している。
(3) よって按ずるに、原告が援用する甲第3号証及び甲第4号証はいずれも
「絵はがき」であるが、「絵はがき」は裏面に絵あるいは写真を印刷した郵便はが
きである(広辞苑)。
 そして、「絵はがき」の商品態様は、概して、表面は上方中央部に「POST 
CARD」の文字を表し、他の部分に印刷業者名または(C)を附した著作権者の
氏名及び4桁の数字(万国著作権条約において、著作物の複製物に(C)の記号、
著作権者の氏名、第一発行の年の3項目を一体として表示することにより自動的に
著作権の保護が受けられることとされている表示方法)のいずれか、または両者が
表示されており、まれに商標とおぼしき標章が表示されている場合もある。そし
て、裏面は、全面または一部余白を残して絵あるいは写真が印刷されているが、中
にはその絵あるいは写真の被写体の名称、場所名、題号や作者、撮影者の氏名等の
いずれかを表す文字が印刷されているものがある。
 以上の事実から、甲第3号証及び甲第4号証(いずれも「絵はがき」)をみる
と、ともに表面の下欄に「(C)1990A to Z」の文字を表してなり、裏
面は、甲第3号証が左右に余白を有して建造物の写真を表し、左余白下欄部分に
「A to Z」の文字を表示してなる。また、甲第4号証は、旧跡とおぼしき風
景の写真を裏面全体に表してなるものである。
 しかるに、「絵はがき」の商品形態は前記認定のとおりであり、また、観光や日
常生活の上で使用され良く知られた商品であるところから、この種商品の取引者、
需要者は、甲第3号証及び甲第4号証の表面に表示されている「(C)1990A
 to Z」の文字は、裏面に印刷されている写真の著作権者を表したものであ
り、裏面の「A to Z」の文字は、表面の「(C)1990A to Z」と
の関係及び裏面に文字が表示されている場合の前記認定から、やはり、印刷されて
いる写真の著作権者を表したものと認識し把握すると判断するのが相当である。
 してみれば、原告提出の証拠をもって、本件商標が「絵はがき」について使用さ
れているということはできない。
 したがって、本件商標の登録は、その指定商品中の「印刷物(書籍を除く)」に
ついて、商標法50条の規定により取り消すべきものとする。
4 審決の取消事由
(1) 審決は、絵はがきの表面は、上方中央部に「POST CARD」の文字
を表示し、他の部分に「印刷業者名」あるいは「(C)を附した著作権者の氏名及
び4桁の数字」のいずれか又は両者が表示され、まれに商標とおぼしき標章が表示
されると説示している。しかしながら、絵はがきの表面には、その裏面に印刷され
ている絵や写真の説明、その作者・撮影者・著作者の名称、絵はがきの発行者・印
刷者の名称、商品の記号番号等が表示されることが多いし、商標が表示されること
も決してまれではない。
 さらに、審決は、絵はがきの裏面には絵あるいは写真の被写体の名称、場所名、
題号、作者・撮影者の氏名等のいずれかが表示されているものがあると説示してい
る。しかしながら、絵はがきの裏面に表示されるものが上記に限定されるというの
は事実に反する。
(2) しかるに、審決は、上記の各説示を前提として、絵はがきの取引者、需要
者は甲第3号証及び甲第4号証の各絵はがき(以下、「本件各絵はがき」とい
う。)の表面の「(C)1990A to Z」は裏面の写真の著作権者を表した
ものと認識するから、裏面の「A to Z」も、同面に印刷されている写真の著
作権者を表したものと認識すると考えるのが相当であるという趣旨の判断をしてい
る。
 しかしながら、審決が前提とする各説示を誤りであることは前記(1)のとおり
である。のみならず、「A to Z」が人の氏名あるいは法人・団体の名称でな
いことは一見して明らかであるから、「(C)1990A to Z」は万国著作
権条約が定める著作物の複製物の表示とはいえず、「(C)」、「1990」及び
「A to Z」という3つの標章、あるいは、「(C)1990」及び「A t
o Z」という2つの標章が単に連続して表示されているにすぎない(著作物の複
製物であることを示す意図をもって、「(C)」のみ、あるいは「(C)」に4桁
の数字を付した表示を使用する例は、近年少なくない。)。したがって、本件各絵
はがきの表面の「A to Z」は著作権者の表示ではなく、甲第3号証の絵はが
きの裏面の「A to Z」も、著作権者の表示とみる余地はない。この点につい
て、被告は、原告がかつて「一級建築士事務所A to Z設計室」と称する建築
士事務所の経営者であり、同事務所の名称として「A to Z」等を使用してい
たから、「A to Z」が団体の名称でありえないとする理由はないと主張す
る。しかしながら、本件各絵はがきの「(C)1990A to Z」という表示
が商標であるか否かは、絵はがきの一般の取引者、需要者の認識が基準とされるべ
きことは当然であって、原告が経営する建築事務所固有の名称を判断の資料とする
のは当たらない。
 特に、絵はがきの商品としての価値は裏面の絵あるいは写真にあり、その取引
者、需要者も裏面の絵あるいは写真に注目するから、甲第3号証の絵はがきについ
ても、裏面の写真とその右下部に表示されている「A to Z」という標章に注
目することは当然である。したがって、甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to
 Z」という表示の意味を、必ず表面の「(C)1990A to Z」という表
示と関連付けて考えるべき理由は全くないから、審決の前記説示は誤りである。
(3) ある標章の使用が商標の使用に該当するか否かは、端的に、その標章に自
他商品の識別力があるか否かによって決定すべきである。
 そして、「A to Z」は、英語として特定の意味(「すべての」あるいは
「AからZで始まる単語を用いた」)を有する語であり、これを附された商品を他
の商品と区別して識別させる機能を有する。まして、本件各絵はがきの表面には、
「A to Z」の他には僅かな文字しか表示されていないから、本件各絵はがき
の表面に表示されている「A to Z」は、いずれも商標である。
 また、甲第3号証の絵はがきの裏面に表示されている「A to Z」は、同面
に印刷されている写真の被写体である木橋、あるいは、写真自体の説明と何らの関
係もないから、これが商標の使用に該当することは明らかである。
(4) なお、甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to Z」が第一義的には著
作者名の表示であるとしても、商標は、経済状況や流通システムの変化に伴って、
商品の製造者・販売者を表す機能のみでなく、多様な機能を果たすようになってい
るから、ある標章の使用が商標の使用に該当するか否かも、使用されている商品の
種類、表示箇所あるいは表示方法等に即して判断されねばならない。とりわけ、芸
術的あるいは美術的創作が商品に化体している場合は、商品に付した創作者の表示
が、同商品が特定の品質を有することを保証する機能を果たし、自他商品の識別力
を有することがあるが、甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to Z」という表
示も、同面に印刷されている写真が特定の者の創作に係るものであって、同絵はが
きが特定の品質を有することを保証する機能を果たしており、自他商品の識別力を
有している。したがって、甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to Z」という
表示は、著作者名の表示であると同時に、商標の使用にも該当するとみるべきであ
る。
(5) 以上のとおり、原告は、平成2年(1990年)内に本件商標の指定商品
である絵はがきに本件商標を付して使用したものであって、この行為は商標法2条
3項1号にいう標章の使用に該当する。
 しかるに、審決は、この点についての認定判断を誤った結果、本件商標の登録は
その指定商品中の「印刷物(書籍を除く)」について、商標法50条の規定により
取り消すとしたものであるから、違法であって、取り消されるべきである。
第3 請求原因の認否及び被告の主張
 請求原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は認める
が、3(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消
すべき理由はない。
1 原告は、絵はがきの表面の態様に関する審決の説示を非難して、その表面に、
裏面の絵または写真の説明、その作者・撮影者・著作者の名称、絵はがきの発行
者・印刷者の名称、商品の記号番号等が表示された絵はがきは数多いし、商標が表
示されることも決してまれではないと主張する。
 しかしながら、審決は、表面に原告主張のような事項が表示された絵はがきがあ
ることを否定していないし、絵はがきの表面に商標が表示されることを否定してい
るわけでもないから、原告の上記主張は当たらない。
 さらに、原告は、審決は絵はがきの裏面に表示されるものが絵や写真の被写体の
名称、場所名、題名、作者・撮影者の氏名等に限定されると説示していると非難し
ている。
 しかしながら、審決は、「等」と記載しているとおり、その説示している事項以
外の事項が裏面に表示された絵はがきがあることを否定していないし、絵はがきの
裏面に商標が表示されることを否定しているわけでもないから、原告の上記主張も
当を得ていない。
2 原告は、「(C)1990A to Z」は万国著作権条約が定める著作物の
複製物の表示とはいえないから、本件各絵はがきの表面の「A to Z」は著作
権者の表示ではなく、したがって裏面の「A to Z」も、著作権者の表示とみ
る余地はないと主張する。
 しかしながら、原告主張のように、著作物の複製物であることを示す意図をもっ
て「(C)」のみ、あるいは「(C)」に4桁の数字を付した表示を使用する例す
ら少なくない以上、本件各絵はがきの表面の「(C)1990A to Z」とい
う表示は、それが条約による著作権の保護を受けうるか否かはさて措き、「A t
o Z」と称する団体が著作権を有する著作物の複製物であることを示すものと認
識されるのが当然であって、原告主張のように、「(C)」、「1990」あるい
は「(C)1990」という表示と「A to Z」という表示とを切り離して考
察するのは不自然である。この点について、原告は、「A to Z」が人の氏名
あるいは法人・団体の名称でないことが明らかであると主張するが、原告は、かつ
て「一級建築士事務所A to Z設計室」と称する建築士事務所の経営者であっ
て、同事務所の名称として「A to Z」、「A TO Z」、「A to Z
設計室」あるいは「A to Z設計」等を使用していたことがあるというのであ
るから、「A to Z」が団体の名称でありえないとする理由はない。
3 原告は、「A to Z」はこれを附された商品を他の商品と区別して識別さ
せる機能を有するうえ、本件の各絵はがきの表面には「A to Z」の他には僅
かな文字しか表示されていないから、各絵はがきの表面に表示されている「A t
o Z」はいずれも商標であると主張する。
 しかしながら、本件各絵はがきの表面に表示されている「(C)1990A t
o Z」という標章は、全体として、「A to Z」と称する団体が著作権を有
する著作物の複製物であることを示すものと認識されると考えるべきことは前記の
とおりであって、原告主張のように上記標章から「A to Z」のみを切り離
し、これを商標とみることはできない。
 また、原告は、甲第3号証の絵はがきの裏面に表示されている「A to Z」
が商標の使用であることは明らかであると主張する。
 しかしながら、標章が付されている商品が著作物を印刷した絵はがきのようなも
のであるときは、同標章が著作物の著作権者を表したものか、自他商品を識別する
ための商標であるかを判断する必要がある。しかるに、甲第3号証の絵はがきは、
表面に「A to Z」と称する団体が著作権を有する著作物の複製物であること
を示す「(C)1990A to Z」という標章が表示され、裏面には著作物で
ある写真が印刷されるとともに、表面と全く同一の「A to Z」という標章が
表示されている。したがって、絵はがきの取引者、需要者は、甲第3号証の絵はが
きの裏面に表示されている「A to Z」という標章も、写真の著作権者を表し
たものと認識し、自他商品を識別するための商標とは認識しないと考えるのが相当
である。
第4 証拠関係(省略)
       理   由
第1 請求原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、
当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。
1 原告は、「(C)1990A to Z」は万国著作権条約が定める著作物の
複製物の表示といえないから、本件各絵はがきの表面の「A to Z」は著作権
者の表示ではなく、したがって甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to Z」も
著作権者の表示とみる余地はないと主張する。
 成立に争いのない甲第3、第4号証によれば、本件各絵はがきの表面の下部中央
に6~8ポイント程度の活字で「(C)1990A to Z」の文字が一体とし
て表示され、また、甲第3号証の絵はがきの裏面の建造物の写真の下部右側余白に
12~14ポイント程度の活字で「A to Z」の文字が表示されていることが
認められる。
 そこで、まず、本件各絵はがきの表面の「(C)1990A to Z」という
表示について考えるに、原告が「(C)1990A to Z」は万国著作権条約
が定める著作物の複製物の表示といえないとする論拠は、「A to Z」が人の
氏名あるいは法人・団体の名称でないことは一見して明らかであるという点のみで
ある。
 しかしながら、「A to Z」は、人の氏名でないことは明らかであるとして
も、法人あるいは非法人団体の名称としておよそありえないということはできな
い。そして、「(C)」に4桁の数字を付し、これに続いて氏名又は名称と認識し
得る表示が付されているときは、それが当該著作物の複製物の第一発行年及び著作
権者名であることを示す例が少なくないこと(当裁判所に顕著な事実である。)を
考えれば、絵はがきの取引者、需要者が、一体として表示された「(C)1990
A to Z」という表示をみたとき、それが1990年に最初に発行された、
「A to Z」と称する法人あるいは非法人団体が著作権を有する著作物の複製
物を意味するものであると理解するのは、全く当然のことというほかはない。
 したがって、絵はがきの「取引者、需要者は、甲第3号証及び甲第4号証の表面
に表示されている「(C)1990A to Z」の文字は、裏面に印刷されてい
る写真の著作権者を表したもの(中略)と認識し把握する」とした審決の判断は正
当である。
2 しかしながら、甲第3号証の絵はがきの裏面の「A to Z」という表示を
も、同面に印刷されている写真の著作権者を表したものと解しなければならない理
由はない。
 すなわち、原告が主張するように、絵はがきの商品価値が専ら裏面の絵あるいは
写真の価値に依拠することは明らかであって、絵はがきの取引者、需要者は、専ら
その裏面に注目して絵はがきの商品としての価値を決定し選択することは自明の事
実であるから、その際に、表面の微細な印刷文字に考慮を払うことはほとんどない
と考えざるをえない。そうすると、取引者、需要者が絵はがきを商品として購入す
るかどうかの選択をする場合、裏面の絵あるいは写真の余白に付されている文字
は、取引者、需要者にその商品の出所を表示するものと認識され得るというべきで
ある。したがって、甲第3号証の絵はがきの裏面に印刷されている写真の下部右側
余白に表示されている「A to Z」という標章(前掲甲第3号証によれば、縦
約5mm、横約15mmの大きさである。)は、同絵はがきの表面の最下方に小さ
く表されている「(C)1990A to Z」という表示とは無関係に、絵はが
きの製造者・販売者等の名称を示しているものとして、自他商品の識別力を有する
と認めることは十分に可能というべきである。
 のみならず、そもそも商品に付された1つの標章が、商品流通の過程において常
に1つの機能しか果たしえないと考えるべき理由はないから、商品が著作物の複製
物であり、かつ、著作物の名称がそのまま商標とされている場合に、商品に付され
た1つの標章が、著作物の著作者を示すと同時に、商品の製造者・販売者等を示す
商標の使用でもあると解することは、何ら背理といえない。したがって、甲第3号
証の絵はがきの裏面に表示されている「A to Z」という標章が、同面に印刷
されている写真の著作権者の名称と一致するとしても、その標章が、同時に、自他
商品を識別させるために付されている商標でもあると解することには、何らの妨げ
もないと考えるのが相当である。
3 以上のとおりであって、原告は、本件審決請求の登録前3年以内に甲第3号証
の絵はがきに本件商標を付して使用したものというべきであるから、原告提出の証
拠をもって本件商標が「絵はがき」について使用されているということはできない
として、本件商標の登録はその指定商品中の「印刷物(書籍を除く)」について取
り消すべきものとした審決の認定判断は、明らかに誤りである。
第3 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容
することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を
適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田稔 春日民雄 持本健司)
別紙(省略)

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